- 1二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:28:07
──今年のバレンタイン。お兄ちゃんに何を送ろう？ 何を作ろう？
それを考え始めたのは２月に入った頃で。
考え始めてその日の夜にはコンセプトみたいなものを決めてたと思う。
……カワイくて、キュートで。一瞬でギュッと舌を、ハートを掴んじゃうような甘酸っぱいモノがイイ。
だから、ラズベリーを選んでみた。
それが映えるのはなんだろう？
チョコケーキ？ ブラウニー？ シンプルで王道だけど、ちょっと映えが弱いかも。
もっと華やかで、目を奪うようなもの。奪って引き付けて、夢中にさせちゃうようなもの。
ちょっとくらい食べにくくても、それが逆にカワイイくらいになっちゃうもの。
……口周りが汚れちゃうお兄ちゃんも、カワイイかもしれない。
だから、エクレアにしてみた。
お菓子に詳しい友達に相談もして、アドバイスに従ってイラストにも起こしてみて。
寮のキッチンもちゃんと予約して。
そして、バレンタイン前日の夜。 - 2二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:28:40
「……うん。カワイイ♥」
思った通りにできたと思う。
飾り付けの終わったお兄ちゃんのためだけの本命チョコレートを前に私はカワイらしく、鼻息をフンフンと荒くしてみせた。
チョコレートと言うにはちょっとチョコ成分が少なめかもしれないけれど……それはカレンの思った通りにキラキラしていて。
間違いなく写真映え、ウマスタ映えするものに出来上がったと思う。
絶対お兄ちゃんは満足してくれる。その自信があった。
……といっても、お兄ちゃんはカレンのことなら何でもカワイイって言って、喜んでくれるだろうけど。
でも、やっぱりカワイイは自信から。
自信があれば何でもカワイくできちゃう。
そのための自信は何よりも大切なのだ。 - 3二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:29:21
「うん。うん。絶対カワイイ♥」
お皿に載せたエクレアをグルッと回しながら、改めて眺めて。カレンはもう一度つぶやいた。
手をポケットに。
スマホを取り出して私は光源を意識しながら色んな角度から、何度もシャッターを切った。
アプリを立ち上げて、フィルタも使う。寒色、暖色、なるべく美味しそうに見えるのから、キュートに見えるのまで。
いろいろ試して、ようやく自分で納得できる最高のカワイイ一枚が完成する。
それをスマホの画面に写して、私は満足げな笑顔を浮かべて見せた。
ウマスタアプリを起動、朝に何気なく投稿した写真にたくさんのコメントや「ウマいね」がついてるのをちょっと見てから、出来上がった写真を選んで……。 - 4二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:29:52
でも。ちょっと不思議な躊躇いがあった。
繰り返すけど、カワイイは自信から。
さっき撮って加工した写真はカレンが自信を持って送り出せるカワイさがある。
それなのにどうしてか、何かが引っかかる。カワイイ本文を書けない。投稿ボタンを押せない。
カワイさ以外の何か。それがカレンを邪魔するのを感じた。
そんなことを感じてる私は、きっとカワイくない。 - 5二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:30:21
「……そうだ。こっちも撮っちゃお」
本命チョコを作るのと一緒に作ったベリーを混ぜ込んだチョコクッキー。
これももちろん、ちゃんとカワイイ。見た目も、もちろん味だって。
お皿に綺麗に盛り付けたそれを、丁寧に撮ってあげる。
さっきと同じように加工もして、美味しくカワイく見えるようにしてあげて。
「えい、っと」
メッセージを添えて、そっちを先に投稿した。
『ハッピーバレンタイン♥ カレンからのバレンタインチョコです♥ 召し上がれ♥ #バレンタイン #ハッピーバレンタイン #カレンからの贈り物 #チョコレート #手作りクッキー #お菓子作り #美味しくできたかな？ #みんな大好き♥ #お返しはウマいねで』
投稿した途端、あっという間にたくさんのウマいねやコメントがついていく。
『カワイイ』『美味しそう』『カレンちゃんからのチョコ助かる』『助かる』『ありがとう』『カワイイ』『カワイイ』
みんな喜んでくれてる。カレンのカワイさをわかってくれてる。
そんなフォロワーの反応が嬉しくて、そしてカワイイ。
カレンがちゃんとみんなをカワイイに巻き込めている。そんな充実感がある。
だからこの、本命チョコだってきっと、もっと……。
そう思うのに。自信があるのに。
でも、どうしてもメッセージが書けないし、投稿ボタンが押せなかった。 - 6二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:30:42
しばらくしてようやく、その理由に気がついて。
「……そっか。そうだよね」
私ははウマスタアプリを閉じる。
……こんなカレンはカワイくないかな？
ううん。そんなことない。
きっとこういう私だって、カワイイはずだから。
そしてわたしはその気持ちと一緒に、エクレアを箱に収めて。蓋を閉じた。 - 7二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:31:08
「はい、お兄ちゃん♥ ハッピーバレンタイン♥」
「ありがとう、カレン」
カワイイ演出のために、わざわざお兄ちゃんを校舎裏に呼び出して。
箱に収めてラッピングしたチョコレートを手渡した。
お兄ちゃんはカレンがチョコを渡すのがわかってたみたいで、自然な態度で受け取ってくれる。
慣れてしまって落ち着いてるお兄ちゃんはカワイくない……なんてことはない。
カレンのお兄ちゃんは何をしててもカワイイのだ。
「ここで開けてもいいかな？」
「いいよ。でも、崩れちゃうといけないから部屋の中のほうがいいかも」
「わかった。ちょうど休憩してたし、一緒に食べようか」
「うん♥」
箱を傾けないように、丁寧に運ぶお兄ちゃんはすごくカワイイ。
それを観察しながら、カレンに合わせて少し歩幅を狭めた彼の隣を歩く。
「そういえばカレンのウマスタに上がってたクッキー見たよ。美味しそうだったな」
「えへへ。ありがと♥ あっちはもう全部友達にあげちゃった。ごめんね」
「これの中身は、それとは別なのか？」
「うん。お兄ちゃんのためだけの、本命チョコレートだから」
「そうか。ありがとう。楽しみだな」 - 8二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:31:40
──お兄ちゃんのために用意した、最高にカワイイ本命チョコレートだから。
他の人には、見せてあげない。
このチョコと、この気持ちは……お兄ちゃんだけのものだから。
時間をかけてカワイく仕上げた自信の一枚は、結局ウマスタには上げなかった。
今もスマホの中に眠ったまま。
「お兄ちゃん、口が汚れてるよ。カレンが拭いてあげるね♥」
「自分でやるから……」
エクレアでちょっと口の端を汚した、誰よりもカワイイお兄ちゃんの写真も。
（おしまい） - 9二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:33:40
カレンチャンは本命チョコの写真だけはウマスタに上げないだろうなという妄想でした。
- 10二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:36:29
あぁ〜こんなカレンチャンもいいっすねぇ〜
- 11二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:36:30
カワイイカレンチャン！！！！！！
- 12二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:39:59
カワイイ独占欲！
- 13二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 12:46:32
俺が理想としていたカレンチャンがここにはあった
- 14二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 13:46:06
祝福！挙式は盛大にな！
- 15二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 13:56:18
本命だと言われて1ミリも動じないお兄ちゃんは可愛くないけどカワイイ
- 16二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 14:13:03
ア゛ッ♡ちょっと尊死する♡
- 17二次元好きの匿名さん23/02/16(木) 23:21:21
コメントありがとうございます。
個人的にカレンのお兄ちゃんは激強のイメージです。