- 1あらすじ23/01/16(月) 21:00:27
目標に向けて日々鍛錬を重ねるウマ娘とて年頃の乙女であり青春を謳歌するのは当然のこと。
たまの休日には趣味に勤しんだり友人との一時を楽しんだり、そして担当トレーナーと親交を深めたり。
単に備品の買い出しに付き合う程度のことからレジャーや食事を楽しんだりとそれはトレーナーとウマ娘の関係次第。
中にはトレーナー寮で過ごす場合もあるようだ。
この日トレーナーの自宅を訪れたのは貴重な資料映像を入手したということでその上映会を目的としている。学園のトレーナー室でもよいのだが学園の備品より多少は画質の良いテレビの方がいいだろうとトレーナーが自宅へ招待してくれたのだった。
部屋に通されると座るように促され、腰を下ろしたのを確認すると飲み物などを用意すると言ってそのまま奥へ消えていく。
通された部屋は客を招いても恥ずかしくない程度には整えられているのだが、不躾ながら辺りを見回すのは人の性というものだ。そうする中で物陰に一冊のファイルを発見した。
「……?」
随分年季が入っているようで色あせた紙が透明のビニールの合間に覗く。
家主がいない間に私物を漁るなどとても褒められた行為ではない。しかし好奇心には逆らえず、ほんの少し中身を確認するだけのつもりで表紙を開く。
目の前に飛び込んできたのは自分だった。
「……!」
一番最初のページにはメイクデビューで勝利した時の小さな名前だけの記事の切り抜き。
そこから挑んだレースで勝利した時のインタビューや知名度が上がってきてからの取材などが続き、最後のページにはつい先日のレースの記事が。
これまでの自分の軌跡が形になって残されていた。 - 2スレ主23/01/16(月) 21:00:48
…という流れのいろんなウマ娘ちゃんのssが読みたいです
・お出掛けしてから部屋へ行った? 直行?
・トレーナーの自宅訪問は初めて? 経験あり?
・ファイル見たことはトレーナーに見つかる?
・こういう記事の収集していることをウマ娘は元から知っていた?
・見つかったらトレーナーのリアクションはどうなる?
・……そこには本当にそのファイルだけがあったのかなぁ?(下衆)
訪問の部分からでもファイルを見つけた部分からでも
好きに分岐させて自分だけのssを書こう! - 3言い出しっぺの自分から:タマ編23/01/16(月) 21:01:51
「タマモ、この後時間あるならうちに来ない?」
休養日を利用した買い出しの帰り道、荷物持ちとして同行していたトレーナーが突然謎の誘いを掛けてきた。
「別にえぇけど。何か手伝い要るん?」
当然の疑問で返せばトレーナーが実は、と理由を説明しだす。
何でも昨夜、海外から取り寄せた最新トレーニングの映像資料が届いたという。明日学園で一緒に見るつもりだったがどうせなら早い方がいいだろうとの提案だ。
新しいトレーニングと聞けば気にならないはずもなく。即座に頷き進路をトレーナー宅へと変更した。
「お邪魔します~」
「邪魔すんなら帰って~」
「ほなさいなら~って、今日はフリちゃうわ!」
「はいはい。じゃ適当にしてて」
賑やかな声を上げつつ部屋に通されると慣れ親しんだクッションに座り込む。既に何度も訪れた場所だから勝手知ったる他人の家というもので、トレーナーもそれを咎めることなくすぐに台所の方へ向かっていった。
「あぁ~! 気持ちえぇ~!」
特大のビーズクッションは小さな身体をたちまち受け止め包み込む。ずぶずぶと身体が沈む毎に目線は低くなり、そのせいでベッドの下に隠すように置かれた箱の存在にこの時初めて気が付いた。
「これってアレか。お約束か」
家主のいない隙の家探しなど本来とても褒められた行為ではないが、成人男性の部屋にこのシチュエーションで隠されたものの正体など大体相場が決まっている。沸き立つ好奇心を抑えきれず、少しからかってやろうと軽い気持ちでそれに手を出した。
「……何やコレ」
出てきたのは期待したようなものではなくありふれた形式のファイル。中身はそれなりに詰まっているのか心なしかずしりと重い。
謎のファイルの正体を明かすべく早速表紙を開くが、瞬間目に飛び込んできたのは自分自身。タマモクロス本人だった。 - 4続き:タマ編23/01/16(月) 21:02:30
「……ウチやん」
一面に広がるのは雑誌の切り抜きやプリントアウトしたネットニュースの記事。いずれもかつて自分が紹介されたものだ。隅の方にはメイクデビューの勝者の名前だけが並んだ記事もあってそれがどうやら最初らしい。
初めはその他大勢の一人としての扱いが多かったが頭角を現してからは知名度も上がり取材も増え練習風景なども取り上げられるようになった。それらも当然抑えられている。
一つ一つ重ねた月日と勝利が目の前に形として残されており、最終ページには先日勝利したレースの記事。けれどまだまだページは残っているからきっと更に増やしていくのだろう。自分がこれからも勝ちを重ねると信じて。
「あー……アホやなぁ……」
そんなトレーナーをからかおうとした自分に向けた言葉が、自然と口から零れ落ちた。
「誰がアホだって?」
「ひゃっ!」
少し浸っていたのかもしれない。コーヒーと茶菓子を携えて戻ってきたトレーナーの呼び掛けに過剰に反応してしまった。
ばさりと音を立てて手からファイルが滑り落ち己の所業がトレーナーの知るところとなる。やはり暴かれたくなかったものなのだろうか。トレーナーの眉間が微かに寄っていた。
「ごめんトレーナー! 勝手に漁って……」
正直に詫び頭を下げて沙汰を待つ。しかし思ったような反応がなかった為そろそろと顔を上げればそこで見たものは顔面に手を当て天を仰ぐトレーナーの姿だった。
「あ~……見られちゃったかぁ」
常に穏やかで流暢にボケのやり取りもこなすトレーナーにしては珍しい、どこか恥じらうような仕草。心なしか耳もほんのり赤くなっているのがウマ娘と違って非常に分かりやすい。
「何やそのリアクションは」
「ちょっと浮かれすぎというか親バカみたいなことしてるなって改めて思った……」
確かにメインで取材されているウマ娘の背景で走っているだけの写真まで集めるというのはやり過ぎの気もする。が、それだけ担当が誌面に存在することが喜ばしかったのだろう。それを思うととてもからかう気にはなれない。 - 5続々:タマ編23/01/16(月) 21:03:04
「懐かしいなぁ。最初は全然目立へんやったし」
「そうだね……本当はクラシックの頃から大きなレースに出せればよかったんだけど」
それはできなかった、と。
身体造りの為地道にコツコツ力をつけることを優先した結果、三冠レースの勝者が持て囃される日向の陰に存在していた。
「タマモ、俺を信じてくれてありがとう」
「……な、何や急に」
「新人で、今やっていることが本当に正しいか分からないのにちゃんと俺の指導についてきてくれたから」
あの当時の自分の中に焦燥もあった。早く勝てるようになって家族を助けたいと。
それと同じようにトレーナー自身も自分の指導が正しいのか不安もあったのだろう。結果を出した今だから間違っていなかったと言えるがもし自分が不信感を抱いたらそれで関係はおしまいだったかもしれない。
「タマモの素質もだけどタマモが信じてくれたから今があるんだって思うと、こう」
「アホ……アンタが言う台詞ちゃうやろ……」
小柄な身体で口ばかり勇ましいウマ娘。事故でのバ群恐怖症。食事も満足に摂れない精神状態。どれをとっても大成するとは思えない。
そんな自分に素質を感じ常に懸命に対応してくれたトレーナーこそ信じてくれたことを感謝したい。
「ウチ、アンタに会えて幸せや」
零れ落ちた本音は無意識で。一瞬の後、我に返って自分が何を口にしたのか実感するとたちまち顔が熱を持ち出した。 - 6終り:タマ編23/01/16(月) 21:03:28
「……い、今のナシ! 今のはアレや、口が滑ったっちゅーか」
「俺もタマモに会えて幸せだよ」
「ナシ言うたやないかい! 何さらっと言うとんねん!」
「タマモがナシでも俺はアリだから」
「屁理屈か!」
何を言おうと絶対に聞かなかったことにする気はないようで。
苦し紛れのツッコミにもキレはなく口ではとても勝てそうにない。トレーナーの顔を見ることすらままならず叶うことなら穴を掘って埋もれたい、そんな心境だ。
「あ~……もう、どないすんねんこの空気……」
「よし! じゃあ資料見ようか!」
「切り替え早すぎやろ!!」
とは言いつつこれが助け舟なのは知っている。
これ以上踏み込むにはまだ少し、時間が欲しい。三年間で少しずつ身体を鍛えたように心はこれから。十分に心が成長したらその時に。
トレーナーもそれを理解してくれているから踏み込み過ぎず無視もせず。
そういうトレーナーだからこそ、何よりも。
続く言葉を口に出せるのはまだ当分先の話。 - 7二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 21:28:01
雑誌の人か あげ
- 8スレ主23/01/16(月) 21:59:37
- 9二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 22:01:28
また君かぁ嬉しいなぁ(歓喜)
- 10スレ主23/01/16(月) 22:20:30
タマちゃん以外のお話も読みたい
コメディ落ちなのも書けると思うんだけどなー - 11二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 22:31:41
またあなた様でしたか
こういうの好き! - 12キタちゃんで書きます。123/01/16(月) 22:59:42
今日はトレーナーさんと一緒にお出かけをして、クレープやはちみーを飲んだり蹄鉄の確認をしたり…。そんな楽しい時間ももう終わりがやってきた。寂しい気持ちはあるけれどまた明日に向けて頑張るぞ!って思ってたんだけど…。
「すまないキタサン。ちょっと俺の家に来てくれないか?」
突然のトレーナーさんからのお誘いが…ってえぇ!?どうして?!
「えっと…なんで突然…?」
「理由を言わないと意味がわからないよな…。すまない。実はな…。」
どうやら新しいトレーニングについて書かれた映像資料が手に入ったらしく、せっかくだから家で一緒に確認したいとのことだった。
そ…そうだよね…。あたしてっきり…って何考えてるの!?とにかくトレーニングに関係することであれば確認したい。もっともっと強くなってテイオーさんやダイヤちゃんを超えて皆に笑顔を与えられるウマ娘になるために。そんな思いからトレーナーさんの家に行くことになった。
「失礼します!」
「かしこまらなくて大丈夫だよ。」
とは言うもののトレーナーさんの家に来るのは初めてだから緊張してしまう…。トレーナーさんに案内されるままリビングにやってきた。リビングは片付いて…というかあんまり物がない。テレビと机に本棚、タンスとベッド…。最低限生活するために必要なものしかない感じだ。
ちゃんと休めてるのかな…。不安になりつつも楽にしてほしいとのことで座椅子に座る。座り心地は結構いい。 - 13キタちゃん。223/01/16(月) 23:00:31
「待っててくれ、お茶とお菓子でも用意するから。」
「あっお構いなく!」
あたしはそういうもののお茶とお菓子の準備に向こうに行ってしまった…。こうなると手持ち無沙汰でキョロキョロしてしまう…。なんとなしに見たベッドの下にある小さなタンスなのかな?それが開いているのがみえた。近づいてみてみるとかなり分厚いファイルが置いてあった。
タイトルも何もないそれは使い古しているのか少しボロボロで…。でも何かを守るように隠れていた。そんな感じがする不思議なものだった。
見ちゃいけないような気がするけどトレーナーさんの家に来るなんて初めてで、興味本位からそのファイルを開けてしまった。
そこにあったのはあたしのメイクデビューのときの小さな記事からはじまって、勝利したレースのインタビュー記事、注目されることのなかったあたしがどんどん有名になって大きな記事で映るあたしの笑顔やレースのときの真剣な表情。ライブで楽しそうにでも一生懸命なあたしの姿。そしてダイヤちゃんやマックイーンさん、あたしの憧れたのテイオーさんと戦い勝利したあの有マ記念の記事まで抑えられていた。
小さく書かれたトレーナーさんの文字。メイクデビューおめでとう。これから君を輝かせるために頑張っていきたい。決意の表れがそこにあった。
積み重ねてきた歴史がこの古くなってきているファイルにしっかりと残されていて。あたしは胸に残る熱い想いが抑えられなかった。 - 14キタちゃん。323/01/16(月) 23:02:06
「見られちゃったか…。」
思わず後ろを振り返る。そこにはお茶とお菓子を用意したトレーナーさんがいた。照れくさそうに笑っているトレーナーさん。あたしは思わず謝った。
「ご、ごめんなさい!勝手に大切なものを見てしまって…見たことないものだからなんだろうと思ってつい…。」
「いやいいんだ。ごめんな、君のことばかり書いてある記事を集めてたから驚かせたよな…」
確かに驚いた。でもそれは怖いとかそういうのではなくて小さく書かれた文字のように暖かい想いに溢れていたからだ。
「それはな、元々は君の頑張りを残していきたいと思って集めたものなんだ。」
誰にも注目されることがなかったあたし。そんなあたしの頑張りを自分だけでもしっかりと理解できるように、そんな想いで集めたていたらしい。でも段々と有名になるにつれて大きな記事で映るあたしが誇らしくなって、嬉しさからどんどんファイルが膨れ上がったとのことだった。
「ありがとうございます…。トレーナーさん…。」
「キタサン…?」
溢れる想いが口から出ていた。抑えるつもりはなかったけどどんどんと出てくる。 - 15キタちゃん。423/01/16(月) 23:02:48
「あたしは元々何も特徴がないウマ娘です。ダイヤちゃんのような小さい頃からの積み重ねも、テイオーさんのような溢れる才能も持ってないです。ただ諦めず根性で走り続けてきたからこそ今のあたしがいます。それもトレーナーさんがあたしを見つけてくれたからです。こんなにも長いことはしり続けてきたんですね。必死だったから気づかなかった…。」
きっとトレーナーさんだけの宝物だったのだろう。でもこれからはあたしの宝物でもある。だってこれはあたしたちの嘘偽りのない頑張りが詰まったあたしたちだけの結晶なのだから。
「だからこれからはあたしの想いも乗せてください。独り占めするのはずるいですよ。」
「そうだな、君の頑張りをまとめたものなんだ。その人の想いがなければ嘘だもんな。」
有マ記念の記事が書かれたページ、そこにあたしの文字を書いた。これからも輝いてみせます。他でもないあたしを選んでくれたあなたと共に。
そんなあたしの決意の証をトレーナーさんは笑顔で見守っていた。そんなトレーナーさんの姿を見てあたしも思わず笑っていた。
想いを乗せたファイルは守られるように小さなタンスにまたしまわれていった。 - 16キタちゃん。終わり23/01/16(月) 23:03:32
「この空気のまま資料を見るのはなんかあれだな…。」
「あたしは見たからこそやる気が出ましたよ!だって強くなって勝てば想いがどんどん膨らんでいきます!また見るのが楽しみです!」
「そうだな。頑張りをこれからも残していくためにもこれを見ようか!」
「はい!!!」
きっとこれからもこのファイルは重くなっていくのだろう。二人が乗せた想いと共に…。そうしてまたファイルを見るときあのときと同じように二人で笑顔で見ているのだ。あのときとは違って慣れた様子で少し物が増えた部屋にいる二人の姿で…。 - 17キタちゃんを書きました。23/01/16(月) 23:08:29
素晴らしい作品の後に書くのは正直申し訳ないのですが、書いてみたい題材だったので書いてみました。
- 18スレ主23/01/16(月) 23:12:29
- 19キタちゃんを書きました。23/01/16(月) 23:21:14
ありがとうございます。
書いてる途中でこれを繋げたらキレイになりそうだなと思って入れてみました。
最後もスレ主さんのようにその後幸せになれることを伝えたくて頑張ってみました。
素敵な題材を本当にありがとうございます。
- 20マックイーン123/01/16(月) 23:23:57
初ssなのでお目汚しかも知れませんが対戦よろしくお願いします。
トレーナーと一緒に映画を見てともに学園へと続く帰り道を二人で歩き談笑をしていたその時、ふと彼女のトレーナーがなにかを思い出したように彼女に目を合わせて新しい話題を始める。
「マックイーン、これから予定ないなら俺の家へ来ないか?」
彼女にとって、トレーナーをメジロ家へ呼ぶことは何度もあったが、彼の自宅にお呼ばれすることなど初めてだ。
「もっ……もちろんですわ!」
彼女は要件も聞かずに即答した。
トレーナー宅へ向かいながら淑女としての、そしてメジロとしての振る舞いを自分の中で復唱し続ける。
そんな彼女の顔は夕暮れの空に照らされより赤く紅く染まっていた。 - 21マックイーン223/01/16(月) 23:24:34
〜〜〜〜〜
トレーナー宅へとたどり着き、彼はドアの鍵を開けている。
そんなとき、ふと彼女の頭の中は、何故自分が彼の家にお呼ばれしたのか。という議題で持ち切りだった。
(き……きっと美味しいご飯でも用意してくれるのよ!
それを二人で食べて、一緒にゆっくりして……
それでトレーナーさんに……あぁ……!どうしましょう……私とトレーナーさんはあくまでもトレーナーとウマ娘の関係で……でも……彼なら……)
もんもんと考えている彼女にすでに開いているドアを彼女に入ってもらおうと支えているトレーナーが
「マックイーン、どうしたの?えーっと、家の周りとか気になる?」と彼女に話しかけた。
その声を聞きハッと意識を今のこの場に戻しマックイーンは
「いえ、別にそんなことありませんわ。」
と慌てて答えた。
そんな彼女が少し不思議だったトレーナーだったが、まぁいいかの精神のもと彼女を家の中へと招き入れた。
〜〜〜
「し、失礼しますわ」
彼の家に入ると椅子に座るようにと促され一緒にジュースも出して貰った。
お言葉に甘えて、とその椅子に座り、彼に本題を聞き出す。 なにもドアの前でぼーっと想像していた訳では無い。しっかりと覚悟を決めたのだ。
しかしトレーナーの回答は想定していた回答とら違った。なにやら貴重な資料映像らしい。
彼女の心には大きな安心と少しばかりのもやっとした気持ちが混在していた。 - 22マックイーン323/01/16(月) 23:25:31
「あれーどこやったっけな……」
トレーナーがその映像を探している間、彼女はふと机の横に年季の入ったビニル袋を発見した。
「これはいったいなんですの?」
ふとした好奇心に駆られ、そのビニル袋を開き中の紙を取り出す。
そこにはマックイーンと彼の大切な大切な思い出が綺麗にしまってあった。メイクデビューで勝った時の新聞の切り抜きやメジロとしてのインタビューに答えたときのあの記事、夏合宿で撮った写真、そして大切なトレーナー製の献立。
「懐かしいですわ……」
ポツリと声を出し感傷に浸っていた。その時、
「おっ……それ」
彼女の後ろからトレーナーの声が聞こえ、彼女の尻尾がピンと天を指した。
マックイーンの隣に座りその宝物たちを見ながら
「本当に色々あったな……なんだかすごく昔のことに感じるくらい懐かしいな」
と彼と言う。
「えぇ、それでも私にとってはどれも昨日のことのようですわ」
と彼女が答えた。
ふと長い一瞬の静寂が訪れた。
「これからも、頑張っていきましょう」
「あぁ……」
二人はまだ少しだけ感傷に浸っているようだった。 - 23マックイーン4+おまけ23/01/16(月) 23:26:29
貴重な映像。要するに過去のメジロのウマ娘のレース記録を二人で鑑賞したあと、学園への短い帰路へつく。
「ところでトレーナーさん。あの袋の中身、きれいに保存されていましたわね。それなのに古そうなビニル袋に入れて、どうしたいんですの?」
彼女が首を傾げる。
「えーっと……なんだか人に見せるのが恥ずかしくってねー。
それでも、マックイーンは別かな。一緒にあれを見てくれてありがとう。」
トレーナーの顔が少しだけ赤らんでいるがその瞳はキラキラとしていた。
「えぇ、私もあれを見れてよかったですわ。」
彼女もそんな彼の顔に微笑んでいた。
ふと彼女が口を開く
「トレーナーさん、また貴方のお家へ行ってもよろしいでしょうか?」
「いつでも来てね、今度はオリジナルのスイーツを食べていってよ」
とトレーナーは答えた。
もしかしたら意外とすぐマックイーンがモンモンとする日が来るかもしれない。
【おまけ】
「お母さま!これはなんですの?」
母親に似たきれいな紫の髪をゆらし天真爛漫な少女が母親に古びたビニル袋を持っていった。
「これは……私とお父さまの宝物ですわ」
キッチンからいい匂いがしてきた。彼の作る美味しい美味しいオリジナルスイーツができたようだ。 - 24マックイーン書いた23/01/16(月) 23:27:43
- 25キタちゃんを書きました。23/01/16(月) 23:35:45
- 26スレ主23/01/16(月) 23:36:53
- 27マックイーン書いた23/01/16(月) 23:42:52
- 28二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 23:52:04
参加したいけど間に合うかな……
- 29スレ主23/01/16(月) 23:53:30
- 30二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 00:01:43
- 31二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 00:11:29
「じゃあお茶入れてくるから。適当になんかして待っててくれ。」
家探ししたって良いぞ、大したものは出てこないだろうけど。
そう言い残し、キッチンに消えて行くトレーナー君。
彼の背中を見送ってから辺りを見回す。
これが、トレーナー君の普段過ごしている部屋なのか。
あまり生活感がない、というのが率直な印象だった。
もっとも彼の性格からして、ただ単に部屋を徹底的に片付けた、という可能性もあるが。
本棚に並ぶのは、トレーニング教本に、スポーツ医学や栄養学に関する専門書といった仕事に関するものばかり。
あぁ、いや、待て。
ダジャレの本もあるな。
これは後で要確認だな。
ふふ、口ではああだこうだと言いながらも、君もダジャレにハマりつつある、というわけか。
そんなことを思いながら、本棚を眺めていると、妙なものが目に入った。
赤や緑の、背表紙に何も書かれていない厚手の本。
手に取ってみると、ずっしりとした重みがある。
「アルバム……?いや、スクラップブックか?」
見た目から察するに、おそらく卒業アルバムでは無いだろう。
ただ、家族写真用のアルバムを実家から持ち出す、というのも中々に考えにくい。
彼に恋人の類がいたなどという話は一切なかった。
ならば、これは一体? - 32二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 00:11:56
「考えてみたところで、答えが出る訳でもないな。」
彼からのお許しも得ているのだし、ここは一つ、中身でも見てみようじゃないか。
軽い気持ちでページを開く。
そこには大量の写真や新聞や雑誌の切り抜きが貼られていた。
「……ふふ、君も中々に思いが重いな。」
まぁ、私も人のことは言えないか。
自室にこっそり保管している、ソレを頭に思い浮かべつつ、苦笑する。
手元のこれと、登場する人物がまるっきり反転しただけのモノを。
「ルドルフ、何見て…… あっ、しまっ──」
目を見開き、持ってきたお茶を落としそうになるトレーナー君。
どうやら見られたくはないものだったらしい。
そんなに恥ずかしがらなくとも良いのに。
こちらまで恥ずかしくなるだろう?
「トレーナー君。」
「はい……」
私に軽蔑されるとでも思っているのか、彼は肩を落として項垂れている。
愛しい人から大事にされて、喜ばぬ者などいないというのに。
- 33二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 00:12:26
「君、相当重いな?」
「……返す言葉もございません。」
「だが、悪くない。」
彼にずいと詰め寄る。
私と距離を取ろうとしたのか、一歩下がったトレーナー君の背中が僅かに反った。
これは駄目だ。
「おい。逃げるな。」
一言告げた途端に、トレーナー君はピタリと動きを止める。
うん、それで良い。
せめて私の想いには答えてもらわねば。
もっとも、私の望む答え以外を返すとは思わないけれどね。
「トレーナー君。君に一つ、私の秘密を教えてあげよう。」
彼の瞳をじっと覗き込む。
少し茶色味がかったそこを独占するのは私の菫色だけ。
「私もね。君と同じことをしているんだ。トレーナー君の記事や二人での写真でスクラップブックを作っているんだよ。」
「え…… なんで俺なんか……」
「さぁ、何故だろうね?」
- 34二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 00:13:02
少し背伸びをして、彼との距離を縮めてやる。
互いの息遣いすら感じる程の至近距離。
けれど、耳の先まで真っ赤に染め上げた彼は気付いていないだろう。
私も顔を赤く染めていることを。
この『皇帝』を辱めたんだ。
責任は取ってくれるんだろうね?
「きっと動機は……君と、同じではないかな。」
何事かを発しようとする、彼の唇に指を当てて黙らせる。
君からの睦言はとっても魅力的なのだけれど、私の秘密はそれで済むほど安くはないのだ。
「違うよ、___君。私が欲しいのは言葉ではない。皆まで言わずとも……分かるね?」
そっと彼の首の後ろに手を回し、瞼を閉じる。
幼名を呼ぶ彼の声が聞こえた後、待ち望んでいた、温かでほんの少しだけザラついた感触が降ってきたのだった。
- 35ルドルフ書きました23/01/17(火) 00:14:48
- 36マーチャン編1/223/01/17(火) 00:15:32
「(……む?どうやらスクラップブックみたいです)」
トレーナーさんには申し訳ありませんが、ついつい気になってしまい本棚に手を伸ばしました。1枚ページをめくると
「(……!メイクデビューのときのインタビュー!)」
そこには、マーちゃんが歩んできたレースや、日常、トレーニング、写真、4コマ漫画の原案。あらゆるマーちゃんが丁寧に綴られていました。
マーちゃんの、━━わたしの思い出を。丁寧に、丁寧に結んで。
「あっ!?恥ずかしいから隠してたのに!」
しばらく止まってしまって、戻っていたことに気づきませんでした。トレーナーさんは慌ててスクラップブックを取りに来ます。でも、マーちゃんのほうが速いです。
「おっと。ふふっ……トレーナーさぁん?マーちゃん達に隠し事は、なしですよね?」
ひょいっ、と避けて、取られてしまわないよう、腕で抱え込みます。離さないよう、強く。
もう、手が出せないと思ったのでしょうか。伸ばした手を力なく下げてしまいました。代わりに
「あんまり丁寧じゃなかっただろ?」
そんなことを申し訳無さそうに言いました。
でも、マーちゃんはそうではありません。
「……いいえ。どんな形であっても、トレーナーさんがマーちゃんのことを思って、考えて、感じて、作ってくれただけでも、マーちゃんはぽかぽかなのです」
この世に一つしかない、わたしのことを照らしてくれたあなたと、わたしを結ぶ思い出。 - 37マーチャン編2/223/01/17(火) 00:15:58
「そういえばトレーナーさん、今日はどんなことを書きます?まだ、書いてませんよね」
急に話が変わって、トレーナーさんはしろどもどろです。
「え?あ、ああ。そうだけど」
「では、写真を撮りましょう。よいですね?よいということで」
返事も聞かずにカメラを準備します。最近のスマートフォンさんは優秀なので、何でもできてしまうのです。まるでスパイグッズです。
タイマーをセットして、トレーナーさんの側に近寄ります。
「トレーナーさん、もう少し屈んでもらえます?マーちゃんと顔が同じ高さまでお願いします」
「こ、こうか?」
「ふふっ、はい。ありがとうございます」
隣にトレーナーさんの顔が並び、これで準備は万端です。あとは、シャッターを待つだけ。スマートフォンさんがカウントダウンを告げたその時、
「(……ゆきますっ)」
あなたはその時、まだ気づいていませんでした。わたしが顔を向けたのも、顔を寄せたのも。
「……んっ!」
パシャッ!
タイミングよく鳴ったシャッターの音で、トレーナーさんはようやく気づきました。でも、マーちゃんのほうが一足早かったみたいです。
「ふふっ、今はまだほっぺたでガマンしてください。……でも、忘れられない思い出に、なっちゃいましたね?」 - 38スレ主23/01/17(火) 01:12:30
- 39キタちゃんを書きました。23/01/17(火) 06:28:03
- 40二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 08:22:22
シチーさんなら「アンタさぁ、ほんと……アンタさぁ……ふふっ」みたいなリアクション取ってくれるんだろうなあ
というところだけ考えたけどエミュ難しいので誰かに任せますねのage
ちゃんとしたのは後で書くかもしれない - 41二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 17:57:56
保守です
今回も参加してみたいので頑張ってみます - 42ルドルフ書きました23/01/17(火) 18:44:27
- 43キタちゃんを書きました。23/01/17(火) 18:54:03
あなたのような文章が上手い方に褒められるとどうすればいいかわからないです…。
エミュが上手いですか…いつもこれは本当にキタサンブラックなのか自分の都合のいい子になってないか不安になることがありますが、そう言っていただけて嬉しいですありがとうございます。
宝物の下りは自分の中で盛り上がって絶対いいものにしてやると気合を入れたからそう言っていただけて嬉しいです。
- 44スレ主23/01/17(火) 19:11:20
前回の参加者さんが来てくれてめちゃくちゃありがたいです
スレ主はスレ立てまでじっくり考えて推敲できるけどお題見てから一作仕上げられる人は本当にすごい
関西以西で方言の雰囲気が近いせいかもです
タマの口調エミュは皆割と大目に見てくれる雰囲気があるので、それに甘えておかしくなっていないか常に気にしてます違和感ないというそのお言葉がすごく嬉しい
- 4541かつ前回ロブトレの人23/01/17(火) 20:59:22
「それじゃロブロイ、ゆっくりくつろいでいていいよ」
「は、はい、トレーナーさん」
トレーナーさんと一緒にお出かけをした帰り道、トレーナーさんからご自宅に招かれました。
どうやら、トレーナーさんの家には高画質のテレビがあるらしく、学園の備品で見るよりもよりしっかりと見れるから、とのことでした。
それに、その後には映画鑑賞もできたら、トレーナーさんともたくさん語り合えると思うととても楽しみです。
もちろん、一緒にレースの研究をするのが一番ですが……。
「ここが、トレーナーさんのお部屋……」
トレーナーさんが離れて一人になると、自然とキョロキョロと部屋の中を見回してしまいます。
トレーナーさんらしく、きれいに整理整頓されていて、どこに何があるかもすぐに分かるようになっています。
本棚を見ると、レース関連やウマ娘育成の本はもちろんのこと、私がおすすめした本や知らない本もはいっていました。
トレーナーさんが気に入ってくれる、と思っておすすめした本を読んでいるのが見れてすごく嬉しくなります。後でぜひ語りたいです。
なんだか、トレーナーさんの部屋という名の迷宮で宝箱を見つけ出す冒険者のような気持ちになってきます。
「あれ?これって、何でしょうか……」
そうして見回していると、ふと、気になるものが目に入りました。
きれいな箱の中に入った一冊のファイルで、何か色褪せた紙がビニールの間から覗いています。
とても大切に保管されているようで、それこそがこの部屋における宝物、スイープさんのように言うのであれば特別な魔導書でしょうか?
……トレーナーさんの宝物を、開いてみてもいいのでしょうか……
自分の中の好奇心とトレーナーさんへの罪悪感がせめぎ合いますが、最終的にはその好奇心に勝てず…… - 4641かつ前回ロブトレの人23/01/17(火) 20:59:47
「トレーナーさん、ごめんなさい……」
今この場にはいないトレーナーさんに対して謝罪をしながら、その宝箱を開くとそこには……
「これは……私の、記事……?」
その宝箱には私達のこれまで歩んできた足跡、私の記事の切り抜きがたくさん、たくさん綴られていました。
最近のインタビュー記事や私が秋シニア三冠を成し遂げた時の写真、古いものであれば初めてのレースで小さく名前が載っている記事まで残されていました。
私自身も英雄譚を綴ってきていましたが、これはまるで……
「まるで、私の英雄譚……」
「おまたせ、ロブロイ……あ、見つかっちゃったか」
「!!と、トレーナーさん!こ、これはその……」
そのファイルに夢中になっているとトレーナーさんが戻ってきました。
隠れて探索していたのがばれてしまい、思わずいたずらがバレてしまった子供のように慌てふためいてしまいます。
ですが、トレーナーさんは怒ったような様子はなく、優しくポン、と頭に手が……。
「大丈夫だよ、ロブロイ、そんな気にすることないよ。でも見つかっちゃったね」
「す、すみません……あの、トレーナーさん、これは……」
「うん、これはロブロイのこれまで歩んできた軌跡であり、ロブロイがみんなから英雄として認められた証だからね」
そう言いながら、トレーナーさんはそのファイルを一つ一つめくっていきます。
優しく、かつての思い出を語るように、噛みしめるように……
まるで、これまで私達が歩んできた物語を改めて体験しているかのように……
「まあ、流石に重たく感じちゃうよね」
「そ、そんなことありません!!だって……」
- 4741かつ前回ロブトレの人23/01/17(火) 21:00:19
照れくさそうに微笑むトレーナーさんに対して言葉を紡ぐ。
だって、こんなにも私のことを思ってくれるトレーナーさんの思いが言葉に出来ないほどうれしくて……
だからこそ、トレーナーさんにも伝えたい。だって私も……
「私も、これまでの記事全部集めていましたから!」
「え、ロブロイも、だったのか」
「はい、だって、これは私達二人が紡いできた物語ですから」
元々、このレースの場で英雄となりたい、物語の主役になりたい、という想いでこのトレセン学園に来ました。
そんな私にとって人々が記録する記事はどんな小さなものでも大切な記録です。
そして、それは私だけではなく、トレーナーさんとの物語でもあるのですから……
その軌跡を集めないわけがなかったのです。
「あはは、それならお互い、同じ思いで集めていたみたいだね」
「ふふ、はい、そうですね。二人で紡いできた、大切な物語ですからね」
お互いに思わず笑みが溢れる。
きっとお互い、自分のこの行いが相手にとっては重たく感じるかもしれない、と思っていたでしょう。
だからこそ、同じ思いを共有できたのが、嬉しいのです。
自分と同じくらい、相手もこの物語を大切にしているのだって……
だから、またこの言葉を紡ぎます。
この言葉を、あなたに送ります。
「トレーナーさん、これからも物語を紡ぎましょう。二人で一緒に」
- 48マーチャン編23/01/17(火) 21:14:14
- 49キタちゃん書きました。23/01/17(火) 21:30:08
- 50マックイーン書いた23/01/17(火) 21:43:50
- 51スレ主23/01/18(水) 00:47:21
- 52ルドルフ書きました23/01/18(水) 09:33:10
- 53スレ主23/01/18(水) 18:04:37
保守ついでのトレタマちょっとコメディ版
「で、こっちは何なん?」
「見る?」
「どれどれ……って、ライブの写真ばっかやないかい!」
「レースで勝つ。ということはウィニングライブでセンターになる。写真を撮る。何の問題が?」
「問題ないけど恥ずいやろ!」
「えぇ……タマモは勝者の特権を恥ずかしいなんて思ってたんだ……」
「そーゆー意味やない! アレや……ライブはライブのノリとか勢いとかあるから平気なんやけど、素面ん時出されると顔違い過ぎて自分やないみたいな……」
「まぁ確かにライブの時と普段は印象違うよね」
「せやろ」
「普段は表情コロコロ変わって可愛いけどライブの時は美人だしかっこいいし」
「あぁぁぁ! だからそういうんやめぇや! むず痒くてたまらんわ!!」
「分かった……今度は絶対見つからないようにするよ」
「そっちかい!」 - 54ロブロイ書いた人23/01/18(水) 22:55:40
- 55二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 06:08:27
ほしゅです
- 56スレ主23/01/19(木) 07:28:53
出掛ける前の保守
このスレが終わった時用にまた次のネタを考えてます
今回はちょっと分岐少なかった気もしないでもない
それでもみんな個性的だけど
保守ついでのさらっと短文
「昔のインタビューとか今になって見るとわっかいな~って気になるわ」
「そうだねぇ……あれはかれこれ10年前……」
「年代飛ばしすぎや!」
「そして一か月後」
「こいつ未来に生きとる」
「一か月後のレースで勝つから予行演習だよ」
「そう言われたら負けられんやないか」
「タマモは最強の白い稲妻だからね」
「アンタがそう思ってくれとんのやったら負ける気せぇへんわ……」 - 57セイちゃん23/01/19(木) 10:33:08
「これって、あの時の…」
ファイルの1ページ1ページに綺麗に収められたルーズリーフ。そこに記録されていた内容を少し前に見たことがある。
忘れもしない。宝塚記念を終え、夏合宿を終え、同期の皆と実力の差を感じて挫折しかけていた私を繋ぎ止めてくれた物……。
「私にくれた後も纏めてたんだ……」
そこにあったのはまさしくあの時と同じ……。
「あれ、こんなこと書いてたっけ」
もとい、その原本と言うべき資料だった。
天皇賞・秋を目前に控えたとある日にトレーナーさんが用意してくれたデータには、私のトレーニング記録やレース記録、そして相手の分析記録が事細かに纏められていた。
しかし、今手元にある資料はその時の冊子よりもいくらか厚みが増している。それはシニア級2年目に突入して未だ増え続けるページの重さ、というよりは……。
「相変わらずサボった日時はキチンと抑えてるし……あは、合宿中に行った船釣りの釣果なんてメモってる」
渡された資料には書かれていなかった私とのお出かけの振り返りや些細な日常の思い出が、トレーナーさんの率直な想いが、余白ギリギリまで綴られたページ達による重さ……という方が適切なほどの分量だった。
「お待たせ~。はい、麦茶とおつまみにクッキー持ってきたよ」
「お、ありがとうございます~」
少ししてトレーナーさんがお菓子と飲み物を持って戻ってきた。
春先の室内はやや冷えるとはいえ、猫舌の私に熱くないお茶はありがたい。本当に気配りを欠かさないトレーナーさんだ。
「あ、それ読んでたんだ。なんか気恥しいな」
トレーナーさんがビデオを用意していた手をふと止めて私の手元のファイルを見やる。
純粋に照れたように笑うトレーナーさんの顔を見て、ひとまずは触れてはいけなかったものではなかったことに安堵する。 - 58セイちゃん223/01/19(木) 10:33:28
「あの時貰った方はレース関連だけ抜き出したものだったんだね」
「その方が見やすいでしょ?」
「まぁ……それはそうなんだけどさ」
一切の無駄なく的確に要点だけを絞ってくるのは如何にもトレーナーさんらしい、と心の中で少し呆れ気味に褒める。
確かにGIを控えていたあの時期にレースデータ以外はノイズになる、と判断するのは間違いじゃない。間違いじゃないけど……。
「ビデオ鑑賞の前に、もう少しだけ読んでもいいですか?」
「うん、いいよ。なんなら印刷するから後からゆっくり読んでも……」
「……」
「スカイ?」
トレーニングに関連することには鋭いトレーナーさんも、こういう所はニブい。でも、だからこそ、自分から積極的に行かなければ気づいてもらえないのかもしれない。
「いえ、セイちゃんはトレーナーさんと一緒に見たいので」
「……そっか」
今までずっと、伏兵に徹してきたのは私の方なのだから。 - 59キタちゃん書きました。23/01/19(木) 17:28:38
- 60ゼファーSS23/01/19(木) 20:43:01
私は今日、トレーナーさんのお部屋に来ています。
今、トレーナーさんは所用で席を外していて、お部屋には私一人です。
本人はいないのに、すっかり慣れてしまったトレーナーさんの香風が部屋に流れていました。
お部屋は浚の風を吹かせたかのように綺麗、部屋も風通しが良くて、ひより。
――――なのに台風の前日にように落ち着かない気分になっているのは何故でしょう。
原因は先日の、クラスメート達との会話。
懇親会への誘いに、私は予定があったので凪とお答えしました。
トレーナーさんのお部屋に、研究資料としてのレース映像を見に行くことが決まっていたからです。
理由を説明すると、何故か色風めいた黄色い歓声が巻き起こりました。
男の人の部屋に一人で行く、お家デートなど饗の風の賑わいになってしまいます。
加えて、男は狼だから油断していけない、服装は見えないところまで整えるなど、風聞のようなアドバイスを頂きました。
トレーナーさんは優しくて、頼りになる、凱風のような方。
クラスメートの人達が期待、もとい心配するようなことになる可能性など、至って凪。
「それは、わかっているはずなのですが……」
行儀が良くないとわかっていながら、周囲をつむじのように見回してしまいます。
風待ちの間、部屋の中のものは好きにして良いと言われてはいますが、緊張で身動きが取れません。
ふと、私は部屋の本棚を見つけました。
これは恵風かもしれません、何か本でも読ませていただき、時つ風を待たせていただきましょう。
本棚にはトレセン学園のトレーナーらしく、トレーニングに関する文献が多くならんでしました。
その中にある、異風に私は目を止めました。
少しだけ古風を感じさせる、数冊の青色のファイル。
それは棚から題目を確認できる本が並ぶなかに置かれた、明らかに風体の違うものでした。
「……失礼しますね、トレーナーさん」
私はそのファイルの内の一冊を手に取り、不在のトレーナーさんに謝罪しながら開きました。 - 61ゼファーSS23/01/19(木) 20:43:21
そこにあるのは、記事の切り抜き。
記事に載っているのは、私の姿と、その風評。
突然の強風を受けたかのような衝撃、私の思考は一瞬凪いでしまいます。
嵐のような心臓を何とか鎮めながら、改めて、最初のページからそれを読み直しました。
メイクデビューの時から始まり、ニュージーランドトロフィー、葵ステークス。
そして、まことの風になることができたあの天皇賞秋まで。
時には私自身すら見た覚えのないような小さな記事まで、事細やかに残されていました。
「ふふっ……♪」
思わず零れてしまう笑み。
気づけば机の上には、全てのファイルが広げられていました。
胸の暴風はいつの間にか軟風に、いえ、春風のようにうららかに。
このファイルが大事にされていることが、まるで自分が大事にされているように感じたから。
ふと、耳か玄関からの物音を拾います。聞きなれた、あの人の風音。
「ただいま、待たせちゃったね……ってそれは」
「お帰りなさい、トレーナーさん。花嵐の跡のようになってしまい、申し訳ありません」
「ああ、構わないよ」
「デビューした頃が瀬戸の潮風のように遠く感じるような、疾風のようにあっという間だったような」
「わかる、俺もたまに見返すけど、同じような気持ちになるよ」
「ふふっ、共に風になったもの同士だから、ということですね」
私の言葉に同意の頷きを返しながら、トレーナーさんは微笑みます。
そうしていると、突然私の脳裏に悪戯な風が吹きました。
上着を掛け、元々の目的であったレース映像の準備をするトレーナーさんに、私は問いかけます。
「トレーナーさんにとって、どの頃の私が、一番強い風を感じることができましたか?」
我ながら意地悪な質問。困ってしまうトレーナーさんを、見たいと思ってしまいました。 - 62ゼファーSS23/01/19(木) 20:43:38
「それは勿論、今目の前のキミだよ」
「……っ」
まるで至軽風だと言わんばかりに、さらりと答えるトレーナーさん。
予想していなかった答えに、私は思わず口の中が空風となってしまいます。
疾く疾くと早まり、荒れる胸の内の風。
それを、わかりづらかったと解釈したのか、彼は更なる追風を吹かせていきます。
「ゼファーの風は日ごとに強く、鋭く、美しく吹くようになっているからさ」
「えっと、その、美しく、ですか?」
「うん、いつだって俺は走るキミの姿に見惚れているよ?」
「あっ、はい、ありがとうございます……」
「まあ、そんなことで、何時だって一番新しいゼファーが一番の疾風だって、俺は思ってるよ」
この人は、本当に、もう。
頭の中はあからしまが来たかのようにかき乱されてしまいます。
温風が頬を撫でて、胸の中にはおぼせが吹き抜けて。
こんな人だからこそ、私は微風から疾風になりことができたのだと、改めて実感しました。
「……トレーナーさん、今後はこのファイルをトレーナー室に置きませんか?」
「えっ、それは構わないけど」
「それと、今後はレースの後にはトレーナーさんの写真も撮らせてください」
「それは構うんだけど……えっと、どういう意図があるのかな?」
「このファイルの中の出来事は私達の風道です、決して私だけの風道ではありません」
微かに思っていたけれど、無風で済ますつもりだったこと。
ですが、トレーナーさんにあっさり返されたことが少しだけ悪風で、つい言葉にしてしまいました。
困惑する彼がなんだか可愛くて、私は口元と緩ませて、言葉を紡ぎました。
「今後は貴方の写真も添えて、一緒に、風の軌跡を残していきませんか?」 - 63二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 21:29:23
"メイクデビューで勝利した時の小さな名前だけの記事の切り抜き"
"挑んだレースで勝利した時のインタビューや知名度が上がってきてからの取材"
ライトハローがあらすじで門前払いされてしまっているのでこれにて失礼する(冗談)
学生時代ハローさんで一筆書きてぇなぁ - 64マックイーン書いた23/01/19(木) 21:46:16
- 65キタちゃん書きました。23/01/19(木) 22:06:47
自然な感じで風語録を使いこなす…かなりの風使いとお見受けします。
照れちゃうゼファーが可愛いですね。
クラスメイトに言葉で意識するというのはなるほどなと思いました。参考にします。
素敵な作品を見させていただきありがとうございます。
- 66スレ主23/01/19(木) 22:34:02
毎日いろんな人の参加がとてもありがたいです
帰宅してからの楽しみ
「せっかく書いても無反応だったら…」と心配な貴方
今ならスレ主以外にも感想言ってくれる人がいるようなのでご安心を!
スカイトレさんご参加ありがとうございます
本編のエピソードと絡めてくるのっていいですよね…育成のその後、という感じで
記事の切り抜きだけじゃなくしっかり彼女本人の観察記録みたいになっているところに愛が溢れてます
想いが重いトレーナー!
最後の少し押してみた、って塩梅が爽やかな読み口でした
ゼファトレさんは皆風使い…
育成にあったみたいに、意識した時の恥じらい加減がゼファーって可愛いですよね
無意識の時は大胆なのに
多種多様な言葉を駆使していてもゼファーの言葉としてすんなり理解できるところに本人シナリオを読み込んでるな…と感じさせる神業
トレーナーの台詞が屈指のイケメン度でした
そこはもう、適当に改変しちゃってくださいませ
記事じゃなくただの写真を集めたアルバムとかなど
たくさんの人が書いた話が読みたい!
- 67マックイーン(シリウス)編23/01/19(木) 23:32:26
『海外で今活躍しているステイヤーの子の練習風景が撮影された映像を手に入れた』
大きなレースも無事走り終えて、久しぶりのオフの日にトレーナーさんと二人でランチをご一緒していると突然そんな事を言われた。
どうやらスペシャルウィークさんがかつてジャパンカップで見事な走りを見せて下さった際に、そこで知り合った海外のトレーナーさんと交流を続けていた様で…
その方から特別にデータを譲って頂けたとの事。
その様な貴重な映像を、『せっかくだし一緒に観ないか』と事もなげに口にするトレーナーさん。
当然、レストランに再生機器など持ち込んでいる訳も無く…
私達はそのままの流れでトレーナーさんのお家で映像を見る事になった。 - 68マックイーン(シリウス)編23/01/19(木) 23:32:59
初めて訪れる男性のお部屋。
適度に生活感が感じられるものの、思ってたよりかはとても綺麗で少し意外だとも思った。
あんまりつぶさに観察するのもはしたないので、どこか落ち着かない気分を紛らわせ、案内されたリビングに適当に腰掛ける。
『適当に楽にしてて、飲み物とか用意してくるから』
と、どこか慣れた様にも見えるトレーナーさんに複雑な気分を抱いてしまうのは仕方のない事でしょうか?
誰にも聞こえない様な小さな溜息を吐きつつ視線を彷徨わせると…
「これは…も、もしかして…」
トレーナーさんのベッドの下に、数冊の本ぐらいなら入りそうな箱がこちらを覗く様に置かれていた。 - 69マックイーン(シリウス)編23/01/19(木) 23:33:38
「と、トレーナーさんも若い男性ですから……」
なんとも言えない気分になりつつも、怒る様な気分にはなれない。
普段から私生活を投げ打ってまで私達皆を導いてくださっているのだ。
適度な息抜きぐらいは必要だと思う。
……せめてバレない様に隠しては欲しかったと思いますが。
箱の持ち主は呑気に、
『あれ、ティーカップどこ行ったっけ』
などと騒ぎながら台所を右往左往している。
「………」
私も年頃の女性。
“そういうもの“自体にそれ程興味は無いが、
彼の“趣味”が気にならないと言えば…嘘になる。
「は、箱を開けて表紙を見るぐらいなら…」
と、自分に言い訳をしながら
トレーナーさんの“宝箱”を開くと…… - 70マックイーン(シリウス)編23/01/19(木) 23:34:08
「これは……」
中から出てきたのは年季の入ったファイル。
透明なの表紙越しに見えるのはトレーナーさんと二人で駆け始めてからの私の写真や、雑誌の記事などのスクラップだった。
「まぁ……」
思わずページを捲る手が止まらなかった。
今でも思い出せる様な激しいレースの思い出は勿論、こんな物まであったのかとなる様な小さな記事まで。
私だけの物かと思えば、チームの仲間の物も同じ様に大切に丁寧にまとめられていた。
「本当に…困った方ですわね…」
思わず笑みが溢れてしまうのを抑えられない。
最初は自分の記事だけかと思い、つい胸がきゅっとなってしまったが、こうして皆の分も大切に保管してくれていると知った方がより暖かい気持ちになれた。
これを手にして少しだけ彼をからかってみようかという気持ちも無くはなかったが、少し大人げない気もするのでやめておこうと思う。
どこか胸が暖かくなるのを感じながら、トレーナーさんの”宝物“を大切に箱に戻そうとしたが…
「……あれは?」
ベッドの下の更に奥。
どこか草臥れた紙袋が盛り上がっているのが見えた。 - 71マックイーン(シリウス)編23/01/19(木) 23:35:02
「も、もしやこれが本命…」
先程までの穏やかな空気は一変し、私の中のよくない好奇心が沸々と蘇る。
「わ、私達の思い出のすぐ側にこんな物を隠すだなんて…!」
とても複雑な気分になりながら、手を伸ばして厳重に奥に封印された紙袋を手に掴む。
先程までの“宝箱”よりも厚みと重さが違う。
男というのは皆こうなのだろうか?
仕方ないとは思いつつも、露骨な熱量の違いを見せつけられた様で気分が台無しだ。
「流石にこれは文句を言っても許されますわね…」
そう呟きながら中身を確認すると、中には大量の資料の様な物が入っていた。
「な、なんですのこれ…」
「世に出しちゃいけない資料だ」
「きゃっ?!」 - 72マックイーン(シリウス)編23/01/19(木) 23:36:12
突如背後から耳元に声を掛けられて思わず情けない声が出てしまう。
「ととと、トレーナーさん?!いきなりやめてくださいませんことっ?!」
「人の家を家探しするのもどうかと思うぞ?」
「そ、それは…申し訳ありませんでしたわ…」
彼の言い分は当然である。
本来責められるはこちらなのだ。
しかし、この後に及んでもどうしても気になる事があった。
「ですがトレーナーさん、世に出していけない資料だなんて。どうして貴方がそんな物を持っているのですか…」
仰々しい彼の表現が気になってしまい、つい聞いてしまう。
「……しょうがない、今日見た物は全て他言無用だぞ?」
「えぇ、それは構いませんが…」
私が返事をしたのを確認し、トレーナーさんは私の手に持っている紙袋を取り上げ、中身を机の上に取り出した。 - 73マックイーン(シリウス)編23/01/19(木) 23:36:56
最初に見せてくれたのは古い新聞紙の様にも見える。
「これは…英字新聞でしょうか?」
「あぁ、ここをよく見てくれ。冷戦時代の頃の記事だが、アポロ計画の研究者団の中にゴルシが居る」
「えっ」
「それからこの写真を見てくれ、これは今から70年程前にイギリスの調査団がエジプトのピラミッド内部で撮影した物だが…壁画がどう見ても勝負服を着たゴルシだ…」
「まだまだあるぞ、こっちは90年代中頃に南米で撮影された写真だ。ゴルシとしか思えないウマ娘がチュパカブラにピープルズエルボーをキメている」
「他には……」
「も、もう勘弁してくださいまし…」
確かにこれは世に出さない方が良いだろう。
というよりトレーナーさんは一体どうやってこんな物を集めたのでしょうか……
その後何事も無かったかの様に、当初の目的であった海外のウマ娘のトレーニング風景を見せられたが…
その内容も、一緒に出されたお茶の味も…
何一つ頭に入らないまま私は帰路に付いた…… - 74マックイーン(シリウス)編23/01/19(木) 23:38:28
- 75二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 23:58:11
途中までめちゃくちゃ良い雰囲気のSSだったのに急転直下過ぎて笑った。
- 76マックイーン書いた23/01/20(金) 00:31:07
最初のシリウスの中の女将さんというかトレーナーの正妻なマックイーンとトレーナーの大人めの雰囲気の話なのかと思ったら一転、ゴルシでめちゃくちゃ面白くて最高でした!
- 77キタちゃん書きました。23/01/20(金) 05:52:11
一つ一つの文がすごく丁寧で宝箱という表現が笑顔の宝物にかかっていてすごく胸にきました。…と思ったら後半の雰囲気が今までと違いすぎて思わず笑ってしまいました。
あそこからあの展開にできるの本当に凄いですね…。色んなSSを書く参考にします。
面白いお話でした。
- 78マックイーン書いた23/01/20(金) 16:47:29
保守ついでに。
なんだか自分のものだけ【おまけ】とか使ったのがなんかズルしてる感あるので書けたら明後日までにマックイーンのをもう一本出したい(まぁクオリティはそんなに高くないですが)のですがスレ主さんよろしいですか? - 79二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 17:03:44
このレスは削除されています
- 80スレ主23/01/20(金) 17:16:12
- 81二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 22:29:49
深い意味は無いが色々なものを見たいので保守して行くぜ、じゃあな!また来るぜ!!
- 82二次元好きの匿名さん23/01/21(土) 07:11:06
書くので保守
- 83スレ主23/01/21(土) 15:38:38
シリウスマックイーンという育成とはまた違うタイプで非常によろしいですね
自分だけじゃなくチームのみんなもいることに喜びを感じるマックちゃんがいい子だ…
ほっこりからコメディ路線かな?と思わせてのゴルシ路線は度肝を抜かれたというかゴルシ一色に脳内が染まったマックちゃんかわいそ可愛い
発想の勝利!
後からこのスレを見つけた書き手がその気になってくれることに喜びを感じる
誰で書いてくれるのか期待
- 84マックイーン2-123/01/21(土) 17:32:36
許可も頂いたことですしマックイーンの後日談兼もう一本書かせて貰いました。まぁクオリティはそんなですが少しでもいいなと思って貰えれば嬉しいです。
「マックイーンもなんだかこの家馴染んできたね」
トレーナーさんがそんなことを言いながら私が先程飲み終わった紅茶の入っていた私専用のティーカップを片付けている。なんだかこれも見慣れた光景だ。
「ええ、なんども伺わさせて頂いていますので、トレーナーさんの次にこの家を理解してるつもりですわ」
「あはは、そうかも。この家、マックイーン以外に全然人が来ないからね」
最初にトレーナーさんの家へ来たときは緊張でテレビの中の映像と、ビニル袋の中の宝物、そしてトレーナーさんしかロクに見えなかったこの部屋も、今なら未だに入ったことのないキッチンを除けば鮮明に何があるのかがわかる。 - 85マックイーン2-223/01/21(土) 17:33:04
「ところでトレーナーさん、そろそろ見ませんか?」
私は今日、トレーナーさんの家へ訪れた本題の方に話を移した。
『大脱獄 ディレクターズカット版』
トレーナーさんが手に入れた貴重なDVD。
そもそも売られた本数が少なかったこともあり全然出回ってなかったものをトレーナーさんがなんとか手に入れた。
「それにしてもよくこのDVDが見つかりましたわね」
「あぁ、たまたま古本屋に行ったときにあってね。」
「まぁ、古本屋にあったのですね。このDVD,少々値が張っていた覚えがありますし、私からも半額ほど出しますわ!」
「いやいや大丈夫だよ。これは俺が見たくて買ったものだし、それにマックイーンは自分のほしいものにお金を使って」
「……わかりましたわ。」
納得はできない。けれどトレーナーさんの好意を無下にするわけにはいかないので引き下がることにした。
「では、DVDを付ける準備をさせていただきますわ」
「わかった。じゃあ自分はポップコーンを取ってくるよ」
テレビを付け、ディスクをセットする。
そして再生を押すと急いでポップコーンを持ってきたトレーナーさんが自分の隣に座る。
渡されたポップコーンを一つ口にいれサクリと食べてみる。ポップコーンの甘い風味が口に広がり幸せな気分だ。 - 86マックイーン2-223/01/21(土) 17:33:28
映画を見終え余韻に浸る。
まさか5次元の存在になった主人公が後日談で6次元の存在に覚醒するとは思ってもいなかった展開でチンプンカンプンな展開だったとはいえすごく感動した気がする。
「なんだか……すごい話でしたわね」
「あぁ、よく分からなかったけど凄かった」
お互いの感想に共感しあい、眼があった途端、今まで溜まっていたのであろう笑いがお互いに溢れて抑えきれなかった。
お互いに目を合わせ笑い合う。すごく幸せな気分になった。
〜
笑い終わりトレーナーさんが
「もう一回見てみないか?今度は二人で話しながらさ」
と言った。
もう一度みて理解できるものではないと思いながらも、トレーナーさんと話ながら見たらさらに楽しいかも知れない。
すぐに一緒に見たい。しかし映画を見る上で肝心なものがそこにはなかった。
「わかりましたわ。ですが、少々ポップコーンが無くなってしまいましたので追加分を取って来ますわ」
「あ、本当だ。じゃあ自分が取ってくるよ」
私は立ち上がろうとするトレーナーさんより早く立ち上がり、トレーナーさんの肩を押しもう一度座らせる。
「いえ、最初は持ってきて頂いたのでこれくらいは自分でやりますわ」
「わ、分かった。じゃあお言葉に甘えちゃうよ。ポップコーンはわかりやすいところに置いてあるからね。」
トレーナーさんに断りを入れてキッチンの中に入る。 - 87マックイーン2-423/01/21(土) 17:34:44
キッチンのポップコーンを取るだけ。ただそれだけのはずだった。
しかしキッチンというのは私にとってこの家で唯一入ったことのない未開の地。
まるで映画の中の脱出を試みる主人公たちのような気分にいつの間にかなってくる。
キッチンに入りポップコーンまであと少し。
そんな時、シンクの上に置いてあるノートがやけに気になる。
なぜキッチンにノート?いったい何が書いてあるの?
一度気になってしまったからには止められない。好奇心から魔が差し、少しだけ……とそのノートの中身を見てみた。
『特製ショートケーキ』
……!これは2回目に伺ったときのケーキだ。
『特製プリン&クッキー』
…!これは3回目に伺ったときに食べたスイーツたち。
ページを開く度、前にここで食べたスイーツのレシピがたくさん貼ってある。
ケーキやクッキー、それに今回作ってくれたポップコーンまで。
レシピはどれもトレーナーさんが自分のために考えて味付けして作ってくれているみたいだ。
それにレシピの隣には私が言ったそのスイーツの感想やトレーナーさんにとっての反省点のようなものが書いてある。どれも細かく、そして次はより私が好きそうなようにしようと書いてある。
私はつい読み耽ってしまった。 - 88マックイーン2-523/01/21(土) 17:36:20
「マックイーン、随分遅かったね。なにかあった?」
ポップコーンを持ってまたテレビの前に戻ってきた私に対してトレーナーさんはすぐに心配をしてくれた。
「いえ、特になにも問題は起こっていませんわ。ただ……」
「ただ?」
「えぇ、トレーナーさんのレシピを少し拝見させていただきましたわ」
私がそう言うとトレーナーさんの顔がみるみるうちに紅潮してあせり始めた。
「えっ……あっ……あれみたの!?」
「えぇ、読ませていただきましたわ。
美味しかったトレーナーさん特製のスイーツたちが書いてあって読んでいるだけでお腹が減ってくるほどで、読んでいてとても楽しかったですわ」
「…………ま、まぁそう言ってもらえるなら良かった……かな。
……
このポップコーンは美味しい?」
「えぇ、絶品ですわ!特に味付けも私好みの味付けで、口に含んだ瞬間広がる甘さは絶品で、今まで食べたどのポップコーンよりも美味しかったですわ!」
「…!ありがとう。気に入ってもらえて良かったよ。
そうだ!今度食べたいスイーツとかある?」
「うーん……トレーナーさんの作るスイーツなら私は全て頂きたいですわ。
ただその中でもと言うのならマカロンを頂きたいですわ」
「マカロンか…………わかった!きっとマックイーンの気に入るマカロンを作るよ」
「えぇ、期待してますわ」 - 89マックイーン2-523/01/21(土) 17:36:47
その後、トレーナーさんと二人で見た映画はやはりチンプンカンプンだったものの二人で見たこの映画はそれ以上の大切な大切な思い出になった。
学園への帰り道。
「トレーナーさん。また映画を見ませんか?」
「マックイーンが見に行きたいなら行くよ」
「では約束ですわよ。」
「うん。約束だ。」
お互い少し照れながら会話をしたと思っている。
次はどんな映画をいっしょに見ようか。
そんなことを考え、話す私達の顔が紅く染まっているのは夕日のせいではないのかも知れない。 - 90マックイーン書いた23/01/21(土) 17:38:31
一人称視点が人生初だったこともあり色々おかしいとこがあるかも知れませんが…まぁ出せて良かったと思っています。
ということで2つ目を出すことを許可してくださったスレ主さん。本当にありがとうございます。 - 91キタちゃん書きました23/01/21(土) 19:34:19
- 92二次元好きの匿名さん23/01/21(土) 22:35:32
このレスは削除されています
- 93マックイーン書いた23/01/21(土) 22:36:43
- 94二次元好きの匿名さん23/01/22(日) 02:51:37
明日起きたら書きます保守
- 95アヤベさん23/01/22(日) 03:21:19
ことの始まりは、なんとなく課題の話題を振られて答えただけ。
それなら良い資料があるから、と寮へ走ろうとするトレーナーさんを行ってまた戻るのは非効率的と制してついて行った。
すぐ持ってくるからと隣の部屋に入る背中を見送って辺りを見回す。
整理はされているものの、本棚や机の上には夥しい量の書籍で埋まっている。
──このひと、私に構う以外のこともやってたのね。
などと当然の事を考えてしまう。そう思うほどに、彼は私の前では私にかかりきりだったから。
レース理論、メンタルケア、天体観測、地図、栄養学、寝具のカタログ、ウサギの写真集、ボイストレーニング、解剖図、整形外科学。
そんな雑多な本の山の中に、表紙に"AdmireVega"と不慣れな筆記体が書かれた深い青色のファイルが目を惹いた。
ひとつ捲ると、『今年注目のニュービー』とカラフルな見出しと走る私の写真が貼られていた。
これは……私の記事をまとめたスクラップノートだ。私の足跡を追い続けた彼の記録。
写真に映る何もかも捨てようとしていた当時の私を見ていられなくて目を逸らすと、そこにお目当ての資料が。そそっかしい人。
盗み見なんてしなくてよかったと安心して彼を呼ぶと、慌ただしい反応に次いでお茶を淹れてくるから待っているようにと言い渡されてしまう。
……時間を与えられてしまった。
少しだけ。きっと"よくわからない"ものだろうと予想──あるいは期待して、ページを開いた。 - 96アヤベさん23/01/22(日) 03:21:39
記事の切り抜きの空いたスペースには補足の文章と彼が撮ったと思しい、険しい顔で走る私の写真が添えられている。
そう言えば、契約してすぐに走っているところを写真・動画で撮影する許可を求められたんだった。そんなこと、どのトレーナーもしていることなのに。
私の邪魔をしない。勝手に支える。そんな約束を、彼は未だに頑なに守っている。
デビューを果たして、ホープフルステークス。春を迎えて皐月賞、そして初めてG1を勝ち取った日本ダービー。
写真の中の私は、時を経るごとに活力のある表情に変わっていた。
そこから、夏を飛ばして菊花賞に。
──ひどい顔。皆が心配するのも当然だったわね。
各ページにはこれまで記事とほぼ同じ日付が書かれていたけど、この惨敗の記事だけは11月を過ぎてからまとめられていた。
いたたまれない気分のまま一枚めくると、頁の真ん中に写真が一枚だけ。
夜明けの砂浜で、4人並んで──2人ほど寝こけているけど──空を見上げる後ろ姿。こっそり撮ってたのね。後で問い詰めてみようかしら。
……そこから先は、宝塚記念までレースへの出走を控えていたのもあって私の記事はほとんど無かった。
代わりに、私の写真がいくつも続いた。
練習着でも勝負服で背中を向けた私が減って、制服や私服を着た私がこちらを向いている。
あの子の代わりじゃない、私が私をちゃんと生きるのを頑張る。そうしてあちこちあの人と出かけた。どこへでも、ついて来てくれた。
次第に、ページがやかましくなってくる。
トップロードさん。オペラオー。ドトウ。カレンさん。ウララさん。
あのふざけた王様やカレンさんは特にカメラ映りが良い。
完璧なカメラ目線の隣で、私の視線が少しだけ上にズレている。
私はいつからか──カメラを構えたあの人を見ている。
そういえば、バレンタインには何も渡さなかった。今更チョコレートなんて贈ったら、驚くかな。 - 97アヤベさん23/01/22(日) 03:22:18
……電気ケトルの電子音が聞こえた。部屋の主がもう戻ってくる。
何かを、と逡巡して持ち込んだペンケースの中の付箋を引っ張り出した。
まだ何も書かれていない終わりの頁に貼って、ファイルを閉じる。
深い青色のファイルを一度両腕の中に収めて。
感傷に浸る前に元の場所に急いで戻した。
慌ただしく書いた、右下がりのありがとう。
きっとあなたは見つけてくれる。 - 98アヤベさん書いた23/01/22(日) 03:23:24
- 99マックイーン書いた23/01/22(日) 10:22:30
- 100キタちゃんを書きました23/01/22(日) 10:39:52
落ち着いた雰囲気と少し不器用なアヤベさんがとても良かったです。
菊花賞以降のアドマイヤベガとして生きていくのを決めてからは色々な表情のアヤベさんの写真が写るようになるのが変わってきた関係を表しているようで微笑ましく思いました。
温かい気持ちになりました。自分もこのような話が書けるようになりたいです。これからも頑張ってください。素敵な話をありがとうございました。
- 101二次元好きの匿名さん23/01/22(日) 13:49:31
書いてるけど最後ほのかに甘くなるくらいで、なおかつ長めなんですが問題ないでしょうか。
ここのお題で書いたのでここに貼れたら嬉しい反面、本来求められている内容からはかけ離れているような気もして、スレッドURL引用してスレ立てした方がお邪魔にならないかなと思ったりもしています。 - 102スレ主23/01/22(日) 15:24:04
- 10328と94のナカヤマ 1/623/01/22(日) 16:08:15
スレ主さんありがとうございます!
冒頭から改変しまくってますが、切り抜き記事のファイルを見てしまった話ということでご勘弁ください。
全部で6レス失礼します。
***
"挑戦者たる新人は奇策を衒うも世界レベルを前に大敗。呼子鳥の雛は孵らず。──法螺吹きの狼少年が救える世界は果たして存在するのだろうか。"
雌伏の時を経て、アタマ差2着だった凱旋門賞に再び挑戦する──国内の期待と惜敗の記憶を再びまとい飛び立つことを宣言した怪鳥・エルコンドルパサーと、フリーレース場で開催されたエキシビションでの衰えを感じさせない雄姿。それを褒め称え人々の熱望をふくらませるかのような大見出しと、今後の展望インタビューの抜粋。
私と私のトレーナーのはじまり。それは、きらびやかで華々しい一面記事の隅にある。
フリーレース場ゆえに整備もほとんどされていないゴール板を駆け抜けるエルコンドルパサーの、その雄大な後ろ姿を撮影した写真に添えられた、皮肉めいた一文。『挑戦者』『新人』『呼子鳥(カッコウ)』『法螺吹き』『狼少年』──名すら残されることはなかったのは善意なのか悪意なのか。記者というのは人の認識の境目をうまくついてくる。エルコンドルパサーの海外再挑戦会見なんて注目を集める場に乱入し挑戦状を叩きつけ、敢え無く敗北し恥を曝したメイクデビュー前のウマ娘を守る意図だと言われればそうとも取れる。
付き纏う醜聞を払うにはそれ相応の結果が必要だ。たとえ、人々の柳眉を逆立てるような振る舞いをしたとしても、メイクデビュー前で、なおかつ未成年で世間を知らない少女なら──事実を並べただけでも逆に顰蹙を買うことだって考えられるのが、今の世の中だ。もっとも、誰もが誰かに向けるための刃を研ぎ澄ましているのは、今にはじまったことではないが。
- 10428と94のナカヤマ 2/623/01/22(日) 16:11:17
*
トレセン学園敷地内に存在するトレーナー寮。充てがわれている一室は、いつ訪れてもどこかしら散らかっている。足の踏み場もない程に物が散乱している訳ではない。全自動掃除機が我が物顔で闊歩しても問題ないくらいに床面は整然としている。ただそれは、あくまで導線の話。
「ナカヤマ、机の上片しておいてくれる?」
「へーへー」
それが招待した客に対する態度かよ、と思わなくなり久しいくらいに──トレーナーの部屋の全自動掃除機の領域外は、相変わらずの状態だ。パソコンデスクの周りには冊子やら書籍が凸凹に積み上げられ、トランプタワーに挑戦してんのかと言わんばかりのバランスを保っているし、整頓には至っていない本棚の並びはまさに雑然。眺めるたびによくどこに何があるか分かるなと思うものの、問えば目的の書籍をためらうことなく引っ張り出してくるので、何らかの規則性はあるらしい。
外出の帰りがけ、コンビニで買ったスナック菓子が入ったレジ袋をソファに置いて、テレビ前のローテーブルに対峙する。
おいおい今日はとくに酷い有様じゃねぇか。作業用としては狭い硝子のローテーブルの上には、ハサミやらペンやら細い紙切れやらが無造作に広げられていて、それこそ足の踏み場がない景観だ。
今からここにマグカップのコーヒーが用意され、スナック菓子が開かれるには、まったくもって邪魔がすぎる。机の隅にひっそり鎮座していた筆箱の中に文房具を適当に詰めていた矢先、開かれたままだったファイルの内容に視線が落ちる。
「随分と懐かしい」
それは、私が初めてマスコミに取り上げられた、記念すべき記事と言っても過言ではないだろう。もっとも、取り上げられ方は惨憺たる有様ではあったものの──退路を完全に断ち切り、サイアクな勝負を始めたあの一幕は、未だ、昨日のことのように鮮明に脳裏をよぎる。背筋が凍り、臓腑も凍り、首元にナイフを突きつけられたときのような純然たる恐怖。暴れる心臓を愉悦に塗り替えて、これから乗り越えていかなければならない『世界』に立ち向かった、あの一瞬。
──メイクデビュー前のウマ娘は本来、もっと丁重に扱われることが多い。国民的エンターテイメントの影に潜む悲喜交交を好む層は存在しているものの、そんな悪趣味は身を寄せ合って表舞台には出てこない。それゆえに、私の取り扱われ方は、ある意味で『特別』だったのかもしれない。 - 10528と94のナカヤマ 3/623/01/22(日) 16:11:49
入りきらなかったスティック糊やらハサミやらを筆箱の側に並べ、次は何かを切り取ったあとを思わせる紙片の山に片手を伸ばす。もう片手はためらうことなくファイルをめくる。出してあるんだから見るなというのは酷ってもんだろ? もっとも──何かを切り取ったかのような紙片の山に、切り取られた部分がおさめられたクリアホルダーを見れば、めくられた先になにがあるのかは察せられるというものだ。
『狼少年』は、メイクデビューをはじめ幾つかのレースを経て、京成杯へコマを進める。そこから皐月賞に直行し、日本ダービーに挑み、夏を迎える。けれど世を賑わしていたのはティアラ路線のお嬢さんたちで、クラシック路線への注目は今ひとつ。『世界』を救うには衝撃が足りず、まさにその時の私もまた、──敬愛する『先生』の『世界』を──その身を蝕む死の病から守ろうと奮起している頃合いだった。もっとも私は医者じゃない。自らが走ることで先生に希望を抱かせるだなんて大それたことを掲げて、凪いだ海面を必死に進む、憐れな小舟のようなものだった。
夏を越え、いくつかのレースを経て、菊花賞へ。それから中日新聞杯。スクラップされている記事は各種新聞、ネット記事と多岐にわたっていたが、取り上げられ方はシンプルなものだ。紙面の3分の1を思わせるサイズなら、おそらく残り3分の2はティアラ路線の話題ではち切れんばかりだったんだろう。クラシック路線がけして侮られているわけじゃあなかっただろうが、それだけ、あの『絶景』が描いた『世界』は常世の春のごとき豪華絢爛で、ひとびとの視線を釘付けにしてきていた。
「……ひっでー顔」
サイズも長さもばらばらな紙片を束ねて折り畳み、散らばらないようまとめてから、傍らのゴミ箱に放り込む。秋シーズンの私はつねに追い詰められたような表情を浮かべている。レース中でもパドックでもゲート前でも。これを鬼気迫ると表現出来れば良かったが、先生の病に関する経過が心にのしかかり、無我夢中で駆けることしか出来ていない。精彩に欠けているとは言わないが、少なくともエルコンドルパサーとのエキシビションの時のような生狂いしたものとは程遠い。 - 10628と94のナカヤマ 4/623/01/22(日) 16:12:46
ここまでくれば悪趣味な取り上げ方をするマスメディアも減ってはいたが、写真のチョイスはもう少しマシにならなかったものか。悪くはないが良くもない。……そして、そんな状況であると理解した上でこうして記事をまとめ残すトレーナーも、悪趣味といえば悪趣味なのかもしれないな。
と。
まだスクラップされていない記事をまとめ角を正して空のクリアホルダーにまとめてぶち込み、ファイルのページをめくった、そのタイミング。
「あ」
物音、足音、それから聞こえてきたのは、トレーナーの呆けた声だ。そちらに視線を向けると、キッチンから出てきたトレーナーが盆を手に硬直している。盆の上に並ぶのは湯気がのぼるマグカップで、さきほどからかすかに漂ってきていたコーヒーの香りが強くなる。
「ご命令通り片付けといたぜ? これでさっきの賭けはチャラでいいな?」
ここに来るまでのひと勝負にてトレーナーが得た権利を一方的に剥奪しつつ、私はすっかり片付いたローテーブルを指し示す。対するトレーナーの表情はなにやら動揺に染まっていて、思わぬ反応に首を傾げる。なんにせよ棒立ちのままコーヒーを冷ますのももったいない。眺めていたファイルを手にし、背後にあったソファに腰掛けると、トレーナーの時間は動き出したようだった。ガラステーブルに私のマグカップが置かれて、トレーナーは自らのマグカップを両手で抱え、なにやら落ち着きなさげな風情でソファに腰を落ち着ける。……ちらちらと、私の膝上で開かれた、私の記事であふれるファイルを見遣りながらも。──なるほど。
「見られたくなきゃ出しっぱなしにしてんなよ」
「はい……」
出しっぱなしどころじゃない、開きっぱなしだったじゃねぇか……と追討ちをかけるのはやめておく。かといってページをめくる手を止めてやるわけじゃないがね?
中日新聞杯後はこれといったレース関連の記事はない。ファン感謝祭だのの学園行事だとか、興行目的のレースだとか、その手のライトなものが続く。このあたりの私は峠を越えて、ターフを駆ける覚悟を決めた頃合いか。まぁまぁ明るい雰囲気だとか、肩の力が抜けた表情だとかが切り取られた『写真』が、まとめられている。
「……隠し撮りか? 随分な趣味だな?」
「いや違う、……君のファンだとか、新聞社から貰ったものだよ」 - 10728と94のナカヤマ 5/623/01/22(日) 16:15:15
歌う様、踊る様、イベントのひとコマ。……カフェテリアで昼食を食う様、ダンスレッスン、……寮の部屋……? なんだこれ。
「君の友だちもくれたから、その」
「……」
まさにしどろもどろといった体。口をつけていないマグカップをテーブルに置いてろくろでも回してんのかとばかりに両手で何らかのジェスチャーをし始めるトレーナーには、特大のため息を聞かせてやるだけで溜飲を下げることにする。
「コーヒー冷めるぜ?」
そう言いつつ私もマグカップをかたむけて、さらにファイルのページをめくる。いくつかのレース結果の切り抜きを経て、たどり着いたのは宝塚記念だ。すみれの咲くころよりも後、夏がはじまりを迎える前。ジャイアントキリングを成し遂げて、きらめく舞台のセンターで踊る私が、1枚のクリアホルダーにおさめられている。 - 108二次元好きの匿名さん23/01/22(日) 16:16:41
このレスは削除されています
- 109二次元好きの匿名さん23/01/22(日) 16:17:06
このレスは削除されています
- 11028と94のナカヤマ 6/723/01/22(日) 16:18:33
このあたりからだっただろうか。かつて『狼少年』と揶揄され『世界』を救えるかと疑問視されたウマ娘が、スポットライトの下に躍り出ることを許されたのは。かつての凱旋門賞ウマ娘モンジューを迎え撃った日本総大将の胸を借り、『狼少年』はジャパンカップに歩みを進める。立ちはだかるは怪鳥・エルコンドルパサー。いつかのフリーレースぶりの対戦を制し──『狼少年』と呼ばれることのなくなった私は、『世界』を救う権利を手に入れた。凱旋門賞一着、これまでたくさんのウマ娘たちに望まれてきた期待を一心に背負い、家柄なくとも華がなくとも醜聞から始まろうとも、誰かの希望になれるのだと。そう──叫ぶために。
記事や写真のスクラップがそこで終わっているのは、さきほどまとめたまだ手のつけられていない記事のコピーやらなんやらがそれ以降を対象としているからだろう。ファイルをとじてローテーブルに置けば、隣に座るトレーナーがほっと息をついたようだった。
一年の延期を経て挑んだ凱旋門賞では、良い結果を残すことができた。クラシックの秋、死の淵を彷徨っていた先生は生きる気力を取り戻し飛行機旅が出来るほどまで回復し──かくして私は、少なくとも、先生の『世界』は救えたようだ。
「なぁトレーナー」
スナック菓子を開けると、弾かれたようにトレーナーが立ち上がった。なにも思い出のアルバムを検めるために招かれたわけじゃない。目的は次の賭場、心臓をヒリつかせることのできるレースの選定だ。なんでも貴重な映像資料を入手したとかなんとかで、視聴環境がいまいちなトレーナー室よりもテレビやらレコーダーやらの性能がいいトレーナーの自宅が選ばれて、招かれた。となれば、その映像資料とやらを見る準備も必要だ。そのことに思い至ったのだろう、わたわたと準備をはじめるトレーナーの背中をそっと見遣って──私は、悟られないよう、唇に笑みを乗せる。 - 11128と94のナカヤマ 7/723/01/22(日) 16:19:09
「アンタ、私のことが好きだよなァ」
どんな辛いときも、どんな苦しいときも、アンタは私の傍にいた。どんな記事でも収集し、大切なもののようにまとめあげ、──不服といえば不服だが、私の知らない写真までに手を出して。担当ウマ娘バ鹿とは言ったもの。
見目は悪くはないが可愛げとなれば地を這う自覚は大ありだ。今だって、からかうように、試すように、──言葉が唇から転げ出る。
「うん、君のことが大好きだよ、ナカヤマ」
それはまるで茶化すなと言わんばかりに。
レコーダーの準備を終えたトレーナーは、──それだけは自信があるとでも言うかのように。
その後、クソみてぇに素直なトレーナーの可愛げをもう少し見習えだとかなんとか、私が周囲からやいのやいのと言われるようになるのは、ま、別の話だ。
終 - 11228と94のナカヤマ23/01/22(日) 16:21:34
- 113二次元好きの匿名さん23/01/22(日) 16:39:39
あと冒頭のアタマ差間違えてます1/2バ身差です……大変失礼しました。お許しください……
- 1141/623/01/22(日) 20:26:21
「ふぅ、ただいまーっと」
「ふふっ! おかえりなさい、ですね」
「そこはお邪魔しますじゃないの? ……まあいいか。荷物半分持ってくれてありがとうね、クリーク」
「いえいえー、これくらいならどうってことありませんよ~♪」
ある日、私──スーパークリークはトレーナーさんと一緒に、お買い物へ出かけました。
トレーニングに使う消耗品、日用雑貨、トレーナーさんのお洋服、ご飯の材料……たくさん買ってしまいました。
「いっぱい買ったなあ……とりあえずテーブルの上に置いておいて。先に用事を済ませちゃおう」
「…………あっ、はーい」
「その反応ってことは、トレーナー室じゃなくてここに来た理由、忘れてたね?」
「ごめんなさい。お買い物が楽しくて、つい」
そう、トレーナーさんのお部屋にお邪魔した理由は荷物を置くためではないのです。
その理由とは、映像資料を二人で見て研究するため。なんでも、貴重なビデオを入手したとのことでした。
トレーナー室の備品でも再生はできますが、少しでも良い画質で見よう! とトレーナーさんが提案してくれたのです。
あの時のトレーナーさんの無邪気なニコニコ笑顔、と~っても可愛かったですね……♪
「全く……適当に座って待ってて。先に飲み物とおやつ持ってくるから」
「あら、それなら私が」
「いいからいいから。家主の仕事だし、買い物に付き合ってくれたお礼も兼ねてだから」
「そうですか~……それなら、お待ちしてますねー」
私がそう言って座り込んだのを確認すると、トレーナーさんはキッチンへ。一人残され、私は何気なしに部屋を見渡します。
何度か訪れたことのあるトレーナーさんのお部屋。
最初は少し散らかっていましたが、今ではお友達を呼んでも大丈夫なくらいに整頓されています。 - 1152/623/01/22(日) 20:26:55
「……?」
綺麗に片付いていれば、その分だけ見通しが良くなるのは当然のこと。
私の目に留まったのは、目立たない物陰に置かれた箱。そこから覗く一冊のファイルでした。
「これは、なんでしょう……?」
開く前から分かるのは、どうやらちょっと古い紙が幾つも綴じられている、ということくらい。
トレーナーさんのお部屋にあるのですから、十中八九トレーナーさんの持ち物でしょう。
ですから、本当はトレーナーさんにお伺いを立てなくちゃいけないのですが……この時は、好奇心が勝りました。
少しだけ。ちょっとだけ確認して、すぐに戻しましょう……そう考えていた私が見たのは──
「……これ、って」
『──【今週のメイクデビュー勝利ウマ娘】────、スーパークリーク(阪神・芝2000)、──』
──私がメイクデビューで勝利したときの、小さな小さな、記事の切り抜きでした。 - 1163/623/01/22(日) 20:27:09
写真も解説もない、ただメイクデビューで勝利したウマ娘たちの名前が並んでいるだけの記事。
よく目を通さないと簡単に見落としてしまうような、小さな切り抜き。
それを丁寧に、中心部に貼り付けた紙が、最初のページに大事そうに綴じられていました。
「……っ!」
ページを捲っていけば、色々な記事が切り抜かれ、丁寧に紙に貼られて綴じられているのが目に入ります。
『【来年のクラシック戦線、期待の有力ウマ娘】──、「──僕はスーパークリークですね。彼女の走りはイイですよ」』
『──【すみれS、強いレースで勝利したスーパークリーク! 春へ向けての意気込みを聞いた】』
『────【クラシック有力候補スーパークリーク、戦線離脱か】──、「惜しいですね」「トレーニングの影響が──」』
──白紙のページ。
『──【クラシック三戦目、菊の舞台で咲いたのはスーパークリーク!】』
『【三冠目を制したスーパークリーク、その雌伏と雄飛】──【菊花賞ウマ娘スーパークリーク、有マ記念へ】』
『────【スーパークリーク、シニア王道路線へ向け始動】──【特集:大阪杯に懸ける思いを問う】』
『──【天皇賞・春特集! 注目はあのウマ娘!?】──【春の盾、その重み】──【菊か、有マか。それとも】』
『────【春秋連覇なるか!? スーパークリーク、天皇賞・秋へ】──【鹿毛のマ王、その素顔とは】』
『【偉業達成! "天皇賞ウマ娘"スーパークリーク!】──【雪辱を果たせるか、スーパークリーク有マ記念に登録】』
レースで勝利したときの記事。記者さんの取材をお受けしたときの記事。ウィナーズサークルでのインタビュー記事。
最後のページには、この間走ったレースの記事もあります。
少しずつ増えていく切り抜きは、紛れもなく──私の辿った軌跡そのものでした。 - 1174/623/01/22(日) 20:27:44
「トレーナーさん……」
色んな気持ちで胸がいっぱいになり、私はギュッとファイルを抱きしめました。
そうして、気付きます。
「……あら?」
ファイルが入っていた箱の内側に、他にも何かが入っていました。
そっと覗きこめば、そこにあったのは数冊のノート──恐らくトレーナーさんがお勉強に使っていたものです──と、
「……アルバム?」
トレーナーさん自身のアルバムでした。
ファイルと同じように開いてみれば、まず目に入るのは赤ちゃんの寝顔。
つかまり立ちする赤ちゃんの写真、ケーキを前に笑みを浮かべる幼児の写真、入園式の看板の横に並んだ子供の写真。
……沢山並んだ写真を見ていくと、少しずつ、私のよく知るトレーナーさんに近づいていきます。
最後のページ、一枚だけ貼られた写真は──トレーナーバッジを誇らしげに着けた、トレーナーさん。
日付を見れば、私と出会う少し前。つまり、新人トレーナーとしてトレセン学園に来たときの写真ということでしょうか。
なんだか無性に愛おしさが込み上げてきて、思わずこのアルバムも抱きしめ──そうになった、その時。
「──なんだか、思いのほか時間かかっちゃった……クリーク、お待たせー」 - 1185/623/01/22(日) 20:28:11
「クリーク、お待たせー。寒かったからココアにしたよ……って、それは……」
「……あっ、ト、トレーナーさん!?」
ココアとお菓子をお盆に乗せて、キッチンからクリークが待つ部屋へ戻ると。
そこには、隅に寄せていた箱とその中身、そしてアルバムを手にわたわたと慌てるクリークの姿が。
「……見ちゃった?」
「……はい」
「そっか」
「そのぉ……ごめんなさい、トレーナーさん」
イタズラを咎められた子供みたいに、しゅんと項垂れるクリーク。
その頭にポンと手を置き、優しく撫でてあげる。落ち込んだとき、いつもクリークがするみたいに。
「別にいいよ。見られて困るものじゃないし」
「そう、ですか……?」
「まあ、元はと言えば、ココアとお菓子の準備に手間取っちゃったからだし」
「……うふふっ。やっぱり私がお手伝いした方がよかったでしょうか?」
そう言って、彼女はふわりと優しく笑う。いつものクリークだ。 - 1196/623/01/22(日) 20:28:29
「それにしても、トレーナーさんがこんなファイルを作って下さっていたなんて~……」
「あっ、そっちも見たんだ……いや、よく考えれば当然か。箱の中に入れた順番からして、それが一番上に来るもんね」
アルバムを片手に、クリークがもう片手で持ち上げたのは、記事の切り抜きを集めたファイル。
幼少期からのアルバムを見られるのも恥ずかしいが、切り抜き記事たちを本人に見られるのもそれはそれで恥ずかしい。
「私、と~っても嬉しいんです。小さな記事から、最近のものまで。私のこれまでを、こんなに集めてくれていたんですね」
「うん。大事な担当ウマ娘との、大切な思い出だから」
「私との、思い出……あ。ご自身のアルバムと一緒の箱にあるのって、もしかして」
「……うん。クリークのこれまでの道のりは、まさしくそのアルバムの続きだから」
「……トレーナーさん」
「……なんてね。君の活躍を自分のものにしちゃうみたいで、ちょっと申し訳ない気もするけど」
そう言うと、クリークはゆっくり首を横に振り、そしてアルバムとファイルを一緒に抱きしめた。
「私の──スーパークリークの活躍は、トレーナーさんと一緒に歩んできた証です」
「うん」
「だから、トレーナーさんのアルバムの続きが、私のこれまでを集めたファイルで……とっても、と~っても、嬉しいです」
「……うん。ありがとう、クリーク」
「そうだ、トレーナーさん! 一緒に写真を撮りましょう~!」
「えっ、一緒に?」
「はい! だって、このファイルはアルバムの続きなのに、トレーナーさんのお写真が一枚も無いじゃないですか~」
「まあ、確かにそうだね」
「ですから、はい、こっちへ来てくださ~い♪」
「今から撮るの!?」
結局、クリークの勢いに押し切られて、彼女と並んで写真を撮った。
後日現像したその写真は、クリークたっての希望で、切り抜き記事たちと一緒のファイルに収められたのだった。 - 120二次元好きの匿名さん23/01/22(日) 20:32:45
- 121マックイーン書いた23/01/23(月) 00:12:33
- 122スレ主23/01/23(月) 01:27:49
史実戦績とシナリオに沿いつつアヤベさんの描写が鮮やかになる様子が克明に伝わってきます
アヤベさんを取り巻く人々の中にトレーナーもしっかり存在していることに読んでてときめく…
気付かれないパターンだけどこっそり仕掛けるのがまた憎いですね
最後の一文が温泉まで行った仲だな…と思わせて好きです
前回のナカヤマトレさんですね
相変わらず退廃的な雰囲気を感じる序盤の描写がすごく好みです
お題関係無しにナカヤマの日常的なものをもっと書いて欲しいくらい
強いナカヤマと責められるトレの関係も好き
過去を振り返るナカヤマの独白にシナリオに興味が湧いて「育成したい!」欲が…
序盤からほのぼの仲の良い関係が垣間見えて可愛らしい二人だなと感じました
クリークの軌跡に自分の生きてきた思い出も一緒に添えるという発想のトレーナーにクリーク大好きだというのが伝わってきます
ウマ娘の今までにトレーナーとのこれからも、と考えるウマ娘は健気可愛い
性別不問の書き味も難易度が高いのに違和感なく仕上げる筆力に尊敬です
- 123キタちゃん書きました23/01/23(月) 05:27:55
- 124二次元好きの匿名さん23/01/23(月) 09:12:45
「トレーナーさんって、私のこと、好きなんですか?」「もっ」
……あまりにも突然のことに、食べていたドーナツが喉に詰まる。
二人掛けのソファの横に座ったまま、過去のレース映像が流れるテレビ画面を見ていたから、彼女の表情やしぐさは分からない。
が、いつもの彼女―サイレンススズカの声よりも、少しだけ緊張していた気がする。
「んぐっ……ど、どうしたの急に」「……その、さっきの」「ああ……」
かろうじて飲み込んで、改めて質問の意図を問いかける。
やはり、さっき見つけたスクラップブックを気にしていたみたいだ。
「えっと……好き、だよ」「何が、ですか?」
意を決して答えたというのに、彼女はさらに俺を詰めてくる。困った。顔が見れない。
声の方向とかからして、たぶんこっちを見てるし、さっきより近い。ソファに置いた彼女の手が動く音が聞こえる。
「あー、その……走るスズカのことが好き、です」「……」
……こんなオッサンの赤面なんて、誰も得しないだろうというのに。
とはいえ、はぐらかしたりするのも良くないだろう。スズカも何か考えがあってこうして聞いてきているのだから。
「……そう、ですか」「うん」
スズカの声は、少し残念なようにも聞こえた。そして、声が遠くなる。
まだ恥ずかしさで彼女の顔をしっかりと見れないが、何を思っているのだろう。
「トレーナーさんは、走っている私が、好きなんですね」「え、あ、その……はい」「……そうですか」
改めて確認されたが、何か強調されている部分は気になる。
とはいえ、それ以外に答えようがないというか、俺だってもういっぱいいっぱいなのだ。これで許してくれないかな。
何か不満そうではあったが。
「今は、それで我慢します」
彼女の声は、また少し近かった。
でも、困ったな。結局、ちゃんと伝えられずに誤魔化してしまった。いつか、ちゃんと伝えたいけど。 - 125二次元好きの匿名さん23/01/23(月) 09:13:44
前回に続いてスズカさん書きましたなの
辻斬りは1レスが自分ルールなのでギチギチに詰めたけど正直苦しいの - 126二次元好きの匿名さん23/01/23(月) 16:51:43
いい…
「スズカの走る姿が好き」じゃなくて「走るスズカが好き」なのが本当にいい
そして
>彼女の声は、また少し近かった。
これが狂おしいほど好き
1レスで綺麗に纏められてるのも合わせて参考になる…
- 12728と94のナカヤマ23/01/23(月) 18:03:40
いろいろ説明足りなかったな~と思いつつちょっと補足すると、キャラスト4話まで読まれた方はご存じかもしれないのですが、凱旋門賞に再挑戦しますよ! なエルの会見に、「その凱旋門賞を勝つのは私だ」とナカヤマが乱入してきています。
その際、王者のエルに対してメイクデビュー前のナカヤマの大言壮語を『狼少年』と記者が称していたのが今回のお話の胆でした。狼少年が本来救おうとしていたのは彼の住む村だったわけなのですが、まあどうせなら世界を救うにしたという塩梅です。
感想いただき感謝です……!
このシチュエーションだとやっぱり振り返りをさせたくなってしまいます。特に彼女の場合は思い出のはじまりはメイクデビューではなくエルとの対決なので、振り返らせたい~ってなりました!!
感想も失礼します!
用件も聞かずに即答しちゃうマックちゃんかわいい……かわいいですねえ?! まるで素数を数えるがごとく淑女の振るまいを言い聞かせるところもそれはもうかわいらしくてにやにやしています。
そしておまけ! オリジナルスイーツ!!! 未来の小話で二度おいしかったです、ごちそうさまでした!
- 12828と94のナカヤマ23/01/23(月) 18:04:04
このたびもお邪魔させていただき感謝です……どうも出力すると可愛げがどこかに消えるんですが、実際のナカヤマ育成シナリオはもうちょっと可愛げがある……あるはずなので……本人の可愛げがあるはずなので……! ご縁ありましたらぜひ!
ちなみにこの掲示板でもナカヤマとトレのお話はちょこちょこ書いておりますので、巡り合わせがありましたら「あ、あいつだ!」って思っていただけたら……
せっかくなので感想も書かせてください!
タマちゃんとトレのささやかな漫才は仕事の疲れによく効きます。ビーズクッションでダメになっちゃうタマちゃんがあまりにもかわいい……。
「タマモがナシでも俺はアリだから」
「屁理屈か!」
ここもかわいすぎて最初拝見したときたいへんニヤニヤしました。いつまでもなかよく夫婦漫才してください。お願いします!
おまけや短文もよい……タマちゃんのツッコミが大好きです……。
感想いただき感謝です!
この最後の遣り取りを書きたいがためにそれより前を構築したので、そう言っていただけるとたいへん喜びます! うまく書きたいところが伝わっていてほっとしました!
せっかくなので感想も書きます!
初っぱなから私事なのですがこの正月、キタちゃんがゲートから出てきてくれまして、とってもとってもニコニコしながら読みました。キタちゃんこういう子……!!! こういう子ですよね……ってしみじみしています。
有馬記念の記事のページにキタちゃんがメッセージを追記するところ、とってもぐっときました。キタちゃんならこういう言葉書きますよ……書きます……!
- 129二次元好きの匿名さん23/01/23(月) 18:05:03
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- 130キタちゃん書きました23/01/23(月) 18:08:13
- 131スズカ被ったマン23/01/23(月) 22:26:55
「それじゃあお茶でも淹れてくるから、ゆっくりしてて」
「はい。ありがとうございます」
トレーナーさんとお出かけした帰り、海外レースの資料を一緒に見ないか、ということで自宅に誘われた。来週に見る予定だったがせっかくなら大きい画面で見た方がいいだろう、と。
「ここがトレーナーさんの普段暮らしている部屋……なのよね」
初めて入るトレーナーの部屋。成人男性の部屋にしては質素で、本棚には資料が整頓して並べられている。ただ、急に人を呼んだこともあるのだろう。机の上には読みかけのトレーニング教本やノート、栄養ドリンクの空き缶が置かれていた。部屋を見渡すと綺麗ではあるが、所々からトレーナーの日常を感じる。
ゆっくりしてとは言われたものの、やはり少し落ち着かない。無意識にソファから立ち上がり、ぐるぐると旋回してしまう。すると目線が下がったからだろうか、ベッドの下に置いてある箱に気がついた。
「これは……?」
人の部屋で物を漁るなど褒められたことではないが、異質な存在感を放つその箱に興味を惹かれ、ついつい手に取ってしまう。仄かな高揚感を感じながら箱を開けると、一冊のファイルが現れた。 - 132スズカ被ったマン23/01/23(月) 22:28:00
「何のファイルかしら?」
表紙には何も書いていないが、厚みはかなりのものだ。トレーナーが普段持ち歩いているレース資料や、トレーニング用の資料とは様子が違う。気になり表紙をめくってみると、自分がメイクデビューで勝利した時の記事が目に入った。
続けてめくると、ほとんど名前だけの小さな記事から、勝利インタビューの記事、雑誌で取り上げられた時の記事も切り抜かれていた。記事の周りにはトレーナーのメモが書かれている。おそらくは自分と出会ってからの日記のようなものなのだろう。
「『サイレンススズカに声をかけると左旋回を始める謎のイベント』……ふふ……」
懐かしい記事に思わず笑みがこぼれる。スズカはしゃべることが得意ではなく、初めの頃は受け答えがうまくできずに記者やファンを困らせたものだった。
今でこそインタビューやファンサービスも慣れたものだが、それもトレーナーが何度も練習に付き合ってくれたおかげだ。スズカが何かをする時にトレーナーが"ご褒美"を用意してくれるようになったのもこのイベントの頃からだっただろうか。 - 133スズカ被ったマン23/01/23(月) 22:29:04
「ウソでしょ……こんなことまで……」
ふとトレーナーのメモに目をやると、ご褒美に対してスズカが何を喜んでいたのか、どんな反応をしていたかまで細かく書かれていた。
次のご褒美のために書かれたものなのだろうとは思うが、自分がどんな様子だったのか客観的に突きつけられてしまうとどうしても顔が熱くなる。
「うう...…は、はずかしい……」
羞恥心を紛らわせるようにパラパラとファイルをめくっていくと、ウイニングライブのチケットがまとめられたページを見つけた。
メイクデビューから最近のものまでこれまでに走ってきたレースが順番に並べられており、丁寧に保管されている。
「あれ?このチケットだけどうしたのかしら?」
どのチケットも綺麗に保管されており、それだけに少し汚れたチケット、天皇賞(秋)のチケットが目立っていた。よく見ると一部のインクが滲んでおり、シワが寄っているようだ。
あの日、雨は降っていなかったはずだし、第一、雨が降った日のチケットも濡れた様子はない。怪訝に思い記憶を引き出していく。
レース前の重い空気、他のウマ娘たちの鼓動、走った先の綺麗な景色、レース場を包む歓声、ウイニングサークルで自分を迎えたトレーナー。全てが鮮明に思い出せる。 - 134女帝の軌跡123/01/23(月) 22:30:31
「このファイルは…」そう言いながら一冊のファイルを手に取るのは"女帝"エアグルーヴ。
今日は日々のストレス発散でもあるが自分の杖たるトレーナー宅の掃除に勤しんでいた。「これでよし…」と辺りの掃除を終えた時、偶然にも普段は鍵がかかっているトレーナーの机の引き出しが空いていた事に気が付いた。人の机の中を確認するのは躊躇いがあるが部屋掃除の一環なら仕方がないと引き出しを開けたところ、今に至るのである。
「あいつの事だ…厳重にしていたのなら余程見られたくないのだろう…」と恐る恐る開いてみるとそこには自分のデビュー戦からの新聞の切り抜きが姿を現した。「あの時のレースか…懐かしいな…」とファイルを捲っていく。切り抜きにあるのは大小問わず自分の事が掲載されている部分である。「あいつにもマメな所はあるのだな」と感心していたが同時に違和感を感じていた。その理由を考えあの男に問いただす事が朧げに浮かんできたその時、不意に後ろから声が聞こえてきた。
「グルーヴ…それは…」
「……!…なんだ貴様か…まったく…それはさておきこのファイルについてだが…」
「ちょっと変だと思うけど記事を纏めて君の歩んできた軌跡を残そうと思ってね」そう恥ずかしげに答えたトレーナー。
「そうか…まぁいい。少しこれについて問いただしたい事が…何を慌てている?」
「!!!」 - 135スズカ被ったマン23/01/23(月) 22:31:11
『おかえり、スズカ……!』
よくよく考えると、あの時のトレーナーはいつもと様子が違っていた気がする。目は少し赤くなり、声が震えていて──
「……!ふふっ……!」
合点がいき、笑っていると隣の部屋から足音が聞こえてきた。そろそろ準備を済ませたトレーナーが戻ってくるのだろう。スズカはファイルを箱に入れ、丁寧に元の位置に戻した。
「おまたせ、部屋でも見てたの?面白いものなんてないだろうに」
「そんなことありませんよ。それに……」
「うん?」
「いえ、やっぱり何でもありません」
「えー?なんか気になるなあ」
変なもの置いてたかなあと部屋をキョロキョロ見渡すトレーナーを横目で見つめる。ファイルを勝手に覗いたことは黙っておこう。きっとトレーナーは恥ずかしがってしまうだろうから。 - 136スズカ被ったマン23/01/23(月) 22:31:54
「トレーナーさん」
呼びかけるとトレーナーがこちらを向く。
「ありがとうございます」
「え?ど、どういたしまして……?」
困惑するトレーナーをよそにスズカはふわりと笑う。
「ふふふっ」
「まあ、スズカが楽しそうならいいか……」
再びファイルが開かれ、二人で眺めることになるのは、また別のお話。 - 137二次元好きの匿名さん23/01/23(月) 22:37:48
- 138女帝の軌跡223/01/23(月) 22:43:30
そう言われたトレーナーは明らかに動揺していた。何か見られたくないものがあるような…それに分かりやすく奥の引き出しに視線が動いていた。だがそれを見逃す彼女では無かった。視線の先に目を映せばもう一つファイルが仕舞われていた。
「まさかとは思うが、法に反するそれでは無いよな?」そう言いつつもう一つのファイルを開くとそこにはー----
ライブの時の、学園祭の時の、夏合宿の時などのエアグルーヴの様々な写真がファイルに纏められていた。
「こ…これは…」想像と反したこと、まさか自分の写真であることに不意を突かれたエアグルーヴ。
「ごめんな。どうしてもレース以外での君の事も軌跡の一つとして大切にしたかったんだ」と申し訳なく話すトレーナー。
(ここまで私一筋とは…)と驚きつつも嬉しく思いページを捲るエアグルーヴ。しかしそれと同時に違和感は確信へと変わった。
「貴様…一つ聞きたいことがある…」
「…どうしたの?」
「何故二つのファイルに貴様は一度も出てこないのだ」 - 139女帝の軌跡323/01/23(月) 23:02:30
彼女が抱いた違和感と確信…それは自分の記事や写真を纏めているにも関わらず、女帝の杖たるトレーナーの方が何一つ写っておらず記載もされていないのだ。
「この記事も一部不自然に切られている部分がある。これはどういう事だ」と強く迫るグルーヴ。
トレーナーは観念したかのように「女帝の軌跡の主役は君だよグルーヴ。それに好敵手や友、家族が君を盛り立てる。だから杖は脇役でいいのさ」と話す。
「まぁこっそりとやってた事は悪かっ…」
「たわけ!!!」彼の言葉を遮るようにグルーヴの声が響き渡る。「貴様は自分が何を言っているのか分かっているのか!?」「確かにここまで女帝としての道は会長のような目標やブライアンやスズカのようなライバル、ドーベルのように慕ってくれる者たち、お母様の様に励ましてくれる人が居たからこそだ。だが!それ以上に女帝たる私をここまで歩んでこれたのは何より貴様がいたからだ!」「オークスを目指し、尚且つ生徒会としての役目も成し遂げる…そんな私の目標を笑わず支え、導いてくれたのは貴様だけだ!夢を叶えてくれたのは貴様だけなんだ!それを脇役だと?巫山戯るな!私の…私だけの杖を蔑ろにして手に入る栄光も軌跡もそんな物は要らない!」
「グ…グルーヴ…」
「だからぁ…私の軌跡を…独りだけにしないでくれ…とれーなぁ…」 - 140女帝の軌跡423/01/23(月) 23:14:07
「ごめんなグルーヴ…君の事分かっていなかった…」そう言って彼女を抱きしめるトレーナー。静寂が少し続いた後「この二つの軌跡…私も手伝わせてくれ…」と話すグルーヴ。「記事の切り抜きは図書館で探す事が出来る…だが写真について過ぎてしまったのはどうしようもない。だからこそ次からは貴様と私、二人が映る写真を歩んだ旅路として埋めていくんだ。いいな?」
「分かった。今までは女帝の軌跡、これからは二人の旅路にしていこう。」
「ふっ…これからは忙しくなるぞ?」
こうして二人の新たなファイル作りが始まるのだった。 - 141女帝の軌跡523/01/23(月) 23:21:36
それからの二人は一冊のファイルにはレースの記事を、もう一冊には行事や何気ない日常風景を収めていった。
そして卒業式の日…
「君のおかげで一冊のファイル…女帝の軌跡は埋まり切った…ありがとう」「そうだな…こちらこそ礼を言う…」
「だけどもう一冊はまだ全然埋まっていないんだ…これからも二人で一緒に埋めてくれないか?」
「…っ!……はい!」
こうして女帝と杖のファイルに新たな軌跡が加えられたのであった… - 142女帝の軌跡6(終)23/01/23(月) 23:31:20
長い年月が経ったトレセン学園、そこにはある家族からコピーではあるが二冊のファイルが寄贈されていた。それはあるウマ娘とトレーナーの写真が纏められており、当時を知る貴重な資料であると同時にウマ娘とトレーナーの絆を知る事が出来るとして人気な物であった。
今日もまた夢を目指す一人のウマ娘がそのファイルを開く。写真でも伝わる圧倒的な走りと絆を育んできた軌跡、それを見て自分もこうなりたいと改めて決意する一人のウマ娘。
その傍らで開かれたファイルには誰をも寄せ付けない圧倒的な独走の場面、そしてその独走の主である"女帝"エアグルーヴと彼女を生涯支え続けた女帝の杖たるトレーナー、二人の笑顔が色褪せる事なく映っていた… - 143二次元好きの匿名さん23/01/23(月) 23:34:22
- 144マックイーン書いた23/01/24(火) 00:10:28
コンパクトに纏められててすごいなと思いました!
そして敢えてスクラップブックを見たあとを描写するところが天晴だなと思いました。
あと、トレーナーの最後の独白がとても良いなと感じました。
最後の一文に思わずニヤニヤしてしまいました!
それに会話しているところがすごく微笑ましかったと思います。
それに天皇賞秋のチケットの部分を回想している部分は現実のそれと合わせてよりスズカが生きてて、こんな幸せな状況になってるんだなって思ったらより感慨深くて素晴らしいなと思いました。
エアグルーヴのキリッとした性格からなる文章と、トレーナーが切り抜きに居ないことに対しての反応にすごくギャップが生まれているなと感じました。
また、エアグルーヴのトレーナーに対しての思いだったり、141の途中からの後日談、142の後日談ともにエアグルーヴとトレーナーがこの先も幸せであることが確約されているような、そんな終わり方で最高だと感じました!
- 145二次元好きの匿名さん23/01/24(火) 01:28:24
(まったり進行なのにほぼ同時に投稿があったというのが奇跡なのでお気になさらず)
(もしかして前回も参加してくれた方かな)
1レスで簡潔に!しかし内容は充実という読み応えのあるこれぞss
トレーナー視点で描くからこそスズカさんのミステリアスさに読んでいる方がドキドキしますね
場面描写が丁寧で臨場感のある空気を感じ取れました…
こちらは何とも可愛らしいスズカさん
史実を乗り越えたウマ娘ならではの秋天を取り込んだエピソードにグッときます
チケットで当時のトレーナーの状況や心境を伝える表現に脱帽しました
敢えて言わずに自分の中で噛み締めるスズカさんと何も気付いてないトレーナーの対比が微笑ましい…
部屋掃除から始まる安定の女帝
愛のある叱責が堪りませんね…トレーナーを蔑ろにする者は許さない、それがトレーナー本人であっても
これから二人の旅路にするという台詞も、その後の幸せが約束された結末も素敵なssでした
- 146キタちゃん書きました23/01/24(火) 02:18:19
- 147スレ主23/01/24(火) 07:33:50
- 148二次元好きの匿名さん23/01/24(火) 12:43:41
- 149fine's treasure23/01/24(火) 20:46:22
ここはあるトレーナーの自宅。平凡でありふれた光景に今、あり得ない光景が広がっていた。その家の周りには周囲を警戒する黒服…そして普段一人か不在である家の中には一人高貴さを感じる服を見に纏った少女…ウマ娘が目を輝かせて中を見回していた。
「へぇ〜ここがトレーナーの自宅の家かぁ〜」彼女の中はファインモーション。中央トレセン学園の生徒にしてアイルランドの王族である。そんな高貴な人物が何故ここに居るのかというと、トレーナーとのラーメン探訪(つまりはお出かけ)の帰りに彼女が寄ってみたいと頼んできたからである。
トレーナーは何もない事を理由に断っていたが彼女が折れない事、周囲のSPが(お願いします…)と目配せしたので根負けした。
「言った通り何もないだろ?」「じゃあ部屋に着いたから、宝探しをしよう!」彼の言葉を遮る様に彼女の口からとんでもない発言が飛び出した。
「は?」「私聞いたの!男の人の引き出しやベッドの下には宝物があるって!」「はぁ!?」
トレーナー(とSP達)は唖然とした。誰が純粋無垢な彼女にそんな事を吹き込んだのか。トレーナーとSPは目配せで(そんなものありませんよね?)(持ってません!)と意思疎通する。そんな彼らを尻目に彼女は引き出しを開け覗き込む。そこには一冊のファイルが大切に置かれていた。 - 150fine's treasure23/01/24(火) 20:54:40
「何かしら?」とファインがノートを開くとそこには彼女が題材の記事が沢山保存されていた。
「わぁ!私のレースの記事じゃない!」彼女は尻尾を振り回しながらそのファイルを眺め続ける。
彼女がレースに勝ったときだけでなく取材や特集の時の記事など…ファインがデビューしてからを知るには十分な量であった。
「トレーナーの宝物はっけ〜んだね!」彼女はしてやったりと言ったような笑顔を見せる。「さぁ、他の宝物は何処かな〜」と彼女がファイルを持って動こうとしたその時、手に持ったファイルから一枚の封筒が落ちた。 - 151fine's treasure23/01/24(火) 21:03:18
「!!!!!」その瞬間トレーナーは声には出さないが仰天していた。
(マズイ…それは…)
「……トレーナー?どうしたの?この封筒?」「いや、何でもない、ただの封筒だよ。それはしまっておくから…」「貴様〜何か隠し事をしているな〜」そう言って意地が悪そうな顔をするファイン。
「本当に何でもないから!」「この封筒に中身があるのに〜?見るなと言われると見たくなるものだぞ貴様〜」トレーナーの願いは虚しく封筒の中身は彼女の手によって暴かれた。そこには一枚の写真があり…
「………!!!」彼女は目を開いて驚いた顔をする。
SP達も続けてその写真を覗き込む。
そこには煌びやかなステージを舞台にいつぞやの花嫁のドレスを着た笑顔のファインモーションが写っていた。 - 152fine's treasure23/01/24(火) 21:18:18
「トレーナー…この写真は?」「自分の何よりも大事な宝物。大事な担当の笑顔のベストショットだからね」「………っ!!!」彼女の問いにそう答えるトレーナー。「それに王族のドレス姿を目の前で見れるのもそうそうないしね」「それだけじゃない。この記事の一つ一つが替えることができない自分の宝物だよ。」
「…………」「ファイン?」トレーナーがファインの方を見ると彼女は目を瞑って考え事をしていた。
「ちょっと待ってね」そう言って部屋の外へ出たファイン。耳を澄ますと何やら電話をしている声が聞こえる。もっと聞いてみると親しい仲という事と何より非常に嬉しそうに話していた。
「お待たせトレーナー。私も大切な宝物見つけちゃった!それでねトレーナー、今度の長期の休みにお願いがあるんだけど…」そう話すファイン。
「いいけどどんなお願い?」首を傾げるトレーナー。「それは秘密!また今度教えるね!それとね…」「見つけた宝物は…絶対に離さないのが絶対だぞ、貴様〜」再び微笑むファイン。その顔には笑顔と共に悲しみを感じさせない涙が煌めいていた。 - 153fine's treasure23/01/24(火) 21:37:47
「あの後アイルランドのお父様に会いに行ったなんて本当にビックリしたぞ」「ふふっ、でもお互い私の事で盛り上がってたでしょ」と何気ない会話をするファインとトレーナー。
彼は相変わらず彼女の記事をファイルに纏めていた。あの後彼女の父親の提案により日本以外の国の新聞で彼女が題材の記事を取り寄せて貰えるようになった。父親曰く娘の活躍は日本やアイルランドだけでなく様々な国でも話題とのこと。王族の娘がアスリートとして活躍しているのだから当然ではあるのだが。
「そろそろ出かける時間だよトレーナー」「あとちょっと、これを貼り付けたら行くよ」「貴様〜」
各国の新聞の彼女の記事を全て切り抜いているのだ、それに言語も異なるから理解するにも一苦労である。彼からすればある程度多言語に強くなったので感謝はしているのだが。
「今日はシャカールも一緒なの!ラーメン屋巡り楽しみだなぁ」「ラーメン食べ過ぎには気をつけるように!」「貴様〜私の楽しみに口を出す気か〜」
そんなやり取りをしつつ今日の彼の作業は完了した。
「それじゃ、行こうかファイン」
「ええ、コホン…今日もエスコートして下さる?トレーナー…いえ、darling?」
そうして薬指に愛の証をはめた手を差し出すファイン
「喜んで、my treasure」そしてその手を取り部屋を出るトレーナー。
机に置かれた一冊のファイル…見開かれた二つのページには二人が読み慣れた国の言葉で
【ファインモーション結婚! お相手は彼女の担当トレーナー!】
【ファインモーションご懐妊! 愛の絆の証!】
と大きく書かれた記事が彼女と彼の写真と共に大切に仕舞われていた - 154二次元好きの匿名さん23/01/24(火) 21:39:26
- 155キタちゃん書きました23/01/24(火) 21:59:00
- 156二次元好きの匿名さん23/01/24(火) 22:00:09
- 157キタちゃん書きました23/01/24(火) 22:01:40
- 158マックイーン書いた23/01/24(火) 23:01:07
途中のSPとトレーナーのアイコンタクトの部分で思わず笑ってしまいました。
そして153からの後日談の距離感が変わってるような変わってないようなそんな関係からのご懐妊で吃驚したと共にポワッと心が暖かくなりました。
あと152の最後のファインの表情の描写がすごく好きです。
- 159二次元好きの匿名さん23/01/25(水) 05:36:55
……ふーん。使い魔にしてはキレイな部屋じゃない。
もっと散らかってるかと思ったけど、これなら研究の前に掃除する必要はなさそうね。
……何よ、アタシは思ったことを言っただけ。
それより、わざわざアンタの部屋まで来てあげたのよ。相応の──ん、分かってるじゃない。
スイーピーの使い魔として、きちんと来客をもてなせるか。アタシ直々に見てあげる。
……んー。そうは言っても、ただ待つだけなのは暇ね。使い魔はおもてなしの準備中だし……
あ。どうせなら魔法の研究に使えそうな物、探してみましょ!
えーっと、何かないかしら……あら、なにこれ? ……ファイル?
中の紙、少し古そうね……もしかして、魔導書の写しとか!? ……ちょっと確認するくらいなら、いいわよね。
──え。
これって……スクラップ? ……「メイクデビュー」「スイープトウショウ」……アタシの記事だわ。
……これは、あの時のインタビュー記事で。こっちはあのレースの後の取材。それから……
……こないだのレースの記事まである。ふーん……
……あ、使い魔。へえ、お茶もお菓子も悪くないわね。それはそうとこのファイル、アンタが作ったの?
……何よ、その顔。アタシはアンタのご主人様なんだから、別にいいじゃない!
……魔女の魔法は、代々受け継いできた大事なもの。誰か一人が使えればいいんじゃなくて、それを継ぐ人がいなきゃダメ。
そういう意味でも、古い資料や魔導書は重要なの。今日ここに来たのもそういうことでしょ。
……だから。このファイルも、価値のあるものよ。だって、スイーピーが魔女として大成する道のりが纏められてるんだもの。
──褒めてあげる。よくやったわ、使い魔! アタシの使い魔として、これからも頑張ってちょうだい! - 160二次元好きの匿名さん23/01/25(水) 05:42:14
- 161スレ主23/01/25(水) 16:11:50
- 162キタちゃん書きました23/01/25(水) 20:39:34
- 163マックイーン書いた23/01/25(水) 23:03:00
1レスに纏まっててかつスイープというウマ娘、スイープとトレーナー(使い魔)の関係性がすごく出てて良いなと思いました!
それに…によってスクラップファイルをスイープが熟読してるのを表現してていいなと思いました!
- 164二次元好きの匿名さん23/01/26(木) 07:32:00
保守
- 165マックイーン書いた23/01/26(木) 18:37:49
月曜までは保守
- 166二次元好きの匿名さん23/01/26(木) 18:54:07
このレースの時の走りのフォームはここが特徴的…
大きなテレビだと細部まで確認しやすいわね…
流石私のトレーナー!一流たるこのキングに褒められる権利を与えるわ!……そのファイルは何かしら?ちょっと見せなさいよ。
あら、私がレースに勝った時の記事じゃない。貴方がこんな事するなんて珍しいわね…って、私が結果出せなかった時の記事もあるじゃない!おばか!それはファイルから外しなさい!こんな結果一流として相応しく…
へ?負けても積み重ねがあるから今の私がいる?…そうね…誰だって失敗は付き物よね…ごめんなさいトレーナー、さっきの発言は謝るわ。
え?誰が何と言おうと私は一番で一流の自慢の愛バ?私のこれまでの、これからの一流の歩みは誰にも負けないと胸を張って言える?
お、おばか!いきなりそんなこと言われたらどう答えれば良いか困るじゃない!このへっぽこ!
…コホン。良い?私は一流のウマ娘、そして"超"一流のウマ娘を目指すキングヘイローよ!貴方は目の前でその姿をその目に焼き付けなさい!そしてそのファイルに私の歩みを刻み込みなさい!これは権利ではなく義務、拒否権は無いわ!一流のキングとの約束よ!絶対守りなさい!
それじゃ、今日はありがとう。来週のトレーニングも宜しく頼むわねトレーナー。
(バタン)
…貴方以外と目指す一流なんて、そんな事考える訳無いじゃないの…
ずっと傍に居るって約束…破ったら絶対許さないんだから…ばか… - 167二次元好きの匿名さん23/01/26(木) 18:56:26
- 168キタちゃん書きました23/01/26(木) 19:01:19
- 169二次元好きの匿名さん23/01/26(木) 22:51:37
すごい数の神SSが集まってる…
- 170マックイーン書いた23/01/26(木) 22:59:05
話に勢いがあって1レスですごく綺麗に纏まっていると思いました!
かつ、キング視点でのトレーナーへの思い、特に「貴方以外と目指す一流なんて」という部分がキングのトレーナーへの思いがすごく詰まってて最高でした!
- 171二次元好きの匿名さん23/01/27(金) 01:15:40
書いたけど恋愛色がすごく強くなってしまった…
- 172恋に狂うシャカは可愛いよね23/01/27(金) 01:23:51
それは、軌跡だった。
本棚に隙間なくみっちりと詰め込まれた、今の彼奴を形作ったであろう書籍の数々が織り成す雑多な色彩の中で、無地の背表紙が嫌に目に付いたのだ。澄まし顔で鎮座する、薄紫色。トレーナーが茶を入れる間の僅かな暇を持て余していたオレは、ほんの少しの好奇と興味に背を押される様にして、そのファイルを引き抜いた。
厚く、重く、何度も開閉を繰り返したせいか微かに柔らかい。矢張り何も書かれていない、無愛想な表紙には笑窪の様な細かい傷が、濃淡様々な白い模様を描いていた。頁と頁の隙間に指を差し込み、適当な場所を開く。ファイルは一瞬背表紙を軋ませ、反抗する様にオレの指を圧迫した。
グッと押し込む様に、しかし音は立てない様にそっと開くと、先ず飛び込んで来たのはターフを疾駆するオレの姿。
次いで、“エアシャカール”の文字。
……ファイルの大部分は、それで構成されていた。
写真や記事の陳列は整然とは言い難く、斜めになっていたり、妙な余白が生まれていたり。無意味なステッカーや、独り言の記述。本当にアイツが、アイツだけが、今まで辿ってきた道筋を確かめ、浸る為だけに作られた様な、不器用で愚直な一冊だった。 - 173恋に狂うシャカは可愛いよね23/01/27(金) 01:25:00
「……マジでキモい、アイツ……。」
ぽつりと吐いた悪態は、しかし何処か柔らかさを滲ませていて。媚びる様なその声に驚いて、思わず口を抑える。
指に受ける息が熱い。胸の奥が苦しい。喉から熱い何かがせり上ってきて、目の奥がジンと痺れる様だった。
指が白む程服を掴んで、縋る子供の様にそれを鼻と口に押し付ける。そうでもしないと、叫び出してしまいそうだった。
嫌悪の悲鳴ではなく、羞恥と、───恐らく、歓喜。
トレーナーは、こちらに背を向けている。ご機嫌に揺れる背中。間抜けなハミング。
「……クソッ。」
何だか無性に腹が立って、オレは立ち上がり、ズカズカとその背中に足を進める。床の振動に、ドリップポットに湯を注いでいたトレーナーの手が止まる。シャカール、と振り返る前に、オレはその背中に飛び付く様にして身体を押し付け、腰に回した腕にめいいっぱい力を込めた。 - 174恋に狂うシャカは可愛いよね23/01/27(金) 01:26:32
「しゃ、シャカール……?」
トレーナーはその腕を引き剥がそうとするでもなく、優しく擦る。少し乾いた手の平が擽ったい。
何時だってそうだ。
コイツはオレのすることを何だって受け入れて、皮肉も八つ当たりも、全て素直に受け止める。
干渉はしないが、放棄もしない。
そしてそれを感覚ではなく、色々と考えて、試行錯誤を重ねた上で行う。その献身がやっぱり気味が悪くて、───好きだった。
「……オマエさァ、オレのこと好きだよな、……。」
躊躇に掠れた声はトレーナーの肩口に吸い込まれて、曖昧な輪郭のままコーヒーの香りに紛れてしまう。
好きだ、も、ありがとう、も言えない。己の好意を全てコイツのせいにして、それでもコイツなら汲み取ってくれるだろうと甘えて。
オレの腕を摩っていた手が、手首で止まる。ほんの少しだけ強い力で掴まれて、湿度を帯びる。 - 175恋に狂うシャカは可愛いよね23/01/27(金) 01:27:17
「……うん。好きだ。」
たった一言、たったそれだけ告げたトレーナーの耳は、痛みがあるのではと錯覚してしまう程赤く染まっている。初心なツラして、あんなものを作っているんだと思うと可笑しくて噴き出しそうになる。アレ、何だよ?とつついても良かったが、今そんな事をしたらポットをひっくり返してしまうだろうから、黙っておいた。
相手の預かり知らない所で共有するヒミツと言うのも、案外悪くない。
そう思わせられる程には、オレは絆されていた。 - 176恋に狂うシャカは可愛いよね23/01/27(金) 01:28:06
- 177キタちゃん書きました23/01/27(金) 06:29:37
- 178スレ主23/01/27(金) 13:01:21
(感想書きたいけどじっくり時間取れる頃にはスレ落ちしそうなので保守だけ)
- 179二次元好きの匿名さん23/01/27(金) 22:30:55
「ここがトレーナーさんのお家…ふふっ、なんだか新鮮で逆に緊張しちゃいますね…」そう楽しそうに話すのはメジロアルダン。今日はトレーナーと練習用の備品選びと彼女の買い物の帰り、たまたまトレーナーの家の近くを通ったので立ち寄ったのである。
「確かにメジロのお屋敷に比べれば逆にな」
「いえ、そんな事ありません。普段はトレーナー室ですから、トレーナーさんのありのままを初めて見たものでして」
「ありがと。じゃ、一休みしたら備品とかの整理だな」とソファーへと身体を投げ出すトレーナー。
「では私も……あら?」と自分も休もうとしたアルダンは机の上に置かれている一冊のファイルの存在に気がついた。興味津々な彼女がそれを開くとーーーー
「あっ、私のレースの時の記事ですね!」と嬉しそうに尻尾と耳を動かすアルダン。普段見せる令嬢さは何処へやら、今は探し物を見つけてはしゃぐ子供のようだ。
「あの時のレース…あっ、こんな小さい記事まで」
「記事でもそれぞれ注目する所が違うからね。俺としては常に一面にアルダンの事を載せろって思うけど」
そう語るトレーナー。…どうやら彼は冗談ではなく本気らしい。
「ふふっ…」
「それに…アルダンの事をずっと未来に伝えていきたいしね」
「え?」 - 180二次元好きの匿名さん23/01/27(金) 23:21:27
突然の事に驚くアルダン。当然である。そのように記事を纏めるのは自分が卒業するまでの間だろうと思っていたからだ。それが卒業後を通り越して未来ときたから尚更その驚きは強くなる。
「未来…?」
「そう、未来。卒業してもレースを引退しても君の歩いてきた道筋は消えない。だからこそその道筋を永遠に残しておきたいんだ」「身体が弱く、硝子の脚とも言われた君がそんな周りをひっくり返してこの世のどのウマ娘よりも輝いてることをね」
「………!!!」
「記事とかは検索すればすぐに出てくる。でもそのままだと周りに載っている他の情報とかに目移りする事もあるだろ?」「だから俺は永遠に輝き続ける"メジロアルダン"というウマ娘の道筋を全て刻み込んだ世界で一つだけの物を残したいと思ってるんだ…ってアルダン?」
「ト…トレーナー…さん…わ…私……」
(嬉しい…嬉しい…!嬉しい…!!嬉しい!!!)
「!?」
トレーナーが振り向くとアルダンは身体を震わせ涙を流していた。どんな硝子細工よりも澄み渡った感情が一つまた一つと頬を伝い、流れ落ちる。
「そこまで私の事を思ってくれて…嬉しいです…!」「ここまでずっと支えてきてくれて…導いてくれて…誰よりも輝いてるって言ってくれて…嬉しいよぉ…」
「私…わだじぃ…うわああああああん!!!」
そこには深窓の令嬢としてではなく、喜びの感情を抑えきれない1人のメジロアルダンという少女がいた。 - 181二次元好きの匿名さん23/01/27(金) 23:43:40
「落ち着いた?」
「グスッ…っはい…」
あれからアルダンは泣いた。自分の事を思ってくれるだけでなく、いつ壊れるか分からない硝子の脚。そんな運命すらも跳ね除けてくれた彼に抱きしめられながら、今まで押し殺してきた不安や緊張から解き放たれたように泣いて泣いて泣いた。
「さて!アルダンのこれからのためにも頑張りますか!一休み出来たし、買ってきた備品をチェックしよう!」気付けば夕暮れ時、しんみりした気分を吹き飛ばすようにトレーナーは声を張り上げた。
「トレーナーさん」
「どうした?アルダン?」
「私のことを纏めたそのファイルは永遠に残していきたいんですよね」
「そうだね。未来永劫ずっと」
「ならば私も果てまで駆け抜けましょう、最後まで輝きましょう。だから…」
「共に語り継ぎましょう、そして受け継いでくれる者を探しましょう。私達の道筋を永遠まで輝かせるために」
そう言ってファイルを大切に抱えてトレーナーの方を振り向くアルダン。その顔はどんな硝子細工も敵わない澄み渡った笑顔であった。 - 182二次元好きの匿名さん23/01/27(金) 23:51:04
- 183二次元好きの匿名さん23/01/28(土) 00:48:24
このスレも200行きそうですね……
- 184マックイーン書いた23/01/28(土) 01:13:46
- 185スレ主23/01/28(土) 01:47:56
難しいと言われる私とキングの使い分けが完璧だ
トレーナーの前では一流の姿勢でいるのにそうでなくなった途端の健気な乙女キングが可愛い…
強く気高い面と併せ持ってこそのキング!
貴重なシャカssだ!
かなり絆されてますねこれは…実にある意味シャカらしくなくなったところにグッときますね
突然のシャカの行動に翻弄されてこの後も何であんなことしたのかと悩むであろうトレも何だかかわいく見えてきます
強火なトレーナーがすごくすごいです!
消えない証を残したいというのが本人シナリオにも通じるものがあってお題を最大限に生かしたssだと思います
そして最後にしっかりと永遠になる二人…やはりアルダンとトレーナーはこうでなくっちゃ!
ありがたいことです
期限区切ってたとはいえ保守だけが延々続くような事もなく、都度良ssを投稿してくれる人が見つけてくれたお陰です
スレ主以外に感想を書き込んでくれる人がいたのも良かったのかもしれません
- 186キタちゃん書きました23/01/28(土) 04:32:14
- 187二次元好きの匿名さん23/01/28(土) 11:55:47
埋まる前に書ききれたらいいなの保守
- 188ヒシアケボノで一筆23/01/28(土) 13:33:49
『アケボノ、この後時間があるならウチに来ない?』
トレーナーさんの自宅にお呼ばれされたのは、一緒に買い出しに行った帰り道でのことだった。
「え、えぇ!?」
突然のことに驚き、思わず大きな声をあげてしまう。
『実は、海外からトレーニングの映像資料が届いて──』
トレーナーさんがずっと探していた、足に大きな負荷をかけずに行えるトレーニングの資料。それが今日、海外から届いたらしい。
せっかくだからお出かけのついでにトレーナーさんの家で一緒に確認したいとの事だった。
トレーナーさんに料理を作ってあげたことは何度もあるし、一緒に山で野宿したことだってあるけど、トレーナーさんのお家に行くのは初めて。少しドキドキするけど、「トレーニングのため」と自分に言い聞かせてトレーナーさんの家に向かった。 - 189ヒシアケボノで一筆23/01/28(土) 13:35:04
「あ、お茶入れてくるから、適当にくつろいでて良いよ」
トレーナーさんの言葉に甘えてソファに腰掛ける。
トレーナーさんのお部屋はとても綺麗でいろいろな家具が揃っていたけど、キッチンだけは少しこざっぱりしている。コンロはほとんど汚れていないし、お鍋もフライパンもほとんど新品だった。普段お家でお料理はあまりしないんだろう。
何気なく机に目をやると、一冊のスクラップブックを見つけた。
最初はトレーニングの資料かと思ったけど、それにしては古いし表紙も所々日焼けしている。
なんとなく興味が湧いてきて、そのスクラップブックを手に取った。
少し罪悪感を感じるけど、どうしても好奇心が抑えられなくなって表紙を捲る。
「これって…」
中には、トレーナーさんと一緒に「ちゃんこ鍋」になった思い出が全部収まっていた。
雑誌の隅にちょこんと乗っていたメイクデビューの出走者リスト、初めてGIで勝った時の特集記事、月刊トゥインクルのインタビュー…。
最初はとっても小さかった名前が、ページを捲るたびにだんだん大きくなって。一番新しいページは一面特集記事だった。
「みんなにボーノな思い、届けられたんだなぁ…。」
誰にでもなくそう呟くと、後ろから聞き馴染みのある声で返事が返ってきた。
『ちゃんこ鍋になったって、胸を張って言えるくらいにはね』 - 190ヒシアケボノで一筆23/01/28(土) 13:36:08
「へっ!? トレーナーさん!?」
咄嗟に後ろを振り返ると、少し顔を赤らめたトレーナーさんが立っていた。
『そのスクラップブック、見つかっちゃったか。まあ別に隠してるつもりもなかったけど、ちょっと恥ずかしいな…。』
「あたしは別に気にしないよ! ここに載ってるのは全部、トレーナーさんとあたしの大切な思い出だから。大事にしてくれて嬉しいな〜。」
トレーナーさんと一緒に思い出を語らいながら、もう一度ページをめくっていく。
改めてスクラップブックを見ていくと、ある記事だけが貼られていないことに気がついた。
「そういえばトレーナーさん、『あの記事』はここに貼ってないんだね」
『ああ、あれは特別だから、こことは別にして取ってあるんだ』
そう答えながら、トレーナーさんは伏せて机に置いてあったフォトフレームに手を伸ばす。
『俺とアケボノが一緒に写ってる写真だから、手元に置いておきたくて』
─ヒシアケボノのトレーナー、宙を舞う─
決して大きな記事ではないけど、あたしと、あたしに投げられたトレーナーさんが一緒に写っている。
とっても「大きな」記事が、そこに収められていた。 - 191ヒシアケボノで一筆23/01/28(土) 13:43:57
- 192キタちゃん書きました23/01/28(土) 14:02:46
- 193シャドーロールの飢え23/01/28(土) 14:14:43
おい、トレーナー、焼肉をする為に机の上を片付けてたがこのファイルは何だ?開けるぞ。
……私のレースの記事か…思えばお前とも担当になってから長い付き合いになるな。…なんだその顔?そんな顔をしても野菜は食べないぞ?
ん?私の担当トレーナーになれて本当に良かった?
当然だ。そう思ってもらえなければ困るからな。
…そんな嬉しそうな顔をしているがまさかお前はこれで満足だと思っていないだろうな?
私はまだレースへの飢えは満ち足りてないぞ、マヤノの奴もやる気十分、アマさんにも勝負を持ちかけられた。ローレルも闘志を燃やしている。それにルドルフ、グルーヴもそして姉貴もいずれ越えなければならない相手だ…まぁ全員に勝っても私の飢えは満たされないと思うがな。
トレーナー、お前もそのファイルもそれだけで満足か?…この程度では満ち足りるなんて程遠い?
フッ、それでこそ私のトレーナーだ。これからも二人でブッちぎる…それだけだ。
おい、片付けは終わってるぞ。肉の準備はできたか?
何?姉貴は呼ばないのかって?
…そうだな、だが今日はお前と二人で食べたい気分だ。不満か?……ならいい。さっさと肉を焼くぞ。
(トレーナー…お前と二人きりでいたいという飢えはこの先も満たされる事はないだろうな…」
ん?なんだ顔を赤らめて?…そんな事言われると嬉しい?………まさか無意識のうちに……っ!!
う、うるさい!とっとと食べるぞ!私にこんな事無意識に言わせたんだ、私の方が多く肉を食べるんだからな! - 194二次元好きの匿名さん23/01/28(土) 14:16:12
- 195二次元好きの匿名さん23/01/28(土) 22:34:16
スレ主さん〆られるかな?
保守しときますね。 - 196マックイーン書いた23/01/28(土) 22:41:10
最後の文章がすごく素敵だなって思いました。
それに189の少しずつ記事が大きくなっていく描写が好きです。
ブライアンのレースへの感情とファイルの中身を照らし合わせての、それだけで満足か?の部分がすごく良いなと思いました。
あと、最後のブライアンの照れ隠しが可愛くかったです。
このスレ、良いssをたくさん読ませて頂いたり、それでssの勉強になったり、すごく楽しかったです!
自分の書いたものが人に受け入れてもらえるだろうか。という不安が、感想をいただいたり、ハートを押してもらったり、その不安がなくなって、なんだか心が救われました!
もし今度、スレ主さんがまたこのようなスレを立ててくださったら参加したいなと思います!
あらためて、
スレ主さん、ssを書いてくださった皆さん、本当に本当にありがとうございました!
- 197キタちゃん書きました23/01/28(土) 22:54:39
最後にポロッと言葉が出ちゃうところが可愛いですね。
一緒であるならいつまでもナリタブライアンでいられる、そんな思いがこっちにも伝わってきました。
スレの最初に参加して感想を書くのも初めてだったので、なかなか上手く感想がかけなかったりしましたが、自分自身が感想を頂いた時とても嬉しかったり救われたりしたので、感想を書いてきました。
皆様のSSを見て勉強させて頂きました。
自分のようなものの感想を書くことを許していただきありがとうございます。
許されるならまたこのようなスレに参加したいと思いますのでその時は宜しくお願い致します。
スレ主様やSSを書いてくださった皆様本当にありがとうございました。
- 198スレ主23/01/28(土) 23:50:57
いい感じに埋まりそうなのでこれで〆ますね
一緒の思い出としてまとめるのもいいけど特別なものとして分けておくという考えも素敵ですね
最初は伏せて見えなくしておいたのも特別感を感じます
こういう本人育成のエピソードを交えたssをお出しされるとそのキャラに興味が湧いてくるのでお迎え後に読み返すとまた楽しめそう
ギリギリでも参加しようとしてくれてありがとうございます
主導権はブライアンにありつつもしっかりトレーナーを信頼して通じ合ってる感がよく出てる…最後の照れ隠しの台詞がブライアンぽいw
1レスでキャラらしさと起承転結を両立させた良きssでした
予想以上にたくさんの参加者さんに来てもらえて今回もとても楽しいスレになりました
通りすがりの方も常駐して感想を書き込んだ方にも深い感謝を
またそのうち同じようなものを立てるつもりなのでよろしければご参加くださいませ…
- 199スレ主23/01/29(日) 00:03:45
「は~しっかし、よくもまぁこんだけ集めたもんやなぁ」
「担当の活躍が嬉しくてついやってしまうトレーナーという生き物の習性」
「人間やめとるんかい」
「でも実際トレーナーなら誰でもこういうことしてると思うよ」
「ほんまか~?」
「ほんまほんま。何だったら明日他のトレーナー達に聞いてみる?」
「…やめとくわ。盛大な惚気聞かされて腹いっぱいになりそうやし」
「その方がいいよ。誰だってそうする俺だってそうする」
「オマエは何言うつもりや!」
「そりゃあもうタマモとの駆け巡る三年間を凝縮しお手頃サイズに加工したのがこちらでございます」
「さらっともう一冊出してくんなぁ!」 - 200二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 00:46:17
次回をお楽しみに!