ねえねえ！なに聴いてるの？

1二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 15:48:52

　昼下がりの中庭、ベンチに腰をかけて柔らかなクラシック音楽に耳を傾けていると、前方から騒音が割って入ってきた。

「ボクにも聴かせてよ！」

　テイオーは人の返事を聴くこともなく、耳に差したイヤホンの片側を引ったくるように奪っていく。
　片方ずつ、お互いの耳にイヤホンをつける形。自然と距離が近くなる。
　生意気な子供らしさとは裏腹に、ともすれば中性的にも見える端正な顔立ちがすぐ目の前にある。自分の顔が少し熱くなるのを感じる。

「うーん……歌とか入ってないのー？　あっ……」

　勝手に人の安らぎを邪魔して、勝手な文句まで述べてくれる。
　それとようやく顔の近さに気がついたのか、イヤホンを突き返すようにしてこちらに手渡すと、そそくさと距離を取る。本当に身勝手な……

「お子さまにクラシックは早かったようですわね」

　まだ熱の残る顔を隠すように、大袈裟に髪をかき上げながら横目で笑ってみせる。
　すぐに「なにおー！」とムキになって噛みついてくる様は、やはり年不相応の子供のようでおかしい。

「ボクにだってげーじゅつを理解する心はあるもんね！　美術の成績は……よくないけどさ」

　ではどうぞ、と今度はこちらからイヤホンの片方を差し出してみる。それを見たテイオーはむくれたまま隣に腰を掛け、渡されたイヤホンを耳に入れる。

「静かに……音の一つ一つに耳を傾けるのですわ」

　お互いに目を閉じて一言も発することなく、寄り添いあって静かな音楽に身を委ねる。
　静かな昼下がりのベンチは、いつの間にか傾いた朱い日の光に包まれていた。