『死神』に取り憑かれたトレーナーさん その3【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:29:05
  • 2二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:29:45

    ──自惚れていました。
    どんな怪異からも…守ってあげられると思っていました。結局私は…ただ“見える”だけだったのです。特別な力でも、大したことはなかったのです。
    トレーナーさんを守れなければ、何の意味もありません…。
    運命に抗う術は…私にはありません…。
    いっそのこと見えなければ…どんなに幸せだったでしょうか。
    何も出来ずに眺めているより…何も知らずにいる方が…どれほどよかったことでしょうか……。

    あぁ、憎い……。無力な自分も…こんな運命も…何もかも……。

  • 3二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:30:51

    「すみません…遅くなりました…トレーナーさん…」

    明日の打ち合わせのために、トレーナー室にやってきました。

    「お疲れカフェ、座ってて」

    ソファーに座り、資料整理をしているトレーナーさんの背中を見つめます。けれど…見ている内にだんだん泣きたくなってきて…顔を伏せます…。
    伝えない方が、トレーナーさんにとっては幸せでしょう。
    こんな恐怖…味わうのは私一人で十分です。

    「カフェ」
    「……あ……はい……」

    気付いたら、トレーナーさんはソファーに座る私の前にしゃがんでいました。
    優しい笑顔で、私の目を見てきます。

    「明日の出走、取り消しにするか?」
    「……え?」

  • 4二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:31:57

    「どうして…ですか?」
    「今更なんだけどさ、ここんところカフェずっと…苦しそうだったから」
    「……」
    「タイムも走りのフォームも悪くないけど、いつもより余裕無さそうに練習していて…少し不安になった。根を詰め過ぎというか、このままレースに出したら、カフェが壊れてしまいそうな気がしたんだ」
    「トレーナーさん…」

    ダメです…それ以上踏み込まないで下さい…

    「何か…あったのか?」
    「……平気です…なんでも…ありません」
    「そうか?今だって…とても辛そうだぞ?」
    「ッ……!」

    やめて…トレーナーさん……!

    「カフェ、無理だけはしないで欲しいんだ。苦しみながら走る姿を、俺は見たくない」
    「今までカフェにたくさん守ってもらったんだ。苦しいことがあったら、全部俺に話してくれ。君の為ならなんだってする。ずっと寄り添う。俺は君のトレーナーなんだから………な?」

    そう言ってトレーナーさんは、私の頭を優しく撫でてくれます。
    その時……ずっと溜め込んでいたものが…溢れ出しました。

  • 5二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:32:55

    「う…うぅ……ひっく……」
    「カフェ…」
    「トレーナーさんが……トレーナーさんが……死んでしまうんです……!」

    大粒の涙を流し、嗚咽が混じりながら、ゆっくりと全てを打ち明けました。『死神』が取り憑いていることも、明日レース場で殺されることも、私が…何も出来なかったことも……。

    「ううぅ……ああぁぁ……!」

    悲しみが抑えられずソファーから崩れ落ち、トレーナーさんの胸元に倒れ込みます。

    「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさぃ……!」
    「守りたかったのに…救けたかったのに……ひっぐ……何も……何も…!」

    トレーナーさんの胸の中で、泣き続ける。
    私にはそれしか出来ない。
    何も変わらない、変えられない。
    それが運命だから。

  • 6二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:33:36

    「………カフェ」
    「…?」

    しばらくして、トレーナーさんは私を優しく抱きしめてきました。

    「…ごめんな……カフェ、一人でこんな思いをさせて」
    「辛かったよな…苦しかったよな…」
    「……!」

    あなたは…いつも…

    「……どうして…グスッ……私のことを…気にかけるんですか……あなたが…死んでしまうんですよ……!」
    「カフェがこんなに泣いてるんだ…本当に起こるんだろ?ならもう…仕方ないんだ」
    「そんなの……!」
    「大丈夫…俺は受け入れるよ」
    「私は受け入れたくない!」

    「……そんなだから、好かれるんですよ…あなたは…優し過ぎるんですよ…」

  • 7二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:35:00

    ───こんな形で、伝えたくなかった

    「そんなあなただから…私は好きになったんです……あなたのことを…」

    嗚咽混じりの声で、精一杯言葉を紡ぎ、愛を告げる。少しでも未練を残さないために、伝えたいこと全てを伝える。

    「こんな私を…端から見たらおかしな私を…受け入れてくれたんです…。初めてありのままの私を…真っ直ぐに理解してくれた…それだけで嬉しかったんです…。あなたと過ごす時間は…本当に幸せで…この世のどんな物にも…替えがたくて…私にはもう…あなたしかいなかった…。なのに…なのに……!」

    「……顔を上げて、カフェ」
    「うぅ…」


    涙でぐしゃぐしゃになった顔で、トレーナーさんを見上げます。
    頬に一筋、涙がつたっていました。

    「ありがとう…カフェ…愛してくれて。俺も君が好きだった。走る姿にも、コーヒーを淹れる時の優しい微笑みにも惹かれた。何より…いつも俺を守ってくれた。ありがとう…恐ろしい怪異から、俺を助けてくれて…。君が支えてくれたから、俺は今までトレーナーでいられたんだ」
    「トレーナーさん……」

    「…ははっ、遅すぎたな、俺たち…。本当に…遅すぎた……」
    「うぅ…ああああああぁぁ…!」

  • 8二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:35:48

    また、涙が溢れ出ます。
    駄々をこねる子どものように…泣き叫びます。

    「嫌だ…嫌だ……!死なないで下さい…!置いてかないで下さい…!トレーナーさん…トレーナーさん…トレーナーさん……!」

    ああ神様。
    どうして私たちを引き離すのでしょうか。
    こんなにも愛し合っているというのに。
    共に過ごす未来など、存在しないと言うのでしょうか。

    「カフェ……お願いがあるんだ」

    私の頭を撫でながら、トレーナーさんは話します。

  • 9二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:36:28

    「明日のレース、カフェ本気の走りを見せてくれ。どんな結果になってもいい。最期にカフェの精一杯の走りが見たい。元々俺は君の走る姿に魅了されたんだ」
    「私の…」
    「カフェのこれからが見られないのは、本当に悔しい。でも君は絶対に『お友達』を追い越せるって信じてる……あの子にも世話になったなぁ」

    私は辺りを見回す。『お友達』は見当たらない。私たちを二人きりにしてくれてるのかもしれません。

    「ありがとうカフェ。君と出会えて、幸せだった」
    「はい……トレーナーさん……」

  • 10二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:36:30

    イケメンが…イケメンがおる…でも運命はそんな二人を切り裂くんだね

  • 11二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:37:39

    その夜はトレーナーさんと一緒に過ごしました。
    この先たっぷりあるはずだった時間を、噛み締めるように過ごしました。
    一緒に夕飯を作ったり、テレビを見たり、本を読んだりして……。
    寂しさのあまり何度も涙を流してしまう私を、トレーナーさんはその度に抱きしめてくれました。

    夜は12時を過ぎ、明日に備えて就寝の準備をします。
    同じベッドの中で…私たちは向き合います。

    「大好きです…トレーナーさん…これからも…ずっと……」
    「ああ…俺もだ」

    このまま時間が止まればいいのに…
    叶わぬ思いを抱きながら、トレーナーさんとの最後の眠りにつきます。



    レースは午後の3時から。
    トレーナーさんの“死”まで…
    あと…15時間です───

  • 12二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:38:07

    以上です。次回で最後です。

  • 13二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:40:12

    時計の針が無常に刻まれていくのを感じます…。

  • 14二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 06:48:57

    ああ、死なないでくれ…

  • 15二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 18:17:57

    保守

  • 16二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 19:40:34

    このレスは削除されています

  • 17二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 19:41:16

    >>16

    その1で四部作って最初に言ってたからそうだね

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