- 1二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:07:48
- 2二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:08:12
セイウンスカイというウマ娘がおりました。
彼女は優秀なウマ娘でレースでも好成績を収めていました。
しかし、怪我をしてから成績が低迷してしまいます。
精神的に折れてしまってなかなか立ち直ることができなかった経験があるという方もいらっしゃるかと思います。
彼女はまさにそんな状態でした。
同期のみんなが相変わらず活躍していることも彼女の心を蝕みました。
怪我が完治してからも不安定な精神状態では勝てるレースも勝てず、さらに精神的に追い込まれ成績が下降する……という悪循環へと陥ってしまいました。
すっかりふさぎこんでしまった彼女はレースはおろかトレーニングすらやめてしまいました。
これではいけない、と思ったのが彼女と一緒に暮らしていたニシノフラワーというウマ娘でして─── - 3二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:08:31
「……イさん……スカイさん!スカイさんってば!」
「んん……こんな朝早くにどうしたのさフラワー、もう少し寝かせてよ……」
寝ぼけ眼をこすりながらスカイが答えます。
「どうしたの、じゃないですよスカイさん!いい加減トレーニングしないとレースに戻れなくなりますよ!」
「……別にいいよ、私なんかがレース出たって勝てないだろうし」
「スカイさん……」
悲しそうな表情のフラワーからスカイは目をそらします。
「……ごめん、ちょっと頭冷やしてくるね」
露に濡れた一輪の花を残してスカイは部屋から出て行ってしまいました。 - 4二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:08:47
年末の寒空の下、浜風に吹かれながらスカイは砂浜を歩いていました。
立て看板を見ると『芝浜』と書いてあります。
「……ろくにターフの上を走れないセイちゃんへの当てつけですかあ?」
自嘲気味に笑うと風にあおられた新聞紙がスカイの足元に飛んできました。
拾い上げると紙面には同期たちの姿が載っていました。
「そっか、今日有馬なんだっけ」
他人事のような口ぶりとは裏腹にスカイの手には力が入ります。
新聞紙がくしゃりと音を立ててつぶれました。
投げ捨ててしまおうと海へと振りかぶると。
波打ち際になにかが打ち上げられています。
近づいてみますと小さな古びた袋です。
しかし大きさの割にずいぶんと重いようでした。
気になって中身を開けてみます。
中には大粒の砂金が詰まっていました。
スカイは大慌てで大事に抱え込み、家へと逃げるように帰っていきました。 - 5二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:09:05
「フラワー!」
勢いよく飛び込んできたスカイにフラワーは目を丸くしました。
「どうしたんですかスカイさん?」
「見てよフラワー!」
スカイが拾った袋の中身を見せて、経緯を説明します。
「これさえあればさ!私はもうレースに出なくていいし、苦労をかけてきたフラワーにもようやく楽をさせてあげられるんだ!」
しかし嬉しそうに話すスカイとは対称的にフラワーは浮かない表情をしていました。
「……でも、拾ったってことは落とした人がいるわけじゃないですか」
「そりゃあそうだけど……きっとこれは三女神さまがくれたものだから使っちゃっていいんだよ」
そう言うとスカイは大きくあくびをしました。
緊張の糸が切れたのでしょうか。
「ごめんフラワー、眠くなっちゃったから膝枕してもらっていい?」
そう言うとフラワーの太ももの上に倒れこみます。
すぐにスカイは深い眠りに落ちました。 - 6二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:09:22
「……イさん……スカイさん!スカイさんってば!」
スカイの肩が揺すられます。
「ふわあ……どうしたのさフラワー」
「どうしたの、じゃないですよスカイさん!いい加減トレーニングしないとレースに戻れなくなりますよ!」
スカイは首をかしげました。
「えっと、今朝まったく同じやり取りしなかったっけ……というかあの袋があるんだからもうレースなんて……」
フラワーがきょとんとした表情をします。
「あの袋ってなんのことですか?」
「なんのことって……砂金の入った袋だよ!フラワーにも見せたでしょ!?」
「私、そんな袋知らないですよ……?」
すっかり混乱した様子のスカイにフラワーは恐る恐る話しかけます。
「もしかしてスカイさん……夢でも見てたんじゃないですか?」
「……夢ぇ?」
「だってスカイさんを起こそうとしたらもう少し寝てたいって、私の膝を枕にしてそのまま二度寝してましたもん」
「そう、なんだ……」 - 7二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:09:37
すっかり肩を落としてしまったスカイにフラワーは真剣なまなざしで告げます。
「スカイさん。はっきり言いますけどレースから逃げ続けているからそんな夢を見てしまったんです」
スカイはぎゅっとこぶしを握り締めます。
「レースを辞めたいというなら私は止めませんし、スカイさんを一生支え続ける覚悟もあります」
でも、とフラワーはスカイの目を見つめます。
スカイは目線を落としてしまいました。
「ここで逃げ出してしまったらスカイさんはずっとずっと、後悔すると思います。だから」
フラワーはそれ以上はなにも言わず、スカイの両手を小さな手で包み込みます。
スカイの目からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちました。 - 8二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:10:04
その日からスカイはトレーニングを再開しました。
フラワーのサポートもあり、少しずつブランクを埋めていきました。
そして復帰戦を迎えます。
「レースどころか最近までトレーニングもしてなかったんだろ?」
「そもそも復帰前も負け続けだぜ?これは来ないだろうな」
そんな心ない言葉もそこかしこでささやかれました。
しかしスカイは怪我をする前と同等、もしかするとさらに強かなレース展開で一着をとりました。
観客は騒然です。
「おいおいおい、勝っちまったよ」
「こりゃあ台風の目になるな……」
そんなことが先ほどの心無い言葉と同じ口から出るのですから現金なものです。
ともかくスカイは復帰戦から次々と勝ち上がり、ついには同期のみんなと同じレースで切磋琢磨するまでになりました。
こうなるとレースにトレーニング、相手の研究やファンとの交流などなど、ずいぶんと多忙の身になってしまいました。
気がつくと一年が経っていました。 - 9二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:10:39
「フラワーただいまあ」
「おかえりなさいスカイさん」
出迎えてくれたフラワーをスカイがぎゅっと抱きしめます。
「んふふ~♪今日は寒かったからフラワーの体温が染みるよ~」
「もう、スカイさんってば……」
フラワーを抱きかかえたままテレビをつけると、先日行われた有馬記念の特集が流れていました。
画面には同期と一緒に笑うスカイの姿もあります。
「……まさかまた有馬に出られるなんてね」
しみじみとつぶやくスカイをフラワーが見上げました。
フラワーの頭をなでながらスカイが話を続けます。
「覚えてる?去年の今くらいの時期に私が変な夢見たの」
フラワーの身体が一瞬だけ固まりましたが、スカイが気づいた様子はありません。
「もしもあの時にさ、フラワーが私の手を取ってくれなかったら今の私はいなかったと思う。本当にありがとう」
スカイの言葉を聞いてフラワーは大きく深呼吸をしました。
「スカイさん。私、謝らないといけないことがあるんです」 - 10二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:10:52
フラワーは立ち上がり、引き出しの奥からあるものを取り出しました。
一年前にスカイが芝浜で拾った袋です。
唖然としているスカイの前に袋を置くと、フラワーは額をこすりつけるように頭を下げました。
「ごめんなさいスカイさん!私はスカイさんがこの袋を拾ったことをずっと夢だとだまし続けてたんです!」
そしてフラワーは訥々と話し始めました。 - 11二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:11:08
スカイさんが私の膝で寝ている間にいろいろ考えたんです。
たしかにこのお金があればスカイさんは楽になるかもしれない。
つらいままレースを続けるよりよっぽどスカイさんは幸せになるかもしれない。
そう思ったとき、スカイさんの目から涙が流れたんです。
負けたくない……置いていかれたくない……って言葉と一緒に。
それを聞いて私は決心したんです。
この人をレースから逃がしてはいけないって。
だから私はスカイさんをだましました。
そして今日までずっとだまし続けました。
許せないというのも当たり前です。
出て行けと言われたらそうします。
だから、どうか……どうか。
スカイさんのことを憎くてだましたわけじゃないってこと。
スカイさんのことを愛しているってことだけは、信じてください……! - 12二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:11:28
涙声でそう訴えるフラワーにスカイは優しい声で話かけます。
「顔を上げてフラワー」
フラワーの顔は涙でぐしゃぐしゃでした。
スカイはフラワーのほっそりとした身体を力いっぱい抱きしめました。
「許さないなんて言うわけないでしょ。さっきも言ったけどフラワーが手を取ってくれなかったら今の私はなかったんだ」
いったん腕を解いてフラワーの涙をぬぐいます。
「フラワーがこの袋を隠してくれなかったら、私はずっと逃げ続けてたと思う。謝らないといけないのは私のほうだよ。長い間つらい思いをさせて本当にごめん」
ぬぐったそばからフラワーの目にさらなる涙が浮かびます。
「わたし……まだスカイさんと一緒にいてもいいんですか?」
「いやだって言ったって離さないよ」
そう言ってスカイはまたフラワーを抱きしめます。
部屋の中にはフラワーの感極まった泣き声だけが流れました。 - 13二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:11:40
ようやく泣き止んだフラワーは少し恥ずかしそうに口を開きます。
「そうだ、スカイさん。久しぶりに膝枕でもしましょうか?」
「いいの?そういえば最近忙しかったもんねえ」
スカイがにこにこと上機嫌に笑います。
フラワーも正座をすると、ぽんぽんと膝を叩いてスカイを招きました。
そしてスカイの髪がフラワーの太ももに触れそうなところで。
スカイはすっと頭を持ち上げました。
「スカイさん?」
首をかしげるフラワーにスカイは頬をかきながら話します。
「……ごめん、やっぱり膝枕はやめておくよ」
「ど、どうしてですか?」
スカイは困ったように微笑みました。 - 14二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:11:59
- 15二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:12:50
前回はどえらい長さの上、読みやすさもへったくれもなかったですが今回はいかがだったでしょうか
かなり端折っている部分があるので気になった方が原作の『芝浜』もぜひ聞いてみてください
個人的には三代目古今亭志ん朝さんがおすすめです
お目汚し失礼しました
前作
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すき
- 17二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:30:08
うおすっげ(語彙喪失)
- 18二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:37:35
元ネタの落語聞いたことないからどの程度改変されてるのかわからないけど、全く違和感なくて面白かった
- 19二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:39:36
芝浜はスパロボUXの奴が大好き
- 20二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:41:22
- 21二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:46:52
- 22二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:51:30
落語もいけるのか、すごい
- 23二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 21:59:14
- 24二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 22:27:51
良いね
- 25二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 22:36:29
実際は主人公はろくでなしの魚屋さんで、金を拾ってどんちゃん騒ぎ。起きたところで嫁さんが「金なんてないよ!!」って言って…みたいなかんじだった様な。
- 26二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 22:39:16
- 27二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 22:41:12
芝浜といえば笑点の一幕でたい平師匠が大喜利の答えで急に芝浜をやり始めて、昇太師匠が「芝浜一席やり始めたら40分かかるでしょ!!」ってツッコむんだけど、周りから「芝浜はそんなに時間かからないよ」と言われて、しまいに円楽師匠に「芝浜って夫婦の情愛の話だから、この人やったことがないんだよ」と同時独身貴族だったことをイジられるってのを思い出した。
- 28二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 22:44:30
- 29二次元好きの匿名さん21/11/09(火) 22:49:06
そこが落語の醍醐味ですよね。
- 301721/11/10(水) 00:57:56
セイウンスカイちゃん道楽旦那とか豪商やら旗本の道楽息子が変にしっくりくるなぁ