【🎲SS・オリキャラ・閲覧注意】麦わらとハートがとある国を解明する（2）

[1 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/12(木) 23:53:34]

前スレ

【🎲SS・オリキャラ・閲覧注意】麦わらとハートがとある国を解明する｜あにまん掲示板

[2 二次元好きの匿名さん 23/01/13(金) 00:03:20]

立て乙です！
続きが気になりすぎる…

[3 二次元好きの匿名さん 23/01/13(金) 00:06:33]

立て乙です
更新楽しみ

[4 二次元好きの匿名さん 23/01/13(金) 00:07:21]

立て乙です
ローと麦わらの一味が合流しそうで楽しみだ
他の海賊船の船長がゾロ回収したのに麦わらの一味の反応が「ゾロの奴迷惑かけてるんだろうな……ごめん」なのが笑っちゃうんだよな

[5 二次元好きの匿名さん 23/01/13(金) 00:08:05]

ジャラのエミュがめちゃくちゃ上手で尊敬する

[6 二次元好きの匿名さん 23/01/13(金) 00:10:08]

>>5

キャラのエミュです

誤字失礼

[7 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/13(金) 00:12:41]

【あらすじ】
　世界中から本が集まる国《ブックパラダイス》にたどり着いた『麦わらの一味』は、《記録》がたまるまで久しぶりにのんびりとした時間を過ごす。

　しかし、偶然天竜人の入国とタイミングが重なり、サニー号で留守番のはずだったゾロがまさかの天竜人の前へファンタジスタ！
　うっかりひと暴れしたゾロだったが、やはり偶然入国していた『ハートの海賊団』のローによってなんとか回収される。
　そんなことも知らない麦わらの一味は、ゾロを捜して街中駆けずり回るはめに。
　そしてその裏ではハートの海賊団の船員たちも「ロロノアを引き取りに来てくれ！」と麦わらの一味を捜して駆けずり回る。

　次回【ゾロ、ポーラータング号の中でも迷子になったってホント？】
　お楽しみに！

[8 二次元好きの匿名さん 23/01/13(金) 00:16:46]

ゾロさん……w

[9 二次元好きの匿名さん 23/01/13(金) 00:22:11]

うっかり力づくでハッチこじ開けたりしてないだろうな……？？

[10 二次元好きの匿名さん 23/01/13(金) 00:39:30]

立て乙
トラ男は一体どこまで知ってるのかそもそも知る暇なくゾロ回収したのか気になるところオラわくわくすっぞ

[11 二次元好きの匿名さん 23/01/13(金) 08:23:44]

ほ

[12 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/13(金) 08:51:07]

★1日目午後が終了しました。
★麦わらの一味はハートの海賊団と遭遇しました。
★エンディング②以降のルートに入りました。
（①ノーマルエンド　②バッドエンド　③トゥルーエンド）

▼情報
【警備隊の噂】◎
【海の戦士ソラのサイン入り初版の話】◎
【白い花畑の話】◎NEW！
【『名前のない医者の古い論文』取得】◎NEW！
【祭りに来る天竜人の話】◎
【天上金と貢物の話】◎
【子供だけが罹る病の話】◎NEW！
【未取得】※ヒストリーストリートで取得可能
【天竜人と警備隊の関係】◎
【祭りの由来】◎NEW！

【『お姉さん』の話】◎NEW！
【未取得】※特定の選択肢によって取得可能
【城の中の話（最大値の5個）】◎NEW！
【城の中の隠し金庫の中身】◎NEW！
【警備隊副隊長の様子】◎NEW！
【未取得】※特定の選択肢によって取得可能
【未取得】※特定の選択肢によって取得可能

・取得可能な情報は随時増減、もしくは取得条件が変動します。
・一部の情報は形を変えて取得しました。
・1日目午後以降の未取得情報は含まれていまん。

[13 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/13(金) 09:00:24]

★ハートの海賊団が街で得ていた情報の数

dice1d5=5 (5)

※ダイス結果に応じて下記（1）から順番に取得

1：双子姫の話　

2：天竜人の先代の話

3：工場の話

4：警備隊結成の話

5：ピエロの話

★宴をしますか？

1：「宴だ――ッ！！」

2：「やらねェッ！！　帰れッ！！」

dice1d2=1 (1)

[14 二次元好きの匿名さん 23/01/13(金) 09:01:40]

ハートの海賊団すげえ
全部情報取得してやがる

[15 二次元好きの匿名さん 23/01/13(金) 10:32:39]

あらすじと情報整理助かる

さすがハートの海賊団だな
宴にも付き合ってくれる

[16 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/13(金) 12:51:28]

1日目夜
サニー号/視点チェンジ
⇒麦わらの一味（フランキー）

「宴だ――ッ！！」

　樽のジャッキを手にしたルフィが機嫌良く声を上げた。
　陽も落ち、暗くなった海の上に佇むサニー号。芝生の敷かれた船上には複数の海賊たちが集っている。
　フランキーもまた、その内のひとりとしてコーラの入ったジャッキを持ち上げていた。

「しかしまあ、なかなか面倒になったじゃねェか」

　宴に参加している大部分が『ハートの海賊団』の船員だ。誰もがサンジの用意した食事に目を輝かせている。
　その中心ではルフィがハートの海賊団の船長――ローを巻き込んで騒いでいた。
　いつも仏頂面をしている『死の外科医』は、先ほどからその表情を大きく崩し、何度ルフィを咎めているかわからない。
　彼はゾロが騒ぎを起こしているところを見つけ、自分たちにも被害が及ぶ前にとオペオペの実の能力で回収してくれたそうだ。
　だからこの宴はハートの海賊団に対する一種の詫びである。
　ゾロが迷惑をかけたことと、そんな彼の安全を確保してルフィたちを捜していてくれたこと。感謝をするのは当然だろう。
　ただ、海賊船の船長としてはなかなかにお人好しだとフランキーは笑った。

[17 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/13(金) 12:53:30]

　そんなフランキーの様子が気に入らなかったのだろう。隣にいたナミに肘で突かれた。

「笑いごとじゃないわよ。こっちはもう街に入れなくなっちゃったんだから！
もう、フランキー！　どうしてゾロから目を離したのよ！」
「おれのせいかァ！？　おれァ猫をちょっと追い払えって言っただけだぜ！？
わざわざその猫持って出歩くなんて思いもしねェよ！！」
「足元にじゃれついて離れねェんだから仕方なかったんだよ」
「あんたはっ！！　反省！！　しなさいっ！！」

　芝生に腰を下ろして酒をあおるゾロにナミが怒鳴った。彼は少しだけ冷や汗を滲ませていたが、すぐに悪びれなく言う。

「トラ男にも会えたんだからべつに良かっただろ。ルフィも楽しんでるじゃねェか」
「それはね？　でもそれとこれとじゃ話は違うのよ！」
「……悪かったって」

　流石のゾロもナミには勝てないのか、素直に白旗をあげる。フランキーはそんな彼らのやり取りを眺めながらコーラを飲んだ。

[18 二次元好きの匿名さん 23/01/13(金) 13:07:32]

やっぱりハートクルー
ノリいいな

[19 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/13(金) 20:29:18]

　サニー号は警備隊や住民の目を避けるために港から離れていた。そして島の周囲をまわって見つけた、切り立った崖の岩陰に隠れるようにして錨を下ろしている。
　ハートの海賊団の潜水艦も今は海面に浮上してサニー号の近くに停めていた。
　船を守る最低限の船員は潜水艦の中らしいが、彼らのためにサンジが作った食事はローが《シャンブルズ》で送り済みだ。
　配達に便利だな、とフランキーが漏らした時は「おれは医者だ！！」とわりと本気で怒られたのも覚えている。

「ンで、このあとはどうすんだよ」
「そこよね……。ジンベエが言うには街にさえ入らなければ見逃してもらえそうなんだけど……」
「おまえら大変だな。まあおれらは明日も街に行くけどさ」

　酒を飲んで顔を赤らめさせたサングラスの男――シャチが笑い半分で言った。
　ハートの海賊団は船長のローや、ミンク族のベポ以外はあまり大きく目立たない。あの街へ騒ぎにならずに入り込めるのだろう。
　そこでフランキーは閃いた。

[20 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/13(金) 20:39:24]

「じゃあこいつらに《記録指針》渡して、おれらは船でゆっくり過ごしてりゃ良くねェか？
どうせたまる時間は同じなんだからよ」
「ああ、そりゃ良い。おら、ナミ早く渡しとけ」
「渡せるかァッ！！」

　良い案だと思ったが即座に却下された。
　そんなフランキーたちのやり取りを見ていたシャチが苦笑する。

「本気で言ってそーなあたりが恐ろしいわ、あんたら。
他所の船の命綱をおいそれと預かれねェって。
ていうか普通渡すか？」

　シャチの言葉にナミが大きく頷いた。

「そうよ！　まったく……もしお願いするにしても、あっちに何もメリットないじゃない！
だから二日間くらい誰か私たちの船でもてなすくらいしなくちゃ！」
「……うん？」

　拳を握り込んで力説するナミにシャチが首を傾げる。そしてその彼の手に、ナミはそっと触れて顔を覗き込んだ。

「……ね、サンジ君お手製三食おやつ付きのサニー号での二日間の生活……興味ない？」
「キャッ、キャプテ――――ンッ！？　助けてェ――――！！
おれ高待遇な人質にされちゃう――――ッ！！」

[21 二次元好きの匿名さん 23/01/13(金) 21:43:55]

ワロタ
麦わらの一味とハートは仲いいな……

[22 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 00:05:00]

　ナミの猛攻で顔を赤くしたシャチが必死に抵抗をする。少し口元が緩んでいるのは気のせいではないだろう。
　フランキーもゾロも特に助けることなく眺めていれば、叫んでいた彼の姿が一瞬で掻き消えた。
　代わりにナミの手の中には一本のワインが握られている。誰の仕業なのか言うまでもない。

「――おいナミ屋、うちの船員を誑かすんじゃねェ」
「キャプテ〜ンッ！！」

　キャーッ！　と野太い黄色い悲鳴が彼の背後から上がる。彼はその声の主を一瞥してからため息をつく。
　宴の中心から頭なく抜け出して来たのは勿論ローだ。白い帽子の下からあの鋭い視線を投げつけてきている。
　しかし、ちっとも恐ろしく感じないのは、ルフィを通じて彼の人となりをそれなりに理解しているからだろう。

「いやね、トラ男君ったら。冗談よ、じょーだん」
「半分マジな顔してただろ……」

　彼は近くの柵に体を預け、帽子を下げるように手を添えた。

[23 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 00:08:25]

「バカなことをしてないで警備隊から貰ってきたとかいう《永久指針》を使えば良いだろうが。
……まあ、罠の可能性もあるがな」

　ローが言っているのはジンベエが警備隊の魚人から譲り受けたという《永久指針》のことだ。どうやら近くの島の《記録》が保存されているらしい。
　それさえあればフランキーたちは問題なくこの島を出ることができる。
　存在は聞いていたのだ。ただ、フランキーたちにはそれを使えない理由がある。
　フランキーもナミもゾロも、ローの言葉を受けて顔を見合わせた。そして、ナミがゆっくりと首を振る。

「使えないわよ。だってルフィが嫌だって言ってるんだから。
この船の船長はルフィよ。そしてあいつの決めた道を切り抜けるのが航海士の仕事だしね」
「……相変わらずか」

　腕を組んだローは呆れたように宙を見上げた。

「いや、勝手なのはキャプテンも負けてねェよ」
「連絡ちゃんとしてください」
「何も言わずに放浪してたのお土産で誤魔化せると思わないでくださいね！！」
「テメェらちょっと黙ってろ。口縫われてェのか」

[24 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 02:41:30]

秒で目の前でバラされちゃうの笑っちゃう
一味に揶揄われそうね

[25 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 08:50:02]

前スレから一気読みしてしまった
サンジくん推しなんですが海ソラについてもちょっと触れそうでめちゃくちゃ続き楽しみです

[26 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 11:04:31]

　自分の船員を軽くあしらったローは宙に手をかざす。それは彼の能力が発動する前の動作だ。

「トラ男君？」

「帰って寝る」

「えーっ！？　キャプテンもう帰るのーっ！？」

　まだ食べたい飲みたいと騒ぐハートの海賊団に、彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。

　フランキーたちが言える立場ではないが、彼らもなかなか良い性格をしている。

「お前らなァッ……！　そもそも海賊が馴れ合ってんじゃねェ！！」

「それオメェが言うか？」

「あ？　……ゾロ屋は放っておけばおれらにも被害が出るかもしれねェんだ！

ああしたのは仕方なくだ！　助けたわけじゃない！　勘違いすんな！！」

　ビシッと指をさされて力説されるがフランキーたちにはなかなか響いてこない。だが、ひとまずそういうことにしてやるかと口を閉ざすことした。

　そのまま帰る帰らないと埒のあかない問答をしていれば、宴の中心から飛び出してくる影があった。

1：「トラ男〜ッ！！」

2：「トラ男ー！」

dice1d2=2 (2)

[27 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 11:06:43]

ダイス一択で草

[28 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 11:17:44]

一択で爆笑した
この国の厄ネタを知ったらしいブルックが、色々縁がありそうなローと今後情報やり取りするのか気になるな

[29 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 11:18:27]

いや一択に見えてルフィかチョッパーの違いとかそういうのかもしれんぞ
〜とーが違うし

[30 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 11:28:46]

「トラ男ー！」

　ローのことを呼んで飛び込んできたのはとても小さな影――チョッパーだった。
　口の上が白く染まっているのは先ほどまでミルクを飲んでいたせいだろう。
　彼は小さな手で古ぼけた二冊の本を抱えていた。

「なあなあ、時間あるか？　おれ、あの街で本を買ってよ。せっかくだし読みながらトラ男と話してェんだ！」
「……なんでおれなんだ。コイツらでいいだろ」

　ローがフランキーたちを指さすが、チョッパーは表情も変えずに首を振った。

「あいつらは駄目だ！」
「即答かよ！！　ヒデェなチョッパー！！」
「だってよ、未知の病気の対処法とか治療方法の相談とかお前らにしても仕方ねェだろ。
薬草の調合の割合の話とかして良いなら、おれちゃんと説明するぞ」
「「コーラ（酒）が美味ェなァ」」

　フランキーとゾロは近くの手すりに寄りかかって暗い夜の海を眺めた。残念ながら完全に専門外だ。
　治療に必要な装置の話になった時は呼んで欲しいので、その場から離脱自体はしなかったが。

[31 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 12:06:32]

「……なに買ったんだ」

　チョッパーに同情してか、単純に同職業としての興味からか、ローは船に帰るのを一旦止めたらしい。
　マストの根本にあるベンチに、医者ふたりは座り込む。宴のためにフランキーが用意した照明のおかげで手元も明るいはずだ。
　するとそのふたりにナミが近づいていった。

「ねえ、私も話だけ聞いてても良い？」
「ん？　いいぞ！」
「聞いててもつまらねェと思うが」
「いや……今日、街で色々気になる話聞いちゃってね？」

　歯切れの悪いナミの様子にチョッパーは首を傾げている。しかし、ローのほうは何か思い当たったのかゆるく頷いた。

「なんだ、あの島の風土病のことか？」
「あー……そう、それ。すごく酷かったみたいだし、ちょっとね？」
「……あの島の、というよりもここの海域全体の病だったはずだ。皮膚病の変異種だったか……。
徐々に被害は減っていたが、あの国だけはしつこく蔓延っていたらしい。
ただ、それも十三年前に終息して新しい患者も出ねェから根絶の発表がされたと聞いた」

[32 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 12:12:34]

　そう話し出したローが、チョッパーの持ってきた本のうちの一冊を手に取った。本の表紙には『風土病研究』と記されている。
　彼はそれをペラペラと捲ると、あるページで指を止めた。
　フランキーもゾロも思わず近づいて彼の手元を覗き込んだ。そしてそのページに載っていたスケッチにフランキーは目を丸くさせる。
　子供の細腕にドラゴンのような鱗が生えているスケッチだった。

「お、おいおい、なんだこりゃ、どうなってんだ？」
「《十五歳鱗病》……十五歳くらいまでの子供しか発症しねェ奇病で、肌が鱗みたいに硬くなって割れてくんだよ。
症状が進むと体の内部までヒビ割れて死ぬ」
「な、なんで子供しか罹らねえんだ……！？」

　チョッパーも奇妙な病に恐れ慄いたのか問いかける。ローはこめかみを指で掻き、記憶を掘り出すように目を細めた。

「俺が読んだのは他の国の論文だったが……ここの海域に暮らしてる連中は多かれ少なかれ、この病の菌を持って生まれる。
それだけなら発症はしねェし、大人になるにつれて体内の菌が馴染んで抗体ができる。
だが、抗体のできてねェガキの内に体内の菌が増えすぎると発症する……だったか」

[33 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 13:44:43]

　そこまで話すと、ローは青い顔をしたチョッパーの帽子を軽く小突いた。

「こいつは症状が表に出るまで感染力がないのが救いだな。
近くに発症した奴がいなけりゃおれらにも移らねェ。そんな顔すんな」
「でも……じゃあなんで今は病気がなくなったわけ？
生まれながらのものなんでしょ？」

　ナミの疑問に対して、ローは本のページに指を這わせた。

「長い病の歴史の末、このあたりの人間の体のほうが順応したんだ。
つまり生まれつき抗体を持った子供が産まれるようになった。
……だからか、ここら辺じゃ外の人間とは子供を作らねェ」
「あ？　なんでだ？」
「外の血が入ることでまた抗体が薄れるかもしれねェと考えてるんだろう。
すぐどうこうなるとは思わねえが、片親からの抗体遺伝だけで補えるのかどうか、実際のところ調べてみないことにはわからんだろうしな」

[34 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 13:46:40]

　しかし、それを調べるとなると、ある意味人体実験みたいなものだろう。なにより、せっかくなくなった病気を復活させてしまう危険性もある。
　そんなことを望む者など限られているはずだ。絶対にいないと言い切れないあたり、嫌な時代だとも思う。

「つまりこの国は抗体付きの子供が産まれるようになるまで、他の国よりも酷く遅かったわけだ。
……運が悪かったとしか言いようがない」

　話は終わりとばかりにローが本を閉じる。
　知らぬ間に宴をしていた者たちも静かに話を聞いていたのか、複数の視線が注がれていたことにフランキーたちも遅れて気づいた。
　だいたいの者が今日、街で色々と見聞きしてきたはずだ。
　その中には勿論、この病気の話を聞いた者もいるだろう。ロビンも離れた場所でこちらに注目しているのが見えた。
　彼女の場合、目の届く範囲なら耳を生やして遠くの会話も聞けるのだから便利なものである。
　ふと、新たに動く者がいた。

「あの〜……横から失礼しても？」

[35 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 13:48:28]

　ローとチョッパーにブルックが挙手をしながら声をかけた。
　視線だけをブルックにやったローが眉間に皺を寄せながらも無言でいれば、それを肯定と捉えたのだろう。彼は何故だか酷く真剣な声音で質問をした。

「その病気ですが、薬や治療法はあるのですか？
あと、他の国の子供たちはいつ頃その抗体を持つようになったんでしょう？」
「あ、おれも気になるぞ！
今はもう流行ってねェかもしれないけど、全然別の海域で似たような病気がないとも限らねェし！」

　チョッパーにも覗き込まれるように問われ、ローの眉間に皺が増えた。だが、彼は首の後ろを掻きながら答える。

「確か薬はあったはずだが……材料を揃えることも困難で一度に作れる量も限られているらしい。
長期投与の必要もあるせいで基本的に金と運がある奴しか助からなかった病気というところか。
……まあ、おれは菌を取り除けるし、トニー屋なら薬を作れるだろうがな」
「あら、そうなんですね。いや〜私たちってば類稀なる素晴らしい船医に恵まれましたねェ！　ヨホホ！」
「そ、そんな褒められたって何も出ねェぞコノヤローッ！」

　チョッパーは頬を染めてくねくねと身じろいだ。何故かハートの海賊団の船員も嬉しそうに鼻の下を指で擦ったり、腕を組んで大きく頷いたりしている。
　おおかた、自分たちの船長が褒められて嬉しいのだろう。わかりやすい者たちである。
　その船長本人はなんともいえない顔で自分の船員たちを眺めていたが。

[36 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 13:50:23]

「で、他の国か。たしか……百年くらい前にはもう数は減ってきていたらしいがな。
隔離治療で抑え込みつつだからもう少しかかっていると思うが……この病気の歴史はかなり古いぞ」
「百年前！？」

　ナミが悲鳴に近い声を上げた。

「な、なんでこの国だけ百年も長引いてるのよ！　おかしいじゃない！」
「おれに言うな。土地の問題か、気候の問題か……目に見えねェ要因なんてそこら中にある。
すぐに解決できればおれら医者はいらねェよ」

　ナミとローが何やら言い合い始めたのでフランキーはとりあえず視線を逸らし、ブルックを見た。
　質問をした張本人は黙り込み、何か考えているようだ。
　骨とアフロ以外を失った彼から表情を読み取るのは難しい。普通の骨よりは断然表情豊かではあるのだが。

（なんだァ？）

　どうにも引っかかり、フランキーが首を傾げていると聞き慣れた声が飛んできた。

[37 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 13:51:41]

「ブルック、言いたくなきゃ言わなくてもいいんだぞ」

　見れば宴の真ん中で飲み食いしていたはずのルフィが、大樽に肘をついてこちらを見ていた。彼の顔には表情らしいものは浮かんでいない。
　別に冷淡さを感じるわけでもなく、当たり前のことを当たり前のように口にしたという様子だった。
　フランキーたちにすれば不可解な発言だが、ブルック本人には正しく意味が通じたのだろう。
　骨だけの体で、彼は息を呑んだ。

「……そう、そうですね。正直ね、どうしようかと思ったんです。
私たちは海を渡り続ける海賊ですから、こんなことを知ってもどうしようもありません。
しかし……」

　ブルックがこぼした言葉はなおさらフランキーたちには理解が難しい。
　しかし、ルフィのおかげで吹っ切れたのか、彼は顔を上げた。

「この場にいる皆さん、よろしければ少々お時間を頂戴しても？
別に、何かしてほしいわけじゃありません。
話を聞いてほしいだけです」

　そんな前置きをつけ足して、ブルックは告げた。

「――なかったんですよ」

[38 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 13:52:08]

　この百年、子供たちのために行なっていたという検査も、病のための隔離も、この国にだけしつこく蔓延っていた病も、なにもかも。
　なかったんですよ。
　全て、この国がついた嘘だったんです。

　だって『検査』で引き抜かれていった子供たちは全員――天竜人の天上金になったんですから。

　――潮風に攫われたのは、空虚な響きを伴う言葉だった。

[39 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 14:00:43]

うっっわ……

[40 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 14:52:59]

フレバンスと同じだなあ
王族が極悪非道すぎる

[41 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 15:12:18]

ゲロゲロ

[42 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 18:07:47]

サニー号/視点チェンジ
⇒麦わらの一味（ナミ）

　あれだけ騒がしかった船上の宴は静まり返っていた。
　背筋をピンとさせて立つブルックの姿は普段通りだというのに、やけに寒々しく見える。
　そこでやっとナミは自分が息を止めていることに気づいた。ヒュッと吸い込んだ呼吸の音がやけに大きく響く。

「……は？　え、なに、それ……冗談でも、笑えないわよ……？」
「冗談は好きですが、言う場面くらいは弁えているつもりですよ」

　あくまで優しく諭すようにブルックは言う。だからこそ、ナミは混乱する頭を抱えるようにして一歩下がった。
　そんなことは知っている。仲間なのだ。ブルックがどんな性格をしているのか、この船の生活で良く知っている。
　彼がこんな悪趣味な冗談を、こんな時に言わないことくらい。

「……ブルック、それ、どこで知ったんだ？」

　存外、静かな声音で問いかけたのはルフィだった。ブルックは顔だけを彼に向けて答える。

[43 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 18:23:14]

見目のいい少年少女だけ抜き取ってそう
本当に王族も天竜人も黙認している世界政府も下劣だな

[44 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 18:23:33]

「私ってほら、あれができるじゃないですか。
それで、ゾロさんを捜している時にね、城の中にうっかり入ってしまいまして。
そこで偶然見つけた隠し金庫の中にあったんです。……『売買契約破棄書』が」
「ば、売買契約破棄書ォ……！？」

　ずっと息を潜めて聞いていたウソップが声をひっくり返した。

「ていうか城の隠し金庫って……そりゃ、お前……」

　ウソップの横に立ち並んでいたサンジも言葉を失っている。
　ナミもまた、その意味を痛いほど理解していた。
　誰がそんなことをしたのか。誰がそんな許可を出したのか。考えなくてもわかることだ。

「私が見た書類も一部に過ぎませんが、足りない天上金の補助として子供たちを秘密裏に売買していたようです。
そしてその契約破棄がなされたのが十三年前。子供たちの病が終息したのも十三年前。
……憶測にすぎませんが、関係がないとは思えません」
「……そんな」

　ナミの頭に浮かんだのは『ヒストリーストリート』で見た石碑と、その前に座る老婆の姿だった。
　もしそれが本当であるならば――なんて酷い現実なのか。もはや吐き気すらしてくる。

[45 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 18:26:03]

タンポポが真っ白になってたのも気になるんだよなぁ……
あれって世界政府がフレバンス人の遺体の廃棄場所としてこの国を選んだって事ないかな？
遺体廃棄場所の密約を新たに交わしたなら、国民を天上金に差し出す契約が終わったのも分かるし

[46 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 18:28:14]

足りない天上金の補助として子供を人身売買するのをやめて、フレバンス人の遺体廃棄を受け入れたって説を推す

[47 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 18:29:56]

国民を生贄として差し出す王族は論外なんだけど、天上金を払えないと国としては破滅するんだよな
海軍の庇護がなくなり、略奪者たちに蹂躙されて滅ぶ

[48 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 18:35:24]

天竜人に渡された子供たちってどうなったのかな……
あんまり考えたくないけど……

[49 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 18:56:10]

「――どこの海にもあるもんだな。国民を売る国っていうのは」

　それは皮肉混じりの酷い声だった。
　思わず顔を向けると、ベンチに座ったまま背を丸めたローが笑みを浮かべている。
　しかし、その笑みは表面上のものであると感じられた。今の彼が纏う気配は嫌悪感に溢れている。

「……でも、十三年前に契約は破棄されてる。
つまりこの国は天上金を払えるようになった、ってこと、だよな……？」

　重たい空気に耐え切れなくなったのか、恐る恐るといった様子でシャチが言う。
　彼の言葉にナミは思い出すものがあった。思わずロビンを見れば、彼女はナミの視線に気づいて頷く。

「これは私たちが街で聞いた話だけど……今は天上金と一緒に特別な商品をマリージョアに卸しているそうなの」
「あっ、それおれもなんか聞いた気がする……！」

　ベポがハッとして腕を振り上げた。
　船上にまた、沈黙が落ちる。誰もが視線を交らわせ、次の言葉を待っているようだった。
　ナミは口元に手を当てて、眩暈と吐き気を堪えるのに必死だ。

「ナ、ナミ……」
「……ごめん、チョッパー。大丈夫よ」
「でもよ……」

　顔色を見てか、心配げに声を掛けてくるチョッパーの頭を帽子ごしに撫でる。

[50 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 18:58:49]

悲惨だが国王は必要悪としてこれをやったのか……？
あえて犠牲にする数と犠牲になるかもしれない数で
前者の比重が軽いならそちらを選ぶということはままあるだが
犠牲になったのが年端もいかない子どもというのはなー……
生け贄のようで後味が悪い

[51 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 18:59:30]

　そして、大きく息を吸って吐き出した。
　やっと落ち着いてきた胸の鼓動を手の平でひと撫でし、顔を上げる。
　視線の先にいるのはこの船の船長であるルフィだ。

「ルフィ」
「おう」

　ナミの声にすぐ応えたルフィの声は力強かった。
　だからこそナミも次の言葉を吐き出すことができたのだ。

「もう終わったことで、何の意味もないかもしれないけど、ただの自己満足かもしれないけど……！
それでも私、この件をちゃんと知るまでこの国を離れられないわ！」
「おう――わかった！！」

　躊躇いなど欠片もない返事だ。様子を見ていた仲間たちも肩の力を抜いたように微笑む。

[52 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 19:00:01]

　ルフィは飛び上がると、寄り掛かっていた大樽の上にどかりと胡坐をかいた。
　そしていつものように麦わら帽子を手で押さえ、真正面からローを見る。

「トラ男！　悪ィけど、また手ェ組まねェか？」
「……酔狂な奴らだ。海賊も関係ねェ、こんな国をほじくり返して、おれたちに一体なんのメリットがあるっていうんだ」
「知らねェ！　でも、トラ男だってこのままだと気持ち悪ィだろ？」

　な？　と重ねて問いかける。ローは帽子のひさしを手で下げて表情を隠し、酷く大きなため気を吐いた。
　そして長い足を組みなおし、低い声で言う。

「お前が勝手におれの気持ちを決めるな。……だが、《記録》がたまるまでまだ二日ある」
「おう」
「……おれは医者だ。病気を隠れ蓑にクソみたいなことをしやがる奴の顔は拝んでやりてェ。ただそれだけだ。
――また考えなしに騒ぎを起こすような邪魔だけはするんじゃねェぞ」

　彼の言葉を聞いたルフィは口元だけを持ち上げるように笑って頷いた。

「おうッ！　トラ男、よろしくな！」

[53 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 19:04:08]

あの…特別な商品ってのに凄く嫌な予感がするのだが
まさか珀…が付くアレじゃないよな？

[54 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 19:05:08]

トラ男もルフィも最高に格好いいぜ！
優しいナミさんも素敵だ

[55 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 19:13:41]

★麦わらの一味とハートの海賊団が手を組みました。
★互いの情報を全て共有します。
★ハートの海賊団が持つ5つの情報が下記に公開されます。



1：双子姫の話　
　これは『ヒストリーストリート』で聞いた話だったんだが、この国には双子の姫がいたらしい。
　美人で愛らしくて、国民に愛され、国民を愛した完璧なお姫様たちって評判だった。
　まあ、いたらしい、っていうので想像がつくとは思うけど……そう、もう死んでる。
　死んだのは……ああ、そういや、十三年前だ。ちょうど病の終息が発表される前くらいか。
　この姫たちもどうやら例の病気だったって話だ。
　え？　城の中に隔離塔？　へえ……じゃあ病気になってからはそこに入れられてたんだな。
　あ、いや、でも、病気はもうなくなってたんだろ？　
　さっきの話を聞くと嫌な想像しちまうなァ……。
　仮にそうだったとして……加盟国の王族が売られるなんてこと、あるのか？

[56 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 19:17:55]

双子姫……うわぁ嫌な予感がする

[57 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 19:25:02]

2：天竜人の先代の話
　今、国に来ている天竜人がいるだろ。
　そう、女の。ロロノアが前に飛び出して顔を合わせた奴。いやなんで飛び出したんだよ。怖いわ。
　……あーと、そうそう、どうやら十三年前まではあの天竜人の父親がよく国に足を運んでいたらしい。
　よく知らんが、本好きだったかなんだかで帰りにはいつも大量に本を持ち帰っていたんだってよ。
　あとは……悪魔の実の収集家でもあったとか。
　だからこの国で実が見つかったら献上するようになっていたそうだ。
　そんでこれは天竜人ならだいたいそうだが、
　奴隷連れ回すのが大好きな野郎で人間から魚人から代わる代わる連れて来ていたんだと。
　街中では奴隷連れて散歩とかしてたらしくて、
　住民はいつも怯えて過ごすしかなかったっていうからホントひでぇ話だよな。
　ああ、ええと、そうそう。それで十三年前に病気で死んだだかして、今は娘に代替わりしたらしい。
　噂じゃ心臓発作だったとか……うん？
　なんでも国に娘が初めて訪れた時にそう説明したらしいぞ。
　おれもたまたま城の周りうろついている時に聞いた話だし、どこまで本当だかは知らないけど。

[58 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 19:33:19]

>>46

でもフレバンス滅亡は16年前だからその説だと3年の空白期間が出来てしまうんじゃないか？

[59 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 19:44:27]

3：工場の話
　さっき言ってた商品の話なんだけど、麦わらたち捜してる時におれ聞いたんだ！
　ここって気候が良いから果物とかも採れるらしくって、元々果実酒とかは細々と作ってたんだって。
　でもそれを更に加工して高級品にしてマリージョアに卸すことなってから、
　工場もうんと大きくなって仕事も増えて、街にも活気が出てきたとか。
　あと一緒に化粧品も作り始めて、それも試しに卸してみたら天竜人に喜ばれたって言ってたかな。
　なんだろう。果物の化粧品なのかな？　ちょっと美味しそう……？
　うん？　うん、もう完全に天竜人御用達みたい。
　噂を聞いて泥棒とか海賊とかも盗みに入ってきたこともあるらしいんだけど、
　全員警備隊が返り討ちにしちゃったって。
　だから工場には常に見張りがついてて、天上金と一緒に商品を船に乗せる時なんかすっごく警備が厳重になっちゃうとか……。
　あ、そういえば天上金輸送の護衛としてこの国の警備隊も一緒に着いてくって言ってた。
　その時は国の警備がちょっと手薄になるから心配、って街の人が言ってたかなー。
　……そういえば加盟国なのになんで海兵いないんだろうね？

[60 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 20:15:56]

4：警備隊結成の話
　おれが聞いたのは警備隊の話だったなァ。
　一応は王国だし、元々警備隊はあったみたいだけど、一新して強化されたのは結構最近なんだと。
　あー、その、十三年前に例の病気の終息やらが発表されたらしいけどよ。
　その後くらいに王が何処からか結構な人数の人間を国に入れたって話だ。
　国の連中も最初はちょっとびっくりしたそうだが、まあ、気の良い奴らだったからすぐ受け入れられたとか。
　そう、そいつらが今の警備隊に入ってるわけ。目立つ奴だと警備隊の隊長と副隊長か？
　副隊長は魚人だからわかりやすいか。ここら辺、別に魚人の国が近いわけでもねェし。
　隊長は数年前に台頭してきてあっという間にあの座についたらしい。
　いやー、能力者かどうかは知らねェな。
　とにかく強くて優しくてって評判で、部下や住民たちから支持を得てるんだよ。
　そういや移住してきた連中の中には貴重な本を持ってた奴もいたらしくて、
　その内のいくつかは何処かのストリートで展示されてるとかなんとか。
　……いや、あんまり重要な情報持ってこれなくてすみません。

[61 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 20:39:05]

5：ピエロの話
　マジで大した話は聞けてないんですけど……？
　あ、でも聞き込みしてる時に変な話されたっけ。
　麦わらたち捜してる時にさ、変わった連中見なかったかって訊いてて……えっ、なに、自覚ねェの？　えーマジ？
　……脱線したな。ええと、それで街の人が変わった奴がいるっていうからさ。
　聞いてみたらピエロだって。
　そう、おれたちも街に入る時に会ったけど、この街ってピエロがいるんだよな。
　その人が言うには気づいたら街中を出歩いてたり、街の入り口で入国者に街の説明してたりするのを見かけるようになったって。
　最初は誰だろうと気になったらしいが、困ってる人がいりゃ助けてくれるし、子供たちにも人気だからそのままになってんだと。
　で、何が変わってるって……あちこちで見かけるっていうんだ。それも同時に。
　誰かが街の入り口でピエロを見た同時刻に、商店街でジャグリングしてるのを見た奴がいるとか、そういう話。
　同じ化粧してる別人かもしれねェけど、街の人たちは同じ人だって思ってるみたいでさ。
　ちょっと気味が悪いけど、特に被害があるわけでもないし知らんぷりして生活してるらしい。
　……なんかこれ、ちょっと怖い話みたいになっちゃったな？
　もしかして何かの能力者なのかなァ。
　キャプテンみたいに瞬間移動！　……なんてな。

[62 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 20:43:28]

白…化粧品…
珀鉛の白粉、とか？いやでもそんなもん献上して天竜人が中毒症状出したらヤバすぎるからな…
果物の化粧品だとしてもどんな効能かは気になる

[63 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 20:46:00]

繋がりそうで繋がらないこの感じ…！

[64 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 20:47:56]

>>62

でも実際フレバンスには珀鉛の化粧品はあったというし作中の説明だと国外にも輸出されてそうじゃないか？

加工すれば毒性薄まるんじゃなかろうか

[65 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 21:17:19]

サニー号/視点チェンジ
⇒麦わらの一味（ジンベエ）

　宴だったはずの集いはもう消え失せ、情報交換の場となっていた。
　ジンベエたちも仲間内で共有できていなかった情報を交え、ハートの海賊団の持つ情報を擦り合わせる。
　だが、これといった進展もなく、誰もが頭を悩ませていた。

「こりゃ……単純にまだ情報が少ないわい」
「だなァ」

　ナミが大きな紙を広げて情報を纏めているのを横から眺め、ジンベエは顎をさする。隣ではフランキーが腕を組んで座っていた。
　すると、その後ろから皿を何枚も腕や頭に載せたサンジが覗き込んできた。

「色々あって疲れたろ。デザート持ってきたが食うか？」
『食べるッ！！』

　ふわりと香る甘い香りに女性だけでなく、男性陣も嬉しそうに手をあげた。
　甘いものに興味がない者たちは飲み物だけを受け取り、引き続きこの国の話をしている。

「ジンベエはこっちな」
「おお、フルーツの盛り合わせか。こりゃ嬉しいのう」

[66 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 21:17:33]

　ただ切っただけではなく、綺麗に盛り付けられたフルーツの山は崩すのすら惜しく感じる。

　刺さっていたフォークを使い、一切れ一切れを食べ進めていった。

　口の中に広がるフレッシュな味わいに口元が緩むのが止められない。

「美味いな」

「だろ？　朝一に獲れた新鮮なフルーツらしいぜ」

「あまり見たことが、この島特有の物じゃろうか」

　なんてことを話していると、ふいにチョッパーが「あ」と声を上げた。

1：「トラ男、おれちょっと気になってる場所があるんだけどよ」

2：「トラ男、さっき見れなかった本だけどよ」

dice1d2=2 (2)

[67 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 21:35:09]

1だったら白くなったタンポポの話だったのか…
いつか情報共有してほしいが…

[68 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 21:44:04]

本当に子どもを上納していたとは･･････老婆の娘さんもまだ生きてるんじゃないかな。
おいくつになってるかわからないけど。
読者はフレバンスを知っているけど、つながりに気づけそうなローさんが言わないと無理かな

フレバンスなくなったから、代わりの白い化粧品作るようになったとか
今はもう手に入らない貴重な化粧品とかレアだし
蒲公英の色変わるの、何か巻いてるか、地面に何か埋めてるんじゃない？

[69 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 21:45:55]

「トラ男、さっき見れなかった本だけどよ」
「ん……？」

　古ぼけた本を一冊、チョッパーは再び抱え込む。

「これ研究論文なんだけどよ、なんかすげェボロボロで名前も読めなくなっちまっててさ。
……でも、ちょっと気になることがあるからトラ男にも見てほしくて」
「……まあ、いいが」

　現在、麦わらの一味とハートの海賊団が持ち合わせている情報は全て出揃っている。
　明日からは変装などを駆使して街に再び潜り込む予定になっていた。
　だから時間があると判断したのだろう。チョッパーのその相談ごとは特に拒否されることなく、ローに受け入れられていた。

「ありがとな！　ほら、これだ！」

　チョッパーは持っていた本をローに渡す。受け取った彼は、胡坐を掻いていた脚の上に本を乗せてから――眉間にしわを寄せた。
　そして無言で表紙を捲ったかと思えば、徐々にその手は早くなっていく。
　その視線もページが捲るのに合わせ、忙しなく動いているのがジンベエにもわかった。
　彼はそのまま最後のページまで辿り着き、完全に動きを止めた。

「……ト、トラ男？」

　異様な空気にチョッパーが彼の顔を覗き込んだ。そして、ぎょっとしたように目を見開く。

「トラ男！？　顔真っ青だぞ！？　腹でも痛いのか！？」
「何ィッ！？　どの食材も新鮮だったぞ！？」

　腹痛と聞いて、今夜の食事を全て用意したサンジが狼狽えた。ジンベエはそんな彼の背を叩くように撫でて宥める。

「落ち着けい。……そういう空気ではなさそうじゃ」

[70 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 21:46:23]

　ローは口元を手で押さえ、黙り込んだままだ。
　一体何を見てしまったというのか。
　チョッパーがまだおろおろとしていると、やっとローが口を開いた。

「……トニー屋、これはあの街で買ったのか」
「お、おう……？　古本屋があってさ、なんか古い病気とか、そういう資料を沢山集めてる本屋で……」
「そうか……そう、か」

　やっと落ち着いたのだろう。彼は滲んだ汗を手で拭い、チョッパーに視線を移動させた。

「……ありえねェ」
「え？」
「ありえねェんだよ。これが、こんな新世界の島に存在していることが」

　ローは膝に乗せた本の表紙を撫でる。その指先は本に触れるだけとしては、やけに優しかった。

「全部――全部燃えたはずだ。誰が、これを……」
「トラ男……？」

　彼はすぐ息を飲み、頭を軽く振った。
　そしてまるで何もなかったようにしてチョッパーに問う。

「気になることがあるっつったな。なんだ」
「え、あ……おう」

　戸惑いながらチョッパーは口を開いた。

「この論文に書かれてる――〝珀鉛病〟についてなんだけどさ」

[71 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 21:48:39]

あぁ…その本……やっぱりか
”名前のない“って付いてる時点でお父さんの論文かもしれないって前スレで思ってたんだよな…
しかも珀鉛病……

[72 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 21:54:02]

でも新世界ってカームベルト挟んでるとはいえ北の海に行けないこともないよな

[73 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 22:05:02]

★誰かの記憶を再生しますか？

1：再生できません

2：再生できません

dice1d2=2 (2)

※まだ情報開示条件を満たしていません。

[74 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 22:05:47]

うわぁ……

[75 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 22:06:29]

白タンポポの下はやっぱり根から白くさせてしまうものが埋まってると思うんだよな～
一番嫌なのはフレバンス国民の...。でも全部真っ白にしちゃうものって言ったらそれしかないし確実にある場所といったらそうなるし、実際運び出されてたっぽいし
現時点で政府胸糞案件なのにここにフレバンスが少なからず関係してるってなったらもうロー笑えなくなるよ
同じピエロって能力者かクローンっていうことなのかな...天竜人が親子で変わった意味がわからんな

[76 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 22:09:30]

珀鉛病の真相を聞いた時の麦わらの一味の反応は見たい
チョッパーは泣きながらブチ切れそうだし、ロビンは「また世界政府ね」って冷たい声で吐き捨てそう
ナミは絶句しそう

[77 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 22:13:10]

パパファルガーのだったかやっぱり...でもホントに何であるんだろう...
パパファルガーは珀鉛病が中毒って知ってた気がするけど、そしたら政府は「感染症」として通してるんだからパパファルガーの本は都合が悪い内容じゃないの？
上の監査があるって言われてるこの国にあった意味がよくわからない...おじいさんが何らかの手段で独自入手したのか？

[78 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 22:18:45]

　ローから本を受け取ったチョッパーは芝生に腰を下ろし、その本を広げる。
　そして考えていたらしい話をゆっくりと話し出した。

　――おれもまだちゃんと全部読めてないんだけど、これってつまり公害による中毒なんだろ？
　ドクトリーヌもさ、あ、ドクトリーヌっておれの師匠なんだけど――あ、えっとな。
　公害っていうのは人だけじゃなくて環境全部に影響するって言ってたんだ。
　この珀鉛っていうのは人体にも悪影響を及ぼした結果、この病気を引き起こしたんだよな？
　それで……ここに書いてあったけど、ほら、植物も白くなってるって。
　……写真の街はすげぇ綺麗だと思うけど、全部毒なんだよな……。
　あ、えっとな、そうだ、植物！

　実はおれ、この本を買った店で変な話を聞いたんだ。
　街はずれの崖の上に白いタンポポが生えてるって。
　最初は新種の植物なのかと思って、ゾロ見つけた後にでも採取に行く予定だったんだ。
　だって新しい薬の材料になるかもしれねェし。
　でもさ、この本読んだらなんか……違うんじゃないかって思ってさ……。
　うん。店の爺さんが言うには昔は普通のタンポポが生えてる場所だったって。
　引っこ抜いたら花だけじゃなくて根っこまで白くなっちまってたっていうんだ。

　……その、この論文の事例みたいにさ。
　土地が植物に影響を及ぼしてるってこと、ないか？

[79 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 22:35:12]

さすチョッパー
頭いいな

[80 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 22:37:54]

>>75

ああ…桜の木の下然り、白いたんぽぽの下には根すら白くする何かがあるってことですね……

むなくそだけど当たってそうなのがまた…

というかクローン技術⁇もしピエロさん達がそれに該当するなら私たちはそれを実現できる技術力を持ち、かつ戦争や政府に関われる海遊国家を知ってるんだが……フレバンスもその海遊国家も北だし…これはなんか関わりある⁇

[81 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 22:40:52]

「白く染まったタンポポ……」

　チョッパーの話を聞いたローがまた黙り込む。
　ジンベエたちはウソップから何となくその花畑の話は聞いていた。
　だが、変わった色の植物くらいならいくらでもあるだろうと気にも留めていなかった。実際、ウソップが多種多様な植物を扱うのだから尚更だ。

「お？　なんの話してんだ？」
「おお、ルフィか。なに……少しばかり変わった場所があるという話じゃ」
「ふーん？」

　サンジに焼いて貰った巨大な骨付き肉に齧りつきながら、ルフィも近くに座り込む。
　そして気難しい顔をしているローを見ながら、口の中の肉を飲み込んだ。

「よくわかんねェけど、見に行ったらいいんじゃねェのか？　気になるんだろ？」
「……麦わら屋、お前は本当にいつも思考回路が単純だな」
「おう！　トラ男だって結局は自分のやりたいようにしかやりたくねェだろ」

[82 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 22:41:08]

　ニッと笑うルフィにローは目を細め、それから大きなため息を吐いた。

　眉間を指で揉み込みながら彼は言う。

「お前と話していると色々と馬鹿らしくなってくる」

「なんだ？　なんでおれ急に褒められたんだ？」

「褒めてねェッ！！　耳詰まってんのかテメェはッ！！」

　怒鳴られたルフィは口元を引き絞って首を傾げる。その様子を見てジンベエは思わず小さく笑った。

（なんとも若いもんだ）

　ジンベエの考えていることなど知らないローはひとまず気持ちを持ち直したのだろう。

　「明日は……」と言葉を続けた。

1：「その白い花畑に行ってくる」

2：「この本を売ってた本屋に会いてェ」

dice1d2=1 (1)

[83 二次元好きの匿名さん 23/01/14(土) 22:54:20]

ハートの一味はローさんの過去知ってるのかな。旗揚げ組は知ってそうだけど。
ベポとかつれてセラピーされておくれ。

[84 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 23:40:09]

「その白い花畑に行ってくる」
「本当か！　おれ、トラ男がついて来てくれたら嬉しいと思ってたんだ！」

　パァッとチョッパーが顔を輝かせた。
　その喜びようは同じ医者としてローが心強いからなのだろう。
　ジンベエたちの中にはチョッパー以外は医療の知識も疎く、話も聞くのが難しい。
　他の海賊団の船長とはいえ、彼はローの腕を確かに信頼しているようだった。
　それはジンベエも同じだ。〝あの戦い〟の後、己とルフィの命を救ったのは確かにこの男なのだから。

「あ、ルフィ！　おれも明日トラ男と一緒に行くから街に行くの遅れると思うぞ！」
「わかった！　じゃあ先に街で待ってんな！」
「おい、くれぐれも大人しくしてろよ。くれぐれも、だ。うちの船員も街に入るんだぞ。わかってんのか」
「わかってるって！　何かやっちまったらちゃんと謝る！」
「謝れば許されると思うなよ！？」

　もう夜中に差し掛かっているというのにギャーギャーと元気に騒ぐものだ。
　周囲に残っていた者たちももう慣れた様子で眺めていた。

「ふたりとも、もう遅い。明日にも響くかもしれんからもう寝る準備をせんか」
「お、そうか？　それじゃトラ男！　また明日な！」

　ルフィがニカッと笑って手を振った。
　ローはもう何かを言う元気もないといった様子で帽子をずり下げる。手は振り返されなかった。

[85 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 23:41:42]

「そう言われたら……おれもう眠いぞ……」

　急にチョッパーが目をしょぼしょぼとさせた。
　普段の彼ならとっくに夢の中にいる時間だ。ふらつく体をロビンが足元に生やした手で支えた。
　それでも彼がしっかりと腕に本を抱いているのを見たローが、何度か音もなく口を開閉させる。
　だが、やがて意を決したようにして――声を出した。

「トニー屋」
「うん？　なんだァ？」
「読み終わってからで構わねェ。金も払う。
足りなきゃおれの持ってる本でおまえが欲しいもんを持っていっても良い。
だから……その本、おれに譲ってくれねェか」
「え？」

　突然の希望にチョッパーは再び目が覚めたのだろう。
　その場で飛び跳ねるようにして起きた。
　そして丸い瞳でしっかりとローの視線を受け止め、腕の中の本をギュっと抱き締める。
　ふたりの様子を見ていたルフィが首を傾げた。

「そんなスゲェ本なのか？　海賊なら奪い取ればいいじゃねェか。決闘でもするか？」
「えッ――！？　おれがトラ男に勝てるわけねェよ！！　すぐ取られちゃうって！！」
「そうかァ？　チョッパーは強いんだぞ！　なんたって変身するからなッ！！」
「もうッ！　ルフィはちょっと黙っててくれよ！」

　チョッパーは飛び跳ねてルフィの腰の辺りをペシッと叩いた。
　着地した彼は再びローを見上げる。ローのほうは一瞬目を逸らしたが、やがて告げた。

[86 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 23:43:13]

「……そいつはそういう手段で手に入れたくねェんだ。だから、トニー屋が嫌なら仕方ね――」
「――やるよ。金もいらねェ！
だってこれ、店の爺さんがおれに〝立派な医者になれ〟って言ってくれたんだ」

　本を両手で掲げるようにして持ち、チョッパーが笑う。
　僅かにローの目が見開かれる。

「トラ男はもうスゲェ医者だけどさ、医者の道に終わりなんかないだろ。
だから――まだまだ頑張っておれたち、立派な医者になろうッ！」

　チョッパーは走って飛び上がるとローの腕の中に本を押し付けた。
　そのまま彼は船内目掛けて走り出す。――が、途中で止まって振り返った。

「……やっぱり読み終わってからで良いか？」

　チョッパーの言葉に誰もが目を丸くしてから意味を理解し、笑った。
　まだ年若いトナカイは恥ずかしそうにウロウロとしている。格好がつかないと羞恥しているのだろう。
　その彼を見てローは受け取った本を持ったまま、やがて小さく笑う。

「ああ――勿論だ」

[87 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/14(土) 23:44:38]

★1日目夜が終了しました。
★チョッパーはアイテム『名前のない医者の古い論文』を使用しました。
★『名前のない医者の古い論文』はエンディング後、自動的にローのアイテムになります。
★エンディング②以降のルートに入っています。
（①ノーマルエンド　②バッドエンド　③トゥルーエンド）

▼情報
【警備隊の噂】◎
【海の戦士ソラのサイン入り初版の話】◎
【白い花畑の話】◎
【『名前のない医者の古い論文』取得】◎
【祭りに来る天竜人の話】◎
【天上金と貢物の話】◎
【子供だけが罹る病の話】◎
【双子姫の話】◎NEW！
【天竜人と警備隊の関係】◎
【祭りの由来】◎

【『お姉さん』の話】◎
【未取得】※特定の選択肢によって取得可能
【城の中の話（最大値の5個）】◎
【城の中の隠し金庫の中身】◎
【警備隊副隊長の様子】◎
【未取得】※特定の選択肢によって取得可能
【未取得】※特定の選択肢によって取得可能

【十五歳鱗病の話】◎NEW！
【『売買契約破棄書』の話】◎NEW！
【ハートの海賊団の集めた情報】◎NEW！
【〝珀鉛病〟の話】◎NEW！

[88 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 00:26:46]

おもしろすぎる
トゥルーエンドいってくれ～！

[89 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 10:17:16]

めちゃくちゃ続き気になる〜‼︎
特定の選択肢で得られる情報がどんな内容なのかとかピエロとかたんぽぽとか全部気になる〜‼︎

[90 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 11:08:14]

2日目午前中

各々の行動開始地点

1：街のはずれ

・チョッパー

・ロー

2：街の中

・ルフィ

・ナミ

・ウソップ

・ロビン

・サンジ

・ブルック

・ペンギン

・シャチ

・ベポ

・数名のハートの海賊団船員

3：サニー号の見張り

・フランキー

・ゾロ

・ジンベエ

★開始地点

dice1d3=1 (1)

[91 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 11:35:46]

>>58

3年間の間に珀鉛病の罹患者を島に運び込んで見えてる珀鉛部分を取り除いてタンポポの所に埋めたとか？

[92 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 13:46:22]

街のはずれ/視点チェンジ
⇒麦わらの一味（チョッパー）

　――晴天。
　まるでピクニック日和といった穏やかさの中、チョッパーは大きく手足を振って道を歩いていた。
　背負ったリュックに入っている海賊弁当の重みも胸の内を明るく色付けさせる。

「……おい、遊びに行くんじゃねェぞ」
「わ、わかってるって！！　でもこんな空の下で食うサンジの海賊弁当美味いんだよな～」

　後ろにいるローに指摘されながらもチョッパーは笑みを隠し切れない。
　なんと弁当の中にはおやつのわたあめも入っているのだ。これで笑顔になるなというほうが無理である。

（い、いやいや！　そうじゃない！　トラ男の言う通り遊びに行くんじゃないんだッ！）

　ハッと思い直してチョッパーは顔を引き締める。
　昨夜、この国の過去の惨状を聞き、チョッパーたちとハートの海賊団は一時的に手を組むことになった。

[93 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 13:47:12]

　その中でもチョッパーがトラ男と共に向かっている場所は、その件について何も関係ないかもしれない。
　だが、そうだとしても嫌な予感がすることも確かである。
　ならば早めにその憂いを晴らしてしまうほうがルフィたちの目的に集中できるだろう。

（もし花の変色が土地の汚染が原因だったとしたら……本当に別の病気がこの国に流行っちまうかもしれねェ……！）

　そうなれば何が何でもこの国にその危険性を訴えなければならない。大勢の人の命が掛かっているのだから。
　秘密裏に行われていた惨い現実はとてもじゃないが許せない。だが、今は何も知らずにこの国の住民たちは幸せに暮らしているのだ。
　チョッパーに本をくれた古本屋の老人を思い出す。あの様子だと恐らく彼も家族を奪われたことがあるのかもしれない。
　ならば尚更、これ以上の悲劇は起こしたくなかった。

「爺さんが坂道の途中に獣道があるって言ってたんだ。
でも子供が入り込まないように普段はなんか塞いでるって……」
「…………あれか？」

　ローに言われてチョッパーは顔を上げた。そして目を瞬かせる。
　視界に飛び込んできたのは『危険！　キケン！』『獣出没！　絶対入ルナ！』などと書かれた巨大な看板が地面に突き立てられている様だった。
　鬱蒼とした林の傍らの大きな岩と岩の間にその獣道の入り口があるのだろう。
　看板以外にも、とにかく乱雑にガラクタみたいなものが詰め込まれているのを見て、チョッパーは肩から鞄がずれ落ちかけた。

「め、滅茶苦茶だッ――！」
「ヒデェもんだ……通れねェじゃねえか」

[94 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 13:49:03]

　呆れ切った様子でローが宙に手をかざす。

「〝ROOM〟」
「わっ」

　ローを中心に半透明な空間が広がる。ガラクタなどもその空間の範囲内に収めてから、彼は手を振った。

「――〝タクト〟」

　小さく呟かれた言葉と共に、地面に突き刺さっていたガラクタや看板が引き抜かれていく。
　空中に漂う大量のガラクタにチョッパーは慄いた。その間にもローは足を進めて、姿を現した獣道の入り口に立つ。

「地面がぼこぼこじゃねえかよ。……おい、トニー屋。ぼさっとするな」
「お、おうっ！」

　チョッパーは一生懸命ローに付いて行きながら涙を流す。

（ほんっとうにトラ男が着いてきてくれて良かった～っ！）

[95 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 13:49:27]

　獣道を入ってすぐ、彼が能力でガラクタを操作して再び道を塞いでいるのを見てさらに強く実感する。
　チョッパーひとりだったらガラクタをどかすだけでもかなり時間が掛かったことだろう。

「とにかく道なりに進めば崖の上に出るって爺さん言ってたぞ！」
「わかった。……少し力は温存しとくか」

　ローのオペオペの実の能力は様々な使い道があって便利だが、そのかわり体力を多く消費するそうだ。
　先ほどの『ROOM』の範囲を広げればその花畑まで一瞬で飛べるかもしれないが、今後何が起きるかわからない。
　チョッパーとしても戦いに長けたローが動けるほうが助かる。

「じゃあ、気を付けていこう！」

　気合を入れ直し、チョッパーは力強く言い放った。

[96 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 13:50:14]

　噂の崖の上に辿り着いたのはそれからどれだけ経った頃だったのか。
　獣道は狭く、足場も悪く、ぐねぐねとしており、何度道を曲がったのかよく覚えていない。
　一本道でなければすっかり迷っていたことだろう。

「さ、さすがに、疲れたぞ……」

　今更ながら『脚力強化』形態になっていれば良かったと後悔する。
　あの店の老人に掛かる時間を聞いておくべきだった、という反省も一緒にした。

「……ここか」

　だが、辿り着いたのだ。
　林というよりも森と称したほうが良い場所を抜け、開けた空間に出た。
　顔を上げれば潮風がチョッパーの頬を撫で上げる。視界の向こうには海が広がっていた。

「うわぁ……！　ここ、良い景色だなァ！」

　あんな道を通らなくてはいけないことを忘れれば、絶好の絶景スポットとなっていたことだろう。
　そして少し視線を下げるとチョッパーたちの目的の場所が、そこにはあった。

「……トラ男」
「ああ」

　――それはまるで積雪を連想させた。
　脳裏に蘇るのはチョッパーの故郷であるドラム王国だ。

[97 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 13:50:49]

　雪と見紛うほど白く染まったタンポポ畑が崖の上に広がっていた。
　もうそろそろ綿毛に変わるのか、一部の花は萎み掛けている。
　チョッパーもローもゆっくりとした足取りで花畑に近づき、地面に膝をつく。

「……なんだこれ」

　異様な光景にチョッパーは息を飲む。
　試しに一輪、地面から引き抜いたタンポポは不自然なほどの白さを宿していた。
　花弁の先から根っこの端まで、混じりけのない白さだ。
　チョッパーは鞄から薄いガラスを取り出し、折った茎から滲み出た白い液を擦りつけて観察する。
　どこかキラキラとした白い液は、本来のタンポポのものよりも強い粘度があった。

「トラ男、この花……」

　傍らにいるローを見上げれば、彼もまたちぎり取ったタンポポを眺めて難しい顔をしていた。
　そして彼は花を手放すとそのまま手をかざして『ROOM』を発動させる。
　チョッパーや花畑を全て覆いつくした空間を作り出した彼は、背負っていた鬼哭を構えた。

「〝スキャン〟――――ッ！？」

　空間内に青白い光が奔り、花畑を通過していった。
　それと同時に彼の顔色が変わる。汗を滲ませる彼の横顔にチョッパーが唾を飲み込んだ。

「ト、トラ男……？」
「……どういうことだ。なんでこんなところに……」

　ローは落とした白いタンポポを見下ろし、血反吐を吐くような声で呟いた。

「――珀鉛、だ」
「え――」

[98 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 13:51:39]

　驚愕にチョッパーは目を見開く。そして、手にしていたタンポポを見つめ、手を震えさせた。
　美しい白色を誇る――猛毒の鉛だ。それが今、自分の手の中にある。

「は、珀鉛って……あの論文に書かれてたやつじゃねェか！！
あれって限られた国にしかなかったんだろ！？　なんでこの島に……」
「知るかッ！！　ありえねェことはおれだって――おれが一番わかってるんだよッ！！」
「ッ……！」

　ローの気迫に飲まれ、チョッパーは言葉を失う。
　彼は口元を押さえてなにかぶつぶつと呟いていた。血の気の失せた顔を見れば、彼がいつもの平常さを失っていることはすぐにわかる。
　その原因などわからない。彼が焦るほどこれの毒性が高いからなのか、それ以外に理由があるのか。
　しかし、今はそれを追求している場合ではない。
　チョッパーは口を引き結ぶと、彼の服の裾を強く引っ張った。

「わかんねェ……わかんねェけど、これが珀鉛のせいだって言うなら早く手を打たなくちゃいけないだろ！？
確か実際に人へ影響が出るのは何代も後だっていうけど、一体いつからこれが……」
「……いや」

　ローは再び地面に膝をつき、またタンポポに触れた。それは綿毛になりかけた、中途半端な姿をしている。
　彼はその花の部分を指でほぐし、中から種を取り出した。その種すら真っ白になっているのがわかる。
　だが、彼がその種に軽く力を加えるとパキリと呆気なく砕け落ちた。

「……あ、れ？」

　さらさらとした粉になったそれは地面に落ち、元が種だったとは、もはやわからなくなった。

[99 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 13:52:24]

「もうここ花は種を形作れても、次の代に紡ぐことはない。
蓄積された珀鉛が多すぎて、成分がほとんど入れ替わっちまってる。
……生まれる前に、死んでるんだよ」

　チョッパーは呆然として目の前に広がる美しい白い花畑を眺める。
　この花たちが白く染まり始めてから何代目なのかはわからない。だが、もう次はない。
　今もその身に宿している種は芽吹かないのだ。もうすでに死んだ種を抱えるだけの存在に成り下がっている。
　ぞっとして自分の体を抱くように腕を回した。
　ローはタンポポを軽く手の中でいじくりながら、目を細める。

「……珀鉛の濃度が異常だ。もし普段から接し続けていれば、人の体でも百年はいらねェ」

　そして、震える声で告げた。

「――数十年もありゃ、珀鉛病が発症するだろう」
「ッ！？　そ、んなッ……だって、それじゃあ……！」

　目の前が暗くなる話だった。
　もう存在しない病で百年苦しめられた国だったのだ。
　だというのに、次はあと数十年で治療法すら確立していない珀鉛病の脅威に晒されている。
　あの論文にあった街と違い、まだ誰もこの存在に気づかずに近づいていないとはいえ、何処からその毒が滲み出ているかもわからない。
　チョッパーが思い浮かぶ危険性を脳裏で張り巡らせていれば、ローが丸めた背を震えさせた。

「……は、ははっ、なんだって、こんな……今更、おれの前に」
「トラ男……？」

　彼の乾いた笑いにチョッパーは戸惑う。笑い声とするには、あまりに空虚だった。
　どう声を掛ければ良いかわからず、小さな手が宙を彷徨う。
　だが、次の瞬間、チョッパーは寒気に全身が逆毛だった。

[100 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 13:53:23]

「ふざけるな――どこの馬鹿野郎だ」

　それは憤怒に塗れた、低い声だ。自分に向けられたものではないと理解しながらも、チョッパーは固まる。

　しかし、それよりも彼の言葉に引っかかるものがあった。

「ば、バカヤローって……これ、誰かが、やったってことか……！？」

　チョッパーの疑問にローは頷く。青筋の走る顔は今にも誰かを睨み殺せそうなほどの凄みがあった。

「言っただろう。濃度が異常なんだよ。自然の珀鉛じゃねェ……手が加えてある」

　また鬼哭を構えた彼は『ROOM』の範囲を広げ、今度は地面に向けて『スキャン』を発動させる。

　目を閉じ、原因を感知しようとしているのだろう。そして、ゆっくりと目蓋を押し上げた。

「……地下に何かある」

「な、何かって……？」

「でかい空洞……空間だ。自然の空洞じゃねェ。施設か、何か……」

　そう呟いたローの目に剣吞なものが宿るのがしっかりと見えた。

　思わずチョッパーは彼の服を握り締めた。逃がさないように、しっかりと。

　それに気づいた彼がチョッパーを見下ろす。彼の視線を受け、チョッパーは叫んだ。

1：「行くならおれも連れてけッ、コノヤロー！」

2：「突っ走ったらダメだ！　一度街に戻ろうッ！」

dice1d2=1 (1)

[101 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 13:58:15]

2人だけで突っ込んで大丈夫だろうか…

[102 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 13:59:22]

やっぱ珀鉛なのかよ…なんで…
王族か？やっぱ王族がクロなのか？

[103 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 14:01:45]

PHでもこの二人一緒に潜入してたね

[104 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 14:04:38]

トラ男お労しい……

[105 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 14:05:37]

チョッパーがいて良かった
一人で故郷の惨劇が繰り返されようとしている光景に立ち向かうの辛すぎる

[106 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 14:22:18]

2人だけで行くのは怖い、誰か連れていくんだ...
珀鉛関係の事でローが冷静でいられるはずないし、人の命を弄ぶような事だと確定したらチョッパーも冷静じゃいられない。親分とか連れてこうよ...

[107 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 14:23:22]

>>106

残念ながら親分はサニー号の見張りだ…

[108 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 14:26:58]

ルフィがゴムゴムのロケットとかで突っ込んでこないかな

[109 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 14:29:53]

2人で行った結果BAD確定とかないよな…
トゥルーが見たいぜ…

[110 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 14:56:54]

ここでブチギレるトラ男解釈一致すぎる

[111 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 16:38:20]

（エンディング②以降に入ればだいたいストーリーをひと通り駆け抜ける方向になるので、エンディング分岐はまだになります…どっちのエンディングになるかスレ主もドッキドキです…）

[112 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 17:22:42]

頑張れ皆……！！
つかマジで面白い

ローの来歴についてはノベロー準拠なら旗揚げ組は知ってるが……
なんとかローの精神の保護をしてやってほしい

[113 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 18:36:34]

「行くならおれも連れてけッ、コノヤロー！」
「トニー屋……」

　驚いたようにローが目を見開く。
　チョッパーは荒くなった呼吸を整えて、ジッと彼を見つめた。

（今のトラ男は冷静じゃねェ……！　それにこいつもとんでもない無茶するタイプだ！
せめておれだけでも着いてやって行かねェと……！）

　チョッパーが止めなければ地下空間に飛んで行ってしまっていただろう。そんな確信だけがあった。
　ローは少しの間黙り込んでから、大きな溜息を吐く。

「……ガキじゃねェんだ。付き添いはいらねェよ。だが、まあ……」
「うぉっ！？」

　急に体が持ち上がる。両手足をぷらんと垂れさせながらローを見た。どうやらリュックを掴まれたらしい。

「こんなところにお前ひとり置いていって、
後で麦わらの屋たちに文句を言われても堪らねェ」

　ローの言いざまにチョッパーは目を丸くさせてから――笑った。
　両手で口を押さえてエッエッエッと笑うチョッパーに、ローが眉間にしわを寄せる。

[114 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 18:38:11]

「なんだ」
「別に。……うん、おれ置いていかれたらナミたちに言いつけるぞ！
あとハートの海賊団の奴らにも！」
「勘弁してくれ」

　これっぽっちも悪びれた様子もなく言いながら、ローはもう一度『ROOM』を発動させる。
　手に持っていたチョッパーを彼は肩に載せ、両手を開けた。
　チョッパーも彼の動きを邪魔しないようにしっかりとしがみつく。

「いくぞ」
「おうっ！」

　何が起きるかわからない。だが、絶対に調べなくてはならないのだ。
　チョッパーの決意を込めた応える声にローが薄く笑みを浮かべた。

「――〝シャンブルズ〟！」

　ローの呼び声と共に視界が切り替わる。
　青い空も海も掻き消え、きらきらと輝く白い空間に目を焼かれそうになった。
　一瞬の浮遊感の後、チョッパーを乗せたローが床に着地した。
　タンッ、という音がやけに響く。

[115 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 18:38:40]

「こ、こは……」

　チョッパーは顔を上げて周囲を見渡した。
　部屋は広い円形になっていた。高い天井と足元の床は灰色の石材で固められている。どこの国でも見る一般的な石材だろう。
　空調などの機械でも動いているのか、ゴウンゴウンと低い音が反響していた。
　そこだけを抜き出せばこの部屋に白色は存在しない。
　だが、最初にここを白い部屋だと誤認した理由は確かにそこにあった。
　部屋の壁は一部を除いてほとんど分厚いガラスで覆われている。
　立ち上がったローがゆらりとそのガラスに近づき、そっと手を触れさせた。
　彼の肩に乗っていたチョッパーにもガラスの向こうが良く見える。だからこそ震える声で言った。

「な、なんだよ、この――大量の白い粉は」

　ガラスの向こうには広い空間が広がっていた。その空間には細かな白い粉が詰め込まれ、まるで白い砂地のようだ。
　あちこちには大きな山もできており、ぱらぱらと零れ落ちていく白い粉はあまりに細かい。
　時折、その粉の山が崩れ落ち、下に吸い込まれるように消えていく。
　チョッパーはガラスの向こうへ必死に視線を彷徨わせる。
　すると太いパイプを通して粉が吸い込まれ、何処かへ運ばれていくのがわかった。

「なあトラ男……もしかして、これって全部……！」
「……珀鉛の粉末だ」

　やはり、とチョッパーは顔を青くさせた。

[116 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 18:39:36]

　こうして眺めているだけなら美しい白い砂だ。
　しかし、これが人の命を侵蝕する毒だということをチョッパーはもう知っている。
　だからこそ、これだけ膨大な量が保存されている状況が異常なのだ。
　ローが汗を滲ませ、戦慄く声で呟いた。

「ハッ……なんだよ、これは。ふざけるにもほどがあるだろうが……ッ」

　困惑と怒りを混ぜた声音だ。チョッパーにも理解ができる。
　この粉末の正体を知るからこそ、狂気を感じて恐ろしかった。

「トラ男、もしかしてこれが地面に浸みていって――」

　――バチンッ！
　突然、大きな音を立てて部屋の電気が落ちた。
　驚いてチョッパーは「ギャアッ！？」と叫んでローの頭にしがみつく。

「ッ、トニー屋！　落ち着け！」
「わ、悪ィ……！」

　バクバクと鳴る心臓を落ち着かせようと深呼吸をする。
　しかし、落ち着く間もなくチョッパーたちの背後に一筋の照明が落とされた。
　弾かれたように振り向けば、真っ暗な部屋の中心に注がれたライトの下に――ひとりのピエロがいた。

[117 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 18:40:05]

「は……？」

　チョッパーは言葉を失う。
　丸い赤っ鼻と笑顔の泣き化粧、強く巻かれた茶色の髪、派手な道化衣装。
　真っ暗な空間でたったひとりライトを浴びる姿は、ここがどこかの劇場なのかと錯覚させる。
　もちろんそんなはずがない。
　ここにあるのは隠されたように存在している、大量の珀鉛の粉末と閉鎖的な空間だけだ。

「――お客様、ここはスタッフ以外立ち入り禁止でございます。
おかえりはあちらからどうぞ」

　ピエロがそう言って、白い手袋で覆われた手で真っ暗な部屋の奥を示す。
　何も見えない、なんていう指摘も口に出すのが憚れた。

（な、なんだよコイツ……！）

　間違いない。昨日の朝、この国の街に入った時に見たピエロだ。
　それがどうしてこの場にいるのかなど理由は見当もつかない。
　異様な空気に、チョッパーは唾を飲み込んだ。

[118 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 18:40:47]

　その中でローが動いた。

「〝ＲＯＯＭ〟！」

　一瞬でピエロまでを包み込んだ境界内で、ローが鬼哭を振り抜く。
　同時にピエロの体が腹と腰でまっぷたつに分かれた。
　下半身だけがライトの中に残り、上半身は真っ暗な部屋の中に転がり落ちる。

「ちょ、ト、トラ男――ッ！？」
「先手必勝だ。……わざわざ相手が向こうからやってきてくれたんだからなァ」
「おれ今トラ男の顔見えねェけど絶対悪い顔してる――――ッ！！」

　なんて騒いでいれば、小さな笑い声が聞こえてきた。それは暗闇の中から響いてくる。
　クスクス、フフフ、クスクス――前から左からの右から上から。
　反響しているわけではない。同時に聞こえてきているのだ。

「ヒィッ……！？　な、な、なんだよーっ！？」

　混乱しかけたところでチョッパーは思い出した。
　それはサニー号の上でハートの海賊団から聞いた話だ。

『――同じ化粧してる別人かもしれねェけど、街の人たちは同じ人だって思ってるみたいでさ』

[119 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 18:41:13]

　それは同時に複数の場所で現れるピエロの話ではなかっただろうか。
　思い至って、背筋に寒気が走る。

（じゃ、じゃあ、おれたち今……囲まれて……！）

　ローもそれには気づいているのだろう。『ＲＯＯＭ』を解くことなく、構えているようだった。

「テメェ……なんなんだ」
「何、何とはいったい何でしょう。私たちは私たちでございます。
お客様方も……いいえ、トラファルガー・ロー様とチョッパー様ですね。
おふたりともどうやってこちらに参られたんでしょう？」

　見えない場所から響く声。きっとすぐ近くにいるということだけは理解できる。

「おれたちのこと……！」
「ハッ……知ってて街に入れたってか」
「もちろんでございます！　私たちの役目はこの街の安寧を守ること。国民の皆様を守ること。
日々移り変わる世界情勢に疎くてどうするというのでしょう」
「海軍様に任せておけばいいだろうがよ。ここは加盟国なんだろう？」

　皮肉交じりのローの言葉にピエロの声は止む。

[120 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 18:41:49]

　ただ、それもほんの数秒のことだった。

「ええ、世界の治安を守ってくださる政府と海軍には感謝をしてもしきれません。
ですが……私たちも無力なままではいられません。
いつか世界の秩序が失われたら頼れるのは――自分たちの力のみでございましょう？」
「前置きはともかく、信じられるのは自分の力のみっていうのは同感、だッ――！」

　踏み込んだローが自身を中心として鬼哭を振った。
　断ち切るような音と共に、床に柔らかな物が落ちる音も聞こえる。
　ローは鬼哭を肩に掛け、さらに一歩踏み出した。

「だが悪いな。おれは今、虫の居所が悪い。お前のおしゃべりに付き合う暇もねェ」
「ぁぐッ……！？」

　そこに切断したピエロの体でもあったのだろう。
　強く踏みつける音に苦痛の声が混じった。

「おい、吐け。このクソ悪趣味で馬鹿げたことをやってる奴はどこのどいつだ」
「フ、フフ……フフ……なんのことでしょう？」
「まさか知らねえとは言わせねェぞ。――珀鉛の危険性について」

[121 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 18:42:13]

　沈黙が満ちる。暗い部屋の中には機械の稼働音だけが響いていた。
　チョッパーは緊張で口の中が渇いていく。

「だんまりか？　肯定と受け取るぜ。……ああ、妙な真似はするなよ」

　チャキ、と鬼哭を構える音が聞こえた。一瞬走った青白い光にチョッパーは心強さを感じる。

「いくら視界を奪おうと、おれにはお前らが何処にいるかわか――」

　そこでローの声が止まった。

「……？　トラ男？」

　一体何があったというのか。心配になって彼の顔を覗き込もうとして、暗くて見えなかったことを思い出す。
　だが、僅かに触れていた皮膚から彼が汗を掻いているのだけはわかった。

「お前、その体は……」

　ローの声には狼狽が滲んでいた。
　『スキャン』で何かが見えてしまったのかと、チョッパーは緊張する。
　だが、彼が言葉を続けるより先にピエロの声が下から聞こえた。

「お客様――本当に残念です」

[122 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 18:43:13]

　ちっとも残念そうではない声でピエロは告げる。そもそも感情の籠っていない、平坦な言葉だ。
　そしてすぐ、ローが軽く身をよろけさせた。

「トラ男ッ！？」
「っ、なんだ、急に消えッ――」

　ガコンッ！
　一際大きな音が頭上から響いたと思った瞬間、チョッパーとローの上に何かが降り注ぐ。
　冷たく、潮の香りを纏ったそれは、悪魔の実に侵されたチョッパーの本能が嫌悪する――海水だった。

「ガボッ！？　ゲボボッ……！？」

　一度に大量の海水を受けた衝撃でチョッパーはローの肩から弾き飛ばされた。
　海水は口や目、耳にも容赦なく入り込んでくる。吐き出す暇もなかった。

「トニー屋ッ……ぐ、ぅッ……！？」

　ローのほうも水圧に耐え切れなかったのか、離れた場所から声が聞こえた。
　水の勢いは止むことなく、絶えず降り注ぐ。チョッパーの小さな体はあっという間に床に足がつかなくなった。

（い、いき、できな……ッ）

[123 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 18:43:31]

まさか…白い痣が…？

[124 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 18:43:42]

　海に嫌われた悪魔の実の能力者は浮くこともできない。体からも力が抜けて、能力もうまく扱えないのだ。
　ローは何処だと手足を動かすが、そんなものいたずらに海水をかき混ぜるだけだった。
　水流に身を任せるだけとなったチョッパーは閉じそうになる瞳を必死に開け、あるものに気づく。

（な、に……だれか、き……た……）

　ローではない。彼もまた泳げないのだから。
　いつしか淡い照明が灯されていたらしい。その灯りの中、やっと見えた姿は人間ではなかった。

（魚……人……？）

　ふたりはいただろうか。水の中を難なく泳ぐ姿は魚人島でよく見たものだ。
　その魚人は水かきのある手でチョッパーを掴む。
　顔はよくわからないが、ジンベエではないことだけは確かだった。
　そしてチョッパーの体に石の――おそらく海楼石の――鎖が巻きつけられる。

（あ、もう、だめだ）

　息が続かない。頬に溜め込んでいた空気を全て吐き出し、虚脱感に全て身を任せる。
　そうしてチョッパーは何とか保っていた意識すら手放して、暗闇に落ちていった。

[125 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 18:47:53]

ロー！チョッパー！
くそぉ…ジンベエ親分が一緒にいたらなぁ！

[126 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 18:50:14]

街のはずれ⇒『？？？』

【現在進行できません】

・チョッパー

・ロー

1：街の中

・ルフィ

・ナミ

・ウソップ

・ロビン

・サンジ

・ブルック

・ペンギン

・シャチ

・ベポ

・数名のハートの海賊団船員

2：サニー号の見張り

・フランキー

・ゾロ

・ジンベエ

★次の進行場所

dice1d2=1 (1)

[127 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 19:22:21]

すごく面白い……

[128 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 19:33:20]

めっちゃ面白い
しかし突っ走っちゃってローの馬鹿野郎〜！
海中戦特化の仲間たちがいるってのに能力者二人で突入するな


しかし親父さんの形見が手に入る展開だけは良かったな
ペンギンとかシャチなんかも海に飲み込まれた父母の形見が
見つかったらさぞ

[129 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 19:55:26]

ピエロ、やっぱ量産型っぽい？トラ男の反応的に珀鉛病の症状が出てたのか、人の体じゃなかったのか、って感じかなぁ...悪趣味野郎の関係者に対する反応だから後者のほうが汗滲ませてた理由的には自然？
ロー、チョッパーは王国側に捕まっちゃたかな。たぶん魚人の一人は副隊長さんだと思うけど、これは流石に逃がしてはくれないと思う...事に突っ込んじゃってるし...。
医者組二人は捕まえたって探索組に刃向けながら報告はしてくれるかもしれない

いやしかしお話めちゃくちゃ面白いです、ありがとうスレ主さん！！

[130 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 20:24:24]

んあ〜続きが気になる…‼︎
いやでも医者2人が捕まったのめちゃくちゃやばいのでは？
もしこの街で珀鉛病を引き起こす原因または国産の果物による何か害のある現象なんかが起こったり、はたまた街を探索中の誰かが大怪我負うような展開が来たら一気に状況が悪化するんだが…⁉︎

[131 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 20:51:49]

街中/視点チェンジ
⇒麦わらの一味（サンジ）

　祭り二日目の街は昨日の騒動を忘れ、改めて活気に溢れていた。
　楽しげに歩く住民や観光客に紛れながらサンジは煙草を吸う。

（……マリモ野郎のことがどうなってるかと思えば）

　街中で見かけた掲示板には国民に向けて告知がなされていた。
　内容は『昨日の不審者は国外に逃走した』といったものだ。
　現在その不審者――ゾロは島の陰に停めたサニー号で昼寝中である。
　一応間違いではないが、真実を知っている身としては微妙な気分にさせられた。

「おーい！　サンジーッ！　なにしてんだよーっ！　行っちまうぞー？」
「でけぇ声を出すなッ！！　テメェは静かにすることもできねェのか！？」
「ヨホホ、サンジさんも声が大きいですよ」

　少し離れた場所にいたルフィたちの輪に戻り、大きな溜息をついた。

[132 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 20:53:10]

　サンジたちは今、白いツナギに身を包んでいた。
　『麦わらの一味』は昨日の騒動で目立つ行動は避けたい。
　そうなると変装が必須になるのだが、あいにくすぐに手に入る服がなかったのだ。
　だから一緒に行動するハートの海賊団にナミが目を付けた。
　自分たち麦わらの一味が見つかって問題を起こされたらそちらも困るだろうという若干の脅しもして、予備のツナギを貸して貰ったというわけだ。
　交渉時、ローの顔が若干引き攣っていたが、こちらの船長であるルフィは着慣れぬ服を楽しんでいたので見ないふりをしておいた。
　そのツナギに合わせて適当な帽子も被っておけば、一味もだいたいの個性が失われる。
　住民もそこまで注意を払ってこないところを見るに、変装作戦は成功しているようだ。

「うわー、このメンバーって事件が起きる気しかしない」

　だが、ペンギンが半ば笑って諦めたように言う。

「やめろ。縁起でもねェことを言うな……！」

　ルフィとジンベエは警備隊の副隊長と直接顔を合わせたため、本来であればふたりとも置いていきたかったのだ。
　ジンベエは船の見張りも必要だろうと笑って承諾してくれたが、ルフィは駄目だった。
　「トラ男も動くのにおれが船にいるなんてできねェだろ」と言われたらそれまでなのだが。

「ったくよー、おれらはキャプテンのほうついて行きたかったんだけど」
「……仕方ねェだろ。その花畑とやら調べたらすぐに街に来るって言ってたんだし。
ほんと……いつも勝手なんだから、あの人は」

　ぶー、と頬を膨らませるシャチにペンギンも若干の苦々しさを含ませて返した。
　その後ろではベポや他のハートの海賊団の船員も困った顔で頷いている。

[133 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 20:53:41]

「そっちも大変ね……。ま、ひとまず合流するまで各自で情報収集しましょ！」
「ナミすぁ～んっ！　一緒に行動を……」

　この大人数だ。個別に動くことになることを察知し、サンジはナミの前で跪くようにして両手を広げた。
　しかし、彼女は明るい笑顔をサンジに向けて言う。

「サンジ君、ルフィのことよろしくね！　私はロビンたちと一緒に行くけど、頼りにしてる！」
「――お任せくださいッ！　このサンジ！　ナミさんのためなら火の中海の中！」

　耳から脳に直接届く命令にサンジは大きく頷いた。
　麗しの存在からの言葉なのだ。受ける以外の選択肢がなかった。

「なあ、あいつちょろいって言われない？」
「あれがサンジの良いところよ。素直でかわいいじゃない」
「あ、はい」

　サンジの後ろではペンギンがこそこそとロビンに話しかけていたが、今のサンジの耳にはちょうど入り込んでこなかった。
　そうこうしている内にナミがさくさくと行動班を分けていく。

[134 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 20:54:31]

「――じゃ、これでいいわね！　お昼になったら一度、お城の近くにある酒場に集合しましょ」
「チョッパーには弁当も持たせたし、遅くても昼過ぎにはあいつらも戻ってくるだろ」
「そこだけ聞くとピクニックだな……」

　組み分けとしてはこうだ。
　サンジ、ルフィ、ウソップ、ベポ。ナミ、ロビン、ブルック、ペンギン。そしてシャチを筆頭としたハートの海賊団の船員たちの三組だ。
　サンジたちの組にハートの海賊団であるベポたちが混じっているのは、合流時の情報共有をスムーズに行うためである。

「くぅッ……！　ナミさんとロビンちゃんと別行動になるなんてな……しかし、漢サンジ！
ナミさんの言いつけは守りますッ！！　おい野郎共ッ、余計な行動したらぶちのめすからなァっ！！」
「街中で燃えるな燃えるな」
「えぇ……？　なんで燃えてるの……？」
「おー、なんかサンジは燃えるんだよァ！」

　外野がうるさいが気にしない。
　女性成分がゼロの班でも、心にナミの微笑みがあればサンジは立ち続けることができるのだ。
　気づけば、サンジたちの班以外は各地に散っていた。

[135 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 20:54:57]

「じゃあ何処から調べる？　ブルックたちは例の施設跡地、ハートの連中は城の周辺で情報集めだったか」

「ウソップー、まだ行ったことのない場所って何処だー？」

「ん？　ああ、そうだな……」

　サンジたちは近くのベンチに地図を広げ、皆で覗き込んだ。

　その中心になったウソップはペンを握り、色々と書き込んでいく。

　軽く纏め終わったのだろう。ウソップが地図から顔を上げた。

1：「この果樹園のあたりはどうだ？」

2：「人の多い場所なら公園か？」

3：「そういや、その工場とかっていうのは何処にあるんだ？」

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[136 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 21:31:44]

「この果樹園のあたりはどうだ？」

　そう言ってウソップが地図の一か所を指さした。それは商店街からさらに先の、少し開けた土地にあるらしい。

「果樹園！？　フルーツ食えるのか！？」
「おー、そういや昨日商店街の八百屋で言ってたな。
時期によってはフルーツ狩りっていって、時間内に自分で採ったフルーツを食っていいイベントがあるとかなんとか」
「よーし！！　行こうッ！！」
「フルーツ狩りに行くんじゃねェよ！？」

　ウソップがルフィの頭にチョップをくらわした。
　そもそもルフィほどの大食らいならばこちらから遠慮したほうが良いだろう。
　肉が好物とはいえ、基本的になんでも大量に食べる男だ。
　果樹園内のフルーツを食らいつくして出禁になりかねない。ここはしっかりと手綱を握っておく必要がある。

「行くぞ、野郎共。調査開始だ……！」
『お～っ！』
「……気が抜けるな」

　がくりと首を落としながらも、サンジはルフィたちを連れて果樹園に向けて歩き出したのだった。

[137 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 21:33:05]

　――《ブックパラダイス》の果樹園は予想以上に広かった。

　果物ごとに区分けされ、それぞれを請け負っている農家が近くに家を建てているらしい。

　祭りをしている街中から離れた場所ということもあり、人気も少なく、静けさに満ちていた。

「ンマホーッ！　サンジ、見てみろよ！　このイチゴすげェつやつやしてるぞ！」

「この馬鹿野郎がッ！　ビニールハウスに張り付くんじゃねェよ！　中にいる奴が驚いてんじゃねェか！！」

　ルフィの首根っこを引っ掴んで剥がす。別行動を始めて早々に問題を起こすわけにはいかない。

　食欲魔人をこの果樹園に連れてきたのは間違いだったのだろうか、と既に後悔が漂い始めていた。

「まあとにかく色々話を聞いてみようぜ。

この果物って天竜人に卸してる商品の材料でもあるんだろ？　そこら辺のこともわかるかもしれねェし」

「だな。……いやしかし、本当にいい色してやがる。

まるでナミさんの唇みたいだ。ケーキに使ったらさぞ美味いだろうな……」

「……おれ、この班でやっていけるかな」

「すまん、本当にすまん」

　ウソップがベポの背中をぽんと撫でた。

　ひとまず近くの農家に買い物と称して世間話のように話しかけてみる、という方向に定まる。

　サンジは果樹園をぐるりと見渡し、そこで目についた人物に近づいた。

1：顔を青くしている少女

2：美しい女性

3：草むしりをしている老婆

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[138 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 22:04:30]

　サンジは近くで草むしりしている老婆の傍らに膝をつき、問い掛けた。

「失礼、マダム。少しお時間よろしいでしょうか」
「んん？　……あらやだ、お兄さんどうしたのかしら」

　顔を上げた老婆はサンジを見てはにかんで応えた。
　笑うとえくぼができる、愛嬌のある女性だ。

「実はこの街で採れるフルーツの評判を聞いて訪れたのですが、他にも噂を聞きまして……。
なにやらフルーツを使った特別なお酒があるとか」
「特別なお酒……？　ああ、きっとあれのことね」

　サンジの言葉に思い当たることがあったのだろう。
　彼女はにこにこしながら言った。

「この国で採れるフルーツで作った甘いお酒があるのよ。
でも残念。よその人どころか、私たちも飲んだことがないの」
「飲んだことがない……？」

　首を傾げていれば彼女は大きく頷いた。

[139 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 22:06:29]

「ダメなのよ……。天竜人に渡すお酒だから、私たち民衆は飲んではいけないんですって。
だから工場で作ってる人たちもとても気を遣うらしくてね。
うちも息子が工場で働いてるんだけど、衛生面がホント厳しいのなんのって……」

　彼女の言葉にサンジは思い出す。城に忍び込んだブルックが言っていた。
　確か、警備兵だけでなく工場員も『防護服』を着て作業をしているのだとか。

「それは確かに残念だ。美味い酒があれば料理もさらに美味くなりますからね」
「そうなのよね。でも、民衆向けのお酒も売ってるから良ければ酒場で買ってちょうだい。
……あ、興味があるからって特別なお酒は盗んだらダメよ？
警備隊が飛んできて、とんでもないことになるんだから」
「まさか、そんなことしませんよ」

　老婆と軽く挨拶を済ませ、サンジは頭を掻く。

（天竜人の酒を盗んだら……まあ、とんでもないことにはなるわな）

[140 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 22:07:03]

　ただ、サンジの仲間たちがそれよりもやばいことを過去にやらかしている。

　天竜人を殴ったり、尻の下に敷いたり、今の老婆が聞けば卒倒して腰を抜かしていたことだろう。

（しかし、一滴も飲んじゃいけねェってことか？　特別感を出すためになんだろうが……）

　ひとまず街に戻った時に勧められた酒を買ってみようと考える。

　そこでサンジはまた周りを見渡した。ウソップたちも誰かしらに声を掛けているようだ。

　今のところたいした情報も得られそうにないが、サンジももうひとりくらいに話を聞こうと歩き出す。

1：ルフィが少女と一緒にいるのが見えた

2：美しい女性が果樹園をうろうろとしているのが見えた

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[141 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 22:07:48]

防護服着てる意味が今ならわかるな
珀鉛を吸い込まないためか…

[142 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 23:32:24]

　ふと、果樹園の中を歩く美しい女性の姿が目に飛び込んできた。
　その女性は長い金髪をハーフアップにして素朴な木彫りの髪留めで留めている。
　白い肌には染みひとつなく、瞳はピンクがかった赤色をしていた。
　身に纏っているシンプルなワインレッドのワンピースも、その姿に良く似合っていて可愛らしい。

（な、なんとビューティフォー……！）

　目がハートになるのもやむなしだ。周囲のものすべてがぼやけ、その女性しか目に入らなくなる。
　もちろんサンジの足は自然と女性のもとへ向かっていた。

「――お嬢さん、おひとりですか？」
「はい？　わ、私、ですか？」

　恭しく声を掛けると女性は振り向き、その澄んだ瞳をぱちくりとさせた。
　その初心な反応すらサンジの胸をときめかせる。

「ええっ……！　ここで出会ったのも何かの運命！
何かお困りごとでもあればこのサンジに、なんなりとお申し付けくださいッ！」
「え、えーっ……？」

[143 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 23:33:25]

　女性はおろおろとしてサンジを見つめた。
　頬を赤らめている姿はまるで林檎の精のようだと胸が高鳴る。
　しかしそこで背後がにわかに騒がしくなった。

「――よし、行けクマッ！」
「ベポだよッ！　あとこれ命令されてするわけじゃないからなッ！」
「ん？　――ブフォッ！？」

　聞いたことのある声にサンジが振り向いた瞬間――頬を蹴り上げられる。
　柔らかな土を抉りながら吹き飛んだ。
　サンジを蹴り上げた張本人であるベポは、ビシッと両手を上げた状態でその場に降り立った。

「調査中にナンパしてんなッ！」
「テメッ……！　この、クソシロクマがァッ……！」
「いや、今のどー考えてもお前が悪い」

　いつの間にか近くにしゃがみ込んでいたウソップからもチョップを食らう。

（っ、まずい……！　こんなところを見たら先ほどの女性が怖がって……！）

[144 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 23:34:45]

　慌てて体を起こすが、女性はサンジのことなど見ていなかった。
　不思議そうな顔をしてベポのことを眺め、その周りをうろうろとしている。

「すごい……喋るクマさん、初めて見ました……！」
「クマじゃないよ。おれはミンク族のベポっていうの」
「ミンク族……？　あ、本で読んだことがあります！　みなさん動物の姿をしている方たちだとか……！
わぁ、本物なんですね！？　あ、あの、ベポさん、握手させて頂いても……！？」

　目をキラキラとさせて、彼女は興奮気味にベポと話している。
　サンジは思わずウソップを見るが、彼は温い笑みを浮かべてサンジの肩を優しく叩く。

「――可愛い動物には勝てんよ、サンジ君」
「クッソォォォォォォ……！！」
「血の涙流すほど悔しいのかよ……」

　悔しいに決まっている。
　毛が全身に生えてふわふわしているだけで無条件に女性の柔らかな手の平を感じ取れるのだ。
　悔しさと妬ましさから泣いている間にも、女性とベポは会話が盛り上がっているようだった。

[145 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 23:36:25]

「え、ベポさんは北の海から来たのですか？」
「故郷は違うけどね。色々あって暫く北の海にいたんだー」
「じゃ、じゃあご存知ですか……！？　――『海の戦士ソラ』！」

　聞き覚えのある本のタイトルにサンジは顔を上げた。
　サンジにとって色んな思い出を掘り返す作品である。
　なにせ、自分の実家がモデルの悪者が出てくる勧善懲悪の物語なのだから。
　根強い人気を誇り、今まで出会ってきた海賊の中にも重度のファンがいたことすらもはや懐かしい。
　あのローでさえ厄介な執着を持って作品のことを語るのだから不思議なものだ。
　女性もその作品のファンなのだろう。嬉しそうに色々と話していた。

「おれのキャプテンもその話好きだよ」
「キャプテン？　船で旅でもなさっているんですか？」
「うん！　おれはねー」
「こ、こらこらこらこらっ！」

　おそらく「海賊だよっ！」と言おうとしていたベポの口をウソップが慌てて塞いだ。
　横から急に出てきた彼に女性が目を丸くさせる。

「俺たち、た、探検家なんだ！　それでこの国にたまたま寄ってて！　なあ！」
「う、うん」
「まあ、そうだったんですね！　ふふ……ここ、とっても良い国ですよね」

[146 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 23:37:39]

　女性は嬉しそうに言った。その顔を見ていれば、心からこの国を愛してることがわかる。
　サンジは地面に座り込んだまま彼女を見上げ、煙草に火をつけた。

（……こんな綺麗な人だ。あの胸糞悪い契約がもう少し続いていたら、彼女だって危なかっただろうに）

　彼女の歳がいくつなのかはわからないが、十三年前ならおそらく十歳かそのあたりだっただろう。
　被害に遭う前に契約が破棄されたことは不幸中の幸いだ。
　天竜人に引き渡された少年少女たちのことを思えば、それすら悲しい幸運である。

「あ、そうだ！　みなさんは『キッズストリート』には行かれましたか？」
「『キッズストリート』……？　ああ、そういえば仲間が言ってたな。
『海の戦士ソラ』の本が展示してあったとかなんとか。そのことか？」
「そう！　そうなんです！　……あれ、実は私のお友達の本なんです」

　彼女は微笑んで言った。

「故郷から持ってきた、とっても大切な本で……どんな時も励ましてくれたって。
だから自分みたいに子供たちの支えになるようにって『キッズストリート』に寄付したんですよ」
「へえ……なんかいいな。人も群がってて大人気みたいだったって聞いたし、その友達も嬉しいだろうな」
「はい！　私もその子に読ませてもらってファンになっちゃったんです。
ドキドキして、ワクワクして、本当につらいことも悲しいことも忘れさせてくれたから……」

　目を伏せて彼女は白い指を絡めて語る。
　そしてハッ、と気づいたように口元を押さえて顔を赤くした。

[147 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 23:38:41]

「しょ、初対面の人たちに私はなんて……！
ごめんなさい、本の話になるとつい夢中になっちゃって……」
「……恥じらう姿も可憐だッ」
「お前はブレねェな……」

　ふいに彼女は「あ」と声をあげて慌て出した。
　どうしたのかと見ていれば、慌ただしく頭を下げてくる。

「もう時間になってしまいました……！　ごめんなさい、とっても楽しかったです！
あ、あの、ベポさん！　最後にもう一度握手しても……！？」
「え、いいよ」

　よほどミンク族のベポが気に入ったのか、彼女は感無量といった様子で彼の手を握る。
　悔しさにハンカチを噛み千切りそうになったが、ここは我慢だ。
　女性が楽しそうにしているところに水を差すわけにはいかない。

「あ、そういえば『海の戦士ソラ』は誰が好きなの？　やっぱりソラ？」
「え？」

　ベポの唐突な質問に女性は目を丸くさせる。

「おれのキャプテンはソラが好きなんだ。……色々話し出すとよくわかんなくなるんだけどさ」
「……そう、ですね」

[148 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 23:39:26]

　彼女はベポから視線を逸らし、少し顔を伏せる。
　しかし、もう一度顔を上げた時には笑みを浮かべていた。

「実は、ジェルマが好きなんです」
「そうなの？　あれ？　だってさっき……」

　ベポの疑問に彼女は首を振る。

「だって――現実にはソラみたいなヒーローは現れてくれませんから。
だから自分たちのためだけに戦う悪……そちらのほうが、なんだか、しっくりきてしまって」

　「キャプテンさんとはお話が合わないかもしれませんね」なんて彼女はこぼした。
　そしてベポの手を優しく外し、身を翻して離れていく。少しだけ振り向いた彼女は白い手を振って言った。

「では、もう会うこともないかもしれませんが……楽しかったです。さようなら」

　遠く、小さくなっていく女性の姿を眺めながらサンジはぼんやりした。
　そんなサンジの背をウソップがつつく。

「……良かったじゃねえか」
「…………だ」
「ん？」

[149 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 23:40:31]

　ずるずると力を抜いて地面に上半身を擦りつけ、サンジは唸った。

「おれは……ジェルマが大ッ嫌いだ……ッ！　
だが、今のおれの心は……彼女の言葉に少なからず喜んじまっている……！！」
「難儀だな……」
「なにしてんの？」

　ベポが首を傾げているが、構っている暇などない。
　うう、と涙を流したサンジはそこでやっと気づいた。
　すぐさま振り向き、ウソップとベポの顔を見て数を数える。いち、に。
　ふたりだ。どう考えてもひとり足りない。

「……お、おい、ルフィは？」
「あ？　ルフィ？　ルフィならさっきあそこで……」

　そう言ってウソップが果樹園の中を指さそうとした時だ。
　サンジたちの目の前に何かがすごい速度で飛んできて、近くにあった木の柵を破壊しながら転がっていった。

「――は？」

　ぎ、ぎ、ぎ、と油切れの機械のように首を動かし、地面に転がった物を見た。
　それは一瞬で起き上がると、麦わら帽子をかぶり直して叫んだ。

[150 二次元好きの匿名さん 23/01/15(日) 23:54:55]

この女性…故郷はこの国じゃないのか
海の戦士ソラを薦めてくれた友達…上品そうな喋り方…
いや勘繰りすぎだな

[151 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/15(日) 23:55:51]

「お前ら――逃げるぞッ！！」

　その男は何処からどう見てもサンジたちの船長――ルフィである。
　白いツナギは泥だらけの無残なことになっていた。
　もうひとつ気になることがあるとすれば、脇にワインボトルを一本抱えていることだろうか。

「はッ！？」
「ちょ、ちょ、ちょっとルフィ君！？　いったい何をしたって言うんだね！？　逃げる！？　何から！？」

　混乱したウソップがめちゃくちゃな言葉で話しかけるが、ルフィの返答は簡潔だ。
　「ん！」と言って彼が指さした先には白い鎧を着た兵士たちがいた。どう見てもこの国の警備隊だ。完全に彼らの足取りはこちらに向かっている。
　サンジもウソップもベポも服の袖で目をゴシゴシ擦ってからもう一度目を開き、変わらぬ光景に現実であることを確認した。
　そして同時に知るのだ。
　目を離したほんの少しの間にとんでもないことになっている、と。

『バッ、馬鹿野郎――――ッ！！』

　後ろから警備兵たちの鎧の擦れる音や、追いかける声が聞こえてくる。
　もはや逃げる以外の選択肢がない。どう考えても仲間認定されている。
　既に走り出しているルフィを追う形で三人は走り出した。

（ナミさん、ロビンちゃん、ごめん……ッ！！）

　心の中で愛する女性に詫びる。できれば彼らだけでも無事であれ――そう願って、走る脚に力を込めた。
　それはそうとルフィはあとで蹴り倒す。そう決意して。

[152 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 00:01:16]

ホントにお酒かなぁ...ワインボトルに入った別の何かじゃないの？珀鉛あるの確定しちゃったからそれ関係の可能性もあるけどそれが液体物なら別物だと思う(珀鉛の液体物が乳液とかしか思いつかない、わからん)。国の人が献上するお酒そのもの自体を見たこともないなら珀鉛加工物の可能性大かな。

思いっきり関係ないが工場・果樹園でSMILEがよぎっちゃったよ、それこそ天竜人どう使うの...

[153 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 00:02:58]

ルフィは何をしたんだ...職質かなんかで名乗ったり...しちゃった？それとも安定のトラブルか？

[154 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 00:04:40]

（サンジのセリフ書いてて「心がふたつある〜」がよぎったことをここに懺悔します）

[155 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 06:03:50]

>>154

わかる

[156 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 07:12:55]

>>146

（ちょっとわかりづらかったかなと思って一応付け足しです。すみません）

「（その子が）故郷から持ってきた、とっても大切な本で……どんな時も励ましてくれたって。

だから（その子が）自分みたいに子供たちの支えになるようにって『キッズストリート』に寄付したんですよ」

[157 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 07:23:23]

街中/視点チェンジ

⇒麦わらの一味（ウソップ）

　ウソップたちは今、街の中をめちゃくちゃに走り回っていた。

　その勢いに驚いた人たちが道をすぐ譲ってくれったり、軽くぶつかったりして謝りながらひたすら身を隠す場所を捜し続ける。

「テメェ！！　本当になにやらかしやがったんだッ！？」

「ちょっとな！　サンジ、どっか隠れる場所ねェの？」

「誰のせいで今こうなってんと思ってんだ、アァッ！？」

「言い争ってる場合かお前ら～ッ！！」

　警備兵は随分引き離したとはいえ、騒がしさは消えていない。

　きっといまだにウソップたちを捜していることだろう。

（この街は広いッ……！　おれたちくらいなら隠れられる場所が必ずあるはずだ……！）

　走りながらも必死に思考を巡らせる。

　このままではナミたちに合流もできやしない。合流したらしたで酷く怒られるのも目に見えている。

　憂鬱な気分に溜息を吐き出したくなった。

1：（……うん？　そういえば……）

2：「……おい、ウソップ」

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[158 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 08:14:59]

（……うん？　そういえば……）

　考えを巡らせている内に昨日の記憶が思い出された。
　それはあの古本屋の店主の言葉だ。

（地図には……載って無かったよな……？）

　行動する前に確認した地図にはそれらしき物は見当たらなかったはずだ。
　ウソップは眉間にしわを寄せて考え抜き――賭けに出ることにした。

「ッお前ら！　ちょっとこっち来い！！」
「ウソップ……！？　おま、そっちは……」
「おう！　『サイエンスストリート』だ！！」

　幸い目当ての場所はそう遠くない。他の三人を抜き、ウソップは先頭に出た。
　そう目指すのは――あの古本屋だ。

[159 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 08:15:20]

「――んァ？　テメェ、昨日の……」

　その店主は今日も店の奥で腕を組んで座り込んでいた。
　ウソップのことを覚えていたらしく、よっこらしょと立ち上がる。

「おいおいウソップ！　こんな時に本屋寄ってる場合じゃねェだろう！」
「なんだ？　ここに何かあんのか？」
「早くしないと来ちゃうよ～！」
「ちょっと黙ってろ！」

　騒がしい三人を宥めてウソップは老人に向き合う。
　そのウソップがあまりに真剣な表情をしているからか、老人もまた、背筋を伸ばしたように顔を引き締めた。
　だからこそウソップは腹を据え、彼に問い掛ける。

[160 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 08:15:37]

「爺さん――『パラダイスストリート』って何処にあるんだ？」
「ッ……テメェ、そりゃあ……」

　息を飲んだ老人は少ししてから、鼻の下を指で擦って笑う。
　そして身を翻し、店の奥に足を運んだ。

「……来な」
「っ、おう！」
「いやいやいやいや待て待て待て待て」

　サンジがウソップの腕をガシッと掴み、顔を近づけてきた。
　ちょっと鼻息が荒いのは気のせいだと思いたいが、無視するわけにもいかないだろう。

「お、お前、こんな時に何言ってんだ！？　というか、その、お前知ってんのか……！？」
「こんな時だからだろ。警備隊の隙も突けるかも……おい、目のハートが隠しきれてねェよ」

　やはりサンジも存在だけは知っていたようだ。そうでなければこんな反応はしない。

「よくわかんねェけど、爺さんについてけばいいのか？」

　もたもたしているウソップとサンジを置いて、ルフィとベポはさっさと奥に入っていく。
　それを見てサンジは何度か咳払いをして、平静を保とうとしたようだ。
　だが結局は浮かれた様子を隠せず軽やかなステップを踏み、後をついて行く。
　ウソップは一応ストリートの様子を最後に確認し、警備兵の姿がまだ見えないことに胸を撫で下ろした。

[161 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 08:16:23]

　老人のほうはサンジたちを連れ、部屋の一番奥にある壁に近づいていた。
　そして彼は握った拳で壁をゴンゴンッと叩く。
　すぐ壁の向こうから『男は？』と声が響いてくる。老人はひとつ頷き、はっきりとした声で『心に正直であるべし！』と答えた。
　すると、ガコンッ、という何かが外れる音と共に壁だったはずの場所が動く。

「お、おおおおっ……！？」

　開かれた壁の向こうにはもうひとつのストリートがあった。
　やけに鮮やかなピンク色の装飾が目立ち、男の姿しか見えない。
　ウソップたちは壁から抜け出してストリートに足を降ろし、辺りを見渡す。
　頭上には大きく『パラダイスストリート』という看板が掲げられていた。

「じ、爺さん！　ここは地図に載ってなかった、よな？」

　念のため確認しておこうと問い掛ければ、店主の老人は大きく頷く。

[162 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 08:16:52]

「ここはなァ、ガキどもが迷い込まねえよに囲われてんのさ。見ろ、空がないだろ。
連なってる店と店の裏の通路に屋根つけて壁で覆い、外からじゃ入れねェし見えねェようにしてある。
ここに来たけりゃおれらに声を掛けなきゃなんねェ紳士の秘密の聖域ってことさ」
「そうか……！　ありがとな！」
「おう、帰る時は壁を叩いてくれや」

　くるりと背を向けて、老人が店に戻ろうとする。
　再び彼の背に礼を言ってから、ふとウソップは思い出した。

「あ、爺さん！　悪い、ひとつ訊いてもいいか？」
「んァ？」

　老人の顔を見て思い出したのはチョッパーだった。
　彼が昨日、この老人の店で買った本がどうやら非常に貴重な物であることを気にしていたのだ。
　ローがあれだけ取り乱していたのだ、それは確かなのだろう。

「ほら、昨日うちのチョッパーに本をくれたろ？　えーと……古い論文のほうだ」
「ん……おお、あれか。どうした」
「いや、スゲェ貴重なもんだって知り合いから聞いてさ。
あの本、手に入れるのも大変だったんじゃねェか？　なのにあんなあっさり貰っちまってさ……」

[163 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 08:17:35]

　ウソップの言葉に老人は目を瞬かせてから、肩を竦めた。

「いいんだよ。おれだって引き取ったもんだ。必要としてる奴の手に渡るのが古本としても本望だろうよ」
「引き取った？　ああ、そうか、古本だもんな」
「そうだ。それにあの本は……確か、誰だったか……ほれ、あの……」

　何かを思い出そうとしてか、老人は人差し指で宙をくるくると掻き回した。
　そして閃いたようにして「ああ」と声を上げる。

「警備隊の副隊長さんが持ってきたんだよ。大切にしてくれそうな奴に売ってくれって」
「へ？」
「あん時はあの人もこの国に来たばっかでまだ副隊長じゃなかったが。
うん、そうそう、あの人は本の価値やジャンルをよくわかってなくてな」

　思い出し笑いなのか、老人はクツクツと喉を鳴らした。

「ほらよ、北の海で人気の本があるだろ。『海ソラ』とかいうやつ。
あれの初版のサイン入りの本も一緒に持っててよ。……知ってるか？　あれは北の海でも数冊しか出回ってねェ超プレミアもんだ。
普通、持ってる奴は絶対に手放さないからな。むしろ手放す奴がいるのかって驚いたよ。
まァ、副隊長さんも頼まれもんだったのかそんなこと知らなかったみてェだが。
で、どうすりゃ良いのかって相談されたから『キッズストリート』に行けって言ってやったんだ」

　「あそこなら大切にしてくれるからな」と頷いた。
　一通り思い出してすっきりしたのか、老人の顔は晴れやかだった。

[164 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 12:42:57]

　そうして彼は店に戻って行く。
　老いた背中を眺めていたウソップは首を傾げた。
　その疑問はサンジにも伝わったらしく、彼もまた首を傾げた。

「……それってさっきのレディが話していたやつ、だよな？」
「だよな？　あれ？　警備隊の副隊長って確かルフィとジンベエが会った……」
「ん？　あの魚人のおっさんか？」

　すでにルフィは近くにあったベンチに腰掛けていた。
　彼は持っていたワインボトルを抱え直して目を瞬かせる。

「魚人のおっさんがどうかしたか？」
「いや……おっさん、そうか、おっさんか……。おっさん……？」
「レディのお友達……？　しかし、ソラの本のことわかってねェなら別にレディの友達がいて？
ん……？　最初は売ろうとしたのか……？」
「お前ら何ぶつぶつ言ってんだ」

[165 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 12:44:30]

　不可解だ、といった顔をするルフィにウソップは頭を振った。
　今は余計なことを考えている場合ではない。
　やっと少し落ち着ける場所――周囲に並ぶ本のラインナップはまったく落ち着かないが――に辿り着いたのだ。
　後ろでベポが「シャチたちの持ってる本がいっぱい置いてある〜」と言っているのもひとまず無視をする。
　それよりもまず、確認することがあった。

「おいルフィ、騒ぎ起こすなって言ったのに何やったんだよ！」
　
　そう、この騒動の発端である。
　ルフィはウソップの言葉に手にしたワインボトルを掲げた。

「おう、おれが酒盗んだ！」
「は？」
「ことになってる！」

　彼はニッといつも通り笑った。

[166 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 12:45:14]

　全くもって意味がわからない。
　だが、サンジがそんな彼の頬を思い切り鷲掴み、ギリギリと引き伸ばした。

「おいクソゴムゥ……おれたちにもよ〜くわかるように話してくんねェか？　ん？」
「ひゃんじ、ひゃんじ、ほれひゃひゃべれぬぇ」

　頬を伸ばされた状態でルフィがもにょもにょと喋る。サンジが手を離せば、バチンッ！　と良い音がした。

「なんかよ、さっきの果樹園で泣いてる子供がいてさ。
腹でもいてぇのかって声かけたら、父ちゃんの酒隠しに来たって言うんだよ」
「んんん？　よく話が見えねェんだが」
「おれも、なんでだ？　って言ったんだよ。
そしたら酒好きの父ちゃんがどうしても我慢できなくなって、天竜人の酒こっそり一本盗んじまったんだって」

[167 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 12:47:04]

　ウソップたちは絶句した。
　この国で天竜人の酒と呼ぶ物であれば、ロビンたちの話していた『特別な商品』に違いない。それは天井金と同じ意味合いを持つ。
　つまり天竜人の金を盗んだということだ。
　命知らずの海賊ならまだしも、一般市民がやらかすのは聞いたこともない。

「そそそそそそれはヤベェんじゃねェのか……！？
その親父さん下手すると殺されちまうぞ！？」
「金よりも酒に目が眩むのはヤベェな。よっぽどの酒好きっつうか……狂ってんだろ」
「……あれ？　じゃあ麦わらが持ってるそのボトルってもしかして」

　ベポの言葉にウソップとサンジはルフィの持つボトルを見た。まだラベルも何も貼られていない、艶やかなガラス瓶だ。
　ルフィは当たり前のようにそれを掲げて言う。

「おう！　だからおれがその子供から盗んできた！
なんかもう酒探して警備のおっさんたちが来てたみてェだしよ。
海賊は盗むもんだしな。ししししッ！」
「……ル、ルフィ〜、お前な〜ッ……！」

[168 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 12:48:12]

　つまり子供と、そのやらかした父親の代わりになったのだ。
　妙なところで思い切りの良いことをやるのが、この船長だったと思い出す。
　そんな話を聞いて終えばウソップもこれ以上は何も言えなかった。
　サンジも呆れた様子で頭を掻いた。ただ、その呆れにはわずかな笑みが含まれている。

「たくっ……どうすんだよ。もうおれたち完全に追われちまうぞ。
……まあ、別に終わったことだからいいけどよ」

　彼はルフィの隣に腰掛けると手を差し出した。

「ん？」
「盗っちまったもんは仕方ねぇ。実はちょっと味に興味あったんだ」
「ここで飲むのか？」
「飲むかよ。味見だけだ」

　ルフィからボトルを受け取ったサンジは、器具もなくあっさりとコルクを引き抜いた。

[169 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 12:50:08]

　同時に香り出すのは芳醇な甘い香りだ。
　そこまで酒に詳しくもないウソップでも良い匂いだと感じるものだった。
　サンジなど口元を緩めて感心している。
　彼はボトルを軽く傾けると指先を少しだけ濡らした。

「ちと行儀が悪いが……」

　指についた酒を口に運び、やや間を開けて目を見開いた。

「こりゃ驚いた」
「え、ど、どうなんだよ！？」
「おう、確かに甘ェが、角がなくてまろやかだ。鼻から抜ける果物の香りも良い。
この甘さは……すこぶる質の良い人工甘味料使ってんな。素材の味を殺さずに甘さを高めてやがる。
なるほど、最高級品というだけはあるな。これでフルーツ煮たらクソ美味ェぞ」

　良いもんが手に入ったとサンジは顔を綻ばせていた。彼の頭の中には、すでにナミたちにふるまうデザートでも浮かんでいるのだろう。

[171 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 13:09:03]

海ソラ初版
レディの友達→副隊長さん（魚人）→古本屋→キッズストリート
論文
？？→副隊長さん→古本屋

ってことかな？続き楽しみ

[172 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 13:35:24]

人工甘味料って…
今までの描写からすると珀鉛を使ってるとしか思えないんだが

[173 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 14:54:16]

人工甘味料･･･古代ローマ･･･ｳｯ頭が

[174 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 20:34:17]

「はいはいはい！　おれたちも食いたいです！」

「おれも！　キャプテンたちの分も作って！！」

「うるせェ野郎ども！！　お前らにもクソ美味ェもん作ってやるから騒ぐな！！」

『ヨッシャ――ッ！！』

　サンジの言葉にルフィやベポとハイタッチをする。とにかく彼の作るものは美味いのだ。

　さらに最高級の材料を使うとなれば食べなければ損だろう。

　気分が盛り上がった勢いに任せ、彼を中心に輪を描いて踊っていれば「クソやかましいわ！」とさらに怒鳴られる。

　そうやって先ほどまで追われていたことすら忘れて、ウソップたちは騒いでいたのだ。

　だから――その影が間近まで迫っていることに気づかなかった。

1：「きみたちずいぶん楽しそうだね」

2：「話が違うじゃねェか、麦わら」

dice1d2=1 (1)

[175 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 20:35:57]

そういや追われてるんだった
2は前日の魚人の人として…一体誰だ？

[176 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 21:26:25]

どっちも魚人さんの可能性あるかな...魚人さんだったら医者組のこといってくれそう、というか助け来ないとあの二人恐らく逃げられない

[177 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 21:31:33]

天竜人に献上してるものに毒性は無いと思うけど万が一ってこともあるのでお酒を唯一口にしてしまったサンジくんに不穏フラグができてしまった気がする

てかお酒持ってるの他者に見られるのはマジでやばいので早く隠して‼︎って気持ちと美味しい料理が食べたくてわちゃわちゃしてるのかわいいの気持ちが脳内で戦っている

[178 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 22:24:12]

「きみたちずいぶん楽しそうだね」

　その声は思っていたよりも近くで聞こえた。
　穏やかな声に釣られ、ウソップは警戒心もなく振り向く。
　視線の先に佇んでいたのは、白い鎧と兜で足の先から頭の上まで覆った人物だった。
　その鎧には見覚えのある紋章が装飾されている。
　一瞬、相手が何なのか理解が遅れた。

「ッ、出た――――！？！？」

　そう、自分たちを追いかけていた、この国の警備兵に違いない。
　危機を感知した瞬間の本能は優秀だ。ウソップは無意識に両手をあげて凄まじい速度でサンジの後ろに隠れた。

「お、おいウソップ……！」
「おれが援護射撃をするから前衛は頼んだぞサンジ君！！」
「そんなのいつものことだろうが！！」

[179 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 22:24:46]

　ワーギャー騒ぐウソップたちに、全身鎧の警備兵は動じることがなかった。
　むしろ楽しげに笑う。

「初対面だというのに嫌われてしまったな。
なに、取って食べやしないさ」

　気づけばルフィもベポも構えている。しかし、相手は腰に提げている剣を抜きもしない。
　まるで世間話をするかのように話しかけてきた。

「昨日はうちの副隊長がお世話になったね。麦わらの……ルフィ君、だったかな」
「おお、そうだッ！　なんだテメェ！」
「いや否定しろよ馬鹿ッ！！」

　どうやらすでに素性が割れているらしい。だがそうだといって肯定して終えば何のための変装だというのか。
　ウソップの言葉にルフィは「あ！！」と大きな声を出した。

「おれは今ルフィじゃねェ！　えーと…………ルーシーだ！」
「もう遅ェよ！！」

[180 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 22:26:11]

　緊張感のないやり取りを見て、全身鎧の警備兵は少し間を開けてから「はは」と楽しげに笑った。

「きみたち本当に凶悪な大海賊なのかい？　愉快な子たちだ。
……いけない、こちらも身分を明かさなければ不平等だったね」

　そんなことを言って彼は穏やかな声で告げる。

「改めて初めまして。私はこの国の警備隊の隊長を務めている者だ。
この度は広い海の中、君たちが我らの国に来てくれた縁を嬉しく思う」
「おう、これはこれはご丁寧に……」
「呑気に挨拶してる場合かァッ――――！！」

　彼――警備隊の隊長がお辞儀をしたのに釣られて頭を下げるルフィにウソップは叫ぶ。
　しかしルフィは顔だけをウソップに向けると、隊長を指さした。

「だって戦う気ねェし、こいつ」
「あ……？　それって……」

[181 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 22:28:43]

　恐らくルフィの見聞色で感じたのだろう。
　ルフィにそんなことを言われたというのに隊長のほうは少しも狼狽えない。

「なるほど、君は人の感情に敏感なんだね。
君の言う通り、私は君たちと戦うつもりはない。
……というよりも偶然見つけてしまったようなものだからね」
「偶然だと？　……おれたちを追ってたわけじゃねェっていうのか？」

　いまだに警戒を解かないサンジの問いに彼は頷く。

「君たち、ここが何処だか忘れてないかな」
『あ』

　彼の指摘に四人で辺りを見渡す。
　わざとらしい派手なネオンにいかがわしい本の並び。あちこちで立ち読みする男たちの目はギラギラと輝いている。
　ここには男たちの欲望が羅列されていた。
　そんな中、不釣り合いなほど真っ白な鎧を着た隊長は肩を竦めて言う。

[182 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 22:30:01]

「恥ずかしい話なんだが、ここのルートの見回りになると部下たちがうっかり本を読み耽ってしまって……。
それだと仕事にならないから私と副隊長でここの見回りを交代でしてるんだ。
そして今日は私の当番だったのだけど……珍しいお客様がいたから思わず声をかけたというわけさ」

　爽やかに告げられ、ウソップは頭を抱えたくなった。もしかしたら良い隠れ場所になると思ったというのにとんだダークホースである。

「お、おれは……この宝の山を前にして何を……！？」
「やめろサンジ！　今はそれどころじゃねェだろうが！！」

　先ほどまではルフィのごたごたや、酒の話に気を取られていたからまだ良かった。
　しかし一度スイッチが入ったら危険だ。ウソップは必死にサンジの腕を掴んで止める。

「はは、君たちも大変だ。
ところで奥に行けば行くほど色々レベルが高くなるから気をつけるんだよ」
「火に油注いでんじゃねェ――――ッ！！」

　『パラダイスストリート』の奥を指差してのほほんと言う隊長にウソップは叫ばざるを得ない。
　そんな情報を与えれば獣が解き放たれてしまう。
　いや、もう遅かった。

[183 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 22:34:29]

「さらにレベルアップするだとォッ！？　こうしちゃいられんッ！！　おれはおれのワンピースを見つけに行くッ！！」
「サンジ――――ッ！！」

　押さえきれなかった獣――サンジがハートを撒き散らしながら『パラダイスストリート』の奥へ消えていく。
　ウソップの伸ばした手は、本能に支配された仲間に届くことはなかった。
　そんな茶番をペボやルフィが静かに眺めている。

「ここって雌のクマいるかなァ」
「いても紙の中だろ。なあ白鎧、ここってクマの本あるのか？」
「ミンク族の本は流石に見たことないな。力になれなくてすまないね」
「んじゃ仕方ねェーな」
「いや、馴染んでんじゃねェよ！！」

　これが追う者と追われる者の姿で良いのか。
　ウソップとしては追い詰められるのは好きではないのでありがたいが、どうにも調子が出ない。
　すると戸惑うウソップの様子に気づいたのか、隊長は背筋を伸ばして気配を切り替えた。

[184 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 23:20:53]

「すまない。君たちがあまりに愉快だからうっかりね。
……じゃあ一応、私も仕事をしようか」
「ッ……！」

　ゆらりと動いた隊長に、ウソップはすぐ弾が撃てるように相棒の武器に手を添えた。
　彼はゆっくりと手を腰の後ろに回し、そこにあった剣を――取らなかった。
　代わりに引き抜かれたのは一本のワインボトルだ。

「え……？」

　ウソップが目を丸くさせていれば、彼はそのワインボトルをルフィに差し出す。

「ルフィ君。君が『盗んでしまった』お酒だけど、これと交換してくれないかな。
それとは違うものだけど、これだってとても美味しいお酒だよ」
「イヤだッ！　おれが盗ったからおれのもんだ！」

　サンジが走って行った際、こぼれないようにさりげなく置いて行ったボトルをルフィは抱える。
　眉を吊り上げて拒否の態度を取るルフィに、隊長は苦笑をこぼした。

[185 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 23:23:18]

「大丈夫。君が盗んだということはわかっている。
……そういうことにするから、それを返してほしい。お願いだ」

　ウソップは息を飲んだ。
　知られている。ルフィが盗んだわけではないということを。

（そ、そりゃそうだよな〜ッ！　おれたち工場の場所すら知らねェんだ……！）

　ルフィは彼を正面から睨みつけるようにして立ったままだ。
　しかし、隊長のほうは少し困ったような様子で顎の部分に手を添えた。

「別にそう警戒しないで欲しいな。
そう……君がその酒を盗んだ。だけど私が取り返した。
……そうなると全部丸く収まるんだ。誰も傷つかないで」

　脅しと呼ぶには彼の声は優しすぎた。きっと本心から思っているのだと感じさせるくらいに。

[186 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 23:38:50]

隊長も副隊長も真っ当すぎて
多少話聞き入れてやってほしくなってきたわ

[187 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 23:39:54]

「……ふーん。じゃあ返す」
「ルフィ……！？」

　たぷんと中身が揺れるボトルをルフィは隊長に差し出した。
　突然渡されたボトルを受け取り、彼は少しだけ動きを止める。だがすぐに自分が持っていたボトルをルフィへ渡した。

「……ありがとう、ルフィ君。
正直こんな素直に渡して貰えるとは思わなかったな」
「おれは酒の味よくわかんねェし、肉のほうが好きだ。
それにその酒じゃなくても、うちのコックは美味ェ飯が作れるから別に良いんだ」

　そう言ってからルフィは笑みを浮かべる。
　顔も見えない兜を被っているはずの隊長が、その下で面食らっているように感じられた。

[188 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 23:42:06]

「……君には良い仲間がいるんだね」
「おう！　自慢の仲間だッ！」

　胸を張って言うルフィに彼は微笑むように返した。

「私にもね、とても大切で自慢の仲間……ううん、家族たちがいるよ。
……お互い、これからも大事にしていこうね」

　彼はルフィから受け取ったボトルを抱えて言った。ルフィはジッと彼を見ているだけだ。
　そんな視線を受けてか、彼は笑うように言った。

「しかし君は強情だな。もう他の島に行ってしまったかと思ったらまだここに留まっているし。
うちの副隊長が知ったら怒ってしまうだろうな」
「ん？　ああ、魚人のおっさんには悪ィけど、おれは自分で行く島を決めんだ。
だからもう《永久指針》はいらねェって言っておいてくれ」
「言われなくてももうあげないよ。
まったく、本当に自由な海賊なんだね、君は」

[189 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 23:44:17]

　彼は困っているのか、笑っているのかよくわからない声音で言った。
　そして、小さな声で告げる。
　
「――あんまり勝手なことをしたら、大切な人たちを失ってしまうかもしれないよ」

　それは年長者としての忠告だったのだろうか。
　もうそこで会話はお終いだとばかりに、彼は踵を返してウソップたちから離れていく。
　ルフィも、もう何も言わない。
　三人は彼の遠くなっていく背中を、ただ静かに眺めていた。

　――が。

「あ、コケた」
「なんもなかったよね、今」
「酒大丈夫か？　お、手ェ振ってる。無事だってよ」
「締まらねェなおいッ！」

　――ウソップたちの午前の活動はそんな緩い空気の中、ゆっくりと閉じられたのだった。

[190 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 23:48:04]

ううん、闇が深いけど微笑ましい……

[191 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/16(月) 23:49:23]

★『パラダイスストリート』の奥を探索した後のサンジの様子

1：「ボワン！　スー……」

2：「ボワン！　スー……」

dice1d2=1 (1)

刺激が　強すぎた　ようだ…

[192 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 23:50:25]

茶番ダイス草

[193 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 23:50:52]

ワイン交換されちゃった...サンジだけが舐めちゃったけど大丈夫かな、というか時系列ってどうなってるんだろ。
医者組のすぐ後なのか、同時進行してるのか。同時ならまだ医者組見つかってなくて情報が回ってないから隊長さんは何も言わなかったのかな

[194 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 23:51:50]

そういえば隊長さんドジっ子だったね

[195 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 23:52:06]

隊長さんドジっ子か〜
身長どのくらいだろ

[196 二次元好きの匿名さん 23/01/16(月) 23:53:41]

こけ方がドテンッて背中からいってたらちょっと疑っちゃうぞ

[197 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/17(火) 00:07:45]

ちょっと早いかもですが次スレです。

3…！？

ちょっと自分でもびっくりしてますがスローペースですみません…のんびりお付き合いください…

【🎲SS・オリキャラ・閲覧注意】麦わらとハートがとある国を解明する（3）｜あにまん掲示板

[198 二次元好きの匿名さん 23/01/17(火) 00:11:19]

>>197

立て乙！

毎回楽しませてもらってるよ

[199 二次元好きの匿名さん 23/01/17(火) 00:11:33]

素晴らしい作品をありがとう

[200 スレ主◆UmOy/gVenc 23/01/17(火) 00:21:49]

こちらこそいつもありがとうございますー！頑張ります！