未来へ繋ぐ花束を

  • 1二次元好きの匿名さん23/02/14(火) 19:52:12

     デスクに載せられた一枚のカード。弾むような筆跡で『Guess Who!』とだけ書かれていて、その他には何も記されていない。このようなものを目にするのは、ちょうど一年ぶりのことだった。
     仕掛け人として思い浮かぶのは一人しかいない。今年は何を企んでいるのだろう、と楽しみに思っている自分に、随分彼女に染められたものだと小さく苦笑いした。

     カードを片手に空き教室を巡る。校舎に人はほとんど残っていない。トレーニングがない生徒も、今日はほとんどが寮に帰ってしまったのだろう。先ほど目にした、キッチンの予約について語っていた生徒たちのことを思い出す。イベント事に全力な、若さを感じられる一幕だった。
     
     数部屋目へと立ち入ると、鹿毛の少女が佇んでいた。物音に気が付いてか、彼女は耳を震わせるとこちらへ振り返る。

    「トレーナー。今年は簡単だったかな?」
    「去年と同じだったからね。学園のどこかに居るんだろうって」
    「むむむ。別のところに隠れたらよかったかな」

     直接呼び出すのではなく、探し出させるという手段。少しでも日々を楽しく過ごすための、彼女なりのスパイスだった。ファインと身近に接して数年が経ったいま、慣れつつあるものでもあったが、未だに驚かされることもある。

     彼女はあごに指を当てていたが、やがてこちらに向き直る。パチン、と両手を叩くと、少しもったいぶってから切り出した。

    「……さて!」

     サプライズをするときによく見せる、楽しげな顔。彼女は隣に置いてあった紙袋から、ひとつの小箱を取り出して。

    「ハッピーバレンタイン! キミに授けます♪」

     手渡されたプレゼントを受け取ると、彼女はしきりに目配せを送ってくる。促されるままにリボンを解き、箱の中身を取り出すと。

  • 2二次元好きの匿名さん23/02/14(火) 19:52:44

    「じゃーん! 今年は一人で作ってみたの。どうかしら?」

     現れたのは小さなガラスケース。中には一輪のプリザーブドフラワーが生けられている。

    「おお……! とても綺麗にできてるよ」
    「そうでしょう? 前よりも上手に作れました♪」

     花びら一枚一枚の隅々まで、よく色が染み渡っている。プロが作ったものにも劣らない、鮮やかな彩りだった。

    「ファイン、ありがとう。嬉しいよ」
    「どういたしまして。私の想いを込めたから、大切にしてね」

     プレゼントをしげしげと眺めていると、ファインはころりと表情を変えて。身を乗り出しながら耳を立てる。

    「それでね、いいことを思いついたの。なんと……来年もその次も、またその次も! キミにお花を贈るのです♪」

     彼女の視線は、貰ったばかりの手元の一輪へ。

    「加工したものとはいっても、何年も経てばどうしても色褪せてしまうでしょう? 去年贈ったお花も、やがては枯れてしまう」
    「……まあ、どうしようもないことだけどね」

     プリザーブドフラワーの寿命は数年間。生花よりは格段に長いとはいえ、いつかは朽ちる日がやってくる。

  • 3二次元好きの匿名さん23/02/14(火) 19:53:25

    「だけど、毎年ごとに作ってプレゼントすれば、ずっとキミをお花たちで囲めるって思ったの」
    「……それは、いつか君が国に帰ったとしても」
    「ええ。そうすれば、離れ離れになっても、私の想いを受け継いでいける」

     目には見えない心の内を、形ある花に吹き込んで。そのきらめきを絶やさないように、年々繋いでいくのだという。色とりどりの花々は束のようになり、いつしか溢れんばかりの想いに包まれているに違いない。

    「これは日頃の感謝の品なのだけれど……そう、私の気持ちも乗せているから」

     彼女は少し目を伏せ、わずかに口ごもっていた。普通の人ならば、気がつかないくらいの引っ掛かり。なかなか言葉にしにくいものもあったのだろう。

    「ふふっ。キミのお返し、期待しております♪」

     そのまま何気ないように会話に戻っていたが、それを見逃すほど親しくしてはいない。この場で返すべき答えはすぐに見つかった。彼女の目を見て、心を込めて声をかける。

    「……ファイン」
    「ん、なあに?」
    「君の想いはちゃんと伝わってるよ」

     ファインの心を透かして見るように。手にした結晶を持ち上げる。
     彼女は瞬きをすると、頬を緩めた。腕を伸ばし、こちらの手に指を添えて。

    「……そっか。ありがとう」

     目を細めながら微笑んだ。窓から差し込む夕陽が、彼女の姿を染め上げていく。
     二人で手をかざした赤いバラ。叶うのなら、その輝きが永遠のものになりますように――

  • 4二次元好きの匿名さん23/02/14(火) 20:05:21

    前作

    ファインモーション大学トレファイ学部純愛学科の卒業論文です|あにまん掲示板【キミはいつでも、私の心の傍に】 すみれ色のセーラー服に細長い筒を小脇に携え、造花のコサージュを胸に添えて。祝福と涙と花びらの輪を抜け、人気のない校舎をひとり、歩いていく。「トレセーン! いっちにーさ…bbs.animanch.com


    毎年プリザーブドフラワーを贈るシチュが素敵だなって閃いたので書きました

    育成のバレンタインイベントを読み返すと、これファインにしては結構踏み込んでるな~って思った


    ところで皆さん見ました? ファインの特別なチョコ演出

    大変ですよロイヤルクローバータルトですって!「想い出」という字やウェディング衣装での披露宴への言及とかもうほんと好き


    「味は友人たちのおかげで保証済み」というところにとっても彼女らしさを感じた

    ホーム画面のボイスでは「ぜ~ったい美味しいものを食べてほしいからね!」ってシェフ特製の一品をくださるじゃないですか

    だから大事なところにはどんな間違いや失敗もないように念には念を入れているんだと思うんですよ だから絶対に外れないシェフに作成をお願いした

    だけど! 今回は殿下自らお作りになったというのです 何度も練習して試食会を開いて、お墨付きを得た納得できる最高の仕上がりになったところでプレゼントしてるんですね たぶん


    箱を差し出す仕草もかわいくて何度でも見ていられる

    何を言いたいのかというと要するに殿下大好き愛してるってことです 

  • 5二次元好きの匿名さん23/02/14(火) 21:58:44

    きれいで好き

  • 6二次元好きの匿名さん23/02/14(火) 22:02:36

    愛が伝わってくる…よきよき…

オススメ

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