(SS注意)疲れているキタちゃんがトレーナー室で休む話

  • 1二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 19:04:16

     色々なことをやってるからなのか、いくら体力に自信があるあたしでも限界はあるみたいだ。授業もぼんやり聞いてしまい、先生に怒られてしまった。それなのに何かを思う余裕がない。ただただそうだということしか分からない。

    「キタちゃん…。今日はなんか変だね…大丈夫?」
    「うん?うん…。」

     みんなあたしを心配してるけどそんな声も何処か他人事のように聞いてしまっている。

    「キタちゃん早く帰って休みなよ…。じゃあね。」
    「うん…。またね…。」

     みんなとお別れして歩きだす。今日の練習はお休みだけど何かに導かれるようにトレーナー室にむかってしまっていた。足取りはフラフラして視界もぼんやりしている。見る人が見れば心配するだろうあたしの姿をあたしは気にすることすらしなかった。

     なんとか辿り着いたトレーナー室は何故か大きく見えて入ることを戸惑わせる威圧感のようなものを感じる。でも入らなきゃ…。心に急かされて扉をノックする。でもノックする力も入らず弱々しく響く小さな音。返事はない。声をかけるしかないかな…。

    「失礼します…。」
    「?…どうぞ?」

     思った以上に小さく元気のない声。でも聞こえたみたいだ。いつも以上に力を入れて扉を開けると変わらない姿の、でも困惑した様子のトレーナーさんがいた。まだお仕事中だろうに椅子から立ち上がりあたしに近づいてくれた。

    「キタサン…?大丈夫か?」

     あたしの顔は自分で思っているよりも酷いようでトレーナーさんもすごく心配そうだ。本当なら寮に帰るのが正しいし普段ならそうしていたはずだ。
     それでも帰る気が起こらなくてトレーナーさんに近づいていく。やっぱり足取りは悪い。

  • 2二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 19:06:11

    「そうですか…?自分ではわからないです…。」
    「何か用事があるのか?そうじゃないなら早く帰って休んだほうがいいぞ。とはいってもここからだと少し遠いよな…。保健室ならまだ…。」

     優しい声色でそう言ってくれたトレーナーさんは何かを考えてるみたいだった。さっきまであたしを見ていた目線は少し右に逸れていた。……寂しいな。あたしを見てほしいな…。気がついたらもっとトレーナーさんに近づいていた。

    「トレーナーさん…。」
    「…っとすまない少し考え事をしていた。」
    「それってあたしのことですか?」
    「ああもちろんだ。」

     …そっか、なら良かった。何に安心したのかわからないけど安心しているあたし。気づくとトレーナーさんとあたしの距離はかなり近くなっており少し見上げればトレーナーさんの顔が目の前に見える。顔をぼんやり見ていると少し恥ずかしそうにしているトレーナーさん。

    「そんなに見られると恥ずかしいな…。」
    「……。」

     何を思ったかわからないけど、あたしは倒れ込むようにトレーナーさんに抱きついていた。

    「キタサン!?」

     驚いている様子のトレーナーさんとは正反対にあたしの心は暖かくなっていく。
     トレーナーさんの匂い…すごく安心する。顔を埋めるとさっきよりも心が満たされるのを感じる。もっともっとほしい…。
     トレーナーさんの胸の鼓動…すごく心地良い…。もっと聞いていたい…。さらに胸に耳を近づける。ドク…ドク…。さっきよりも音が速くなってる。それでももっと聞いていたい、もっともっと…。

    「キタサン…。」

     少し落ち着いてきた様子のトレーナーさんの声は困惑ではなく優しいものに変わっていて、それを何処か嬉しく思う自分がいて…。いつの間にか瞼が重くなっていた。ねたくないけどねむりたい。そんなきもちのまま…いつのまにか…いしきが…とおく……。

  • 3二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 19:08:04

    「すう…すう…。」

     俺の胸の中で眠ってしまったキタサンブラックは、さっきまでの表情が消えていた様子ではなくいつもよりも幼い顔つきで安らかな様子に変わっていた。

    「無理させてたよな…。」

     キタサンはいつだってひたむきで特に人助けにおいては誰にも譲らない。例え自分の体が辛くてもそれを後回しにすることが出来てしまう。きっとキタサン自身は気づかない疲れが体の中で溜まっていたのだろう。
     だからこそ早めに練習の休みを出したつもりだったが少し遅かったみたいだ。

    「ごめんな…キタサン…。」

     少し動いたら倒れそうになるくらい力が入っていないキタサンをしっかりと抱きとめて頭を撫でる。無意識に頭を擦りつけてきた。きっともっとほしいのかもしれない。

    「とはいえこのままってわけにはいかないよな…。」

     立ったままでは彼女もしっかりと休むことが出来ないだろう。何処か仮眠できる場所に移してあげたい。幸い近くにソファーがあるからなんとかここに移動しなければ。起こさないよう気をつけてはいたけれどある程度はやはり揺れてしまう。彼女の耳がピクリと動いた。

    「やっぱり眠った子を起こさないようにっていうのは無茶だよな…。」

     運ぶには体勢が悪かったのは分かってはいたが、休ませたい一心でそこに意識が回っていなかった。少し力が入っているキタサン。どうやら起こしてしまったみたいだ。まだ意識はハッキリしていないのか表情はぼんやりとして、いつもの元気なキタサンの面影はどこにもなかった。

  • 4二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 19:10:06

    「起こしてゴメンなキタサン。あそこのソファーまで行こうか。」
    「……うん。」

     あまり自分には使わない言葉遣いでゆっくりと歩こうとしている。そんな彼女を俺は倒れないようにしっかりと手を掴んで支えて一緒に歩く。足取りはやっぱりよくない。ゆっくりと歩いていきソファーの前まで来ることができた。

    「さぁここにゆっくり座って。」
    「…うん。」

     ゆっくりと座るように促しそれを支える。無事に座ることができたキタサンはまだ眠たそうな様子だった。このソファーは時々俺も眠ることがあるから寝心地は悪くないはずだ。ここで少し眠ってもらおう。

    「キタサン、ここで少し眠ったほうがいいよ。」
    「うん…。」

     ゆっくりと横になろうとするキタサンを落ちないように気をつけて誘導する。横になったキタサンはそのまま瞼を閉じて眠りにつこうとしていた。安心して離れようとする俺は手を繋いだままだったことに気づいた。このままでは眠りにくいだろう。そう思いゆっくりと手を離そうとする。

    「はなれちゃだめ…。」

     そんな悲しそうな声が聞こえきた。キタサンを見てみるとさっきまで閉じていた瞳が少し開いていて泣きそうになっている。離れてしまう方が今の彼女を傷つけてしまう。それなら一緒にいてあげよう。

    「不安にさせてごめんな。大丈夫離れないよ。」
    「ほんと…?」
    「ああ嘘はつかないよ。」
    「そっかぁ…。それならこのままいてね?」

     安心した様子でまた眠りにつこうとしているキタサン。暫くすると穏やかな寝息が聞こえだした。これなら大丈夫だ。彼女が目を覚ますまでそばで見守ることにした。繋がれた手から感じる体温はいつもの彼女のようにとても暖かかった

  • 5二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 19:11:12

     目が覚めて感じたのは暖かいぬくもりだった。どこから来ているのかわからなかったそのぬくもりはどうやら指先から来ているみたいだ。ゆっくりと目で追ってみるとそこには繋がれた手があった。あたしのよりも大きいでも安心できる手のひら、どうやらこれはトレーナーさんの手みたいだ。なんでトレーナーさんの手があたしの手を繋いでいるのか分からなかった。
     それにここはどこだろう?あたしの部屋ではないのは分かる。でも知ってる場所だ。そうだここはトレーナー室だ…。なんでここにいるんだろう?

    「目が覚めたみたいだね。」
    「トレーナーさん…。」

     そうだ…あたしなんでか分からないけどここに来たんだった。それで…それで?なんでだろう、思い出せない。とても暖かくて安心できることがあったはずなのに思い出すことが出来ない。

    「調子はどうかな?」
    「はい。多分大丈夫です…。」

     少し頭がぼんやりしていてあたしが考えることを許してくれない。体の重さは少しはマシになっている。

    「ごめんなキタサン…。もっと早く休めてたらこんな風になってなかったのに…。」
    「?謝らないでくださいトレーナーさん。」

     申し訳無さそうな様子だけど何でトレーナーさんが謝ってるか分からない。あたしはどこも怪我なんかしていない。それなのにそんな何で…?
     悲しそうな顔は見たくない。元気づけたくていつも通りを心掛けてトレーナーさんに話しかける。

    「あたしは本当に大丈夫ですよ。また明日から頑張れます。」
    「明日は調整を軽めにして気分転換にお出かけしよう。」
    「そ、そんな…大丈夫なのに…。」

     お出かけが嫌なわけでは決してないけどやっぱり練習していないのはどこか違和感があるのだ。起き上がろうとしたけどいつものように力が入らない。

  • 6二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 19:13:12

    「あ、あれ?」
    「やっぱりまだ完全に戻ってはいないみたいだな。」
    「…うう。」

     確かに休んだほうがいいようだ。動かない体を恨めしく思いながら大人しくしようとした。そこで繋がれた手を離していないことにようやく気づくことができた。

    「トレーナーさん…。そういえば何であたしはトレーナーさんと手を繋いでるんですか?」
    「あぁ…。あ、安心して眠れるかなって思って…。嫌なら離すけど…。」

     頰をかいて目をそらしているトレーナーさんが嘘をついてるのは分かった。きっとあたしの記憶がないときになにかあってあたしが離さなかったのだろう。でもそんなことを言ったらあたしは申し訳なくて謝ってしまう。謝らせたくなくてついた優しい嘘。
     正直謝りたい気持ちで一杯だけど、あなたの優しさを受け止めたくて、それ以上にこの暖かさを噛み締めたくてあたしはその嘘に乗っかることにした。

    「ありがとうございますトレーナーさん。お陰で安心して眠れましたよ。だからこのまま繋いだままでいてほしいです。」
    「分かった。ありがとうなキタサン。」

     ありがとうございますトレーナーさん。もう少しだけこのままでいさせてください。
     そう言おうとしたときに眠気がまたおそってきた。

    「おやすみキタサン」

     おきたときにはまたおれいをいわないと…。やさしさとあたたかさにつつまれながらあたしはまたしあわせなゆめへとおちていくのだった。

  • 7スレ主23/02/04(土) 19:17:06

    初めて2つの視点での話をやってみました。

    なかなか難しいけど無事に出来てよかったです。
    元気がないキタちゃんを書くのも初めてでビックリマークがないのは違和感があります。

    いつでも頑張り屋なキタちゃんでも時には疲れすぎて何も感情が出てこないときもあるかもしれません。
    そんなときに支えて上げることが出来る人がいればいいと思います。

  • 8二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 19:23:46

    オレコウイウノスキ
    もっとちょうだいもっとちょうだい

  • 9スレ主23/02/04(土) 19:24:58

    >>8

    すぐには書けないけどまた何度かここに書いてるので良ければ見てください。

    ありがとうございます。

  • 10スレ主23/02/04(土) 19:27:17
  • 11二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 19:29:28

    普段とは違う口調で甘えちゃうキタちゃんは健康にいい

  • 12スレ主23/02/04(土) 19:31:30

    >>11

    キタちゃんらしくないような気がして不安だったのですがそう言ってもらえてよかったです。

    ありがとうございます。

  • 13二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 19:34:26

    今日は落ちる前に見にこれてよかった
    めちゃいいね!今回もよかった!

  • 14スレ主23/02/04(土) 19:35:52

    >>13

    ありがとうございます。

    前のときは落としてしまったのでなんとか頑張りました。

    絶対に次も頑張ります。

  • 15二次元好きの匿名さん23/02/04(土) 19:36:32

    疲れてよわよわキタちゃんは普段と違う味わいがあって美味しいです!
    遠慮ともどかしさが混じり合っててじれったい…でもこの丁寧な心理描写尊いですね…

  • 16スレ主23/02/04(土) 19:37:53

    >>15

    心理描写はなんとかして伝えたくていつも頑張っているのでそう言って頂けて嬉しいです。

    ありがとうございます。

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