『華夷秩序』というものを知っているかい? モルモット君

  • 1文系タキオン21/11/12(金) 19:05:47

    やあモルモット君
    もうこれでこの話も10回目か
    今更ながら、こんなマニアックな歴史の話によく付き合ってくれるものだよ
    私が言うのもなんだが、君もなかなか変わった人間だねぇ
    ま、今度もとびきり面倒な話を用意しといたから
    今日もまた、私の退屈な長話をせいぜい拝聴願うとしよう

    それでは講義を始めるとしようか

  • 2文系タキオン21/11/12(金) 19:06:56

    華夷秩序とは、中華を天下の中心と位置付ける中華思想を基盤に築かれた諸外国との外交関係だ
    一般的には冊封体制とも呼ばれている
    今回は17世紀以降の清王朝による朝貢貿易を中心に華夷秩序を考えていこう

    さて、冊封体制の肝といったらなんといっても『朝貢貿易』だ

    この一風変わった貿易は
    貢物を献上した見返りとしてそれ以上の礼品を下賜するという建前で行われる
    朝貢さえすれば必ず黒字になるという、朝貢国にとってはとてもメリットの大きい貿易だ
    戦国時代には朝貢を行う権利を争って、大内氏と細川氏が争いを繰り広げたりもした
    まあ、このあたりは有名な話だね

    しかしもう一方のメリット、管理貿易の性質についてはあまり知られていないんじゃないかな

  • 3文系タキオン21/11/12(金) 19:07:55

    朝貢貿易には管理貿易という性質があるために、持続的な秩序関係を維持することができる
    ここは話をわかりやすくするために、日本の江戸幕府の例を見てみよう

    幕府は対外交易を直轄領である長崎で一括管理する
    俵物などの海産物が主力商品
    これは幕府が主導する貿易だから、利益はもちろん幕府が手にする
    この収入は幕府の財政の不足を補い、後々まで幕府が諸大名に対して優位に立っていく要因の一つになるのだよ

    また、売り買いする品を国家が直接決めれるのだから、関税などは必要ない
    つまりは、現代でいう貿易摩擦が存在しないのだよ
    生糸の輸入代替政策がいい例だね

    更には、貿易を幕府が独占すれば、海賊行為や密貿易で生計を立てる倭寇のような存在と利害が対立する
    それゆえ自然と取り締まりが強化され、海賊までもがいなくなる

    このように、朝貢貿易には様々な面から朝貢国を後押しして
    朝貢国の組織化を促し、その国家機構を強化する作用が働いている

  • 4文系タキオン21/11/12(金) 19:09:24

    しかしわからないのは清王朝側のメリットだ
    こんな大盤振る舞いをして、いったいどんな得があるというのだろうか?

    その理由は、清王朝が【異民族王朝】であることにある

    満州族は中国においては少数民族だ
    その人口は中国の人口比率の1%にも満たない
    人口の圧倒的多数を占める漢民族とは比べ物にならない少数派だ
    圧倒的多数の漢民族たちに反乱を起こされないためには、中華圏の盟主として相応しい姿を見せ続けなければならない

    一方で、清王朝の強みは満州族としてのアイデンティティ
    彼らがもっとも恐れているのは、中華文明に【同化】されること

    彼ら満州族は、一方では中華文明の伝統に従い中華思想を体現する必要があるのに
    もう一方では、満州族の伝統を中華文明の求心力から守らなければならない
    この矛盾をどうにか解決するための方策が朝貢貿易だ

  • 5文系タキオン21/11/12(金) 19:10:35

    中華思想の中には
    夷狄を服属させることが【王者の徳】を示す行為だという考え方がある
    中華の外にいる多数の夷狄を呼び寄せ恭順を誓わせる儀式を行うことで、この王朝には中華を治めるに相応しい徳があるのだと示そうと考えた

    つまり、中華内部の潜在的脅威を抑えるために、外部との形式的な主従関係がどうしても必要だった

    例えるなら、文明世界とは宇宙のようなもの
    中華文明の中心にいるようにみえる清王朝も、実は【中華】というブラックホールの周りを周回軌道する惑星の一つにすぎない
    周囲の衛星からの重力の助けがなくなれば、中華の伝統という闇に飲み込まれ、かつての遊牧民族たちと同じ運命を辿ることになる

    つまり、清王朝が異民族であることによって決定的に中華を治める【正統性が欠如】している
    その欠陥が故に、朝貢という形で他国を臣従させる必要がある

    結論として、清王朝と朝貢国は【相互依存の関係】にある
    お互いがお互いを必要とするがために
    相手を攻撃する必要が消えて刀狩りを進めることができたというわけだ

  • 6文系タキオン21/11/12(金) 19:11:19

    その後、17世紀アジアに奇跡的に成立した華夷秩序は
    19世紀まで続いた後、西洋文明の進出によってあっけなく崩壊することになる

    そして時は19世紀後半
    数多の王朝がもはや輝きを失った中華という重力井戸の回りで混迷を極める中
    中華中心の文明宇宙から唯一離脱を果たして
    西洋文明という新たな宇宙の重力圏に軌道を変更してしまった【日本】という国の特異性が世界に示されることになるのだが……

    そろそろ時間もいいところだ
    話の続きはまたの機会に取っておくとしよう

    最後にまとめをしておこう
    ・17世紀にアジア全体を包括する華夷秩序が形成された
    ・清王朝と朝貢国は相互依存関係にある
    ・異民族王朝という清の持つ欠陥が華夷秩序を完成させた

  • 7文系タキオン21/11/12(金) 19:12:44

    さて、どうだったかな?

    アジアの国々が、西洋あるいは現代とはまったく異なる世界観のなかで生活していたこと
    これを理解すると、19世紀の歴史の流れがちょっぴり違った風に見えてきたんじゃないかな?

    こうした【視点を切り替える】ことの面白さこそが歴史の醍醐味ではないかと私は思っているよ

    この講義はもうちょっとだけ続く予定だから
    よければ君も、いましばらくの間は私と一緒に歴史の奥行きを探る旅に付き合ってくれたまえ

    ああ、もちろん交友的な意味の付き合いだっていつでも大歓迎だよ?
    なんなら今すぐ夜景の綺麗な温泉旅館あたりに連れ合って、一晩じっくり裸の付き合いでも……

    しまった! うまぴょい警察だ!!

  • 8二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 19:23:37

    今日の講義の時間だ!

  • 9二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 19:24:10

    唐とか宋の漢民族もやってんだけどね
    重要なのは小国相手でも戦争が起きるよりもものをやったほうが得ということよ

    特にベトナムとかは密林で返り討ちに合うし

  • 10二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 19:25:20

    明の時代に永楽帝がやった朝貢とはまた質的に別物なのか

  • 11二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 19:49:54

    うまぴょい警察め…

  • 12二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 20:12:34

    東アジアだけ見たら割と合理的だけど
    ぶっちゃけこのせいで西欧諸国相手にも朝貢貿易の姿勢をとらざるを得なかったのが一番の敗因じゃね?

  • 13二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 20:14:14

    日本はつかず離れずの位置にいたの賢いと思う
    まあ島国だから出来た事ではあるけど

  • 14二次元好きの匿名さん21/11/12(金) 20:21:17

    周りを従わせるための貿易であまり儲からないので、資本の国内への蓄積がなされずに産業革命を起こせなかったといわれるな

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています