スイーピー・コンディション

  • 1二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 18:34:36

     ウマ娘には、様々なコンディションがある。

     彼女達を任されている我々トレーナーは、体調管理を徹底的に行うのが当たり前だが、ウマ娘もトレーニングだけではなく、学園生活を送っている兼ね合いで、その中で様々なコンディションを取得するケースもある。

     今回は、自分の担当が様々なコンディションを取得した時、してからの出来事を纏めて紹介したいと思う。

  • 2二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 18:34:57

    【太り気味】

     今日は、スイープと一緒にファミレスでお昼を食べに来たのだが、食べきったタイミングでお子様メニューの中に、魔法結晶なるものが付いてくるメニューがあった。お腹が膨れ気味のスイープは、おまけ欲しさにこれを食べると言い出した。

     まあ、お子様プレート位の量なら何とかなるか、と止めるどころか煽ってスイープをその気にさせ、完食までさせたのは良かったのだが…。

     俺もスイープも、お子様プレートの量を侮っていた。最初は余裕の表情だったが、どんどん顔を青くなっていく中手を動かし、何とか完食出来たレベルだったのだ。やりきった顔で、ソファーにもたれかかるスイープだったが…その代償はあまりにも大きかった。

    「膨れたなあ、腹…」

     そう、今のスイープのお腹は目に見えて膨れており…いわば、太り気味の状態になっていた。お腹に手を添えて擦っている姿を見るだけでも、しんどさが伝わってくる。

     落ち着くまで、一先ず待機し、動けそうになったタイミングで退店する。店員さんのギョッとした視線を感じ、流石に保護責任者としてまずかったな…と己の行動を反省するしかなかった。

     街中を歩く間も、口元に手を抑えながらだったので、これはいつ戻してもおかしくなさそうだなと危惧し、一旦公園のベンチで休む事にした。

    「うぅ〜、気持ち悪い…」
    「…ごめん、無理させず止めるべきだった…」
    「謝るくらいなら背中さすってよね…」

     普段以上に小さくなった背中を擦りながら、謝罪する。あのスイープが、癇癪も起こせない程の状態。トレーナーとしても、年長者としても軽率な判断に、申し訳無さが募る。

    「…こうなった責任、ちゃんと取ってよね」
    「当然だ。元に戻るまで無理のないトレーニングメニューを組むよ」
    「ふんだ…」

     普段よりも弱々しい声で、大きくなったお腹を擦りながら俺を睨みつけるスイープにちゃんと約束する。こうなってしまったのは俺の責任なのは紛れもない事実。ならば、筋を通すのが道理だろう。必ずや元の状態に戻すと誓うのだった。

     後日、約束通り状態を無理のないプランで元に戻したが、たづなさんから呼び出され、週刊誌に今回の件について有る事無い事を書かれまくったのを弁明する羽目になったが…乙名史さんを介して事実誤認であることを証明出来たので、事なきを得たのだった。

  • 3二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 18:35:18

    【愛嬌◎】

    「もー!またスズメに逃げられたぁ!」

     昼休み。食後の運動がてら、中庭の畑通りを散歩していると一人で地団駄を踏んでいるスイープを見つける。見た感じ、ご機嫌斜めな様子なので見なかったフリして去った方が良さそうだ…絡まれたらややこしい事になりそうだし。

    「あれ?スイちゃん、どうしたんですか?」
    「フラワー…あら、使い魔もいるじゃない」

     撤退しようと踵を返した所、声をかけた級友のニシノフラワーのついでに発見され、致し方無しでスイープのもとに行く。聞くと、スズメに魔法を掛けて幻獣にしようと試みているが、魔法は不発に終わり、逃げられてばかりとのこと。

     加えて、今日の食堂のお昼ごはんは、彼女の天敵とも言えるピーマンやたまねぎがゴロゴロ入っている酢豚がメインなせいで食べてないらしく、空腹のストレスも手伝ってだいぶ機嫌が悪い。さて、どう機嫌をとったものか…。

    「…スイちゃん!はい、あーん」
    「?んあー…何これ!?すっごい美味しい!」

     こちらが思案している間、フラワーは手に持っていたお弁当を取り出して、おかずをスイープに食べさせていた。お弁当の中身は、ちゃんと栄養バランスを考慮されており、何よりもタコさんウインナーみたいな、遊び心の溢れるかわいいおかずもあって食欲をそそられる。

    「ふふ、喜んでもらえたなら良かったです。まだあるし、スイちゃんのトレーナーさんも一緒にどうですか?」
    「あー、俺はもう食べたし君たちの分が少なくなっちゃうから気持ちだけもらっておくよ」
    「…そうだ。せめてものお礼だ、ジュースを奢るよ」
    「い、良いんですか…!?」
    「ふふん、何も言わずに貰ってあげるのも大人への一歩よ?使い魔、アタシはみかんとりんごとぶどうジュースね」
    「君はもっと遠慮を覚えようね…」

     そういうわけで、見てて少し小腹が空いた俺も食堂でパンを数個買い、中庭のベンチにて3人で食べながら話に花を咲かせるのだった。

     後日、今度はフラワーのトレーナーも交えて4人で囲みながら昼食を摂っていると、スイープとフラワーのファンから遠巻きに観察されるようになり、結果的にファンの人数が両方とも爆増し、連鎖するように合同トレーニングを依頼される数も増えた事に何故…?とフラワートレーナーと共に首を傾げるしかなかった。

  • 4二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 18:35:38

    【片頭痛】

     人もウマ娘も、気圧の変化に弱い人は一定数いるもので、人たる俺も大概だが、人以上にその手の変化を察知しやすいウマ娘のスイープはその上を行くようで、ちょくちょく片頭痛に悩まされているようだ。まあ、今回は寝不足気味の片頭痛らしいので自業自得なのだが…。

    「う〜…使い魔ぁ、頭割れそう…」
    「そんな簡単に割れたら大問題だよ…ほら、水と頭痛薬置いておくから飲んで」

     今は、朝から頭痛に悩まされているスイープの為に、保健室のベッドで寝かしつつ携帯している頭痛薬を飲ませようとしているのだが…。

    「…そのおくすり苦い?」
    「え?うーん、漢方由来の粉末だから味は人を選ぶかも…」
    「じゃあヤダ!飲まない!ニガニガはイヤ!、つぅ…!」

     素直に白状したのがまずかったのか、薬を飲むのを拒否されてしまった。こうなった以上は、ゆっくり休んでもらってまた後で様子を確認するのが一番だろうか。人がいては彼女もおちおち休んでいられないだろうし…。

    「急に騒いだら頭に響くってば。それじゃ、また少ししたら様子見に戻るから飲まずとも安静にしててくれ」

     騒ぐのは良くないと察したのか、俺の提案に返事をせず、布団を頭から被った。まあ、もう寝ようとしてるのに俺がいる理由もないなと、一時保健室を後にして、スイープの荷物を取りに教室に向かうのだった。

    「失礼します…お?」

     荷物を回収し、保健室に戻ると、スイープは掛け布団を少しはだけさせて寝ていた。室内は暖房が効いているが、そのままはあまりよろしくないので布団を直しに行くと───。

    「あ、薬…」

     ベッド脇のキャビネットの上に置いた薬と水は、空の状態になっていた。もしかすると、俺がいなくなった後、我慢してちゃんと飲んでくれたのだろうか。あれだけ拒否反応を示していたのに…。

    「…頑張ったね」

     苦いしマズイしで、飲むのは大変だったろうに。元気になったら、どこか美味しいレストランでもご馳走しようと微笑みながら、布団を整えて、起きるのを待つのだった。その間の待っている時間は、長く感じず、少しだけ幸せな気分すらしたのはきっと、気のせいじゃないはず。

  • 5二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 18:36:04

    【切れ者】

    「ふふん、スイーピーも海外デビューよ!」
    「応援しに来ただけだからね?」

     スイープとの最初の3年間が終わり、一段落がついた頃。俺とスイープは英国のヨークに来ていた。理由は、彼女のご学友であるゼンノロブロイが海外の招待レースに出るという話を受け、応援しに行こうと提案された所から端を発する。

     個人的にも、海外ウマ娘のレースや芝の状態、何よりも傾向に興味があり、スイープ自身にも知らないレースの世界や道のウマ娘を見て、何か刺激になればと思い、彼女たちを追って渡英したのだ。今は、ヨーク駅近辺のカフェでランチを食べに来た所だ。

    「スイープはどれにするか決めた?」
    「んー、この太いソーセージを挟んだフィローネにしようかしら」
    「りょーかい…ほりゃっ」

     少しだけ緊張しつつ、店員を呼ぶ呼び鈴を押す。一応、ここでの会話はすべて英語なので、日本語は通じないという緊張感が若干走る。

    「Hi.Please your order.」
    「Hi,えー、I think I'll have the bacon cheese Pain de campagne.」
    「OK.The bacon cheese Pain de campagne.Would you like something to drink?」
    「飲み物?あー、I think I'm OK for now.」
    「Understood.Well,which one would you,young lady?」

    「They all look so goog!Umm...I think I'll have the big sausage philone and I'd like to your recommend drink.」
    「Well,the big sausage philone and my recommend drink.Is there anything else?」
    「Oh,I don't like pickles.So could you leave out it for me?」
    「Sure.Leave out pickles...OK.」
    「Thanks.I hope you have a good day today.」

  • 6二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 18:36:25

    「…へえ。ちょっと意外ね」

     注文も終わり、胸を撫で下ろしているとスイープから目を丸くされる。まあ、たしかに普段から日本語も微妙に怪しいやつが、当たり前のように英会話をしていればそう思うのも不思議ではないか。

    「世界から招待されるレース関係者やウマ娘の応対、海外レースに出る時を想定して英語と第二外国語は必修だったから軽いOCはこなせるようにって言われてたんだ」
    「ふーん…アンタもちょっとは出来るみたいね」

     肘をついて頬杖をつきながら感嘆の声をあげるスイープ。その顔は、簡単には褒めないぞという意思が見え隠れしており、思わず苦笑してしまう。

    「それにしてもスイープもすごいね。一応海外、しかも現地の人との英会話を事もなくこなすなんて」
    「アタシ、小さい頃に英語の塾に通わされてたから…イヤで仕方なかったけど」
    「あ、ああ。そういう…」

     しまった、と心の中で苦虫を噛み潰したような表情になる。スイープにとっての幼い頃の記憶は、魔法以外の事だとあまり良い思い出を聞かされた覚えがないのを失念していた。どう返すべきか、言葉を吟味していると───。

    「…ま、今こうやって役立ってるし?パパの判断も一応?間違ってはなかったのかしらね」

     遠い目をしながら、ストローに息を送ってブクブクしつつ、かつての自身の父親の選択に理解を示す発言をしたのだ。多分、コンビを組んでから初めて聞いたかもわからない。

    「君がそう思うのなら、俺もそう思うよ。…パパさん、それを聞いたらすごく喜ぶんじゃないかな」
    「ふふん、なら絶対言ってやんない!アンタも、言うんじゃないわよ!?」

     彼女だって、大人の善意にずっと雁字搦めになるわけではなく、ちゃんとその意図を汲み、振り返れるくらいには精神も成長しているという事か。天邪鬼な所は変わらないが…まあ、それも彼女の魅力だろう。

     今だって、この経験があったからスムーズに応対出来たのだ。今後も、あの時やっていた事が、自身を助ける事が増えそうだなと微笑ましく眺めていると、スイープが笑いながら話す。

    「それに…アンタにある程度の語学力があるようで安心したわ」
    「と、言うと?」
    「決まってんじゃない」

  • 7二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 18:36:41

    「アタシが海外挑戦する時、心置きなく面倒くさい事を押し付けられそうだなーって!」

  • 8二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 18:37:21

     彼女の口から明確に出た、海外への挑戦する意思があるという発言。

     正直、ロブロイが海外レースに挑戦すると聞いた時、俺は居てもたってもいられなかった。宝塚、天皇賞・秋で英雄と死闘を繰り広げたティアラを戴冠せし魔女も、続くような形で挑戦したいと。

     だが、招待が来ない事には、飛び入りで参加する事になるので学園を介して出れないというデメリットもあって及び腰だった。その間の授業日数だってあるし、慣れない海外の環境で体を壊すリスクも拭いきれない。

     …何よりも、俺が出たくても、走るのは他ならぬスイープな訳で、彼女からただ同意をもらうのではなく、“出たい”という明確な意思がなければ、行った所で結果は残せないだろうと判断していたので、これは嬉しすぎる誤算だ。

     …それに。

    「…そっか、君の行く所には当たり前のように俺がいるんだな」
    「?当たり前じゃない」

    「アンタは、アタシの使い魔よ?いない訳がないでしょ」

    「も、もしかして!今更スイーピーから離れる気!?ヤダヤダヤダ!使い魔なんだから、ずっと隣で言う事聞いてなさいよー!」
    「…それもそうだな。ごめん、変なこと聞いちゃったね」

     当たり前のように、凄い事言うなこの子はと内心、感心するばかりだ。まあ、ここまで裏表のない性格で、真っ直ぐな激情を滾らせ続けたから今があるので納得と言えば納得だが…。ここまで素直だと言われてるこっちが揶揄う間もなく、タジタジにされてしまう。

     思えば、出会った頃からこういう少女だった。魔法を見つけるとか、クラシックとティアラの差がないことを証明するとか。ともすれば、無理だと嘲笑われるような事にも彼女は出来ると信じて立ち向かい、実際にやってのけ、どんなもんだと笑ってみせた。

     その背中に、走る姿に。俺はいつしか、魔法も抜きにした羨望、尊敬を抱いていたのかもしれない。そんな彼女が俺を必要としてくれているのだ、こんなに喜ばしい事はない。

     たしかに成長してる部分と、たしかに変わらない部分。人も世も、移り変わるものではあるが…願わくば、彼女の奔放な個性が損なわれる事なく、成長する様を近くで見る事が出来たらと、心の中で三女神に祈るのだった。

  • 9二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 18:44:02

    ウマ娘を育成してると色んなコンディションが付いては一喜一憂するとは思うのですが、その中でプレイヤーの見えない部分ではどういう感じなのかなと気になったので書きました。

    切れ者が長すぎたのはアメリカ語の文字数がハチャメチャに多いのが大半の原因です。英語難しいです。

    例に漏れずとっ散らかった文になってしまってますがどうか許し亭。

    英字部分に誤字があります。誠にごめんなさい。
    例:They all look so goog!→They all look so good!

  • 10二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 18:49:22

    使い魔とスイープの関係良い...
    形式も面白くて楽しませてもらいました

  • 11二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 19:05:36

    うーん解釈一致

  • 12二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 19:13:06

    愛嬌のオチでちゃんと友情トレーニングに繋がってるの好き

  • 13二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 19:16:25

    片頭痛のくだりすごく好き
    自分の為に用意してくれた薬だから我慢して飲むスイーピーとそんなスイープを見てちゃんと褒めてご褒美を考える使い魔の両者の心が優しくて好きです

  • 14二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 19:40:01

    優しい世界でよきよき

  • 15二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 19:48:36

    許し亭氏の新作助かる
    こういうアラカルト的な短編集も素敵ですねぇ

    【太り気味】の章で笑ってしまった
    いちいち発言がピンポイントで危ないよ!!

  • 16二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 19:51:56

    夜更かし気味と注目株と練習上手も欲しいぜよ…

  • 17123/01/19(木) 20:18:47

    >>16

    全部捌き切れるかわからないですが頑張ってみます…!

  • 18二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 22:25:38

    このほのぼののど真ん中をいく感じがたまらなく好き

  • 19二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 23:00:00

    至高ッ!
    素晴らしいものを読ませてもらった!

  • 20二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 23:03:09

    >>17

    マジですか!

    感謝...!

  • 21二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 04:52:26

    【夜更かし気味】

     朝というものは、誰にも皆、平等に訪れる。昇る朝日は、待ち望んでいた希望の曙か、もしくは絶望の淵に佇む明けの明星か。人それぞれだろう。

     俺はと言うと、別にどちらでもなくいつもと変わらない、何て事はない日だ。いつものように、朝日を浴びて新しい一日の到来を一身に感じ、今日も頑張るぞと、少し遅めに部屋を出発する。

     どうも、この時間は中等部の子たちがたくさん登校する時間のようで、元気よく挨拶されたのでこちらもきちんと挨拶する。朝の挨拶とは気持ちいいものだと道を進むと───。

     何やら奥の方でフラフラと…千鳥足というか蛇行と言うか、明らかに真っすぐ歩けていない、トンガリ帽子を被った生徒の姿が見えた。…見覚えあると言うか、あの子しかいないよなあ。

    「…スイープ?」
    「んぇ…つかいま?」

     声をかけた先の少女は、普段のハリのある声はどこへやらと言わんばかりのヘニャヘニャ声だった。こちらを振り向くや、これまた蛇行しながらこちらに寄り────。

     ぽすん、と俺に顔を埋めてしまった。体調不良だろうか、そのままの状態で何も言わないスイープに、慌てて何があったかを問う。

    「ど、どうしちゃったの!?何があった!?」
    「…」

     必死に体を揺すっても、無反応のスイープ。これはもしや、本格的に無理を押している状態なのか…と、危惧すると同時に、そこまで進んでいた彼女の異常に気付けなかった自分への怒りがこみ上げ初める頃────。

    「くぁぁ…ふぁ」

     俺の腹元から聞こえる、凄まじく気の抜ける欠伸。俺に腹から欠伸を出すなんてかくし芸は有してないので、当然スイープの口から発せられたものだ。ズッコケそうになるのを耐えながら、スイープに質問をする。

    「…昨日の夜、何時寝?」
    「4時…」

     寝ぼけ眼を擦りながら、どこ吹く風と言わんばかりに答えるスイープ。はあ、と溜め息を付きつつも、このままではまずいと彼女を背負い、一旦トレーナー室に向かうのだった。

  • 22二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 04:52:58

     トレーナー室についたので、スイープをソファーに降ろす。普段なら、おぶると揺れまくって気持ち悪いとか文句を垂れるのだが、何も言わないどころか寝息まで立て始めているので相当眠かったのが窺える。現状、毛布を抱いてしっかり寝ようとしているのだから。

    「スイープ、寝る前に昨晩何してたのか教えてくれないか?」
    「そんなの何で使い魔に教えなきゃ…ふぁ…」

     君を管理しているからだよ、と言いたかったが多分それでは引き出せないなと思い直し、昨晩の話からつられてポロッと言ってしまうような状況に持っていくのがベターと考えた。昨日の夜、昨日の夜と言うと…。

    「…そういえばスイープ、昨日はお月様を見た?」
    「…ん」
    「キレイだったよなあ。ピカピカ金色に輝いてて、まるで魔法みたいな輝き───」
    「ふっふーん…スイーピーの魔法が、効いたからね…」

     うん?今、魔法が効いたとか言わなかったか?…触れずに、かつ上手い事掘り下げてみるか。

    「月の光にしては強いなってずっと思ってたんだよね…。遅くまで起きてたんだけどさ、窓から差し込む光が眩しいくらいだったもん」
    「それはね…雲をも裂くような月の光の魔法を夜な夜な…れんしゅー…」
    「…ぐぅ」

     スイープは寝てしまったが事情はわかった。そして頭を抱えた。

     総括すると、スイープは昨晩は門限を過ぎても外に留まり続け、魔法の練習に明け暮れた。その中で、月光の輝きを強くする魔法の練習を外でしていたが…何らかの理由で雲が月を隠してしまい、効果がわからなくなってしまった。

     その為、スイープは魔法がかかったかどうかを確認する為だけに、寝る事なく月の様子を確認した。その後、満足の行く結果が確認できたのか、寝付いたようだがその頃にはもう午前4時になっていたという事か。

     スイープは以前、月の下でもっと魔法の練習をするから帰らないと駄々をこねたことがあった。その時は、明日が休日だったので俺が監視すればいいかと特に気にしていなかった。

     だが、これが監視外でもやられているとなると流石に目を瞑れない問題と化す。自由にやる分には構わないのだ。ただ、それが日常生活に支障をきたすものならば、メスを入れざるを得ない。

     そこで、俺がとった行動は─────。

  • 23二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 04:53:32

     俺がとったスイープの夜更し対策───それは、消灯時間に入る辺りに連絡を入れるというものだった。

     何故連絡なのかと言うと、温泉旅行に行った際に、彼女は一人で寝るのはつまらないと癇癪を起こした事があった。その時は、寝るまでスイープのおしゃべりに付き合っていたが、その時の経験を生かしておしゃべりに興じようと提案したのだ。

     困惑気味ではあったが、スイープと今日あった事をお話したいんだけどなあと押してみると、案外簡単に折れてくれた。言い方は悪いが、こう見えて、面倒見の良い彼女ならこちらからお願いをすれば多分胸を張って聞いてくれるという謎の信頼があったのだが、目論見通りだった。

    「それでね、フラワーったら、自分のトレーナーにお弁当作ってるんだって。健気よね」
    「へえ〜…たしか、お料理が上手とか聞いたけど、他人に振る舞えるのはすごいな」

    「そういえば、使い魔ってロブロイの素顔って見た事ある?」
    「え?眼鏡なしの話?いや、なかったはずだけど…」
    「むぅぅ〜…!ロブロイの眼鏡にはやっぱり魔法がかけられてるんだわ、今度見せてもらおうかしら」
    「いいけど無理やりとかはだめだからね〜…」

    「マヤノって、絶対自分のトレーナー好きよね」
    「あれはもう一目瞭然というか何というか…」

    「それで、カレンチャンのトレーナーが…スイープ?」
    「…にゃによ、聞こえてるんだからぁ…」

     通話を初めて30分強、スイープの声の呂律が回らなくなり始めたので、ここらへんで通話を切り上げようとスイープに呼びかける。

    「それじゃスイープ、また明日…おやすみ」

     それ以降、規則正しい寝息がスピーカーを介して聞こえたのを確認してから切り、念の為に、栗東寮長のフジキセキに連絡を入れ、布団がはだけてないか確認をしてもらうのだった。このやり方を繰り返した結果、スイープは快眠も快眠できるようになった…のだが。

    「うぅ〜!使い魔!アンタが連絡してくれないと寝付けなくなったんだけどぉ!?」
    「何がどうなったらそうなるの!?」

     何故か、俺の声を聞かなければ寝付きが悪くなったとして、毎晩のように連絡をする羽目になったのだった。どうやら、あの日見た夜明けの陽光は、俺にとって絶望の淵に佇む明けの明星だったようで、結果的に体力が10下がるのだった。

  • 2423/01/20(金) 04:54:26

    夜ふかし気味間に合った!他も随時頑張って書いていきます。

  • 25二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 08:50:47

    気長に待ちますので…ありがとうございます

  • 26二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 09:08:48

    >>22

    多分この場ではそういう気ではなかったんだろうけど月がきれいって捉えられるような言い方してる…トレーナー…

  • 27二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 09:11:33

    なるほど素晴らしい!君のSSには技術も納得も説得力も、なにより愛がある!
    満点をあげよう!

  • 28二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 19:41:59

    SS紹介スレで見ました。
    いろんなコンディションを更に広げるのは他のウマ娘ならどうなるかな?みたいな想像が働いて楽しそうですね。良いSSをありがとうございます

  • 29二次元好きの匿名さん23/01/21(土) 01:25:50

    不思議やな 二次創作やのに
    すでに見たように錯覚するのはなんでや

オススメ

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