【🎲SS・オリキャラ・閲覧注意】麦わらとハートがとある国を解明する（6）

[1 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 22:57:15]

【あらすじ】
　ドジはドジだと思っていたドジ鎧のドジの理由を知り、ルフィとローは驚愕する。
　さらに、戻った船では衝撃的な光景を目にするが、彼らは覚悟を決めてそれぞれ成すべきことに着手した。
　襲撃にも負けずに心を燃やし、立ち上がる麦わらの一味とハートの海賊団の船員たち。
　彼らもまた最後の戦いに身を投じていく。
　そして敵の戦略で剣と拳を交えることになったブルックとジンベエ。
　何故か必ず迷子になるゾロとブチギレ寸前のロー。
　ゾロの迷子に巻き込まれ続ける天竜人の運命は如何に――！？

次回【トラ男がゾロに電伝虫持たせろって言うけど多分何も意味がねェと思う】
お楽しみに！

[2 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 22:57:44]

▼前回の記録

【🎲SS・オリキャラ・閲覧注意】麦わらとハートがとある国を解明する（5）｜あにまん掲示板

▼最初から

【🎲SS・オリキャラ・閲覧注意】麦わらとハートがとある国を解明する｜あにまん掲示板

[3 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 23:09:06]

お疲れ様です

[4 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 23:28:46]

立てるの明日にしておけば良かったかな…？
ストーリーの構造上、オリジナルキャラの出張り具合激しいですが最後までお付き合いいただけますと嬉しいです〜

ダイスの偏り酷いし大抵の出目が低い感じあるのにゾロの迷子ダイスだけ出目高いので笑ってしまうんですよね…

[5 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 23:31:01]

スレ立てありがとうございます！
ゾロはゾロだからね......迷子になるもの仕方ないね......

[6 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 23:31:23]

次スレ乙！
オリキャラ達の名前が出ないのはスレ主さんのこだわりだろうか？
ゾロの迷子ダイスはダイス神が原作通りにしろというお達しだろう……

[7 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 23:37:43]

次スレだーー！！
ゾロの確定迷子は笑った
もう紐でもつけて強制的に修正する以外防げないなこりゃ

[8 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/11(土) 23:37:53]

（あっ…スレタイに🎲入ってますけどエンディング確定したのでダイスの出番激減すると思われ…ねじ込めるところでねじ込みます…）

[9 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 23:39:04]

ゾロには迷子ひもがいると思うんだ

[10 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 23:39:14]

立て乙
もうここまで来たらどう転んでもめちゃくちゃ楽しみ

[11 二次元好きの匿名さん 23/02/11(土) 23:57:21]

最後まで楽しみにしています

[12 二次元好きの匿名さん 23/02/12(日) 10:24:34]

トゥルーエンディングだったらいいな…

[13 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/12(日) 12:24:07]

城の中/視点チェンジ
⇒麦わらの一味（サンジ）

「――〝パーティーテーブルキックコース〟！！」
『ギャ―――――――ッ！？』

　襲い掛かってくる警備兵たちの中心に突っ込み、全てを蹴散らしていった。
　頑強なはずの白い鎧にはくっきりとした足跡が残っている。多くの警備兵が転がる廊下を見下ろし、サンジは煙草の煙を吐いた。
　そしてゆっくりと顔を上げる。視線の先にあるのは繊細な装飾が施された巨大な扉だ。
　ここを守っていた警備兵たちの数も考えれば、扉の先に何があるのかはおのずと絞られた。

「随分と奥まで来ちまったな」
「……ブルック、ここがお前の目的地か？」

　ジンベエが振り返って問い掛ける。
　剣を鞘に納め直したブルックは静かに頷いた。

「もういないかもしれないと思っていましたが、あのふたりがここに駆け込んだということはもしかしたら……」

　ブルックが城に行くことを提案した理由は陽動だけではない。
　サンジは煙草の煙を肺に吸い込み、溜息と共に煙を吐き出す。

「……行くぞ」

　扉の向こう側は何かで押さえられているのだろう。だが、そんな物はサンジたちにとって障害にもならない。
　ジンベエがその両手を扉に押し付け、ゆっくりと押し開いていく。耳障りな音や誰かの悲鳴が聞こえてくる。
　――バンッ！
　そして思いきり内側に大扉――謁見室に繋がる扉が開かれた。
　勢いに負けてか、内側から押さえていたらしい兵士たちが吹き飛ばされる。
　だが、もうサンジたちの目には彼らの姿は入っていないに等しい。すでにその視線は部屋の奥に向けられていた。

[14 二次元好きの匿名さん 23/02/12(日) 13:14:51]

バッドエンド以外のエンディングも解放してくれーー！

[15 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/12(日) 13:39:32]

　大きな窓から陽の光だけが差し込む薄暗い大部屋。その最奥にある椅子に誰かが座っている。
　白髪交じりの濃茶の髪と髭。身に着けた装飾品は質素ながらも品を感じさせた。

「お初にお目にかかります。私たちは少しばかり名のある海賊、といったところでしょうか。
……単刀直入にお聞きしますが、貴方がこの国の――王ですね？」

　剣や槍などの武器の切っ先が一斉にサンジたちに向けられる。
　その程度で動じるわけもなく、視線を謁見室の奥から逸らさない。しかし、少し気にかかったこともあった。
　謁見室にいる兵士たちは警備兵とは異なる鎧を身に着けている。

（もしやこいつらが噂の〝守衛隊〟か？）

　チョッパーたち曰く、この国の秘密を守っているかもしれない連中だ。
　そんな者たちだけで謁見室内の守りを固めていたということは――。

「……妙な謙遜を。『麦わらの一味』の名はこの国にまで届いておるよ」

　椅子から腰を上げた彼――王は深い溜息をつく。
　彼はサンジたちに視線を合わせ、淡々と告げた。

「目的は何だ？　金か？　宝か？　……生憎、捧げられるものなど金くらいないが」
「は？」

　サンジは声を低くして凄む。あちらもサンジたちが何故ここにいるのか、ある程度知っていなければおかしい。
　この期に及んで何を言っているのかと眉間にしわを寄せた。するとブルックが軽く腕を上げて、サンジを宥める。

[16 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/12(日) 14:02:02]

「ご安心ください。金品の類も必要ありませんから。ただ……少しの間、お時間頂ければそれで構いません」
「金で話が済むほうが、こちらとしてはよほど有り難いがな」
「それは申し訳ない」

　ブルックは鞘に剣を収めたまま、コンッ、と床を叩いた。するとそこから冷気が迸り、床を伝い、開いていた扉を分厚い氷で飲み込んだ。
　守衛隊の兵士たちが狼狽え、動揺する声が響く。
　しかし、それでも王は軽い溜息を漏らすだけだ。

「手荒な人払いだ」
「ヨホホ！　お互い、このほうが話しやすいと思いまして。
……この場にいる方々はご存知なんでしょう？　本来の目的を」
「本来の目的、か」
「ええ」

　ブルックが一歩踏み出した。
　向けられている武器の切先がぶれる。
　骨だけの顔だというのに、そこには酷く真剣な表情が浮かんでいることがわかった。

「馬鹿な真似はおやめなさい。今ならまだ引き返せます。……復讐に囚われて、国民そのものを危険に晒すおつもりですか？」

　謁見室に沈黙が落ちた。
　だが、微かに息を飲んだり、歯を食いしばったりする音が聞こえる。サンジは周囲の守衛隊を見渡し、頭を掻いた。

[17 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/12(日) 18:13:58]

「復讐……とな。なんのことやら」
「とぼけなくても構いませんよ。我々も少し気になって勝手に調べさせて頂きましたから」
「……十三年前までこの国と政府の間に取り交わされていた『契約』。
天上金と一緒に納められていた……この国の子供たちのことじゃ」

　王の指先がぴくりと跳ねた。
　気づかないふりをして、ブルックたちは話を進める。

「この国の警備隊の隊長をしている青年は、十三年前にこの国にやってきたようですね。
そして、同時に奇妙な殺人事件が起きている。被害者はこの国と政府の間を取り持っていた仲買人です。
彼はどうやら随分と恨みを買っていたのか、それはもう悲惨な姿だったとか」

　王は何も返さない。
　眼球のないブルックの真っ暗な眼孔を見つめ続けている。
　その間もサンジは周囲を窺い続けていた。
　今のところこちらに襲いかかってくる様子はないが、もしもの時は真っ先に動けるようにしている。

「仲買人を殺したのは彼ですね。そしてそれをきっかけに契約の破棄が成った。……違いますか？」

　聞こえたのは小さな溜息の音だ。
　王はブルックから目を逸らし、陽の光を受けている窓を見つめた。

「――私にとって彼は救世主だよ」

　そう呟いた。

「この国を自由にし、そして、戦う術をくれたのだから」
「……〝珀鉛〟のこと、ですね」

　ブルックの言葉に王は笑う。

[18 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/12(日) 18:14:55]

「本当にそこまで知っているのか。あの子たちからは聞いていたが……だが、どうして君たちが踏み込んでくる？
私たちを脅して金を奪うのが目的でもないというのも不可解だ。海賊ではなかったのか？」
「海賊ですよ。今までも、これからも。
ただ……私たちの船長はそういうことよりも未知の世界を冒険するのが好きな方ですから」

　ヨホホ、とブルックが笑って返す。
　しかしすぐに声を潜めて、硬い言葉を吐き出した。

「もう一度言います。馬鹿な真似はおやめなさい。
失敗すれば貴方の首を落とされるだけでは済まないことくらいわかっているでしょうに」

　この国がやろうとしている天竜人の毒殺は、計画を知られただけでもどんな罰が下されるかわからない。
　過去にルフィが天竜人を殴った時は海軍大将を呼ばれ、酷い目に遭った。
　しかし、もうそれに収まるわけがない。
　何も知らずに穏やかに暮らしている国民たちを地獄に叩き落す結果になるのは目に見えている。
　王は黙り込んでいた。周囲にいる守衛たちも口を開かない。サンジは僅かにたじろぐ。
　彼らの瞳に薄暗い覚悟が見えたからだ。
　そして、王が再びサンジたちを見る。その瞳には――暗い炎が宿っていた。

「この国の歴史の裏で何人の子供が死んでいったと思う？」

　怒りか、苦しみか、恨みか。それらを全て煮詰め切って固めた声で彼は言う。

「誰もが親に愛されて生まれてきた子たちだ。普通に生きて、暮らしていく権利があった。
だが……我々が弱かったから、我々が守れなかったから――あの子たちは死んでいった！！」

　黒く塗り潰されたように見える瞳から涙が溢れた。

「ああ、そうだ。我々がいけなかったのだ。
ずっと……長い間、力及ばず……逆らうこともできず、この国の子たちを捧げ続けてきた……ッ！！」

[19 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/12(日) 18:16:07]

　泣いているのは王だけではない。
　武器を握る守衛隊のほとんどがその目に涙を浮かべ、同時に怒りを滲ませていた。
　その感情を向けられているのはサンジたちではない。この場にいない者たち――天竜人だ。
　異様な狂気ににも近い雰囲気に飲まれ、サンジは僅かに汗を滲ませる。

「我々だって契約の破棄をずっと願ってきた！
そして私の代で国を何とか豊かにし、足りなかった天上金を支払えるだけになった！
……だが、もう遅かった。あいつらが……契約を破棄するなら、今までのことを全て国民に話すなどと……！」

　自業自得だろう、とは簡単に言えなかった。
　目の前にいる彼にとって、すでにそれは隠さなければいけない『歴史』なのだ。
　契約が始まったばかりの時代の王はどんな考えだったか知らないが、現王は変えようという努力をしたのだろう。
　そしてその努力を今までの『歴史』に潰されたのだ。サンジは顔を顰めて煙草の煙をくゆらせる。
　真実を知った国民たちはどうなるだろうか。きっと混乱し、絶望し、怒り狂い、王族にその憎しみが向けられる。
　騙していたこと自体は事実なのだ。だが、それではこの国は終わる。制御を失った国民の怒りは国そのものを燃やし尽くす。
　それこそ、本来なら生きられたかもしれない人々の命を奪う形で。
　真実を知るというのは、何も全てが良い方向に作用するわけではないのだ。
　だからこそ、形だけの平和と安寧を保つためにこの国は止まれなかったのだろう。

（んで、そのクソ脅迫犯をぶっ殺したのが――あいつってことか）

　サンジたちを殺そうとしてきた白い能力者。この国の守護に就いた男。十三年前の話だ。
　彼もまだ子供だったはずである。しかし既に能力で人を殺すことを覚えていたというのだから、ぞっとしない話だ。

「あいつら、ということは仲買人だけではないのですね。
他には……先代、と呼ぶべきかはわかりませんが、今この国に来ている天竜人の父親でしょうか」
「貴殿らは本当に何でも調べてしまったのだな」

[20 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/12(日) 18:17:02]

　苦笑に近い声だ。だが、王は緩やかに首を振る。

「彼は偶然同時期に亡くなったに過ぎない。残念ながら、私たちは何もしていないよ」
「ふむ……ところで先代は貴方のことを『友』と呼んでいたのではなかったのでしょうか？」
「……は？　は、ははっ、友だと？」

　それは嘲笑だった。王は心底可笑しいといった様子で肩を揺らして口元を押さえて笑う。
　そして怒りに目を吊り上げて叫んだ。

「あの男は……私の娘のひとりを殺し、もうひとりの心を壊したのだッ！！　友などと……反吐が出るッ……！」

　もはやそれは絶叫だった。声にこめられた恨みの強さに息を飲む。
　両目から涙を零した王はそれを拭うこともせず、怒りで震えた手を胸の前に持ってくる。

「あいつにとって私たちは甚振って遊ぶためのペット同然だった……！
だから……あいつが死んだと知った時、どれだけ嬉しかったか……どれだけ……ッ！」
「……貴方がたの胸中に秘められた想いはわかりました。しかし、今回の件はハッキリと言って悪手です」

　王や周囲の悲痛な想いを聞いてもブルックの態度は変わらない。
　その長い背筋を伸ばし、胸を張って言う。

「恨みを忘れろとは言いません。それはある意味、貴方がたの大切な気持ちのひとつですから。
だからこそ、ただ、真っ当に生きていくべきでしょう」
「余所者が我々の何を理解するというんだッ！？　これまで無残に殺されていった子たちの無念を、恨みを、今こそあいつらに――」
「――死んだ者たちにはもう何も残っていませんッ！！　あるのは貴方がたの中の後悔と怒りだけだッ！！
私は、今この国に生きている人々を大切にしろと言っているんですッ！！」

[21 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/12(日) 20:17:40]

　骨の体から発せられているとは思えないほどの声量だ。
　空気をびりびりと震わせた言葉に王は言葉を失う。ブルックが一歩踏み出せば、王は無意識に足を一歩引いた。

「国のためにと『嘘』をつくのであれば最後まで貫き通しなさいッ！
死んだ者たちに囚われ、今を生きる国民たちを蔑ろにしてどうするというのですか！！
酷なことを言うのかもしれませんが……貴方はひとりの人である前に『王』です。
王ならば国の宝である民を守る義務があるでしょうッ！！」

　王の額には尋常ではない汗が滲んでいた。彼も本心ではわかっているはずなのだ。
　サンジは短くなった煙草を深く吸い、煙を吐き出した。
　そして床を蹴って一息でブルックの前に飛び出し――鋭く飛んできた刃を蹴り飛ばす。
　鈍く輝く刃が床の上を転がり、甲高い音を立てた。

「こっちは真面目な話をしてんだ。野暮ってもんじゃねェのか」
「……こっちも真面目にやってんじゃん。それを勝手に滅茶苦茶にしてんのはそっちじゃん？」

　王座の後ろから現れたのは手長族の青年だ。怪我もそのままに立っている彼は、王を一瞥する。
　すぐに視線を逸らした彼は舶刀を引き抜いてサンジたちに切っ先を向けた。

「お前らだって天竜人が何をしているか知らねェわけじゃないんだろうがよ！！
どうしておれらばかり我慢しなくちゃならねェ！？　あいつらが苦しんでのたうち回って死ぬだけならむしろ軽い『罰』じゃんッ！？」
「ならば貴方がたは、その大嫌いな天竜人と同類にでもなるおつもりですかッ！？」
「ッ――あいつらがいなくなれば全部おしまいになるんだよ！！　おれたちは……全員、自由になれるッ！！」

　床が砕ける音がした。それほどの力を込めて踏み締めたのだろう。ブルックに迫る彼の速度は今までの戦いで一番速かった。
　だが、ブルックがその速さについていけないわけがない。サンジは下がって彼に譲ることにした。
　彼の刃がブルックに届きそうになるのと同時に、骨の体が掻き消える。手長族の青年は目を見開き、宙を貫いた刃に困惑した。
　一歩、二歩、三歩――散歩するが如く、彼の後ろをブルックが歩いて通り過ぎた。

「貴方は若いんです。なら、なおさら……こんな未来を潰すような真似、考え直してください」

[22 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/12(日) 20:18:00]

　既に抜いていた刃をゆっくりと鞘に納めていく。
　キィン！　と刃と鞘が収まる音が響いた。

「〝鼻唄三丁〟……〝矢筈斬り〟！！」
「ッ――！？」

　やっと己が斬られていたと気づいた手長族の青年が体を震わせ、斬り裂かれた胸から血を流す。
　同時に意識も刈り取られたように彼は白眼を剥いた。ゆっくりと床に膝をついて倒れ伏せる。
　ブルックは杖を模した剣をくるりと回し、王を見上げた。彼の顔色は白を通り過ぎて青くなっている。
　――がたり、と物音がした。
　王が弾かれたように振り返る。その視線の先にいたのは顔に包帯を巻いたひとりの女性だ。
　その服装からあの『ピエロ』であることはすぐにわかった。

「お前ッ……下がっていなさい！」

　王が慌てて彼女の肩に手を置こうとするが、それもすり抜ける。彼女は覚束ない足取りで王座のある階段を降りてきた。
　まるで夢遊病者を見ているような気分にさせる。
　王が言っていただろう。娘のひとりが殺され、もうひとりは心を壊されたと。

「……レディ」

　彼女はサンジの目の前でぴたりと足を止めた。
　顔が緩やかに持ち上がる。包帯の隙間から覗いた瞳は何の感情も浮かんでおらず、真っ黒に見えた。
　だが、それに反して彼女の両腕は震えている。サンジは自分に伸ばされた手をただ見つめた。
　白く細い指がサンジの服の裾を握り込んだ。

「どうして、邪魔を、するのですか。やっと……やっと、私たちは……私は……お姉様の、仇を……ッ」

　そのまま彼女は崩れ落ちる。光のない瞳からぽろぽろと涙を零し続けて。

[23 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/12(日) 20:19:04]

「私が、病気にならなければ、お姉様は、あ、あんなところに、行かずに……いえ、私が、もっと……もっと早く死んでいればッ――」

　彼女は『ここ』を見ていない。もうすでに存在しない人物だけを見つめている目だった。
　サンジは彼女を慰める言葉を持たない。それこそ何も知らない部外者が口を挟める事情ではないのだろう。
　僅かな時間だが、あの手長族の青年も王も彼女のことを慈しんでいるのは理解できた。慰めの言葉など彼らがいくらでも掛けられてきたはずだ。
　だが、それでも彼女はまだ暗闇の中にいるのだ。これは生半可な言葉で立ち上がらせることができるはずがない。
　同時に彼女の想いが痛いほど理解できる気がした。
　自分のせいで大切な誰かから、何かを奪うことになるのは――あまりに辛い。
　サンジはしゃがみ込み、折った膝を床についた。

「これは、おれの言葉じゃねェ。その……おれもさ、正直、心から理解すんのはまだ難しいし、きみとはまた違う立場だ。
でも、それでも、おれにこう言った奴がいたってだけの話なんだが……」

　彼女の真っ黒な瞳と視線を交らわせ、かつて〝彼〟に言われた言葉を告げる。

「〝死ぬことは恩返しじゃねえぞ〟――ってな」
「……ッ！」

　彼女は息を飲み、新しい涙を瞳から零した。
　するとそこに小さな声が響く。咳混じりの、酷い声だ。

「……め、ちゃ……姫、ちゃ、ん……」

　血を吐き、意識を朦朧とさせた手長族の青年だった。
　彼女は涙に濡れた目を呆然と彼に向ける。彼は床を掻くように指を這わせた。

「ご、め……ごめ、んな……おれが、手紙、届け、なきゃ……。
おれの、せいで、あの子は……ずっとさ、謝んな、きゃ、って……ごめ……んなァ……」

　涙と鼻水を垂らして彼は泣きながら言う。

[24 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/12(日) 21:50:08]

　彼もまた、ここではない何処かを見ていた。
　記憶も意識も混濁している様子だ。ただ、彼女にはその言葉の意味がわかったのだろう。
　サンジの服から手を離し、完全に床に座り込んだ。そして何も言わずに彼女は泣き続ける。
　ぽろぽろと透明な熱い雫を溢れさせ、徐々に背を丸めて小さく縮こまってしまった。
　ふいにひとつの気配がサンジの横に立つ。驚いて顔を向ければ、そこにはひとりの女性が立っている。

「きみは……？」

　彼女と同じ顔をした女性だ。服も同じピエロ衣装を着ている。違うところがあるとすれば、女性は穏やかな優しい笑みを浮かべていた。
　女性は彼女の傍らにしゃがみ込むと優しくその背を撫でる。あやすように、慈しむように。
　もう成人して暫く経つだろう。しかし、そうやって慰められている彼女は本当に小さな子供に見えた。

「姉妹のひとりは……亡くなっていたんじゃろう……？」

　ジンベエが驚いた様子で目を丸くさせた。そしてその疑問に答えるようにすぐ声を上げた者がいる。

「……ああ、亡くなっている。それは……その子が出している分身――〝ドッペルゲンガー〟に過ぎない」
「王ッ……！」

　気づけばサンジたちの近くにまで王が降りて来ていた。兵士たちが慌ててその身の周りを固める。
　だが、彼はそれを手で制し、泣き続ける自身の娘を見た。

「娘はドッペルゲンガーを生み出す能力を持っている。いや……持たされたと言うべきか」

　彼もまた床に膝をつき、娘の背を撫でた。その手は微かに震えている。

「上の子が殺され、その死にショックを受けていたこの子に、あの男が渡したんだ。
……『姉に会える力が手に入る』と嘘を吹き込んで」
「は？　おい、これはあくまでレディの分身なんだろ……？」

[25 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/12(日) 21:50:49]

「そうだ。双子だから、同じ顔の分身が増えるだけだ。決して死んだあの子が蘇るわけじゃない。
だけどこの子は信じて実を食べ、初めて力を使った時に絶望した。大嫌いになってしまった〝自分〟が増えるだけの能力に。
ははっ、あの男にすればそれすら余興のひとつだったわけだ。……私には、それを止める力さえなかった」

　王の髪から白髪が一筋垂れさがる。疲れ切った表情をしていた。
　周囲の兵士たちは鼻の上まで赤くさせてすすり泣いている。
　王は振り返って近くの兵に声を掛けた。

「彼の治療をしてあげなさい」

　それはもう完全に意識を失ってしまった手長族の青年のことだろう。
　戸惑いを滲ませた兵士たちを見て、サンジが首を傾げた。

「おれたちがまだ目の前にいるのにクソ呑気じゃねェか」
「もう構わぬ。どちらにせよ、ここで私ができることなどありはしないさ。
……荷物は船に積まれる。たとえ貴殿らがここで私を殺そうとも船は止まらない」
「なるほどなァ」

　サンジは頷いてから、ニッと笑った。

「それならもう諦めてくれ。うちの船長が止めに行ったからな」
「……『麦わらのルフィ』か」
「ええ、うちの自慢の船長です。貴方の言う『救世主』とやらをぶん殴ると張り切っていましたよ」
「ルフィはやると言ったらやる男じゃ」
　
　ブルックやジンベエも同意を示す。そこにはルフィに対する信頼だけが見て取れた。
　王はサンジたちを見回し、小さく苦笑する。

「なんとも……厄介な連中に目をつけられてしまったものだ……」

[26 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/12(日) 21:53:06]

　そして王は窓から外を見つめる。青く輝く空には白い鳥が飛んでいた。
　鳥のその姿には何にも縛られていない自由さがある。
　王は涙に濡れた目を細めた。

「ならば運命がどちらに傾くか……私はここで待つとしよう。
貴殿らを止められるとは思わない。これ以上、城の者たちを傷つけられても堪らないからな」
「ヨホホ、追われなければこちらも何も致しませ――」

　ブルックの言葉が終わるより先に――城を揺るがす大きな衝撃と爆音が響き渡った。

「ッ！？　な、なんだ！？」

　揺れが収まってから慌てて、バルコニーに通じる大きなガラス戸に駆け寄る。
　扉を乱暴にこじ開けて、バルコニーの手すりに身を乗り出したサンジは辺りを見てから絶句する。

「おい……あっちって工場があるほうだろ！？　煙上がってんぞ！！」
「なんじゃと！？」
「ちょ、待てジンベゥギャッ！！」
「あ、す、すまんサンジッ！」

　後ろから乗り出してきたジンベエに潰され、サンジが悲鳴を上げる。
　ブルックは大して気に留めた様子もなく、ふたりの横から煙の上がる方面を眺めた。

「……何か起きたようですね。こうしてはいられません！　行きますよ、おふたりとも！」
「どうすりあんな大爆発みてェなもん起こせるんだよ……」

　サンジは頭をくしゃくしゃと掻いて溜息をつく。

[27 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/12(日) 21:54:49]

　城では十分暴れた。そしてブルックも大方の目的は果たせたのだろう。
　新しい煙草に火をつけ、深く煙を吸う。
　そして青い空に向けて煙を吐いた。

「……もうひと踏ん張り、か」

　あとは荷物を止め、あの白い男をルフィが殴るだけ。
　その未来が変わるとは思っていないが、サンジたちが向かえばルフィたちの邪魔をする脅威はもっと減らせるはずだ。
　ならば駆けつける以外に選択肢はなかった。

「サンジさんッ！」
「ああ、今行く」

　焦る声を上げるブルックに振り返る。そう急がなくとも、サンジたちの足ならすぐに追いつけるはずだ。
　しかし、ブルックは真剣な表情で告げた。

「いえ、ちょっと扉の氷を分厚くしすぎちゃって壊すのに時間かかりそうです！　サンジさん溶かせませんか！？」
「何やってんだてめェはよォッ！？　そこどけクソ骨ェッ！！」

　――助走をつけてから燃え盛る脚で氷を蹴り抜きながら、サンジは叫んだ。

[28 二次元好きの匿名さん 23/02/12(日) 23:05:36]

ブルック、おま…笑うんだわ
シリアスとシリアルがいい具合に混在してる草

[29 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/13(月) 08:57:38]

城の地下/視点チェンジ
⇒麦わらの一味（ルフィ）

　無機質な壁と床に包まれた通路をルフィたちは駆け抜けていた。
　チョッパーが言っていた、工場で働く作業員には出会っていない。天井が高く、広い通路にはルフィたちしか存在していなかった。

「……この先に『倉庫』がある」

　ルフィの肩の上でローが見取り図を眺めながら言う。
　彼の言葉に頷き、ルフィは床を踏み締める足に力を更に込めた。
　ずっと感じていることだ。どうやらルフィたちを待ち受けている者たちがいると。
　だからといって止まるわけがない。
　灰色の巨大な扉が見える。どこかに開けるためのスイッチがあるのかもしれない。
　だが、今のルフィには足を止める時間すら惜しかった。

「ゾロ！」
「ああ……斬るッ！」

　呼び掛ければ口の端を持ち上げたゾロが誰よりも先に前へ出る。
　トンッ――跳躍の音は軽かった。
　跳ね上がった彼は腰にある刀に手を添え、眼前に迫った扉に向けて抜き払う。
　分厚い扉も彼にすれば何の意味も成さない。
　瞬く間に切断され、衝撃に押されて内側へ吹き飛んだ。

[30 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/13(月) 12:58:47]

　ルフィたちは足を止めることなく倉庫の中へ突入した。
　足を踏み込むと同時に頭上に何かが振り下ろされる気配に、ルフィはすぐさま更に奥へ飛ぶ。
　床が砕け、爆発したかのような破壊音が背後から響く。
　視線だけ向けると、そこには肉厚な手斧の刃が突き刺さっていた。

「麦わら屋！！」
「おう！」

　相手が誰かはわかっている。
　ルフィはローを抱えたまま〝両脚〟の間を潜り抜けて身を翻した。
　すぐに見上げれば、赤茶の長い髪を持つ巨人の女の背が見える。
　チョッパーとローが戦ったという工場長だ。どうやらすでにチョッパーの薬の効果は切れていたらしい。

「……ああもう、嫌になるねェ。どいつもこいつも無遠慮に踏み荒らしやがって……」

　頭上から声が落ちてくる。手斧を床から引き抜いた彼女が辺りを見渡した。
　ルフィだけでなく、ゾロたちも左右に散って攻撃を避けている。すでに全員が臨戦態勢を取っていた。
　倉庫の中は出荷の関係ですっかり片付けられているのか、だだっ広い空間だけが残されている。

「まあまあ、姐さん、そう言うなって。こいつらは化け物揃いだが数は少ない。
ここにこれだけ揃っているならむしろ運が良いほうだ」

[31 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/13(月) 12:59:52]

　別の声が混じる。

　それは工場長の肩に座る男が発しているものだ。

　あちこちに包帯が巻かれた彼は、頭に被ったテンガロンハットを手で押さえて笑う。

「よォ『海賊狩り』、また会ったねェ」

「……てめェか。もう動いて大丈夫なのか？」

「お気遣いドーモ。いやァ、実はまだ体のあちこち悲鳴あげてるんだけど、こんな時に寝てるだけってわけにはいかないだろ？」

　「若い子たちが頑張ってるんだから」とつけ足して、彼は肩を竦めた。

　ゾロはそんな彼に笑みで返す。

「じゃあまたすぐに休ませてやるよ」

「おー怖い怖い。姐さん、聞いた？　最近の若い子は怖いねェ」

「私に言うんじゃないよ。まったく、あんたはいつもそんな調子でとぼけてんだから……」

「とぼけてなきゃ色々やってらんないんだよ。わかってくれって」

　男の言葉に工場長は少し間を開けてから、溜息をついた。彼女が無言で手斧を握り直すのを見て、ローがルフィの肩から降りる。

　そして彼が宙に手をかざした時、叫ぶ声が聞こえた。

1：「ここは私たちに任せて」

2：「ルフィたちは先に行ってくれ！」

3：「――〝緑星〟」

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[32 二次元好きの匿名さん 23/02/13(月) 21:07:21]

ドキドキ

[33 二次元好きの匿名さん 23/02/13(月) 22:21:52]

ワクワク

[34 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/13(月) 22:56:10]

「ルフィたちは先に行ってくれ！」

　『柔力強化』に変身したチョッパーが前に出る。彼は工場長たちを睨みつけて歯を食いしばった。
　〝ROOM〟を展開しようとしていたローの動きが止まる。
　　工場長はチョッパーを見下ろした。

「昨日はふざけた真似をしてくれたね……今度こそひき肉にでもしてやるよッ！！」
「やってみろッ！！　おれは絶対にお前らなんかに負けねェッ！！」

　再び手斧が振り下ろされる。大きな亀裂が走り、割れた床が隆起した。
　足場が揺れたルフィはたたらを踏み、チョッパーたちに顔を向ける。

「チョッパー！　ロビン！　ウソップ！　ゾロ！」
「なんつう馬鹿力だよッ！！　ああクソッ！　ルフィ、トラ男！！　さっさと行っちまえ！」

　大きく後退したウソップが武器を構え直す。その隣でロビンも両腕を胸の前で交差させて微笑んだ。

「大丈夫、これくらい任されてもらわないとね」
「そういうわけだ。てめェらはあのニヤニヤ野郎を止めてこいッ！！」

　各々から飛び交う声にルフィは一呼吸置いてから力強く頷いた。

「おう、頼んだッ！！　トラ男、行くぞッ！！」

　倉庫の奥にも大きな扉がある。あれがローの言っていた、港に繋がっているかもしれない出入口なのだろう。
　ローも僅かな間を開けたがすぐにルフィの後ろを駆け出す。そんなルフィたちをテンガロンハットの男は見下ろしているだけだ。
　むしろ彼は見送るように、ひらりと手を振った。

[35 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/13(月) 22:56:35]

「……？　なんだ、あいつ」
「ほっとけ。罠だとしても関係ねェ」
「それもそうだなッ！！」

　背後からチョッパーたちが戦う音が響き始める。
　ルフィもローも振り返らなかった。今、自分たちが何をすべきなのか既にわかっている。
　速度を上げてルフィは拳を握り込んだ。武装色の覇気を纏った拳は肘まで黒く染まる。

「開けェェェェェェェッ――！！」

　そして巨大な扉を殴り抜く。砕け、割れた扉が崩れ落ちていった。
　落ちてくる瓦礫が収まらない内に、ふたりは大きく開いた穴に滑り込んだ。
　扉の向こうはまた長く続く廊下になっている。ルフィたちの足音がやけに響いた。
　だが、この奥に誰かが待ち受けていることは感じ取れる。

「トラ男！」
「なんだ」
「おれ、絶対にあいつぶん殴るけど良いよなッ！」
「……おれに言うな。だが――」

　鼻を鳴らして彼は帽子のツバを摘まみ上げた。

「まともに言葉が通じねェんだ。ああいう〝患者〟には荒療治も必要だろ。
それとも何だ。お前、その程度の怪我をおれが治せねェとでも思うのか」
「……思わねェ！　シシッ、トラ男はスゲェ医者だからなッ！！」

　視界の先にまた大きな扉が見えてくる。ルフィは息を飲んだ。
　無機質な灰色の通路の先にあったのは真っ白な扉だった。

[36 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/13(月) 23:20:15]

　ルフィもローも走る速度を緩め、その巨大な白い扉を見上げた。
　全てが白く塗られているが、よく見ると細かな装飾も施されている。この国の街を連想させつつ、どこかずれた印象も抱かさせた。
　同じように扉を見上げていたローが、そっと触れる。彼の指が彫刻の凹凸を撫でる。
　不思議とその目が懐かしそうに細められた。

「トラ男？」
「……何でもねェ。ったく、あの野郎……趣味が良いのか悪いのか……」

　帽子のツバを下げて彼は目元を隠す。
　だが、すぐに前を向き、ルフィを促した。

「行くぞ」
「……おうッ」

　ルフィが左扉に手を添えると、ローが右扉に手を添えた。そしてふたり同時に押し込む。
　白い大扉が押し開かれ、薄暗い通路に光が差し込んだ。嗅ぎ慣れた潮風も吹き込んでくる。
　――扉の奥に広がっているのは白色と海の青色だった。
　白い石畳を丸く敷き詰めた、広い円形の足場。見上げれば、大きくせり出した屋根が僅かに太陽の光を遮っているのが視界に映る。
　海は眼下に広がっていた。そこに錨を降ろしている巨大な船が、天竜人の乗るものなのだろう。船に乗るには長い階段を下っていく必要があるらしい。
　ルフィもローも動かずに無言で白い扉の前から動かない。海に下るための階段の前にひとりの男が立っていたからだ。
　白い全身鎧を身に着けた彼がゆっくりと振り向いた。

「こんにちは。ふたりとも、本当にここまで来てしまったんだね」

　彼にとってルフィたちに挨拶をすることが当たり前なのだろう。
　昨晩、仲間たちを殺しかけた者とは思えない振る舞いだった。
　ルフィは拳を自分の手の平に打ち付けて、彼を睨みつける。

「言ったろ、白鎧。――あとで殴りに行くって」

[37 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/14(火) 08:14:07]

　彼は黙り込み、そして緩やかに首を振った。

「ああ……そんなこと、言っていたっけ。きみは律儀だね。
さて、私も仕事だし、念のために訊くけどここで退いては――」

　言葉が止まる。兜に覆われて見えないが、ルフィと彼の視線が交わるのを感じた。
　きっと彼は微笑んだのだろう。もう互いの間にそれ以上の答えは必要なかった。
　彼は一歩踏み出し、両腕を広げる。
　その瞬間、彼の身を覆っていた白い鎧が溶けていく。正確には液体と見紛うほどの細やかな粉となって散っていったのだ。
　手の平、腕、肩、胸、首、顔――徐々に露わになる彼の本当の姿。
　鎧の下は裾の長い簡素な白いシャツを着ていた。前が開かれ、その胸板が晒されている。白色に侵された胸の真ん中には大きな花の焼き印が押されているのが見えた。
　ローが歯を食いしばる。

「……てめェのその紋章は」
「ん？　これ？　ロー君たちはもうわかってるかな。そう……元々は天竜人の紋章だよ。外で生きるのに邪魔だったから、あの子とあの人が考えて……こうやって塗り潰すことにしたんだ。
皆、それぞれ違うところがあるけどこれだけはお揃いなんだ」

　彼はそう言って、にこりと笑った。
　そして右手をかざすと、宙に浮いていた白い粉を手繰り寄せる。流動する白い粉は彼の体を絡め取り、その身を浮かせた。
　雲のようになった粉の上に腰掛けた彼はルフィたちを見下ろす。

「ぼくこれでも割と怒ってるんだよ。だって大人しくして欲しいってお願いはしたよね？
なのに忠告は無視するし、仲間の皆を傷つけてしまうし……昨日のはちょっとしたお返しさ」
「あれがちょっとしたお返しか。もうタガが外れてるってレベルじゃねェ――覚悟はできてんだろうな？」

　ローが低い声で唸るように言った。
　目の前にいるのは、この国の警備隊長ではない。己の目的だけに動くひとりの人間だった。
　ルフィは拳を握り込み、吠える。

「いくぞ白鎧。……いや、〝シロ〟ッ！！」

[38 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/14(火) 12:59:04]

　ルフィの体内を巡る血管が沸騰する。瞬間的に上がった体温が筋肉の動きを滑らかにさせた。
　石畳を蹴り抜き、宙へ駆け出す。体に纏った蒸気がその場に取り残された。
　握り締めた拳は武装色の覇気に包まれ、黒く染まる。

「〝ゴムゴムの〟――〝鷹銃乱打〟ッ！！」

　矢継ぎ早に繰り出される無数の黒い拳。その全てが彼――シロに向かう。
　硬いものがぶつかり合う音が響き渡った。拳の先から感じる衝撃にルフィは眉を顰め、すぐに後ろへ大きく跳んだ。
　ぼんやりと霞む視界は空中に漂う粉のせいだろう。
　そして、それらが晴れた先にいた彼の体は半分が黒く染まっていた。武装色の覇気を彼も扱えるらしい。
　だが、驚くことでもなかった。
　ルフィは考える間もなく脚に力を込めて再び跳び上がる。
　彼が自在に空を移動しようと関係ない。
　その高みまで拳が届けば同じことだ。
　ほぼ同じ目線まで来たところでルフィは両手の拳を彼に撃ち込む。彼もまたそれを武装色の覇気を纏った腕で迎え撃つ。
　まるで鉄同士がぶつかり合うような音が立て続けに鳴り響いた。
　その最中、ルフィの視界にもう一つの世界が重なる。数秒の内に訪れる未来だ。
　ルフィは彼に蹴りを叩き込むが、それもまた防御される。
　しかし、それで良いのだ。彼の腕を踏み台にして、ルフィは更に高く跳ぶ。
　グレーの瞳がルフィを追ったのと同時に、彼の姿が掻き消える。

[39 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/14(火) 19:24:46]

「え」

　ぽかんとした声はシロのものだった。
　彼の身は石畳の上にある。先程まで彼がいた空中には一欠片の石が取り残されていた。
　それはローの〝シャンブルズ〟による瞬間移動だ。
　空から引き摺り下ろされた彼に向けて、ルフィは足を振り上げる。

「ッ――〝ゴムゴムの鷹スタンプ〟！！」

　しなやかに力強く撃ち出されたルフィの足が白い石畳を砕き抜いた。
　だが、足先に伝わって来たのは柔らかなものに沈む感触だ。
　砂埃にしてはやけにもうもうと立ち上る煙が消え失せると、己の足が床に深く沈んでいるのが見えた。
　
「なッ、なんだッ！？」
「危ないなァ」

　身を転がして間一髪、ルフィの攻撃を避けたらしいシロが笑う。
　そんな彼の背後から鬼哭を抜いたローが迫った。〝ROOM〟は展開されている。
　鬼哭の刃が振られるより先に、シロはその両手を石畳に叩きつけた。するとそこを中心に石畳と地面が瞬く間に細かく形を失っていく。
　明確な足場を失ったローの目が見開かれた。彼の足が粉と化した地面に沈む。
　重心を崩したせいでずれた鬼哭の切先。シロは身を低くしてその無痛の斬撃を避けた。

[40 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/14(火) 21:46:57]

　よろけるローにシロの手が伸びる。

「トラ男！」

　ルフィの叫びなど聞きもしなかっただろう。
　ローの体が一瞬で近くの石と入れ替わり、まだ形を残す石畳の上に足の裏をつけた。
　伸び切った足を縮め、ルフィも降りる。
　深く突き刺さった足は無理矢理引き抜き、後退してローの隣に並んだ。目配せもせず背中合わせになったふたりはシロに顔を向ける。
　視線の先でゆらりと立ち上がったシロは虚空を掴んだ手を振るった。

「ロー君の能力すごいね。高速移動……じゃないよね。ぼくのこと一瞬で降ろしたし……」
「敵に向かって能力のことペラペラと話すと思うのか？」

　ローが手を翳しながら鼻を鳴らす。
　それに対してシロは笑った。

「思わないけどすごいなァって。あ、ちょっと違うけどジェルマにも消えるのいたよね。
デンゲキブルーだっけ？」
「ジェルマと一緒にするんじゃねェッ！！　しかも消えるのはステルスブラックだ！！
デンゲキブルーは高速で動いて消えたように錯覚させるだけだ！！　間違えるなッ！！」
「ここに来て一番デケェ声出たな、トラ男」

[41 二次元好きの匿名さん 23/02/14(火) 22:06:16]

うーんこれは正当な読者

[42 二次元好きの匿名さん 23/02/14(火) 23:31:06]

正当な読者が前面に出てて草

[43 二次元好きの匿名さん 23/02/15(水) 00:45:17]

真剣に戦ってる最中に正当な読者が出てくるの、流石だよ

[44 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/15(水) 09:17:07]

　ルフィの言葉にもローは口を曲げて眉間に皺を寄せた。
　彼はシロに向けて一歩踏み出して言う。

「てめェも〝北の海〟出身ならそれくらい知ってんだろ」
「知ってるし、昔は大好きだったと思うよ。今はよくわからないな……内容も忘れちゃったし」
「昔は、か」
「まったく……ロー君、海ソラの話をしに来たわけじゃないだろ。ほら、いくよ」

　シロが手を振るうと粉末化した足場がその身の回りに引き寄せられる。粉が取り除かれた地面はぽっかりと大きな穴を晒した。
　石畳の白や地面の土の色が混ざった粉は、しゅるりしゅるりと球体に纏まり始める。
　しかし、その土の色は消え失せていく。徐々に全てが白色に染められ上げていくと、それはいくつかに分かれて辺りを漂った。
　シロは右手の人差し指と親指を立てて銃の形を模る。そして、ルフィたちに人差し指を向けて口の端を持ち上げた。

「ルフィ君、ゴムって――燃えるよね？」
「は？」

　そりゃそうだ、と言うより先に粉の球がルフィたち目掛けて撃ち出された。
　反射的に避けようとするが、纏まっていたはずの粉の球は破裂し周囲に満遍なく細かな粒子を充満させる。
　目や口に飛び込む粉にルフィが咽せた。

「エホッ！　ゲホッ！　ペッペッ……目潰しか！？」
「ッ……違う！！　麦わら屋！　備えろッ！！」
「えッ……――！？」

　ルフィのゴムの肌がぞわりと粟立った。見えた未来に目を見開く。
　粉のせいで涙を流す目元を拭い、ルフィはすぐ傍らのローにしがみついた。

[45 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/15(水) 09:21:01]

　ローはいつの間にか手にしていた小石を思い切り頭上に投げる。
　それは高度を下げることなく高く飛び上がった。タクトも使われているのかもしれない。
　――パァンッ！
　遠くから乾いた銃声が響いた。

「ッく……〝シャンブルズ〟！！」

　ローの叫びと共に視界が切り替わる。
　青い空と青い海を見渡せる空の上。遥か下に先程までいた場所が見える。散らされた粉のせいでそこだけ霧に包まれているようだった。

「……ッ！！」

　そして、浮遊感を思い出すのと同時に眼下で爆発が起きる。頬を撫でる熱風が空の上にまで届いた。
　内側から膨れ上がるような炎の広がり方にルフィは息を飲む。

「な、何が起きたんだッ！？」
「……おい、麦わら屋。今後、間違っても火や火花を起こすような真似をすんなよ」
「え？　どういう意味だよ」

　ローのタクトで共に浮きながらルフィが首を傾げる。
　答えは別の場所から返ってきた。

「――種類にもよるけど、ある一定の密度の粉末物って火がつくと燃え広がり続けて爆発するんだ。
ぼくもこの能力扱ってて何度か失敗してしまってね。怖いよね」
「「ッ――！？」」

　ルフィとローが振り返るとそこには壊れた石畳の破片に座ったシロがいる。
　石畳の下では彼が操っている粉が固まっていた。彼が手を翳せば、また粉の球がそこに集まる。

[46 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/15(水) 09:43:19]

「流石にこの高度じゃ、あの人のも届かないし……。ぼく、銃ってあんまり得意じゃないんだけど」

　もう片手には小ぶりの銃を握り、困ったように笑う。微かに甘い匂いが漂っていた。

「トラ男、悪ィ」
「あ？　お前、なにし――」

　ルフィは全身を捻り、ローを掴む手に力を込めた。彼の体が強張るのを感じるが説明してる暇はない。きっと彼なら大丈夫だという確信もあった。
　粉の球が放たれ、躊躇いなく銃の引き金も引かれた。その弾はルフィたちに届く前に突如炎を纏う。
　ルフィは全身を元に戻す反動で、掴んでいたローをさらに高く放り投げた。

「ッ……麦わら屋！！」

　彼の体は散らされた粉の範囲から抜ける。同時にルフィの全身に熱と衝撃が伝わった。

「ぐ、ぎッ……！！」

　武装色の覇気は纏ったが、補えきれなかった場所に少なからずダメージが通る。
　だが、その程度に怖気付くような戦場は通ってこなかった。
　爆発でめちゃくちゃになった視界の中、ルフィは左腕を思い切り伸ばす。
　見えずとも、手が何かを掴む感覚がした。
　縮小する腕に引かれてルフィの体は高速で前に進む。

[47 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/15(水) 12:32:59]

「――シロォッ！！」

　熱風と炎を体で割り開いて進んだ先に、その姿はあった。掴んでいたのは彼が座っていた石畳の端だ。
　ルフィは己の右手の親指に噛み付く。一気に空気を吹き込み、その腕そのものを巨大化させた。
　グレーの瞳が大きく見開かれる。
　膨れ上がり、巨人族の如き破壊力を得た腕に覇気を纏う。
　視線の先でシロが手を動かすのが見えた。だが、彼のその右腕が突然斬り落とされる。
　血も出ずに不自然なほど綺麗な断面を見せた腕に彼自身が驚いているようだった。

「――てめェの相手は麦わら屋だけじゃねェッ！！」

　ルフィが放り投げた頭上で鬼哭を抜いたローが吠える。
　シロの硬直は一瞬。だが、それで十分だった。

「〝ゴムゴムの〟ォッ……〝象銃〟ッ！！」

　白く染まった体にルフィの拳が叩き込まれた。
　悲鳴も聞こえない。しかし、彼は弾けるように吹き飛ばされ、ちょうど船の上へと落ちていく。
ぶつかった衝撃で木片やら何やらが周囲に飛び散るのが見える。
　次の瞬間には、ルフィの体は空中ではなく、地面に足をつけていた。爆発のせいであちこちが抉れ、燃え上がっている。

「アッチチチ……！？」

　小さく揺れる火に足先を突っ込みかけて、ルフィは慌てて軽くとび跳ねた。
　その前をローが歩く。彼の視線の先には少し損壊した船がある。

[48 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/15(水) 12:55:13]

　ローの手には切断したシロの右腕が握られていた。白い指先がぴくりと揺れる。
　彼は慣れた仕草で手を持ち上げて呟いた。

「〝シャンブルズ〟」

　またルフィの視界が切り替わる。
　炎から離れ、足の裏がついた場所は天竜人が乗る船の上だった。

「……久しぶりに痛いって感じたかもしれない」

　壊れた樽や壁から、のっそりと白い体が起き上がる。
　シロが押さえた頭からは血が流れ出ていた。彼はそれを手の甲で拭って眺める。

「ああ、血は赤いんだ」
「……流石に血までは白くならねェよ」
「そっか？　そうなんだね」

　へらりとシロは笑う。
　彼が残った左手で壊れた木片を弾けば、それはすぐに形を失い、粉と化した。その粉を体に纏わせて彼はゆっくりと立ち上がる。
　ルフィはその間に軽く船上を見渡した。

「なんだ、この船ほとんど人乗ってねェな」
「うん？　うん、そうだよ。だってきみたちが来るかもしれないのに他の人巻き込めないだろ」
「お前、おれらが来るってわかってたのか」

　首を傾げれば、彼はその頬を軽く掻いた。

[49 二次元好きの匿名さん 23/02/15(水) 21:24:41]

シロ……

[50 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/15(水) 22:35:17]

「だってルフィ君たちは自分のやりたいようにするだろう？
死んだとしても船員たちだけだし、とりあえず最低でもきみたちふたりは来るかもしれないなと」
「おれの仲間は死んでねェッ！！　フキンシンなこと言うな！！」
「全員無事に決まってんだろうが。ふざけたことをしやがって……！」
「はは、そうか。……本当にどうにかしたのか」

　潮風が吹き抜ける。シロの小さな溜息が聞こえた。
　彼の動きを助けていたらしい、木片から生まれた粉がその色を失っていく。
　今まで操っていたものと同じく、白一色になるそれを見て、ローが声を潜めた。

「……てめェのそれは」
「そう、珀鉛だよ。何だかんだこれが一番身に馴染むというか、扱いやすくてね」

　シロが左手を振れば、集まった白い粉――珀鉛の粉末が蠢いた。
　まるで巨大な白蛇が宙で身を捩っているようにも見える。
　陽の光を受けて輝く白い珀鉛は確かに美しいのだろう。それが、人の命を蝕むものでさえなければ。

「この国にある珀鉛は全部お前が作ったということか」
「作るというか、なんというか……半分正解、かな。
まァ、だいたい察しがついているとは思うけど、ぼくは何でも粉にして操れる〝コナコナの実〟の能力者。
あとは粉にした物を知っている粉に変えられるんだ。こういうふうにさ」

　珀鉛の粉で拾い上げた木片を新たな粉に変える。それもすぐに彼の手の平で元の色を失い、白く染め上げられていった。
　ローの顔が険しくなる。

「やたらと毒性が強いのもそれで成分弄ってんのか」
「え？　いや、そういうことはできないよ。あくまで知っている粉に変えられるだけなんだから」

　そこまで言って、シロは閃いたように「ああ」と声を上げた。

[51 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/15(水) 22:43:47]

51

[52 二次元好きの匿名さん 23/02/15(水) 22:47:02]

ああ…やっぱりそういう事だったのか
ローのメンタルが心配になる

[53 二次元好きの匿名さん 23/02/15(水) 22:53:56]

これ戦いが長引く程より多くの珀鉛を吸う羽目になるってことか

[54 二次元好きの匿名さん 23/02/15(水) 22:58:55]

キッツイな…
ローの知り合いもいたかもしれないのか……

[55 二次元好きの匿名さん 23/02/16(木) 00:44:20]

フレバンスの人たちが芸術として飾られていたっていうこととそれを粉にしていてその行為に悪意がないことの二つの事実を同時に突き付けられて...冷静でいないといけないけどそれも辛いよな

[56 二次元好きの匿名さん 23/02/16(木) 08:12:20]

爆発を仕組んだのは誰なんだろう？

[57 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/16(木) 09:10:29]

　銃声は離れた場所から聞こえたのだ。そして今も、視線が突き刺さっているのを感じていた。
　それはあの魚人の警備兵のものだろうと察せられる。
　シロはグレーの目を細めた。

「……あの人も怪我が結構酷いし、本当は大人しくしていて欲しいんだけどね」
「隠さねェんだな」
「もうバレているのにどうにもならないじゃないか」

　彼の周囲に浮かぶ珀鉛の粉が分裂し、球体になっていく。

「最悪の世代の『麦わらのルフィ』に『死の外科医』……このふたりを同時に相手取るなんて無理がある話だけど――」

　シロの体が高くに運ばれ、ルフィたちを見下ろした。

「――ここで死んでくれ」

　珀鉛の粉の球がルフィたちに放たれる。それがぶわりと広がるのと同時に銃声が響いた。
　甘い匂いと熱が迫り、ルフィの眼前で広がっていた粉に着火する。

「ングッ！？」

　小規模な爆発が目の前で起きる。武装色の覇気を纏うも、衝撃で頭がのけぞった。
　あちこちに放たれた珀鉛の粉が徐々に広がり、辺りがうっすらと白んでいく。
　立て続けに銃声が響いた。

「〝ROOM〟――〝タクト〟ッ！！」

　ローの叫びに辺り一体が『手術室』に飲み込まれる。
　タタラを踏んでから体勢を立て直したルフィが目を向けると、燃え盛る弾丸が何発も宙に浮いて停止していた。
　彼はタクトで止めた弾丸を海に投げ捨て、再び手を振るう。

[58 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/16(木) 12:47:01]

「〝シャンブルズ〟！！」

　ゴトリと音を立て、壊れた樽のあった場所に無骨な長銃が入れ替わって落ちた。
　その長銃は彼が振った鬼哭によって真っ二つにされる。銃としての役目を失った残骸を彼はぞんざいに蹴飛ばした。

「あの魚人にはさっさと寝ろと言っておけ」
「お医者様としての助言かい？　まあ、それには同意見だけど……片腕じゃ色々やりづらくて。
ロー君、ぼくのその右腕返してくれるつもりはある？」
「あるわけねェだろうが！！」

　船に積んであった荷物がローのタクトで浮き上がり、シロに向かって高速で飛ばされる。ぶつかり合った積荷は破損し、無惨な形に崩れていく。
　だが、それも内側から更に崩壊していき、やがて粉に変わっていった。ローの舌打ちが聞こえる。
　ルフィが飛び出せば彼が浮かせた板や積荷が足場となった。
　それらを踏み壊し、ルフィは高く飛び上がる。
　珀鉛の粉のせいで視界は使い物にならないが、見聞色の覇気がシロの居場所を知らせる。覇気を纏った拳を思い切り叩きつけた。
　だが、その拳は人の形を捉えられない。蔓延していた白い粉の目隠しがカーテンのように割り開かれる。
　僅かに身を捩ってルフィの拳を避けたシロがそこにいた。

[59 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/16(木) 12:49:44]

　蠢き、一つの塊になった珀鉛の粉がルフィを横から覆い尽くす。

「ッ……！！」

　呼吸は止め、ギュッと目も硬く瞑る。
　それでも細かな粉末は容赦なくルフィの鼻や耳など無遠慮に入り込んでくる。そして、そんなルフィの脇腹に強い衝撃が走った。

「ゥ、ガァッ……！！」

　覇気を纏ったシロの蹴りがまともに入る。ルフィは粉の勢いにも押されるようにして、真っ直ぐ船上に落ちた。
　木片を撒き散らしながら甲板を突き抜け、その下の部屋に埋もれる。

「う……エホッ！　ゲホ、オェッ……！　口ん中気持ち悪ィ……！」

　唾液に混じった珀鉛の粉を吐き出すが、細かすぎて限界がある。見れば、ルフィの手もところどころ白く染まっていた。

「シロみてェになっちまった！　取れねェッ！」

　服の裾で擦るも、服もまた珀鉛の粉で真っ白になっている。
　チョッパーが白くなる理由を説明していた気がするが、皮膚に何か塗りたくられたような感覚は慣れなかった。
　フーッと自分の手に息を吹きかけて、口をへの字に曲げる。

「毒はおれあんまし効かねェけど、時間かけてられねェな……！」

　己に毒が効きにくいとはいえ、ローがいる。長引けば珀鉛の毒が彼の身に染み込んでしまうだろう。

[60 二次元好きの匿名さん 23/02/16(木) 20:57:19]

どうするんだろ？ドキドキする

[61 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/16(木) 21:30:43]

　ルフィは嵌り込んでいた場所から飛び出して、思い切り頭を振る。

　空気に白い粉がふわふわと混じった。

　鼻がムズムズして「ブエクションッ！」と大きなくしゃみが出る。

　指で鼻の下を擦りながら、自分の体が開けた大きな穴を見上げた。

　頭上からは激しい物音が聞こえる。その振動で船の破片かぱらぱらと降ってきていた。

　ローとシロが戦っていることは感じ取れる。ルフィは眉間にしわを寄せて呟いた。

「……トラ男のやつ、ビリビリする技とか使えねェんだな」

　ローは能力の特性上、多種多様な力を扱う。そのうちのひとつである電撃が出る技は、粉に引火して爆発を誘発する可能性があった。

　他にも直接相手の体内にダメージを与える技もあったはずだが、今日の彼はそれをあえて使っていないように見える。

「やっぱシロが病人だからか？」

　呟きながら首を傾げた。ルフィもわかっているのだ。シロの体は病人そのものだと。

　下手な攻撃はそのまま彼の命を奪うことに直結する。

　ルフィとて彼らのやることを止めには来たものの、別に殺すつもりはない。

　ルフィは白くなった拳を握りしめた。

「じゃあやっぱりおれが殴って止めるか、トラ男がバラバラにするかしかねェな！」

　フンッと鼻を鳴らす。

　そしてルフィは再び甲板に飛び出そうと脚に力を込めた。

1：何か降ってくる

2：頭上の戦闘音が止む

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[62 二次元好きの匿名さん 23/02/17(金) 01:20:24]

戦闘終了後2人が気を付けてても白鎧力尽きてしぬのでは……？はらはらするな

[63 二次元好きの匿名さん 23/02/17(金) 08:11:26]

どうなるだ…続きも楽しみです！

[64 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/17(金) 08:34:02]

　あれだけ激しかった音がふいに途切れる。
　ルフィの見聞色の覇気が姿の見えないふたりの様子を捉えた。

「あッ……！」

　『視えた』のは膝をつくシロと、彼の前に立つローだ。
　ルフィはすぐに飛び上がり、穴から甲板に飛び出した。
　船上は酷い有様になっている。
　破壊されて、飛散した船の破片や積荷の中身。海に落ちていったはずのマストも船首のあたりに突き刺さっている。
　ルフィが一歩踏み出せば甲板に積もった珀鉛の粉がふわりと浮いた。
　周囲には相変わらずその白い粉が蔓延し、霧のように漂っている。
　そんな中、目の前にあったのは先ほどルフィが感じ取った光景そのものだった。

「ぐ、ゥ……げほッ……！」

　シロが口元に手のひらを押し付けて激しく咳き込んでいた。その顔色は悪い。

「シロ、お前……」
「はっ……はァッ……ちょっと、はしゃぎすぎたね。大丈夫、きみの相手くらい、するから」

　彼の体がその手で操る粉に浮き上がる。
　ルフィは構えながらも顔を顰めた。

「おい、お前の相手はおれだけじゃねェって――」

　そう言いかけた時だ。
　どさりと音を立てて、ローの体が崩れ落ちた。

「――え？」

[65 二次元好きの匿名さん 23/02/17(金) 08:58:05]

ロー！？

[66 二次元好きの匿名さん 23/02/17(金) 10:50:28]

珀鉛の毒か?サニーの上でやった時の技使ったのかな...ローが倒れるのはだいぶマズいんでは

[67 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/17(金) 13:06:20]

　ルフィは一瞬、呆然とその姿を見下ろした。
　しかしすぐ、弾かれたようにローの傍らに膝をつく。

「トラ男ッ！？　トラ男、どうした！？」
「く……ッそ……！」

　息はある。苦しそうに悪態をつく彼の肩を掴み、ぐいと引っ張った。
　その顔の肌には今のルフィと同じように珀鉛の粉がこびりついている。
　白く染まった頬を歪め、彼は震える手を甲板に押し付けて立ち上がろうとした。
　だが、その動きすら覚束ない。

「この珀鉛のせいか！？　痛ェのか！？　そんなすぐ回る毒なのか！？」
「うる、せェッ……耳元で騒ぐ、なッ……！　ァ、げほッ……！」
「喋んな！　吸っちまうぞ！」

　喋りながら咳き込むローの背に手を置く。
　ルフィはこの珀鉛に対して知識はほとんどない。
　どれだけの時間が残されているか把握できていなかったが、身動きが取れなくなるのであれば迷う暇すらないだろう。

「……毒にもね、きっと相性があると思うんだ」

　頭上からふわりとした声が落ちる。ルフィが見上げれば、宙に浮かぶシロが見えた。
　最初に見た時よりも苦しそうな顔をした彼は小さく咳をしてから微笑む。

[68 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/17(金) 13:07:27]

「珀鉛の恐ろしさは蓄積した毒による中毒だよ。肉体に染み込んで各部位を侵食して破壊していく。
ぼくが作ったのは毒性が強いって言っていたけど、そんな物を直接吸えば肉体にはもちろん悪影響が出る。
珀鉛病がすぐ発症することはなくても、気分も悪くなるし、立ってるのも辛くなると思うよ。
吸い過ぎれば珀鉛病を発症する前に直接毒で死ぬかもね」
「……今ここにいるお前だってそれは同じだろ」

　珀鉛の粉を吸っているのはルフィたちだけではない。
　操っているシロもその真っ只中にいるのだ。いくら操作しているとしても、空気に混じった粉を完全に遮断するのは難しいだろう。
　彼の周りだけ一粒も近づけさせていないならわかるが、彼は常に直接触っているのだ。
　シロは当然のように頷く。

「そうだね。少しは排除してるところもあるけど……まァ、そこは気にしないで。ああ、話が逸れたな」

　いけないいけない、とぼやいて彼はローを見下ろした。

「毒の効きも個人差がある。ルフィ君も今はピンピンしてるけど時間が経てばどうなるかわからない。
そしてロー君だけど……彼の体はさ、珀鉛の毒が特に行き渡りやすいんじゃないかな」
「どういう意味だ」

　ルフィの返答にシロは少し黙り込む。グレーの瞳が僅かに彷徨ったあと、結局首を振った。

「……別にそのままの意味だよ。肉体に珀鉛が馴染むから毒の効きも特に早い。それだけだ。
……さて、ルフィ君。お喋りしていて良いのかな？」

　シロは左腕を広げて言った。

「早くしないとロー君、死んじゃうよ？」

[69 二次元好きの匿名さん 23/02/17(金) 13:11:34]

ローは一度珀鉛病になったことがあるから効き目が早いってことか？
早く除去しないと再発してしまう…！

[70 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/17(金) 19:57:55]

　ルフィの黒い視線と、シロの灰色の視線が混ざり合う。
　そしてルフィは彼から視線を外さないまま、淡々とローに話しかけた。

「トラ男、立てるか」
「ッ……当たり前、だろうが……！」
「わかった。シロ、少し待ってろ」
「は？　お前……！？」

　ルフィはローの体を肩に担ぎ上げて、先ほど自分の体が開けた甲板の穴に飛び込んだ。
　破壊された木床などを足早に踏み越え、一番近くにあった扉を開ける。
　目を白黒させているローを扉の向こう側にある通路へ置き、ルフィは白く染まった自分の両手を叩き払った。

「……麦わら屋、どういうつもりだ」
「甲板よりマシだろ。おれがシロと戦ってる間はトラ男、ひとまずここにいろよ」
「ふざける、な……！　おれはまだ戦え――」

　青筋を立てて眉を吊り上げたローに対して、ルフィはニッと笑った。

「別におれは、トラ男が戦えねェなんて思ってねェよ」

[71 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/17(金) 19:58:52]

　ローが目を軽く見開いた。ルフィは彼の返事も聞かずに扉を閉め、再び天井の穴から甲板へ飛び出す。
　シロは変わらず同じ場所に漂い、ルフィを待っていた。

「怒らないんだ」

　少しだけ意外そうにシロが呟く。
　ルフィは彼のその白い顔を見上げて、ゆっくりと拳を構えた。

「お前、わざとおれを怒らせようとしてるだろ。そういうのホントに趣味悪ィぞ」

　ルフィの言葉に彼は目をまん丸にさせた。どうやら本気で驚いているらしい。
　頬を掻いて苦笑した。

「……そういうつもりじゃなかったけど、そうなのかな？　まあ……いっか」

　彼が左手を振る。甲板に積もっていた粉もまた浮かび上がり、ルフィの周りを巡り始めた。
　だが、ルフィは微動だにせず、シロを見つめ続ける。
　頬や手の肌がピリピリと痛み始めたが、ルフィにとって些末なことだ。

[72 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/17(金) 22:46:15]

「シロ、お前はなんで天竜人を殺そうとしてんだ」
「え？」

　彼はルフィの問いにきょとんとする。周囲を覆う珀鉛の粉はルフィから視界すら奪い去った。だが、恐怖はない。
　白く染まる世界の中、シロの声だけが聞こえる。

「そうだな……簡単に言えば、ぼくの命を助けてくれた友達に恩返しするためだよ。
何を言っているかわからないかもしれないけど、〝天竜人〟という枷がなくなることでぼくの友達は自由に――」
「違うだろうが」

　シロの声が止まる。
　珀鉛の粉は吹雪のようにルフィに激しく吹きつけられていた。顔の皮膚に付着した珀鉛の粉が固まったのか、口を動かすと僅かにひび割れる音がする。
　それでもルフィは口を開く。肌の上で割れて細かな破片になった珀鉛が落ちた。

「お前が、どうしてそうしたいのか訊いてんだ」

　ぴたりと珀鉛の粉の動きが止まる。瞬けば眼球に張り付いた珀鉛の粉が零れ落ちていった。
　壊れた船は真っ白に染まり、宙に浮いて停止した珀鉛の粉はそれぞれまばらな塊になっている。それは時間を止めた雪のようにも見えた。
　ルフィの目の前に広がる白い世界は、どこかの童話の絵本の一ページに似ていた。

「……ぼくが」

　彼はぽつりと呟いた。
　その視線は何処か遠くを見ている。陽の光を受けて輝く珀鉛が彼の目に反射して映った。

「ぼくが――〝みんな〟と一緒にいたいからだ」

　しゅるり、しゅるりと珀鉛の粉が彼の頭上に集まり始める。渦巻き、大きな一本のうねりになった。
　彼は左腕を持ち上げて、珀鉛の粉の集合体を操る。
　――それは〝白い龍〟だった。

[73 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/17(金) 22:46:59]

　長く太い体も、鋭い爪の生えた腕も、白い鬣も、その全てが珀鉛の粉で作られていた。
　龍の顔の前に浮かんでいる彼は、ルフィを見下ろして微笑んだ。

「……そう言ったら、ルフィ君は全部諦めてくれるのかい？」
「悪ィな、無理だ」

　答えなどひとつに決まっている。
　握り込んだルフィの拳には元の肌色はもう存在していない。
　シロは目を細め、小さく頷いた。

「じゃあ、もうおしまいだ。きみのそのゴムの体も珀鉛で綺麗に染めてあげるよ」
「ンベッ！　絶対ごめんだッ！！」

　じゃりじゃりする舌を大きく口から突き出して、シロの提案を一蹴する。
　きっとその瞬間も彼は笑っていた。笑って、ルフィを殺すために手を振る。
　白い龍が空に昇った。宙で長い身を激しく捩り、その口を大きく開いてルフィを飲み込まんと真っすぐに落ちてくる。
　呼吸も体の自由も一瞬で奪い去る、死を運ぶ白い龍だ。
　本当に生きた龍であったなら、その喉からは咆哮が迸っていただろう。
　そして――ルフィは笑った。

「え？」

　足元から急速に膨らんだ半透明の空間が船全体を包み込む。
　〝彼〟の声は聞こえない。それでも〝彼〟が次の瞬間になんと言うのか理解できる。
　だからルフィは珀鉛で軋む左手を突き出して、指を三本だけ立てて手首を返した。

『――〝シャンブルズ〟ッ！！』

　ルフィに食らいつこうとしていた白い龍の体が弾けた。

[74 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 00:05:54]

　頭上から降り注ぐのは潮の匂いを纏った大量の海水。
　瞬きの間のみ龍の形をしていた海水は秩序を失い、空中で四散する。大粒の雨の如くルフィや船に降り注いだ。
　陽の光を受けて輝く水滴がやけにゆっくり落ちていくように見えた。
　シロもまた、その身を海水の雨で濡らす。驚きで開かれた彼と目が合った気がした。
　ルフィは一瞬で全身の血を沸騰させる。上がった体温で皮膚の上にあった海水が蒸発し、白い蒸気が立ち上った。
　濡れた甲板を蹴り抜けば木が砕ける音が響く。
　一呼吸でシロの眼前に迫り、拳を握り締めた。

「ウオオオオォォォォォォッ！！」

　ルフィが振るった拳とシロが振るった拳がぶつかり合う。覇気の弾けた音がした。
　黒い拳の応酬。拳が重なる度にその速度も重みも増していく。
　繰り出した蹴りも交差した。空中でお互いの体を弾くようにして揉み合う。

「ッ……ああ、もう！　『麦わらのルフィ』ッ！！」

　苦しそうにシロが叫びあげる。黒い左の拳がルフィの頬を掠めた。

「きみ――本当に邪魔だよッ！！」

　そこには張り付けたような笑みも、穏やかな声もない。
　僅かに切れたルフィの頬から血が垂れ落ちる。嗅ぎ慣れた己の血の匂いを感じながらも、ルフィは笑う。

「にししッ……！　そりゃ悪かったな！」

　そんなこと色んな者に言われてきた。今さらルフィが聞くわけがない。
　何故ならルフィは〝自由〟だからだ。誰にも縛られず、誰にも導かれず、ただ自分の望む道だけを見つめる。
　打ち込まれたシロの拳がルフィの腹に突き刺さった。ゴムの体でも覇気を纏った衝撃は内側にまで響く。
　しかし、その痛みを堪え、ルフィは彼の左手首を両手で掴んだ。
　シロが息を飲む。次の瞬間、彼の白い体をルフィは思いきりぶん投げた。

[75 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 00:07:40]

　彼を宙に浮かせていた粉の足場から落ちる。
　ルフィも彼を追って身を翻した。同時に己の親指に噛みつき、思いきり息を吹き込む。
　空気は瞬時に骨と筋肉の間を伝い、ゴムの両腕を大きく膨らませた。

「〝ゴムゴムの〟ォッ……！！」

　膨らんだ両腕を思いきり後ろに引く。覇気を纏い、真っ黒になった風船の腕だ。
　ゴムで勢いをつけたその手を思いきり引き戻す。
　徐々に落ちていくシロの目が見開かれた。その目にはルフィの姿がくっきりと映りこんでいた。

「――“灰熊銃〟ッ！！」

　空気を切り裂きながら放たれる黒い掌底。
　シロも盾にした左腕に武装色の覇気を纏っていたが関係ない。巨人を模したルフィの両手は白い体を押し込み、弾き飛ばした。

「ッ……！！」

　彼の体は破壊され尽くした港に落ちていく。瓦礫に突っ込み、派手な音を響かせ、熱された砂埃を立てる――はずだった。
　甲板に降り立ったルフィは麦わら帽子を押さえ、ゆっくり歩く。
　そして船のへりに飛び乗り――彼らを見下ろした。

「ッは、ァ……！　はッ……！」

　乱れた金髪。血や砂埃で汚れた白い服。突き出された両手。左手だけに血が滲んだ包帯が巻かれている。
　爆発の余韻でいまだに燻ぶっている港に立っていたのは天竜人の女だった。
　彼女は赤くなった鼻を啜り、大きく息を吐く。

「よか……間に、あった……ッ！」

[76 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 01:41:32]

　そう言った天竜人の前には半透明の球体に包まれたシロの体がある。
　ぴたりと時を止めたように、彼の体はそこに浮いていた。彼女は彼の入った空間に震える両腕を入れ、その白い体を後ろから抱き締める。
　すると彼の体を包んでいた空間が割れ、彼女を巻き込む形で地面に落ちた。
　ルフィは船のへりを蹴り、一歩だけの動作で彼らの前に降り立つ。シロを抱き締めながら座り込んでいた天竜人の肩が揺れた。
　彼女にルフィは何も言わない。
　数秒か、数分か。そうして沈黙を貫いていれば、ルフィのこめかみに鋭い剣の切っ先が向けられた。
　ルフィはそのまま口を開く。

「魚人のおっさん、もう動いていいのか」
「……こっちを見もしねェか」
「別におれは何もしねェよ。シロ、おっさんとパッツンに出てきて欲しくなかったんだろ。危ねェから」

　魚人の警備兵は鋭い歯を食いしばった。そして剣がゆっくり降ろされる。
　実際、彼がシロに許された行動は遠くからの援護射撃のみだったのだろう。
　ルフィの攻撃を受けた彼は気絶でもしているのか、目蓋を閉じていた。天竜人の啜り泣きが微かに聞こえてくる。
　彼女と視線を合わせるようにルフィはしゃがみ込んだ。

「お前らには天竜人殺すのは諦めて貰うけどよ。でも、シロの病気のほうはチョッパーとトラ男なら治せるんじゃねェのか？」

　ルフィの言葉に天竜人は勢いよく顔を上げた。
　真っ赤な瞳が涙で更に濃い色になっている。そこには縋るような感情が見て取れた。
　しかし、彼女は汚れた白い頬を震わせ静かに首を振る。

「も……も、う、シロ君は、手遅れなんで、す。〝時間〟が、経ち過ぎて、しまって……」
「〝時間〟？」

　何の話だ、とルフィが首を傾げる。すると背後で瓦礫を踏み締める音が聞こえた。

「――その女の能力で珀鉛病の進行を止めでもしてんだろう」
「トラ男ッ！！」

[77 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 01:42:32]

　振り向けば気怠そうに立つローがいた。
　まだ多少辛そうだが、甲板で見た時よりも足取りはしっかりしている。

「毒は大丈夫なのか？」
「珀鉛を少し抜いて、トニー屋の薬も服用した。薬が効くには時間は掛かるが……この程度は後でどうにでもできる」

　彼はルフィを追い抜き、シロたちの傍らへ乱暴に腰を下ろした。

「〝ROOM〟」

　こじんまりとした手術室の空間が形成される。
　鬼哭を僅かに鞘から引き抜いたローは〝ROOM〟内に〝スキャン〟を走らせた。
　青白い光に包まれ、天竜人と魚人の警備兵が身構える。ローは彼らの様子を気にすることなく鞘に刃を収めた。

「こいつは珀鉛病の末期患者だ。内臓から脳まで全部、珀鉛の毒に蝕まれている。
常に熱も出てんだろ。こいつにとっちゃ、もうそれが平熱かもしれねェが……十三年前からずっとこうか？」
「…………」
「言えねェのか。じゃあ、訊き方を変える」

　ローは声を低くさせた。

「十三年間、この患者を苦しめ続けてたのか？」
「――……ッ！」

　天竜人も魚人の警備兵も息を飲んだ。
　彼女にいたっては白い顔を真っ青にさせ、かたかたと震えていた。
　いまだに目を覚まさないシロの服の裾を握り込んだまま、やはり口を開かない。

[78 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 01:43:22]

「こいつはもう感覚も欠如しちまってるが、体はずっと悲鳴をあげ続けてんだ。健常者にはその苦痛はわかりゃしねェだろうがな」
「……トラ男、意地悪な言い方すんなァ」
「真実を言って何が悪い」

　悪辣な言葉はわざとなのだろう。流石にルフィは呆れて半眼で彼を見る。
　そんなルフィの視線を彼は鼻を鳴らして撥ね退けた。
　俯いていた天竜人は視線をルフィたちには合わせないまま、小さな声で告げる。

「わ……たし、だって、本当は――『オペオペの実』が、一番、欲しかった……ッ！！」
「……何？」

　訝しそうにローが彼女を見る。俯いた彼女の顔からぽたぽたと雫が垂れた。
　それはシロの頬に落ちて、肉の薄い輪郭を伝いながら落ちていく。

「シロ君の病気、治したく、て……！　必死に調べて、いたら、何でも治療できる、悪魔の実があるって知って……！
それがあったら、お医者様に食べてもらって、シロ君の病気、治して、って、お願いしたかった……ッ」

　彼女は両手で必死に顔を拭う。しかし、震える手では溢れ出る涙を止められない。
　ぽろぽろと透明な涙が流れていった。

「でも、奴隷に食べさせるために、沢山集められた父の、コレクションの中にも、そんな実はなかった……！
だから……わ、私ッ、せめて……シロ君の病気を、止めたくてッ……！」

　胸の前で手を握り込み、背中を丸めて嗚咽する。
　ローは何も言わず、そんな彼女を眺めていた。

[79 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 01:45:36]

「な、何でも止められるっていう、悪魔の実……『ストストの実』を、食べて……それで……」
「……それで、病の進行を止めたのか」

　確かめるように潜められた声に、彼女は頷いた。そしてゆっくりと持ち上げられた彼女の顔を見て、ルフィは思わず汗を滲ませる。
　泣き晴らした瞳は様々な感情が入り混じり、暗く淀んでいた。

「でも、この力は、万能じゃなかった」
「……言っておくがどの悪魔の実も万能じゃねェ。『魔法』みたいな使い方なんて――」
「違うんです」

　存外、はっきりとした声で天竜人はローの言葉を切る。
　そして、シロの顔を指先で撫でて、笑うように泣いた。

「動き以外の……何か、時間の流れ自体を止めるような使い方をすると、ダメなんです。
能力を解除した瞬間、止めていた分だけの時間が……一気に、経ってしまう、から」
「ッ……！　おい、待て……それじゃあ……ッ」
「――十三年分、珀鉛病が進行したら、血まで白くなるのかな？」

　そんな、冗談のように茶化す声が響いた。
　いつの間に目を覚ましたのか、シロが薄く笑っている。
　天竜人の涙で濡れた頬を気にすることなく、彼はゆっくりと身を起こした。
　まだぼんやりした様子でルフィとローに顔を向け、そして、魚人の警備兵を見上げる。

「あは、ごめん、おじさん。ぼく負けちゃった」

　なんてことを言って、彼はへらりと笑った。

「……鎧脱ぐと途端にガキになるな、お前」
「そう言わないでよ。〝隊長さん〟やってる時はちゃんとした大人っぽくやろうと、これでも頑張ってた、んだから……ッ」
「ッ、シロ君！！」

[80 二次元好きの匿名さん 23/02/18(土) 01:54:22]

駄目なのか…
もう助けられないのか…？

[81 二次元好きの匿名さん 23/02/18(土) 08:25:19]

シロくん…

[82 二次元好きの匿名さん 23/02/18(土) 18:30:53]

保守

[83 二次元好きの匿名さん 23/02/18(土) 18:34:58]

これはもう......

[84 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 18:49:58]

　咳いたシロの背を天竜人は慌てて撫でる。
　彼は小さく彼女に礼を言ってから、上半身を起こした。よろけた体を、しゃがみ込んだ魚人の警備兵が支える。
　ルフィとシロの目が合った。

「シロ」
「大丈夫、もう何もしない。……潔く認めて責任取るよ」

　そうして彼は肩を大きく落とした。

「あーあ……ずっと地道に頑張っていたんだけれど。みんなや王にも謝らなくてはいけないな」
「……シロ、君」
「ごめん。……ごめんね」

　涙を流す天竜人にシロは左手を伸ばしかけ――止まる。
　彼は眉を下げて、微笑むように彼女を見つめた。

「ぼく、きみと友達になれて良かった。あそこにいた時もきみのおかげで本当に辛くなかったんだ。
なによりこんな歳まで生きられたのもきみのおかげなんだよ。……約束を守れなくてごめん。
でも、きっとぼくのやり方は間違っていたんだろうなァ」
「…………」
「おじさんもほんとはわかってたのに止めなかったよね。……変なところで甘いんだから」
「うるせェ」

　水かきのついた大きな手の平が、白く染まったシロの頭をわしりと乱暴に撫でた。　
　シロは可笑しそうに口を大きく広げて笑う。
　そして彼はルフィたちを見た。

「じゃあ、終わりにしよっか」

　シロは左の手の平を開き、そのグレーの視線を落とす。

[85 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 18:51:22]

　彼の体が淡く光ったように見える。白く染まった額にぶわりと汗が噴き出た。

「お前、何して……」
「……ッぼくの能力で作った〝粉〟は自在に操れるし、変えられる。
もうこの国から『珀鉛』は全て――消さないといけないだろ？」

　ルフィとローは目を瞠る。島のあちこちから白い物が立ち上り始めたからだ。
　それは生き物のように空を泳ぎ、徐々にこの港の上に集まってきていた。
　麦わら帽子を片手で押さえ、ルフィは空を見上げる。
　幾重にも重なった白い粉の筋は僅かにその色を変えていった。

「……キラキラしてきれーだな」
「お前にそういう感覚あったのか」
「おい、シツレーだぞ、トラ男」

　なんてことを言っていればシロが笑う。昨夜の見晴台でのやりとりをぼんやり思い出した。
　ほんのりと色を変えた白い粉はゆっくりと空から落ちてくる。そして壊れた港の片隅に白い大きな砂丘を作り上げた。
　細かな白い粉の山の表面がさらさらと小さく崩れている。
　ルフィには何が何だかわからないが、あれはもう〝珀鉛〟ではないのだろうとローを見た。彼もその白い砂丘を見つめ、目を細めている。
　シロは、ぱたりと、地面に左手を落とした。その顔には濃い疲労が滲み、目は徐々にぼやけていく。
　もう眠りに落ちてしまいそうな雰囲気だった。けほり、と彼は小さく咳き込んだ。

「ぼく、今年は船、乗れそうにない、なァ……。海軍を呼ばないと、いけないかな」
「……『商品』はどうするつもりだ」
「ロー君……そんな怖い顔しなくても大丈夫だって。ぼくらも、失敗した時用に保険くらい、かけてるから。
ああ、やだなァ。みんな、海兵さん嫌いだから、機嫌悪くならなきゃ、いいけど」
「あ？　海軍嫌いは嘘なんだろ？」

　ルフィが首を傾げるとシロも真似をするように首を傾げる。

[86 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 18:52:42]

「嘘だけど、ホントでもある、かな。だって『ヒーロー』なんて、いないんだ。
……小さい頃は、信じてたけど、ね」
「……そりゃ『ソラ』だって物語の中だけの存在だろうが」

　ローはずっと持っていた白い右腕を、シロの腹の上に放り投げる。
　自分の切断された腕を見下ろしても彼は面白そうに笑った。

「あはは、そうだね。それでもさ……もう少し頑張ったら、もう少し耐えたら……助けに、来てくれるかもしれない、って。
ある意味そうやって、考えていられるだけでも、救いの手、だったの、かな」

　そうして、シロは薄い笑い声を漏らす。喉に空気が引っ掛かるような、そんな音だった。

「さっきは間違えて、ごめん。もう、お話も忘れ、ちゃ……った、けどさ。これでも『海ソラ』好き、だったん、だ」
「そうか」

　鬼哭を肩に寄り掛からせたローは僅かに顔を下げる。
　白い帽子のツバが彼の目元を隠し、その表情をわからなくさせた。

「本、出た時、サイン入りのやつが、当たって……ぼく、それが、宝物で……」
「……ああ、あれか。そうか……そりゃすげェな」
「そうそう……あれ……？　うん、そっか、そういえば、そうだったっけ。ああもう、よく覚えて、ないや」

　ぽたり。天竜人の目尻から新しい涙が溢れ、伝い落ちていく。
　彼女は口を挟まず、戦慄く唇を噛み締めて声を殺した。
　ローは彼が喋るのを止めない。治療も施さない。
　ルフィにもまた、徐々に弱っていくシロの心音が感じ取れた。

「お前、名前は？」

　唐突ともいえるローの問い掛けに、シロが僅かに目を開いた。

[87 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 18:53:08]

「ごめ……それも、忘れて、しまってさ。でも、もう、必要ない、んだ。だって、ぼくは――」
「――〝　　〟」

　小さく呟いたローの声を潮風が攫っていった。
　不思議とルフィの耳に届かない。しかし、それはシロの鼓膜を確かに揺らしたようだった。
　グレーの目を見開いたシロが口を震えさせる。

「……え？」

　呆けた声に、ローが帽子のツバを摘まんでずり下げる。
　そしてどこかわざとらしい、淡々とした声で言った。

「『海ソラ』のサイン入りの本を持ってる奴が隣のクラスにいると、おれの周りでは結構有名だった。
何人かはそいつに見せてもらえたと、興奮しておれに聞かせてくれたこともあった。
どれだけ貴重なもんだと思ってる？　……おれ自身は話したこともねェが、そんな奴、そう何人もいてたまるか」
「そ、れ……あ、ああ、ああ、そっか……そ、っか……」

　シロは歪んだ口をゆっくりと笑みの形に模る。

「は、はは、ロー君……そうだ、ぼく……」

　震えた左手を自身の目の上に押し付けた。

「ぼく――そんな、名前だった、んだ……ッ！」

　大粒の雫が彼の手の下から零れ落ちていく。
　ただにこにこと笑うだけの、物のような人間は消え去っていた。
　ルフィの目に映ったのは血の通う、普通の男だった。

[88 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 18:54:04]

　天竜人も背を丸めて泣いた。もつれた舌で何度も彼の〝名前〟を呼んだ。
　魚人の警備兵も歯を食いしばって、その鋭い目から涙を零す。
　三人は身を寄せ合って、思い思いに泣き続けた。
　彼らはいったいどれだけの間そうしていただろう。種族も立場もまるっきり違う彼らは決して離れない。
　だが、やがて、その声の内ひとつだけ小さくなっていく。

　壊れた港には火が燻ぶって煙が薄く立ち上る。同じように壊れた船は徐々に傾き、海に沈んでいった。
　港の片隅に積まれた白い砂丘は潮風に撫でられ、辺りに白色を広げている。
　柔らかな自然な色をした白だ。それはこの街を染める白と同じ色をしていた。
　そんな奇妙でちぐはぐな場所で彼は泣いて、笑って、言う。

「ふたりとも、これからもずっと、大好きだよ」

　ぎこちない動きで彼は自身の手を胸の上に置く。
　淡く、彼の体が輝いた。その顔に浮かぶ笑みは今まで見た中で一番人間らしい。
　ルフィは黙り続けていた。ただ、彼の選んだ道を見つめている。
　ローも指一本動かさず、眺めていた。

　――その場に残されたのは、ひとり分の白い粉だけ。

　彼の能力は、この国に残された『最後の珀鉛』を確かに消し去ったのだ。
　それはまるでひとつまみの粉を海へ散らしたような、呆気ない終わりだった。

[89 二次元好きの匿名さん 23/02/18(土) 19:12:06]

シロくん助かってほしいけど症状考えたら厳しいよなぁ……
だけど本当の名前を思い出せて、大切な人に呼んでもらえたのが救いになったと信じたい

[90 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 20:03:39]

★【××の記憶】を再生します。

【××の記憶】の記録の再生が終了しました。

[91 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 22:35:30]

4日目朝
【epilogue】

　青く澄んだ空に鳥が飛んでいる。朝が早いせいか人が疎らな港の端に、サニー号は停めてあった。
　もう朝食も終えたルフィはサニー号のある桟橋の上に立っている。

「……午後には海軍の船が到着するそうです」

　ルフィの目の前に立っていたのは、赤いワンピースを着た金髪の女性――天竜人だ。
　ツバの広い白い帽子を被って顔を隠した彼女は俯く。

「じゃあおれたちはさっさといなくなんねェとな」
「そう、ですね」
「「…………」」

　ふたりして黙り込む。ルフィは彼女に対して特別な悪感情は抱いていない。
　しかし、彼女からすればルフィたちは長年の計画をぶっ壊した邪魔ものなのだ。
　勿論、己が取った行動に対して後悔はない。それでも彼女の感情はまた別のものだろう。

「怒ってねェんだな」

　だから素直に問い掛ける。普通なら顔も見たくないと思われそうだが、彼女からは不思議と嫌悪感は伝わってこなかった。
　すると顔を上げた彼女は目を瞬かせから、小さく笑う。

「……正直に言えば、とても複雑な気持ちはあります。国も暫くは混乱するでしょう。
でもこれからこの国は、他の加盟国と同じように海軍の力を借りるようになります」

　――天上金は滞りなく支払われるそうだ。
　あの『商品』は処分され、何かあった時のために作っていた例年通りの商品が納められるらしい。
　そうして、この国の裏で巡っていた天竜人毒殺の計画は表に出ることもなく淡く消えていった。

[92 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 22:36:17]

「パッツンはもうこの国には来ねェのか？」
「いいえ、来ますよ。彼は……いなく、なっちゃいましたけど、おじ様やみんなだって私にとって大切な人たちです。
それに、あの子とも来年いっぱい遊ぶって約束したのに、破るわけにはいきませんから」

　吹き抜ける潮風に、彼女は白い帽子を手で押さえる。

「……私なりに考えたんです。今までずっと私は、彼やおじ様たちに頼ってばかりで……自分の境遇に嘆くだけだった。
ホントに情けないじゃないですか。自分で、何かしようとしなかったなんて、今更気づくなんて」

　その顔に浮かぶのは苦しそうに歪められた笑みだ。
　自嘲混じりに彼女は目を伏せる。

「私が『天竜人』であることを嫌がって、向き合うことをしなかったから……。だから、昨日からずっと『もしも』が離れないんです。
天竜人である権力を使って、彼のためにお医者様を見つけていたら……とか。やれることがあったはずなのに、私は……ッ。
もう……考えても仕方ないことなのに、そんなことばかり浮かぶんです」

　そう言った彼女の目の下には薄っすらと隈が見えた。
　ルフィにとってそれは完全に理解できない話ではない。
　目の前で大切な誰かを失えば、色んな感情や思考が勝手に頭の中で渦巻いてぐちゃぐちゃになるのだ。
　だからこそ、今の彼女に支えになる存在がいることは少なからずともまだ救いがある。

「無駄じゃねェだろ」
「……え？」
「考え続けることは無駄じゃねェだろ。だから、別にそれで良いんじゃねェのか？」

　彼女はぽかんとした。そしてすぐに唇を引き結び、目を僅かに潤ませる。
　しかし、その赤い目から涙が零れることはなかった。

[93 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 22:37:15]

「ルフィーッ！　そろそろ出航の時間よ！」
「おーッ！　今行く！」

　船上からナミの声が響いた。ルフィは彼女に向き直る。赤い目はルフィを見ていた。

「じゃあ、パッツン。おれたちはもう行くぞ」
「ええ……お元気で」

　そんな短い別れを終え、ルフィはサニー号のマストに向けて腕を伸ばそうとした。

「……ルフィ君！」

　しかし、それを止めたのは彼女の声だった。
　麦わら帽子を押さえながら顔を向ければ、彼女は眉を吊り上げて胸元に手を置いて息を吸う。

「私、もう絶対に天竜人をやめたいなんて言いません！　私は弱いから……ッ！
天竜人であることすら失ったら、本当に何もできない無力な存在です……！
だから……だからこそ、天竜人の権力を――正しく使いたいッ！！」

　涙に濡れた目には強い意志が宿っていた。
　ルフィはその赤く燃える感情を見つめ、そして、笑う。

「おうッ！　パッツンなら大丈夫だッ！！」

　伸ばした手がマストを掴み、ルフィの体を浮かび上がらせる。
　船に飛び乗ったルフィは身を翻し、彼女に手を振った。

「じゃあなッ！　魚人のおっさんにもよろしくなー！」

　帆が強く張られた。彼女のいる桟橋からサニー号が遠ざかっていく。

[94 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 22:38:23]

　陽気な音楽が船上に流れた。ブルックが演奏しているのだろう。
　小さくなっていく天竜人を眺めていたが、それもやがて視認すらできなくなる。
　波と風の音がブルックの演奏に混じった。もう普段通りのサニー号がここにある。

「ん？」

　すると視界の端にイエローの船体が映りこむ。
　見覚えのあるジョリーロジャーを見て、ルフィは身を乗り出した。

「トラ男ォッ！　もう体平気なのかーッ！？」
「……叫ばなくても聞こえてる」

　ポーラータング号の甲板にはローがいた。
　肌は元の色に戻り、あの白は何処にもない。それはルフィも同じだ。
　昨日はあの後駆けつけてきた仲間たちに色々任せ、ルフィとローは体に入り込んだ粉の除去のために緊急手術となった。
　チョッパーにはすごい悲鳴をあげられたものだ。自分では見えなかったが、どうやら本当に全身が真っ白になっていたらしい。
　ただ、それももう珀鉛ではなくなっていた。あの街を染めていた物と同じ、胡粉とやらにすっかり入れ替わっていたそうだ。　
　それでも肉体に浸みた珀鉛の毒自体が消えるわけではない。毒を抜く作業にはそれなりに時間を要した。
　他の船員も含め、暫くは中和剤の服用を言い含められている。正直、ルフィは飲むのを忘れてしまいそうだが。

「色々とありがとな！」
「別に礼を言われるようなことはしてねェよ。まさかここまでの大事になるとは思いもしなかったが……」
「うん？　それってチョッパーの持ってた本か？」

　ローの右手には一冊の古ぼけた本があった。
　ルフィの指摘を受け、彼はそれを軽く持ち上げて俯く。

「……ああ、ちゃんと正式に譲渡してもらった。文句を言うなよ」
「言わねェって。チョッパーとトラ男の間で決めたことだしな」
「そうか」

[95 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 22:38:57]

　サニー号とポーラータング号の間に風が吹く。
　ローは帽子を下げて、ルフィに背を向けた。

「トラ男はどっち行くんだ？」
「さぁな。少なくともお前たちと同じ航路じゃない」
「おれは針がブンブンしてたオモシロソーなとこに行くんだけどよ」
「……相変わらずだな」

　呆れを滲ませて、彼が顔だけ振り返る。
　だが、ルフィは満面の笑みで彼に手を振った。

「またどっかで会ったらよろしくな！」
「馬鹿言え、海賊が慣れ合うなよ」
「おう！　そん時はそん時だ！」

　肩を竦めたローが数歩進んでから足を止める。
　そして古い論文の本の背表紙を軽く肩に乗せ、ルフィに振り返った。

「麦わら屋、一応礼を言っておく。……ありがとう」

　彼の手が振られ、ポーラータング号が〝ROOM〟に包まれる。
　甲板から彼の姿が一瞬で消えた。立っていた場所には書き損じた紙のような物が落ちている。
　それは風に拾われ、あっという間に空に飛んでいった。
　ルフィが思わずそれを目で追っている間にポーラータング号は海に潜り、その姿を消していく。
　海面に上がってくる気泡もすべて見えなくなってから、ルフィはサニー号の甲板に振り返った。

[96 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 22:39:29]

　船首のほうで寝こけているゾロ。サンジが作ったジュースを飲みながら空を見上げるナミ。
　弾にしている植物を育てているウソップ。彼と一緒に花に水やりをしているロビン。そんな彼女にお茶を差し出しているサンジ。
　あの国で手に入れた本を熱心に読んでいるチョッパー。自分の体のメンテナンスをしているフランキー。
　舵の後ろで妙に明るい演奏を続けるブルック。その音楽に体を揺らしながら舵を握るジンベエ。
　仲間たちの姿を確認して、ルフィはニッと笑みを浮かべた。

「――サンジー！　昼飯なんだッ！？」
「ついさっき朝食食ったばっかだろうがこのクソゴムッ！！」
「あッ！？　そういや宴し忘れたッ！？　トラ男たちもういなくなっちまったかな！？」
「次の島に向かっちゃったに決まってるでしょ！」

　騒がしさはサニー号にとって日常だ。ナミに頬を引っ張られながらルフィは笑う。

「もう……次の島は危険じゃなければ良いけど……」
「そんなにブレてる針の時点でヤベーだろ……」

　顔を青くするチョッパーにナミも頷く。その表情には諦めと覚悟が浮かんでいた。
　だが、ルフィの胸を躍らせるのは次の島に対する期待だ。握り締めた拳を振り上げて叫ぶ。

「よーしッ！！　次の島では冒険するぞォーッ！！」

　何が起きるかわからない『新世界』。危険と隣り合わせであることは承知の上だ。
　そんな未知とワクワクが詰まった海をルフィはこの仲間たちと共に旅をする。

　――仲間となら、どんなことも乗り越えられるのだから。

ＥＮＤ.
★③トゥルーエンド【白い轍の先へ】をクリアしました。

[97 二次元好きの匿名さん 23/02/18(土) 22:46:25]

とても面白かったです！スレ主ありがとう！

[98 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 22:47:55]

色々と書き忘れたようなものとかありますがおしまいです
一か月以上ありがとうございました！
まさかこんなに長く…なるとは…途中で正気に戻って「おれは…なにを書いて…？」と心折れそうになったものの完結までなんとかこぎつけられたのは読んでくれている方々のおかげ…
完全に壁打ちっていうか書き上げられるとも思ってなかったというか…マジで感謝…

誤字脱字誤変換オリキャラ祭りだったのは本当にすまない
ダイスSSとしておきながら途中からダイスが息をしていないのもすまない
全体的に心の目で読んでほしい…！

本当にありがとうございました…！！！

[99 二次元好きの匿名さん 23/02/18(土) 22:49:09]

めっちゃ読むの楽しかったです！ありがとう！

[100 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/18(土) 22:51:09]

（どうでもいい話なんですけど「完走するまでオデッセイやらねぇ！！！！！！！！！！！！！！」という縛りを自分で課してしまったせいで未開封のオデッセイが手元にあるのでこれから楽しみます）

ぼちぼち解説？とかできればしてこうかと思いながら…気になるところあれば…答えられるとこは答える…かな…！？

[101 二次元好きの匿名さん 23/02/18(土) 23:15:28]

お疲れ様でした！めちゃくちゃ面白かったです！！ありがとうございました！

[102 二次元好きの匿名さん 23/02/19(日) 08:40:21]

完結おめでとうございます！
日々ハラハラさせていただきましためちゃくちゃおもしろかったです！
掲示板書き込まないロム勢なんですけどさすがにこれはお礼を言わなきゃと思い…
素晴らしい作品をありがとうございました！

すみません質問もさせてください。
ストーリーの分岐点ってどこでしたか？
それ踏まえてまた一から読み直したいです。
できたらよろしくお願いします！

[103 二次元好きの匿名さん 23/02/19(日) 11:08:36]

お疲れ様でした！毎日本当に楽しく読ませていただきました、ありがとうございます！！
他のエンドについても軽く結末を教えて貰えると嬉しいです

[104 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/19(日) 12:16:27]

とりあえずオリキャラの設定を纏めてみたら思ったより文字が…

見なくても全く問題ないんですけど裏話程度の設定みたいなあれそれ

オリキャラ設定

[105 二次元好きの匿名さん 23/02/19(日) 12:43:14]

完結お疲れ様です！

とても楽しく読ませていただきました

素晴らしい作品をありがとうございました！

バッドエンドだと結構亡くなってるみたいだし、トゥルーエンド引けて本当に良かった…

>>104

チョッパー&ロー工場脱出時に出会った女性って王妃様だったんだ…

この時のもう片方の選択肢の人ってどなただったんだろう

工場で得られなかった情報はその人からもらえたのかな？と思ってるけどどうなんでしょうか（差し支えなければ取りこぼした情報の内容を教えていただきたく…）

[106 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/19(日) 12:57:17]

>>102

こちらこそありがとうございました！

ストーリー分岐はおおまかに2箇所ありました

序盤は「白い花畑」の話と「子供の売買契約」の話のどちらかが拾えていれば、ひとまず「②バッドエンド」と「③トゥルーエンド」のルートへ

「①ノーマルエンド」は何も情報を得られなかった場合のルートです

これ、ゾロのサニー号からの迷子判定ダイスは本当に気まぐれと思い付きで投げただけだったんですけど、おかげで何故か初日で早々に二つの情報拾い上げられたんですよね…さすゾロ…

終盤の「②バッドエンド」と「③トゥルーエンド」の分岐は「天竜人の気絶の有無」でした

この分岐についてはもしゾロが戦闘で護衛を5人以下に数を減らしていれば、その後のルフィの「覇王色の覇気」ダイスは発生しません

今回は5人以下にできなかったのでルフィの「覇王色の覇気」ダイスが発生しましたが、その時に天竜人の気絶する結果が出ていれば「②バッドエンド」直行になっていました

だいたいそんな感じです！

[107 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/19(日) 13:00:43]

>>103

お読みいただいてありがてぇ～～～！ありがとうございます！

各々のエンドはさっくりとこんな感じです

「①ノーマルエンド」

「白い花畑」や「契約」の情報を得られず、おかしな病気の話があったんだな～程度の流れで普通に三日間を過ごしてルフィやローたちが何事もなく出航

その後、数年後に『天竜人たちの間で肌が白くなる奇病が発生！！　「珀鉛病」フレバンスの悲劇再来！？』と「世経」に載っているのを誰かが読んでおしまい

モルガンズ「絶対に記事にする！　絶対にだッ！」

（あくまで裏設定程度ですが体に限界が来ていたシロはその頃には死亡済み）

「②バッドエンド」

>>104 の設定で記載したようにシロに掛けられた病気の進行を止める能力は「天竜人（能力者）の気絶」で強制解除される話が前提

ルフィの覇王色の覇気で先代天竜人の娘が気絶すると魚人の警備兵が慌てて彼女を起こそうとする

その尋常ではない様子にどうしたのかと困惑するルフィたちはひとまず彼らを置いて先に進む

巨人の工場長とパフュパフュの実の男を乗り越えて辿り着いた先では全身鎧が倒れている

ルフィとローが駆け寄って兜を外してみるとそこにあったのはおよそ人間とは思えない姿になったシロの成れの果てだった

どういうことだと混乱していればそこに魚人の警備兵に抱えられた天竜人の娘がやってくる

すでに目を覚ましたらしい天竜人の娘はルフィたちなど眼中にないようにシロに駆け寄って泣き叫ぶ

そこでルフィたちには理解できない話をぶつぶつと言ってから、彼女は自分の胸に手を置いて「思い出しました、そういえば私はあの時こうしたんです」と自分の能力で自分の心臓を止めてしまう

残ったのは折り重なって死んでいるふたりとそれを眺めている魚人の警備兵

魚人の警備兵はルフィたちに「おれらの負けだ」とだけ言ってふたりの亡骸を抱きかかえて海のほうへ歩いていく

ルフィが声をかけても彼は振り返らずに海に消える

その後シロたちの死を知った工場長たちが工場を爆破し、混乱に押されるようにしてルフィたちは何もわからない状態のまま出航する羽目になる

細部は変わるかもですがこんなエンドになる予定でした！

[108 二次元好きの匿名さん 23/02/19(日) 13:08:58]

完結おめでとうございます！トゥルーに行けてよかった……

[109 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/19(日) 13:41:51]

>>105

読んでくれている方がいたおかげで完結できました！

ありがとうございます！

わりとだいたい情報得られたのと、駆け抜けすぎてスレ主の頭の中で情報散ってしまっている関係でぼんやりですがひとまず未取得系の話を…

★街の中/公園取得情報

【国の制度の話】

子供と高齢者に関して手厚い手当てがあって助かるという話が聞ける

（王側の立場として国民に対する贖罪としてこれからの子供たちを健やかに育てたい、被害に遭った家族の人たちだけでもせめて不自由なく暮らして欲しいという考えから手当てが充実している）

★隠れ港/情報4つのうちの残り1つ

【売却リスト】

これまで売られた子供たちの情報（傾向だとか）の他、仲買人や立会人としてとある天竜人が関わっていることも書かれている（どれを引き当ててもある程度は情報回収できるような内容になってました）

※隠れ港の補足として【双子の少女の写真と資料】の顔にバツが描かれていたほうが【第二王女（ピエロ）】でした

★工場/倉庫取得情報

【珀鉛の入った商品の在庫】

珀鉛の入った商品と、そうではない商品のどちらも見つける

ちなみに倉庫に来ていたら赤青魚人コンビと戦闘発生

※補足/工場長室ルート

ここでは世界政府と新たに交わした優良品に関する契約書の原本が見つかる

ちなみに工場長も部屋の外を出歩いているので誰とも戦闘が起きない

[110 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/19(日) 13:42:17]

>>109

続き

★工場/通路の分岐

「こっちにおいで」は鎧を脱いだシロモードのシロ

フードを被り、暗い通路の中から出てこないためチョッパーたちに顔などは見られない

親切そうにチョッパーたちに見取り図をあげて外に出ることを促すので、こちらのルートだと【〝ホワイトモンスター〟の話】が取得できなくなる

ちなみにここは完全にパラレル分岐？のため「こっちにおいで」になっていたら街のほうに隊長として出歩いていない

ゾロたちに負けたピエロとパフュパフュの実の男はそのままゾロたちに回収されている話になったかと

※回収したらしたで結局その後にピエロたちを迎えに来たシロに襲撃を受ける

今思い出せる範囲だとこんな感じですが「ここも知りてェ！」があったらどうぞ…！

[111 二次元好きの匿名さん 23/02/19(日) 13:45:59]

バッドエントはどうなってたんですか？

[112 二次元好きの匿名さん 23/02/19(日) 13:51:40]

>>111

バッドエンドは >>107 に書いてあるような感じになる予定でした！

分岐については >>106 の流れです！

[113 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/19(日) 13:53:11]

うっかり名前消えとりますが >>112 は間違いなくわしです…

[114 二次元好きの匿名さん 23/02/19(日) 13:54:20]

最終日のナミさんたちの動きが気になる

[115 二次元好きの匿名さん 23/02/19(日) 15:38:34]

完結お疲れ様です！
とても面白くて切なくて毎日が楽しかったです
本当にありがとうございます！
色々あったけれど最終的にルフィ達にローの過去がバレたのかどうかが気になります

[116 二次元好きの匿名さん 23/02/19(日) 20:32:17]

完結おつかれさま！
いつも楽しみにしていました！
トゥルーにいけてよかったです！

[117 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/19(日) 22:34:13]

>>114

本当はナミたち海側の動向も書こうかと思っていたんですけど書ききれねえ…！と削ってしまって申し訳ない…

イメージとしてはちゃんと港の位置は掴んでハートの海賊団と一緒に来てたんですけど、周辺の海を警戒してた赤青魚人コンビと戦闘になってました

魚人相手に海中戦仕掛けるハートの海賊団とか、海面に雷落とすナミとか

それでダイスとかの結果によってはサニー号直したフランキーも突っ込んできてわりとめちゃくちゃになったり

赤青魚人コンビ倒したあとは港の辺りが爆発したのも見てたのでルフィたちが戦ってるのがわかって、巻き込まれないように少し離れたところから「絶対に勝ちなさいよね！」と心の中で応援してた感じですかね

[118 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/19(日) 22:50:24]

>>115

こちらこそありがたいです！

おかげさまで書き終えられたので本当にありがとうございます！

ローの過去については一応『麦わらの一味』は気づいていない方向です

正確には全く気づいていないというよりも、詮索しなかったみたいな感じというか…

言動とかで一部の人は何らかの関わりがあるかも程度にうっすら感じ取っていたかもしれませんが、ローが自分からそうだと言わないのそれ以上は踏み込んで考えていません

ルフィもローとシロが一応同郷だったんだなとは思っても、何があったのかはきちんと把握してないので、そこから先についてはやはりローから何か言わない限りは踏み込みませんでした

この話のロー自身も、わりと感情的に振る舞ったところはありつつ『麦わらの一味』に自分の境遇とか故郷の話までは共有するつもりはなかったので、もし訊かれても答えてなかった感じですかね

[119 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/19(日) 22:57:46]

エンドを自分で見直しててノーマルエンドも普通にバッドエンドでは…？と今更気づいてしまった…

本当はホラー系のダイスSSやりてえ！と思ってたのにホラーの才能がなかったので前から考えてた、ロー以外のフレバンスの生き残り（オリキャラ）と天竜人になりきれない天竜人の女の子（オリキャラ）のボーイミーツガール的な話を書いてみるか…と思ったらこんな話になってましたね…
ルフィたちにとにかく事件を解決して欲しくて…

[120 二次元好きの匿名さん 23/02/20(月) 01:15:51]

祝大長編完結お疲れ様おめでとう！
スレ主のオリキャラが誰もかれもみんな生き生きしてて凄かった…パフュパフュオッサンがタッグ特効の怖い敵でおれ的にはイチ推しです
バッドエンドかもとスレ主はお考えみたいだがあの背景で無茶押しまくりのシロがきちんと人として看取られた景色は、切なくはあっても幸いだったし人生の結末としてけっしてバッドではなかったよ！あくまでおれの考えだが！
シロはちゃんと名前を持っていけたし、珀鉛病を蔓延らせる企てをハト麦連合が叩き潰したこの物語は凄くビターなハッピーエンド…うーんやはりトゥルーエンドかな切ないなぁ
ほんとに面白かった！さー読み返すべ！

[121 二次元好きの匿名さん 23/02/20(月) 05:27:39]

いつもワクワクしながら見てました!
完結おめでとうございます!

[122 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/20(月) 12:46:04]

ダイスが最初と最後くらいしか仕事してないSS？でしたが、読んでくれたり感想くれたり色々考察してくれたりとリアルタイムで色々反応あったことが新鮮で楽しかったです！
アドリブだらけで捻りのあるもん書けないんですけど時々鋭い方いて笑ってしまった

あんまり語るのも恥ずかしいのでひとまずこれで
何度目って感じですがここまで読んでくれてありがとうございました！

[123 二次元好きの匿名さん 23/02/20(月) 21:14:55]

完結お疲れ様です！
毎日更新されるのを楽しみにしていました
本当に素敵な作品をありがとうございました！

[124 二次元好きの匿名さん 23/02/20(月) 21:52:02]

完結おめでとう！！そしてお疲れさま！とっても面白かった！！
ここ最近は「そろそろかな？」とスレを除きにくる度に「これからどうなるんだろう？」とハラハラドキドキしてばっかだった！
もうこのお話は完結してしまったんだなとか、スレ主のお話はもう読めないのかなとか思うとやっぱり寂しい
でもスレ主には一カ月以上も楽しませてもらったから声を大にして言いたい！
こんなに面白い話を生み出してくれてありがとう！！！

[126 二次元好きの匿名さん 23/02/21(火) 16:31:19]

完結お疲れさまでした

[127 二次元好きの匿名さん 23/02/22(水) 01:20:28]

継続することってめちゃくちゃ大変だからこの長さの話を完結させたスレ主はすごい、本当にお疲れ様
最初から最後まで目が離せなかったし何度でも読み返したくなる
現に読み返していて、最初はただ本がたくさんある国ってだけだったんだよな…ってなってます

長編を書き終えた直後に聞くことじゃないかもしれないけど、スレ主はぼんやりとでも“またSSスレをやりたい”と思っていたりする？

[128 二次元好きの匿名さん 23/02/22(水) 01:26:11]

バットじゃない方はどうなったんだそれにしてもお疲れ様でした！

[129 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/22(水) 09:03:38]

>>127

正気に戻ったらしぬの気持ちでなんとか駆け抜けましたありがとうございます！

ただのロム専に戻るつもりだったのでなんとも言えないけどやるなら「不思議島！化け物！探検！！！！」みたいなのがぼんやり…？

約束はできん！すまん！ありがとう！

[130 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/22(水) 09:06:55]

>>128

バッドじゃない方ってのはノーマルエンドでええんかな…？

上にも書いたがとりあえずこっちにエンド纏めたんで良ければ見てくれ！読んでくれてありがとう！

それぞれのエンド

[131 二次元好きの匿名さん 23/02/22(水) 12:46:59]

エンディング条件の天竜人の娘の気絶の選択肢改めて見に行ったら、1d100で81以上気絶のところを出したのが2だったので圧倒的大丈夫感に笑ってしまった
絶対トゥルーにしてやるというダイス神の意思か、我らが船長の主人公力の賜物か…

[132 二次元好きの匿名さん 23/02/22(水) 23:55:38]

めちゃくちゃ面白かった！！

シロくんが名前思い出せて良かった…

[134 二次元好きの匿名さん 23/02/23(木) 15:56:05]

>>133（文章がおかしすぎてので上げ直し）

シロと天竜人の『お姉さん』と魚人のおじさんの三人が寄り添い合って泣いているところで涙腺が耐え切れませんでした

名前思い出せてよかったねという気持ちと、本当にもうダメなのか……という気持ちが繰り返しやってきて心臓がきゅっとなります

エピローグもエピローグより少し前の文章も読めないや……でもシロにとっては切なさばかりじゃないんだよな……

[135 二次元好きの匿名さん 23/02/23(木) 17:17:14]

>>118

面白かった！お疲れ様でした

個人的にドジっ子＝奇跡的に生き残ってたコラさんという

二次創作ではありがちすぎ＆原作の良さを殺す展開ではなく

実はもう体がボロボロで歩けること自体不思議だったというどんでん返しと

ローが自分の過去や故郷のことを

麦わらの一味にペラペラ話す予定はなかったという線引きがされてたことが

とてもよかった

[136 二次元好きの匿名さん 23/02/24(金) 02:28:23]

毎日の楽しみが終わってしまって悲しいけど本当に面白かったです
トゥルーエンドでよかった…シロくんが自分の名前を取り戻せて、彼女とおじさんが彼の名前を呼べて本当に良かった

文章考えるの下手だから今日までかかったけど素晴らしいSSだったということだけは伝えたかった

[137 二次元好きの匿名さん 23/02/24(金) 12:50:42]

面白かった
キャラ達の再現力高くて
ハートのクルー達の活躍ももっと見たくなるほどだった

[138 二次元好きの匿名さん 23/02/24(金) 23:48:20]

正直、何気なく開いたSSスレでこんなに心を動かされて涙まで出るとは夢にも思わなかった
数あるスレの中から見つけられて本当に良かったってしみじみ感じてる
途中途中の挿絵がこれまた上手くて、（いい意味で）スレ主何者？って言いながら何分も眺めてた
改めて感動をありがとう、スレ主

[139 二次元好きの匿名さん 23/02/25(土) 11:18:18]

シロの立てた計画についてきた人達はシロ亡き後どうなったんですか？

[140 スレ主◆UmOy/gVenc 23/02/25(土) 20:17:36]

>>139

それぞれ元の仕事はそのまま続けて普通に生活をしてる感じです

天竜人を害する計画は結局政府には露見してないので

珀鉛商品はもう作れない（作らない）から今までと同じ真っ当な商品を作って管理して警備して…みたいな

ルフィたちに負けたのも事実で、シロのこともシロが決めた終わりなので思うところはありつつも復讐とかには走らないですかね

それはそれとして長年連れ去った仲間なので亡くなったことをちゃんと悲しんでますが

王様も今生きてる民と娘と妻とちゃんと向き合おうと前向き（？）にやっていくと思います

多分ある意味一番衝撃受けてるのは何も知らない一般的な警備兵のほうかな…突然隊長死んでるので…

そこらへんのフォローは副隊長だったおじさんがやって頑張っていきます

元々治らない病気だったことはぼんやり伝えて弔うのかな…

[141 二次元好きの匿名さん 23/02/26(日) 08:06:07]

>>140

答えてくださってありがとうございます！

天竜人の女性の覚悟に安堵していたんですが、他のオリキャラ達のその後の描写がなくてずっと気になってました

個人的にブルックの言葉がちゃんと届いていて安心しました