- 1二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 13:41:15
- 2二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 13:42:18
しんと静まった冷たい夜のことだった。
パソコンの四角い光と内側から漏れ出るカチッカチッという音だけがこの世界で動く全てに思えた。
私は背もたれにへばりつくように椅子に座り輝く画面の中を薄目を開けてずっと眺めてる。そこには青と白で構成された掲示板のとあるスレッドが映っている。誰かが何かを書き込むたび下に継ぎ足されるように彼らの言葉が浮き上がって、押し出された古い言葉は画面の上へと流れ見えなくなっていった。
進みは遅い。
数分に1レスつくかつかないか。こんな時間なのだから人がいないのも当たり前か。
私は彼らの会話に加わるわけでもなく、ただただぼんやりと、緩やかに流れていく言葉のせせらぎを眺めて眺める。
喉を冷えた夜の空気が行き来する。いつの間にか口が開いていて、私は呼吸を口に頼りきりになっていた。一瞬だけ首をもたげた羞恥は肺に吸い込んだ空気に冷やされゆっくりと沈み込んでいく。 - 3二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 13:43:35
この光が照らす範囲は私の空間、私の時間。
だから間抜けにポカンと口を開けていたって何も悪いことなんてない。
私が決めた。それでいい。
言葉の手触りが心地よくて脳裏で何度も繰り返す。私が決めた。それでいい。私が決めた。それでいい。
ニマニマと悦に浸る私の視界の中で、また一つ新しい言葉が浮き上がる。言葉と落書きのような怪獣の絵。やぁ久しぶり、なんてこっそり声をかけておく。本当に久しぶりなのかはあまり自信がないけれど。3日と2時間12分は果たして久しぶりなのか。
けれど、私が決めた。それでいい。
画面の中。流れは直線で、形は明確で、なのにそこに意味を与える言葉の群は断片的で不安定。確かにまとまった方向を与えられているはずなのに言葉に連なりがあるのかどうかも判然としない。それでも川は律儀に流れていく。それが随分と気楽に思える。 - 4二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 13:44:12
画面の右下を見れば随分と時間が過ぎていた。このままでは明日の学校は眠くて仕方ないことになってしまう。きっと2時間目くらいだ。けどその時間は体育だし、走りながら眠れるほどは器用でもないから平気かもしれない。
そういえば、少し前はこの部屋ももう少し音が多かったような気がする。少なくとも秒針が毎秒進む音が夜になるとやけに響いていた気がする。今はもうしない。捨ててしまったから。あれは何がきっかけだったか……そう、確か模試で100点を取った日だった。何人かに褒められて、それで私は時計をこっそり捨てた。
似たようなことは何度もあって今ではこの部屋は以前に比べて随分と静かになったと思う。今こうして口を半開きに息ができるくらいには。
いつのまにか画面の中のせせらぎはのたうっていた。非難や暴言、取りなしの言葉、意味のない言葉、画像。ちろちろと溢れるような流れは随分と活気付いているように見えた。その活気が望まれたことかはわからないけれど。私は悲しくなって、それから少し愉快な気持ちも感じた。ひどいことが愉快に感じられることは自分を矮小に感じさせ、同時に慰めを得ているようにも思えた。 - 5二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 13:44:52
私は引き寄せられるように画面の下、並ぶキーボードへと手を伸ばし、それからぎゅっと拳を握った。拳を握らせたのは怒りだと思う。はっきりとはしない。けれど暴力的な吐息がその時私から漏れ出ていた。それは常日頃、毎日毎秒私が感じている痛みだった。
少し前まで私が忘れていた痛みだった。
私は椅子から立ち上がる。キーボードの代わりにマウスに手を置きブラウザバック。別のスレッドを開く。最初に視界に躍り出てきたのは金髪ツインテの変な女のイラストだった。胸がある。女であっているはずだ。何かを嫌いだと言っている。何が嫌いなのかはよくわからない。私も、何かが嫌いだけれど何が嫌いなのかは自分でもよくわかっていなかった。
「はいクソ決定……」
文字を読み上げる。先ほどの言葉とは違う、心地よい手触りではなく痛いほどの快感が頭の上から足先へと流れていく。前の痛みをかき消すくらいの痛快さ。それもまた慰めだけれど。 - 6二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 13:45:45
いくら眺めてみたところで画面は何も答えない。だから私はパソコンを背に押し入れの中のタンスを開けた。音は立てないようにそっとだ。開けた途端、部屋の温度が数度上がったように感じた。そこはまだ随分とうるさい。シャツをかき分けて私はその下に隠してあった金色のかつらとシャツを引っ張り出す。それはこの部屋で一番うるさい。鮮やかでチープで奇天烈だ。
けれど私が持ち込んだ温度だ。
誰かが私を評価する。誰かが私に番号を振る
、名前をつける。誰かが誰かが私の名前を呼ぶ。
私は押しつけられる私と呼ばれる何かがおぞましく、そのたび何とかそれらを切り外そうと試みた。結果はうまくいったりいかなかったりまちまち。
ただ、そうやって懸命に削ぎ落とそうと繰り返した先に見えたのも、また私と呼んでいいのかわからない簡素な棒人形だった。それは確かに飾り気のない素であったけれど、いつ崩れてもおかしくない酷く頼り気のないものに思えた。素体のままでいられる勇気が今の私にはなかった。
私は私であるために結局は何かを纏わねばならないのだと理解した。けれど人から与えられるものはまっぴらだった。それは刺殺と絞殺のどちらが良いかを選ばさせられるようなものだった。
どっちも死ぬ。
だから私はせめて纏うものを自分で選ぶことにした。出来るだけ分かりやすく、痛烈なものを。それも私ではないのかもしれないけれど。せめて私かもしれない素体が選んだものを。 - 7二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 13:46:42
私は町を走る。夜の町を走る。
人気のない静まった、けれど微かな音に満ちた夜の町を。
髪はいつか伸びたら染める予定だ。それまではかつらで代用する。シャツはプリント部分はネットで注文して、足りない袖や裾は似た色の布で継ぎ足した。家庭科をまじめにこなしていたことを初めてよかったと思った。
大きく口を開いて息をする。
腕は袖を踏まないように常に持ち上げる。
胸元が寒くて痛い。それも清々しい。
裸足は痛くて諦めたのでスニーカーだ。
チグハグな格好で
めががになった素体の私はこの世界を駆ける。ただひとり、私がありたい私。
走って走って、ようやく河原にたどり着いた。本当は町中でやるべきなのだろうけれど素体の私は臆病で、初回はせめて人目のない場所で。
「はいクソ決定!!めがが、それ嫌いムー!!」 - 8二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 13:48:18
ありったけの声で川の向こうへと叫ぶ。楽しい。近所迷惑だろうか。めががはそんなこと考えない。いや、考えるかも。
「はい、クソ、決定ー!!」
息も途切れ途切れにまた叫んで、体の深いところから抑えきれない笑いが込み上げてきた。
「はは、ハハハ!はいクソ、決定!ハハッ、はいクソ決定!!」
笑いながら繰り返す夜の河原。
どうしようもなく楽しくなってまた駆け出す。
腕を上げるのを忘れて袖につまづく。
「ぎゃっ……はは!」
倒れた声がめががでまた笑えてくる。
誰でもない私が選んだめがが。
私はめがが。
「袖?はいクソ決定!!何でこんな長いムー!訳わかんないムー!!」
声を上げてまた走る。擦り切れた膝や血の滲む口の中も関係ない。私はめがが。 - 9二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 13:49:46
「めががはめががムー!」
黒い水面を横に舗装された河原をめががは走る。
素体が纏っためががが走る。
「それ嫌いムー!!」
細い月とまばらな星。朝はまだ遠い。
私が補導されるまであと5分。
この世界でめががは笑う。
完 - 10二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 15:50:01
おつ
- 11二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 16:04:24
単純に読みづらい
あとポエムじみてて何が言いたいのかイマイチわからない - 12二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 20:34:04
読んでくれて感想までありがとう。
この文章は素体ちゃんを「現実世界でめががになりたい高校生」という形で定義してみた時に何を思ってどのタイミングでめががになろうとするかを当人の内面から形にしようとして割と衝動的に書いてみたもの
なので読みづらさとポエミーなのは書き出した時点である程度は意図してた。
だけど、それにしても読みにくいしわけわからないのもその通りなのでもうちょっと文章の校正はしようと思う。
あと素体ちゃんを個人でありつつ特定できない誰かにしたくて具体性をなるべく削ったんだけど、もうちょっとはっきりとした個人にした方がよかったかなとは読み返して自分でも感じた。 - 13二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 00:07:10
最初、素体ちゃんとめががの話か?と勘ぐってしまったあんぽこたんなんだが、見返して素体って呼び捨てだったなと思い返した。
素体ちゃんが衝動的にめががになろうとしてるのがよく伝わったよ。
あとこの世界の素体ちゃんがアニメ漫画ゲームを楽しめる余裕があるようで良かった