- 1導入23/02/05(日) 18:34:00
失敗した。
窓を打ち鳴らす雨粒の音を聞きながら溜息と共に独りごちる。
午後から雨が降るかもしれないとは知っていた。
しかしそれがこれ程までの勢いになることも用意していたつもりの傘が無かったことも想定外だ。
トレーニングやレース本番でのことならいざ知らず、寮までの帰り道を好き好んで雨に濡れたい筈もない。こちらの事情などお構いなしに泣き濡れる鉛色の空を見上げて再び溜息が零れだした。
そんな担当の憂鬱そうな姿を見ればトレーナーが気に掛けるのも当然だろう。何があったのか尋ねられたので実は、と現状を説明する。もう少し雨が弱まるまでトレーナー室に居させてほしいと頼んでみたがトレーナーは返事をするより先に自分の荷物を探りだした。
「え?」
ここで目の前に差し出されたのは一本の傘。明らかにトレーナーの持ち物だろうそれを使えと言ってくる。しかしそれではトレーナーはどうするのか。至極当たり前の質問に平然と「雨が止むまで残る」と返してくるのには思わず呆れの表情が浮かんでしまった。
元々仕事が溜まっていたからなどと言うが持ち主を差し置いて使う訳にはいかない。しかし大事な担当には早く寮に帰って休んで欲しいのがトレーナー心というもので。
どうあってもトレーナーには今すぐこの傘を使って帰る、という選択肢が存在しないらしい。
差し出された傘を前に選んだ方法は……
……と、こんな導入で始まるいろんなウマ娘ちゃんのssが読みたいです!
・トレーナーの言う通り傘を借りて帰る?
・遠慮して雨の中急いで帰る?
・だったら一緒に使えばいいと相合傘?
・じゃあ自分も残るわと二人でトレーナー室で過ごす?
・それとも違う方法を?
好きに分岐させて君だけのssを書こう!
「うちの担当は傘忘れるような子じゃないんですけど」
「雨でも平気で帰りそう」
そういう時は色々改変しちゃってください - 2言い出しっぺの自分から:タマ編23/02/05(日) 18:34:40
ウマ娘は美女しか生まれないらしい。
成程、確かにその通りかもしれないと窓辺に佇む担当ウマ娘―タマモクロス―の姿にそんな俗説を思い出した。
物憂げに空を見上げる横顔は形の良い鼻筋から唇そして顎に掛けてのラインを浮き彫りにしており、普段は感情豊かな大きな瞳もこの時ばかりは長い睫毛が覆い隠してしまう。芦毛ウマ娘特有の色素の薄い髪と肌が合わさることで神秘性が強調されその姿はまるで深窓の令嬢のようで。
彼女の周囲だけが風景から切り取られた絵画のような存在感を放っていた。
……いつまでも眺めていたい気分にもさせられるがそれ以上に担当の憂いを取り除いてやりたいのがトレーナーの性である。
声を掛けると一度瞳をぱちりと瞬かせ、それまでの雰囲気など存在しなかったかのように表情を大きく変えてこちらに訴えかけてきた。
「トレーナー聞いてぇな~!」
オーバーリアクションで状況を説明する姿はすっかりいつも通りのタマモでそこから説明された現状に表情の理由があったことに安心感を覚える。
置き傘をしていたつもりが前回使ってから戻しておくのを忘れたと。購買で買うのは、と言い掛けてやめた。
節約命の彼女が一時の雨の為に傘を買うとは思えない。第一既に同じような生徒によって売り切れてしまっているだろう。
「せやからここで待たせてもらってえぇか? 戸締りウチがやるし」
万策尽きたように見えて彼女は彼女なりの解決策を見出しているようだがそれよりももっと簡単な方法がある。
部屋の隅に無造作に置いていた鞄から折り畳み傘を取りだし、目の前に差し出した。
「つまらないものですが……」
「ほ~こりゃ大層なものを……って何やねんこれ」
「これが何に見えるかであなたの精神状態が分かります」
「こんなんで心理テストになるか! まぁえぇ、それよりこれトレーナーのやろ。使ってえぇんか?」
軽いボケの振りにも素早く応え、かつこちらの意図を察してくれるタマモとのやり取りは心地良い。 - 3続:タマ編23/02/05(日) 18:35:21
「今日のトレーニングもきつかったし、早く帰って休んでほしいからね」
「せやったら有り難く……当然、トレーナーも自分の分はあるんやろうな?」
このまま素直に受け取って帰ってくれたらよかったのだが察しの良い彼女相手ではそうはいかなかった。
「俺は止むまでここに残るよ。資料作りとか学園の申請書類とか色々溜まってたから丁度いいし」
「ハァ!? アンタ昨日も居残りやったやん。アンタこそ早よ帰れるなら帰りぃや。ウチならパーッと走ればそんな濡れんでも済むし」
「こっちのことよりタマモの方が大事だから。あと普段使いの靴で濡れた路上を走るのは危険なので駄目。これトレーナーとしての指導ね」
「ぐぬぬ~……」
すんなり受け取りそうもないのでトレーナーとしての強権を使わせてもらった。
身体が強いとは言い難いタマモを無駄に雨に濡らしたくはないしいつ止むとも知れない雨を待って休息時間が奪われるのもよくない。
ならば自分が残るのが最も効率的だしタマモも聞き分けの悪い子供ではないのだからちゃんと分かってくれるだろう。ぐっと睨み合うとやがて根負けしたようにタマモが傘を手に取り出口に向かった。
「ほな、使わせてもらうわ……この借りは返すからな! よぅ覚えとき!!」
「はいはい、また明日ね」
軽快な足音が遠ざかるのを聞いてほっと安堵し、宣言通り仕事に取り掛かる為机の席に着いた。
――それからどのくらい時間が経過しただろう。
外が暗いのは雨だけのせいではい。その雨も小雨程度に落ち着いてもう少しすれば完全に止むと思われた。
集中していたせいで肩も背中も随分凝り固まっている。身体をほぐそうと大きく伸びをすると、まさにそのタイミングで扉を叩く音が聞こえた。
「トレーナーお疲れさん」
間もなく部屋に現れたのは帰らせた筈のタマモだ。制服姿なのは学園の敷地内だから当然なのだが今更戻ってくる理由が分からず首を傾げてしまう。
「忘れ物?」
「ちゃうちゃう。ほれ」 - 4続々:タマ編23/02/05(日) 18:35:49
彼女がそう言って差し出したのは貸した筈の傘だった。
「お陰で濡れんで帰れたし、帰ってから自分の傘使うて返し行けばえぇ気付いたんよ」
「その為にわざわざ戻ってきたんだ……身体冷えなかった? 大丈夫?」
「過保護すぎやて……もう雨止みそうやし使わんかもやけど。ありがとうな」
「どういたしまして」
目まぐるしく変わるタマモの表情に思わず笑みが零れる。この短いやり取りだけで何となく身も心も解きほぐれる気がしたのは我ながら非常に単純だと言わざるを得ない。
「トレーナーはまだ時間掛かるん?」
「ん~、ここまでやったらキリのいいとこまで進めたくて。あと一時間もあれば終わるし大丈夫だよ」
傘を手にしていつでも帰れるようにはなったがそうなるともう少し進めたくなってしまうのは仕方ない。けれどてっきり早く帰れとどやしてくるかと思われたタマモは想像よりあっさりと頷いた。
「そか。せやったらこれやるわ」
「……これは?」
彼女が入室してから後ろ手に隠していた包み。受け取ると手の平にじわりと温もりが伝わってくる。中身を問うと仄かに頬を染めて途端にぶっきらぼうな振る舞いをする。
「借り返す言うたやろ。あんまり根詰め過ぎんようにな」 - 5終り:タマ編23/02/05(日) 18:36:08
それだけ言い残すとそそくさと部屋を出て行った。
残されたのは謎の包みのみ。気になって開けてみるとそこには彼女の心遣いが詰まっていた。
ぐぅ
タッパーに詰められていたいくつもの握り飯。視認した瞬間空腹を思い出した胃袋がそれを寄こせと訴え出す。まだ暖かいから作ってすぐに持ってきてくれたのだろう。
こうなると手を出さない理由はない。一つ手に取って三角形の頂点を齧る。表面の微かな塩気と白米の甘みが口の中で混ざり合い熱を持ったまま胃袋へ落ちていく。
二口齧ると中心に梅干しが。三口目では全て口の中に収めてしまった。
次も同じように一気に食べる。昆布、鮭と具材を変えてくれているのも有り難い。同じ包みの魔法瓶には暖かいお茶も用意されていて一切を食べ終わるまでペースを落とすことがなかった。
「ふぅ……」
腹が満たされ一気に全身の力が抜ける中で思い浮かべるのはタマモのこと。義理堅い彼女だからこうして差し入れをわざわざ用意してくれたのだろう。傘を返すのを口実にして。
タマモは人に頼るのが上手ではないからもっと素直に受け止めて欲しかったのだけれどそういうところが彼女らしい部分だから仕方がない。
なのでこちらも彼女に更なるお返しをしなくては。
彼女が気兼ねなく受け取れる金額の範囲で、かつ喜んでくれるもの……これが意外と難しい。
担当ウマ娘から頼られ、甘えてもらうのもトレーナーの仕事の一環。そしてそれは何よりも楽しい仕事だった。 - 6スレ主23/02/05(日) 19:03:30
過去に立てたスレです
ゆるゆると作品の集まるスレにしていけたら
好きなウマ娘を想像してこのスレを開いてください|あにまん掲示板 午前中の学科を終えミーティングの為にトレーナー室を訪れた午後、そこにトレーナーの姿はない。 少し早く来過ぎたか。備え付けの椅子に腰掛けながら辺りを見回すと一冊の雑誌が目に留まった。どうやらウマ娘を取…bbs.animanch.com【トレウマss】好きなウマ娘を想像してこのスレを開いてください|あにまん掲示板 目標に向けて日々鍛錬を重ねるウマ娘とて年頃の乙女であり青春を謳歌するのは当然のこと。 たまの休日には趣味に勤しんだり友人との一時を楽しんだり、そして担当トレーナーと親交を深めたり。 単に備品の買い出…bbs.animanch.com - 7二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 19:04:58
今回も書くぞ~!
- 8二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 19:11:47
前回ぶりです。
またマックイーンで書きたいなーって思います。 - 9二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 19:22:01
今回も頑張って書いてみます。
- 10二次元好きの匿名さん23/02/05(日) 19:38:26
とりあえず10までうめ
- 11スレ主23/02/05(日) 20:26:14
参加表明ありがとうございます
書き上がりを楽しみに待っています - 12フラッシュ1/223/02/05(日) 20:26:39
「トレーナーさん」
「どうして1人で帰らせようとするのですか?」
「えっ?」
「2人で一緒に帰るべきではないでしょうか?」
「日本では相合傘というものがあると聞きました」
「私とトレーナーさんの仲なら問題ないと思いますが…」
「もしかして…相合傘は嫌だったりしますか?」
「そんな事はないよ」
「フラッシュが嫌でないのであれば俺は一向に構わない」
「私は…」
大丈夫だと言おうとした刹那、傘の中でトレーナーさんと身体を密着させている場面が頭に浮かびました
好きな人と身体を密着させて耐えられるでしょうか…?
とはいえ…今後の事を考えるとこのくらいで躊躇するわけにはいきません
「……大丈夫です、問題ありません」
「分かった」
「じゃあ一緒に帰ろうか、フラッシュ」
「はい、ありがとうございます」 - 13フラッシュ2/223/02/05(日) 20:27:17
「トレーナーさん」
「もっと身体を密着させてください」
「それではトレーナーさんが濡れてしまいます」
「いや…でも……」
「…確かに恥ずかしい事ではありますが」
「トレーナーさんであれば…私は構いません」
「分かった」
そういうとトレーナーさんは私に近づき身体を密着させました
「これで良いかな?」
「ありがとうございます」
トレーナーさんとここまで身体を密着させるのは経験がないですね…
自分でも紅潮しているのが分かります…
──────
「寮に着いたみたいだね」
「はい…」
もう着いてしまったのですね…
この時間がもっと続いてくれれば良かったのですが…
そう思っていると私は寮の方には行かずトレーナーさんの方を振り向いていました
「フラッシュ?」
「トレーナーさん…」
「もう少しだけこのままでもよろしいでしょうか…?」
「もちろん」
「フラッシュの気が済むまでここにいるよ」
「…………っ」
「ありがとうございます…」 - 14マックイーン書くよ23/02/05(日) 20:49:01
- 15マックイーン123/02/05(日) 20:50:05
「あら。いつの間に」
トレーナーさんとの話に花が咲きすぎてしまい気がついたら雨がザーザーと降っている。
「雨降ってきちゃってるね。マックイーン、傘って持ってきてる?」
トレーナーさんの言葉に促され荷物の中を探すも、傘は愚か合羽などの雨を防ぐ道具はこれっぽっちも無かった。
「ありませんでしたわ。トレーナーさんはお持ちですの?」
「うーん…持ってきてたような気がするんだけど……あっ!あった!」
トレーナーさんが1つの折り畳み傘を取り出した。
「あら、良かったですわ。それならトレーナーさんだけでも帰れますわ」
「? マックイーン使いなよ。俺はここに残って雨が止んだら帰るからさ。」
……彼のその言葉に釈然としないという感情が湧き上がってくる。
そもそもこの傘を持っているのはトレーナーさんだ。
それを受け取り一人で帰ってしまうのはなにか違う気がする。 - 16マックイーン223/02/05(日) 20:50:19
「それなら私も帰りませんわ。
メジロの淑女として、殿方に傘を渡されてまで帰りたいというわけではないですわ。」
「そう…?……いや、でも雨はいつ止むかわからないからさ。
止むのがすごく遅くなるかもしれないし、これからさらに雨が酷くなるかも知れない。
自分は良いから早く帰りなよ。」
言葉と共に、はい。と傘を手渡される。
やはり納得がいかない。こうなれば……
「わかりましたわ。ではトレーナーさん。ともに帰りましょう。そうすればお互い待たずに帰れますわ」
「いや、でもそれ……」
「そうでなければ私は帰りませんわ。
それにエスコートしてほしいですし、そうと決まれば行きますわよ!」
トレーナーさんの袖を引っ張ってトレーナー室から出る。
そうすると「でも…」などとトレーナーさんも言う事を諦め、わかった。と私の横を歩き始めた。 - 17マックイーン323/02/05(日) 20:50:58
学園から2人で外に出て、歩道を歩いていたそのとき、ふとトレーナーさんの方を見てみるとあることに気がついた。
「トレーナーさん。それだと肩が濡れてしまいますわ」
私は傘を彼側に傾けた。すると彼はすかさず
「それだとマックイーンが濡れるでしょ。自分は別に濡れてもいいからさ」
と言い傾け直す。
「もう……私は別に良いんですの。
それにさっきまではトレーナーさんが雨に当たっていたなら次は私の番ですわ。」
「いやいや、マックイーンが風邪をひいちゃったら大変だから大丈夫だよ。」
「いえ、私はトレーナーさんに風邪をひかれたら困りますわ!」
傘をお互いにまるでシーソーのように傾け合う。
お互いに強情になり絶対に譲るものかとなったその時、
横の車道を大きなトラックが通る。
すると大きな水はねが私たちに向かってザッパーンと飛んできた。
結果、車道側に居たトレーナーさんを超え私もびしょ濡れになってしまった。 - 18マックイーン423/02/05(日) 20:51:51
「こんなに濡れては傘、必要なくなってしまいましたね」
「そうだね。お互いずぶ濡れで……」
そう言うトレーナーさんの顔を見てみる。
なんだかずぶ濡れになってしまったトレーナーさんの顔を見ていると……
「マックイーンどうしたの?」
「ふふっ、いえ夏合宿のときみたいにお互いびっしょりで………
……ねえ、トレーナーさん。
貴方は、人のことを考えて、それで優しくて、そしてトレーナー業のときはしっかり私のことを見てくれて、そして私のために献立表を作ってくれたり……
……やっぱり、貴方は素敵な方ですわ。」 - 19マックイーン5+おまけ23/02/05(日) 20:52:18
「!!
ありがとう。自分も君のトレーナーになれて本当に本当に良かったよ。だからこれからも君に似合うようなトレーナーになってみせるよ」
「ありがとうございます。
ですが、また肩肘を張ってはいけませんよ。
貴方は貴方のまま、ともに歩んでいきましょう」
「…あぁ、ありがとう。」
お互いに少し赤くなった顔を合わせ笑い合う。
そんな私達の顔を雲の隙間から差し込んだ太陽が照らした。
もう傘は必要ないだろう。
私達は二人で明るい帰路を歩んでいった。
【おまけ】
「……ということがありましたわ」
寮に帰りマックイーンはライアンと話している時、話の流れからかそのことをライアンに話した。すると
「そっ…それって相合傘じゃない!?」
とライアンは動揺しながら顔を紅潮させる
(…………相愛傘!?確かに言われてみたら……
トレーナーさんはそういうことに気がついているの?それを指摘しなかったってことはまるで私に気が無いみたいで……
いやでも待って、行く前にトレーナーさんはでも…とか言ってたし気がついてるかもしれないし覚悟を決めたのかも知れない…それに私と話してた時は顔を少し赤くしていたし、きっと私を意識してくれていたのかも……それなら……いやでも……しかし……いやきっと……しかしメジロとして……)
唐突に顔をタコのように真っ赤にしたマックイーンを見てライアンは大いに驚いた。
そしてマックイーンは今日、寝不足になってしまうのかも知れない。 - 20マックイーン書いた23/02/05(日) 20:54:40
- 21キタちゃんで書きます 123/02/05(日) 20:59:49
「うう~…。結構雨降ってるなぁ…。」
天気予報で午前中は雨とは聞いていたけど、まさかこの時間まで降るとは思ってもいなかった。お昼からは大丈夫だろうなんて甘い考えをしていたから傘を忘れてしまった。
うう…この中を帰るのはさすがのあたしでも嫌だなぁ…。そんな風に考えてついため息が出てしまう。どうしようかすごく悩んでいたところに後ろから声が聞こえてきた。
「あれ?どうしたんだキタサン?」
「トレーナーさん?」
思わず振り返るとそこには資料を抱えているトレーナーさんがあたしのことを不思議そうに見ていた。今日の練習はお休みだったから校内になぜあたしがいるのかわからない様子だった。
「あはは…。実はここまで雨が振り続けるとは思わなくて…。」
「なるほど、傘を忘れちゃったんだな。」
「はい…。」
つい項垂れてしまうあたしを見て少し笑っているトレーナーさん。むぅ〜…結構困ってるんですよあたし。そんな風に少し睨んでみても怖くないのかなおさら笑っているトレーナーさん。その様子を見てさっきまでの少しだけ沈んでいた気持ちが明るくなったような気がする。
「ごめん、ごめん。そんなに起こらないでくれ。」
「もう…。とはいえこれからどうしようかな…。」
誰かに傘を借りるというのもいいかもしれないけどそれもちょっとなぁ…。そんな風に考えているとトレーナーさんが何かを決めたようでこちらを見ながらこう言った。
「せっかくだしトレーナー室で雨宿りしていかないか?」
「えっ?」
名案が浮かんだというように声が弾んでいる様子のトレーナーさんを見ると断ることはできそうもなかった。何よりもう少しトレーナーさんと一緒にいたかったのはあたしの方でその提案は願ったり叶ったりだった。でもいいのかなぁ…。 - 22キタちゃんで書きます 223/02/05(日) 21:01:00
「その…いいんですか…?トレーナーさん?」
「うん。こういう雨のときは誰かがいたほうが嬉しいからね。」
笑顔でそう言ってくれたトレーナーさんに甘えさせてもらおうかな…。つられてあたしも笑顔になって一緒にトレーナー室に行くことになった。
資料を持とうとするあたしとそれを拒もうとするトレーナーさんの姿は周りから見たらどう思われてるか。そんなことも考えられないくらいあたしにとっては幸せな一時。
その後資料の一部をもって一緒に歩きだすあたしとトレーナーさん。体感では長く感じたけど時間にすれば数分。トレーナー室に入るまでの二人きりの時間がまだ続くことを嬉しく思ってしまう。
「俺は仕事してるけどキタサンは気にせずにしててくれ。」
「分かりました!」
とはいえ何もしないのはあたしとしては心許ない。お茶を用意しようと準備をするあたしを見てトレーナーさんは少し苦笑いをしていた。
「気にしなくてもいいのに。」
「あたしがやりたいことだからトレーナーさんは気にしないで大丈夫です!美味しいお茶を用意しますね♪」
「分かった。期待しながら待ってるよ。」
微笑んでくれたトレーナーさんを見て嬉しくなったあたしは気合いを入れてお茶を用意する。あまり熱くならないようにちょうどいい温度のお茶を出せるように集中しなきゃ…。
資料をまとめるトレーナーさんとお茶を入れるあたし。言葉こそないけど見えない絆はきっとそこにあるのをあたしは感じている。
お茶も入れ終わり零さないようにゆっくりと運んでいく。
「トレーナーさんお茶ここに置きますね。」
「ああ、ありがとうキタサン。」
「なにかあればもっと言ってくださいね!」 - 23キタちゃんで書きます 323/02/05(日) 21:02:12
受け取ってくれたお茶を飲みながら仕事を再開するトレーナーさんをニコニコして見守るあたし。この姿を他の人が見たらなんて思うんだろう?
兄妹?親子?それとも…こ、恋人とか…?いやそんな風に思うわけないよね!うん!良くて兄妹だよね!兄妹だよね…兄妹かぁ…。
喜怒哀楽がコロコロと変わるあたしをトレーナーさんも見ていたようで不思議そうにしている。
「キタサン?何か困ったことでもあったか?何かあるならすぐに言ってくれ。」
「え!?い、いや…えっと…その…。お、お茶美味しいかなぁ…って…。」
「君の優しさがこもってるお茶だからね。凄く美味しいよ。ありがとう。」
「そ、そうですか…。良かったです…。」
誤魔化しで言ったからお茶のことをそんな風に褒められるとは思っていなかったよぉ…。あたしの顔は真っ赤になるしかなかった。
カタカタとなるパソコンの音と外から聞こえる雨の音はなかなか止むことがなさそうだ。そんな音を聞きながら課題をやっていると練習が終わる時間くらいまであたしはトレーナー室にいたみたいだということに気づいた。
静かに流れる幸せな時間はもう終わりを告げているのを感じてしまい少し胸がチクッと痛む。
そろそろ帰る準備をしなきゃと思ってふと思った。トレーナーさんはまだ帰らないのかな?トレーナーさんを見てみるとまだまだ終わる様子もなさそうだ。あたしが見ているのに気づくとトレーナーさんはすぐに声をかけてくれた。
「もうこんな時間になっちゃってたんだな。キタサンは帰るのか?」
「えっと…トレーナーさんはまだお仕事ですか?」
「いや今日までにしなきゃしけないことはもう終わってるよ。」
「そうですか…。」
そっか…お仕事自体は終わってるんだ…。あたしが考えてるのを見てトレーナーさんはハッとする。
「そうだった…傘を忘れてたんだったな。良ければ俺の傘を貸すから帰りなよ。」
「……。」 - 24キタちゃんで書きます 423/02/05(日) 21:03:25
そう言って傘を探している様子のトレーナーさん。この様子だとこのままここに残って別のことをするみたいだ。
そんな様子を見てもあたしは別のことをずっと考えていた。これはもしかしたら我儘になるかもしれない。でもこれを言えばトレーナーさんはいつもより早く帰って休める。何よりもトレーナーさんと一緒にいることも出来る。優しさ半分欲望半分であたしはトレーナーさんに近づいていく。
「トレーナーさん。あたしと一緒に帰りませんか?」
「え?いやでも俺はまだ…。」
その提案に驚いたようでトレーナーさんはしどろもどろになっている。
「お仕事終わってるんですよね?それなら早く帰って休んだほうがいいですよ!」
「でも……。」
「あたしがトレーナーさんと帰りたいんです!それでも嫌ですか……?」
少し漏れてしまった本音はトレーナーさんに届いたみたいで仕方ないといった様子では片付けを始めていた。
「分かった。今日はもう帰るよ。」
「良かったです!」
「いつも色んな人のために頑張ってる君の頼みなんだ。叶えてあげないとね。」
「えへへ…。ありがとうございます…。」
あたしの我儘を聞いてくれたことを感謝して一緒に片付けをする。二人でするとあっという間ですぐに帰れるようになった。トレーナーさんの持ってる傘は少し大きめであたしが入っても大丈夫そうだ。
「じゃあ行こうか。」
「はい!」
あたしとトレーナーさんは荷物を持って歩きだす。資料を一緒に持ったときとは違って少し早く感じる時間に寂しさを感じてしまう。玄関まではすぐについてしまい傘を開いてあたしを持っているトレーナーさん。
「キタサン、こっちに来てくれ。」
「分かりました!」
一緒に傘に入って歩こうとするとトレーナーさんの肩が濡れているのに気づいた。あたしのことを考えて少しでも幅をとっているんだ。でもこのままじゃトレーナーさんが風邪を引いちゃう…。そんなのは駄目! - 25キタちゃんで書きます 523/02/05(日) 21:03:54
「トレーナーさん!そのままじゃ濡れちゃいますよ!もっとこっちに来てください!」
「キタサン!?いや…これは近すぎるんじゃ…。」
「でもこれなら濡れないですよ!」
自信満々に言ってるあたしを見て複雑そうな顔をしてるトレーナーさん。何をそんなに気にしてるのかな?そんな風に思っていると向こうから声が聞こえてくる。
「あの二人相愛傘してる!仲がいいんだね〜。」
「女の子の方から近づけさせてるなんてよっぽど好きなんだね〜。」
あいあいがさ?相愛傘!?そ、そういえばこれ相愛傘だよ!そ、それにあたしの方から近づけさせてるって…それじゃまるであたしがトレーナーさんのこと大好きみたいで……。いや大好きだけどこんなこといつもしてるわけじゃなくて!?でもこうできたらいいなって思ってるのは本当で……。って何考えてるのあたし?!
目がぐるぐるしてあたふたしだしたあたしをトレーナーさんは苦笑いしているみたい…。嬉し恥ずかしの帰り道は幸せなモヤモヤを抱えたままトレーナーさんと一緒に歩いていくのだった。 - 26キタちゃんを書きました23/02/05(日) 21:06:12
- 27キタちゃんを書きました23/02/05(日) 21:11:11
- 28マックイーン書いた23/02/05(日) 21:22:05
- 29キタちゃんを書きました23/02/05(日) 21:32:15
- 30723/02/06(月) 00:33:49
水曜日くらいまでには書けるといいな保守
- 31スレ主23/02/06(月) 07:33:51
この度のご参加ありがとうございます
できればこのスレも長生きして多くの人の目に入れば
一回目のスレで参加してくれた方かな
相合傘での帰宅からもう少しこのままで、という流れがとてもロマンチックでこの二人にぴったりなお話ですね
四六時中平然といちゃついてるようなイメージになりがちだけどちゃんと意識して恥じらいを持ったフラッシュが可愛いです
素早くスレの存在に気付いて頂きありがとうございます
全然気付いてないマックちゃん
共に濡れネズミになるマックちゃん
最後に指摘されて真っ赤になるマックちゃん
全編通して可愛いです!
雨上がりの締めが爽やか
こちらも早々に書き上げてくれてありがとうございます
一緒に過ごし、かつ相合傘という豪華盛りだくさん仕様がいいですねぇ実に仲良し
トレーナー室で過ごしている時の空気感の描写が個人的にとても好きですね
雨音に飲み込まれた静かな空間にタイピング音とノートなどを捲る音が聞こえてくるようです
最低一週間は続けたいスレなのでどうぞごゆっくり
- 32二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 17:50:54
あげ
- 33スレ主23/02/06(月) 17:52:11
保守しておきます
短文やその後エピも書くつもり - 34二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 21:15:43
「それじゃ、今日のミーティングはここまで。お疲れ様アルダン」
「はい、今日もありがとうございます……ってあら?」
トレーニング後のミーティングも終わり、私は帰る支度をしようとした時ふと外を見ると雨が降っていた事に気がつきました。
「あ〜結構強いなぁ。運動後だから傘で濡れないように。風邪を引くと大変だからね」
「そうですね………あっ」
そう話していると私はある事に気が付きました。
「傘…忘れてきてしまいました…」
そうです。雨の時に欠かせない大事な傘を置いてきてしまったのです。今日の夕方に天候が悪化することは知っていました。しかし今日は金曜日、明日はトレーナーさんとお出かけの予定をしていて浮かれてしまったのでしょう。傘の事など忘却の彼方へ追いやっていたのです。
「そうか…よかったら俺の使う?」
「でもトレーナーさんが…」
「大丈夫だよ濡れて帰るのなんて慣れてるし何ならここに泊まる選択肢もあるから」
(私は納得できません!トレーナーさんが風邪を引いたら心配ですし、何より…その…明日のお出かけの事もあります!それに何ですか!ここに泊まるなんて選択!確かにアパートのように生活出来る環境ですがしっかり休養を取れるとは限りません!どうせ泊まるならメジロの御屋敷にでも…)
そんな憤慨混じりの考え事をしていると私に名案が浮かんできました。 - 35二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 21:16:09
「傘は一つしかありません。トレーナーさん、私を寮まで送ってもらえませんか?そうすれば傘はトレーナーさんの手元に残りますしそのままご自宅へ帰れます」
どうですかこの名案!こうすれば完璧…って待ってください!これはまさか相合傘…どどどどうしましょう!?名案と言いつつ大胆に迫ってしまいました…!?つまりトレーナーさんと身を寄せて歩いていく…ううぅ…恥ずかしいです…帰るだけなのに緊張してしまいます…と勢いに任せた自分に若干後悔していると
ピシャァァァン!!!
「きゃああああああ!!!」
不意に雷が落ち私は雨音にも負けない声で悲鳴を出し、その場にへなへなと座り込んでしまいました。 - 36二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 21:16:46
「大丈夫かアルダン!?」
「はいぃ…大丈夫です…突然だったもので…」
トレーナーさんに介抱されながら耳を傾けるとさっきよりも雨音も風も壁に叩きつけるかのように強くなっていました。まだ雷も鳴っています。
「さっきより激しくなったな…ってまじかよ…」
「どうしました?」
「今大雨、洪水、暴風警報、雷注意報が発令中で今夜一杯は続くって。外出も非常に危険って通達来てる」
「そんな…じゃあ私達は帰れないという事ですか?」
「そうなるね…いや〜参った」
メジロの家から迎えを呼んでもらいましょうか…いえ、車も危険と言っていました…一体どうすれば…そう思っていたその時です。
「アルダン…今は外にも出れないし迎えも困難だ…その、よかったらここで一泊するか?」
(!!!?!!?!?!!)
い…いいいいい一泊!?お泊まり!?そそそそれってつまり…トレーナーさんと同じ部屋で一夜を過ごす事!?どうしましょう!?やっと相合傘の緊張に慣れてきたのに…それ以上の刺激に襲われてしまいました…
「シャワーもあるし軽食もあるから大丈夫だよ」
「確かに今は外へ出られませんね…トレーナーさん、ありがとうございます」
大丈夫じゃありません!何で貴方は平気なんですか!うぅ…これが大人の余裕というものなのですね… - 37二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 21:17:15
その後私はシャワーを浴びてトレーナーさんの部屋着を借りて着替えました。風邪を引かないようにと上着をかけてくれるだけではなく、温かい食べ物や飲み物も頂きました。……何か色々と飛ばし過ぎのような気がしますがそんな事ありません!多分!きっと!絶対!
「アルダン、そろそろ寝ないと寝不足になるぞ」
そうしている内に夜も更けて辺りは真っ暗になっていました。
「もうそんな時間…楽しいとあっという間ですね」
と私が名残惜しそうにしていると…
ビシャァァァン!!!
「ひっ!」
また雷が鳴り響きました。雨風も激しさを増しており眠ろうにも音が怖くて眠れません…
「眠れないのか?」
「ええ…音が少々怖くて…」
「そうだな…じゃ、少し話をしようか」
そうしてトレーナーさんは仮眠用ベッドに横たわっている私の近くに来て色々な話をしてくれました。自分の昔話を、トレーナーを目指した話を、最近の仕事や周りの事、そして私と歩んできた道筋を…
どの話も聞き入っていると雷は鳴らなくなっていました。
「トレーナーさんはどこで寝るのですか?」
「俺はここのソファで寝るよ。まぁ寝る前に仕事をしてからだけど」
「……………」
(こんな状況でも私の事を考えてくれている…でも貴方が倒れたら…)そう思った私はトレーナーさんの腕を掴みベッドへと引き込み抱き締めました。
「アルダン!?」
「いつも貴方は無茶をし過ぎです!そうやって風邪でも引いたらどうするのです?今日ぐらいはゆっくりしましょう…」
「そうだな、アルダンの言う通りだ」
あぁぁぁぉぁ…私、やってしまいました!トレーナーさんをベッドの中で抱きしめています…心臓の音も鳴り止みません!でも…
「心地良いですね、2人きりでこうしているのは」
「そうだな」 - 38二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 21:17:46
何故でしょう、心臓の鼓動は止まらないのにどんな時よりもずっと落ち着きます。温もりに包まれている今この時が愛おしい………?
ふと耳を傾けるとトレーナーさんの心臓の音が聞こえてきます。私と同じかそれ以上の速さで今の感情を表す音、2人の鼓動が雨の音を掻き消すかのように鳴り響きます。トレーナーさんも緊張していたのですね…それを知って安心しました。
(ああ、この瞬間が永遠に続けば良いのに…)
(お願いです…私達2人の温もりを、互いの気持ちを表すこの鼓動を誰にも気付かれないようにその雨音で掻き消して下さい…)
そう思いながら私達は夢の世界へと誘われていったのでした。
瞼を突き抜ける程の眩い朝日、それに起こされるように私が目を覚ますとトレーナーさんは既に起きていました。
「おはようアルダン。昨日は眠れた?」
「はい、お陰様で……ッ!」
私の脳裏に昨日の光景が蘇り、私の顔は羞恥の赤に染まります。無理もありません、何故ならトレーナーさんを抱き締めていたのですから。
「すみません…昨日は…」
「いいのいいの。それより晴れた事だし約束のお出掛けしようか。」
「!本当ですか!?」
窓からは昨日の嵐が嘘のように雲一つない青空が広がっています。
「流石にこの姿だと締まらないから家戻って着替えてくるよ。アルダンも自分の寮に一旦…」
「分かりました。なら寮まで一緒に着いてきてください。」
そう言って私はトレーナーさんと手を繋いで寮へと向かいます。
「あっ、虹だ!」
「まぁ…綺麗…」
空には綺麗な虹の橋が嵐を越えた私達を祝福するかのようにアーチを描いていました。
今回の嵐は怖かったけど…私は大切なものと勇気を貰いました。今からその勇気をちょっぴり出してみます。
「トレーナーさん、昨日はありがとうございました。今日のお出かけの帰り…もしよろしければ私の家に泊まっていきませんか?」 - 39二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 21:19:13
- 40二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 21:48:46
「雨、止んだね」「そうですね」
トレーナー室の窓から、俺とサイレンススズカは一緒に外を見た。
ざあざあと降っていた通り雨はいつの間にか止んでいて、星が見えるということは晴れているんだろう。
寮の門限にはまだ余裕が、日が落ちるのもすっかり早くなった。
「じゃあ、明日はいつも通りだから」「はい」
……普段、こんな時間までスズカがいることはない。
傘を忘れたというので貸そうと提案したら、止むまでトレーナー室で待たせてほしいと言われたのは意外だった。
こういう時の彼女はなかなか頑固だ。今日のトレーニングの疲れもあるだろうし、早めに帰ってほしかったのだが。
「……」「……? えっと、スズカ? 帰らないの?」「……その」
しかし、雨はとっくに止んだのに帰ろうとしない。
「トレーナーさんは、まだ帰らないんですか?」「うん、俺はもう少し」
トレーナー室の椅子に座ったまま、彼女は何かを気にしているように俺に問いかける。
「その、トレーナーさんが迷惑でなければ」「うん」
「もう少し、ここにいてもいいですか?」「ん、なんで?」
つい、率直な疑問が出てしまう。さっきから彼女はスマホを弄るでもなく、学校の宿題をするでもなく、黙って座っていた。
雨宿りなのだから何か時間を潰すことでもあればいいと思っていたが、ただ静かにそこにいるだけだった。
「私、頑張っているトレーナーさんを見ているのが、好きですから」「え」
……ビックリした。全く想定外の答えだった。彼女は静かな声で、しかしはっきりと答えていた。
「面白いことなんてないよ?」「ふふ、知ってます」
「雨、また降ってきたら」「その時は……そうですね、その時に考えます」
彼女は、満足そうにくすりと笑う。それにつられて、俺も少し口角が上がっていた。
「……門限までには、寮まで送るよ」
「はい、ありがとうございます。トレーナーさん」 - 41二次元好きの匿名さん23/02/06(月) 21:49:00
- 42フクキタル23/02/06(月) 22:11:51
「すみません。私、傘を忘れてしまいまして・・・しばらくここで時間潰させてもらっていいですか?」
「じゃあ、この傘を使うといいよ」
「いいのですか!?トレーナーさんの傘を使わせていただくなんて、御利益がありそうです!ありがたや~」
「そんな大層なもんじゃないから。折り畳みを持ち歩くようにしてるだけだよ」
「・・・あれ?ではトレーナーさんはどうするのですか?」
「どうするかな…。まぁ、まだ少しやることあるし、しばらくしたら雨もやむだろうし」
「そんな!それじゃあトレーナーさんが濡れてしまいます!風邪を引くかもしれませんよ!?」
「そんなことより、もうだいぶ遅くなってきてるし、暗くなる前に帰りな。明日は朝からスズカに付き合うんだろ?」
「それは・・・そうなんですが・・・。でも、トレーナーさんが・・・💡」
「フクキタル?」
「あの、そのですね・・・。暗くなってくると夜道も危ないですから、一人だと怖いかなーなんて・・・」
(いつももっと遅くまで練習することもあるのに?)
「よろしければ、トレーナーさんが付いてきてくだされば、安心なのですが・・・」
(というか寮はすぐそこだし、ついていくほどの距離でもない気がするんだが…)
「そしてですね!なんと、今私の手元には、ありがたくもトレーナーさんからお借りした傘が”一本だけ”ありまして!」
「……」
「その・・・一緒に帰りませんか?寮まで送ってくだされば、そのままトレーナーさんに傘も返せますし・・・。相合傘になっちゃいますけど」
もじもじしながら、うかがうようにこちらを見るフクキタルを見て、俺は帰り支度を始めるのだった。 - 43マーベラス23/02/06(月) 22:24:04
「う~ん。アンニュイなこの時間もマーベラス・・・」
「マーベラス、どうしたんだ?雨の日はさすがにマーベラスもお休みか?」
頬杖をついて窓から外を見るマーベラスサンデーに声を変える。
「ううん。空からの恵みと、その潤いに緑が喜んでるのがとってもマーベラス★なんだけど~…」
「?」
「傘、忘れちゃった★・・・さすがにこの雨に濡れて帰るのはマベラくないんだよ~…」
どうやら傘を忘れたらしかった。
ならば、と少し考える。
しばらくトレーナー室で雨宿りさせてもいいのだが、この雨だといつ止むかわからない。
さりとてあまり遅くまで残らせるわけにもいかない。
したがって、結論は一つ。俺は、自分の傘を差しだした。
「使うか?」
「いいの?」
「あぁ。これで雨の日のマーベラスを楽しめるだろ?」
「マーベラス★…でもトレーナーはどうするの?」
「売店かコンビニで買うよ」
「む~ん……」
そう言うと、再びマーベラスのテンションは下がり、今度は頭を抱えてしまった。
「どうした?」
「私が傘を忘れたのに、トレーナーの傘を借りて、トレーナーがわざわざ新しい傘を買うのはマベラくない★」
「そうか?」
「だから~・・・」
そう言うと、いつもの輝きを取り戻した星型の瞳が、こちらをじっと見つめてくる。
「トレーナー(⤴)!一緒に、今日のマーベラス探しに行こ★」
「今からか?まだ仕事があるからな…。いつものようにマヤノや他の子を誘ったらどうだ?」
「行かないの・・・?⤵」
「…わかったわかった。付き合うよ。俺もマーベラス探しは楽しいから」
「やったー☆きっとマーベラスなものに出会えるよ★それに~・・・」
「それに?」
「トレーナーとの相合傘は、きっととってもマーベラス☆☆★」 - 44マーベラス23/02/06(月) 22:24:55
- 45マーチャン編1/223/02/06(月) 23:21:53
お昼過ぎからお天気は悪くなるとは言っていましたが、ここまでざーざーさんだったとは。……お困りマーちゃんです。
でもそれは、隣のトレーナーさんも同じのようで、
「オイオイオイすごい雨だな!?」
うらめしそうに雨雲を見上げていました。
「あっ!?車だからって傘忘れてた……。マーチャンは傘持ってるのか?」
「……トレーナーさん、ちゃんと天気予報さんは確認したのです?」
そう問うと、
「いやぁ天気予報はあんまり信用しない派なんだよ俺は」
少し恥ずかしそうに笑って答えました。
最近の予報さんはあまり外すことはないと思うのですが、トレーナーさんにはこだわりがあるみたいです。……でも、それは大人としてどうなのでしょう。
「…………トレーナーさん、ちゃんと準備はしないと。でないと大切なモノもダメになってしまいますよ?」
「ウッ……すいません……」
「ふふっ。でも、いいですよ。マーちゃん、ちゃんと持ってきていますので。一緒にいかがです?」 - 46マーチャン編2/223/02/06(月) 23:22:37
そう言ってバッグの中に手を伸ばして、
「本当か!?助かるよ!雨が止むまで仕事片付けようかとか思ってたんだ!」
伸ばしていた手を止めてしまいました。
「…………あらら、うっかりマーちゃん。どうやら傘さんを忘れてきてしまったみたいです」
「これではトレーナーさんのこと、あれこれ言えませんね?」
忘れたというのに、トレーナーさんは何故か顔がほころんでいました。それは、マーちゃんが同じく忘れてしまって、安心したからですか?
「なんだマーチャンも忘れたのか。……仕方ない、一緒に雨が止むまで部屋で待つか?」
でも、あなたが思っていた答えとは、違うかもしれません。もしかしたら、ちょっと嫌がってしまうかもしれないのです。
なので、この思いは、わたしの心のなかにだけしまっておきます。
"トレーナーさんと、少しでも一緒に居たい"
そう思ってしまったのです。
「はい、雨宿りさせてくださいな」
バッグの中の、持っていた傘さんをもっと、もっと深くに仕舞い込みながら。 - 47マーチャン編23/02/06(月) 23:23:15
- 48マックイーン書いた23/02/06(月) 23:41:08
アルダンの乙女な部分がすごく輝いていて良いなと思いました!
それに、最後のお誘いの部分の前の部分の勇気の部分も文章内のアルダンの成長の描かれ方がすごく上手いなと感じました!
最初から雨が上がっている状態から始まる文章はすごく新鮮で面白かったです!
また、会話文にすごく感情が籠もっててすごいなと思いました!
まずフクキタルの方は、まるでゲーム本家にあったのかと思うほどフクキタルしているセリフ達だなと感じました!
それに最後の方でフクキタルの可愛さが詰まっていて素晴らしいと思いました!
そしてマーベラスサンデーの方ですが、まずマーベラスサンデーのエミュができてるのがすごいな!と感じました。
マーベラスサンデー特有のマーベラスからなる文章がすごくすごくマーベラスしてました!
それにマーベラスサンデーの方も、まるで脳で声が再生されるような文章ですごく惹きつけられました!
マーちゃん特有の可愛らしい喋り方とそれによるトレーナーとの会話がすごく良いなと感じました。
シチュエーションとしては敢えてトレーナーが傘を忘れる側でマーちゃんのトレーナーとマーちゃんの特徴がすごく出てるなと思いました。
そしてそれによる最後の文!すごく良い描写でなんだか笑顔になりました!
- 49キタちゃんを書きました23/02/07(火) 02:16:13
雨が酷くなってお泊り…そういう手もあるのか…。全然考えてもいませんでした。参考になります。
セリフは毅然としてるのに心の声は相当動揺してたりする乙女心が凄く可愛かったです。
最後の勇気を出すところも凄く良かったです。
またどこかで続きが見たいです。
一緒にいるのは考えててもその結果雨が止むことは考えても見なかったので人によって展開の仕方が色々あるんだと思い参考になります。
スズカらしさが出ていて読んでいた楽しかったです。
フクキタルらしさが存分に出ていてこういうことを言うよなと感じさせられました。
最後のところが特に好きです。
読んでいて違和感とかはないですしマーベラスならこう言いそうだと思いましたから分かってないってことないと思います。
凄く良かったです。
なるほど傘を忘れる側を変えるのもありですね。皆様のお話を見てると色々なことに気付かされます。
最後の文が凄く良かったです。
皆様の話を見て気づいたのですが相愛傘じゃなくて相合傘でしたね…。変換で出てたからこう言うんだっけ?って勘違いしてました。
- 50マーベラスチューズデー23/02/07(火) 03:23:59
- 51二次元好きの匿名さん23/02/07(火) 14:14:19
保守
- 52二次元好きの匿名さん23/02/07(火) 21:07:02
自然…天候というのは正しくマジシャン、トリックスター…エンターテイナーと言えるだろう。時に空に虹を描き人々を魅了し、時には大雪を降らして子供を喜ばせ、大人を青ざめさせる。そこには思惑など無く、ただ気まぐれにそれでも悪戯っ子のように人々を空模様という形で引っ掻き回す。
「はぁ〜あ…どうしてこうなっちゃうかな〜」
そして今、栗東寮寮長であるフジキセキもその天候に振り回され溜息をついていた。
「さっきまで雲一つない晴天だったのに、突然大雨が降り始めるなんて…って雨で廊下が滑るから走らないようにねポニーちゃん」
急ごうとする生徒を注意しつつ突然指をパチンと鳴らす。当然指を鳴らそうがタネも仕掛けも無い自然の雨は止むことなく空から天然のシャワーを演出する。
「ふふっ、これで晴れたら誰だってやってるか」
苦笑いしながら気付けばトレーナー室に到着していたので部屋のドアを開ける。
「こんにちはトレーナーさん、今日も…と言いたいところだけどね…」
「そうだなフジ…この雨だと室内の床も濡れ気味だろうし危険だな…とはいえ座学やミーティングもこの前やったし今日はトレーニング休みで良いよ」
「それならトレーナーさん!見てもらいたいものがあるんだよ!この前言ってた奴!」
そうしてフジキセキはこの前話していた事…新しいマジックやパフォーマンスとしてのポーズなどをトレーナーに披露した。
「成程…思わず見惚れちゃったよ」
とトレーナーは感心する。雨は未だ止む気配を見せずに雨音という名の拍手を送り続けている。
「トレーナーさんはどうするんだい?」
「自分はここで仕事してるよ。フジが全力で走り君のお母さんのように…いやそれ以上に多くの人を感動できるパフォーマンスが出来るようにね」
「…………ッ!」
「それに…っともうこんな時間だ、雨も止んでないし…フジ、傘は持ってるね?」
「………あっ」
フジキセキは気付いた。突然の雨だったため傘を寮の部屋に置いてきてしまった事を。窓を見ると外の雨はそんなフジをからかうように雨雲というギャラリーから甲高い雨音を鳴らしていた。 - 53二次元好きの匿名さん23/02/07(火) 21:08:29
「自慢の手品で取り出せたり?」
「もうっ!それが出来たらやっているよ!トレーナーさん!」と頬を膨らませるフジ。
「いやいや冗談冗談。入り口に傘があるから持って行きな」
「もう…人を揶揄っておいて…って傘一本しかないね。…そうだトレーナーさん!今から寮に戻るまでの間エスコートをお願いするよ。私を揶揄ったんだからこのぐらいはして欲しいなぁ」
揶揄ったから仕方が無いなとトレーナーも承諾し二人で一本の傘に入る…所謂相合傘の格好でフジはトレーナーと共に寮へと向かった。
「ねぇ、さっきの話の途中だけどさ『それに…』の後は何て言おうとしたの?」と尋ねると。
「あぁ、それに自分はフジみたく魅力とかないしタネも仕掛けもない君とは反対な存在だからね。こうして裏方で支える事しか出来ないからねって言おうとしたんだ」
「それは違うよ」
「どんな役者も色んな人が準備して裏で支えてくれてこそ輝くんだ。私もトレーナーさんが支えてくれなければ誰にも見られないただの女の子なんだ」
そう話すフジ。そんな話を周りに聞こえなくする魔法のように空からは強い雨が降り続ける。
「トレーナーさんも!もう一人の影の主役なんだ!だからそんな事言わないで…」
「そうか…ありがとうなフジ」
そんな彼女の頭をトレーナーは優しく体を寄せて撫でる。
「トレーナーさん、良い香り…いい香りがする人は遺伝子から…いや、それはただの建前。君の香りが好き。香りだけじゃない、君の全てが大好き」
「僕も君の事が大好きだよ。これからもよろしくね……って雨も止んだな」
気付けば今までが嘘のように、魔法が解けたかのように雨は上がり雨雲は消えていた。天候とはどこまでも気まぐれな悪戯っ子である。 - 54二次元好きの匿名さん23/02/07(火) 21:08:41
「二人きりのショーもおしまいかな」
トレーナーは傘を畳み朗らかに笑うが、ここからだよとそれを遮るようにフジは答える。
「さっきまでは舞台までへのブロードウェイ。ここから二人のショーが始まるんだ。凝った舞台も台本も彩る演出も無い、そして他の役者も要らない、そんなショーがね」
「でも二人でならきっと誰もが魅了され、楽しめるショーを…そして感動するフィナーレを飾る事ができるよ」
「その通りだよトレーナーさん!これがショーの幕開き。だから…」
「———タネも仕掛けもない、演技でも無い私の想いを受け取って…」
それに応えるようにもう一人の主役は頷き、次の瞬間二人の距離はゼロになった。
雨雲というカーテンが開かれ始まった二人だけのショー。周囲の観客からは黄色い声援が奏でられ、そして天候の粋な計らいなのかそれとも気まぐれなのか、雲一つない淡い夕焼け空のホリゾント幕が一面に広がっていた。 - 55二次元好きの匿名さん23/02/07(火) 21:12:50
- 56スレ主23/02/07(火) 23:54:18
ようやくゆっくり感想書ける時間が取れたので
相合傘か~と思わせてからのまさかのお泊りコース!
雷に怯えるアルダンがとても可愛い
それまでトレーナーに従っていたのに突然大胆な行動に出るところはまさにアルダン!
最後の一言で後日談が気になる系です
皆勤ありがとうございます
何をするでもなく一緒にいるだけで満足、というのが実にエモい
走ることが大好きなスズカだからこそ同じ時間を過ごすということの重みがありますよね
二作もありがとうございます
妙に言い訳がましいことを言いつつ最後にはちゃんとストレートに伝えるフクが純粋に可愛い
もじもじしながらというのがアプリホームに置いた時のあの感じを想像させて解像度上がりますねぇ
そういうフクのお願いを聞いてあげるトレーナーとの組み合わせもいい感じ
マベssは初めて触れましたが違和感なくスッと読める再現度の高さにまず驚きました
発言内容も言葉の使い方もこれは実にマーベラス☆
脳内再生ができるので読んでて楽しい
マーベラス探しという相合傘の誘い方が好きです
ちょっと辛辣なマーチャンが珍しくて微笑ましいやり取り
傘はあるけど敢えて使わないという流れに傘を忘れた方を逆にした意味がよく効いてます
- 57スレ主23/02/07(火) 23:56:02
リクエスト達成お見事
トレーナーとの軽妙なやり取りとからわかれたフジが可愛い
雨の描写と、そこからステージや舞台関連に繋げるワードセンスが素晴らしく上手
雰囲気の作り方に雨を活かした甘いssでした!
皆さんは寮までの所要時間はどのくらいをイメージしてるんでしょうかね~
自分は15~20分くらい想定
レース場とは勝手が違うから走ってもそんなに短縮にならない感じ
- 58マックイーン書いた23/02/08(水) 00:23:10
- 591/523/02/08(水) 02:46:02
「ぬぬぬぅ……抜かりました……!」
そう呟きながら窓の外を眺める私の視界には、重く垂れ込む雲の群れと降りしきる雨たちが映ります。
午後からは雨が降るかも、という天気予報はバッチリ的中してしまいました。
一方で、そこまで強い雨にはならないだろう、なっても傘を用意すれば大丈夫だろう……といった思惑については、
「まさか……まさか想像よりずっと降って、しかも傘の用意を忘れてしまうとはッ!」
……と、まるきり外れてしまっていたのでした。
私は常々『晴れの日が好き』と公言しています。
それは走りやすいからですが、しかしレース本番が常に晴れているとは限りません。
ですから、雨の降る中でもレースとあらば全霊で走りますし、そうした状況を想定してのトレーニングも怠りません。
しかし、それはあくまでレース本番やトレーニングでの話。
寮への帰り道を、傘も差さず濡れて帰るのは模範的とは言い難いでしょう。
さてどうしたものでしょうか……と、思わず溜息が漏れてしまった時でした。
「……どうしたの、バクシンオー。さっきから浮かない様子だけど」
「ややっ、分かってしまいますかトレーナーさん! 流石は私のトレーナーですね!」
後ろから心配そうな声が。振り向けば、トレーナーさんが仕事の手を止め、こちらを見ています。
「まあ、あれだけ恨めし気に外を見てればね……」
「むむむ……いえ、トレーナーさんにならば打ち明けても問題ないでしょうとも。実はですね……」
と、私は現在置かれた状況を説明します。 - 602/523/02/08(水) 02:46:33
「……という訳でして。トレーナーさんがよろしければ、雨が弱まるまでこちらで待たせていただければ、と」
「……うーん」
天気予報では、夜までには止むとのことでした。ならば、今少し待てば、雨脚も弱まるはずです。
そう思っての発言でしたが、トレーナーさんは何やらご自身の荷物をガサゴソ。
「……えーと。トレーナーさん?」
「ちょっと待ってて……あ、あったあった……はい、傘。これ使っていいよ」
「おおっ! それはまさしく傘ではないですか!」
「うん。雨降るって話だったし、持ってきてたんだ」
そう言って、トレーナーさんは私へ一本の傘を差しだします。
ずぶ濡れで帰る羽目にもならず、弱まるまで待つ必要も無い。まさに救いの一手です!
……しかし、ここで疑問が浮かびます。
「……むむっ? ここで私が傘を受け取った場合、トレーナーさんはどうするのです?」
「え? そりゃまあ、雨が止むまで待ってるよ。仕事も溜まってて丁度いいし」
「なんと!? それはいけませんトレーナーさん! そういうことでしたら、この傘は受け取れませんよ!」
「うーん、トレーナーとしては早く帰って休んでほしいんだけどね……どのみち残って仕事はする訳だし」
……その後も受け取りを拒否しようとしますが、トレーナーさんも譲りません。
どうやら、トレーナーさんにはお仕事を切り上げてすぐに帰る、という考えはないようです。
……さて。模範的優等生、頼れる学級委員長として、ここはどうするべきでしょうか。
傘を借りずに雨に濡れて帰る……のは、皆の手本になりません。風邪を引いては一大事ですので!
しかし傘を借りてしまえば、トレーナーさんが雨に濡れてしまうかもしれません。
かと言って雨が止む、ないし弱まるのを待つのも、果たしていつになるやら。
- 613/523/02/08(水) 02:46:46
暫く考えた末、私はある決断を下しました。
「……分かりました。それではこちらの傘、有難く使わせていただきますね!」
「うん。振り回したりしちゃダメだからね?」
分かっていますとも、と返しつつ、トレーナーさんが差し出す一本の傘を受け取ります。
「……では、失礼します!」
「はーい、転んだりしないように、気を付けて帰るんだよー」
荷物を手に、トレーナーさんの声を背に。そして借り受けた傘を空いた手に持ち、私は外へ。
傘を開き、ざぁざぁと降る雨の中へ出ていきます。
傘を叩く雨音を聞きながら歩を進め、途中でふと振り向けば──先程までいた部屋には、明かりが点いています。
きっと、トレーナーさんは安心したようにお仕事の続きをなさっているのでしょう。
その様子を想像しながら、私は再び寮への道を辿ります。
少しだけ、早足で。
- 62二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 02:46:59
このレスは削除されています
- 634/523/02/08(水) 02:47:10
「……んー、これで日程調整は大丈夫かな。次は……」
呟きながら、一人、トレーナー室で仕事を片付けていく。
聞こえるのは規則正しい時計の音、不規則に窓へ当たる雨粒の音、そして時折漏れる自身の独り言だけ。
いつも賑やかな──そして、雨への備えを忘れていたらしい──担当ウマ娘は、少し前に寮へ帰した。
窓の外を見やれば、彼女が帰った時からだいぶ暗く、そして幾分か雨も弱くなっている。
それにしてもうっかり傘を忘れるなんて、らしいというかなんというか。そう思いながら、再びデスクに向か──
コン、コン、コン。
おうとしたタイミングで、ドアがノックされた。
「はーい、どうぞー」
「……失礼します!」
とても聞き馴染みのある、華やかな声。思わず顔を上げて、ドアの方を見れば。
「……えっ」
「お待たせしましたトレーナーさん! バクシンオー、ただいま戻りました!」
片手に傘、もう片方の手にも傘。そして小さなカバンを持って。
太陽みたいに眩しい笑顔の担当ウマ娘──サクラバクシンオーが立っていた。
- 645/523/02/08(水) 02:47:28
「……えっと、どうしたのバクシンオー。まさか、忘れ物?」
「いいえっ! ……どちらかと言えば、お届け物でしょうか」
そう言いながら彼女が差し出したのは、貸したはずの傘。そして、小さな袋に入った数枚のクッキー。
「……これは?」
「まずは、先程貸して頂いた傘をお返ししますね。ありがとうございました!」
「ああ、うん。どうも……?」
「そしてこちらは、差し入れのクッキーです! 傘のお礼も兼ねて、召し上がって頂きたく」
……成程。どうせ残って仕事をするのなら、トレーナー室の明かりが消えるまでにはたっぷり時間はある。
その間に一度寮へ戻り、クッキーを用意し、改めて自分の傘を差してやってくるのは容易いことだろう。
「……そっか。ありがとう、バクシンオー」
「えっへん、どういたしましてッ!」
──彼女が持ってきたクッキーは、再訪してきたバクシンオーと一緒に、お茶請けとして頂いた。
そして、そのまま仕事に──戻らず、その日は一緒にトレーナー室を出、一緒に帰路に就いたのだった。
雨音をBGMに、二人並んで、これからのことを話しながら。今度はきちんと、二人ともそれぞれに傘を差して。
- 65二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 02:51:03
- 66キタちゃんを書きました23/02/08(水) 05:59:27
- 67二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 14:58:21
ほ
- 68スレ主23/02/08(水) 20:21:25
思い立ったら即行動のバクシン的参加ありがとうございます
導入部分をしっかり採用してくれて感謝
同じシチュでも照れ隠しの強い自分の書いたタマとは違い、素直でカラッと明るいバクシンオーならではの話になっていて終わり方が実に微笑ましい
こういう同じ行動をしてるようで書き手によって差異が生まれることが共通お題ssの一番の見どころだと思ってます
非常に素敵なバクシンオーを堪能できました
【これは違う選択肢を選んだ際のNGシーン】
「なぁ、一緒に使うて帰ったらどうやろ」
「タマモ……それって……」
「……せや」
「さぁ来いタマモ!」
「おう! 合体や!! ……って肩車ちゃうわ!」
「じゃあおんぶにする? 抱っこでもいいけど」
「何でことごとく外してくるんや! こーゆー時は相合傘に決まっとるやろ!」
「ちょっと身長差が厳しくない?」
「あ……せやな」
「俺が中腰で上手いこと歩けるようになるまで待っててくれ」
「どんだけ掛かるんや! ちゅーか明後日の方向に努力すんなぁ!」
- 69二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 22:36:52
(全く、こんな雨になるとはな…)
そう思いながら廊下を歩いているのはエアグルーヴ。
今日は週末である事と生徒や教員も早く帰るようにとされている日でもあるため、校内の見廻りに来ていたのだ。
「傘も玄関に置いてあるから見廻りが終わっても問題ないが、悪化する前に帰らなくてはな」
そんな彼女がふと外を見ると、
「花壇や菜園に雨除けのシートが張られている…美化委員達がやってくれていたのか…」学園の花壇や菜園には雨除けのシートがしっかりと設置されていた。雨の勢いも強く植え始めたものもあったため心配になっていたのだ。
「むっ、近くに転んだ跡があるな。雨の中の作業は危険だというのに…そんなおっちょこちょいには注意しないとな」
「しかし妙だ…雨が強くなったのは授業中だ。となると教員の誰かか…だが汚れている者はいなかった…」
そう考えながら彼女は見廻りを続ける。生徒は全て帰っており、同じく見廻りをしていたルドルフ会長初め他生徒会も皆帰ったと連絡があった。教員やトレーナーも仕事を切り上げている様なので彼女も帰ろうとした時、見上げるとトレーナー室の一室、それも彼女の馴染みのある場所が唯一光っていた。
「はぁ…あのたわけが…」
そう溜息を吐き呆れながらエアグルーヴはその場所へ向かった。 - 70二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 22:37:46
「何をしているんだ貴様は」
そう言って部屋の扉を開けるエアグルーヴ。目の前には彼女のトレーナーが仕事を続けていた。
「今日は生徒も職員も早く帰る日だと聞かなかったのか?」
「ごめん、これ終わったら帰るよ。雨強いけどエアは傘大丈夫?」
「玄関に置いてある。おい、他の者は皆帰って…ん?」
ふと部屋の片隅に目を向けるエアグルーヴ。そこにはトレーナーが使うジャージが干してあった。洗濯されていたようだがそれは全体的に濡れて泥汚れが強く、特にズボンは転んだかのように酷い有様だった。
その時エアグルーヴは確信した。後日注意すべきおっちょこちょいが目の前にあると言う事を。
「貴様まさか花壇で作業したな?」
「まぁね、いきなり降ってきたから急いでね」
「たわけ!それで怪我や風邪を引いたらどうする!全く貴様ときたら……ひっ!?」
いきなり驚くエアグルーヴ。何故なら近くで雷が鳴ったと思った瞬間、部屋の電気が消えたのだ。
「停電か、そろそろ帰れって事だな」
「だから早く帰れと行っているだろう————」
次の瞬間、眩い光と共に雷が大地を割るような轟音を響かせた。
「いやぁぁぁぁぁぁあ!!!」
思わず耳を塞ぎ座り込むグルーヴ。そんな彼女をトレーナーは傍に座り落ち着かせる。
「大丈夫、大丈夫だよ」
「いや…ひっく…こわいよぉ…とれーなぁ…ぐすっ」
普段の彼女とは思えない姿。無理もない。ウマ娘が苦手とする大きな音と彼女が特に苦手な突然の眩い光が暗闇の中同時に襲いかかったのだから。そんな彼女をトレーナーは優しく抱きしめていた。 - 71二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 22:38:33
「落ち着いたかな?」
「ああ、落ち着いたが、い、今のは忘れてくれ!」
暫くして雷が収まり、一応の落ち着きを取り戻したエアグルーヴ。それを確認したトレーナーはほっと息をついた。
「それなら大丈夫。雨はまだ降ってるけど雷収まったからエアも早く帰りな。傘も玄関にあるって言ってたし施錠はこっちでやっておくから」
「あっ…」
ここで彼女は気付いた。自分の傘が玄関にあると言う事、ここから距離があること、電気は復旧しておらず未だ暗闇であると言う事を。
「い、いや…こわい…」
「そうか…ならそこに傘あるしそれ使いな。自分のは何とかするから」
「やだ…ひとりにしないで…とれーなぁ…」
力無く答えるエアグルーヴ。耳は垂れ、体の震えが目に見えて分かるその姿はまるでお化けにでもあった子供の様であった。
「よし!じゃあ一緒に行こう。それなら怖く無いよ!」
「ほんと…?」
「ああ、本当だよ。ずっとエアの傍にいるからね」
「ありがとう…とれーなぁ…」
再び泣き出したグルーヴ。厳格ではあるがまだ一人の女の子である。だからこそ自分が支えなければと改めて思うトレーナーであった。 - 72二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 22:39:41
「そろそろ寮だな」
そう言って一つの傘に二人、エアグルーヴとトレーナーは身を寄せ合い歩いていた。
「そうだな。今日は色々とすまない」
彼女も普段の冷静さを取り戻していた。
「それと…さっきはああ言ってしまったが花壇の件はありがとう、感謝している。だが貴様は普段からも無理をし過ぎだ。もしもの事があったらどうする?」
「うっ…ご、ごめん」
「分かれば良いのだ。しかし二度とするなよ?」
有無を言わさず釘を刺すエアグルーヴ。
(私だけの杖…トレーナーだからな。それにこうしていると心が落ち着く…)
いつも自分の為に尽くしてくれるトレーナー。その事への幸せを改めて噛み締め、彼女は口を開く。
「明日貴様の家の掃除の予定だったが朝学園の花壇の確認と設置したシートの片付けだ。無論貴様だけでなく私も参加するからな。それと…」
「それと?」
「これから休日の時、貴様と出かける時は寮で待っているから私を迎えに来てくれないか?」
「ああ、構わないよ」
「そうか。なら明日から宜しく頼むぞ」
(貴方の側にいる…それが一番の楽しみだから…)
寮の前に到着した二人。気付けば雨は止み、曇りなき星空が二人の頭上で煌めいていた。 - 73二次元好きの匿名さん23/02/08(水) 22:42:34
- 74マックイーン書いた23/02/08(水) 23:25:39
- 75二次元好きの匿名さん23/02/09(木) 05:13:25
昼過ぎ辺りから降り出した雨は、幾らか小降りになった様だがまだ止むにはもうしばらくかかりそうだ。
「──化粧する君の その背中がとても小さく見えて しかたないから──」やむ気配の無い雨を窓越しに見ながら鼻歌を口ずさむ
「♪──僕はまだ君を 愛しているんだろうそんなこと ふと思いながら──♪」
担当──マチカネタンホイザが後に続けて歌いだす
いつものライブパフォーマンスとは全く異なる雰囲気の歌や姿がとても新鮮で、思わず見つめてしまう。
「♪──窓の外は雨 雨が降ってるいく筋もの 雨が君の心の くもりガラスに♪」アカペラで歌い上げ
満足気な笑みで尻尾を揺らしお辞儀をするタンホイザに思わず拍手を贈る。
「こう言うのもいけますよ、どうでしたか?」率直に凄いと伝える、「それにしても、雨の物語なんてよく知ってるね。」
耳をピコピコ動かしながら「うちの食堂、有線放送流してまして、小さい頃からお手伝いしながらよく聞いてたんです。」そう教えてくれた。
「トレーナーさんも、どうしてこの歌を?」「うちは兄貴がフォークの類が好きで何か憶えちゃったんだ。」「何か、同じ様な話ですね?」
「本当だね、・・・雨・・・雨と言えば、これは解るかな?」「♪都会では 自殺する 若者が♪」
「傘がない でしたっけ?勿論知っていますよ」
「正解、丁度傘が無くて帰りそびれてる今にぴったりだろ?」
「むむ、ではこちらは──」そうして、二人で曲当てクイズを出し合い雨止みを待った。
そうこうしている内に雨は上がり、外に出ると雲の切れ目から月が覗いている
「おおっ、トレーナーさん『ジンライムの様なお月さま』ですよ」
「「♪この雨にやられて──♪」」二人で歌いながら帰り道を辿る、そうしてタンホイザを寮まで送り届けて今日はお開きとなった。 - 76二次元好きの匿名さん23/02/09(木) 05:14:43
- 77スレ主23/02/09(木) 15:04:43
- 78あまぐもサミング123/02/09(木) 22:25:13
「スカイ、そろそろ起きて」
「んぅ……?」
トレーナーさんに軽く揺さぶられながら、浅い眠りから目覚める。
使い慣れたソファの上、そしていつものトレーナーさんの声。そうだ、今日は天気が悪かったからトレーナー室で軽いミーティングと座学をしてて……。
「あちゃ~……」
寝ぼけた頭を覚醒させつつ窓の方へと目を向ける。
その先の景色が非常にぼやけて見えるのは寝起きだからだろうか。そう信じたいところだが、無情にも壁越しに聴こえてくる大粒の雨音がそんな淡い期待を即座に否定した。
「トレーナーさぁ~ん? どうしてもっと早く起こしてくれなかったんですか~?」
「雨が落ち着くのを待ってたんだけど、むしろ勢いが強まるばかりで……ごめん」
「むむ……」
トレーナーさんの付けている腕時計で門限が近いことを確認する。朝に見たスマホアプリの天気予報では、この時間帯には閉じられた傘のマークが表示されていたはずなのだが……それに反して外は天がバケツをひっくり返したかのような様相が広がっていた。
「この勢いじゃ下は濡れちゃいそうだけど、時間も時間だしそろそろ帰ろうか」
「そーですね……」
予報が外れるのもたまには仕方のないことだ。そう自分に言い聞かせつつも渋々と折り畳み傘を探して鞄を漁る。
……おかしい、傘が見当たらない。
「あ、あれぇ……?」
予報を見て傘を用意したつもりだったが、どうやら入れ忘れてしまったようだ。
「スカイ、もしかして傘忘れてきちゃった?」
「うっ……ちゃんと用意したはずなんだけどなぁ……あはは」 - 79あまぐもサミング223/02/09(木) 22:26:48
わずかな可能性に賭けてトレーナー室を見渡すも、予備の傘は置いていないようだ。
「うーん……こうなれば購買で買うしかないですかね~?」
「あ、さっきスカイが寝てる間に飲み物買いに寄ってきたんだけど、確か売り切れてたよ。まぁ、この雨だしね」
ああ、八方塞がりとはこのことか。
幸いにも学園から寮への道は短いし、観念して濡れるのを覚悟で帰路につこう。
……とそう思った時。
「はい、これ」
不意にトレーナーさんから傘を手渡された。
「え? それトレーナーさんの……」
「俺はもうちょっと仕事して雨の勢いが落ちつくのを見計らってから帰ることにするしさ。先帰りなよ」
「いや、でも……それじゃ結局トレーナーさんが濡れちゃうじゃないですか」
それに、仕事で残るとは言いつつも既にデスクの上は綺麗に片付けられていて、帰宅の準備が万端であったことが窺える。いつも私を気遣ってくれるトレーナーさんには遠慮なくいつも甘えさせてもらってきたが、さすがにこれは申し訳なさが勝る。自分の不手際で居残りをさせてしまい、更には風邪を引かせてしまう可能性があるのに、傘を素直に受け取ることはできない。
「俺のことは気にしないで。傘は明日返してくれれば大丈夫だから」
とはいえ、遠慮したところで恐らくトレーナーさんは傘を貸す方向から折れることはないだろう。
そんなせめぎ合いが生じたからか、私の中でひとつの"名案"が思い浮かんだ。
「……それならさ、トレーナーさん」
「?」
それはきっと、トレーナーさんからは提案されることのない、ひとつの"策"。
「この傘、2人で使いません?」 - 80あまぐもサミング323/02/09(木) 22:29:31
外へ出るとすっかり陽は落ちきっており、初夏のジメジメした微風が雨の香りを運んで、開いた扉の向こうへと吸い込まれていく。
ただ垂直に地面を叩いて跳ねる雨粒が水溜まりを泳ぐ街灯の光と重なり、魚に見紛うような不思議な景色を演出していた。
「うわぁ……これじゃ靴が濡れるのは避けられないですね~」
「まぁ、風は強くないのが幸いかな」
突風で壊れたり飛ばされたりする心配がないことに安堵した様子で、トレーナーさんが傘を開く。
少し大きめとはいえ、それは見るからに1人分のサイズしかなさそうだった。
「うん、詰めれば2人入れそうだ。スカイ、おいで」
「それじゃ遠慮なく失礼しま~す」
雨に濡れないように、並んで傘に潜り込む。
あまりに入り込むのも気が引けるので、生暖かい水滴が収まりきらない片腕を伝っていくような、そんな距離感で。
「……なんか新鮮だね~。こーいうの」
「そうだな」
学園の玄関、学園の門、そして寮までの道……。それは短いからこそ、トレーナーさんと他愛ない話をしつつ帰るにはちょうどいい距離で、あっという間に寮の入口へと辿り着いた。
「それじゃ、また明日」
おやすみなさいと一言交わして、トレーナーさんと別れる。
弱まるばかりか次第に勢いを増していく雨の向こうへゆっくりと消えていくトレーナーさんの、去り際のいつもの笑顔。それを思い出しながら、無意識に言葉が零れた。
「……少しくらい、意識してくれると思ったんだけどな~」
淡い希望を持ったその言葉は、雨音に溶けて、流れて行った。 - 81あまぐもサミングあとがき23/02/09(木) 22:33:15
- 82マックイーン書いた23/02/10(金) 00:24:37
- 83キタちゃんを書きました。23/02/10(金) 05:11:04
- 84二次元好きの匿名さん23/02/10(金) 06:05:59
「それじゃ今後のミーティングはここまでかな。グラス、お疲れ様」
「はい、今日もありがとうございますトレーナーさん…ってあら?」
そう首を傾げるのはグラスワンダー。トレーニングを終えて着替えてきた後、ミーティングを今し方終えた所であったが…
「雨かぁ〜トレーニング中でなくて良かったなグラス」
「そうですね、けどどうしましょう…私傘を…」
晴天から突然の雨である。真面目な彼女が傘を忘れるのも仕方がない事であろう。
「寮まではそこそこ歩くからな。それに雨も勢いあるし、そのまま帰るのは危険か…」
二人で思案している事数分後、トレーナーが提案をする。
「なら俺の傘を使いなよ。最近新調したばかりのあるし」
彼女が振り向くとそこには新調したばかりである桜の意匠が施され、和傘を彷彿とさせる傘があった。
「わぁぁ…本当にこれ使っても良いのですか?」
「構わないよ。それにグラスが使うと似合いそうだね」
「ありがとうございますトレーナーさん。あの…」
「何だい?」
「もしよろしければその…寮の近くまでご一緒では駄目でしょうか?」
「!! 大丈夫だよ。グラスも荷物持ってるから傘大変そうだしね」
「ありがとうございます。では片付けと準備を…」
(やった、やりました!)
部屋と自分の片付けをして帰る支度をする裏腹に心の中でガッツポーズをするグラス。彼女はトレーナーの事が大好きなのだ。 - 85二次元好きの匿名さん23/02/10(金) 06:06:45
片付けを終え、桜か彩られた傘の下にグラスとトレーナーは二人で寮への道を歩んでいた。
「しかし雨がもう少し遅ければ桜の満開時期と重なってたから良かったな」
「そうですね、折角の花見が出来なくなってしまいますからね」
そう早い時期に雨が降った事に対してある意味安堵している二人。すると近くの桜の木を見回してグラスがおもむろに口を開いた。
「春雨は いたくなふりそ桜花 まだ見ぬ人に散らまくも惜し」
「それはもしかして和歌かな?」
「はい。『春雨よ早く降らないで下さい。桜の花を見ないまま散ってしまったら惜しい事です』と言う意味です。昔の人は素敵ですね、自分の想いを歌にして遺すのですから」
和歌をすらすらと詠み上げるグラスワンダー。彼女は帰国子女だが日本文化に精通しており、日本人よりもその文化を理解していると言っても過言ではなかった。最近は歴史や先程のような和歌や百人一首も学んでいると彼女は言っていた。
「もし良かったら俺にも色々教えてくれないか?日本人ってのもあるけど、グラスの好きな事も色々知りたいからね」
「ふふっ、分かりました。ではまずは…」
そうしてグラスワンダーによる和歌の講義が雨雲の下始まったのだ。
「成程、為になるな〜ありがとうグラス」
「こちらこそトレーナーさんと色々話を深める事が出来ましたので…ありがとうございます」
(あっという間ですね…もう少し大好きなトレーナーさんと一緒が良いです…)
和歌の良さを理解してもらって誇らしげ半分、もっと一緒にいたい気持ち半分のグラス。そんな彼女にトレーナーは話しかける。
「じゃあ和歌にも少し詳しくなったし、俺もグラスのように詠んでみるか」
「えっ、トレーナーさんが?」と驚き半分期待半分のグラス。
「まぁグラス程上手く出来ないけどね…さて」
と息を整えたトレーナーは桜の木から垂れ落ちる水滴を見て詠み上げる。
「雨やまぬ軒の玉水かずしらず恋しき事のまさるころかな」
(——————え?)
「ちゃんと間違えずに言えたな…ってグラス?」
ふとトレーナーが横を見るとグラスは立ち止まっていた。まるで何か動揺している感じではあったが暫くして尻尾が大きく揺れ始める。
「いいん…ですか?その歌を…私なんかに…私、本気にしますよ?」
と震え声でトレーナーに問いかけるグラス。どうやら彼女には歌の意味が理解できているようだ。 - 86二次元好きの匿名さん23/02/10(金) 06:07:38
「君だからこそこの歌を詠んだんだ。借り物の歌ではあるけど、その歌に込められた意味も自分の想いも変わらない」
そうグラスの問いに答えるトレーナー。
この歌の意味、それは
『雨がやまない日の軒先から雨水が数えきれないほど落ちてきて、その雨のしずくが落ちるようにとめどなくあなたへの恋しさがまさる日々だ』と言う事である。
「あれ?どうしてでしょう?傘はトレーナーさんが新調したばかりなのに…穴なんて空いてないはずなのに…私の所だけ雨で濡れています…」
そう言って顔を拭うグラス。確かに彼女の顔には透き通り暖かさを感じさせる雨雫が一つまた一つと流れていた。
「グラス…」
「でも嬉しい!嬉しいです!トレーナーさん!これからもよろしくお願いします!」
トレーナーの方を振り返るグラス。空も彼女の顔も未だに雨が降り続いている。しかし曇り空の空模様とは反面彼女の顔は快晴そのものであった。
「ああ!こちらこそよろしくな!」
そうして二人は寮へ向けて再び歩み出す。その姿はまるで雨の中一足早く咲いた桜が周囲に春を告げる様であった。 - 87二次元好きの匿名さん23/02/10(金) 06:14:18
日本文化に精通してるグラスなので雨に関連するの何かないかなと思ったのでふと浮かんだ和歌要素を入れてみた
和歌は素人なのでグラスも和歌も解釈違いだったら申し訳ない
一応後日談的なものも置いときます
雲一つない快晴の青空、大きく咲いた桜の木の下にグラスワンダーは佇んでいた。
「雨の日も侘び寂びを感じられますがやっぱり晴れているのが一番ですね」
と腕を広げ体を伸ばして気持ち良さそうに語るグラス。どうやらあの雨の後無事に桜は満開を迎える事ができた様だ。
「こうして外にも出かける事が出来ますからねぇ。……でも」
「 ひさかたの 雨も降らぬか 雨障み 君にたぐひて この日暮らさむ 」
(雨でも降ってくれたらいいのに。そうなれば雨で出かけずにあなたに寄り添って今日一日過ごせるのに)
あの雨の時の様に歌を詠むグラス。その瞬間春一番の如く一陣の風が一瞬吹き抜けた。
「ふふっ…歌を詠んだら晴れの天気に嫉妬されちゃいましたね…あっ」
一陣の風が吹き抜けた後すぐに彼女の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「雨が降らなくても歌に込められた私の想いはどうやら叶いそうですね」
そう呟きグラスワンダーはその声の主に振り向き微笑んだ。 - 88二次元好きの匿名さん23/02/10(金) 16:55:54
ほ
- 89二次元好きの匿名さん23/02/10(金) 23:15:54
これタイキやシービーだと導入から違ってそうで面白そうだな
- 90マックイーン書いた23/02/11(土) 00:24:15
- 91キタちゃんを書きました23/02/11(土) 05:20:51
- 92スレ主23/02/11(土) 07:29:02
- 93二次元好きの匿名さん23/02/11(土) 16:56:12
雨の日は嫌いだ。雨雲のせいで星空は見えなくなる。降り続ける雨は色んなものを流していき、その雨音は多くの声を音を遮ってしまう。
(雨が降るとあの子が見えなくなってしまう、あの子の声が遮られ流されてしまう———そんな気がするの)
そう思い溜息を吐きながら外を憂鬱そうに眺めるのはアドマイヤベガ。突然の大雨のため外も使えない状況であり、室内も危険な為今日は何もする事が出来ないのだ。
「どうしたアヤベ?いつにも増して悩み事か?」
「そうね、こんな時にも呑気な貴方を見ると悩んでいるのも無駄ねと思っただけよ」
「ははっ、手厳しいなそりゃ」
そう軽口を叩き合うのは彼女のトレーナー。アドマイヤベガは特にする事もないのでトレーナー室でくつろいでいたのだ。
「何も無理に此処へ来ることはないぞ?友達とかもいるだろ?」
「他の子は先に寮に帰ったわ。だからここにいるの」
どうやら他の友人は先に寮へ帰った様だ。ベガの話によるとオペラオーだけは『雨の中で輝く僕を演出しようじゃないか!』と張り切って外へ出ようとしていたがドトウやトップロードの説得(物理)によって事なきを得たとの事。
「今頃は寮の部屋で雨を題材にした演目でも考えてるんじゃない?」
今日一日オペラオー劇場に付き合う事になる同室のハヤヒデには同情するわとベガは苦笑いする。
「はは…そういえばアヤベはどうするんだ?」
「そうね、暫くしたら帰ろうと…あっ」
ベガはそう言おうとした時、ある事に気がついた。
「傘…忘れてきてしまったわ」
雨の日に必要な、空から降りしきる冷たい涙を受け止める傘を置いてきてしまったのだ。
「そうか…なら俺の傘使うか?」
「嫌よ、そうしたら貴方雨の中走って帰るでしょ。それで風邪引いたらどうするの?普段私の体調にうるさい程慎重なのに自分の体調は大雑把なのね」
「うゔぅ…何も言い返せない…」
「なら雨が止むまでここに居させてもらうわ」
「そうか…じゃ俺も今日はゆっくりするかな」
そう言ってトレーナーは身体を伸ばす。
「……ならここに座りなさい」
「いいのか?座っても」
「構わないわ、人が羽織っているふわふわは普通に使う時よりもよりふわふわになるから」
「そ、そうなのか…」
謎の説得力には敵わずトレーナーはベガの隣に座る。当然ソファにあるふわふわの毛布にくるまりながら。
そんな彼にベガはもたれかかる様にして横になる。 - 94二次元好きの匿名さん23/02/11(土) 16:56:52
雨音しか聞こえない静寂が暫く続いた後それに割って入る様にベガが話しかける。
「そう言えば貴方も雨の日は憂鬱な顔になるじゃない。貴方も悩みがあるんでしょう?」
「………ッ、そうだな。洗濯物が乾くとかかな」
「嘘、洗濯物の割には動揺しているわ。何か雨の日に辛い事でもあったのかしら?」
「…………」
「あれ程あの時の私の心の内に入り込んできたもの。私も貴方に同じ事をする権利があるわ」
「………そうだな、自分だけじゃ不公平だもんな。分かったよ全て話そう…」
そう言って重い口を開くトレーナー。この時ベガは知らなかった。いつも朗らかな彼がここまで話したがらない理由を。 - 95二次元好きの匿名さん23/02/11(土) 16:58:14
「丁度こんな雨の日かな、家族や友達が居なくなったのは」
「えっ………?」
トレーナーはその時の事を静かに話す。想像を絶する大雨の日の洪水で自分以外の家族が流されてしまったこと。自分の友達もあの日帰り道に別れて以来会えなくなってしまったこと。そしてそんな事を雨の日にフラッシュバックで思い出してしまう事を。
「もう踏ん切りは着いたんだけどね。それでも今も自分の無力さを呪うよ。自分に力があれば…守れたかもしれないってね」
「だから雨は嫌いだ。あの時の事を嫌でも忘れさせない様にしてくる。流れる雨が皆が生きていたという事も流してしまう…そんな気がしてね」
「!!!!」
自分の思っていたものよりも想像を絶する過去。生々しく語られるその光景は目を閉じれば瞼の裏から実際に目撃したと錯覚するほどであった。
自分はとんでも無い事をしてしまったと後悔するベガ。しかしその時自分の中のある事に合点がいった。あの時…自分の妹への罪悪感から憔悴しきっていた頃、しつこい程に自分の心の内に入り込んでは支えてくれた事。それを確かめるために彼女は問いかけた。 - 96二次元好きの匿名さん23/02/11(土) 16:58:34
「じゃあ、あの時…私の事を放っておけなかったのは…」
「そうだね、危なっかしい所もあったけど、自分と同じような境遇だと知った時に苦しむのは自分一人で充分だって思ってね。だから君の事を放っておけない———」
「馬鹿…馬鹿っ!」
トレーナーの話を遮る様に、掻き消すようにベガが声を荒げる。
「ならどうしてあの時私にその事を話してくれなかったの!私と同じ境遇だったなら!その悲しみも痛みも分かち合う事ができるのに!私があの子の思いを受け止めて前に進める事ができたのに!踏ん切りが付いた?馬鹿な事言わないで!貴方はその気持ちを押し殺して!私の知らぬ間に何時も自分を傷つけて!それじゃ前へ進めていないのと同じじゃない!」
「ア…アヤベ…」
「このままだと私は貴方が傷つくことも知らずに貴方を置き去りにしてしまう!置いて行かれる辛さは貴方も分かるでしょ!それなのにあの子の様に私も大切な人を…大好きな貴方を置いて行けと!そう言いたいの!?そんなの私が認めない!許さない!だから!」
「…………」
「おねがいだからぁ…私にもその痛みを背負わせてよぉ…私を一人で歩ませないでぇ…貴方と一緒に歩ませてよぉ…おねがい…」
嗚咽混じりに訴えるベガ。そこには普段の様な冷静さやミステリアスな雰囲気は無く、今にも離れそうなものを必死に繋ぎ止めようとする女の子の姿がそこにあった。
「ごめんなアヤベ…ごめんなぁ…」
そう言って彼女を抱きしめるトレーナー。彼もまた今まで抑えてきたものが堰を切ったように溢れて出ていた。
「そうよ!馬鹿!ばかぁ!うわぁぁぁぁん!」
彼女もまた溢れ出た感情を抑え切ることが出来ずに出来ていた。そうして二人は抱きしめ合い、改めて互いの痛みを分かち合いやっと本当の意味で『共に歩む』事が出来たのだ。
傘でも受け止めることが出来ない涙という名の感情の雨、だかそんな暖かい雨を二人の優しさという心が受け止めてくれていた。未だ抱き合って泣き続ける二人、毛布を挟んで抱き合う姿はまるで天の川で再開を喜ぶ織姫と彦星の姿の様であった。 - 97二次元好きの匿名さん23/02/11(土) 16:59:30
「ありがとなアヤベ、漸く前に進める事ができるよ」
「そう、それならよかったわ。でも今度同じ事したら許さないから」
「分かってる。これからは喜びも悲しみも分かち合おう。そう、ずっとこれからも」
「えぇ…そのつもりよ。私達が泣き止んだら雨も止んだ様ね」
気づけば日も落ち夜の帳が下りていた。雨雲はとっくに消え失せ星空が広がっていた。
「本当だ…ってアヤベ!時間大丈夫か?」
「心配ないわ、この部屋に入る前に外泊の手続きは済ませてあるから」
「そうか…手際良いな…」
「…褒め言葉として受け取っておくわ。それより外へ出て星を見ましょう。傘はもう要らないわね」
そういってトレーナー室を出て、恋人繋ぎである場所へ向かう二人。そこは学園から少し離れている隠れた天体観測ポイントだった。
「やっぱり綺麗だな…アヤベの妹も自分の家族や友達もあの星空の中で輝いているんだな」
「そうね、それも一際明るく輝いているはずよ」
「さっき雨は嫌いと言ったけど、皆んなを忘れないようにする空からの優しさなんだろうな」
「ええ、でもこれからは二人で分かち合う…そうでしょ?」
「そうだな…自分達もあの星に負けない様に輝いていかないとな。誰よりも輝く二つの星が」
「あら、輝く星は二つだけではないでしょ?」
そう言って微笑むアドマイヤベガ。
そんな二人を曇り一つない星空が祝福する様に輝いていた。
星々の祝福の光———その光が二人の掌でずっと輝き続けるようになる日もそう遠く無いだろう。 - 98二次元好きの匿名さん23/02/11(土) 17:03:14
このレスは削除されています
- 99二次元好きの匿名さん23/02/11(土) 23:20:31
- 100マックイーン書いた23/02/12(日) 00:14:38
- 101キタちゃんを書きました23/02/12(日) 02:17:15
- 102二次元好きの匿名さん23/02/12(日) 11:47:26
保守
- 103二次元好きの匿名さん23/02/12(日) 16:17:01
「こんにちはミスター・トレーナー!」
「おうシービーか…ってまた傘使わずに来たな?」
「えへへ〜御名答!」
「ほらタオル、そのままだと風邪引くぞ」
「ミスターが拭いてくれたら嬉しいなぁ〜」
「しょうがないな…」
「それで?今日は何するの?」
「今日はトレーニングは中止だな。学園から控える様に通達がきてる」
「ふーん、じゃあミスターはどうするの?」
「俺はまだ仕事だな。そういうシービーはどうするんだ?」
「うーん…特にやる事はないなぁ…」
「そうか、なら門限前には寮に戻るんだぞ、おっと帰る時はそこの傘使いな。風邪引くと大変だからな」
「どうしても傘は使わないとダメ?」
「ダメ。風邪引いて肝心な時にレースに出れないじゃ悔しいだろう?」
「そっかぁ…ミスターが一緒に帰ってくれるなら傘に入ってもいいかな〜」
「本当に傘使いたくないんだな…まぁそんな君の自由奔放さに惹かれた訳なんだが」
「………ッ!…それでどうするの?」
「そうだな…仕事も一区切り付いてるしシービーに付き合いますか」
「オッケー、じゃ一緒に行こう!ミスター・トレーナー!」 - 104二次元好きの匿名さん23/02/12(日) 16:17:38
このレスは削除されています
- 105二次元好きの匿名さん23/02/12(日) 16:18:45
このレスは削除されています
- 106二次元好きの匿名さん23/02/12(日) 18:40:24
「大丈夫かシービー?雨降りかかってないか?」
「大丈夫だよミスター。そっちこそ大丈夫?」
「こっちは問題ないぞ、…しかしこうして雨の日に二人で歩くのも新鮮だな」
「そうだね…アタシも他の人と傘使うのなんて中々無いし」
「…でも傘は使ってくれよ?君が倒れたら正気保てるか分からないからな…」
「もう、大袈裟だよミスター!」
「大袈裟なもんか。大切な君が風邪で自由に出来ないなんて見てるこっちが辛いからな」
「………分かったよミスター。ありがとう、アタシのこと大切にしてくれて」
「そうか、なら良かった。足元滑りやすいから気をつけてな」
「うん!分かってる!」
(傘を使わない方が自由で楽しいけど…こうしてミスターと一緒に居れる事の方がもっと楽しいかな…)
「それとさシービー」
「なぁにミスター?」
「トレーナーからこう言うのはマズイんだけどさ、もし…レースの機会が少なくなった時にさ…こうやって雨が降っていたら…その…一緒に風邪引かないか?」
「………!!」
「ええ!勿論だよミスター!これからもよろしくね!」
(あぁ、やっぱりミスターには敵わないなぁ…だから…これからもずっとずうぅっっと側にいてね、大好きなあなた…) - 107二次元好きの匿名さん23/02/12(日) 18:41:27
- 108マックイーン書いた23/02/12(日) 23:59:52
- 109二次元好きの匿名さん23/02/13(月) 01:10:15
書きたいのでもう少し保守させて下さい
- 110キタちゃんを書きました23/02/13(月) 05:03:31
- 111二次元好きの匿名さん23/02/13(月) 12:39:26
保守
- 112二次元好きの匿名さん23/02/13(月) 21:50:59
保守
- 113スレ主23/02/13(月) 21:57:17
- 114二次元好きの匿名さん23/02/14(火) 00:44:24
しとしと、ざあざあ。
人気のない踊り場から、私は雨風の舞う空を見上げます。
まるで音の中に溶けていくように、私の心は凪を覚えました。
以前、トレーナーさんと見た映画を思い出します。
まんまるさんとぷりぷりさん、そして少女の紡ぎ出す好風と煽風と光風の協奏。
それはそれで素晴らしいものではありましたが、やはり私は本物が良い。
浄化と恵みの雨風を、纏いたくなってきました。
このまま、屋上へ飛び出してしまいましょうか。
――――ふと、トレーナーさんの困った表情が浮かびます。
……やめておきましょう。
万が一それで風邪でもひいてしまったら、彼を困らせてしまいます。
傘は持ってきています、今日はトレーニングも凪。
木の下風ならぬ傘の下風となって、しとしとさんに会いに行ってみましょう。
そう思うと足は軽風のように、心は上風のように浮ついていきます。
歌いだしたくなる衝動を抑えながら、昇降口に辿りつくと、聞き覚えのある声が聞こえました。
「どうしよう……ちゃんと持ってきたはずなのに……」
以前、懇親会の予定を確認してくださったクラスメート。
彼女が傘立ての周りで、何かを探すようにつむじとなっていました。
明かな困惑と悲観を含んだ風声に、私は思わず声をかけます。
「どうかしましたか?」
「あっ、ゼファーちゃん……その、私の傘が見つからなくて」
曰く、今日の朝に持ってきた傘を見失ってしまったよう。
コンビニ等で購入できる透明なビニール傘で、持ち手に目印を付けていたそうです。
恐らくはその目印を見つけられず、意図せず浚う風となってしまったのでしょう。 - 115二次元好きの匿名さん23/02/14(火) 00:44:48
彼女は肩を落として、泣きそうな表情で呟きます。
「ううっ、どうしよう。今から、実家から来た両親と駅で待ち合わせなのに……」
教室で風聞となっていた彼女の話を思い出します。
仕事が忙しくて、滅多にこちらに来ることができない、ご両親。
直にお話を聞いたわけではありませんが、今度会えることを、嬉しそうに話していました。
きっと、わずかな時間を隙間風となって来てくれたのが、今日だったのでしょう。
……以前、私のことを探してくださった便風を、帆風として返す時かもしれませんね。
私は自分の傘を持ち出して、それを彼女に差し出します。
「よろしかったら、これをお使いください」
「えっ……でもゼファーちゃんは」
「私は折りたたみ傘も持っていますから、心配は凪ですよ」
「本当に、いいの?」
「はい、ご両親との饗の風を、是非楽しんできてください」
「……うんっ! ありがとう、ゼファーちゃん! このお礼は必ずするからねっ!」
そう言って彼女は傘を受け取り、駆けていきました。
風返などは不要なのですが、きっとそういう部分が彼女の緑風な部分なのでしょう。
「さて、私はどうしましょうか……」
それを見上げながら、一人呟きます。
勿論、折りたたみ傘なんて持ってはいません。口から虚風を吹かせてしまいました。
この天気で、傘も差さずに風待ちをするのは、風雪に薄着で挑むようなもの。
寮に帰る間、雨の中で颯となれば、しなとは不要になるでしょう。
私は軽く準備運動をして、走りだす用意をします。
「ゼファー? こんなところで準備運動なんてして、どうしたの?」 - 116二次元好きの匿名さん23/02/14(火) 00:45:08
背後から恵風が通り過ぎました。
振り向けば、私のトレーナーさんが首を傾げながら、立っています。
彼は空模様と私の様子を交互に確認すると、勘づいたように言いました。
「もしかして、傘を忘れちゃった?」
「…………そうですね、今は持っていなくて」
「そっか、ゼファーにしては珍しいね」
一瞬まことの風を、とも思いましたが、それを伝えても無風なのでやめておきます。
意外そうな表情で私を見つめる彼は、常風のようにそのまま言葉を続けました。
「それなら、俺が寮まで送っていこうか?」
「……えっ?」
「折りたたみ傘1本だけあるからさ、そのまま貸してもいいんだけど、ゼファーは遠慮するでしょ?」
「それは、そうですが」
「だからゼファーが良ければ送っていくと、小さい傘だから、一緒だと濡れちゃうかもしれないけど」
「いっしょの、かさ」
つまりそれは、饗の風ならぬ相の風になるということ。
なるほど、絶妙な落としどころです。
トレーナーとしては雨風となる私を見過ごせない。
私としてもトレーナーさんが濡れて帰ることになるなら便風を受け取れません。
両者が納得する風道を探るとすれば、二人で一つの傘で家風になるのは正風といえます。
では、何故私はこの提案に、これほどまでに心躍らせているのでしょうか。
一つの傘で、トレーナーさんと二人で、歩くだけ。
それだけのことなのに、想像すると、心はふわふわ、ぽかぽか、春疾風。
先ほどよりも、ずっと強く風待ちをしている自分がそこにはいます。
トレーナーさんはそんな上風めいた私を不思議そうな目で見つめていました。 - 117二次元好きの匿名さん23/02/14(火) 00:45:28
「……えっと、嫌そうなら他の方法を」
「是非先ほどの帆風に乗らせてください」
「あっはい」
異風を遮るように、強く言い切りました。
少しだけ困惑した返事をしたトレーナーさんは、鞄に手を入れて中身を探ります。
がさごそと響く雑多な音、やがて手の動きとともに音は凪ぎ、彼は傘を取り出そうと――――。
「ゼファーちゃぁぁぁぁぁんっ!」
俄風が吹き抜けます。
声の方向を向けば、そこには先刻のクラスメートがこちらに向けて走ってきていました。
ビニール傘を差して、もう片方の手で私が貸した傘を持って。
「行く途中で、間違えて私の傘を持って行っちゃった人が戻ってきてくれてっ!」
「……なるほど」
「まだ時間間に合いそうだから、貸してくれた傘を返しに来たんだっ! まだ居て良かったよー!」
「…………はい、こちらことわざわざありがとうございます」
「それじゃあ、私行くからっ! 本当に、本当にありがとうね、ゼファーちゃん!」
そう言って、彼女は再度雨風の中、駆けだしていきました。
その場に残るは私とトレーナーさん、そして手元の私の傘。
「ああ、あの子に貸してたのか……やっぱりゼファーは優しい子だね」
「………………そう言っていただけると、いせちですね」
彼女の傘も見つかった、私の傘も戻ってきた、トレーナーさんも気兼ねなく傘を使える。
これにて、東風、梅東風、桜東風と皆に良い風が吹いているという結果になりました。
そのはずなのに、何故私の心は、あなじと感じているのでしょう。 - 118二次元好きの匿名さん23/02/14(火) 00:45:46
しばらく傘を見つめて、小さく息を吐いて、私は外を見つめます。
家風となりましょう。こんな黒南風な心地で、しとしとさん達に会いに行くのは失礼です。
そう考えて、私はトレーナーさんに帰りの挨拶を告げようとしました。
「……あー」
「……トレーナーさん?」
「かさもってきたとおもったらわすれちゃったみたいだー」
気の抜けた、空風のような声色でトレーナーさんは言いました。
少しだけ頬を夕風に染めて、どこか目を逸らしながら。
全くの白々しい言葉。
しかし、これはトレーナーさんが私にくれた便風。
それを指摘するのは風情がありません、ここは素直に彼の白南風に吹かれるのが順風でしょう。
私は、金風で胸がいっぱいになりながら、微笑んで彼に伝えました。
「ふふっ、仕方ないですね。それでは私の傘に入っていきませんか?」
「そうさせてもらうよ、ありがとうね」
「いえ、私も共に風になりたいと思っていましたから、良き時つ風です」
トレーナーさんに傘を渡します。
二人で入るなら、身長の高い彼が持っていた方が良風です。
彼は傘を開いて、雨の中、私と一緒に歩みを進めていきました。
お互いに濡れないように、ぎゅっと身体をくっつけると、朔風もまるで涼風の如く。
彼の香風が鼻をくすぐって、少しだけ顔に熱風が吹いてしまいます。
このまま、和風のように雨の中を歩んで、葉風を浴びれればどれほど祥風でしょうか。
そんな私を見透かしたように、彼は言葉を紡ぎます。 - 119二次元好きの匿名さん23/02/14(火) 00:46:05
「お礼と言ってはアレだけど、ゼファーに行きたいところが付き合うよ」
「……っ! トレーナーさんは、やっぱり私の凱風ですね」
「ははっ、そう言ってもらえるとトレーナー冥利につきるよ」
照れたように笑うトレーナーさん。
その息吹が触れるような距離でその顔を見てしまい、私は思わず見惚れてしまいます。
色風めいた砂嵐を振り払うように、頭をぶんぶんと廻風させると、以前のお出かけを思い出しました。
そもそも件の映画を見に行くきっかけになったのもの、この日のような雨。
私はトレーナーさんを見つめて、あの時と同じことを問いかけます。
「トレーナーさん、雨はお好きですか?」
「ああ、君と一緒と共に過ごしていて、俺も雨の日が好きになれたよ」
彼はそう言って、優しく微笑んでくれました。
でも、私の答えは、あの時と少しだけ変わっているんですよ、トレーナーさん。
少しだけ背伸びをして、彼の耳元にそっと微風を送ります。
「私は、大好きですよ。貴方とこうして歩める、雨の日が」 - 120二次元好きの匿名さん23/02/14(火) 10:09:45
保守
- 121マックイーン書いた23/02/14(火) 10:23:21
- 122キタちゃんを書きました23/02/14(火) 17:43:32
- 123二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 01:04:54
保守
- 124二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 07:37:27
保守
- 125二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 18:53:52
私も書いてみたいので保守します
- 126二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 22:55:51
(はぁ…マジで最悪…)
そう言って溜息混じりに外を眺めるゴールドシチー。練習中突然の雨に見舞われて今日のトレーニングは中止になった上に傘も忘れてしまうといった不幸が連続したが故の溜息であった。
「今日は散々だったな…シチー、傘は大丈夫?」
「大丈夫なら溜息なんて出してないっての」
「まぁ、そりゃそうか…ところで服とかは大丈夫か?濡れたままだと風邪引くぞ」
「問題ないから。それよりアンタこそ大丈夫なの?大分ずぶ濡れだけど」
「まぁ乾かしてれば何とかなるだろ。ってもうこんな時間か。シチー、傘ならこれあるから使ってね」
そう言って入り口の傘立てから黒くそこら辺の店で買えそうな傘を取り出してシチーに渡すトレーナー。
「へぇ、気がきくじゃんアンタ。んじゃサンキュ。使わせて貰うわ」
「今週はお疲れ様。雨結構強いし、風邪引いたら大変だから気を付けて帰ってね」
「ンなこと分かってるっての!じゃまた来週」
(何だよ…このアタシの中にあるモヤっとした感覚…)
そう言ってトレーナー室を後にするシチー。週末特有の開放感を感じると同時に内心謎の違和感の正体が分からず苛立ちも感じていた。 - 127二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 22:56:25
大雨が絶えず振り続ける中、学園から寮までの帰り道をシチーは歩いていた。
(練習終わって嬉しいはずなのに…明日は早く起きなくても大丈夫なのに…なんでイラついてんだよ私!)
この苛立ちの原因は仕事か練習かトレーナーか、それとも自分自身からくるものなのか未だ分からず、先程の違和感は最初は曇り空だったものが今では荒れ狂う雷雨の様にシチーの心を掻き乱していた。
(なのになんでだよ…こんなにイラついてるのにアイツにに相談しようと思うと怖くなる…)
「……マネジに相談しようかな」
苛立ちを和らげる様に呟いていると、
「あれってゴールドシチーさんじゃない?」
「ホントだシチーさんだ」
とそんな声が聞こえてきた。
モデルとして多くのファンを持ち百年に一度の美少女ウマ娘とも称された彼女、そんな彼女が歩いているのであれば多くの人が注目するのは当然であった。 - 128二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 22:57:31
「相変わらず綺麗だよね〜」
「流石モデルさんだね〜」
(……チッ、コイツらもアタシのことを…)
「でもあの傘ちょっと地味だよね〜」
(は?)
思わずシチーは傘を見上げた。トレーナーから貸してもらった傘、それは黒く平凡で確かにシチーの様なウマ娘には相応しくないとも言えた。
「やっぱりシチーさんだからもっと『綺麗な傘』が似合うよね〜」
( ————やめろ)
「そうそう、前に雑誌の写真で使ってた『あのブランドの傘』とかシチーさんにピッタリだったよね」
(—————やめろ!)
「でもやっぱりこんな急な雨じゃ私達もシチーさんも『そこら辺の傘』しか用意できないよね…」
(やめろやめろやめろ!!!アタシの傘(トレーナー)を否定するな!!!)
彼女へ対する純粋な憧れ。その憧れが彼女の感情を無意識に蹂躙していく。
(ふざけるな!アンタ達に何が分かるんだよ!アタシの…アタシだけの——————)
シチーの喉元で抑えている感情がもう堪えきれない…その時だった。 - 129二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 22:57:57
「あ、あの!すみません!」
「うわっ!」
周囲に意識が行っていたのだろう。目の前で話しかけている一人のウマ娘の存在にシチーは気が付かなかった。
「びっくりさせんなっての…ってアンタ傘は?」
「えへへ…持ってたんですけど憧れのシチーさんが見えたからつい忘れて走ってきてしまいました…」
そう答える彼女。確かに無我夢中で走ってきたのだろう。そう思えるくらいに靴も泥まみれであった。
「で…アタシが憧れ?」
「はい!あの時のレースで一着を取った時、力強く走って皆を魅力していたシチーさんのように私もなれるようにいつも頑張ってます!……モデルはちょっと難しいですけど」
「……ありがと、走ってる私の事見てくれて」
自分の走りを見てくれている人がいる事に少し照れ臭くなったシチー。
(そういやアイツも走ってる私の事を…)
「おーい!傘忘れてるぞ!」
すると向こうから走ってきた子を追いかける様な声が聞こえた。
「あっ、トレーナーさん!」
「すみませんこの子が突然…全く、傘放っておいて走ってくなんて自分に素直すぎるぞ…風邪引いたらどうするんだ」
「ごめんなさい…」
「まぁ憧れの人に会えるのは自分も嬉しいからな。まぁ分かればヨシ。だからもう帰るぞ。…せっかくだし寮まで送ってくよ」
「ありがとうトレーナーさん!それじゃまたね!シチーさん!」
「ん、またね」
一つ傘の下二人で歩いて行く姿を見ていたシチー。
(そうだ…アタシは…アタシは………!)
そう思うと手にスマホを持ち誰かに連絡をしたかと思いきや彼女は突然元来た道を全速力で走り出した。
途中で走るのに邪魔だと傘を畳み、雨に濡れるのも構わず、それでも手にしている『傘』を離さずに走って走って走った。 - 130二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 22:58:48
その頃トレーナー室で仕事をしていたトレーナー。来週のトレーニングメニューも決まり、椅子の上で身体を伸ばしていた。
(暗くなっても雨はまだ強いな…シチー…風邪引いてなければいいが…)
そう思っていたその時、ドアが強く開いたと思えば直ぐに閉まる音が響き、何事かとトレーナーが振り向くとそこには大雨の中傘無しで走ってきたのだろう、その手に握りしめた畳んである傘を床に落としながら、全身ずぶ濡れのゴールドシチーが佇んでいた。 - 131二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 22:59:22
「どうしたんだシチー!?そんなにずぶ濡れで!?」
「………………」
シチーは答えない。だが答えが出るよりも先にトレーナーはタオルを持ってシチーの方へ向かった。
「兎に角、このままだと風邪引いちゃう!ほらこのタオルを…」
直後タオルをシチーに払いのけられる。戸惑いを隠せていないトレーナーに対しシチーはその重い口を開く。
「バカだよねアタシって…こんな雨の中傘もささずにいれば風邪引くのは当たり前じゃん…」
「それを心配したアンタのタオルも払いのけてさ…素直になれずにさ…」
「ねぇ…アンタに今のアタシはどう見えてるの?こんなずぶ濡れで…冷えて震えも止まらないこんなアタシを」
「……………」
「…ッ!ねぇ見てよ!アタシを見ろよ!こんな事でしかアンタに想いをぶつけられないアタシを!アンタにはどう見えてんだって言ってんだよ!アタシは———」
「大丈夫、全部見てるよ。だから胸を張って言える。君は俺の最高の愛バだよシチー」
「!!!?」
そう言ってタオルで濡れた髪を拭きつつ頭を撫でながらシチーを温める様に抱きしめるトレーナー。
「一心不乱な姿も不器用な姿も負けず嫌いで頑固な姿も全部君だ。それは誰かから言われたからじゃ無い。君だけが元々持っている魅力なんだ」
「だから例えどんなに『それ』が周りから見っともないと思われても俺は『それ』を否定しない。だからシチー…大丈夫。俺はどんな君も受け止めるから」
「…ッ!本当はトレーナーと一緒に帰りたかった!でも素直にならずに言えなかった!だけど他の人を見てアタシは…アタシはっ!」
「ありがとうシチー、勇気を出して言ってくれて。悩みながらも必死に何かを成そうとする…そんな君に俺は心惹かれたんだ。ちょうど仕事も終わったからさ、一緒に帰ろう」
「う…あぁ…あああぁぁぁ…」
雨にも負けない嗚咽という名の彼女の感情が部屋中に響き続けていた。 - 132二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 22:59:46
「すっかり暗くなっちまったな」
「何?アタシのせいだって言うの?」
「そんな事ないよ」
傘一つの下に二人、帰り道を歩くシチーとトレーナー。遠くから見れば一つの大きい影と思える様に身体を寄せ合っていた。
「ところでさ…アンタ明日明後日はヒマ?」
「まぁ暇だが…」
「そ…じゃあ決まり」
とスマホを持ち誰かに連絡を取るシチー。話の内容からしておそらく相手はマネージャーだろう。
「じゃ、そういう事で!」と電話を終えたシチーが話しかける。
「明後日モデルの撮影があるんだけど、『ありのままの自分』っていうのが内容。だから明後日の撮影、アタシとアンタの二人で写真撮るから」
「はい!?」
突然の予定に思わず高い声が出るトレーナー。
「アタシの事どんな事でも受け止めるって言ったよね?」
「いや急に言われてびっくりしてな…それに良いのか?俺なんかで」
「だから『ありのままの自分』って言ってるじゃん。アンタが居るからありのままのアタシを出すことができんの。レースもモデルも自分のやりたい事をできるありのままの自分をね」
「そうか…ありがとう…って俺洒落た服とかあまり無いぞ?」
「だから明日街で服を見に行くって!大丈夫、アタシが似合う服選んでやるからさ」
「そうか…じゃ明日どこで待ち合わせ…」
「何言ってるの?今からアンタの家に行くんでしょ?」
「は?」またもや急な予定にさらに高音を出すトレーナー。このまま行けばソプラノ歌手にでもなれそうである。
「アンタの部屋に戻る前に外泊は申請して通ってあるから、けど明日はちゃんと起こしてよ!寝坊したら許さないんだから!」
そう言ってシチーとトレーナーは踵を返し再び二人だけのランウェイを歩み始める。気付けばあれほど強く降っていた雨も止んでいた。
どうやら明日は絶好の買い物日和になりそうだ。 - 133二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 23:04:40
- 134マックイーン書いた23/02/16(木) 00:31:57
- 135二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 01:15:12
シチーさ…貴方は本当に全てが美しいウマ娘だべ…
- 136キタちゃんを書きました23/02/16(木) 05:32:15
- 137二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:35:32
保守
- 138二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 16:14:52
ウインディちゃん育成シナリオのネタバレが地味にあるのだ、注意して欲しいのだ
「ウインディちゃんには要らないのだ。お腹を出して寝ても風邪なんか引いたことないのだ」
でも、と言うと子分の方が軟弱なのだ、と小突かれる。
「子分が濡れたら風邪引くのだ。冷たいのも寒いのもダメなのだ」
確かにこの空模様の中、傘無しで帰宅すれば寒さとのダブルパンチで体に良くないことは明白だろう。
だが、自分にはコレがある。
「…それは」
悪の大魔王がくれた、この季節に心強い装備。
「ウインディちゃんの渡したストール、まだ使ってるのだ?…イヤイヤあれはサンタさんがくれたものなのだ!大魔王様が子分に施しなんてしないのだ!」
この服に似合うってくれたものだから、大切にしているんだよと笑顔で応える。
そういうと、ふん!と恥ずかしそうにそっぽを向く。
「でも、ボロボロなのだ」
確かに長い間使い続けて、痛みが出てきている。
だがこれがあれば本当に寒くないし、ちょっとやそっとじゃ風邪なんて引かない。
本当に大魔王様の加護があるのかもしれない。
少し自惚れた思いを抱いてしまう。
「うがーっ!そんなボロキレ捨てるのだ!また寒くなるのだ!と言うか、雨水を吸ったらべちゃべちゃになっちゃうのだ!」
確かにそうなのだが…やっぱりこれを手放すなんて考えられない。
困っていると、大魔王様からのお達しが下る。
「全く、誰に似たのかいじっぱりなのだ。じゃあ今度新しいの買いに行くのだ!特別にウインディちゃんのストールもお前に選ばせてやるのだ!それまで風邪引いたらダメなのだ!」
勢いで、強引に傘も奪われる。
「…一緒に帰れば問題ないのだ!」
ぷるぷると精一杯腕を伸ばしながら、その中に入れてくれる。
その姿が嬉しくて愛おしくて、絶対に風邪はひかないから大丈夫だよ、と言って中に入った。
「…子分がそこまで言い切るのだ。何か理由でもあるのか、なのだ?」
その答えは、一つしかない。
だって自分には、やさしい大魔王様が着いてるから。
「…やさしい大魔王様なんて、聞いたこともないのだ」
その表情は見えずとも、想像には難くなかった。 - 139二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 22:08:09
ちょっと!何よこの雨!予報では晴れだったじゃない!傘なんて持ってきてないわよ!
へ?トレーナー、まさか貴方も持ってないの!?
もう!何で私達はこうへっぽこなのかしら………!
そう言えばこの部屋に置いてあった?流石トレーナーね!この一流であるキングに褒められる権利を……ってこの傘壊れてるじゃない!おばか!なんでそんなものまだ持ってるのよ!さっきのは取り消しよ!代わりにこのキングに注意される義務をあげるわ!このへっぽこ!
………はぁ、こうしててもしょうがないわね。雨が止むまでここで待っていましょ。……トレーナー、横いいかしら。そう、ありがと。そうね…もう少しこのまま…
………雨、止まないわね…むしろ強くなってるじゃないの…
もう日も暮れてるしウララさんが心配……って電話?
ウララさんからだわ。
もしもし、ごめんなさいねウララさん。少し遅く…へ?雨で帰れないから私が外で泊まる事を代わりに言っておいた?ウ…ウララさん!?貴女何を…みんなも快く了承してくれた?ち、ちょっと!ウララさん!?
『今夜はお楽しみにね』じゃないわよ!…あっ、切れちゃったわ…
はぁ…ウララさんにも気を使わせてしまったわね…本当に私ってへっぽこよね…
え?偶にはお互いへっぽこでもいいじゃない?
おばか!何をいきなり……でもそうね、一流であるべきなのは当たり前だけどいつもそれじゃ大変だもの。それに…私だけじゃない貴方というもう一人の一流にしてへっぽこな人が私の傍にいる…
そんな当たり前だけど大事なことを今日は気付かされたわ…ウララさんにも感謝しなきゃね。
…ねぇトレーナー、折角外で泊まれるのだから貴方の家へ行ってみても良いかしら?
雨も強いしもう暗い?勿論そんな事分かっているわ。
だって…今日の私達はお互い一流じゃなくてへっぽこなのよ。
だから二人で傘もささずに雨に濡れながら夜の道を歩いて…貴方の家で二人きりで夜更かしすることだって…できちゃうんだから………ね? - 140二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 22:20:05
読ませて頂きましたのだ
うまく言えてるか分かりませんがへっぽこが一流に、一流がへっぽこへの切り替わりが素敵でしたのだ
2人は一緒に成長していくんだろうなあと思いましたのだ
素敵な物語をありがとうございましたなのだ
- 141スレ主23/02/17(金) 00:45:46
傘を持っていない理由をこの形にした理由が最後に分かる面白い構成でした
ゼファーがトレーナーのことを考えて雨を浴びたいのに我慢するところで健気さを感じてとても可愛い
相合傘への期待と高揚からゼファーの感情がころころ変わる流れで全てを察した粋なトレーナーの振る舞いにときめきます
序盤の鬱屈したシチーの心情が読んでいるとずしりと来る重さ…
そこからの急転直下の心情暴露の盛り上がりに引き込まれます
最後に生き生きした姿を見れてよかった
新実装から文章にするのが早い!
ハロウィンから片鱗が見えていた面倒見の良さがよく現れてます
背が低い方だから一生懸命リードして傘を持つ姿が目に浮かんで微笑ましいですね
実にいい感じのツンデレ具合が愛おしい
このスレの寿命は20日まで
月曜日を目途にしています
24日からはアニバだ新キャラだ新シナリオだでここの勢いもすごいことになりそうですし