- 1二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 10:53:58
- 2二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:11:28
ちりん、と涼し気な軽い音色が鼓膜を揺らす。
窓から吹き込む風は僅かな心地良さを感じさせるが、それだけではまるで足りない。
額から流れ落ちる汗をぬぐいながら、俺は書類整理を行っていた。
軽くドアを叩く音。
どうぞと声をかければ、涼やか風と爽やかな森の香りが部屋に入り込む。
担当ウマ娘のヤマニンゼファーが、微かに眉をしかめて、トレーナー室に現れた。
「これは……まるで炎風のような状態ですね」
「元々この部屋風通しはあまり良くないからね……エアコンがないとこんな感じだよ」
――――先日、トレーナー室がある棟の空調設備が故障した。
ウマ娘達が主に使う教室や食堂、ジムなどには影響がなかったのは不幸中の幸いといえる。
どうやら明日には修理が完了するらしいが、現状はそれ以外の設備で何とかする他ない。
この暑さではパソコンなどの使用も危険であり、書き物以外は持ち帰る他ない……たづなさんの目が怖い。
微風がすり抜けて、再度、ちりんと音が鳴り響く。
その音を聞いて、ゼファーの耳がピンと立ち上がった。
「その風鈴は……」
「うん、先日君と出かけた時に選んだヤツ、早速役立ってくれてるよ」
「ふふっ、思った通り心地良い風音です。まさに風流、ですね」
風鈴が奏でる音色に、尻尾を揺らしながら耳を澄ませるゼファー。
ただ、しばらくすると、耳と尻尾がふにゃりとへたり込み、困ったような表情を浮かべた。
「とはいえこの熱風、風声だけでは流石に……」
「個人的にはとても助かってはいるけど、誤魔化し切れないよね」 - 3二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:11:41
仕方ないので、以前にイベント会場で貰った団扇を取り出す。
使う機会はないと考えて、引き出しの奥に仕舞い込んでいたが、取っておいて良かった。
ぱたぱたと扇げば、煽風が顔を撫でていく。うん、これは良い。
この場で出来る仕事も残り僅かだが、半刻は必要そうだ。
俺はゼファーに声をかける。
「もう少し時間かかるから、ゼファーは風を浴びに行ってて良いよ。終わったら探しに行くから」
「……はい」
ゼファーのことだから、すぐに緑風を探しに行くだろう。
そう思い込んでいたのだが、何故か彼女は、俺の方をじっと見つめ続けていた。
……終わるまで待ってくれているのだろうか。
この場に待機してるのも辛いだろうから、快適なところに居て欲しいのだが、無下にするのも無粋だ。
気合いれてなるべく早く終わらせるべき、そう考えて俺は書類仕事に集中する。
しばらく夢中になってペンを走らせていると――――ふと、隣に気配を感じた。
「……♪」
屈んで、書類仕事をしているテーブルの上で腕を組み顔を乗せる、ゼファーがそこにいた。
いつの間に、こちらへ移動してきたのだろうか。
団扇から溢れる風が彼女の髪を揺らすと、機嫌良さそうに耳と尻尾が小さく揺れ動いた。
――――なるほど、団扇からの風に興味があったのかな。
俺は何も言わないで、団扇の風が彼女に向かうように扇ぎ方を変えた。
突風に吹かれたようにゼファーは目を瞑るが、やがて気持ち良さそうに目を細めていく。 - 4二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:11:53
「ふふっ、トレーナーさんからの恵風、ひかたみたいに気持ち良いです……」
「それは良かった」
風を取られてしまった形だけれど、何故か先ほどよりも気分は良かった。
ぱたぱた、ちりん。
俺が扇ぎ出す音色と、ゼファーがくれた音色が、混ざり合って夏の盛暑を和らげる音楽になっていく。
思わず止まりそうになってしまうペンを慌てて動かしながら、俺は彼女に声をかけた。
「せっかくだから、今日は川の方まで行ってみようか」
「……はい、せせらぎを身にまとって、ヒスイさんに会いに行きましょう」
ゼファーは微笑みを俺に向けて、そう答えた。 - 5二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:12:50
人工の風は好まないらしいけど団扇はいけるのかな?
- 6二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:14:48
扇風機はどうなんだろう
- 7二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:15:31
口で息吹いて風に乗せたっていうくらいだし団扇はOK判定だと思ってる
- 8二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:16:49
要するにその風に情念が籠もってるかどうかだと思ってる
機械の起こす風からは何も感じないが
団扇など人力であればそこに感じるものもあろう
ましてやそれがトレーナーの手によるものであれば - 9二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 13:36:26
まるで風博士だ……