- 1ネーサン、ウインディっす23/02/12(日) 21:19:22
- 2ネーサン、ウインディっす23/02/12(日) 21:19:59
「犬か猫か?あぁ、最近のアレか」
「ウインディちゃんはやっぱり犬と走って遊ぶ方が良いのだ、ネーサンはどっちなのだ?」
事の発端は2~3日前。野菜の扱いを巡って芦毛と黒鹿毛、二人の怪物が一触即発――というのは噂に付いた尾ヒレに過ぎん。実際は皿の端の野菜に注がれた視線に気付き、そそくさと詰め込んで終わり。
そこから『二大怪物、食堂大決戦!』『大型犬vs家猫!』『犬派?猫派?』と滑った話題で持ちきりな訳やが――
「アタシはやっぱり猫、かな」
無意識に本棚に目を遣りながら、チャリ(もみあげ)の前、鉛筆ほどの白い束を指先で弄る。視線の先にはもう使う者の無い蹄鉄が片方と、フレームの中の二枚の写真。
ウインディの前、アタシが初めて担当したウマ娘の、最初と最後の勝利記念。
「猫やら芦毛やら聞くと、つい見てしまうな」
『お姉やん、染めてたん?ウチとお揃いやん、きっとそれが引き合わせてくれたんやで!』
――高校の頃からのコンプレックス、染めるのを止められたんはアンタのおかげやな。
『こっちが先や!砂丘は無い!』
――お面の耳飾りに和装の勝負服、どっかのアホちんが“イナリの2Pカラー”なんて言うた時は割と本気で怒ってたな。
『……なんで泣くんよ。ウチはお姉やんと組めて……思う様に走れて……何も悔いは……無いで。……いや、ナシ。ホンマはもっと走りたか……ッ……』
――それがあの娘がターフに残した、最後の言葉。
入学直前に本格化が起こり、髪は既に真っ白に変わったあの娘は“早熟の大器”と見込まれ、初めから注目を受けてた。
当然有力なトレーナー達がスカウトにかかり――我の強い気性にすぐ折れていった。アタシのような新人があの娘をスカウト出来たのも、悪く言えば余り物を拾えたようなモン。
生まれは神話の国、富士を臨んで育ち、お母はんは関西の人。言葉が混ざって近いせいか妙に気が合った。トレーニングも順調に進み、あの娘は着実に勝ちを重ねていった。
しかし良い事ばかりは続かんモンで、早くに訪れた本格化は終わりもまた早く――あまりにも早く、二年目の秋にはハッキリと下り坂を迎える。
翌年の予定は白紙、全てを注ぎ込んで引退と決めた年内最後のレース。その時に異変は起きた。 - 3ネーサン、ウインディっす23/02/12(日) 21:20:41
立ち上がりも位置取りも問題無かったハズが、あり得ないタイミングで明らかな失速をした。三女神が運命を決めているとしたなら、この時ほど恨んだ事は無い。あの娘は正に今、走力を失ったんや。見る間にリードを失い、バ群に呑まれ、内ラチとの間に挟まれ――
「最後の蹄鉄、大事な思い出の品やないですか。持って行って下さい」
「片方あれば充分ですので。今まで大変お世話になりまして、持っていて下さったらあの娘も喜びます」
ご両親はそう言われて片方を下さり、今も本棚で静かに鈍い輝きを放つ。寮はその年の内に引き払われた。
アタシはその後ひどく空虚な時期を過ごし――廃業さえ考え――教官として指導する中、あの娘の面影を求めていたのかも知れん。まるでスカウトの場に帰って来たように思えたんや。
「そこまでは知ってるのだ。猫は何なのだ?」
「猫好きの与太言なんやけどな。自分の最後を悟った猫は姿を消して……その人を気に入ってたら、新しい毛皮に着替えて戻って来るんやて。
あの娘が居らんなった後、適性や気質の近いアンタと会えたのは何と言うか、運命のようなモンを感じてな。その話を思い出すんよ」
「ううっ、ネーサン……きっと前の猫ちゃんも、どこかで元気にやってるのだ!」
「……ウン。どこかで、ってか……」
ちょうどその時、トレーナー室のドアに手がかかる気配がした。
「サプラーイズ!」
「おわーっ?誰……パイセンなのだ!」
「よう来たな。長旅お疲れさん」
「なんや、お姉やんは驚いてくれんなぁ」
「“元”生徒と言うても、総務と警備にサプライズは出来んからな。そろそろやと思たで」
「しゃーないな。あと、パイセンはそっちやっての、ウインディはん」
「ネーサンの門下ではそっちが先なのだ」
「?なんか泣いてない?」
「さ、さっき驚いたせいなのだ……」
「まさかまた、ウチを勝手に死なせて遊んでたんや無いやろな~?」
「ウッ」
「ハハッ、そらアンタが元や」 - 4ネーサン、ウインディっす23/02/12(日) 21:21:35
――走力を失ってバ群と内ラチに挟まれたこの娘は、高跳びのようにラチを越えて難を逃れた。最後のレースをリタイアで終わるのは不本意やったろうけども、あの状況でベストな判断が出来たと思う。引退会見でもそうあって欲しかった。
「『燃え尽きたぜ……真っ白にな……て、元から真っ白やないかーい☆』って、芦毛の娘達が春までネタにされてたのだ」
「あ、あん時はネタに走らんとやってられんかってな……」
「まあ解るで。せや、改めて。おめでとうさん」
地元の一般校に移ってからこっち、頭からレースを追い払うかの様に試験勉強に打ち込み、推薦入学を決めた!と報せがあったばかり。
「今日は一人なのだ?」
「うん、従兄弟の所に泊まんの。明日はウチの親も来るで、お姉やんと会うの楽しみにしてる」
「聞いてるで。時間が大丈夫やったら三人で何か食べに出るか?」
「「賛成!」なのだ!」 - 5ネーサン、ウインディっす23/02/12(日) 21:22:13
未実装を良い事に、今まで勝手にキャラ盛って書いてましたが……ついに来ましたね、おめでとうございます
今の内に投下! - 6二次元好きの匿名さん23/02/12(日) 22:29:52
ネーサン、お疲れ様です
明日かあ・・・ - 7二次元好きの匿名さん23/02/12(日) 22:30:34
その名前はなんなの?
- 8ネーサン、ウインディっす23/02/12(日) 23:11:20
「HOTEL」って古いドラマの、主人公の決まり文句が「姉さん、事件です」だったんで……
- 9二次元好きの匿名さん23/02/13(月) 00:34:58
ウインディちゃん実装おめでとうなのだ!
芦毛さん生きてて良かったのだ
ネーサンの元にちゃんと戻ってきてくれてよかったねぇ - 10二次元好きの匿名さん23/02/13(月) 05:04:48
実装済みだろうが皆自由に書いてるんだよ
そう言うもんだぜ、エヘヘ。