【SS】大好きをめいいっぱいこめて

  • 1二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 22:16:17

    バレンタインデー。それは日頃の感謝を込めて大切な人へチョコレートを送り合う日。
    親愛、恋愛、感謝……その思惑は十人十色だが、想いを伝えるとなれば選ばれる手段は自ずと決まってくる。
    そう、手作りである。

    意中の相手に少しでも美味しく食べて欲しい。
    たくさんの人を料理で笑顔に――彼女がその願いに応えないはずがなかった。

    「今日は、ボーノであまーい手作りチョコのレシピを教えていくよ〜☆」

    定員いっぱいぎゅうぎゅうの調理室にあっても、その大きな声はよく響いた。
    学園きっての料理人、ヒシアケボノのお菓子作り教室が開催された!

  • 2二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 22:17:16

    『良かったらビコーちゃんも来ない?』

    ボノのお誘いを断るアタシじゃない、もちろん行くと返事した。
    チョコを手作りするのは初めての経験だったから、緊張もしたけどそれ以上に楽しみがいっぱいだ。
    あんなに料理を上手に作れるボノに教わったら、アタシにもすっごく美味しいチョコが作れるに違いない。
    頬の溶けるような甘さを想像して、昨日の夜ははなかなか眠れなかった。

    「な〜ボノ、これってレンジで温めるのじゃダメなのかー?氷の上でじわじわ溶かすのって結構大変なんだな……」

    「それはねビコーちゃん、チョコレートはとっても繊細な食べ物だからなんだ。一気に熱を加えちゃうと成分が分離して、味が悪くなっちゃうの」

    「そーなのか……お菓子作りって大変なんだな」

    「でも、それだけ『気持ち』を込めて作れるってことだからね!」

    お菓子作りの道はヒーローに似ていると思った。甘い香りという悪いヤツらの誘惑攻撃、そして苦難を乗り越えて掴む最高の勝利――つまりは美味しいチョコの完成にたどり着く。
    なれない作業ばかりでつまづきそうにもなったけど、ボノのわかりやすい説明のおかげで何とか乗り越えられそうだった。
    グイッと額の汗を拭って気合いを入れ直す。
    頑張れアタシ、絶対にやり抜いて見せるぞ!

  • 3二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 22:18:35

    「――ここまで来たらあとは冷蔵庫で冷やすだけ!ひとまず、みんなお疲れ様だよ〜」

    室内から安堵と喜びの声が上がる。長い長い戦いを経て、やっとチョコレートが完成したのだった。

    「片付けをしたら一旦解散だよ〜。時間が経ったら空いたタイミングで取りに来てね♪」

    冷蔵庫の中に仕舞われていく自作のチョコを見て、アタシの中に大きな達成感が湧き出てきた。レースを勝った時と同じくらい、ぐうっと弾けるような喜びが溢れてくる。

    「ふぅ〜!ありがとな!分量とか気をつけないといけないことが多くて大変だったけど、すっごく楽しかったぞ!」

    「それなら良かったあ♪また作りたくなったら、いつでも手伝ったげるからね!」

    「……つ、疲れたからすぐにはしないかもだけど」

    「あはは〜!初めてだから仕方ないよねえ。でも、今日はまだ練習だよ〜?本番はこれから!」

    「そ、そーなのか!?」

    「もちろん!今日あたしは基本の作り方を教えただけ。みんなバレンタインに向けて、おもいおもいにチョコをアレンジしてプレゼントするんだよ〜」

    そうだった。これはただの料理教室じゃない、バレンタインデーのためのチョコ作りだった。
    特定の誰か……アタシにはまだピンと来ないけど。
    ボノとか、ヒシアマ姐さんとか。大好きなみんなに配れるくらい上手く作れるようになればいいんだろうか。

  • 4二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 22:18:50

    「そういえば時間は大丈夫?ビコーちゃんはそろそろ練習があるんじゃない?」

    「あっ、そうだった!いってくるぞー!」

    「うん、終わったら取りに来てねー!」

    手を振るボノを背に駆け出す。

    「……ん?」

    そういえば。今日の参加者は誰かのためにチョコを作ると言ってたけど。
    さっきボノが作ってたチョコはお手本用のサンプルみたいなものだから……。
    肝心のボノ本人は、どうするんだろう?

  • 5二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 22:19:30

    「あっ!そういえばチョコレート!」

    今日はなんだか体の調子が良くて、追加の自主練まで難なくこなしてしまった。
    気づけば空は夜になりかけている。グラウンドの照明が強く光り出すのを見て、そうふと思い出した。

    「早く取りに行かなきゃ!」

    夜の真っ暗な廊下を渡るのは……ちょっと気が引ける、さっさと取りに行こう。疲れの溜まった脚に鞭打って、急いで調理室へと向かった。

    ――――――

    「……あれ?」

    他の教室が軒並み室内を暗くしている中、調理室だけが未だに明かりを灯していた。
    もしかしたら、料理教室の後に別の誰かが予約を入れていたのかもしれない。
    急に飛び込んだらおどろかせてしまうかも。誰が作業してるのか確認しないとだな。おそるおそる、僅かに空いた扉の隙間から瞳を覗かせた――

  • 6二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 22:20:19

    「……んー。どうしても甘すぎになっちゃう。健康のことも考えないとなのに」

    そこには、1人黙々と作りかけのチョコに向き合うボノの姿があった。
    口数は少ない。ボノが料理をする姿は毎日のように見かけるが、見たことの無い雰囲気をまとっていた。
    レースの時も、いつもアタシと話してくれてる時も、元気いっぱいのボノが今は大人しく見えて仕方ない。
    しかし元気がないとか、怒っていそうだとか、そういう空気感じゃない。

    「……ん。でもこれくらい甘さ控えめだと、トレーナーさんにがーいって言っちゃうかなあ……♪」

    確かに時折味の出来に眉をしかめてはいたけど、その後決まって何かを思い出たように伏し目がちに笑うんだ。
    『いつくしむような』っていうのは、あんな笑みのことを言うんだと思った。
    普段見せるボノらしいビッグな喜びとは違う、『ヒシアケボノ』っていう一人のウマ娘が心に持っている、ボノだけの喜びなんだろうか。

    「……どんな気持ちでいたら、あんな顔になるんだろう」

    アタシと歳は変わらないのに、ボノの方が何歳も歳上の、大人な女性に見えた。

    「……きれい」

    そういえば、誰かに教えてもらったことがある。
    女の人は、『コイ』をするときれいになるって――

  • 7二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 22:21:06

    「――あれっ!ビコーちゃん来てたの?」

    「……あっ、ご、ごめんな!隠れて見てて!」

    いつの間にか、隙間越しにボノと目が合っていた。
    さっきまでの雰囲気はどこかに消え去ってしまって、そこにいるのはいつものボノだ。

    「ううん、あたしも入りづらい空気作ってたかも……はい、これビコーちゃんの作ったチョコ!」

    ボノからチョコを受け取ったけど、今はそれよりももっと気になることができてしまった。

    「……それ、チョコだよな?みんなが帰ったあと、ひとりで作ってたのか?」

    「……えへへ。見られちゃったよね。少し恥ずかしい」なぁ」

    照れくさそうに頭を搔く。こんな時間にひとりでやってたのは、やっぱり誰にも見られたくないからだよな。

    「えっと、ごめん!誰にも言わないから」

    「えっ、ううん!そういうんじゃないんだよ?だから気にしないで?」

    「そうなのか?……わかった。でも、やっぱりひみつにしときたい気持ちがあるんだ……よくわかんないけど、そのチョコは特別な気がする」

    なぜそう思うのか……『コイ』が関係しているんだろう。けれど今のアタシにはまだ理解できないお話みたいだ。

  • 8二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 22:21:50

    「そうだね……でもビコーちゃんはお友達だから、少しだけ特別に教えちゃうね?」

    「い、いいのか?」

    「もちろんだよ。これはね……あたしが1番大好きな人に送るチョコ。前は特別にチョコちゃんこを作ったげたんだけど、もしかしたらトレーナーさ……じゃなくてその人は普通のチョコも食べたかったかもしれないから」

    そうぽつぽつと話すボノは、また静かでとっても優しい空気に包まれていた。

    「料理はスキルももちろん大事だけど……食べてくれる人のことを想えば想うほど、美味しくなっていくの。そのおっきな気持ちがたった一人に向いたとしたら……それは世界一の料理になるはずなんだ♪」

    胸に手を当てて、その誰かのことだけを考えている。いっぱいいっぱいに、好きだと言える。
    ……なぜだか、それが羨ましいと思った。
    アタシの手の届かないところにボノはいる。先を越されたように感じたからだろうか。

  • 9二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 22:22:27

    「アタシもいつか……作れるようになるかな?」

    「きっと大丈夫だよ♪ビコーちゃんはこんなに可愛いんだもん、かならずいい人と巡り合えるよ」

    ボノはいつでも正直に物事を話してくれる。だからアタシもその言葉を信じられるんだ。
    もう心配も不安もなくなった。

    「よし!アタシもいっぱい料理の練習頑張るぞ!だからボノも……いっぱい頑張れ!」

    「うん、ありがとうビコーちゃん!よーし頑張るぞ〜!」

    長居は無用、ヒーローは華麗に立ち去るのみ!
    ボノが最高のチョコを想い人にあげられるよう、遠くから応援することにしよう。
    自作チョコをぎゅっと胸に抱えて、アタシは部屋を立ち去った。

  • 10二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 22:23:10

    嵐のように来て去っていった友達の後ろ姿を見送って、再び作りかけのチョコへと向き直る。

    「ほんとに、ありがとう」

    実は正直、不安もあった。
    いつもはなんでも作ってあげたいし、トレーナーさんも必ず美味しいって言ってくれる。
    わかってるはずなのに、これだけはあと一歩が踏み出せずにいた。
    大好きがパンパンに詰まっているから……それだけ重くなってしまう。
    けれど偶々ビコーちゃんがタイミングよく来てくれたおかげで、踏ん切りをつけることができた。

    「……やっぱり、美味しいって笑って欲しいなあ」

    大きく息を吸い、気合いを入れ直す。
    味付けをやり直して、また味見をぺろり。

    「……うん、絶対にボーノ♪」

    さて、次は形だ。トッピングも、完成後のラッピングも考えなきゃ。
    ワクワクはまだまだ終わらない。
    そして最後に残るのは……送る言葉。
    チョコより甘い、この胸いっぱいの『大好き』を、なんて伝えようか。

  • 11二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 22:25:39
  • 12二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 22:27:50

    ああ…うん、今回のサポカってこういう流れなんだろうな、みたいな感じがストンと落ちてきた。
    すごいな、全く違和感なくヒシアケボノだ
    良いものを読ませて頂きました。ありがとうございます

  • 13二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 22:29:27

    ボノと貴殿の『愛』を感じた…イベント楽しみでありますな…。

  • 14二次元好きの匿名さん23/01/29(日) 22:30:22

    おかしいな。まだイベント始まってないのにいつの間にイベント完走してたんだろう。

    いや、いい話だった。
    トレーナーさんのことを考えて不安になるヒシアケボノはめっちゃ女の子しててキュンキュンする。

    ビコーの「ひみつにしときたい気持ちがあるんだ」もいい。
    言葉にはできないけれど、大切なことをわかっている。
    ボーノの言う通りきっとビコーも良いトレーナーさんに出会えるだろう。

  • 15二次元好きの匿名さん23/01/30(月) 00:33:13

    いつものちゃんこ鍋さんだ…!
    ボーノはもちろんビコーのエミュも上手いし、サポカイラストのちょっとしっとりした雰囲気も再現されてるの本当に素晴らしい
    もうこれが公式でいいや

  • 16二次元好きの匿名さん23/01/30(月) 00:36:39

    ボノ、いいよね

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