- 1二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 00:12:07
『夫人。犯人は貴女だ。……そうですね?』
『……ここまで言い当てられては、もう言い逃れも出来ませんね。ええ。私が殺しました。三人とも、この手で殺しました。首を折り。胸を差し。毒を飲ませて殺したのです』
『奥様…!嘘だとおっしゃってください!』
『何故こんな真似を…!』
『許せませんでしたっ!!あの人を死なせておいて……平然と笑って生きているあいつらが!!私はもうあの人と語らうこともできないのにっ……ぅうっ…………ぐぅっ』
『お、奥様!?』
『しまった…毒だ!』
『まずい、吐かせろ!早く!』
『げぼっ、ごぼぉぇ、ぅ……ぁあ、あなた。私、あなたと同じ所には行けません……けれど、ぅっ、私は、地獄に堕ちるけれど…………どうか、あなたは安らかに……眠っ……て……』
『そんな、そんな…奥様ぁぁぁ!!』
トゥインクル・シリーズを駆け抜けてしばらくして。メディアへの露出が増えてきた頃。
『夫を殺された復讐鬼』という役でドラマに出演したマンハッタンカフェの怪演は、しばらくトレセンの語り草となった。
SNSで爆発的にバズり、著名な俳優までもリアクションをしたことで火に油どころの騒ぎではなくなった。トレーナー曰く『本当に死ぬ時の声』だの『未亡人の擬人化』だの『ホラーゲームの前日譚』だの……とにかくネットでは好き放題言われていたようだ。(後で知ったことだが、この回は最終回よりも視聴率が良かったらしい) - 2二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 00:12:36
さて。競技者たちの養成校とはいえ、トレセン学園の生徒たちはまだまだお年頃の乙女たちである。身近な人がドラマ出演を果たし、あまつさえ大バズりしているとなっては放っておけるはずもない。
クラスメイトはもちろん学年を問わず生徒が集まるようになり、休み時間の旅に廊下にちらほらと人集りができる有り様。
「お友だち」を頼り人の波を抜けてどうにか辿り着いた先で、あのアグネスタキオンすらも話題に出してきた時は目眩を感じた。俗世の流行りというものに興味が薄そうなこのウマ娘でさえ知っているのならば、学園中に知れ渡っているのと大差ない。
人の噂も七十五日、とはいうものの。
話題に上がらなくなるまで尾ひれが百枚は増えているのではないか、とマンハッタンカフェは思う。辿り着いたトレーナー室は今のカフェにとって数少ない安息の地である。
「はぁ……疲れました」
連続ドラマの第六話。探偵とウマ娘の助手が二人で数々の難事件に挑むミステリードラマ、『手綱とふたり』の単話ゲストとしてのオファーが来たのが随分と昔に感じられる。まあ少し話題になる程度だろうな、というカフェとトレーナーの認識は節穴そのものであった。
- 3二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 00:13:05
「お疲れ様。カフェ。……今でも信じられないよね。こんなに話題になるなんて」
「そうですね……」
次の出演はいつですか、あの台詞もう一回言ってください、サインください、etc……カフェは学園内でのそれらの要望全てを断ってきた。とにかく塩対応を心がけ、自分は女優でもなんでもないのだという主張をしてきた。
しかし、世間というのは逃してはくれない。
「で、ね。来てるんだよ」
「……言わないでください」
「次のオファー、7件くらい」
「断りましょう全部。役柄も想像がつきます」
「一応全部目は通しておいたけど……まあ、そんな感じかな。未亡人が2件に、サスペンスドラマの犯人が4件。シリアルキラーを兼ねてる役が3つ……」
「どんなイメージ抱かれてるんですか、私……」
少なくともお茶の間では返り血のよく似合うウマ娘である…というのは、まだ二人は知らない。
「うーん……でも、俺が見てても本当に凄い演技だったよ?カフェがもう少し挑戦する姿、見てみたいなあ」
「……おだてないでください」
彼に褒められるのは嬉しい。嬉しいのだが。
別に女優の道を進みたいというわけではないのだ。 - 4二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 00:13:36
「いや本当に。現場で見てたけど凄かったよ。……ちょっと嫉妬しちゃうくらい」
「……嫉妬?」
「ごめん待って間違えた今のなし」
そうは問屋が下ろさない。
都合良く発生した怪奇現象によりトレーナー室のドアは建て付けが急に悪くなり、軋んだ音を立てた。カフェはずいずいとトレーナーの元へ歩み寄り、こてんと首を傾げて尋問する。
「トレーナーさん?」
「……いや、演技だってのは分かるんだけど……あそこまで思ってもらえる人は幸せだろうな、って。あ、でも殺されちゃってるから幸せとも言い切れないか……」
「ああいうのが……羨ましかったんですか?男性とはそういうものですか……?」
「少なくとも俺は嬉しい、かな。大事な人に罪を犯してもらいたくはないけどさ」
恥ずかしそうに、どこかバツが悪そうに呟くトレーナーの横顔がどうにも愛おしく見えてくる。
(ああ…もしかして)
この人は嫉妬してくれたのだろうか。
所詮お芝居で、作り物の感情に。相手役に向けた上っ面の取り繕いに。だとしたら、なんて…… - 5二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 00:14:06
(──かわいい)
この人がこんな顔をしてくれるなら──この人の可愛らしい一面を知ることができるのなら、また挑戦するのも悪くないかもしれない。
可愛い人だな、と思う反面。心外でもある。
自分が愛を向ける男性なんて、一人しかいないのに。
「トレーナーさん。私、カメラの前では」
カフェの両手が伸び、トレーナーの両頬を優しく包み込む。
「ずうっと、あなたのことだけ考えていましたよ」
背筋の凍る程に美しい笑みが、愛玩の色を帯びていた。金の瞳がトレーナーを真正面から見据える。凍り付いたように身体が動かなくなり、目を離せなくなる。
(楽しいですね)
我ながら悪趣味だという自覚はある。
(私のことで、この人の心が揺れ動いているというのは)
それでも。
「珈琲、淹れましょうか。あなたがあのドラマを見てどう思ったのか、もっと聞かせてください」
──秘め隠された彼の心を、マンハッタンカフェは覗き込みたくて仕方がない。
悪魔のような笑みが、トレーナーの心臓を大きく高鳴らせた。 - 6二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 00:16:32
以上、『ドラマ出演したらなんかバズったカフェと、役柄とはいえ愛に生きて愛に死んだカフェの様子を見て少しモヤっとしちゃったトレーナー』という概念でございました
以下、ドラマ出演したウマ娘についての幻覚その他諸々について - 7二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 00:16:41
わるいカフェはいいぞ…………
- 8二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 00:21:27
- 9二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 00:28:08
ええやん じっとりスケベ
- 10二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 00:42:49
マックちゃんドラマに出たらヤバそう
名優だもん絶対やばい - 11二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 01:19:27
悪いカフェとてもよかった……
未亡人の擬人化って表現に笑いつつそのとおりだと思う反面、未亡人って元々人では……? ってなって面白かった。
うっかりヤキモチのこと口滑らせたトレーナーを『かわいい』って思うカフェがかわいい。それでいて昏い感情を抱くカフェさん美しいべ…… - 12二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 01:46:26
トレウマのじっとりした関係からしか取れない栄養もある
ところで映像に謎の人影とか映ったりしません? - 13二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 08:15:27
グッド
- 14二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 08:39:11
スレ画なんか話の冒頭で探偵にお茶とか出してるシーンに見えてきた
- 15二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 12:09:21
ドル売りのファル子もいるし俳優の道に行くウマ娘もちょくちょくいるかもしれんよね
スタミナはあるし - 16二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 12:14:34
カフェに問い詰められて焦るトレーナーとそれに快感を覚えるカフェでしか摂取出来ない栄養素が溜まっていくのを感じる
続編は!続編はまだですか!? - 17二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 21:07:35
未亡人カフェを語っていいのか?
- 18二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 23:14:56
お友だちが役に立ちすぎる
ねっとりした感じのカフェ好き