(ミラクルSS)おれだけの温もり

  • 1123/01/29(日) 16:56:56

     凍えるような冬の朝、制服の上にはコートを、首にはマフラーを、手には手袋をはめ、万全の準備を整えた上で寮の玄関から外へと踏み出す。見上げた空は抜けるような綺麗な青空。いわゆる放射冷却現象で気温がぐっと下がったんだろう。そんな寒空の下彼女はいた。

    「あっ! ミラクルん! おはウェーイ☆」
    「ヘリオス、おはよう。今日も朝から元気だね」

     ダイタクヘリオス、おれの友人だ。いつも目が眩むほどの眩さで周囲を照らす、まるで太陽のようなウマ娘。そんな彼女に勇気づけられる人は多い。おれもそのうちの1人だ。脚元の不安でなかなかレースに出られず塞ぎ込んでしまっていた時も明るく励ましてくれた。彼女にとっては数多くいる友人の中の1人かもしれないけど、おれにとっては立派な恩人の1人。感謝してもしきれない。

    「それで今日はどうしたの? ルビーは今日日直みたいで先に行ってるけど」
    「マ!? つらたんすぎてぴえん通り越してぱおん……もはやゾウ……」

     そんな彼女はおれの同室、ダイイチルビーのことを慕っている。彼女的に言えば「ラビュってる」だろうか。なんでも初対面で告白したみたい。その場には居合わせなかったんだけど、あとでルビーから教えてもらった。

    「だったら急いで行った方がいいんじゃない? 今教室にいると思うから」

     だけどルビーのヘリオスに対する態度はそっけないから、早く行ったとしてもそれほど話せないかもしれない。ルビーは日直を早く終わらせて少しでも朝練したいタイプだと思うから。
     でもああ見えてもルビーはヘリオスのこと嫌っているわけではないとおれは思っている。あくまで走っている理由が異なるだけで彼女の実力そのものは認めているし、なにせ彼女のパリピ語をある程度理解して会話をしているから全く話す気すらなく拒絶をしている、なんてことはない。上手く噛み合わないだけで。

  • 2123/01/29(日) 16:57:32

    >>1

    「へ? どして?」

    「えっ?」


     ただそんな彼女はそれを拒否した。ルビー第一の彼女が。


    「だってさー、ウチ1人で行ったらミラクルんぼっちじゃん? しかもさむぽよじゃん? だったらいつもみたいにウチがミラクルん温めてあげるしかないっしょ! そりゃ☆」


     そう言っておれにぎゅっと抱きつく彼女。彼女と出会ってから初めての冬の朝、ルビーとの登校途中で、


    『ミラクルんの手、つっめた!? 体もヒエヒエでもはや氷じゃん! ほら、お嬢もそう思わん!?』

    『確かに……ミラクルさん大丈夫ですか?』

    『おれは全然平気だけど……』

    『ダメだかんね! ウチこう見えてもぽっかぽかだから、これからミラクルん専用カイロになったげる! あっ! お嬢もよかったらど?』

    『結構です』

    『ぴえん……』


     なんてやりとりがあってから、冬の間は朝昼晩関係なくおれのことを見つけたら手を握ったり抱きしめたりして温めてくれるようになった……教室でも。

  • 3123/01/29(日) 16:58:01

    >>2

    「ねえ、ヘリオス。どうしておれにここまでしてくれるの?」


     他にもたくさん友人がいるのに、冬は毎日おれのために時間を割いてくれて。温かくなるまで側にいてくれて。どうして。


    「そんなん決まってるっしょ! ミラクルんのこと好きだから!」

    「そっ……か……ごめん、いきなり変なこと聞いて」


     たぶん他の友人が同じ状況だったら彼女は同じことをする。それが彼女の長所だから。


    「ヘリオス、いつもありがとう」

    「ミラクルんハグ!? 奇跡というか神そのもの? てかもうこれツーショキメるしかないっしょ!」


     そんな騒がしい太陽を全身で受け止める。ねえ、ヘリオス。今は、今だけは。


    (ルビー、ごめん)


     おれの、おれだけの温もりでいてほしい。

  • 4123/01/29(日) 17:00:26

    以上になります。
    この画像と昨日観に行った舞台で天啓を受けて書いてみました。
    多大な自己解釈が含まれるので、もし解釈違いの方がいらしたらごめんなさい。
    それでは。

  • 5二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 17:36:41

    あっ♡ 太陽に灼かれる♡

  • 6二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 17:44:50

    ルビーとミラクルがってよく言われるけど個人的にはミラクルもパーマー並にヘリオス良いよね……良い……してる気がする。
    それはそれとして、良きSSだった。ありがとう。

  • 7二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 17:52:55

    ダイイチルビーが「態度として、内面として」冷たい(塩な)存在だとすれば、ケイエスミラクルは「運命に定義された、外側の」冷たさを強要されている印象がある。
     史実が悲劇的な短命であることも踏まえているだろう、その前提で読み解く冬の朝の描写。コートやマフラーで(出来る範囲で)寒さを凌ごうとしても、思わず地の文が豊かになるほど肌を刺す冷気は止められないというか。
     「ケイエスミラクル自身は冷たさ(未来の運命)から離れられない」からこそ、隣に立つヘリオスの暖かさが非常に映える。

     その中でも特に感嘆したのが、以下の対話。
    『ミラクルんの手、つっめた!? 体もヒエヒエでもはや氷じゃん! ほら、お嬢もそう思わん!?』
    『ダメだかんね! ウチこう見えてもぽっかぽかだから、これからミラクルん専用カイロになったげる! あっ! お嬢もよかったらど?』
     この遣り取り、ここぞとルビーにも話題を振っている一方、心配している本命の相手がミラクルであることはブレてない一貫性が窺える。
     ヘリオス→ルビーの矢印が大きいことは事実の上で、だからと言って他の子を蔑ろには決してしない、誰にとっても太陽のような存在である「ダイタクヘリオス」の立ち位置が克明に映し出された素晴らしい演出。

     してくれる、割いてくれる、いてくれる……「自分を助けてくれた人々に恩を返したい」、そのためならば殉ずることさえ厭わないケイエスミラクルは、ともすれば自分の大切さに重きを置けないのかもしれない。
     だからこそ、外部で優しく激しく彼女を照らしてくれる太陽が、暖かく彼女の世界を解かしてくれる。きっと、ルビーとの関係如何を問わず、ヘリオスにとってもミラクルは大切な存在だろうから。

     素晴らしい自己解釈とそれを鮮烈に描き起こす筆致、大変素晴らしいものでした。貴殿が賜った天啓と、それを我々にも開陳せんと筆を取ってくれた勇気に、改めて感謝を。

  • 8二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 17:54:02

    >凍えるような冬の朝、制服の上にはコートを、首にはマフラーを、手には手袋をはめ、万全の準備を整えた上で寮の玄関から外へと踏み出す。見上げた空は抜けるような綺麗な青空。いわゆる放射冷却現象で気温がぐっと下がったんだろう。そんな寒空の下彼女はいた。


    この情景描写誉れ高い。リズム感がまずいいし、わかりやすいよね。小難しくしすぎてなくてすごく読みやすい


    というか、文章が全体的に読みやすくて纏まってるっていう土台があるうえで物語を展開してるっていうのも個人的には好き


    エミュ精度とかはちょっとまだはっきりとはわからないけど、少なくとも自分は違和感抱かなかった


    物語自体についても、ヘリオスの平等に太陽な側面とミラクルからヘリオスに対する感情の湿度と独占欲、大変素晴らしいと思う、正直な感想をたった一言で表現するなら


    好き!

  • 9123/01/29(日) 18:06:39

    >>5

    ありがとうございます。自分も太陽に灼かれてしまいました……

    >>6

    ありがとうございます。ミラクルの実装が待ち遠しいですね!

    >>7

    >>8

    えっえっえっ。こんな長文いただいていいんですか……

  • 10二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 18:51:19

    ミラクルがこの暖かさを誰かにあげるのは嫌だ 微かに感じる独占欲が出てていいですね。
    分け隔てないヘリオス ソレに焦がされちゃってる
    ヘリオスがルビーに向けてる思いを知っても欲しがっちゃう葛藤も見えてくる
    いいSSだ 良かった

  • 11123/01/29(日) 21:14:18

    感想本当にありがとうございます。感謝感謝です。


    ということで……

    皆さん今からでもいいので舞台を観ましょう!(ダイマ)

    まだアーカイブ購入できるので是非!

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