- 1二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 12:17:55
- 2二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 12:18:08
前スレ
特撮ヒーロー|あにまん掲示板『特撮ヒーロー』の雑談・話題を扱う掲示板ですbbs.animanch.com派生元
お見合いかぁ……相手はどんな人なのかな|あにまん掲示板「なぁイズ、今度のお見合い相手ってどんな人なんだ?」「鞍馬財閥のご令嬢、鞍馬祢音様でございます。スーパーセレブ祢音TVというチャンネルで家出配信を行っています」「へぇ〜!コラボしてみたいなぁ」http…bbs.animanch.com或人×祢音スレはこちら
【閲覧注意】ここだけ或人×祢音スレ Part3|あにまん掲示板あにまん限定CP、或人×祢音について語るスレです(もうすぐ終わりそうだったので続き立てました)bbs.animanch.com - 3二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 13:06:51
スレ立て乙!
- 4二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 13:19:32
スレ立て乙
- 5二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 15:19:02
新スレ、キターッ!!
- 6二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 16:05:06
保守
- 7二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 17:19:19
新スレ、待ってたよー!!
- 8二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 18:20:58
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- 9二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 18:57:39
遂に3回目…
- 10二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 19:33:05
- 11二次元好きの匿名さん23/02/15(水) 23:30:00
Part3まで行ったか…!めでたい!!
- 12二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 10:43:36
前スレにあった景和→祢音→或人→唯阿←大二 概念が頭から離れない…
なんとか文にしたいな… - 13二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 17:58:03
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- 14二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 23:17:00
- 15二次元好きの匿名さん23/02/17(金) 10:03:59
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- 16二次元好きの匿名さん23/02/17(金) 17:10:19
子乗せ海鮮 って何だ?と思ったけど、この世界線、ね
キューンは「ほっとける訳ないだろ。君みたいな世間知らずを…」って言っていたし景和と祢音がいい感じになりそうなタイミングで加わったら一波乱ありそう…
- 17二次元好きの匿名さん23/02/17(金) 17:17:00
- 18二次元好きの匿名さん23/02/17(金) 17:17:19
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- 19二次元好きの匿名さん23/02/17(金) 17:19:19
脳内設定の一部更新とおさらい
或人
博愛主義
唯阿に無自覚の片想いをしていたが、唯阿からチョコレートを受け取ってはにかむ大二とそんな彼にあたたかな眼差しを向ける唯阿を見て訳もなく胸が痛み戸惑っている
唯阿に笑ってほしいなと思っているが自分にはできなくて唯阿に頼ってほしい気持ちがあるけれど頼ってくれなくて頼りにならないのかなぁと自分でも気づかないまま悔しさを感じていたところに、バレンタインの日に唯阿と大二の間にやさしい空気が流れているのを感じ苦しくなってふたり(唯阿と大二)といるのが居た堪れなくて唯阿を大二に任せ独り帰った その日から物思いに耽るようになる 心のモヤモヤの正体を知るのはもうすぐ
唯阿
基本 余計なお節介はしない主義だが、或人に対しては圧倒的な負い目があってなにかあれば手を貸そうという気持ちと自分のような酷い仕打ちをした人間の手なんか取りたくないかもしれないという気持ちが綯交ぜなのに加え不破の生命を張った闘いに間に合わず或人が頼りにしていた不破を護れなかった責任を感じており…つまり或人に対して重たいものを抱いている 或人のことを考えると沈みがちで誰かに或人について訊かれると口が重くなるし「人が好い」とか「お人好し」とかしか言わない
大二のことは真面目で真っ直ぐで自分がしばらく忘れていた信念を捨てずに藻掻いていたことを知っているので好印象を持っている 繊細なところや物わかりの良すぎるところが気に懸かるものの大きなお世話かもしれないと深入りしないで時々おいしいものを食べに連れていくに留めている
恋愛は過去にしたことがあるが、いまは不破を亡くし届くことのない恋心を胸の奥底に隠して喪失感を抱えているので恋愛どころではない
大二
或人・祢音・景和・唯阿の恋のすれ違いを全て把握してしまう結果となった苦労人
他人の恋路は邪魔しないが口も挟まない(恋愛経験に乏しい自分が差し出がましいことをするのはありがた迷惑と思っている)
唯阿への想いは或人が唯阿を好きと自覚するまでは抜け駆けしないで胸のなかに閉まって唯阿と(或人と)親交を深めていこうとしている カゲロウには臆病者と揶揄される - 20二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 04:37:27
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- 21二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 12:19:00
ごめんなさい時系列を考えたら矛盾していました 一部訂正します
脳内設定の更新
祢音
景和に恋している バレンタインにチョコレートを渡し、後日告白 景和にはちゃんと伝わった模様 だけれど、自分の理想の世界を叶える為にデザ神となることが一番の目標だから「返事はまだいいよ」している
恋の悩み相談にのってくれる或人に感謝しており或人が無自覚に唯阿に片想いしていると勘づき唯阿も自覚なしに或人が好きなんだと勘違いしてふたりの恋が成就することを願っている(或人×唯阿派)
景和
自分への好意に鈍感だったけれど、バレンタインを切っ掛けに自分に向けられる祢音の感情について考え始めたところで祢音に告白される 祢音のことは仲間として友達として大事に思っていてどう応えようかと逡巡していると「自分の理想の世界を叶える為にデザ神となることが一番の目標だから、いまはいいの」言われ返事をしていない…祢音に対しちゃんと“答”出すから、ちゃんと返事するから、待っていて…と誠意を示すつもりでいる
- 22二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 23:17:18
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- 23二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 23:33:00
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- 24二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 10:15:38
- 25二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 19:17:17
「或人社長、どこか具合が悪いのですか?Dr.オミゴトに診てもらいましょうか」
飛電インテリジェンスの社長室でイズにそう伺われ、或人は慌てて、大丈夫!と返す。
「ですが、或人社長はこのところ溜息をよく吐かれています。身体に何らかの異変が起きているのかもしれません」
「あー、それは…えっーと…( ̄▽ ̄;) 心配かけてごめん」
心当たり、ならある。
けれど、それはプライベートな問題、イズに話していいものか…或人は躊躇する。
バレンタインの日――唯阿・大二・祢音・景和と逢った、‘あの’バレンタインの日のことを思い返す。
唯阿からチョコレートを受け取って、とっても、嬉しい…です…と、はにかむ大二とそんな彼にあたたかな眼差しを向ける唯阿を見て、理由(ワケ)もなく胸がちくりとした。…こんなことはいままでなかった――自分が唯阿と大二といて居た堪れなくなるなんて…やさしい空気が流れる唯阿と大二を見て苦しくなるなんて…
‘その’日から、時々、大二といる唯阿の穏やかな表情が、ふと頭に浮かび…はにかむ大二とその彼とおしゃべりする雰囲気がやわらかい唯阿が脳裡を過り…――ズキンと刺すような痛みが走るのだ。…以前は、唯阿と大二が和やかに言葉を交わす様を微笑ましく感じていた。<ふたりを包むあたたかな空気感、なんかいいな>って思っていた。
なのに…。何故だろう。いまは…心がズキッと痛む。唯阿と大二(ふたり)が穏やかに談笑する光景に胸が苦しくなる。…自分は…、どうしてしまったのだ…?疎外感、だろうか…否、そんなものこれまで一度も抱いていない…急に生まれるものなのだろうか?
わからない。自分の心がわからない。自分がわからない。わからないわからない…。
或人は深く息を吐いた。
「或人社長、また溜息を吐いていらっしゃいます」
「ぇ、あ、ごめんごめん」
「いえ、謝らなくて結構です」
「 そっか…」
- 26二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 19:17:55
「わかりました!或人社長、それは恋です!」
そう言って現れたのは、縁結びマッチ。
「うわ!ビックリした!何処から出てきたのマッチ?!
というか、恋って…??」
「或人社長が溜息をよく吐くようになったのはバレンタインデーの後!
イズもどう応対すればいいかわからない様子からして社長から事情を聞かされていない…つまり社長は秘書であるイズに話していないことになりそれは社長がイズに話せないと判断したから、だとすると…極めてプライベートの問題!
これらのことを併せると…バレンタインの日にプライベートで何かが起こったと考えるのが妥当。
そして、ついさっき社長は溜息を吐いた…イズに指摘され言葉に詰まった後の深い溜息――社長…ご自身でも溜息の原因に心当たりがありますね?それと、さっきまで、その“心当たり”のことを考えていましたね?」
「?!!なんで、俺自身に心当たりがあるってわかるの?!そのことを考えていて溜息が出ちゃったとわかったの?!」
「何かあったかと問われて心当たりがないなら、思案顔をしても思い詰めた表情はしないはずです」
「!」
「日本ではバレンタインデーに女性が好意を持っている男性へチョコレートを渡すという慣習があります。
そのことを踏まえて、バレンタインの日にプライベートで何かが起こったとすると…
社長、あなたも先日のバレンタインデーに誰からかチョコレートを受け取ったのではないですか。そのことで悩んでいるのではないですか」
「っ、」
「…図星、ですね?
そこから導き出される“答”は…――恋煩い、です!」
「恋煩い?!」 - 27二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 19:18:31
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- 28二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 19:19:19
「バレンタインデーを境に溜息が増えたということはその日、誰かからチョコレートをもらい告白された…―― 「いや、告白されてはないよ!」
「告白されて『は』ない、なるほど…チョコレートはもらったのですね?
そうすると、考えられるのは…――受け取ってからチョコレートをくれた方を意識するようになった というところでしょうか…。やはり、恋ですね」
「 …え、エーッ?!ちょっと待って!え?!待って待って!」
「違いますか」
「ちが…うかどうかもわからない…」
「では、質問をします。
あれから――バレンタインの日からチョコレートをくれた方のことを考えませんでしたか?」
「!!っ、そ、それは……」
「考えたことがあるんですね…」
「 えーとえーと……はい…」
「それではやはり…―― 「でも!待って!」
「?」
「確かに刃さんのこと考えていたときはあるけど!…――「お相手は刃様だったんですね」
「あ… いやいやいや、いまのなし!イズ、忘れて!」
「?何故ですか?私は或人社長の秘書です、或人様のことはどのようなことも記憶する必要があります。メモリから削除は致しかねます」
「 う゛… それはそうなんだろうけど… 恥ずかしい…」
「何故です?恋とは素晴らしいものです!
私はこれまで恋するたくさんの人を見てきました。その方達の恋が成就するところを見、人と人が良縁で結ばれる手助けをできるこの仕事を私は誇りに思っています。
或人社長が恋をしている――素敵なことではないですか。全力で応援します!」
「私もです、或人社長」
「あ、ありがとう…」 - 29二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 23:57:34
だんだんと自覚してきてるね或人…これはいいぞ…
- 30二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 23:58:32
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- 31二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 23:58:49
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- 32二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 09:29:42
或人の恋は果たして報われるかな…
- 33二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 18:10:09
保守
- 34二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 22:19:00
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- 35二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 22:19:20
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- 36二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 00:17:17
『或人社長、それは恋です!』
『或人社長が恋をしている――素敵なことではないですか。全力で応援します!』『私もです、或人社長』
帰宅した或人の脳裡にイズとマッチの言葉が過る。
マッチが熱くなってイズも同調、ふたり(2体)の勢いに気圧され、あの場でありがとうと言った或人だったが。思ってもみなかったことを言われて戸惑っている。
確かに、バレンタインのあの日から、ふとした瞬間とき…唯阿のことを考えている。唯阿にチョコレートをもらってはにかむ大二とその彼と話すやわらかい雰囲気の唯阿が、大二を見る唯阿の穏やかな表情が、頭に浮かぶ。
けれど、
でも、だって、刃さんは……――不破さんのこと…
不破と唯阿はいつだってお互いに相手を思い遣っていた。不破はどんなときも唯阿を気に懸けていて、唯阿も不破になにかあると凄く心配していた。――不破さんも刃さんも互いに互いのことを大切に思ってた…とてもとても大切な人だってきっと思っていた…
だから、だから、俺は――…
そんなふたりを見ていいなぁと感じていたしずっと一緒にいるのだろうと疑うことなく考えていた。
だから、不破を喪(な)くした唯阿が、つらいはずなのに気丈に振る舞う唯阿が、せつなくて…力になれたらって、頼ってくれたらって、思って…それで笑ってくれたらって…でもどうしたら唯阿は笑ってくれるのかわからなくて唯阿を笑わせることなんてできなくて…不破でなきゃ唯阿を笑顔にできないんだって…淋しくて…
だから…、だから…?
『或人社長、それは恋です!』
あまり笑わない唯阿が、大二といるとやさしい顔になる。大二を見る唯阿の視線はあたたかい。‘あの’やさしい表情も、あたたかな眼差しも、自分に向けられたことはない。――その事実で胸が苦しくなる、のは…
キズツイテイルカラ…
え、なんで…??――一瞬、頭を掠めた思考に、或人は動揺する。
傷ついている…?自分が?どうして?“なに”に? - 37二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 00:19:00
『或人社長、それは恋です!』
―――!
ぇ
うそ、でしょ?
恋…?誰、が?誰、に?
俺、が…刃さん、に…
え、だってだって…刃さんは……――不破さんのことが…
忘れられるはずない…
だから俺は…不破さんの代わりになれないってわかっていて代わりになれなくてもちょっとだけでも刃さんの力になれたらって…ただそれだけで…
頼りにならないのかなと思ったことはあるけど、淋しい気持ちになったことはあるけれど、でも、…
五十嵐くんはしっかりしていて冷静で真面目で頭も良くて真っ直ぐな好青年で…だから、だから…――好き、なのかな…刃さん、好きなのかな…不破さんを吹っ切れるくらい…好きになったのかな……五十嵐くんのこと
ズキッ……
そこまで考えて、鋭い痛みが、胸に走った。
瞬間、悟る。
―――俺…刃さんのことが、好きだ…
どうしよう…。
或人は顔を手で覆ってテーブルに突っ伏した。 - 38二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 09:17:19
「刃さんが好きだ」
春一番が吹き寒さも和らいできたその日、唯阿は或人に話があると言われ、とある公園に来ていた。
急に呼び出してごめんねと断りを入れる或人に用件は?と尋ねて、返ってきたのが冒頭の言葉。
なに、を…言われたんだ…
耳を通った言葉が思いも依らないものだから動揺して咄嗟に切り返せない。聞き違いではないだろうかと或人の表情(かお)を窺う。
「突然、ごめん。でも…」
彼は真っ直ぐこちらを見て告げる。
「俺…刃さんのこと、好きなんだ」
清らかに薫る梅の花の下、告げられる。
好き…?誰、が…?誰、を…?――あまりのことに思考が追い付かない。
好き?社長さんが?私を?…いやいやいや!…社長さんはお人好しだから人好し過ぎるからそんなことを言っ…否、いくら人が好いからと謂って流石に言わないこんな嘘は吐かないその意味で本音だ、ならばどういう…そうか、きっと思い違いをしているんだ社長さんは…おそらく不破のことで私は平気という素振りを見せているつもりだったがそれが通じなかったらしい社長さんは私が沈んでいると考え気遣っているうちに恋だと思い込んでしまったんだろう…さて、どうするか。どう返そう。なんて言おう。
『気の所為じゃないか』――駄目だ。これは、あまりに無神経。思い込んでしまっていることを彼自身は気づいていないだろうから、彼は本気で言っていると考えられる。そんな彼に“気の所為”はない。
『気持ちは嬉しいが…』――これも不味いな…。“嬉しい”なんて取って付けたこと言って…断る前提でやんわり、なんて…彼を慮っている体(てい)で自分が悪者になりたくないだけじゃないか…。
だったら、ここは…
「あなたの気持ちには応えられない」
きっぱり断る。
「……そっか…」
ぽつり漏らして、或人は…笑った。 - 39二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 09:19:00
どうして…――或人が無理して笑っていると察して、唯阿は居た堪れない。
―――社長さん…、どうして…無理に笑うんだ…。
嗚呼、眩しい。
眩しくて、彼を真っ直ぐ見れない。顔を背けたくなる。
あなたは私には眩し過ぎる…
だから、――私の前から消えてくれないか
「もう、いいだろうか…」
私はあなたと釣り合わないから。
あなたの眩しさを感じる度に自分の後ろ暗さを突き付けられている気分になる。その眩しさに憧れながら、疎ましくも思うんだ。
「………うん」
或人は一瞬だけ顔を歪めてそれでも笑みを浮かべようとしていて…――そんな言い方ない!酷いよ!と詰(なじ)っていいのに…唯阿も胸が痛い、のだけどそれは筋違いだ。
去って行く或人の背に、伝える気のない心情を抱く。
社長さんにはもっと相応しい女性(ひと)がいる。
私のような言い方がキツくて素直になれない可愛げのない女よりずっと“いいひと”がいる。
あなたに似合いの人ときっと巡り逢える。
だからだから…
捨て置け。私のことなんか…私に向けている思い違いの感情なんて…――ここに、置いていって…!
唯阿は或人の後ろ姿が見えなくなってから、彼の進む道と反対の方へ歩き出す。…梅の花が薫るなかを独り。 - 40二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 11:13:58
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- 41二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 11:15:00
- 42二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 11:33:19
おぅふ…或人…
- 43二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 12:19:00
「あなたの気持ちには応えられない」て、唯阿さん…はっきり言ったね…
けど唯阿さんもかなり思い詰めてるし…つら… - 44二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 13:19:00
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- 45二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 14:19:19
私の前から消えてくれないか はキツ過ぎんよ…言葉のチョイス的にも唯阿さんの心理的も
- 46二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 14:33:19
- 47二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 17:19:00
景和×祢音( >>14 )との落差…
- 48二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 19:00:00
このレスは削除されています
- 49二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 19:16:30
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- 50二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 19:17:17
- 51二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 23:49:06
せつないねえ…、俺だったら泣いちゃう
- 52二次元好きの匿名さん23/02/22(水) 10:17:17
- 53二次元好きの匿名さん23/02/22(水) 10:19:00
或人→唯阿の告白がこれなら、大二→唯阿の場合はどうなるんだ…
- 54二次元好きの匿名さん23/02/22(水) 20:32:42
- 55二次元好きの匿名さん23/02/23(木) 01:18:19
- 56二次元好きの匿名さん23/02/23(木) 09:00:30
- 57二次元好きの匿名さん23/02/23(木) 19:05:29
大二はなぜかフられるとこが毎回イメージできてしまう…
- 58二次元好きの匿名さん23/02/23(木) 23:42:30
- 59二次元好きの匿名さん23/02/24(金) 10:10:30
このレスは削除されています
- 60二次元好きの匿名さん23/02/24(金) 12:19:00
- 61二次元好きの匿名さん23/02/24(金) 22:10:03
すげえや、今のとこ誰も幸せにならなそう…
これをハッピーエンドに持ってくの大変だ… - 62二次元好きの匿名さん23/02/24(金) 22:17:17
唯阿さん意識不明~死の淵から生還のあらすじ
唯阿
生と死の狭間で自らの記憶から現れた不破と逢い、彼に懺悔
自身の脳内イメージの不破にすら己の思慕は伝えず、不破に救出してほしいと心の底では思っているのに自分の精神世界での彼にさえ頼れず「助けて」と言わないで無意識下で不破に迎えに来てほしい有無を言わさず私をさらってと彼が助けてくれるのを願っていた、が…
或人と大二により生還でき、ふたりに感謝
或人の告白を受け入れず彼を傷つけそれのことに傷つきアーク堕ち疑似ヘルライ化し暴走という形で或人を裏切った罪悪感故に彼が自分を迎えに来た理由がわからず或人への負い目が増す
大二には屈折したものを抱いておらず素直で巻き込んだことを申し訳なく思うけれど助けてくれた感謝の気持ちが僅かに上回り割とストレートにお礼を言う
或人
唯阿が自分に対しあんなにも負い目を感じていると知りあれ程 苦しんでいるのに気づかず告白したのかと意気消沈、好きになってごめんもう言わないよってなっている
そういう精神状態で「迎えに来たよ。帰ろう?」と言えるのは善性の塊
今のところ唯阿が向けているのは負い目だが、ネガティブなものとは謂え激重感情であるので、反転して好意に変わることは充分に有り得る
大二
唯阿救出作戦のMVP
不破に<私をさらって…>と心の奥底で望んでいるのに「助けて」と言えない性分の唯阿に対し多少 強引にでもその手を掴み「帰りますよ」と真摯な目差しで告げたのは最適解
大二自身は唯阿に意識されていないと気落ちしている が、唯阿は大二にポジティブな感情を抱いていてこの行動に無自覚の乙女心を突かれたので大二から想いを真っ直ぐ伝えられたら応えることも充分に有り得る
前スレのこちらのレス参照↓
https://bbs.animanch.com/board/1486868/?res=35
https://bbs.animanch.com/board/1486868/?res=39
https://bbs.animanch.com/board/1486868/?res=51
- 63二次元好きの匿名さん23/02/24(金) 22:19:17
昏睡状態の唯阿を現実世界に連れ戻した日、或人は唯阿の精神世界で自分のことで唯阿が唯阿自身を酷く責めていると知りどんな面(かお)をして彼女と話せばいいかわからず途方に暮れ、逢わずに帰った。
正直、告白してフラれた以上にショックだった。
『あなたの気持ちには応えられない』――‘あの’ときそう言った、彼女の、心はどうなっていたのだろう…。彼女の胸の内を考えて、苦しくなる。
刃さんがあんなに辛い思いをしていたのに、俺はこれっぽっちもわかってなくて…自分の気持ちを一方的に伝えたんだよな…
―――好きになってごめん
何度目になるだろう、或人は心から唯阿に謝る。
或人の胸の内は、唯阿の気も知らないで身勝手に想いを告げ彼女を困らせてしまったことへの申し訳なさでいっぱいだ。
困らせてごめん混乱させてごめん、なんにも知らない癖に一方的に好きと言ってごめん。
頭の中をぐるぐる巡る感情でぐちゃぐちゃの心。 - 64二次元好きの匿名さん23/02/24(金) 22:19:58
急に辺りが明るくなった。ベッドの中から顔を出すと光がカーテン越しに射していて…夜が明けたようだ。
或人は眠れぬまま、朝を迎えた。
新しい一日が始まるんだ、リセットしなきゃ。或人は窓を開ける。空気の入れ換えをしよう。
清々しい青空と澄んだ冬の匂い。そこへ、風が、通り抜けた。瞬間…、
『…或人さんが刃さんと逢うのを躊躇ったら、刃さん余計につらいと思いますよ?』
大二の声が過り、ハッとする。
そう、だよな…
一晩中ぐるぐる思い倦(あぐ)ねた末の、射し込む朝陽と空の蒼さと冬の冷たく澄んだ風のお蔭か、唐突に得心が行って。
―――お見舞いに行こう…
『或人さん、刃さんの処に行きましょう』
そうするよ。――心の中で、大二に返事をした。
その日の仕事帰り、或人は唯阿の入院する病院へ向かった。…花束を携えて。
刃さん、いまから逢いに行くよ… - 65二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 09:17:17
或人は唯阿の病室前で深呼吸した後、スライドドアを開ける。
「刃さん!」
「社長さん、」
「体調は?どんな具合?」
「あぁ、…悪くはない」
「一先ずよかった(…のかな??) あ、これ」
はい、と或人は黄色の花束を差し出す。
「…ミモザ、だな…」
「刃さん、お花に詳しいね…」
「いや…偶々だ」
「そっかぁー
それ、サクヨが選んでくれたんだ!」
「サクヨ…?あー、一輪サクヨのことか…。
…綺麗だな」
「……っ///」
ふわふわした房状の黄色い小花を見る、唯阿の横顔が綺麗で。或人は息を呑む。
「 これ、花瓶に挿してくる…!この花瓶、借りるね…」
胸の高鳴りを誤魔化すように口早に言って、或人は部屋を出た。 - 66二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 09:19:17
給湯室のシンクにミモザを挿した花瓶を置き、蛇口を捻って水を注ぐ。
その水をぼんやり眺めていると、唯阿の横顔が浮かんだ。
―――綺麗だ…
出逢った頃から美人だと思っていた、唯阿のこと、美人だなとは思っていたんだ。だけど、
綺麗だ…――心に溢れる程 意識したことはなくて、思わず綺麗だ…と口走ってしまいそうだったから漏れる吐息を呑み込んだ。
なのに、いま、彼女の横顔が、鮮やかに頭を過って。
やばい。
零れそう。花瓶から水が。胸いっぱいの“好き”が。
或人はキュッと蛇口を締めた。
あなたの方が綺麗だよ…ミモザの花よりずっと…なんて、恥ずかしい言葉が胸に響いている、けれど、
好きになってごめんもう好きだって言わないと決めたから、
再び蛇口を捻り、或人は水で顔を洗う。…紅くなった顔を冷ます為に。 - 67二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 09:19:58
「お待たせ」
或人は花瓶を手に、病室へ。
ベッド横の床頭台に花を飾る。
「すまない…」
「ううん、気にしないで」
「………」
「……なにかほしいものある?あれが食べたいとか…。今度 持って来るよ」
「否、特には…」
「そう…」
「気を遣わないでいいぞ」
「そんなんじゃないよ。俺にできることがあるならしたいなって思っているだけで。
俺はしたいことをしている、今日だって逢いたくて来たんだ」
ん?いま、俺、何て言った…?『逢いたくて来た』って、、、――何の気なしに発した中に、はみ出した好意を自覚して。途端、照れくさくなる。
「……また来るよ…」
それだけ言って、或人はその場を後にした。 - 68二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 18:30:09
だんだん甘い展開になってきた…
個人的にはこういうの好きだから嬉しい - 69二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 19:15:06
このレスは削除されています
- 70二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 19:19:00
大二が唯阿を見舞う話
- 71二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 19:30:00
唯阿の意識が回復して、一週間。
ふと、大二のことが、頭に浮かんだ。
大二が、気を失い昏睡状態に陥った唯阿を、唯阿の意識の中に入り現実に連れ戻してくれた‘あの’日から、彼に逢っていない。
別にだから何という訳でない。仕事が忙しいのだろう、彼は世界平和維持組織に所属し日夜その職務に励んでいるのだ、自分に構ってなどいられない。わかっている。そんなことわかっている。
ただ…、
『刃さんが生きていてよかったです』
‘あの’日、そう告げた大二の笑顔が、淋しそうに見えて。微笑む彼の、瞳の奥に淋しげな色が宿っている気がして。それが、ずっと気に懸かっている。
『生きていてよかった』という大二の言葉を嘘と思わない、彼は真っ直ぐで純粋で細やかな気配りのできる人間、生きていてよかったと思ってないのにいきていてよかったと言うはずない。が、真っ直ぐで純粋で細やかな気配りができると謂うことは裏を返せば繊細で言いたいことを言わない物分かりのいい人間でもある。だから、不用意なことを言って大二を傷つけてしまったかもしれない…傷ついても波風立てないよう配慮して我慢したのかもしれない…‘あの’ときの、大二の言葉は、なにかを呑み込んだ上で発せられたもの.な気がしてならない。
―――‘あの’日、‘あの’とき、君は…本当は“なにを”思っていたんだ…
『刃さんが生きていてよかったです』――その言葉が偽りとは思わない。けれど、それだけではないだろう?
例えば大二が“なにか”に傷ついているとして、その“なにか”が自分の言動の所為ならば…
―――私は、彼に、なにをすればいいのだろう
‘あの’日の、お礼もお詫びも充分に伝えられないまま。
時は、流れた―― - 72二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 19:33:00
夢を見ていた。目が醒めたとき、そう思った。(本当のところは意識不明だった、らしい。)
“あいつ”と逢った。瞬間、夢と思った。自分は死ぬのだなと思った。夢ならば…と、あいつに懺悔した。死ぬ前に逢ったのだから…と、懺悔した。
『不破、最期におまえに逢えてよかった』。――…思い残すことはもうないと扉を潜った、のに。あいつは…扉の隙間に手を挟み入れ抉じ開けて私の手を握り、扉の【向こう】から連れ出した。
…助けようとしてくれたのだろうか。
『俺と一緒にいくか?』
夢の中にいた、あいつの、言葉が過る。差し出されたあいつの手を取ろうとして、自らの手を伸ばしたら、
『『刃さん…!!』』
聞こえたんだ。私を呼ぶ“彼ら”の声が。
…助けようとしてくれたのだろうか。
『迎えに来たよ。帰ろう?』
そう言って手を差し伸べた或人を思い出す。けれどその手を掴むのは或人を散々苦しめた唯阿には憚れた。躊躇っていると、
『刃さん、帰りますよ』
唯阿の手をしっかり握って真っ直ぐ伝えてくる大二の眼差しが蘇る。
或人と大二に手を引かれ、光指す方へ駆け抜けて。唯阿は【こっち】に還ってきた。
両の手にあたたかなものを感じて、瞼を上げる。やはり夢だったか…と思った。
けれど、
―――夢だけど、夢じゃなかった…
ぬくもりの正体を知り、申し訳ない気持ちになった。 - 73二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 19:35:17
或人にお詫びを言おうとしたら、『謝らないでよ…』と遮られた。
『お礼なら大二くんに言って』と去って行く或人は、どこか変だった。
翌日、或人が来た。見舞いに来てくれた。少し安堵して、そんな自分に嫌気が差して、心苦しくなった。
何だか様子がおかしいと感じていたからいつもの或人のようでホッとする、彼の様子が変だったのはおそらく自分の所為なのにホッとする自分が厭になる、そういう身勝手な自分を何故だか彼は気遣って見舞うから心苦しい。
大二に『助かったよ』『君のお蔭だ』と言ったら、『刃さんが生きていてよかったです』と返ってきた。
『生きていてよかったです』――どうしてだろう、これを聴いて胸が苦しくなったのは。彼の、この、言葉に裏なんて感じないのに、その言葉の奥になにかあると思ってしまうのは。
『生きていてよかったです』――感情を隠した訳でないだろうけれど、感情を上から塗り潰したような気がしている。
―――君は、なにを、呑み込んだんだ…
淋しげな色の瞳(め)をして、それでもやわらかく笑んだ大二の、心はどうなっているのだろうか。 - 74二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 19:37:17
唯阿がそんなことをつらつら考え込んでいると、病室のドアが開いた。
「刃さん」
大二、だった。
「なかなか来られなくてすみません」
お詫びを言ってから入室する彼に、気にするな、と返す。
「忙しい身だろう…君は…」
そう続けながら、唯阿は下を向く。…つい先刻まで大二に思いを馳せていたから、いま本人と顔を突き合わせるのは気恥ずかしい。
「お加減どうですか」
大二は、俯いている唯阿を然して気にするふうはなく、心配げに尋ねてくる。
「……悪くないよ」
「そうですか…ちゃんと食べれてます?」
「…そ、それは…」
「…体調が完全には戻っていないんでしょうね、無理にとは言いません」
「…すまない…」
「謝ることじゃないですよ。…なにか食べたい物はありますか」
「否…これと謂った物は、特には…」
「…そう、ですか…」
「君に気苦労を掛けているな…」
「そんなことないです」
「……」
「あのぅ…、これ…」 - 75二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 19:39:19
大二が紙袋を差し出す。中には箱がひとつとお茶缶がひとつ。
大二は袋から取り出し、まずは箱を開けた。
「タオルか…」
「はい。タオルなら何かと入り用だろうから何枚あってもいいかと思って…」
「あぁ、助かるよ」
「それから…」
お茶缶の中身は…
「紅茶です。
もし、まだ本調子じゃなくて食欲があまりないなら、飲み物はどうかなって…」
「そうか…
これはダージリンだな」
「アールグレイの方がよかったですか?」
「否、どっちも好きだから構わない。ありがとう」
「よかった…」
嬉しそうに笑む大二を見て、
『刃さんが生きていてよかったです』――淋しそうに微笑んだ大二が思い出されて、胸が締め付けられる。
―――‘あの’日、君は、なにを、呑み込んで、笑ったんだ…
聴きたいけれど、訊けない。
きっと触れられたくないことだろうから。ここで追及する程、彼と自分は深い付き合いでない。
ならば何故…こんなに、知りたいのか。彼の本音を。彼の心を。 - 76二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 19:39:58
『刃さん、帰りますよ』。――不意に、大二の声が脳裡を掠めた。
夢の中で、自分の手をしっかり握ってくれた大二の、触れた手のぬくもりは憶えていない。…夢の中の出来事だから、感触がないのだ。
だけど、
彼の、眼差しは鮮やかだ。自分を真っ直ぐ見て伝えてくれた大二の眼差しを、唯阿はいまでもはっきりと憶えている。
だから、足りない。お詫びもお礼も足りていない。
なのに。感謝の言葉は淋しそうな瞳(め)をして笑う彼に『刃さんが生きていてよかったです』の一言で封じられた…。
あぁ、そうか。いまわかった。自分が、大二のことで、こんなにも胸が締め付けられる思いがするのか。
『助かったよ』
『君が私の手を引いてくれたから、私は帰ってこれた』
『君のお蔭だ』
私の言葉は、ちゃんと届いているのだろうか…。 - 77二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 19:50:19
自分の思考回路を悟ってしかし、大二にどう言えば伝わるのかわからない、から…
「ありがとう」
いまはただ…それだけを告げる。
もどかしいけれど、ありがとう、しか言えない。
どんな言葉に変えて君に伝えられるだろう。
いつか、彼にきちんと伝えられる日が来るのだろうか。
わからないけれど、
そんなときが来たらいいなと祈りながら、ありがとう、を言葉にする。 - 78二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 21:17:19
「紅茶、淹れましょうか」
大二に声を掛けられて、我に返る。
「…いただこうかな」
厚意を無碍にしたくなくてそう応えれば、彼は頷いて
「急須、借りますね」
茶葉を入れ、お湯をそそいだ。3分くらい蒸らしてティーカップにつぐ。
どうぞと出された、紅茶は爽やかな香りがする。
一口 飲むと、その香りが口の中に広がる。
「……おいしい…」
ほぅと息が洩れる。
「君は飲まないのか?」
「じゃあ、俺も」
大二も口に含んで、ほぅと洩らす。
ふたりは黙って紅茶を飲む。
窓から見える白い雲がゆっくり流れる。
ゆっくり時間が過ぎていく。
昼下がりの日の光が優しく射し込む部屋で、じっくり紅茶の香りと味を愉しむ穏やかな午後は、まさにティータイム。
しばらくの間、唯阿は大二と共に紅茶を愉しんだ。 - 79二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 21:19:19
「俺、そろそろ帰ります」
「…今日はわざわざすまなかったな」
「いえ…また来ます」
小さくお辞儀して、大二は帰った。
部屋が急に静かになる。
今日は来てくれてありがとう。――そう言うべきだったろうか、と頭を掠めたけれど、今更だ。
言葉が不器用すぎて、情けなくなる。
情けなくて、もどかしくて、哀しくて、…自分の不甲斐なさに辟易して。
でも、だから、
『また来ます』
次に彼が来るときは…もう少し、伝わるといい。
そんなことを考えながら、唯阿は窓の外に目を遣った。
晴れ渡る青い空に白い雲がゆっくり流れていく。 - 80二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 23:58:29
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- 81二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 23:59:03
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- 82二次元好きの匿名さん23/02/26(日) 08:19:19
- 83二次元好きの匿名さん23/02/26(日) 11:17:59
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- 84二次元好きの匿名さん23/02/26(日) 12:30:04
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- 85二次元好きの匿名さん23/02/26(日) 12:40:52
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- 86二次元好きの匿名さん23/02/26(日) 21:51:48
- 87二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 01:58:52
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- 88二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 05:10:38
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- 89二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 09:04:10
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- 90二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 09:19:19
- 91二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 19:39:44
そういえば大二コーヒー飲めなかったな…
- 92二次元好きの匿名さん23/02/28(火) 00:36:00
或人と大二、二人とも当たり前だけどアプローチの仕方が全然違ってて、なんというかこの違いがいいね…
- 93二次元好きの匿名さん23/02/28(火) 09:19:00
- 94二次元好きの匿名さん23/02/28(火) 19:30:55
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- 95二次元好きの匿名さん23/02/28(火) 22:50:19
- 96二次元好きの匿名さん23/02/28(火) 22:55:22
なにそれかわいい…
- 97二次元好きの匿名さん23/02/28(火) 23:19:00
或人と大二のアプローチの仕方の違いがいいというレスありがとう
ミモザの花言葉に着目してくれて嬉しい
「友情」「感謝」って花言葉もあるみたいだけど色によって変わるらしくて、黄色いミモザの花言葉は「秘密の恋」「密かな愛」「真実の愛」だって
そうそう 調べたら紅茶にも花言葉あったんだよねー 気づいてもらえた!わーい
ちなみにふたりとも花言葉は知らない設定です
或人は花があったら部屋の雰囲気が明るくなるし、それで唯阿さん笑顔になってくれたらいいと思って一輪サクヨにおすすめの花をお願いし
サクヨはマッチから或人が唯阿さんに恋していると聴いて、恋にまつわる花言葉を持ちゼロワンのイメージカラーの黄色(且つバルキリーのイメージカラーはオレンジだけれどライトニングホーネット形態に入っているのがイエロー)の花で今の時期(2月~3月)に咲くということでミモザを選んだ って流れ
大二は紅茶の花言葉は知らないけれど紅茶にリラックス効果や疲労回復効果があって睡眠の質を高めることができると知っているのでお見舞いに持って行った(自身が心身ともに疲弊していたホーリーライブ期に睡眠不足と食欲不振に陥ったことから体力・食欲ともに低下していると思われる唯阿を心配して何か口に入れられるものをと考えアロマでなく食べ物でもなく飲み物にした) という経緯
- 98二次元好きの匿名さん23/03/01(水) 09:17:18
ふたりとも健気
- 99二次元好きの匿名さん23/03/01(水) 14:17:19
- 100二次元好きの匿名さん23/03/01(水) 14:19:19
- 10110023/03/01(水) 14:35:17
- 102二次元好きの匿名さん23/03/01(水) 14:58:50
- 103二次元好きの匿名さん23/03/01(水) 16:19:00
- 104二次元好きの匿名さん23/03/01(水) 16:58:58
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- 105二次元好きの匿名さん23/03/01(水) 19:17:17
- 106二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 02:46:43
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- 107二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 09:17:00
或人も大二も純情で可愛い~
- 108二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 16:00:24
紅茶の効能を知ってて花言葉は知らないのスゲー大二っぽい
- 109二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 17:30:04
唯阿さんと大二は気に掛けててでも深入りしないところが似ているんだな
- 110二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 01:03:42
- 111二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 09:17:19
或人は、持って行ったミモザを見て唯阿が綺麗だなと言った日から数日後、再び見舞いに来た。…オレンジと白のマーガレットの花束を手に。
病院の入口で大二と逢う。
「大二くん!」
「或人さん」
「刃さんのお見舞い?」
「はい。或人さんもですか?」
「うん」
ふたりで病室へ向かう。
「「刃さん!」」
「…今日は一緒に来たのか?」
「玄関で逢って」
「そうなのか」
「花、そろそろ替え時かなと思って…」
或人はマーガレットを差し出しながら、
「けど…花瓶の花、綺麗に咲いてるね」
花瓶に挿してあるミモザを見遣った。
「2,3日に1度は花瓶の水換えをしていたからな」
「そっかぁ。大切にしてくれていたんだー」
「…ま、まぁ…」
少し恥ずかしげに目を泳がせる唯阿を可愛いと思う。
「この花、その花瓶に一緒に挿していい?」
「あぁ、宜しく頼む」
「或人さん、手伝いますよ」
或人の手がマーガレットの花束で塞がっていたからか、大二は手荷物をベッド脇のパイプ椅子に置き、花瓶を持ってくれた。
花瓶の水を入れ替え、黄色いミモザとオレンジと白のマーガレットを挿し、唯阿の病室に戻る。 - 112二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 09:17:30
或人は花瓶を飾る。
大二が、手荷物から出して唯阿に手渡したのは…
「倫太郎さんと3人で行った‘あそこの’カフェのクッキーです」
「…!ありがとう」
瞬間、唯阿が顔を綻ばせた――それは一瞬のことだったけれど、或人は見逃さなかった。
―――刃さん、嬉しいそうだ…
きっと彼女はそのカフェがお気に入りで…大二と倫太郎という人を誘ってお茶でもしたことがあるんだろう。そして、いま彼女の手の中にあるクッキーが好きなのだ、おそらくは。
或人の心に小さな痛みが走る。
『…綺麗だな』
‘あの’日、ミモザを見ながらそう呟いた彼女が頭に浮かぶ。
彼女の横顔にちょっとだけでも喜んでくれたのかなと嬉しくなって。だから、今日も花を持って来たのだけど…‘あの’日とは別の花を持って来たのだけれど…
大二からの見舞いの品――クッキーを前に、唯阿がとっても嬉しそうで(或人にはそう見えた)…胸が苦しくなる。
だけどこれは、勝手な思いだからどうにかこうにか或人は呑み込んだ。
「刃さん、いま食べますか。食べる気分でないなら好きなときにでも…」
「否、いまいただくよ」
「わかりました。或人さんもどうです?」
「刃さんへのお見舞い品だよね?いいの?」
「構わない」
「刃さんもそう言われてますし、皆で食べましょうか…。紅茶を淹れますね」 - 113二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 09:19:00
或人はクッキーを噛り、紅茶を一口。
「おいしい」
「クッキーにこの紅茶は合うな」
紅茶にあまり詳しくない或人でも、唯阿の言うように紅茶とクッキーは合うと思った。
「よかった」
安堵の表情(かお)を浮かべる大二にあたたかい眼差しを向ける唯阿。
やわらかな空気に包まれて…
疎外感を覚えるのは、手前勝手な理屈だ。
或人は紅茶を飲む。紅茶のさわやかな味が口の中に広がる。或人は、紅茶と共に疎外感を流し込んだ。
不思議と胸の痛みが和らいで。
或人は、久し振りに、唯阿と大二といるやさしい時間を実感したのだった。 - 114二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 14:17:00
「大二くんは細かい心配りができるいい子だね」
西陽が射してきたから唯阿の病室を後にした、お見舞いの帰り道、或人がしみじみ言った。
大二は、急に何だろうと思い、え、と漏らしたけれど相手には聞こえなかったらしい、或人はこう続ける。
「刃さんの好きなクッキーを憶えていて、お見舞いに持って来て…気遣いが凄いなぁって…」
「……」
「俺は配慮が足りないんだとつくづく思ったよ」
或人は何処か遠くの方を見つめながら、
「俺…刃さんに、告白したんだ…」
打ち明けた。
烏の群れが一斉に飛び立つ。
或人は、フラれたけど…と力なく笑って
「刃さんが俺のことであんなに思い詰めているって気づけないまま一方的に自分の気持ちを伝えて刃さんを追い込んで、刃さんはアークに…
だから、俺の所為もあるんだ…刃さんの気も知らず俺が告白したから、それが引き金になって…」
俯いた。
『それでも社長さんは、こんな私を仲間と言うんだ…お人好しが過ぎる…』。
唯阿の意識の中に入っていって、その精神世界で聴いた、彼女の、声が、大二の脳裡に蘇る。
『社長さんは真っ直ぐで、眩しくて…』『私は社長さんの顔を真っ直ぐ見れない』――‘あの’とき苦しげに心情を綴っていた唯阿のことを思うと察するに余りある。
同時に、唯阿の意識が回復してというのに或人が『俺…どんな顔して刃さんに逢えばいいのかわかんない』と『刃さんに合わせる顔ない…』と肩を落とした深い処での理由に触れ、合点が行った。
―――痛々しいなふたりとも…
大二はなんとも言えない気持ちになった、けれど…
「俺が刃さんと逢うのを躊躇ったら刃さんは余計につらいと思う、っていう大二くんの言葉を思い出して、この前、刃さんのお見舞いに行ったんだ。今日みたいに花を持ってさ…。そしたら、刃さん喜んでくれたみたいで、ホッとした…ホッとしたんだし、すっごく嬉しかった!」
本当に安心した様子の或人に、胸を撫で下ろした。 - 115二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 14:17:19
或人は前を向いて歩き始めたのだなと感じ。大二は、自分も前に進まなきゃと腹を決めた。
深呼吸。そして、大二は口を開く。
「俺も好きです、刃さんのこと…」
想いを吐露したら、なんだか清々しい気分になった。
けれど、或人の方は…時が、止まった。みたいだ。
「……そう、なんだ…」
声が、少々かさついている…ような気がする。
初めて或人と逢って、不破と唯阿がお互いどれ程 気遣い合っていたか語る或人の穏やかな表情や自分では唯阿の傷ついた心を癒せないと言う或人の淋しそうな笑い顔を見て、唯阿には不破という大切な人がいてこんなに真っ直ぐ唯阿を気に掛けて大切に思っている或人がいて、勝てる気がしないと思って…そのとき、大二は気づいた。――刃さんが、好きだ…
このことを或人に話した方がいいのか逡巡して、
「だけど、或人さんは自身の刃さんへの気持ちをわかってないみたいだったから…
或人さんが自覚するまで、俺は俺の刃さんに対する好意を隠すことにしたんです」
いつから好きだったのか、どんなふうにして自分の恋心を知ったのか、伝えないことにした。
「そうだったんだ…」
気を遣わせちゃった…ごめん…と申し訳なさげな或人に、いえ、と返して
「俺、そこまで気配りできてませんよ。
さっき言ってくれたクッキーだってそうです」
話題を変えた。
「刃さんと倫太郎と俺の3人で行ったカフェのこともそこでクッキーを食べたことも覚えてますけど、実はお店の名前も何ていうクッキーなのかも思い出せなくて…倫太郎さんに訊いたんです。
倫太郎さんはきっちりしている人でしっかり憶えていて、教えてもらいました」
「そうなの…」
「刃さんにその経緯を説明したらどうして倫太郎さんとさんな遣り取りになったのか刃さんが入院していると倫太郎さんに話したのかってなるかもと思って言わなかったですけど…刃さん、入院中なこときっと知られたくないだろうから…。
あ、倫太郎さんには勿論 話していません。俺が刃さんを好きと知っているので、プレゼントするんだと思っているみたいです」
「そっかぁ。
…やっぱり、大二くんは細やかなことに気がつくよ」
敵わないな…と小声で溢す或人に大二は居た堪れなくなった、から、聞こえていないことにする。 - 116二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 14:17:30
「マーガレット、綺麗ですよね」
「!そう思う?」
「はい。刃さんのイメージにも合っていたと思います」
「よかった…
刃さん、早く元気になるといいな」
「そうですね」
「刃さんが退院したらお祝いしよう」
「いいですね」
「じゃ、俺、家こっちだから」
「はい、ではまた」
分かれ道で或人と別れる。
『おい、大二』
片割れに頭の中で呼び掛けられる。
『何、仲良くしゃべってるんだよ?あいつ、ライバルだぞ!』
「そうなんだけどさ…」
『甘ちゃんがっ!テメェがそんなんだから告白も先 越されんだよッ!』
「…そうだな」
『はぁー おまえ…なんで、そんなスッキリした感じなんだよ…』
「ずっと胸の中に閉まっていたから…もう隠さなくていいんだって思ったらちょっと気が軽くなったというか…」
『単純だな…』
「そうかも…でも、好きってそういうものなんじゃないか?」
『…バカだろおまえ』
「俺、こういう経験ないし、シンプルな方がいいと思うんだ。
けど、ありがとうカゲロウ…心配してくれて。
大丈夫、もう俺は遠慮しないから」
『…ケッ 誰が、おまえのことなんか…!
まぁ精々頑張りな…』
棄て台詞のようなエールを投げつけて相棒の悪魔は大二の心の底に引っ込んだ。 - 117二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 14:19:00
―――好きだ…刃さんのこと…
自分の想いを認めて見つめて向き合えて…
自分の気持ちに素直になって想いを吐露したら、自分の想いと向き合えて…なんだか清々しい気分だ。
空には茜色の夕陽が輝いていた――。
ということで、
或人と大二がお互いにお互いが唯阿さんに恋していると知るお話でした
それから、112に1ヵ所ミスがありましたすみません
✕ ―――刃さん、嬉しいそうだ…
○ ―――刃さん、嬉しそうだ… - 118二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 19:16:13
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- 119二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 19:17:19
※注意※
・一部過激な表現あり
・唯阿さんピンチ
唯阿が無事に退院して数日経ったある日のこと。
「やめてっ…!離して…ッ!」
女の子の悲鳴を聞いて駆け付けると、複数の男に囲まれた見知った子の姿があった。
「何をしている?!」
なかへ割って入り、その女子――祢音の腕を掴んでいる男の手を振り解いた。
「大丈夫か」
祢音に声を掛けると
「唯阿さん…!」
彼女は少々ホッとしたような表情(かお)をする。
「あん?!何すんだッ?!このアマ?!」
「おまえ達こそ、一体なにをしているんだ…?」
「見ての通りだ。この女はな、鞍馬のお嬢様なんだぜ?」
(誘拐か!) - 120二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 19:19:19
別の男が祢音を捕らえようとしているに気づき、彼女に伸びる魔の手を払い除ける。
手を弾かれた男は唯阿の手を掴んだ。
「唯阿さんッ!」
「去(い)け!」
「でも…っ!」
「早く!!」
「っ、待ってて!助けを呼んで来るからっっ!!」
祢音がその場から離れたことを確認して、
唯阿は男の手を振り払おうとしたが…がっちり捕まれていて叶わない。それどころか、お腹に腕を回され、身動きが取れなくなってしまった。
それでも踠(もが)く、
が、
「暴れるなよ」
腹を腕で強く締め上げられる。
唯阿は…抵抗虚しく、ワゴン車で連れ去られた。 - 121二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 23:17:58
唯阿が連れて来られたのは、廃墟と化した建物。
地下階段を降り、一室へ。
中には中高生くらいの女の子が何人もおり、皆、後ろ手に縄で縛られている。
(監禁か…)
唯阿も両手を後ろにした状態で縄が掛けられ、部屋に押し込まれる。
「ここで大人しくしてろ!」
男は唯阿にそう言い放って、ドアの鍵を掛けた。
澱んで沈み切った空気が漂っている。
「…何があった?」
唯阿は少女達に問い掛ける。
………
無言のまま光のない眼(まなこ)がこちらに向けられる。
心身ともに疲弊しているのだろうと、これからどうやって脱出するか頭を巡らせようとしたとき、
「…ぁ、あの…」
か細い声が、唯阿の耳に届く。
唯阿は声の主に目を遣る。と、この中で一際 小柄な少女が唯阿に近寄って
「…なにがなんだか…わからないです…」
絞り出すように洩らす。
「いきなり男の人に無理矢理ここに連れて来られて…
心当たりは…ありません…
さっきから…何回も…いろんな男の人が来て…私を、ここに連れて来た男の人となんか話して…そのやって来た人に、連れて行かれた子が…何人も…」
閊(つか)えながらも必死に話すその少女の、肩は震えている。 - 122二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 23:19:19
誘拐、監禁、人身売買か… とんでもないな。――瞬間 顔を顰めた後、唯阿は
「…きっと助けが来る」
凛とした姿勢で少女達を見回す。
こういうときは安心させるようにやわらかな表情であたたかな眼差しを向けるのがいいのだろうけれど、自分はそれができる優しい人間でない。そういう心遣いのできる人間でない。から、彼女達に寄り添う言動を執れない。
例えば、或人だったり、大二だったり、景和だったり、祢音だったり、彼らなら…捕らえられている少女達の親身になって、やさしく励ますことだろう。
他人(ひと)にやさしく ができない自分が厭になるけれど、いまは自省している場合でない。
此処から彼女達を出すのが先決だ。
唯阿は後ろで縛られた両手を擦り、縄を解いた。
そうして、少女達の縄を解き、
「次に男がこの部屋に来たときがチャンスだ!皆、一斉に走るんだ!」
彼女達をそう鼓舞した。
しばらくして、ドアの鍵の音がした。
「準備はいいか」
唯阿は女子達に声を掛け、
ドアノブが回る。扉がキーッと開く。
「いま、だ!」
唯阿の合図で、女の子達は部屋の外に飛び出した。
「?!!」
虚を付かれた男は、一瞬 面食らったようだが気を取り直して
「待てコラッ!!」
少女達の首根っこを掴もうと手を伸ばす。
それを、唯阿は男の腕にしがみついて阻止した。
「走れ…!振り向かずに走るんだッ!」
唯阿の掛け声に圧され、女の子達は皆、地下室から抜け出すことに成功した。 - 123二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 23:19:58
「やってくれたなッ」
唯阿は男にしがみついていた腕を取られ、床に叩き付けられた。
立ち上がると、拳が飛んでくる。それを躱すと反対側の拳。それも躱せばまた反対側…そうして、何度も寸での処で躱せるものの、
生身の人間を相手に変身できない…っ――こちらから仕掛け難い。防戦一方。
すると突然、違う方向から攻撃が。――別の男に、お腹を膝蹴りされたのだ。
唯阿は転がった。
そこへもうひとりやって来て。その男は、唯阿の髪を掴み、唯阿の顔を窺い見た。唯阿は男を睨み付ける。
「何だ!その反抗的な瞳(め)は!!」
男に頬を打たれた。
再び床に転がった唯阿を見下ろして、男達は唯阿の肩や背や腹を踏んだり蹴ったりし始める。
だんだん意識が朦朧としてきた唯阿は、ついに気を失った。 - 124二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 09:55:03
うわぁぁぁ 唯阿さん…
或人ぉ!大二ぃ!早く助けに来い! - 125二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 19:17:19
唯阿が目覚めると、上から吊るされている感じがした。見上げれば、天井にある手鎖で両手首を繋がれていることがわかる。先程 押し込まれた部屋とは異なる鉄格子に囲まれていて…牢屋にぶち込まれたようだ。
「お目覚めかな?」
鉄格子に手を掛けニヤケ面で見てくる男に
(気分は最悪だがな)
内心 悪態を吐いて冷たい視線を投げる。
牢の南京錠を外し、男が入って来る。
「お前の所為で金になるガキ、全員いなくなっちまったんだけど…どうしてくれるンだ?!」
「犯罪者相手に何をしてやる義理がある?」
顔を殴られた。口の中が切れる。
「テメェ!こっち向けや!」
顎を強く掴まれ、男の方に顔を向けさせられる。冷めた眼差しをくれてやると
「テメ、…なかなか上玉じゃねぇか…」
男は下衆な笑みを浮かべた。
そして、手鎖に繋がれた腕を撫でるように触ってきた。
―――気持ち悪い…
唯阿は、男の股間を足で蹴り上げた。
「 ッ う゛」
男は小さく呻き、倒れ込む。
「ハハハ!威勢がいいな、あんた!」
気に入った!!と言って別の男が何かを持って牢内へ入り、倒れた男にその何かを手渡しながら耳打ちをした。
何を企んでいる?!――唯阿は身構えるも、両手が使えない状態では満足に動けない。
次の瞬間、床に這いつくばったままの男に足を捕まれた。
!!
唯阿は身を捩って逃れようとするけれど、鎖がジャラジャラと音を立てるだけ。
男がついさっき別の男から受け取った何かを唯阿の足首に着けた。鉛玉、だった。 - 126二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 19:19:00
「これで、足の自由も利かなくなった。あんたの威勢、いつまで保(も)つかな??」
唯阿の足に鉛玉を着けるよう指示した男は、愉快そうに嗤う。
頭の天辺(てっぺん)から足の爪先まで舐めるように視線を這わせる男に物凄い不快を感じる。が、男の言う通り、鉛色の重石が着けられ足を思うように動かせない。
唯阿は眼光鋭く睨む。
「いいね~ その瞳(め)!」
ますます愉しげに口角を上げ、男が近づいて来た。
壁に手をついて、男は唯阿の顔を覗き込む。
「気の強い女は嫌いじゃないぜ」
鼻先がくっつきそうな程 間近に男がいて、唯阿は顔を背けた。露になった唯阿の首筋を、男は指でなぞる。
ぞわっと悪寒が走る。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…
やめろ…と言おうとして、言ったところでこういう奴が止める訳ないと頭を過り、判断が遅れた。
男は服の上から身体を弄(まさぐ)る。
「……っ、」
唯阿は唇を噛んだ。せめて声が出ないように。
「さっきまでの威勢はどうした?急にしおらしくなって…もう降参か?」
唯阿の身体を撫で回しながら、男が耳元で何とか言ってくれよと囁く。
唯阿は奥歯を噛み締め、耐える。
「まっ、いいや。 声、我慢できなくなるまで可愛がってやるよ」
男は唯阿のスーツのジャケットに手を掛けボタンを外した。唯阿の手は鎖で縛られている為、ジャケットを脱がせることはできない。
濃いグレーのジャケットの前を開くと、白いブラウスから僅かに胸の膨らみがわかる。
男は、唯阿の、鎖骨、脇、お腹と触っていき…胸を鷲掴みしようと…した、そのとき――
「動くな!ブルーバードだ!」 - 127二次元好きの匿名さん23/03/05(日) 05:17:00
「動くな!ブルーバードだ!」
唯阿のピンチに現れたのは…
(五十嵐くん…)
大二率いるブルーバードの隊員達と…
(社長、さん…)
或人、だった。
「あン?何だ、オメェら?! おい!あいつら、ヤッちまおうぜ!」
誰か一人の号令で大勢の男共がブルーバード隊に向かって行く。
或人と大二を中心に隊員達が応戦する。
「助けが来て、安心しているようだが、」
大二と或人の方に意識が向いている唯阿の視界を遮るように男が唯阿の眼前に顔を寄せた。
「仲間が見てる前で、引ん剥いてやることもできるんだぞ」
言うが早いか、男は唯阿のブラウスを脱がせに掛かった。
「っ、やめ…」
見知った者の前で曝されるのは流石に恥ずかしく、唯阿は身体を捻って免れようとするも手足を鎖と重石で封じられているから簡単に押さえ込まれてしまう。
「暴れんなって…ッ」
男は余裕振った口調だがここにきての唯阿の抗いに焦っているのか、ブラウスを乱暴に剥ごうとしてボタンが弾け飛んだ。タンクトップ越しに下着が透けて見える。
「刃さん…!!」
大二の、声が聞こえる。
―――見るな…見ないでくれ…
唯阿は大二の方に目を遣れなくて、俯いた。 - 128二次元好きの匿名さん23/03/05(日) 05:19:19
男は、唯阿が着ているタンクトップの裾を捲って中に手を入れた。
「その人に、触るな…っっ!!!」
低く怒気を帯びた声が、響いた。
その怒声を発したのは――
(社長さん…?)
不機嫌さを凝縮したような、凄味を感じる低音。いつもの或人からは想像できない。
唯阿はそっと或人の方を見遣る。――完全に目が据わっていた。
或人は自身を取り囲む男共も薙ぎ倒し、牢屋へ駆け寄る。
と、そのとき。倒された一人が銃を持って後方から或人に襲い掛かろうとした。が、
大二がその男に掴み掛かった。大二と男は揉み合いになるも、大二が男の腕を捻り上げ、身体ごと床に圧し付ける。
尚も足掻いて撃とうとする男の手から銃を取り上げ、
逆に大二が
「動くな」
男に銃口を向けた。
それから大二は、男の上着のポケットから鍵束を取り出すと、
男から目を離さず
「或人さんは刃さんの処に行って下さい」
と或人にその鍵束を投げた。
腰が抜けたらしい男に銃を突き付けたまま、大二は周囲に群がる男共を見回し
「おまえ達に慈悲は与えない」
心の芯まで凍る程 冷たく言い放った。
或人は錠が掛かった牢の前で鉄格子を握り、男に怒りに震える眼を向けて
「彼女をここから出せ!!」
吼えた。
男は唯阿から離れ、牢の外に出る。
「先にお前を黙らせるしかな…――グハッ」
瞬殺。
男の台詞は最後まで続かなかった。――或人があっという間に倒したのだ。 - 129二次元好きの匿名さん23/03/05(日) 12:17:17
或人は牢屋の中へ入り―南京錠は男が牢を出る際に解錠されている―、大二から預かった鍵束で手鎖と重石を外す。
拘束から解かれた唯阿は足許がふらつく。
「刃さん!」
或人が唯阿の背中に手を添えその体躯を支えた。
そして、或人は…唯阿の、ジャケットは半端に脱がされ、ブラウスはボタンが取れて前が肌け、タンクトップが丸見え.という いまの格好を目の当たりにする。
「こ、これを…っ、着て!」
或人は自身のパーカーを唯阿の肩から掛けた。
「すまない…」
そこで緊張の糸が切れたらしい唯阿は倒れる。
地に横たわる唯阿を或人は抱き起こす。
「刃さん!刃さん!」
呼び掛けると、焦点が合っていなかった唯阿の目に或人が映る。
「すぐに怪我の手当てするから」
心から労るような言葉を紡ぐ或人はいつもの或人で。そのことに酷く安堵して…唯阿は瞳を閉じた。
「刃さん…?刃さん…ッ?!刃さんっっ…!!」
一方、大二は、自身に群がっていた男共を全員 殴り倒していた。
そこへ耳に飛び込んで来たのは、或人の悲痛な叫び。
急ぎ、唯阿と或人の元へ向かう。
「刃さん…ッ!!刃さんっっ…!!!」
「或人さん?!」
「刃さん…ッ!!!刃さんっっ…!!!」
大二が声を掛けても或人は聞こえていないようで。必死に唯阿に呼び掛けている。…或人は顔面蒼白だ。
大二は唯阿の肩を揺さぶる或人の手を退かし、彼女の身体を地面に寝かせた。
「!大二くん…」
たった今、大二の存在に気がついたと思しき或人にひとつ肯いて。
大二は、片手を唯阿の額に当てて頭を後ろにのけ反らせもう一方の手の指を顎先に当てて顎を上げ気道を確保、鼻先から口元に耳を近づけ胸や腹部の上がり下がりを見て息の音を聞いて呼吸の確認をする。
「大丈夫…刃さん、息をしてます。気を失っているようですけど」 - 130二次元好きの匿名さん23/03/05(日) 23:08:18
唯阿さん無事でよかった〜!
- 131二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 08:50:02
退院した途端、悪漢に捕まる とは…唯阿さん散々だな
生きててよかったー - 132二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 09:19:00
或人もメンタルやばくないか…
- 133二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 10:19:00
「おまえ達に慈悲は与えない」
大二、カッコいい…! - 134二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 11:17:08
このレスは削除されています
- 135二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 11:19:01
ヒロピン展開… 唯阿さんピンチ って…そういう…
生身の人間に対して変身できない はなるほどってなった
これ、未遂で済んだから良かったものの、あと一歩 或人と大二が来るの遅かったら… - 136二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 11:32:59
ゼロワンやリバイス世界の民度ならゲスい奴いそうだし怪人じゃなく人間にヤられる展開は有り得そうなのがヤベーイ
- 137二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 11:58:23
このレスは削除されています
- 138二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 12:19:01
このレスは削除されています
- 139二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 14:19:17
大二がまたフォローに回っている…
後方支援 上手いよね大二って… サポートタイプというか… - 140二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 17:17:00
或人が胸を撫で下ろすのを見、大二は背中を向いて唯阿の両腕を自身の肩に乗せ彼女の膝裏辺りに手を回しておんぶした。立ち上がった拍子に唯阿が気がついた…ようだ。
「す、すまない、君の背におぶさっていて…! 自分で歩くから降ろしてくれ」
「気にしないで、しっかりつかまっていて下さい。落ちちゃいますから。
お家は何処です?」
「……………」
「医電病院へ行きますか」
「……わ、わかった… 家まで頼む…」
大二は、男共をブルーバード隊員に任せ、或人と一緒に唯阿に教えてもらった家へ彼女を連れ帰った。 - 141二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 17:17:17
ふたりに家まで送ってもらった唯阿は、大二に手当てされている。
「手慣れているな…」
「仕事柄、生傷が絶えませんから…ちょくちょく自分や隊員の応急処置をするんですよ」
言われてみれば、いまも大二は顔や腕等に傷がある。
「迷惑を掛けてすまない」
「ブルーバードは連続少女誘拐監禁事件を追っていたんです。アジトを突き止める為に、この辺り一帯を捜索していて…
少女達を解放してくれたのは刃さんですよね?脱出した女の子達と逢って、そう話してくれました」
「そうか… 奴らは人身売買も行っているようだが…」
「そっちはヒロミさんの部隊が当たっています」
「そうなのか…対応に当たっているのならよかった。
ところで、社長さんはどうして私が囚われたことを…?」
「祢音ちゃんが連絡をくれたんだ」
「そうだったのか」
「手当て、終わりました。応急的なものですから後日 病院でちゃんと看てもらって下さいね」
「あ、あぁ」
「刃さん、自分の部屋まで行けます?」
平気だと言って立ち上がった途端、身体がぐらり。
「「刃さん!」」
ふたりに支えられ、事なきを得る。
「部屋まで一緒に行きましょうか」
唯阿は申し訳なくて情けなくて下を向く。 - 142二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 17:19:00
或人と大二は唯阿の自室に入って、彼女をベッドに座らせた。
「それじゃあ、俺は事件の報告をしにブルーバードへ戻ります」
「ま、待った!」
「?」
「君も怪我しているじゃないか」
手当てを…と言い掛ける唯阿を制して、大二は
「先刻も言いましたけど、自分でできるから大丈夫です。ブルーバードには救護室もありますし」
「! 私もブルーバードに赴くべきだったんじゃないのか?事情聴取があるだろう?救護室があるなら手当てはそこで構わなかったのに」
「何を言っているんですか。あんな目に遭って、今日の今日で話すのはつらいでしょう?いまはゆっくり休んで、傷を癒して下さい」
体も、心も。――言外にそんなニュアンスが含まれている気がして。
―――彼は、本当に…
やさしい。――大二の気遣いが、身に沁みる。
失礼しますと大二が言って、或人が俺も…と言う。
「社長さん、貸してくれた上着はクリーニングに出して返す」
「うん」
そんな遣り取りをして。
じゃ…と言って或人と大二は帰って行った。 - 143二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 19:17:19
ふたりが帰った後、唯阿は着替えようと或人のパーカーを脱いだ。
乱れた着衣が目に入り…崩れ落ちるように座り込んだ。
…‘あの場’では気を張っていたけれど、本当はずっと恐かった。いまになって恐怖が溢れ出す。身体が震えた。
男の荒い息遣いや身体に撫でる指の感触が否応にも思い出されて吐きそうになる。
一刻も早く解放されたくて、服を脱ぎ捨てた。もはや汚物としか思えなくなった、今の今まで着ていたスーツジャケット・ブラウス・タイトスカート・下着の先を摘まんでゴミ袋に投げ入れた。それだけで疲れてしまう。けれど、
自分のこの身も穢れている気がして、苦痛を抱えて浴室へ向かった。
シャワーの蛇口を捻る。涙が零れる。
一度 溢れたそれはもう止まらなくて。唯阿は泣いた。嗚咽混じりに泣いた。
湯水を浴びながら、涙も共に流れてしまえばいいのに…と思う。
一頻り涙を流し、身体の穢れを流し、唯阿はシャワーを止めた。
パジャマを着て、リビングのソファに腰掛け、ボーっとする。なにもする気が起きない。 - 144二次元好きの匿名さん23/03/07(火) 00:17:00
どれくらい時間が経っただろう。
ピンポーン、とインターホンが鳴った。
ドアを開けるとそこにはさくらが立っていた。
「こんばんは」
「あぁ、こんばんは。急にどうした?」
「大ちゃんから電話があって…。上がってもいいですか?」
「……どうぞ…」
「お邪魔します」
さくらを家の中へ通す。
「唯阿さん、晩ごはん食べました?」
「否…」
「だったら、一緒に食べましょう!ファストフードで申し訳ないけど。 テーブルに置きますね」
「あー、では何か飲み物を…」
「ドリンクも買ってきてるんでお構いなく~」
「そ、そうか…」
「食べましょう食べましょ」
「あ、あぁ」
唯阿はさくらにダイニングチェアに座るよう言って自らも着席した。
「あと、これ」
さくらが何やら菓子箱を差し出す。
「祢音ちゃんからです。ホントは祢音ちゃんも来たかったみたいなんだけど、門限で無理だからって」
どういう…こと…だ…??
さくらも祢音もどうして…唯阿の処へ…?
「祢音ちゃんは飛電さんから連絡もらったそうですよ。祢音ちゃんが唯阿さんのことで飛電さんにお願いしたから、その報告を兼ねてって…」
「 …ということは…つまり、――なにがあったか、知っているのか…君も…彼女も」
「詳しくは聞いてません」
「…訊かないのか?……私に」
「話したくないんでしょ? それに…」 - 145二次元好きの匿名さん23/03/07(火) 00:17:17
「大ちゃん、言ったの。いまの唯阿さんを独りにしちゃいけないと思うけど、傍にいるなら自分より唯阿さんと同性の私の方がいい って…
だから、それで何となく察したから…(独りにしちゃダメだけど傍にいるのは同性がよくて他人にあまり聞かれたくないことって…そういうアレだよね…)」
「………」
「という訳で、ごはん です!食べながら、ガールズトークしません?」
いただきます、と明るく振る舞うさくらに彼女の心遣いを見て、そういう処は兄妹で似ているのだな、と細やかな気遣いのできる大二と重なる。
「ごちそうさまでした。
これ(テイクアウトの袋)、ゴミ袋に捨てていいですか?」
さくらに尋ねられ、構わない、と答えたが…ゴミ袋の中に汚らわしい衣服が入っていることに気づき、しまった…と思う。
「これ…」
案の定、さくらもゴミ袋の中身がわかったようで…どう説明しようかと思案していると、
「外に出しますね」
「ぇ」
「ゴミ収集は明日の朝だから今のうちに出しちゃいますね」
さくらは深く追及するつもりはないようだ。
彼女の配慮に対する謝意も含めて、
「あ、ありがとう」
と伝える。 - 146二次元好きの匿名さん23/03/07(火) 00:19:17
「唯阿さん、」
ゴミを玄関の外に出し、戻ってきたさくらが言った。
「もし厭じゃないなら…いつか、家の銭湯に浸かりに来て下さい」
―――嗚呼、この子も彼と同じように…
さくらのあたたかさが、いまの唯阿の身に沁みる。
なのに、
「……そうだな、気が向いたら…そうしよう」
素直に返せない。
そんな唯阿の応えにもきを悪くしたふうもなく、さくらは、それじゃまた、と頭を下げた。
「おやすみなさい」
「あぁ…おやすみ」
去って行くさくらの後ろ姿を見送って。唯阿はドアを閉めた。
閉まる直前、視界の端に紅く輝く夕陽が見えた――。 - 147二次元好きの匿名さん23/03/07(火) 10:26:35
救われてよかった…
- 148二次元好きの匿名さん23/03/07(火) 11:50:07
お見舞い編の比較的ほのぼのな話からの重い展開…
- 149二次元好きの匿名さん23/03/07(火) 19:00:20
或人も大二も唯阿さんを気遣ってるな~
- 150二次元好きの匿名さん23/03/07(火) 19:19:00
ここから、或人×唯阿ルートと大二×唯阿ルートに分かれます
- 151二次元好きの匿名さん23/03/08(水) 01:00:40
楽しみにしてます!
- 152二次元好きの匿名さん23/03/08(水) 12:11:06
とりあえず楽しみの保守
- 153二次元好きの匿名さん23/03/08(水) 13:19:06
わくわく待機
- 154二次元好きの匿名さん23/03/08(水) 23:53:49
ここからどうなるのか楽しみです!
- 155二次元好きの匿名さん23/03/09(木) 09:17:17
或人は墓前に立っていた。
「不破さん、俺…どうしたらいいかわからないよ…。
不破さんは不破さんの正義に従ったんだよね…?わかっているよ…不破さんは、全力で滅亡迅雷の心を受け止めて、全力で滅亡迅雷にぶつかって…その結果が、これ だって…
でも!見てられないんだっ、刃さん…つらいと思うきっとつらいと思うんだ…だけどそんな表情(かお)を少しも見せないで…気丈に振る舞ってさ…
だから俺、刃さんの力になりたい…ちょっとだけでも力になりたくて…でも刃さん俺にちっとも頼ってくれなくて…
刃さんに笑ってほしいけど俺には刃さんを笑わせられなくて…」
一陣の風が通り抜ける。
「不破さん、俺じゃ駄目だよ…刃さんを笑顔にできない…」
或人は不破の墓の前で泣き崩れた。
「社長さん、」
後ろから声を掛けられて、或人は振り返る。
公園の、梅の花の下、唯阿が、いた。
用件は?と尋ねてくる彼女に、こう告げる。
「刃さんが好きだ」
刹那、時が止まる。
「突然、ごめん。でも…」
唯阿を真っ直ぐ見つめて、想いを紡ぐ。
「俺…刃さんのこと、好きなんだ」
しばらくの沈黙の後(のち)、
「あなたの気持ちには応えられない」
彼女からお断りの言葉。
「……そっか…」
ぽつり漏らして、或人は笑ってみせた。上手くできているかわからないけれど。
もう、いいだろうか…と言う彼女に、………うん、とだけ、どうにか絞り出して、或人は唯阿の前を去った。 - 156二次元好きの匿名さん23/03/09(木) 09:17:58
辺りが急に昏くなった。
或人が顔を上げると、目の前にはアークの姿と成った唯阿が悪意をばら撒く光景が広がっている。
「やめてください…」
そう懇願するも…
「何故そんな顔をするんだ?」
心底から理解できないといった感じの彼女に
「好きだからだよ」
と応える。
「刃さんが好きだから、いまの刃さんを見てるの苦しんだ…」
或人がそう伝えると、唯阿は呻き声を挙げアークからヘルライジングホッパーとよく似た形態に変化(へんげ)、周囲と自身を破壊し始めた。
或人は奥歯を噛み締め爪が掌に食い込んで血が出る程 拳を握り締め、
「あんたを止められるのはただひとり…俺だ…ッ」
絞り出すような声で沈痛な決断を下し、決死の覚悟で唯阿と闘い…
唯阿は正気を取り戻した。
「刃さんごめん…混乱させたねごめん」
「いや!社長さんは悪くない!…こちらこそすまなかった…」
或人と唯阿は互いに謝罪を口にした。
何も無い空間に唯阿を見つけ、彼女の傍らに佇む男性の存在に気づく。
「不破さん…、……生きて、た……? 不破さん…ッ!刃さん…ッ!」
或人は呼び掛ける、けれど、ふたりの反応はない。
「不破…聞いてくれるか?」
唯阿が不破に語り掛ける。
「私はおまえに謝らなければいけないことがたくさんある。
私は…ライダーシステムを作っておきながらライダー変身者であるおまえの過去の記憶が捏造されたものとも知らずに私は…変身する為とは謂え脳に埋め込まれたチップのことは黙って、バルカンとして闘うおまえを見ていた。
不破、おまえは仮面ライダーになるべきじゃなかった。
おまえは、私が作った仮面ライダーという夢がある.と、そう言ってくれたな…
でも…!もしおまえが仮面ライダーにならなければおまえは滅亡迅雷を止める為に命を張ることもなく、家族と笑い合う日々を生きられた…。
後悔はある…悔やんでも悔やみ切れない程。けれど、おまえが、不破が『命を守るのがおまえの役目だ』と…、命を張った不破がそう言うから…、――私は…『どんな命も私が守る』と決めたんだ…
なのに…、私は…アークとなった、なってしまった。人を傷つけ、街を破壊し、――守ると決めた命を脅かすことをしてしまい… 私は…、私は…」 - 157二次元好きの匿名さん23/03/09(木) 09:18:20
「…お迎えが来たようだ。不破、最期におまえに逢えてよかった」
唯阿の背後に禍々しい門が現れ、扉がゆっくり開く。中から炎が見えるその門を唯阿は潜る。
「「待って…!!」」
大二と声が重なる。けれど、唯阿には届かない。
無情にも地獄へ続く扉が閉まっていく。
或人と大二は走る、けれども、一向に前に進めない。
“地獄の門”が閉まる間際、不破が扉の隙間に手を挟み入れ抉じ開け全開すると、唯阿の手を掴み、ふたりは扉の先から脱出した。
「相変わらず無茶苦茶だな…おまえは」
解かれた自身の手を見ながら、唯阿が言う。
「私はおまえに振り回されてばかりだ…
後先 考えずに突っ込む。人の言うことを聞かない。自分のルールで突き進む。頭に血がのぼるとブレーキが効かない。身の危険を省みず無茶をする。無鉄砲で向こう見ずで……ほんと…不破は自分勝手だ。
だけどな、不破…おまえは迷いがなくて、真っ直ぐで…。…羨ましい。
真っ直ぐと謂えば――あの人、もだな。
社長さんは…人の善性を信じ、ヒューマギアを単なる道具として扱うのでなく社員として見る、いい人…。
そんな社長さんに対して私は…メタルクラスタホッパープログライズキーを構築し無理矢理ゼロワンドライバーに装填してゼロワンシステムを封じたり…ジャッカルレイダーとなって立ち塞がったり…
テクノロジーを悪用して苦しめた…。
なのに、社長さんはこんな私を仲間だと言う。お人好しだ…
社長さんは真っ直ぐで、眩しくて…。偶に疎ましくなる…――私は社長さんの顔を真っ直ぐ見れない。
イズが散ったとき、社長さんになにか言わなければと思った…なのに、私は何も言わずに立ち去った。なにを言えばいいのかわからないとか私の何の慰めにもならない言葉など無意味だとか私が声を掛けたところで要らぬ世話だろうとか…あれこれ理屈を並べ立てて、私は社長さんをほおってしまった…。
それでも社長さんは、こんな私を仲間と言うんだ…お人好しが過ぎる…」 - 158二次元好きの匿名さん23/03/09(木) 09:19:00
「私はアークになってしまった…私は迷惑ばかり掛けている。
おまえが私には命を守るという役目があると、命を張ったおまえがそう言うから、だから私は…『どんな命も私が守る』と決めた、のに…。私は…アークとなってしまった…!
人を傷つけ、街を破壊し…――守ると決めた命を脅かした…!
人の善性を信じる社長さんを裏切って…!!私は…私は…」
「もういい…わかったから。もういいんだ、刃…」
不破が唯阿をやさしく宥め
「俺と一緒にいくか?」
手を差し出す。
その声のあたたかさに、唯阿が自らの手をゆっくり伸ばす。
「「刃さん…!!」」
再び或人と大二の声が重なる。
唯阿が、こちらを向いた。
或人と大二は唯阿の元へ駆け出す。
「社長さん…どうして… 君も…」
戸惑っている様子の唯阿に
「迎えに来たよ。帰ろう?」
或人は手を差し伸べる、けれど唯阿は躊躇う素振りを見せる。
そんな、唯阿の手を
「刃さん、帰りますよ」
大二が掴んだのを見て、
「そうだよ、刃さん。一緒に帰ろう」
或人は唯阿の反対側の手を掴む。
唯阿と大二と自分の3人で一歩 踏み出すと、白い扉が現れる。
その扉の先が出口だと確信して、或人と大二は唯阿の手を引いて走った。
3人は扉の外の光指す方へに飛び込んだ。 - 159二次元好きの匿名さん23/03/09(木) 09:30:00
突然、牢に閉じ込められた唯阿が、目に飛び込んで来た。彼女は天井から垂れる手鎖に両手を繋がれ、両足には鉛色の重石が着けられている。
牢屋内にいる男が唯阿のブラウスを脱がせに掛かった。身体を捻って免れようとする唯阿を押さえ込んで男は唯阿のブラウスを乱暴に剥ごうとする。ボタンが弾け飛び、タンクトップ越しに下着が透けて見える。男が唯阿の着ているタンクトップの裾を捲って中に手を入れた。
「その人に、触るな…っっ!!!」
或人は怒声を挙げた。自身を取り囲む男共も薙ぎ倒し、
「或人さんは刃さんの処に行って下さい」
と大二が投げた鍵束を受け取って牢屋へ駆け寄る。
或人は錠が掛かった牢の前で鉄格子を握り、彼女をここから出せ!!と吼え、牢の外に出てきた男を瞬殺。
牢の中へ入り、大二から預かった鍵束で唯阿を拘束している手鎖と重石を外す。足許がふらつく唯阿を背中に手を添えて支えた。自身のパーカーを唯阿の肩から掛けると、彼女はそこで緊張の糸が切れたのか倒れてしまった。
「刃さん!刃さん!」
或人が唯阿を抱き起こして呼び掛けると、焦点が合っていなかった唯阿の目に自分の顔が映る。
「すぐに怪我の手当てするから」
労りの言葉を掛けたところで…唯阿は瞳を閉じた。
「刃さん…?刃さん…ッ?!刃さんっっ…!!刃さん…ッ!!刃さんっっ…!!!」 - 160二次元好きの匿名さん23/03/09(木) 09:30:30
「刃さん!!!」
或人は飛び起きた。
またか、と思う。
誘拐犯から唯阿を助け彼女を家まで送って行った日から、或人は毎晩、この夢を見ていた。…不破を喪ってから自分(或人)に対して持たなくていい負い目がある故にアークと化し昏睡状態となり覚醒めてすぐに少女誘拐犯に囚われ意識を失くした唯阿を、自分の腕の中で瞳を閉じた唯阿を、毎晩、夢で見ていた。
いつも、意識を手放した唯阿に何度 呼び掛けても何度その名を呼んでも瞳を開けない…ところで、或人は跳ね起きる。
『…ミモザ、だな…』――或人がお見舞いにと差し出した黄色の花束を見て、呟いた唯阿のことを思い返す。
そうすることで、悪夢を拭いさって、心を落ち着かせようとするのだ。
ふわふわした房状の黄色い小花を見る、唯阿の横顔が…――綺麗だ…
―――そういうあなたの方が綺麗だよ、ミモザの花よりずっと…。 …好きになってごめんもう言わないよ
そんなことを考えながら、彼女への好きという気持ちを、ミモザを見つめる彼女の横顔と一緒に胸の中にしまう。大切に大切にしまっておく。
『俺も好きです、刃さんのこと…』
大二の声が、或人の頭の中に木霊した。 - 161二次元好きの匿名さん23/03/09(木) 19:17:19
連続少女誘拐監禁事件から数週間、唯阿の元にイズが訪ねてきた。
「イズ…どうしたんだ?」
「或人社長が…」
「社長さんが、どうした?」
「ここ数週間、毎晩、魘(うな)されているようです」
「……原因はわかっているのか…」
「刃様が関係している可能性があります」
「?!それはどういう…?」
「或人社長はこのところ、やつれていました。目の下に隈ができ、食欲も落ちています。時折、心ここにあらずといった感じでどこか遠い処を見ているようです。
私達には何も語らず変わらず笑顔を向けてくれますが…空元気としか思えません」
「……それは…危うい状況だな…」
「はい。そこで、昨晩、私は或人社長のご自宅へ伺い、一晩、眠る或人様の傍に付き添いました。
或人様は唸りながら苦しそうな顔を浮かべ…――刃様の名を呼んでいました」
「?!! 私の名を…?!」
「譫言のように貴女の名前を繰り返していました」
「……そうか…」
「話を聴くと、刃様が大変な目に遭ったときの夢を毎夜 見ているそうです」
―――社長さん…
私はまた彼を傷つけているのか…。――唯阿の表情が曇った。
「それで、刃様にお願いなのですが」
イズの言葉に唯阿は顔を上げる。
「今夜、或人社長の傍にいてくれないでしょうか」
イズの申し出に唯阿は一瞬 戸惑ったものの、
或人が毎晩 魘されている原因は自分にもある。なら…
「…わかった」
一夜、或人に付き添うことを了承した。 - 162二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 07:10:00
保守
- 163二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 10:18:59
このレスは削除されています
- 164二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 12:00:00
「今日は、まさか刃さんが家に来るなんて思わなかった…」
イズと連れ立って唯阿が訪ねてきたものだから、嬉しくはあるけれど驚く或人。
「社長さん、スーパーの安売りお惣菜で悪いが持ってきた。食べるか?」
「うん」
「それでは、私はその間にお布団の準備をして参ります」
「…イズ…(そんなことしなくていいんだけど、イズはごはん食べられないからな…手持ち無沙汰になるし…申し訳ないけど)…ありがとう」
イズがダイニングを出てから
「「いただきます」」
或人と唯阿は手を合わせる。
そう謂えば、いつ振りだろう…唯阿とふたりで食事をするのは。一貫ニギローのお寿司を並んで食べたとき以来か。
‘あの’とき、握り寿司をおいしそうに頬張って笑みを溢した唯阿は、いま思えば可愛かった。――今更そんなことが頭を過る。
そして現在(いま)、目の前で惣菜を食べている彼女はやっぱり可愛い。
なんだかこっちまで食べるのが愉しくなって…箸が進む。久し振りにちゃんと食事を摂れた気がする。
「「ごちそうさまでした」」
ふたりが夕飯を済ませたところで、イズが戻ってきた。
何やら支度―帰り支度だろう―を始めた唯阿のいる処でイズが布団を敷いたので寝るよう促してきた。
客人である唯阿がまだ帰っていないのに…と慌てる或人だったけれど、もう済むから構わないと唯阿に言われ、最近 寝つけなくて疲れているでしょう早く寝ましょうとイズに背中を押されて(文字通り背中を押されて)、
自室に連れて行かれ、あれよあれよという間に布団に寝かしつけられた。
「イズ、今日も泊まるの?なんかごめん…」
「いえ、今日は別の方にお願いしています」
「??誰?(家政婦型ヒューマギアとかかな)」
「それは…秘密です」
唯阿に自分が付き添うと知れば或人は断って帰らされるか一睡もしないかだろうから内緒にするよう口止めされていたのでイズは言わない、けれど、そのことを知る由もない或人は、え゛?と首を傾げる。
「おやすみなさいませ、或人様。失礼致します」
「エーッ?!…ちょっ待っ…」
戸惑う或人を尻目にイズは帰って行った。 - 165二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 19:17:00
眠る或人のベッドの真下に座り込んで、唯阿は彼の様子を窺った。
しばらくすると、小さく唸る声が聞こえてきた。彼の顔を覗き込むと時々眉間に皺を寄せている。
社長さん、と呼び掛けるより早く、或人の息遣いが荒くなった。薄っすら汗を搔いている。タオルで額を拭おうとしたとき、
苦し気な声で、刃さん…っ、と彼の口から聴こえてきて。
「社長さん!」
唯阿は呼び掛けた。
けれど、或人はくぐもった声で、うぅ…と洩らすばかりで、目を覚まさない。
次第に唸り声が大きくなる。
「刃さんっ、刃さん…っ」
或人は目を瞑ったまま、唯阿の名を呼ぶ。…呻き声混じりに。
「社長さん!社長さん!」
こちらも呼び掛けてみるけれど、彼はなかなか目覚めない。
はぁ…はぁ…という息遣いが苦しそうだ。
「刃さんっっ…!!刃さん…ッ!!刃さんっっ…!!!」
或人は、唯阿の名を呼ぶ。何度も、何度も。それは、悲痛な叫び。
胸が痛い。
「社長さん!!」
唯阿は或人の手を取った。
そして、祈るみたいにその手を握る。 - 166二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 19:17:55
「刃さん!!!」
或人が飛び起きた。(その拍子に或人と手が離れる。)
焦点の合っていないふうな彼の瞳をしっかり見て、もう一度、呼び掛ける。
「社長さん」
「……刃、さん…?」
「あぁ、そうだ。私だ。私はここにいる」
落ち着きを取り戻しつつあるのか、或人が少し笑った。
こんなときでも笑うんだな等と場違いなことが頭に浮かぶ。
「どうして…ここに…?」
「イズに頼まれて、な」
「……そんなぁ…申し訳ない…」
「最近、あまり眠れていないのだろう?イズ達も心配していたぞ」
「ぅ、ん、でも…(独り暮らしの男の家に女の人ひとりで泊まるって…どうなんだろう…)」
「…(私は社長さんに酷い事たくさんしてきたから)気にしなくていい。 こんな夜中に帰れなんて言わないよな?」
「…い、言わないよ!夜道は危険だし!(それで、イズも黙っていた…??)」
「イズには、私から口止めした。あなたが起きているときに今日は私が泊まると言ったら、あなたは自分は平気だから帰るよう言うか一睡もしないかだろうと思ったんでな…」
(刃さん…)
「……それで、本題なんだが…」
「…!」
表情(かお)を強張らせる或人に気づいていない振りにをして、唯阿は口火を切る。
「随分 魘されていたが、一体…どんな夢を見ていたんだ…」
「……やっぱり言わなきゃ駄目、だよね…」
或人は、俯いて、息を吐いた。 - 167二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 19:19:19
「…迷惑かけてごめんね」
彼の言葉は謝罪から始まった。
「刃さんの精神世界に入って刃さんの心に触れて俺はなんにもわかってなかったんだって思い知った。
刃さんがあんなふうに思っていたなんて、俺…ちっとも考えてなくて…
刃さんがどんな気持ちでいたのかどういう気持ちで俺と接してきたのか考えもしないで…
刃さんがどれだけ思い詰めているか気づきもしないで、刃さんの気も知らないで、自分の想いだけぶつけて…
身勝手でごめん。追い込んでごめん」
「……」
前にも聞いた…何度も謝らなくていい…。――そんな思いが頭を駆け巡るけれど、沈痛な面持ちの或人を見たらなにも言えなくなる。
「刃さんの意識がなかなか戻らなくて、心配だった。
現実世界に連れ帰って来られて、ほんと嬉しかった。
入院している刃さんを見舞ったとき、拒まれなくてホッとした。
刃さんが誘拐されたって聞いて、胸が苦しくなった。拘束されている刃さんを見て、辛かった。
目の前で…ッ」
淡々と語っていた或人が、そこで声を詰まらせた。
「…目の前で、刃さんが瞳(め)を閉じて…っ、俺の腕の中で気絶して…っ!俺…っ、俺っっ…!」
そのときの状況を思い出しているのか、或人の感情は昂っているようだ。
「恐いんだ…!!」
或人は絞り出すように叫んだ。
「刃さんがいなくなるのが恐い…。俺は…ッ、刃さんがいなくなるのがっ!恐いんだよ…ッッ!!」
涙ながらに訴える或人の姿は痛ましくて。唯阿には返す言葉が見つからない。
「何度も見るんだ、同じ夢を。
あの日と同じ、刃さんが精神世界で苦しんでいるところを…
あのときと同じ、刃さんが意識を失くす瞬間を…夢で見るんだ…何度も何度も…」
―――社長さん…!
「私は、ここにいる!」
唯阿は或人の手を掴んだ。
「ここにいるから!だからっ!」
もう、そんな顔しないで… そんな哀しい表情(かお)をしないでくれ…! - 168二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 21:17:00
「…好きだよ」
或人がぽつり告げた。
「ごめん好きだよ… 困らせたい訳じゃないんだ、もう言わないって決めていた…困らせたくないから…
もう言わない、そう決めてたんだけど…でも… いなくならないで…俺の前からいなくならないで…
好きなんだ…諦めようとしてだけど諦めきれなくて…好きだよ…ごめん…やっぱり好き…」
一気に想いを綴って。
「俺…刃さんのこと、好きなんだ」
彼は言葉を紡いだ。
―――社長さん…
『あなたの気持ちには応えられない』。――前に断った台詞。いま、全く同じ返答ができるだろうか…と唯阿は考える。 - 169二次元好きの匿名さん23/03/10(金) 21:19:19
果たして、唯阿が出した“答”は……
「社長さん、」
或人が息を呑んだのがわかる。
「私は、自分があなたを好きなのか、わからない。 ただ…、私は傍にいる。あなたの傍にいる」
「!」
「あなたの前から急にいなくなったりしない」
思えば、彼――或人は…幼い頃に父親と死別し、信頼していた秘書(イズ)を喪い、頼れる仲間(不破)を亡くし…失ってばかりの人生だ。
だから、
『いなくならないで…』――彼がそう言うのなら…
『俺の前からいなくならないで…』――それが、彼の望みなら…
「私は、あなたの前からいなくならない」
正直、或人が好きなのかはわからない。恋ではないかもしれない、今の時点で愛はないのかもしれない。
けれど、
―――社長さんを独りにしたくない…
そう思ったのは確かだ。
彼を独りにしたくない。――これは、これだけは、嘘じゃない。
だから、だから、
「私はあなたの傍にいる。 何かあったら、いつでも呼んでくれて構わない。
…返事はそれじゃ駄目か?」
「刃さん…! うん、いいよ。ありがとう!」
或人は目尻の涙を拭い、笑顔になった。 - 170二次元好きの匿名さん23/03/11(土) 00:17:00
「好きです」
唯阿は川沿いの道を大二と歩いていた。
唯阿の退院祝い――誘拐監禁事件で延び延びになってしまった退院祝いを或人と大二がしてくれて。
その帰り、のこと。
或人は急用で飛電インテリジェンスに向かうこととなり、唯阿はいま大二とふたり。
自宅へ続く分かれ道に差し掛かったとき――大二に告げられたのが…『好きです』。
「好きです、刃さん」
なにも返さない唯阿に聴こえていないとでも思ったのか、大二はもう一度 言葉を紡ぐ。
「………ッ」
突然の告白に、唯阿は戸惑う。
どうすればいいのかわからず、俯く。なにか言わなければ…と顔を上げ、やはりなにも浮かんで来なくてまた下を向く。
「………」
「………」
ふたりの間に沈黙が流れる。唯阿の耳に川のせせらぎが聴こえる。 - 171二次元好きの匿名さん23/03/11(土) 00:17:17
唯阿は深呼吸すると、意を決して口を開いた。
「私は…――「わかってます」
けれど、唯阿の言葉は彼に遮られた。
「或人さん、ですよね?」
「!!」
言われて、目を見開く。
彼は、なにを、言っている…?
その口振りは、まるで…
「いまはまだ気づいていないみたいですけど、」
大二は何故か穏やかな調子で続ける。
「刃さんが或人さんを大切に想っている というのは伝わりましたから」
「ぇ」
「今日、わかりました。
3人で食事して、話をして…一緒にいる刃さんと或人さんを見て…俺、気づきました。
ふたりの間を流れるやさしい空気感に」
大二は目を細めてこちらを見つめ
「俺は…貴女が笑ってくれるならそれでいい。貴女のことが好きだから…」
真っ直ぐに伝えてくる。
「だから、刃さん、」
大二はあたたかな眼差しのまま
「ずっと笑顔でいて下さい…或人さんと一緒に…」
淋しげに笑った。 - 172二次元好きの匿名さん23/03/11(土) 00:19:19
「正直、悲しい気持ちはあります。失恋したんですから。
けど…それでも俺は――刃さんのことが大切だから…刃さんには笑っていてほしいから…」
思いの丈を綴る彼の声は、やわらかい。
「だけどやっぱり悔しくて…――告白しました。
言わない方がいいとは思います。好きだなんて、刃さんを困らせるだけだってことわかってます。でも…せめて、って。身勝手ですみません。
けど…このままじゃあ…俺は前に進めません。貴女への想いを抱えて、俺は前に進めないです。
だから…ごめんなさい。我が儘を言います。心だけ、いまここに、置いていかせて下さい。
そしたら…明日には俺は貴女の仮面ライダーの後輩に戻りますから」
「……そうか…。すまない」
「刃さんが謝ることないですよ。誰が悪い訳でない。俺の気持ちの問題なんですから」
「……そう、だな…」
大二の、相変わらずの物分かりのよさに苦しくなる、けれど、だから、
『我が儘を言います。心だけ、いまここに、置いていかせて下さい』――彼の、我が儘と呼ぶのは大袈裟な願いを受け容れて。
「君の気持ちは嬉しかったよ」
彼の好意に応えられない自分の、精一杯の返事をした。
「倫太郎さんともまた逢いたいですね」
それは…社交辞令か…――そう思うもそれを確認する程 野暮でないから、
唯阿は、大二のその投げ掛けに、そうだな、とだけ返した。
「それではまた」
「あぁ…また」
大二の視線を背に受け、唯阿は歩き出す。…振り向かずに。
風のなかを、桜の花弁(はなびら)が舞った――。 - 173二次元好きの匿名さん23/03/11(土) 09:17:19
>>119~123,>>125~129,>>140~146 後の、大二×唯阿ルート告白編
155~161、164~172の出来事は起こっていません
『いまはゆっくり休んで、傷を癒して下さい』。――連続少女誘拐監禁事件に巻き込まれた唯阿を救出した‘あの日’から数日が経ったある日のこと、ブルーバードの大二の寮室に唯阿から小包が届いた。
添えられた手紙にはこう書かれている。
《この前は世話になった。ありがとう》
綴られた文(ふみ)を読んだ瞬間、胸騒ぎが、した。
これまで唯阿から贈り物をもらったことはない。この前、というのが誘拐監禁された唯阿を救出したことを差すならお詫びとお礼の品を…となるのもわからなくはない、けれど、次に逢うときでいいのに…と思う。
もう逢わないつもりでいるのかな…――そんなことが頭に過る。
唯阿はもう…自分と逢わないつもりなのか自分と逢う気はないのか、唯阿からの短い手紙に何度も目を通し唯阿が伝えたいことを読み取ろうとするけれど、
《世話になった。ありがとう》が《さよなら》に思えてならない。
大二は震える指で唯阿の字をなぞる。
逢いたい――不意に心に湧き上がる想い。
―――逢いたい…刃さんに逢いたい…
感情が溢れ出す。
逢う約束はしていない。急に逢いに行くなんて迷惑だろう。困らせたくない、でも…溢れる想いを抑え切れない。
逢いたい気持ちは止められない。
大二の足は唯阿がいると思しきA.I.M.Sへ向かっていた。
- 174二次元好きの匿名さん23/03/11(土) 17:17:19
大二はA.I.M.Sの建物前で足を止めた。
溢れる想いに突き動かされてここまで来たけれど、連絡もしていないのに唯阿が出てくるのを待ちぶせするのは――不審者じゃないか…?
大二は唯阿にL○NEする。
〖いまから逢いに行っていいですか〗
断られたら帰ろうと思う。…と、すぐに唯阿から電話。
「どうした…?」
くぐもったような声が機械的に聞こえるのはスマホ越しだからか、それとも…
「いま、どこにいる?」
「……A.I.M.S本部の前です…」
「…っ」
相手が息を呑んだのがわかる。
「わかった…。もうすぐ上がれるから少し待っていてくれ」
数分後、唯阿が姿を現す。
「待たせた」
「いえ」
「…で、どうしたんだ?」
逢いたくて…――零れそうな思慕を抑えて、
「…小包、届きました。ありがとうございます」
大二はお礼を伝える。
「…よかった。わざわざそれを言いに…?」
逢いたくて…――胸の内はひた隠し。
だったら、
なにを、話そう。なにから、語ればいいのだろう。
手紙の内容について触れてみようか。文(ふみ)の意図が何であるかを。…彼女の、真意を。 - 175二次元好きの匿名さん23/03/11(土) 17:19:00
「…珍しかったから…」
口を衝いて出たのは、そんな遠回しなもので。回りくどいなと思いながら、己の臆病さが確信を付くことを躊躇わせる。
「刃さんからの贈り物…」
「…そうだったか?」
彼女が‘なにか’を胸の中に仕舞っているように感じるのは、どうしてだろう…。――心を隠したのでないだろうけれど、感情の色を上から塗り潰して心に蓋をしたような気がしている。
―――刃さん…、貴女は、なにを、抱えているんですか…
訊きたいのに訊けない。聴きたいけれど聴きたくない。
「そうですよ。
…バレンタインのときにチョコレートはもらいましたけど、寮に送られてきたのは初めてです…刃さんから直に手渡しでなく。
だから、嬉しくて…。それで…来たんです――直接お礼を言いに」
嘘でない。嬉しかったのは本当だ。嬉しくて、顔が見たくなった。――これは本心だ。
ただ、それと同時に…《世話になった。ありがとう》。手紙で《さよなら》と言われている気がして、顔が見たくなった。声が聴きたくなった。逢いたくなった。――これも本音だ。
この一筆は、別れの挨拶でないですよね…?この文(ふみ)に綴られているのは、《さよなら》なんかじゃないですよね…?貴女の心が《さよなら》を告げている訳ではないですよね…?――確かめたいけれど、訊けない。知りたいけれど、聴きたくない。
「……そうか…。君は…、律儀だな…」
言葉を選ぶかの如く微妙に歯切れの悪い唯阿の様子に、大二は不安が募る。
「なら…、用件は、これで済んだだろうか…」
それじゃと、彼女は背を向ける。
待って…!――大二は心の中で叫ぶ。
―――去(い)かないで…去かないで去かないで… イヤだこれっきりなんてもう逢えないなんて… 《さよなら》なんか聴きたくない…!厭です…《さよなら》は厭です…!!
大二は、唯阿の手を掴んだ。 - 176二次元好きの匿名さん23/03/11(土) 19:17:17
「好きです」
大二は、告げた。
時が、止まる。
言ってしまった。胸に秘めていた想いが抑え切れなかった。心の中が溢れてしまった。
「ぇ…」
唯阿の瞳が揺れている。戸惑っているのだろう。
『刃さん、帰りますよ』。――彼女の精神世界で、自分が彼女にそう言ったときの、彼女の表情と重なる。
大二は深く息を吐いて。自分のキモチを、声にならなかった・声にできなかったキモチを、言葉にした。
「刃さんが好きです」
唯阿の双眸を真っ直ぐ見つめる。
「俺は刃さんのことが好きです」
本当はずっと伝えたかったこと。本当に届けたかったもの。
彼女の手をそっと離す。
「困らせてごめんなさい。でも、だけど、伝えたかった…どうしても伝えておきたかったんです…」
自分でも勝手だと思う。だけれど、一度 零れた感情はもう止まらなかった。
「受け容れてほしいとか、今すぐ返事がほしいとか、言いません。もうこれ以上、隠し切れなくなっただけです。伝えたくなった…それだけです」
大二は頭を下げ、その場を後にし…ようとして、
「待ってくれ」
唯阿に呼び止められた。
振り返って、彼女の方を見遣る。
「勝手に自己完結するな…」
僅か不機嫌な声色の唯阿が、こちらに視線を寄越して
「私の、キモチはどうなるんだ…置いてきぼり、か…?」
横を向いた。…長い黒髪から覗く耳がほんのり紅くなっていて。大二の胸が高鳴る。
「……聴いてもいいですか…」
大二はドキドキしながら尋ねる。 - 177二次元好きの匿名さん23/03/11(土) 19:19:17
私は、なにを…?!と、唯阿は焦った。
『私の、キモチはどうなるんだ…置いてきぼり、か…?』。――反射的に待ってくれと大二を呼び止めて、自分はなんてことを口走ってしまったのだろう。意識せずに、全く意識しないで、ぽろっと出た。出てしまった。言ってから恥ずかしくなる。
彼の顔を見れなくて、視線を逸らす。垂れた髪で顔が隠れてくれればいい。
「……聴いてもいいですか…」
大二は静やかに訊いてくる。彼と目が合った。
途端、羞恥を覚える、けれど、
捕まった…彼の瞳(め)に…捕まってしまった、から――目を逸らせない。
いつの間に…――唯阿は思う。
―――いつの間に、こんなにも…彼が、私の心(なか)に在(い)たんだろう…
『刃さん、帰りますよ』。――アークと化し疑似ヘルライジングホッパー形態で暴走した末に意識不明となった自分の脳内に入って、この手をしっかり握って真っ直ぐ伝えてきた大二の眼差しが蘇る。
いま思えば…‘あの瞬間(とき)’に、自分は捕らえられたのだろう。彼の瞳に。この心を。
『刃さんが生きていてよかったです』。――不意に、大二の言葉が頭を過って…、唯阿はハッとする。だから、だ。唐突に得心する。
だから自分は、意識を取り戻した‘あの日’、『助かったよ』『君が私の手を引いてくれたから、私は帰ってこれた』『君のお蔭だ』という自身の感謝の気持ちを『刃さんが生きていてよかったです』の一言で封じた彼の、淋しげな色をした瞳(め)が、ずっと気に懸かっていたのだ。 - 178二次元好きの匿名さん23/03/11(土) 19:19:58
唯阿は小さく笑んで、
「今の今まで気づいていなかったんだが…」
口を開く。
「いつの間にか、私の心のなかに、――君が、いたらしい…」
「…!」
大二が目を瞬かせた。
「自惚れてもいいんでしょうか…」
目を伏せて自信なさげに窺う彼を、ん?と促す。
「刃さんも俺とおんなじキモチだって…」
桜の花が風に舞った。
「自惚れではないよ」
唯阿はそう応える。
そして、
「私も君と同じ想いだ」
できるだけの笑みを浮かべる。
そうしたら、大二もはにかんだ笑顔を返してくれた。
桜が舞い散るなか、ふたりは微笑み合った―――。 - 179二次元好きの匿名さん23/03/11(土) 21:19:19
「ところで、私も訊いていいか」
「はい、何でしょう?」
「君は今日、本当は何をしに来たんだ?」
「……えーと…(告白…は、勢いでしたものだし…)その、衝動的と言いますか…」
「??」
「…(誤魔化し切れないか…)呆れないで下さいね…」
「どういうことだ?」
「手紙も同封してくれていたでしょう?」
「あぁ」
「その内容がちょっと引っ掛かって…《この前は世話になった。ありがとう》って一文を目にしたとき、瞬間的に《さよなら》と読み取ってしまって…。考え過ぎですよね…」
「見透かされていたか…」
「え、それって……」
「君には何度も助けてもらった。その度に君の手を煩わせているのが心苦しくてな…。
でも、それだけでなかったらしいと、今さっきわかったよ」
「?」
「どうやら、私は…君に嫌われるのが恐かった…ようだ」
「ぇ」
「君は何度も私を助けてくれた。つまり、私は…何度も君に迷惑を掛けている。だから私は…いつか君に愛想を尽かされるのじゃないかと、心のどこかで思っていたみたいだ。
君が逢いに来てくれてよかった…」
「そ、そんな…っ 俺はただ…刃さんに逢いたくて…」
「そうか…。 ありがとう。お蔭で私は君を失わなずに済んだ」
「!俺も…逢いに来て、よかったです…」
そんなこんなで
155~161、164~169:或人×唯阿
173~179:大二×唯阿
それぞれCP成立!
長々とお付き合いありがとうございますたー - 180二次元好きの匿名さん23/03/12(日) 08:22:17
お疲れ様でした!
幸せになってよかったです! - 181二次元好きの匿名さん23/03/12(日) 19:40:55
どうなるか心配でしたがハッピーエンドで終わってよかったです!
- 182二次元好きの匿名さん23/03/12(日) 19:45:00
このレスは削除されています
- 183二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 07:13:47
保守
- 184二次元好きの匿名さん23/03/13(月) 17:56:05
このレスは削除されています
- 185二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 02:19:00
- 186二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 11:11:07
- 187二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 17:58:00
スレ主さん・皆さんに確認です
このスレシリーズの私の拙いssのpixiv転載(時系列順)を検討しています 宜しいでしょうか
スレタイに関しましてはスレ立て含めスレ主さんの意向に従います
お気遣いありがとうございます
- 188二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 19:17:00
「祢音ちゃん、はい」
景和から可愛くラッピングされた袋を受け取る。
「今日はホワイトデーだから、お返し」
「え」
まさかバレンタインのお返しをもらえると思っていなかった。
もしかして…告白の返事ってこと…?!――なんて一瞬 舞い上がって、けれど、そんな深い意味はなくてお礼だよね…と思い直し、
「開けてもいい…?」
訊いてみる。
どうぞと言われ、祢音は丁寧にリボンを解く。
中身は…――マカロン。
「久し振りに作ってみたんだ。おいしくできているといいんだけど…」
「景和が作ったの?!」
嬉しい!嬉しすぎる…!!――祢音は、彩(いろ)とりどりの、まぁるい焼き菓子を眺める。
「祢音ちゃんは大切な友達だからね」
「友達…」
繰り返して、やっぱり、と思う。
友達、なんだね… 景和にとって、私はまだ…
彼の口から言われた友達というワードに胸が痛む、けれど
『いまは、私の理想の世界を叶えるのが一番だから…!』。――祢音の脳裏に、景和に宣言した自分の言葉が浮かび上がる。
‘あの日’、私は『返事はいいの…』と言った。‘あのとき’、いまは、私の理想の世界を叶えるのが一番だからと…だから返事はいいと…私、景和にそう言ったから…
だから、祢音は…ありがとう、だけを言って。微笑んでみせた。 - 189二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 19:17:19
「女の子に手作りお菓子を渡すの何年振りかなー」
ボソッと景和が漏らした。
へ?
時が、止まった。気がした。
それって…どういう…――尋ねようとしたところに景和が一言。
「緊張する…」
………。
それって…それって…――ちょっとは私のこと…意識して、る…?ちょっとだけでも意識してくれてる…??
ねぇ、景和…ちょっとずつ意識し始めている…の?景和、ねぇ…
訊きたくて訊きたくて、でも…恐い。 - 190二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 19:19:19
訊くか訊かないか迷う、迷っていたら、
「女の子って、お菓子に対するこだわり、凄いじゃん?姉ちゃんも細かいとこにうるさくてさ…」
だなんて…肩透かし。
―――ほんと、景和はさぁ…
わからない。彼が自分のことどう思っているのか。当たり障りのないことを言って、耳障りのいい言葉を並べて、こっちは何だかはぐらかされているような気分。当人はそんなつもりじゃないのだろうけれど彼の言動に一喜一憂して振り回されて。――だけど一番の問題は…振り回されて、なのに、振り回されるのが厭でないってこと。
「あ、でも、」
景和がこっちを真っ直ぐに見て、
そうして、彼の唇がこう告げた。
「祢音ちゃんのこと思って、一生懸命 作ったよ」
ほら、また、そうやって…
―――私の心を、独り占めにする…ッ///
私のこと好きなの?好きになってくれた…?――訊きたくて、そっと景和の顔を見つめるけれど。
「バレンタインのチョコありがとね」
彼は人好きのする笑みを浮かべるから、――はぐらかされている気がしてしまう。
だからだから、いまは…――景和の心に触れたいけれど、なにも訊かずに祢音も笑顔を返すのだった。 - 191スレ主23/03/14(火) 19:59:33
- 192二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 21:19:19
「刃さん、はい」
「??なんだ?」
唯阿が或人に手渡されたペーパーバッグの中を覗くと、可愛らしい巾着袋が入っていた。――それは、有名スイーツブランドのキャンディ。
「これは…」
「バレンタインのお返し」
「…そうか」
「俺…こういうの慣れてないから、なにがいいか迷ったけれど…一所懸命に選んだから――気に入ってくれると嬉しい…です…」
「…それは…却って気を遣わせたな…。バレンタインのチョコは手作り感が満載でオシャレの欠片もないものだったのに…」
「え、もしかして…あのチョコ、刃さんの手作りだった…?」
「…まぁな」
「!!手作りだなーとは思っていたけど…刃さんが作ってくれていたんだ!!!
‘あの’日、刃さんにチョコをもらって…俺、気づいたんだよね…刃さんのことが好きだって」
「――ッ、 そ、そうだったのか…///」
「そっかぁ…あのチョコ、刃さんの手作りだったんだー 改めて知ると嬉しいな」
「~~~///(どうしてっ、この人はッ… 照れもせず、そんなこと言えるんだ…ッ)」
「俺の方は手作りじゃなくてごめん!」
「 っ、謝らなくていい、社長さん…
あなたは一所懸命に選んでくれたんだろう?」
「うん…」
「これはあなたが“私に”と選んでくれたものなんだろう?」
「うん」
「だったら、それでいい。否…これが、いい。あなたのその気持ちが私は嬉しい」
「刃さん~!!ありがとうー!」
「何故あなたがお礼を言う?」
「だって…嬉しいから!」
「そうか…」
唯阿は、仕方のない人だなぁと思いながら、こっそり笑みを浮かべる。
そんな唯阿の笑顔はとても柔らかいものであることを、唯阿自身は知らなくて。
唯阿の、そのやわらかな微笑みに、或人がときめいたことも、唯阿は知らない。 - 193二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 23:18:00
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- 194二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 23:19:17
「刃さんに、これを…」
そう言って、大二が箱を差し出す。
大二と休日が合ったこの日、唯阿は行き付け且つ以前にも何度か彼と来たことのあるカフェでお茶をしていた。
「今日はホワイトデーだから…バレンタインのお返しです」
そう告げる大二から受け取る。
それは…――高級洋菓子ブランドのマドレーヌ、だった。
「(こんな高価なもの…)いいのか?」
「はい。刃さんの口に合うといいんですけど…」
「これ好きだぞ、私は。なかなか自分では買わないが(高いから)」
「そうなんですか。お好きならよかった…」
安堵の表情を浮かべる大二に、唯阿は目を細める。
おそらく彼は、高級品だからと選んだ訳ではないだろう。それはこれまでの付き合いでわかる、彼は慎重な性格、値段が高ければ良かろうと安直に考えはしないはずで、だから、安易に高価な返礼品を用意しないだろう。
大二はカフェに着いてからどことなく緊張した面持ちで、この洋菓子を渡すとき僅かに手が震えていたように見え、自己評価が低いな…と心配になる。
『口に合うといいんですけど…』と控え目に付け加える大二がいじらしく、それで『これ好きだぞ』と本当のことを言った。本当に好きだと感じたから。本当に好きと思っているから。
だから、よかった…と心底ホッとした様子の、彼を、健気だなと心から思う。 - 195二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 23:19:50
「バレンタインは刃さんお手製のチョコレートをもらったので…どういう贈り物をすればいいか悩みました」
「…! 君は、あのチョコレートが私の手作りと気づいてい…?!」
「以前、ブルーバードの俺の寮室の荷解きを手伝いに来てくれたじゃないですか…」
「あーあのときのことかー… しかし、‘あの日’、私は仕事帰りに寄ったが既に作業が終わっていたじゃないか」
「新組織(ブルーバード)発足祝いとして手料理を振る舞ってくれたでしょう?」
「!そ、そうだったな…」
「‘そのとき’のように刃さんの心が籠っているなって…そう感じたんです…」
「!! そ、うか…///」
「……嬉しかった…」
大二が、ぽつ、と溢す。
「‘あのとき’も、このあいだのバレンタインも、――嬉しくて…」
表情を綻ばせてすぐに、だから、と彼は続ける。
「俺…悩みました」
真っ直ぐ心境を綴る彼は真摯だ。
「刃さんの好きものでよかった…」
静かに笑む大二が愛しくて。
「ありがとう」
唯阿が微笑みをのせると、大二はほんのり頬を染めてはにかんだ微笑みを返してくれた―――。 - 196二次元好きの匿名さん23/03/14(火) 23:55:00
おっと…195に脱字ありました訂正します
✕ 「…! 君は、あのチョコレートが私の手作りと気づいてい…?!」
○ 「…! 君は、あのチョコレートが私の手作りと気づいていたのか…?!」
ちなみに、お菓子言葉なるものがあるのだそう
・マカロンの菓子言葉
「あなたは特別な人」
恋人や好きな相手への贈り物にはもちろん、友人やお世話になっている人など自分にとって特別な人へ贈るお菓子として最適
いつも頑張っている特別な相手へ「頑張れ!」といった応援の意味を込めてプレゼントするお菓子としてもおすすめ
・キャンディの菓子言葉
「あなたが好き」
キャンディは口に入れてから「味を長い間楽しめる」「なかなか溶けない」ことから相手との関係が長続きする縁起の良いお菓子
恋人や本命の相手に贈るぴったりのお菓子
・マドレーヌの菓子言葉
「あなたのことを知りたい」
好きな相手からバレンタインをもらった場合はマドレーヌのお返しするのがおすすめ
あ、勿論、景和も或人も大二もお菓子言葉なんて知りません偶々そうなったという設定です - 197二次元好きの匿名さん23/03/15(水) 00:19:00
- 198スレ主23/03/15(水) 00:21:10
そんな感じです
- 199スレ主23/03/15(水) 00:48:40
- 200二次元好きの匿名さん23/03/15(水) 00:55:03