【ウマ娘SS】秋月の下で【トレ♂×グラスワンダー】

  • 1二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 19:49:56

    ちょっとだけ長めな作品なので、どうぞゆっくりとご覧になって下さいな。

  • 2二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 19:50:35

    ある日の午後。デスク作業もひと段落し、お茶でも淹れようかと席を立った時、コンコンとトレーナー室の戸を叩く音がした。
    「失礼いたします」
     嫋やかな所作で戸を開けたのはグラスワンダー。自分の担当するウマ娘だ。
    「お疲れ様です、トレーナーさん」
    「やあ、グラス。どうしたんだ?トレーニングまでにはまだ時間があるけど......?」
    「実は、トレーナーさんにお見せしたいものがありまして......」
     こちらの問いに、グラスワンダーは鞄から1枚の紙を取り出して答えた。
    「これは......秋祭りのポスター?」
    「来週末に、学園の近くの神社で行われるみたいなんです。よろしければ、一緒に行きませんか?」
     日程を確認してみると、ちょうどレッスンが休みの日と重なっていた。
    「構わないよ。一緒に行こうか」
    「はいっ。ふふ、今から楽しみです〜♪」

  • 3二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 19:52:10

    「それにしてもここの神社、秋祭りなんてやってたんだな。今まで知らなかったよ」
    「ええ。私も最近知りまして、少し興味があったんです」
     開催場所の神社は、学園から程近い所にある。神社としては比較的小さめで、小高い丘の上に建っているのもあって、普段はあまり人気がない。その割に、いつも参道や周辺は綺麗に掃除されていて、なんとなく現実感の薄い場所だ。
     それに、トレセン学園は毎年この時期になると『駿大祭』の準備で大忙しになるため、他の場所での催事にはどうしても目がいかなくなりがちなのだ。なので、こんな近所のお祭りで、しかも規模もそこまで大きくないとなると、当然知る機会は滅多に無い。
     グラスワンダーも、最近は秋の天皇賞にむけて本格的な調整をしている。いい気分転換にもなるだろう。

  • 4二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 19:54:28

    ーーーー

     忙しい日々を送るうち、いつの間にかお祭り当日がやって来た。現在時刻は16時をまわっている。
     待ち合わせ場所は参道前の鳥居。予め合流してから向かおうと思っていたのだが、それは彼女に断られてしまった。何か事前に用事でもあるのだろうか?
     スマホで今後のトレーニングスケジュールを確認していると、トントンと優しく肩を叩かれた。振り向くと、そこには浴衣姿のグラスワンダーがいた。
     赤紫色の生地に白い秋桜の模様があしらわれた、落ち着きの中に気品を感じるデザインだ。黒い帯が程よい差し色となり、全体の印象をスマートで大人っぽく仕上げている。彼女には珍しく髪を結い上げている為、いつもよりも少し艶っぽく見える。
    「トレーナーさん、お待たせしました〜。......トレーナーさん?」
    「......えっ、ああごめん! 大丈夫! その......浴衣、とても似合ってるよ。綺麗だ」
     ──不覚にも、一瞬言葉を失ってしまった。
    「まあ、ふふ.....ありがとうございます♪」
     そう言って照れ笑いするグラスワンダーの姿に、また心臓が跳ねる。やはり、今日の彼女はなんだか違う。いや、もしかしたら変なのは僕の方かもしれない。
    「ゴホンッ! さて、それじゃあ行こうか」
     気を取り直して、参道を上り境内へ入っていく。

  • 5二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 19:57:15

    「あらまあ、随分賑やかですね〜」
     お祭りは思っていた以上の賑わいを見せていた。活気に溢れた屋台に、子供たちが射的や輪投げなどで楽しそうに遊ぶ姿。片隅にある休憩スペースからも、陽気に談笑する人々の声が聞こえてくる。
    「そうだな、ここまでとは思わなかったよ......!」
    「トレーナーさん、まずはあちらから回ってみませんか?」
     心なしか声色の明るい彼女が指差す方向には、「にんじん焼き」の文字。
    「──ははっ、分かった。行こうか」
     普段は控えめなグラスワンダーの年相応な部分が垣間見えて、思わず笑みが溢れる。

    「ほう、お嬢ちゃんトレセン学園のウマ娘なのかい! いや、うちの孫もウマ娘でな、『大きくなったらトレセン学園に行ってレースに出るんだ』なんつって聞かねぇのよ!今、孫はあっちにいるからよ、よかったらレースの話とか聞かせてやってくんねぇか? ほら、にんじん焼き1本サービスすっから!」
     ──という訳で、推しの強い店主に頼まれ、お孫さんに学園での思い出話をすることになった。

  • 6二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 19:59:42

    「.......おねーちゃん、だれ?」
    「初めまして。私はグラスワンダーと言います。こう見えて、トレセン学園の生徒なんですよ〜。あなたのおじいさんから、これを渡して欲しいと頼まれたので、持って来たんです」
    「あ、にんじん焼き! ありがとう! あの、おねーちゃん、トレセン学園に行ってるって、ほんと?」
    「そうですよ〜」
    「じゃあじゃあ、レースもいっぱいでてるの!?」
    「はい。それはもうたくさん......」

    ーーーー

    「沢山お話ししちゃいましたね〜」
    「ああ、あの子が喜んでくれて良かった。」
    「......ふふ、なんだか楽しそうですね♪」
    「ははっ、そうだな、楽しいよ」
     ──グラスの話を聞いて、俺も色々と思い出した。最初に彼女に出会った時から、本当にたくさんの出来事があった。もちろん辛いこともあったけど、今はそれも含めて全部、良い思い出だ。

  • 7二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 20:01:15

    「お礼に焼きそばまでサービスしてもらって、良いことづくしだしな」
    「はい。正に『情けは人のためならず』ですね〜」
    「さあ、冷めないうちに食べよう」
    「はい、いただきましょう♪」
    そうして2人で手を合わせ、お互いにまず一口。
    「......うん、うまいな。ソースが絶妙だ。」
    「ん〜♪このにんじん焼きも、とっても美味しいです」
     ふとグラスワンダーの方を見やると、食べる時の髪を掻き上げる仕草に一瞬見惚れてしまった。「……」
    「トレーナーさん? どうかしましたか?」
    「ああいやなんでもないよ! それより、食べた後は何をしようか?」
    「そうですね......あ、あちらに型抜きがあります〜」
    「型抜きかあ、それも良いな」
    「では、しっかり食べて行きましょう。『腹が減っては戦はできぬ』ですよ〜」
    「ははっ、戦かあ......」

  • 8二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 20:03:00

     その後もたっぷりとお祭りを楽しんだ。最後に、折角神社に来たのだからということで、軽くお参りをしていくことにした。
     ──グラスワンダーの願いが叶いますように。
     特に個人的な願望は無かったため、そう願ってじっと手を合わせ黙祷を捧げる。......彼女は何をお祈りしているのだろう?目前に控えた天皇賞の勝利祈願?それとも、今後の競技人生に通ずる願い?まあ何にせよ、自分がやることは変わらない。彼女の道行きを、これからも全力で支えていくだけだ。それが彼女の担当である自分の責任だと思うから。

  • 9二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 20:05:34

    ーーーー

     少しばかりの名残惜しさを感じながら、神社を後にする。既に日は沈み、ふと空を見上げれば、秋らしいくっきりと輝く月が目に入る。そういえば、今日は十五夜の日だったか。隣を向くと、グラスワンダーも月を眺めているようだった。こちらの視線に気づいたのか、彼女と目が合う。別に何もおかしくは無いのに、どちらともなく笑い合った。
    「......ちょっと、お月見でもしていくか」
    「まあ、それは素敵なお誘いですね〜」
     2人で近くにあったベンチに腰掛ける。そして改めて、夜空に浮かぶ満月に目を細める。やはり美しい。風流というのはこういうものだと実感させられる。
    「──月が綺麗だな」
     無意識に呟いた。何のことは無い、文字通りの意味で零れ落ちた言葉だった。ふと、横目でグラスワンダーの様子がおかしいのに気づく。見れば彼女は頬を赤らめて俯いていた。どうしたのかと考え始める前に、直前の自分の言葉にハッとする。今、とんでもない事をやらかしてしまったのでは無いか。即座に誤解を解こうとするが──

  • 10二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 20:08:42

    「トレーナーさん......」
    そう言って、グラスワンダーがこちらの袖を掴む。流石に軽率な発言をしてしまった。怒らせてしまっただろうかと彼女の様子を伺うと、
    「......私にとって、月はずっと綺麗でしたよ」
    彼女は上目でそう言った。瞬間、自分の鼓動の音があり得ないほど大きく感じた。暫し、無言で見つめ合う。
     
    ──正直な話、彼女を女性として意識していないわけでは無い。もう数年来の付き合いだし、自慢では無いが、彼女の魅力を家族以外に最も知っている異性は自分だろうという自負もある。だが、そもそも彼女はまだ中等部だ。許される訳はない。何より彼女の気持ちをこちらは知らないし、今後沢山の出会いの中できっと自分なんかよりもっと良い人と出会えるだろう。そう思っていたからこそ、彼女のトレーナーとして付かず離れずの距離感を保って来た......筈だったのだが。
     たった今、彼女の気持ちを知った。知ってしまった。「まさか、そんなことは無いだろう」......心のどこかで、そう高を括っていたのに。
     何か、言葉を返さなければ。頭では理解しているのに、うまく出力できない。我ながら情けない話だ。好きな異性に面と向かって告白する度胸もないとは。

  • 11二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 20:10:38

     こちらがぐだぐだしているうちに、先に口を開いたのはグラスワンダーだった。
    「あの......月は未だ高く、手が届きそうにありませんから」
    「──届くまで、待っていてくださいますか?」
    そう言って、彼女は力強い眼差しをこちらに向ける。

     ──ああ、そうだ。最初は、この「強さ」に惚れ込んだのだ。彼女の根底にあるこの力強い意志に、自分は心をうたれたんじゃないか。ならばそのトレーナーである自分が、彼女の決意に答えない訳にはいかない──!
    「分かった。待つよ。『その時』が来たらまた、一緒に月を見よう」
    「──はいっ。」

  • 12二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 20:12:08

    ーーーー

     ──あれから、幾年かの歳月を経た。グラスワンダーは現役を引退し、今年の春にトレセン学園を卒業した。自分はといえば、相変わらずトレセン学園でトレーナーをしている。今では学園内でもそれなりに評価され、チームを預かるまでになった。大変ではあるが、とても充実した日々を送れている。
     そんなある日。トレーニング終わりに、スマホに1件通知が来ているのに気づいた。
     ──グラスワンダーからだ。すぐさま返事をし、かつて秋祭りを楽しんだあの神社で会うことになった。今年は例年よりも早めにお祭りが開催されたため、今宵は至って静かだろう。
     神社へ向かう道のりが遠く感じる。決して老いなどではない。それ程までに、彼女に会うのが待ち遠しかったのだ。
     待ち合わせ場所に着く。秋祭りの時と同じ、参道前の鳥居。
    「懐かしいな......」
     まるで昨日のことのように思い出せるあの日の記憶に想いを馳せていると。淑やかで綺麗な声が耳に届く。
    「こんばんは、トレーナーさん」
    「......やあ、グラス」

  • 13二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 20:17:16

     振り向くとそこにはグラスワンダーが居た。あの時よりもいくらか背が伸び、髪を緩く一つ結びにしている。自然なメイクも相まって、重ねた歳月以上の大人っぽさを醸し出していた。
    「お待たせしましたか?」
    「いや、俺もちょうど来たところだよ」
     月並みな言葉を交わして、参道を登っていく。道中では他愛のない世間話や互いの近況報告などをしつつ、境内の片隅に腰を下ろした。飲食は禁止されているため、お茶も団子も用意はないが、気にせずに積もる話を続けた。
    「そういえば、あの時何をお祈りしてたんだ?」
    「さあ、何でしょう? ふふ、きっとトレーナーさんと同じだったんじゃないでしょうか〜」
    はぐらかされてしまった。まあ今となっては答えが分からなくとも構わない。こんな事よりも、ずっと聞きたかった「答え」があるのだから。

  • 14二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 20:19:03

     そして会話もひと段落したところで、2人で徐に月を眺める。今夜は十五夜だ。時間の経過を感じさせぬように、月は今夜も美しく輝いている。
     あの日の夜を思い出す。完全に意図せず生まれた事故ではあったが、お陰で今彼女とこうしていられるのだと思うと、かつての未熟な自分にも少しばかり感謝の念を抱く。
     ふと、グラスワンダーを見る。彼女はうっとりと月を眺めていた。横顔が美しい。それこそ、夜空の月にも劣らないほどに。こちらの視線に彼女が気づく。慈しみに満ちた、それでいてどこか期待感を湛えた瞳が、真っ直ぐに自分を見つめる。

    「......グラス」
    「はい」
    「月が綺麗だな」
    「──はい。今ならきっと、手が届くでしょう♪」

  • 15二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 20:22:50
  • 16二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 20:25:01

    ニヤニヤがとまらなかったよ…ありがとう。
    ありがとう。

  • 17二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 20:26:24

    グラスちゃんはやっぱり可愛いな
    ありがとう

  • 18二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:03:36

    面白かった

  • 19二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:06:08

    あぁ…すき…(語彙力喪失)

  • 20二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:08:15

    こういうのがいいんだよおじさん「こういうのがいいんだよ」

  • 21二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:10:15

    グラス純愛物は1日の疲れに効く…

  • 22二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:27:55

    素晴らしい物を見させていただきました・・・!

    あぁー!俺にも秋の夜長に一緒に月を見上げる人がいたらなー! 

  • 23二次元好きの匿名さん21/11/10(水) 00:31:04

    んー好き!

  • 24二次元好きの匿名さん21/11/10(水) 00:38:01

    いいグラトレだ…
    堪能させてもらったよ…

  • 25二次元好きの匿名さん21/11/10(水) 00:43:09

    よいものを読ませていただいた……感謝を

  • 26二次元好きの匿名さん21/11/10(水) 01:39:35

    グラスは可愛いってこと思い出したわ

  • 27二次元好きの匿名さん21/11/10(水) 12:23:02

    落ち着いた雰囲気が良き・・・・・・

    ここで見るssってグラトレ視点のものがほとんどない気がするから個人的に新鮮

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