【SS】差し切れ

  • 1二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 16:49:26

    ──── あと、430m。

    それで、アタシの戦いは終わる。
    思えば長く走ったものだ。未勝利に次ぐ未勝利、やっとの思いで勝ったと思えば、2着、3着の繰り返し。阿寒湖だなんだと言われ続けて、1着を取り戻したのは3年後。これだけ走って、勝ち星は両手で数えれるほどしかない。

    『さあエクラールが先頭、3バ身のリードをとっている!さあステイゴールドが外から上がってきた!』

    このまま行けば、きっと掲示板には入れるだろう。だけど、1着にはなれない。そんな予感が胸をよぎる。

    (本当に、それでいいのか?)

    自分の中にあるナニカが、そう問いかけてくる。そんなワケがねえ。勝ちたい。最後に勝って終わりたい!
    ──── けど、怖い。限界を超えて走るのを、根っこの部分で恐れている自分がいることには、とうの昔に気づいていた。

  • 2二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 17:01:47

    きっと、多くの『終わり』を見すぎたからだろう。

    まぐれと言われた皐月の勝ちを、ダービーを取ることで証明し、怪我に倒れたものを見た。

    地道な努力を積み重ね、菊花賞で福を呼び寄せた後、怪我に苦しんだものを見た。

    大逃げでの勝ち方を確立し、『異次元の逃亡者』とまで呼ばれたものの終わりを、間近で見た。

    全身全霊を賭してターフを駆け、輝かしい実績を得た後の悲劇を、あまりに多く見すぎてしまった。


    ────心のどこかで、それを恐れた自分がいた。

    ここで全力で走れば、1着をとれるかもしれない。
    ここで全力を使ったら、それで終わってしまうかもしれない。
    2つの思いは平行線で、どこまで行っても交わらない。

  • 3二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 17:03:38

    期待

  • 4二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 17:07:18

    支援

  • 5二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 17:07:54

    これは支援せざるを得ない

  • 6二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 17:11:46

    『さあ一気にステイゴールドが2番手にまで上がってきた!残り300ⅿ!』

    遠い。先頭までが、果てしなく遠く感じる。残り300ⅿで、この差を埋めるのは、自分では無理だと分かってしまう。


    ──── 今までの、自分なら。
    (全力で走れば、間に合うかのかもしれない)
    (だけど。だけど。もし保たなかったら)
    「───れ」
    そんな葛藤が胸をざわつかせる。
    「差───れ」
    もうゴールまで、終わりまで、時間がないってのに────!
    「差し──れ!」
    「差し切れ!!ステイゴールドォォォォォォォォォォ!!!!!」

  • 7二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 17:20:51

    ────声が聞こえた。
    どんな奴よりよく聞いた、つんざくようなよく通る声。長年アタシを支えてくれた、トレーナーの声。

    「差し切れ!!差し切れ!!差し切ってくれ!!!」

    誰より大きく、誰より通るその声で、自分をいつも支えてくれた。
    ふいに、足に力が入る。今まで感じたことがない、高揚感が体を包む。まるで、背中に翼が生えたかのように。

    「ステイゴールド追ってくる!!ステイゴールド追ってくる!!前まではまだ3バ身ある!!」

    高揚感から目が覚める。狂ってしまったかのような、自らの速さに自覚する。
    けれど、足は止めない。止めてなるものか。絶対に取る。取ってみせる!差し切ってみせる!!

  • 8二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 17:21:46

    あつい

  • 9二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 17:28:41

    「差し切れ────!」
    かつて二冠を手にした少女が、日に照らされた外で呟く。

    「差し切れ────!」
    菊の大輪を手にした少女が、神社の境内で祈りを捧げる。

    「差し切れ────!」
    ひたむきにリハビリを続ける少女が、先頭に立たんとする友を見つめる。

    異国の地で、ラストランを飾る1人の少女に、多くの者が叫び続ける。
    ただ、「差し切れ」と────────!!!

  • 10二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 17:37:44

    『さあ差し切れ!!ステイゴールド!!ステイゴールド!!エクラール!!』

    詰める。詰める。詰める。あれだけ広がっていた差が、見る見るうちに縮んでいく。だが、ゴールまであと100ⅿ。
    更に足を回転させる。これ以上を目指して走る。絶対に、絶対に勝ってみせる────!!

    『ステイゴールド!!』
    恐怖はとうに捨て去った。

    『ステイゴールド!!』
    あいつらと同じ領域へ────。

    『ステイゴールド!!』
    辿り着いて見せる────!!!

    『ステイゴールドォォォォォォォォォ!!』

  • 11二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 17:50:09

    ふいに、世界が違って見えた。ゴール板を駆けるその一瞬、世界がまるで変ったかのようだった。
    誰もいない、ターフと青空だけの世界。久しく忘れていた、あの景色────────。

    『差し切ったァァァァァァァァァァァァァ!!!!!』

    歓声が響く。
    他の誰でもない、自分に向けられた歓声であることに気づいたのは、ゴールしてからしばらく後で。ようやく、自身の勝ちを実感した。

    『ラストラン!引退の花道を見事に飾った!!』

    色々な感情が、蓋を切って溢れそうになる。トレーナーは泣いている。一緒に来てくれたみんなも泣いている。自分の勝利を、これ以上なく祝福してくれている────。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    「おめでとう、ステイ。俺たちの勝ちだ。G1勝利だ!!」
    トレーナーはとても嬉しそうだ。無理もない。重賞どころか1着にも縁のない私を、とことんサポートしてくれた。最後の最後でG1勝利ともなれば、浮足立つのも当然だ。

  • 12二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 17:56:08

    「アタシが一番驚いてるよ。自分がこんなに走れたなんてねえ。」
    「やればできる娘なんだよ、お前は。」
    「そうだったみたいだねえ────。」

    ぼんやりと、控室の窓を見つめて手を伸ばす。

    「ん、どうしたんだ、ステイ?」
    「ん、いやね────。」

    最後に見えた、あの景色。その正体に、なんとなく見当がついた。
    「あれが、先頭の景色ってやつかい?スズカ────。」

  • 13二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 18:01:08

    ステイゴールド実装されねえかなあ...

  • 14二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 18:02:28

    >>13

    キンイロリョテイで我慢しよう

  • 15二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 18:02:41

    ここに、たしかにドラマを見た
    すごくよかった……映画1本見たような気分だ

  • 16二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 18:06:30

    愛さずにいられない

  • 17二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 18:11:17

    熱い展開だけど実際はサボり魔が鞍上と喧嘩してただけってのが面白い

  • 18二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 18:13:13

    >>17

    だ、台無しだー?!

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