【CP注意】雪ですねマスター

  • 1二次元好きの匿名さん23/01/31(火) 22:44:47

    周囲に広がる一面雪景色の中、黒いローブを羽織った少女――メドゥーサが共に来ているはずのマスターへとそう声をかけると、降る雪を手袋越しの手のひらで受けていたマスターは幼さの見える表情を見せた。

    「うん、こんなに積もってたら色々出来ちゃいそうだ」
    「そうですね、雪を用いた遊びは多いと耳にします、今日も大いに気晴らししていただければと思います」
    「そうするよ、よし早速……メドゥーサ」
    「はい?」

    この景色はシミュレータで彩られたとはいえ、その精度は非常に高く本来の景色と大差ない気候であるため事前に小さな天才ダヴィンチちゃんが設計した防寒用の礼装を着込んだマスター。
    結果、冬の寒さで起こることと言えば白い息くらいだったマスターも駆け出しかけてすぐ、足跡を数個作ったところで振り向き驚いた様子で。

    「え、一人で?」
    「……いえ、私でよろしければお付き合いはしますが…すみません、何をすればいいのか私はよくわからなくて」

    マスターの疑問に対して、目の紋様が描かれたフードを普段よりも目深に被り、申し訳なさそうな声色でメドゥーサは答える。
    長いカルデアの雪という気候自体はそれほど珍しいものではなくなった。しかしそのほとんどは実戦の場であり、少なくとも悠長に遊ぶことを彼女はしてこなかった。そのため、遊ぶといっても具体的な案が出てこない。
    それを理解したマスターは顎に手を当てながら少し考えるとすぐに案が浮かんだというように人差し指を立てて。

    「それなら今日も俺のやりたかった遊びに付き合ってよ。いつもそんな感じで申し訳ないけど…」
    「…いえ、それで良いのでしたら私は問題ありません。マスターが楽しめるのが一番ですから」

    提案に対する回答に嘘はない。むしろここに妖精眼や千里眼の持ち主であればその内心も見通してにやつくだろうがマスターはそのどちらも持ち合わせていない。
    彼女としてはそれで満足できるならそれがとても嬉しいことで、自分がそれに携われるのであればそれはとても幸福である、と感じているのだ。それはマスターも同じことなのだが。

  • 2二次元好きの匿名さん23/01/31(火) 22:45:17

    「それなら早速――えいっ」
    「きゃう!?……え?え?」

    そして唐突に投げつけられた雪玉が当たり、流石のメドゥーサも困惑したような様子で普段は虚ろな目を白黒させている。これは一体なんなのか、そう考える頃にちょうどマスターの回答と、聖杯からの知識取得が被った。

    「これは雪合せぇッ!?」

    悪戯っ子のような笑顔を浮かべていたマスターの顔面に雪玉が激突し、弾ける。突然の襲撃に間の抜けた声が上がり、居もしない敵かと慌てて残った雪を払えば前に見えるのは心なしか得意気な様子の見えるメドゥーサであった。

    「雪玉をぶつけ合う遊び、ですよね。安心してください、手加減はしまぅっ!」

    少しだけ調子の弾んだメドゥーサの愛らしい顔にまたしても雪玉。犯人は誰かといわれれば一人しか居ない。この雪原には二人しか居ないのだから。

    「………」
    「………」

    長い沈黙、無言の中集められる雪玉。なるべく柔らかく作られたそれらに気遣いは見えても、今から起こすことに加減はない。

    「覚悟!!」
    「望むところです!!」

    顔を見合わせ、頷き合い、掛け声を合図に、雪玉がいくつも飛び交い出す。終わりに向かう頃にはマスターは緊急回避や予測回避で立ち回ったり、メドゥーサが得物の鎌で雪玉を切り刻んだりしていた場面も見られたが、一つ共通していることはそこに怒りや敵意はなく、ただ心の底から楽しんでいるような様子であったことだろう。

      

  • 3二次元好きの匿名さん23/01/31(火) 22:45:54

    「くしゅ」

    激しい雪合戦が終わり、お互いに残った雪を払っていた時メドゥーサが小さなくしゃみを一つ。本来サーヴァントは環境にそれほど左右はされないが、気分的な問題と散々雪玉を浴びたのが原因なのは間違いない。彼女に関してはローブの下は非常に軽装なのもあるだろうが。

    「大丈夫?」
    「はい、特に問題は………いえ、少しだけ寒いかもしれません、ええ、少しだけ」
    「それならこんなのもあるんだけど」
    「良いですね、早速作りましょう」

    その流れがメドゥーサの気配りであると気付いてもあえて口にはしない。ならばマスターはそれに甘えて過ごそうと乗っかり、二人で雪山を作り出す。
    小さい雪山をしっかり大きくし、時々固めて崩れないように調節を重ねる。用意しておいたスコップを用いて上の方までしっかりさせれば、最後には一ヶ所に穴を空け始める。完成するのはもちろん…。

    「かまくらできたー!」
    「はい、無事に完成しましたね、かまくら」

    雪で作られた蔵である。すべてが雪で作られていながら中に入ると熱が籠るお陰で暖かいという不思議な作品。その完成にスコップ片手に万歳しているマスターをメドゥーサは小さな拍手でそれを称えるのだ。

    「…あ、申し訳ありませんマスター。確かこの中では焼いたお餅やお雑煮を食べると聞きましたが…用意を忘れていました」
    「あ、それじゃ人呼ぼうかな?ブーディカさんやエミヤなら…」
    「……いえ、後ほどの楽しみにしておきましょうマスター。今は一度入って暖かいかどうか体験してみたいです」

    やや俯き、失敗したという思いと共に失言だった、とメドゥーサが思ったことにマスターが気付いた様子もなく、それならそうしようと彼女の手を引いてかまくらの内部へ潜り込む。お互いに入る前から手だけ暖かく感じたのは、きっと気のせいではない。

  • 4二次元好きの匿名さん23/01/31(火) 22:46:15

    「…ほぁ…温かい…」
    「ふー…やっぱり温いなぁ」

    雪景色の寒さも乙なものだが、暖かさを求めるのが人というものだ。その事を実感するようにかまくらの中で隣り合って座った二人は緩んだ雰囲気を醸し出す。雪の上を想定していた礼装ではむしろ暑いくらいに感じる温度は、ローブの下が薄着のメドゥーサにとってはちょうどいいのである。

    「このままかまくらで過ごしてもよろしいかもしれません」
    「えっ。……雪だるまとか、スキーとか…」

    つい口をついて出たメドゥーサの呟き、それに対してまるで主に構ってもらえない犬のような表情になるマスターを見て彼女はその腰の辺りを軽く小突く。

    「冗談です。いちいち本気にしないでください」
    「ごめんごめん、でも大丈夫?寒かったら無理しないでね?」

    それに対して子供のように笑ったマスターは彼女のフードについた雪を落としながらそう尋ねる。それを拒絶する様子はなかったが、フードの下でじとりとした眼差しが代わりに相手を刺す。

    「先程雪玉を大量に浴びせてきた人の言葉とは思えませんね」
    「それを持ち出すのはずるいと思う!」
    「……ふふ」
    「……あはは」

    既に冗談とわかっていて、それに乗ってくる相手の返し。それがなんとなくおかしく感じたのか二人して笑みを溢す。こういうのでいい、とお互いに伝えるように。せっかくのお休みに、難しい考えなどいらないのだと。

  • 5二次元好きの匿名さん23/01/31(火) 22:46:26

    「それでは遊びたがりなマスターは次に何をご所望でしょうか」
    「うーん…やっぱり次は雪だるまかな?」

    お互いの身体に残っていた雪を払い落としながら、次は何をしようか考える時間も二人にとっては幸福の時。雪だるまの話のはずが、雪像の話に移り変わって、最終的に彼女の上の姉達を作ることになって――二人して微妙に納得いかない出来になったりしたがそれはそれである。もし見られてしまえば間違いなく姉二人から怒られ、詰められ、詰られるだろうが、シミュレータである以上終わってしまえば消えるもの。
    そこだけは、本当の雪のように。

    「…ではマスター、そろそろ帰りましょう。冷えた身体を温めるのも大事かと」
    「そうだね、かまくらもいいけど……やっぱり今はカルデアの方がいいかも」

    雪景色。白い風景。それが何に似ているかはお互いに理解していた。けれどそれは口にしないし、話にもしない。自然な流れで楽しんだあとは、自然の流れで今の居場所に戻るだけだから。それでもマスターの表情には、ほんの僅かな寂しさが浮かぶ。彼女は、それを見逃さない。

    「…寂しいのでしたら帰ってから一緒にこたつに入りましょう、今日は特別に私を暖めることを許します」

    我ながら何を言っているのか。と彼女は思う。それは相手のためなのか、自分のためなのかすぐに言えない。ただそうしたい、そうしてあげたいだけ。言ってから僅かに不安が過るメドゥーサに対する返事は。

    「本当?それじゃお言葉に甘えるよ。……メドゥーサと暖まれるなら毎日雪でもいいかもね」
    「えっ、あっ……はい」

    手を取りながらの純粋な返しに見えるそれに無垢な少女であるメドゥーサは少し照れたのか顔の赤らみをフードを深く被って誤魔化す。そしてそれはマスターにとっても嬉しい誤算。
    言っておいて恥ずかしいことを言ったと自覚する。それに対する顔の赤らみは寒い雪の中とは思えないくらいで。
    帰還した二人の様子を見た技術顧問がこっそり記録を覗き見する程度には興味を持たれる光景であったと後に語られるのである。

  • 6123/01/31(火) 22:46:49

    終わり

  • 7二次元好きの匿名さん23/01/31(火) 22:49:46

    良いものだが

  • 8二次元好きの匿名さん23/01/31(火) 22:52:21

    このタイミングは情緒が壊れるんだわ!

  • 9二次元好きの匿名さん23/01/31(火) 22:53:55

    くそっ!七章後半直前だってのに良SSを読ませやがって!!もっと頻繁に書け!!

  • 10二次元好きの匿名さん23/01/31(火) 22:57:10

    生存確認、バレンタインも期待するぞ

  • 11二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 07:27:28

    朝に見るぐだアナは良いものだ

  • 12二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 15:04:56

    雪合戦のところではしゃぎ出すのすっごい好き(語彙力)

  • 13二次元好きの匿名さん23/02/01(水) 23:47:30

    お、新作来てたのか
    台詞オンリーもいいけどこういうのもいいね

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