- 1文系タキオン21/11/11(木) 19:04:25
やあ、モルモット君
毎度のことだが、君は忙しそうだねぇ
どうだい? そんな君にも私の世間話に付き合う暇はあるかな?
うむうむ。たまにはのんびりするのも悪くはないものだよ
それでね。実は最近、古い大河ドラマを見るのにハマっているんだが
これがなかなか名作揃いでねぇ
同じ武将でも、演じる役者や脚本が違えばこうも変わるものなのか、とつくづく関心してしまったよ
やはり名作というのは、時代を超えるものなんだねぇ
ところで、君は誰か好きな戦国武将はいるかい?
ふむふむ。なるほど、織田信長か!
いいねぇ。信長。旧時代の破壊者にして革新の申し子、魔王と呼ばれる冷酷さまでもが魅力になるほど強烈なキャラクター性
まさに日本を代表する大英雄といえるだろう
もちろん私も大好きさ
ふむ、そうだな
信長の逸話といえば、やはり長篠の戦いでの三段撃ちが有名だけれども
ところで君は知っているかい?
日本の他にも、長篠の戦いと同じような戦いがあったことを
今回は、そんな『中東の長篠の戦い』とでもいうべき戦いの話を語っていくとしよう
それでは講義を始めようか - 2二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 19:05:00
でたわね
- 3二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 19:05:03
長篠の戦いって言う程鉄砲使ってないし騎馬隊もいなかったってマジ?
- 4文系タキオン21/11/11(木) 19:05:28
さて、
長篠の戦いの特徴といえば、やはり鉄砲が騎馬を打ち破ったことだろう
これまで戦争の花形だった騎馬隊が、新しく登場した鉄砲という新兵器を前に華々しく散っていく
まさに、時代の変化を象徴したようなエピソードだ
しかし、鉄砲も騎馬隊も、別に日本の専売特許ということはない
同じ構図は世界のあちらこちらで起こっていた
その中でも特に長篠っぽい戦いが、中東で起こった『チャルディラーンの戦い』だ - 5文系タキオン21/11/11(木) 19:06:25
この戦いは、オスマン帝国対サファヴィー朝ペルシャという二つの帝国が衝突した出来事だ
まず、ペルシャの方の大将は『イスマイール1世』という
この人は大変な名将でね。これまでの戦いで一度も敗れたことがない
彼の軍は遊牧民の騎兵が主力なんだが、最大の特徴はサファビー教というイスラム教の一派で構成された軍隊ということだ
おまけに彼らの大将、イスマイール1世は教団の教主も務めていてね
軍事的な才能だけでなく、人を惹きつけるカリスマ性にも溢れていたんだ
つまりは、宗教的なリーダーと軍事的なリーダーを兼任してるというわけだ
これは例えるならば、『上杉謙信』が『武田騎馬隊』を率いて襲ってくるようなもの
そんな反則技を使って、強くないわけがない
実際に彼はこの無敵の騎馬軍団『キズィルバーシュ』を率いて、これまで勝ち続けてきたというわけだ
さて、もう一方の大将はセリム1世
優秀だが、まだ即位してから2年目の若造だ
ただし、大国オスマン帝国の力を引き継いでいるから、国力は大いに高い
特に、オスマン帝国には鉄砲の扱いに長けた常備軍『イェニチェリ』がいる
両者はどちらも異なる強みを持った大勢力
一方は、カリスマ指導者に率いられた騎馬軍団
もう一方は、若い指導者に率いられた鉄砲隊
はたして勝負の行方やいかに!?
と盛り上げてはみたものの、まあ結果はご想像の通りだよ - 6二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 19:07:20
笑点の1番右みたいな名前の戦いだな
- 7文系タキオン21/11/11(木) 19:08:50
結局、両者の戦いは最新の鉄砲を用いたオスマン帝国の勝利に終わる
そして、敗者となったイスマイール1世
常勝不敗と呼ばれる名将ほど、負けた後は悲惨な最後になるものだ
イスマイール一世は生涯で初めての敗北に意気消沈
これまでの覇気とすっかり失くして、政治への関心も薄れてしまう
結局、彼は酒に溺れて37歳の若さで亡くなった
この戦いは鉄砲の集中運用が騎兵の衝撃力を上回るという、戦史上の大きな転換点であった
まさに中東版の長篠の戦いと呼ぶに相応しい一代決戦というわけだよ - 8二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 19:10:09
よく当時の鉄砲で騎兵に勝てたなあ
- 9文系タキオン21/11/11(木) 19:10:57
ちなみに、ここからは余談なのだが
信長が日本の長篠の戦いで用いたとされる三段撃ち
これはどうやら俗説らしい
ここからは、少し軍事史の世界に寄り道をしてみよう
さて、三段撃ちが実際には難しい理由は、ヨーロッパの鉄砲戦術の様相を見ればたいへんわかりやすい
信長の同時代。欧州ではマウリッツという偉人が鉄砲を使って軍事革命を起こしていた
その手法は、傭兵を長期で雇って常備軍に変え、徹底的な訓練を施すというもの
例えば、マスケットの装填から発射までを何度も繰り返し練習し続けさせた
それも、毎日のように朝から晩まで容赦なく
こうした反復練習を繰り返すことで、鉄砲の装填の遅さを補って、敵に鉛の弾幕を浴びせるというわけだ
どうだい。とても信長的な手法だろう? - 10二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 19:11:51
負けた後が寂しい常勝将軍と聞くとナポレオンが思い浮かぶが、やっぱり似たような末路を辿るんだな…
- 11文系タキオン21/11/11(木) 19:12:04
そうしてマウリッツが編み出した戦術が、カウンターマーチと呼ばれる【二段撃ち】戦法だ
しかし、これもあくまで『テルシオ』という戦列歩兵と戦うための戦術にすぎないようでね
どうやら、この当時の技術では、徒歩で進んでくる歩兵の足を止めることはできても
騎兵の速度に間に合うようにマスケット銃を装填して弾幕を張ることは、どう頑張っても不可能だったようだ
さて、信長はマウリッツほど兵の訓練に取り憑かれていたわけではない
まして、そのマウリッツにも実現出来なかった三段撃ちを、あまり精強でないと称された尾張兵を率いて実現できるだろうか?
まあ、とても現実的とは言えないだろうね - 12文系タキオン21/11/11(木) 19:13:31
実を言うとだね
中東の方の長篠の戦いでも、実際に戦局を決定付けたのはイェニチェリの鉄砲隊という切り札ではなく
一緒に連れてきた20万という大軍の方だそうな
戦争は数だよ。とはよく言ったものだね - 13文系タキオン21/11/11(木) 19:14:23
これは蛇足になるが、調べたところによると、どうやら長篠の戦いの本質は、銃の運用そのものよりも、むしろ戦地に砦を築き相手を待ち受ける【野戦築城】にこそ真価があったらしい
- 14文系タキオン21/11/11(木) 19:14:55
さてさて
このように、火縄銃のようなマスケット銃の存在は、古代からの騎兵の優位を打ち崩す画期的な出来事ではあった
ただし、それでも騎兵の有効性はまだまだ健在であり、兵科としての騎兵は第一次世界大戦における機関銃の登場まで残り続けることになる
信長が本当に武田騎馬隊を撃ち倒すには、三段撃ちではなく300段撃ちの構えが必要だった。というわけだ - 15二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 19:15:47
騎兵相手にまともに戦うと押し負けるから対策されてて面白いよね
戈などで脚を狙うファランクスを組む弓や鉄砲で遠距離戦 - 16文系タキオン21/11/11(木) 19:20:51
よし、そろそろこの辺りで話の区切りをつけるとしよう
どうも信長を貶するような筋道の話になってしまったけれども、私としては歴史的事実を持って時代に根を張る英雄像を否定するような意図は決してないことを強調させてほしい
英雄とは、その時代を生きる人々の願いや思い、夢が集約することで創造されるもの
それがたとえ虚像であるとしても、その姿やありようは尊く、史実と等しく価値があるものだ
織田信長は革新的で、新たな時代を切り開いたリーダーだ
たとえどんな古文書が発掘されたとしても、彼がそうあってほしいと信じた人々の気持ちもたしかに歴史の一つなのだから
……私はなんの話をしているのだろうね?
ああもう、話が変な方向に進んだせいでオチが行方不明になってしまったじゃないか!
それもこれも、とにかくもうモルモット君のせいだ!
もうここは君に責任をとってもらって、私の次代をつなぐ新しい後継者作りを……
しまった! うまぴょい警察だ!! - 17二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 19:26:08
- 18二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 19:27:46
ゆっくり騎兵の時代が終わっていくんだけど、その中で輝くフサリアがロマンの極みで好きなんだ
まあフサリアも共和国の凋落と共に消えていくんだが… - 19二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 19:34:53
3段撃ちじゃなくて10段撃ちくらいじゃないと上手くいかないと聞いたことがある
- 20二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 19:36:47
なんだかんだ言って騎兵も1940年代まで残ったからねぇ
歩兵よりはるかに高い行軍速度を発揮できるのはやはり魅力的なのだなぁ - 21二次元好きの匿名さん21/11/11(木) 19:37:22
馬は高いと言っても流石に戦車やトラックよりは全然安いし