【SS・タニノギムレット】振り回るは己の手

  • 1二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 21:21:08

    キィ…キィ…と、錆びた鎖が、揺れる音がする。
    俺は、意味もなくブランコを漕いでいた。いつもの日々を、忘れたくて。
    ため息に引き寄せられるように、顔は自然を下を向く。あぁ、こんなんじゃダメだ。分かっているのに、俺は…。

    「黄昏時に何をしている、少年。」
    いきなり、声をかけられ、反射的に顔を上げる。目の前には眼帯を付けた、おそらく自分より年上であろうウマ娘がいた。
    やけに真っ直ぐなその目に、無意識のうちに反抗心のようなモノが湧き、自然と、突き放すような声を出す。
    「お姉さんこそ、ここで何してるのさ。俺…知ってるよ。お姉さん、トレセン学園ってところの人でしょ?」
    いつもここを走ってる人達だよね。そう聞くと、相手は驚いたように、笑い始めた。
    「フッ…聡いな、その身に対し不相応なまでに。だが、それほど優秀なブレーンを持っているにも関わらず、オマエはさまよっている様に見える。」
    「さまよう…まぁ、そんなところ…かも。」
    「やはりそうか。_もしオマエが望むなら、このワタシが、オマエの身にかけられた呪詛を聞いてやろう。」
    そう言って手を差し出す彼女に、僕は尋ねる。
    「ねぇ、君、なんて名前なの?」
    「_俺の真名を知りたいのか、ならば答えてやろう。ワタシはタニノギムレット、観衆を、世界を…己すらも酔わせる者だ!」

    高らかに名乗りを上げたかと思えば、いつの間に彼女は隣へ来て、ブランコを揺らし始めた。キィ…キィ…と、二重になった音が、辺りに響く。
    俯きながらも相手の顔を見ると、まるで楽しんでいるような感じをしていた。
    「お姉さんはさ、自信に溢れてんだね。」
    「この身に滾るパトスのことか。フッ、確かに…この熱は、杯に治めるには荒れすぎている。」
    「多分それ。俺さ、自分に自信が無いんだ。」

    遠くから聞こえる学校のチャイムを、恨めしく思いながら聞き流す。やけに強く張り付いた、嫌な記憶たちを、少しづつ剥がすように呟いて。
    「俺、ぼっち…って、ヤツなんだ。移動する時も、飯の時も、登下校だって1人。それだけならいいんだけど、家族にも心配されちゃってて…。」
    「ふむ…そうか。それで、オマエはどうしたい?孤高に気高くあり続けるのか、愛する者の為に、懸命であるのか_」
    「そう、そこなんだよ!」

  • 2二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 21:21:31

    感情のまま立ち上がった俺は、彼女の目の前で、強く語り始めた。まるで、本当は誰かに聞いて欲しかったかの様に。止まることなく溢れた言葉を、彼女は静かに聞いてくれていて。それがまた、速度を増す要因へとなった。
    「本当はどっちだっていい、どうでもいいんだ!友達が居なくたって生きていける。現に俺は、どうとでもなってる!ただ俺、可哀想な奴で居たくないんだ…!どいつもこいつも、憐れんだ目で俺を見ている…!でもそれだけの為に、今更、友達作りなんて_」
    「それが、オマエの前に立ち塞がるインシデントか。」

    あくまで、彼女は冷静だった。俺の混乱に、激情に飲み込まれないほどに。わかっているのか、いないのか。経験値の少ない俺にはわからなくて。
    ただ、不思議と彼女のオーラに圧倒されていた。

    「真の勇者とは誰のことか。オマエにはわかるか?龍を狩る者?力を飲み干した者?結末を見れば、そうかもしれない。だが…、違うな。彼らはそうあろうとしてなってなど居ない…ただ、己の道理に従って生きているまでだ。そして、導かれたに過ぎない!
    だから、オマエもそうなればいい。その手に剣など無くとも、この世界では強者になれるのだから!」
    「己の、道理…」
    「そうだ!どちらかを手にした瞬間、見捨てられたモノは朽ちていく…すなわち、人は自ら因果を確定させている!その選択を後悔しないもの、自分の結末に胸を張れた者が、俺の思う真の勇者だ!」

    選択を、後悔しない。当たり前にも聞こえるそれが、やけに胸に染み込んで。
    そうか…俺は…、どっちでも、良くなかったのか。
    どっちかでありたかったんだ。そして迷って。ヤケになって。
    でも本当に、世界にとっては、どっちでもよくて。ただ、自分のありたいようにあれば、それで…!
    「ギムレットさん、俺…!」
    「フッ…どうやら、オマエの呪縛は解けたらしい。_この件をどう受け取るかも、オマエの選択だ。だが…自ら恥じるような結末だけは、迎えるなよ。」
    そう言うと、彼女は立ち上がり、来た方向へと去っていった。夕日と共に、連れ去るように。

    その後ろ姿すらも洗練されていて、一瞬も目が離せなくて。ただ、あまりに強く、儚く、確かなオーラが、まだ俺をクラクラとさせていた。

  • 3二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 21:21:56

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  • 4二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 21:22:13

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  • 5二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 21:22:25

    〜余計なあとがき〜

    俺は通りすがりの駆け出し創作者、スレ画はお気に入り画像。こちら、ギムレットエミュの練習として書いたものになります。もうちょっと神話系ワードを活かして痛々しくかけるようになりたい。でもそうすると書いてて自分が迷子になる…うーん困った。

    別短編自薦→
    【SS】【ケイエスミラクル】白鳥は月夜に羽ばたく|あにまん掲示板夜、トレーナー室から帰宅している最中のこと。春と言えど、まだ冬の名残が残っているのか、夜はかなり冷え込むようで。一応、薄型の長袖に上着を重ねてはいたが、それでもほんの少し、体が震えるような寒さだった。…bbs.animanch.com
  • 6二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 21:25:07

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  • 7二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 22:24:12

    すげえ…ギムレットレベルが高い…

  • 8二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 22:25:46

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  • 9二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 22:47:52

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  • 10二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 22:48:43

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  • 11二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 22:49:35

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