ここだけダンジョンがある世界の掲示板 イベントスレ139層

  • 1GM◆o3WqGw3jjk23/02/18(土) 17:01:10

    このスレは「ここだけダンジョンがある世界の掲示板」の番外編みたいなSS投稿イベントスレです

    書き込みの方針は>>2


    現行本スレ

    ここだけダンジョンがある世界の掲示板 第3171層|あにまん掲示板https://bbs.animanch.com/board/1611063/前スレhttps://bbs.animanch.com/board/1593024/脳内設定スレhttps://bbs.a…bbs.animanch.com
  • 2GM◆o3WqGw3jjk23/02/18(土) 17:02:21

    今回のイベントはSSの投稿を目的とするものです。注意点は以下の通り

    ①:内容について
    ・形式及び分量は自由、但し8レス以上になる場合はテレグラ等の利用を推奨します。
    ・今回のイベントは一応クエストの体を取っていますが、あくまでSSのネタの1つとして出しているだけです。それ以外の内容でもぜひ書いて下さい。
    ・挿絵、イメージ曲の貼り付けも自由です。

    ②:投稿時の注意
    ・今回のイベントではコテハンに題名、冒険者名等なにかしらの記入をお願いします。SSが複数レスに渡る場合にはコテハン先頭に#1、#2…のようにページ数を振って下さい。
    ・感想は※を文頭につけて書いて下さい。

  • 3二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 17:03:20

    このレスは削除されています

  • 4二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 17:05:36

    このレスは削除されています

  • 51 導入兼投稿例23/02/18(土) 17:07:00

    【クエスト名】旅を辿りて

    【クエストランク】無し

    【時刻】(2/18 17:00~)

    【報酬】1000G

    【概要】

    貴方がたの過去の冒険の記録を見せて下さい。

    少額ではありますが表記の謝礼を用意しています。


    >>2

    #つけるとコテハンになることを完全に忘れていたため、ページ数は単に先頭に1,2と数字だけ振って下さい。

  • 62 導入兼投稿例23/02/18(土) 17:07:36

    【依頼主からのメッセージ】
    冒険者の皆さんこんばんは。筆名をアリエス・ハート、絵本作家をしているものです。
    仕事柄子供の相手をすることが多く、何かと冒険者の話をせがまれます。ならば直接を貰ってしまおうと思い立ちまして。
    ギルド受付に投函箱を用意してあります。貴方たちの物語、どうぞ読ませてくださいな。

  • 7GM◆o3WqGw3jjk23/02/18(土) 17:10:57

    ※導入はここまで、イベント開始です。クエストに沿って回想するもよし、それ以外のダンジョンスレ関係のSSを出すもよし。自由に書いて行って下さい

  • 8二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 18:00:43

    立て乙でござる一応保守

  • 9摂理◆prRU5lNS.c23/02/18(土) 18:01:35

    立て乙です!何を書こうかなー

  • 10弧空剣士◆SokSKYnF1223/02/18(土) 18:02:08

    保守完なり

  • 111.水使い23/02/18(土) 19:15:06

    【雰囲気の整った貴賓室のソファに水使いが落ち着いた様子で座っている。調度品はアンティークな雰囲気を感じさせ、時計の音だけがカチカチと部屋中に鳴り響く】


    「気に入って頂けましたでしょうか?」


    ええ、勿論ですわ。指環を届けただけなのにお茶会に招待して貰えるというのは少しばかり驚きでしたが


    「はははは。とんでもない、あの指環は妻の忘れ形見でしてね。正直これでも全然足りない位ですよ」


    【好々爺然としたエルフの老人が杖をつきながら向かい側のソファに腰を下ろす。表情は柔らかで、その微笑みは見る者の頬すらも思わず弛ませてしまう。彼こそがこの街の町長であり、水使いが偶然拾った指環の持ち主だ】


    「さて、お茶会をするからには先ずお茶と茶菓子を用意しなければ。ほれ」


    【老人が杖を振るうと同時に、老人の魔力が杖へと通されて杖の効果として風が発生する。繊細でありながらも力強い風が茶器と茶菓子を運び、更にティポートから並々と紅茶を注ぐ】


    良い匂いねです。チーズケーキの方も美味しそうだわです。この街ではお菓子屋は見掛けませんでしたが、御自分でかしらです?


    【お世辞ではなく本当の事だ。紅茶の香りは良質なダージリンをふんだんに使った高級品の証であり、リラックス効果を発揮する。チーズケーキも宝石の様に輝いており、上品な玉体を隠す事なく曝け出している】


    「儂の固有魔術ですな。細菌やらウィルスやらを操作して発酵を促進させられるのですよ……どうぞ。お気に召すと宜しいのですが」


    では、遠慮なく


    【ナイフでゆっくりとチーズケーキを切り分ける。宝石の様なケーキはスラリと一口サイズに分けられて、その欠片をフォークで刺して口に運ぶ。控えめながら滑らかな食感と甘さを堪能しつつ、ダージリンにシームレスに口を付けて味の変化を楽しむ】


    とても美味しいわです。こんなに美味しいのは生まれて初めてよです


    「それは良かった。ささ、他の茶菓子もありますし紅茶のお代わりもありますので」


    【微笑んで談笑しながら、お茶会はゆっくりと和やかに進行していった】

    フリーBGM【カフェで寛ぎながら聴きたい曲集 】作業用 chill mix


  • 12ひりゅー23/02/18(土) 19:20:32

    「ひりゅー」
    【ちいさな ほん を もってきた】

  • 131.『ネムストク』23/02/18(土) 19:32:43

    「ネムストク卿、この冒険者について何か知っているでしょうか?」


    【グロワールのネムストク侯爵家の本家にて、来客である下級貴族の男は現当主ヴァレル・ネムストクに一人の冒険者の写真を突き付けていた】


    「知っているとも。銀髪に蒼眼、我が家の血統に似た容姿なのだからな」


    【ヴァレルは下級貴族の男の言葉に肯定を示した。確かにその冒険者の色はヴァレルのそれに良く似ている。壮年の男と年若い少女という違いこそあれども】


    「では───この娘は貴方の血縁なのでは?」


    「下衆の勘繰りだな。衝合によって数々の種族や存在が入り乱れるこの世界では同じ様な色をした者等有り触れている。そんな珍しくもない事で疑われるのは御免だな」


    【下級貴族の男の言葉にヴァレル・ネムストクは顔を顰めた。その姿は事実に沿わない勘繰りをされて苛立っている様にも、図星を突かれてそれを誤魔化そうとしている様にも見える】

    【下級貴族の男には、ヴァレルのその姿が後者に見えたのだろう。机の下で軽くガッツポーズをして野心を秘めた瞳でヴァレルを見詰める】


    「はっきりとした答えを貰っておりませんぞ?此処は断言して貰わねばワタクシも納得出来ません。えぇ、奥方様は此処十数年御体調を崩された様子はない。もしこの冒険者が貴方様のご血縁であるのならば──────それは、貴方様の不祥事です。ワタクシも親愛なる侯爵様の栄光が陰るのを見たくはありません。幸いにしてこの事はまだワタクシしかご存知でない。なればこそ



    「くどいぞ」

    Dies Irae 〜Amantes Amantes〜 Pantheon Prologue 『Muzan's Wrath』


  • 142.『ネムストク』23/02/18(土) 19:44:31

    「は?」

    「くどいと言っている」

    「宜しいので?ワタクシにそんな口を利いても。貴方の不祥事の確固たる証拠はワタクシの手の中にあるのですよ?これがばら撒かれれば貴方の威信は地に落ちて奥方様と、その実家との関係も」

    ・・・・・
    「私の子供は、ヴァレムントのみだ。それ以外には誰一人として居ない」

    「なっ、馬鹿な。どうなっている、有り得ない。そんな事が、こんな事が許されて良いと思っているのかッ!?!?」

    「大方真偽判定の魔導具、或いは魔術だろう?貴様の家の秘伝は確か嘘に反応するモノであったな。私がそれを知らないとでも?」

    「何をしたァッ!!刻印を刻むしか能の無い秘伝しか持たぬ歴史だけの貴族が俺の魔術に何をしたのだッ!!!クソクソクソ──巫山戯るなよ!?」

    「己が継承せし秘伝すらも信じられぬとは。不様だな。情けないにも程がある、よくもまあ此処までやって来れたものだ。本当はその秘伝に頼り切りだったのではないかね?」

    「分かったぞ、工房だな!?この屋敷全体を魔術工房とする事によって俺の魔術を妨害しているんだ!もう騙されんぞ、本性を表せヴァレルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

    「ならば魔術を使ってみると良い。本当かどうかハッキリするだろうさ」

    「ああ使ってやるよ後悔するなよ!?見ろッ!!これが揺るぎないしょ、う…………違う違う違う!!お前は固有魔術を、秘伝魔術だけ妨害しているに違いない!!!!」

    「悪魔の証明だな。どうも出来ん。では話を続けようか」

  • 153.『ネムストク』23/02/18(土) 20:05:32

    「テメェじゃねえならテメェの妻だ!!ソイツが浮気したんだろうさ、ああそうだろうッ!!!テメェは妻に裏切られたんだよヴァレル!!!!可哀想な事にな!!!」

     ・・・・・・
    「わたくしの子も、ヴァレムントだけですわ。嘘偽りのない事実です」

    【発狂したかの様に叫びだした下級貴族の男に来賓用の茶と菓子を載せた盤を持ったネムストク夫人がキッパリと断言しながら来賓室に入ってきて茶をテーブルの上に乗せる】

    「………一体どんなカラクリだ?何を使った?言え、言えよヴァレル!!!」

    「どうも何も、全て貴様の一人芝居で茶番という事だよ。誤解も甚だしい、名誉毀損で訴えたら勝てそうなレベルだとも」

    「大方これをネタに主人を脅迫して強請ろうとしたのでしょう?それが金銭か、或いはこの侯爵家の権力を目的にしたものかは知りませんが」

    「それが見事に頓挫した訳だからな。貴様の醜態は面白くも何ともなかった、不愉快極まりない戯言だったよ。故に貴様の処遇は既に決定している」

    「俺を飼い殺しにする気か!?ああ、そうしたけりゃそうすりゃ良いさ!!!好きにしろ!!!だが忘れるなよ、」

    「この期に及んで、まだ自分に価値があると思っているのか?どうやら思い上がりの才能だけは溢れているらしい。貴様の様な不利益を齎す不良債権など頭を下げられても引き取るのは御免被る。固有魔術の価値を台無しにするような者を従えるなぞ品位が疑われてしまう」

    「二度と我が家の敷居を跨がないで頂きますかしら?あぁ、質問ではありませんわ。決定事項です。貴家を取り潰すような事をしませんが、今回の件についてはお話させて頂きますわ」

    「自主的に公表しようと無駄だぞ?貴様自身に真偽判定を掛けるか、或いは公然で先程と同じ質問を私に投げ掛けて真偽判定すれば事実は容易く露見するだろう。受けないのならばそれはそれで何故受けないのかと疑われ、信憑性は激減する。詰みという奴だよ……………話はこれで終わりだ。さあ帰った帰った」

  • 16ひりゅー23/02/18(土) 20:14:20

    >>12

    (※ちょっと修正)

  • 174.『ネムストク』23/02/18(土) 20:31:45

    「ちゅかれた」

    【下級貴族の男が去った貴賓室で、ヴァレル・ネムストクは上半身を机に預けて手を伸ばしてぶらぶらとさせながら死んだ目をしていた。先程までの威厳は全て霧散している】

    「全くもうヴァレルったら。ギャップが激し過ぎるわよ?」

    「いやだってメチャクチャ疲れるじゃーん………嘘吐かないように、でも本当の真実に辿り着かないように誤解させなきゃいけないし。当然疲れるし終わったらダラーンってしたくもなるよ」

    「わたくしとしても先程の会話はヒヤヒヤしたんですからお相子様ですっ。あの娘には申し訳ない気持ちもあるのですけどねえ」

    「マジでさあ………あんの色狂いのクソ親父め余計な仕事増やしやがって。セヴァスから親父の遺産引き継ぎであの娘の事を知った時はもう吃驚仰天だったよ」

    「メイドの娘に手を出したんでしょう?その時だってかなりの歳だったのにお盛んよね。それにしても、不祥事を隠す為に幽閉するだなんて事は正気を疑ったけれど」

    「何とかしたい気持ちはあるけど割とあのクソ親父の計画が最適解だったからなあ………まあ過激な制裁やら躾やらは無くしたけど。いやそもそもあんな事しなりゃこんな事をする必要も無かったんだけどさ。疲れるにも程があるよコレ本当に、というかあの娘も結局脱走しちゃうし」

    「冒険者ですってね。良い職業じゃないの、自由に使えるお金だって増えるしギルドが関わっているののら簡単に死ぬ事もない筈よ」

    「元から魔術師ギルドには入れるつもりだったし早いか遅いかの話だからそこは別に良いんだよね。冒険者というは個人的にも好印象だし………でも幽閉室の結界を突破した存在が気に掛かる。神格級存在でも無けりゃあんな短時間にあそこまで破壊出来る筈がない」

    「じゃあ神格級存在でしょう。それならあの娘の事を知っていた事にも得心が行きますし………ヴァレル、そろそろ甘い物でも飲む?」

    「ああ、助かるよ。頭を使うとどうにも甘い物が飲みたくなる、正直紅茶だの珈琲だのワインだのビールだの飲む事自体が苦痛なんだ、好んで飲む奴には尊敬の念を禁じ得ないね」

  • 184.『ネムストク』23/02/18(土) 20:32:30
  • 195.『ネムストク』23/02/18(土) 20:50:03

    【ネムストク卿と話していたネムストク夫人が再び貴賓室から出た後に、ホットチョコレートが注がれた二つのカップと綺麗にラッピングされた包みと封蝋を押された手紙を持って戻ってきてホットチョコレートを差し出す】

    「はい、ヴァレル。ハッピーバレンタイン」

    「ん?おぉ、そうだな今日がそうであったな。道理で何時ものホットミルクじゃないと思ったらそうか、確かにバレンタインデーだものな」

    「温度はちゃんとアナタ好みの温度ですわ。子供の時から変わらずに猫舌なんですから、そんな所も好きなのだけれど」

    「はははは、僕も君の全てが好きだよ。勿論、僕の為に日々の温度や湿度に応じて最高の持て成しをしてくれる所もね?所でこのホットミルクは君からのプレゼントだとして、ラッピングされたこれは?」

    「ヴァレムントからですわよ。あの子ったらまた何処かをほっつき歩いてるかと思ってたけれどバレンタインデーの事は覚えていたのよ、律儀な所は昔からちっとも変わってないわ」

    「ヴァレムントに会ったのか!?様子はどうだった?元気にしてたかアイツ?」

    「子供みたいに大はしゃぎしちゃってこの人ったら……わたくしも起きたら枕元に置いてあったのよ。顔を見せないのは少し寂しいけど、代わりにお手紙をくれたわよ」

    「ふはっ、アイツらしいな。さて、それじゃあゆっくりと読むか。ホットミルクを飲みながら、チョコレートをツマミにしてさ」

    「ええ、そうしましょう。あの子、今度は一体どんな冒険をしたのかしらね」

    【ネムストク卿とネムストク夫人が笑顔を交わしながらホットチョコレートを飲みつつ手紙を見ながらアレコレ言いながら談笑する。酷く平和で、暖かな風景であった】

  • 201.アルベルト・レオス23/02/18(土) 23:10:54

    【猛禽の様な鋭い眼に肉食獣の様に鍛え上げられた筋肉が印象的な、そんな活気溢れる男が山脈を登っていた。登山装備も万全、防寒着に酸素ボンベを担ぎながら重荷などないかの如く獣道を踏破してゆく】


    「流石は名高き『バウハウリアル山脈』だな。足が棒になってしまいそうだ」


    【口ではそう言いながらも男の額は汗一つ流していない。男は商人だ、【ギルテシーア商会】に加盟しておりルルマリーナに本社を置く警備会社【レオス社】を一代にして築き上げた存在こそが男だ】

    【個人資産によって割り振られる会員ランクとして《星晶》>《黄金》>《赫銀》>《蒼銅》>《翠鉄》>《黒炭》の中でも《星晶》に位置する大商人でもある。しかしそれでも数多くの商人が加盟するギルテーシア商会にあっては《星晶》の中でも下位。羽根付きの会員証を持つ、【天益衆】と名乗るオーナーに選ばれたお気に入りにして「大臣」にも相当する商人達との間には天と地程の差が存在している】


        ・

    「さて、彼が居れば良いのだが」


    【そんな男がこんな辺境の何もない山脈に来ている理由はただ一つ、スカウトの為に他ならない。男は優秀な人材が好きであり、同時にそれを発掘するのも好きだ。だからこそ、『「感情が全て人類種への殺意に帰結する種族」と「人への殺意だけに満たされた魔族」の間に生まれた存在』が棲むとされるこの山にやって来たのだ】

    【社長ともあろうものが一人で来るなんて危ないと思われるかもしれないが、彼とて身の危険があると知らない訳ではない。"己が害される事はない"と確信しているからこそ此処に立っている】

    【まあ別に対話出来ると確信している訳ではなく万が一攻撃して来ても無傷で相手を屈服させられると確信しているというだけなのだが。警備会社のボスが弱いのは何か違くない?というのが彼の持論なのである】


    E. エルガー / 行進曲「威風堂々」作品39 より 第1番 ニ長調


  • 212.アルベルト・レオス23/02/18(土) 23:31:51

    「む?雪山に棲息する猿共か、散れ散れ。お前達に用は無い」

    『ヴッギィ〝ー!!!』

    【此方を見詰めてくる白い体毛の猿共に向かって手を振って去る事を促す。猿共も当然それを受けては黙っては居られない、突然来た外来種に追い払われる様な従順さは持ち合わせておらず、寧ろ撃退してやろうと足元の石を持ち上げて投擲せんとする】

    「チィッ、面倒な………体内循環加護を戦闘体へと移行。良いだろう、ヤる気なら此処で俺の『闔闇闢く閃閽』を開帳し」

    『双方、一旦止まれ』

    【それに気付いた男が独立で寝る間も惜しんで完成度を高め続けてきた固有魔法を発動させ、猿を制圧しようとして一触即発の空気が漂い始めた中で甲高い美しい声が停戦を呼び掛ける】
    【その声を受けた猿達が萎縮した様に身体を縮めて許しを乞う様に頭を下げて蹲る。少なくとも猿共が知っている、猿よりも遥かに強い存在だと認識して男は目当ての人物を引き当てられた事を確信しながら声が聞こえた方角を振り向いた】

    「やあ、君が『弑人姫』かい?」

    『忌まわしい名だ。しかしそれが指す人物が私である事に間違いはない。如何にも』

    【人の姿をした狼だった。狼の姿をした人だった】
    【空と海を混ぜたかの如き澄み渡る蒼色の髪が印象的な少女であり、明らかに只人の枠を外れた異形の怪物であった。狼の耳がピクピクと動きながら周囲の情報を探知し、揺れ動く尾は樹木程度なら簡単に折れそうな力強さを秘めている。両手の鉤爪は六尺はあろうかと言う有様】

    『私は、貴方に殺意を向けてしまう。お願いだから退いて欲しい』

    「ふむ、」

    【男が少女の瞳を覗く。「もしかしたら私は目の前の人を殺してしまうかもしれない」という怯えと恐怖に、「絶対に殺す」という特上の殺意という背反する感情が入り混じる瞳。彼女は今も尚殺人衝動を気合と根性で耐え続けていると認識して男は言葉を紡いだ】

    「断る」

  • 223.アルベルト・レオス23/02/18(土) 23:47:38

    『えっ』

    「俺はお前を俺の会社にスカウトに来た。警備会社っ奴だな、分かり易く言うと人を守る仕事だよ。勿論ホワイトだ、週休は二日だし勤務時間も一日8時間で残業もさせないし給料も弾む。俺は嘘は吐かない主義だ」

    【困惑する少女に男が情報で殴り付ける。実際にそれだけの労働条件を用意出来る力が男にはある、ローテーションでも組めば24時間365日護衛し続ける事は可能であるし、男の会社には多くの人材が居るのだ。その程度は訳ない事である】

    『………私は人とは共存出来ない。人を守る仕事は、私には出来ない』

    「いいや、俺がそれを可能にするッ!!不可能ではない、お前の眼を見て確信したよ。俺の、俺だけの魔法を使えばお前はお前の抱える殺意の奔流を封殺出来る!その耐え難き殺人衝動を超克出来るんだよ弑人姫!!!」

    【男が不敵に頬を釣り上げながら熱弁する、男の魔法だけでは不可能であるが、しかして少女が必死に己の本能を抑える姿を見て可能だと確信して言葉を紡ぎ続ける】

    「此処で、此処だけで、此処しか知らずに一生を終えたいか!?俺には出来る、お前の望みを叶えられる!!テメェの命を俺に寄越せ!!!」

    『で、も』

    【男が両手で少女の肩を掴む。その瞳からは変わらずに怯えと恐怖が存在し続けている。自分の恐ろしさを知るからこそ少女は一人閉じ籠ったのが、それを今更破るなど】

    「俺が!!!テメェを外の世界に連れ出してやるッッ!!!!」

    【男は、努力を積み重ね続け"られる"努力の天才は断言した。己が、己ならば少女を外に連れ出せるのだと。異端の少女に、普通の幸福を享受させられる術があるのだと】

  • 234.アルベルト・レオス23/02/19(日) 00:07:54

    『………それ、じゃあ。お願いします』
    「ああ、任せろ」

    【少女から同意を引き出した男は頬を緩めて微笑むとその起動言語を綴り始めた。男にだけ許された奇蹟の魔法、男が一から組み上げた強化魔法の一つの到達点の形。『加護』と男が呼ぶ魔術】

    「《遍く悪業を切り拓き、浄滅せん》」
    「《我らは光輝へと繋がりし門の守護者なり》」
      アヌールケウス
    「『闔闇闢く閃閽』」

    【細胞の一片一片に至るまで"新生"する。血潮の質が昇華される。以前とはまるで違う、新しい景色が少女の前に拡がった。魔法耐性や物理耐性、身体強化に代表される基礎スペックの底上げも驚異的であるが、精神性に基づく特殊能力の会得こそが『加護』の真価である】
    【とは言え此処まで強大且つ反則的な魔法なのだから当然代償も伴う。この強化魔法を付与させる際に生殺与奪の権が男へと移譲され、更にその条件を掛けられる側が容認しなければ発動出来ないのだ】
    【受ける側としては己の生殺与奪の権を放棄せねばならず、男としてもその条件を呑ませられなければ使えない。故に誰彼構わずに兵を増やす事は出来なくなるが、同時に裏切りを心配する必要もなくなるという利点も存在する】

    『こ、れは?』

    「『外界顕理』だよ。君のは言うなれば『喰言裁弦』とでも言うべきかな?『殺意を無くしたい』という願望が周囲の殺意を消失させる形として発現したんだろう、実に集団戦向きだな。『顕理転逆』すれば………ああこれは今は関係無い話だったな」

    『その、ありがとうございます』

    「礼は良い、俺は嘘は吐かない主義だからな。雇用契約を守っただけだ。さあ、付いてこいよ。ルルマリーナを案内してやる新入社員、質問があるんなら今の内にしておきな」

    『アナタは、誰ですか?』

    「俺はアルベルト・レオス」

    【男が己の左腕を掲げ、そして高らかに宣言する】

    「既婚者だ」
    【薬指に嵌められていた指環を見て少女は脳破壊された】

  • 24現世の沙汰も運命次第◆tm7Yjj4q2A23/02/19(日) 00:24:09

    1
    「あっ、アルスさん!やっぱりマグナさんのお墓参り行ってたのか〜…」
    「…ハーレットか。なんの用だよ?」
    「いや、取引先からちょっと良さげなお酒貰っちゃってさ…勝手に飲んだらアルスさん怒るっしょ?」
    「……成程な、そりゃ賢明な判断だ。ちょっと待ってろよ」
    「………」
    「………アルスさん」
    「んだよ」
    「アルスさんってさ、なんでマグナさんのことそんなに好きなの?」
    「そりゃあ僕の相棒で親友だからな」
    「うーん単純明快…」
    「…ま、ぶっちゃけそれは僕にも分からないんだがな。そもそも人間ってのは、「それを「好き」と思った理由」については言葉にできるが「「好き」とは何なのか」については今だ言語化でき無いもんなんだ」
    「………???」
    「あ、分かってねえ顔してんな?じゃあオマエで例えてやろう」

    「…まず、オマエはバッドエンドが好きだな」
    「うん」
    「なんで好きなんだ?」
    「そりゃあ…人の恨み辛み、愛や喜びなどの複雑な感情が絡み合う結果生まれる濃密な結末だから…かな?」
    「そうか。じゃあ、オマエはなぜその複雑な感情が絡み合う結末を美しいと思うんだ?」
    「………初めてシーネッタさんの脚本したあの劇を見た時からそう思ったんだよ、まさに天啓、運命そのものだった」
    「そう、そういう事だ」

    「…僕もマグナの良いところは沢山語れるが、それ以上に彼と出会った時に運命を感じたのさ。…きっと彼は僕にとって生涯最高の相棒となるだろうってこの心全てで直感したんだ」
    「結局人の心を揺るがすのは感情だ。でも、その感情を揺さぶり生み出す『運命』は、運命だからとしか言いようがないものなんだ」
    「…な、成程…?つまりアルスさんにとってマグナさんとの出会いは運命の出会いだったから好きになるのは必然だったってこと…?」
    「そういう事だ。もし『運命』を文字として明確に具現化できる作家がいたら、そいつ以上に人の心を揺さぶれる作家は生まれないだろうな」
    「…そ…そう言うことなのかい…?」

  • 255.アルベルト・レオス23/02/19(日) 00:24:28

    「さて、流石に弑人姫じゃ物騒だし年頃の娘には似合わなかろう。友達に自分の名前を自分で考えた馬鹿娘が居る、お前もそうするか?」

    『い、いえ。大丈夫です………』

    「そうか。そんじゃあまあ俺が決めてやる。名付け親という事になるな。さてさてお前に相応しい名前を考えなければな。ネーミングセンスを総動員しないとこれは厳しそうだ」

    『い、いえ。本当にどんな名前でも嬉しいので………』

    「遠慮するな。誰だって己の名前というのはカッコよくあって欲しいし、誇りに思える名前が良いだろうからな……………よし、それじゃあお前の名前はグレイブニールだ。これが良い」

    『えっと、貪り喰らう者という意味なのですね』

    「火を吐く巨狼を繋ぐ枷の名だよ。知人にそういうのに詳しい、黄昏色の騎士様が居てな。ソイツから教えて貰った名称と魔法の道具だ。周囲の凶行を戒め縛るお前にピッタリの名だと思ってな。嫌だったか?」

    『いえ……とても、とても嬉しい。私はこれからグレイブニールなのですね』

    「それなら良かったよ。それじゃあルルマリーナまで行くぞ、早速お前に俺の会社とお前の同僚になる奴らを紹介してやる。なーに一癖も二癖もある様な奴らだが悪い奴らじゃない、安心しとけ」

  • 26現世の沙汰も運命次第◆tm7Yjj4q2A23/02/19(日) 00:28:48

    2


    「…結局さ、僕のこの結末も運命だったんだ。今はそう思うことにしてるけど、やっぱりマグナだけは救えなかったかなって後悔しちまうんだよ。」

    「………」

    「……やっぱりさ、僕がここにいることって…間違ってるんじゃないかなって…」

    「それは違うんじゃないの?」

    「…へ?」

    「僕、生まれてからずーっと長男だったし、自分の力だけで妹を守らなきゃいけなかったし、劇団に来るまで甘えられる人なんていなかったし、団長としての責任とかもあるからさ。だからアルスさんは何だかお兄ちゃんみたいで新鮮というか…酒臭いけど頼れる時は頼れるし…」

    「………」

    「あっ、もしかしたらあの時アルスさんを助けた理由も結局のところは『運命』ってやつだったのかもね?なーんて…」

    「…プッ……あっははははははは!」

    「なっ!?ちょっ、笑うことないじゃん!?」

    「いやあ〜…流石に1本取られたと思ってな。流石は僕の後輩だ」

    「はぁ…」

    「…………サンキュー。今の言葉、忘れないでいてやるよ」

    「それは何よりだね。じゃあ、僕はそろそろ先に戻ってるからねー!」

    「おお、すぐ来るー」


    ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

    「…だってよ。…………見たか?あれ僕らの後輩。腹立つけど悪いヤツじゃねえんだよな」

    「…多分キミはこれ以上僕に謝られるのは嫌だろうからな。『僕はそこそこ幸せにやれているからアンタもどうかそっちで笑っててくれ』とでも言っておくよ」



    「━━━じゃ、また来るからな。マグナ」

    米津玄師 - POP SONG


  • 27リモンチェッロ◆86pebISJiw23/02/19(日) 00:43:10
     ハノイメさま完結編ここまでのあらすじ

    ☓☓村の広報担当を名乗る男に半ば無理やり連れられて、その村を盛り上げるイベントでアイドルとしてライブを行うことになったリモンチェッロ

    しかし、ライブで行われる予定のダンスと村で信仰する神がどうにも胡散臭いということで、それらについて調査することに

    調査の結果、村の神の正体は悪霊と語る老婆や神を崇める社に残された資料から、かつてこの村で行われた悍ましい風習とそれが衝合で失われたこと、そして風習によって産まれた悪霊は未だ残っていることが発覚した

    数日に及び調査を続けたリモンチェッロだが、これ以上のことを個人的に調べるのは難しいと断念

    そもそも何故自分が呼ばれたのかも未だわからず、どうにか出来ないかと最終手段として霊媒の業を使い悪霊本人に直接接触することに



    ────村の外れ、神の社。この村にそう伝えられた建物が、かつてハノイメ達を監禁する施設だったことを覚えている者はもうほとんど残っていない

    周囲を森に囲まれた中にぽっかりと穴のように穿たれたそこは、かつての彼女達が村の人間にとってどのような認識をされていたのかが伺い知れた

    翳る木々の隙間を抜けて、にわかに傾いた昼過ぎの日はいつも通りにうら…
    telegra.ph
  • 28水使い23/02/19(日) 12:12:48

    >>27

    ※水使い「ふむふむ、人を害さなかったからこその結末なのねです。因果応報、自業自得という言葉がありますが或る意味ではそれに近しいモノかしらねです?情けは人の為ならず、今回のは情けではありませんでしたが、それでも彼女達が安らぎを得られたのは彼女達にとって幸いでしたわねです」

  • 29女竜騎士ライブ護衛123/02/19(日) 14:11:16

    「うわ…そ、想像以上に大きい」
    【竜騎士はあるクエストを受けて、とある屋内型劇場ステージにやってきていた。クエストの詳細は以下である】

    『デットミート・オブ・ライブ』
    アイドルグループ「エレクトロ・らびゅ〜ズ」のマネージャーからの依頼
    以前からグループのセンターである星光 カラン(芸名)の元に複数回に及んで「次のライブでお前を殺 す」という内容の殺害予告が届いているが、そのライブは彼女のデビュー1周年記念で行われるためカラン氏本人は意地でもライブを決行するつもりのようだ
    ライブ会場には予め雇った警備員がいるが、念の為観客のフリをして潜入し万が一の際はカラン氏の護衛を行って欲しいとのことだ

    【スティアラはグロワールの片隅にあるのどかな田舎貴族の4女であり、ここセントラリアに来るまでは、質実剛健にして伝統と名誉の竜騎士学校で過ごしてきた。】
    【つまりアイドルという華やかな世界は知ってはいても目の当たりにするのは初めてだった。
    …ファーストコンタクトが殺害予告の護衛でいいかはともかく。】
    「依頼の方ですね、どうぞ裏へ」
    【竜騎士を案内する警備員の雰囲気もどこか硬く、緊張を隠せないようだ。想定外の規模にちょっと冷や汗をかきながらも竜騎士は依頼主であるマネージャーの元へ通された】

  • 30二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 14:34:46

    このレスは削除されています

  • 31女竜騎士ライブ護衛223/02/19(日) 14:35:16

    「ああ、冒険者の方ですね?わざわざありがとうございます。」
    【マネージャーは3匹の竜を連れて現れた竜騎士を見て、満足そうにうなずいた】

    「エレクトロ・らびゅ〜ズもかなり有名になったせいか、こういういたずらは珍しくないんですよ。
    しかし3匹もドラゴンが会場にいれば、便乗でなにかしようという愚か者も出ないでしょう、心強いですよ」
    【差し出された手を握る。若干の心配や緊張は脈から伝わってくるが、冷や汗は書いていない。】
    「それじゃ、殺害予告が本気だとは思ってないんですね?」

    「本気だと思ってたらカランがなんと言おうとライブなんかしませんよ。そういったリスクマネジメントも私の仕事なんですから。」
    「そう言われればそう…かな?」
    【一般的にはそうなのだ】
    【竜騎士が首を傾げているのは、そういう一般例より先にガチでテロリストや呪物送付や殺害予告に巻き込まれた芸能関係者がギルドにいるからだが…】

    ※番号変え忘れた!

  • 32女竜騎士ライブ護衛323/02/19(日) 15:02:01

    【竜騎士は生まれつき感覚が鋭い。物言わぬ竜たちの感情を体の動きから読み取ることができるほどに研ぎ澄まされた五感は、雑踏の一人一人の動きを認識できた】

    【しかしてアイドルの一周年ライブというものはそれだけで挑むにはあまりにも大きかった。大音量の音楽とファンの歓声が響く中、やっとそれを見つけ出した時には演目は3つ目に突入していた。竜騎士が取り押さえて連れて行くと、マネージャーは驚愕と怒りの混じった目で男を睨みつけた】

    「まさか本気だったんですか?一体何のために…いや、それは牢獄で話してもらいましょう、衛兵を呼ん」
    『違うんだ!』
    【竜騎士に取り押さえられたまま、男は叫んだ】

    『違うんだ、これは守るための…早くしないと間に合わないんだ、カランちゃんを殺さないと…生きてちゃだめなんだ!』
    「は?」
    「えっ」
    【マネージャーと竜騎士が絶句する】

    『このままだとカランちゃんが連れて行かれちゃうんだ!今日だけ、今日だけアンデッドにして乗り切ればカランちゃんは助かるんだ。だから早く殺さないと!その後なら俺はどうなってもいい!蘇生手段だって5つも用意したんだ!』
    【言っていることはほとんど狂人のそれだが、男を掴んでいた竜騎士は伝わってくる脈や温度、細かな震えから悟った】
    【どうやら少なくともこの男は真実そう思っているらしい。そして気狂いのような支離滅裂さも、感じられない】

  • 33女竜騎士ライブ護衛423/02/19(日) 15:32:24

    『この世界は厳しい、冒険者さんはともかく…マネージャーのあんたならわかってるだろ。真実実力があっても、どれだけの新人がコネとチャンスをつかめずに脱落していくか』
    【拘束から開放された男が話す。念のためと持ち物をあらためたところ、本当に高級蘇生ポーションや死者をほとんど生者のように動かせる死者の書、死と蘇生に関わる残穢を除去するためのタリスマンが出てきていずれも本物だった。】

    『あんたがエレクトロ・らびゅ〜ズを担当してるのは半年前からだったよな。
    エレクトロ・らびゅ〜ズ発足当時のマネージャーは禁断に手を出したんだ。彼女たちのデビューが上手くいくように悪魔と契約した…』
    「待ってください、まさか彼女達の人気がインチキとでも?」
    【怒りを隠さない声音で話を遮ったマネージャーに、男は首を振った】

    『いいや、彼女たちは本物だよ。あくまでも悪魔が手を貸したのはデビューに対するきっかけだけ、それも一ヶ月の間のことでしかなかった。
    けど、今はそんなことはどうだっていい!その契約の「星光カランの命」の取り立てが一周年の今日なんだ。でも何度殺害予告を送っても本気にしてもらえずにライブは行われてしまった!
    お、俺は死霊術しか才能はないけど…アンデッドに対する支配力だけなら負けない自信がある!だから、今日だけでいいんだ!カランちゃんを殺せば「命を取り立てる」ことはできないし、俺なら死んだ状態でもカランちゃんをアイドルとして動けるようにできる!』
    【男は必死で訴える。手元に置かれた真偽判定の魔導具が一度も偽を示していないのを見て、マネージャーは深いため息をついた】

    「…わかりました。ライブは中止し、エレクトロ・らびゅ〜ズには明日まで結界の中で身を守らせましょう。
    そろそろ休憩でメンバーが戻ってきます。こんな話を聞かせるわけには…」
    「聞いてたよ」
    【マネージャーの声を遮って、部屋に入ってきたのはきらびやかなステージ衣装の星光カラン、その人だった】

  • 34女竜騎士ライブ護衛523/02/19(日) 15:57:02

    「カラン…!」
    「マネージャーさんの気持ちは嬉しいけど、カランはアイドルなの。
    だからライブはやり切る。ステージから逃げる位なら、ステージの上で戦って、ステージの上で死ぬわ!
    だから私を、アンデッドにして!」

    『カランちゃん…!』
    「だめです!万一のことがあったらどうするんです!?」
    【アイドルの覚悟に息を呑むファンの男と、声を荒らげるマネージャーに、カランはいつもの決めポーズをして返す】

    「カランはね、アイドルって一寸先は闇だってわかってるの。だから、今日のこの日を一日だって無駄にしたくない!
    …それで考えたんだ、全部新曲の演出ってことにしちゃおう!テーマはホラー&スリラーな感じで、カランはそっくりなゾンビの踊りをする!」
    「それでノコノコ出てきた悪魔さんを、冒険者さんがえいや!ってやっつけるの、どう?」

    「………………………えっ、私!?」
    【いきなり話が飛んできた竜騎士は驚愕した。だって途中から完全に部外者だったので。】

    「それはいいですね!冒険者様は非常に凛々しいお顔をしていらっしゃる…姫を助けに来た聖騎士などどうでしょうか?」
    『会場にいた竜のゴーレム?鉄の竜はペイントすればセットに見えるはず。
    そうと決まればカランちゃん、早速アンデッド化の儀式を始めてもいいかな?体の動きに慣れる時間はいるよね』
    「もちろん!みんな!ぶっつけ本番の覚悟はできてるよね?」
    「「「いえ〜い!!!」」」

    「え、あの…?」
    【気づけばほかメンバーやバンドチームなどまで集まってきていて、事態は竜騎士を置き去りに進んでいった】

  • 35女竜騎士ライブ護衛623/02/19(日) 16:04:47

    【エレクトロ・らびゅ〜ズ一周年ライブを見た人は、事前に知らされていなかった新曲と、姫を狙う悪魔と救う白く輝く槍を持つ騎士というストーリー仕立ての演出に度肝を抜かれたと語った。】
    【特に悪魔役の迫真の演技は後のどのライブでも初日ほどの衝撃はなかったと語る者が殆どで、ライブは大成功のうちに幕を閉じる】

    「…スパルータ先生に鍛えてもらっておいてよかった…あと、赤髪鍛治師さんに武器を鍛えてもらってなかったら危なかったかも…」
    【人が去り、閑散としたライブ会場で竜騎士はひとりぐったりとしてそう呟いたのだった。】

  • 361.水使いと魔女23/02/19(日) 19:44:52

    【人滅から離脱した穏健派による組織『魔女の軒先』が人族との交流を深める会。性質上人滅や殲魔からの標的になる事が想定されるそれに水使いは知り合いの激強警備会社ベテラン社員と新人社員のツーマンセルを『新人講習特別料金』で雇って参加する事にしていた】
    【集合所に入ると、綺麗で落ち着いた雰囲気の内装が広がっていた。魔女の組織なのだからもっと禍々しい可能性もあるものかと思っていた水使いは少しばかり脱力して歩みを進めた】

    こんにちは。此処が交流を深める会の場所かしらです?

    『む?ああそうだな。護衛の冒険者か?』

    【何やら指示をして場の魔女達を取り仕切っている金髪の魔女を見つけた水使いが話し掛ける為に近寄る。因みに警備会社の社員共は何も話さずに水使いの傍で待機している】

    冒険者ではありますけれど護衛ではありませんわねです。交流を深める為に来たのよです!

    『えっ人族なの???てっきり私達の同類かと……ああいや何でもない。交流に来たのか、元々人滅に属していたせいで集まりが良くなくてな。来てくれてありがとうお嬢さん』

    ええ、色々聞きたい事があったのです!勿論質問とかもバンバン受け付けますわです!

    『ああ、少なくとも貴女のお陰でこの国は差別に対して非常に寛容だと言う事は充分に他の魔女達にも理解させられる。これだけでも大収穫だとも』

    ……?えっと、何故そうなるのかしらです?

    『君が差別されていない、という事は私達が差別されないだろうという事を実感させられる。という事だよ。さあ座り給え、珈琲でも飲みながら語ろうじゃないか』

  • 371.水使いと魔女23/02/19(日) 19:56:21
  • 382.水使いと魔女23/02/19(日) 20:24:19

    >>Q1

    貴女達は何故人滅に所属する様になったのかしらです?

    悪意もなく、敵意も感じ取れないのだけれどそんな貴女達が何故人滅に所属する様になったのかしらです?


    『まあ端的に言えば………流れだな』


    端的に言い過ぎている気もしますわねです……主体的に所属しようとした訳ではないのは分かりましたが、具体的にはです?


    『最初は辺境などのまだ良識が浸透し切っていない地域で迫害されてた魔女達が集まって愚痴を言い合ったり仲良くなる秘訣を教えあったりする会だったのだ。だったのだが…………』


    だったのがです?


    『最初期の人滅と合流してな。後から人類劣等思想家や過激な環境保護組織が合流して人滅クラン全体が悪化してゆく中で閉鎖的な部分があった私達は変わらずに居た為に、穏健派というマイノリティとなった。マジョリティからマイノリティへの変遷だな』


    裏話みたいな事を聞くのは楽しいわねです!要は今の悪化した人滅のやり方に耐えられなくて離脱した感じなのねです!


    『では次は私から、私達からの質問だな』


    <<Q2

    『セントラリア王国が差別に対して非常に寛容だと云う事は既にこの場にする全ての魔女が理解した。だからこそ問いたいのだ、お前は───』


    【瞬間、交流会の会場の壁が吹き飛んだ】

  • 393.水使いと魔女23/02/19(日) 20:37:45

    【空いた穴から雪崩れ込んだ来る大勢の人滅構成員達。組織の大先輩たる『魔女の軒先』、魔女達の雨宿りとなる組織に可愛さ余って憎さ百倍と言った様で殺意を向けて目をギラつかせて、】

    『外界顕理────喰言裁弦』
    「顕理転逆────縛播鎖獰」

    【殺意が消失させられ、同時に行動の全てを封殺された】
    【水使いの雇った警備会社の社員の紡ぐ起動言語によって『加護』が世界へと表出する。殺意の消失を何よりも願った『狼』の渇望が周囲から殺意を消去してゆき、何よりも自由を願った天衣無縫たる女の渇望が反転した結果として周囲を自由を全て奪う事によって己を最も自由な存在とする】

    『ああ、ありがとう。お陰で手間が省けた』

    【その様子を見た魔女の頭領は一つ頭を下げて、再び質問の続きをした】

    『お前の知っている中で、一番美味しい喫茶店は何処だろうか?』

    うーん………美味しい喫茶店はとても多いので一つに絞るのは難しいわねです!全部教えてあげますわねです!

    『感謝する』

    【衛兵に人滅構成員達を捕縛して貰った後、交流会は長く続いた】

  • 40二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:14:23

    質問が変わったのはどうしてだ(一般通過読解力ゼロROM専)

  • 41水使い23/02/19(日) 21:16:43

    >>40

    ※へっへっへっ………「お前は美味しい喫茶店を知っているか?」から「お前の知っている中で一番美味しい喫茶店は何処だろうか?」に変わっただけなのだ


    何か良い感じに親しみ易さや茶目っ気を表現したかった(遺言)

  • 42二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:19:44

    変わってなかったよ!

  • 43二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:53:52

    このレスは削除されています

  • 441.きざし◆Y0zvUeHdRQ23/02/19(日) 21:54:49

    極東。セントラリア等を擁する大陸より東方に位置する諸島群を指す名称だ。そんな『極東の島々』のひとつであるこの『マカラ島』は、俗に──『魔境』などと称される環境である。
    手狭な領土を巡り人妖相争い、無力なる者は死に絶え、生き延びた者は悉くやがて武の魔性に取り憑かれる。力無き者は塵芥、戦わねば死ぬるのみ。
    これは、そんな修羅どもの渦中にて生まれ──そして人となった、ある娘にまつわる一幕である。

    「うーむ……どうしたものでしょうか」
    マカラ島着きの冒険者、『白銀 ハル』。龍すらも正面から斬り伏せる凄腕の剣士であり、数々の武勇を打ち立てた女剣士はその頃、目の前の光景に頭を悩ませていた。
    「…………?」
    こちらをきょとんと見つめる小柄な少女。薄紫の髪を長く伸ばし──おそらく碌に手入れもしていないだけなのだろうが──粗末な着物に身を包んだ、見窄らしい娘。身の丈四尺に届くかどうかというほどの矮躯に、言葉を解する気配も無い。その様子から歳の頃は五つか六つか、あるいはさらに下かと踏んでいたのだが……
    「この有様で"十七"ですか……」
    そう。十七。当地の医学者も、ギルドより取り寄せた魔道具による判定もそう結論を出した。この娘は、"生まれてから十七年ほど生きている"のだと。
    己と四つほどしか変わらぬ年頃でありながら、幼児の如き体と精神。その歪な在り方には、さしもの上級冒険者……"《散斬華》のハル"も面食らったものだ。
    さりとて、この娘は父──と思しき人間──を喪ったばかり。この過酷な地にてただ放り出すわけにもいかぬ。ハルは、そのような哀れな子供に見て見ぬふりが出来るほどの冷血ではなかった。

    「育てる……しかないかあ。恋人もいないのに子持ちだよぉ」
    「うー……?」
    天を仰ぐ女の姿を見て、薄紫髪の少女──後に『白銀 リン』。そして──

    『松葉斎』の名を得ることとなる少女は、首を傾げすぎてこてんと転がった。

    「あらら……」
    「……?」

  • 452.きざし◆Y0zvUeHdRQ23/02/19(日) 21:55:40

    その少女は、『無名の刀匠』の娘であった。無名、文字通り『名を持たぬ』刀匠は数多くの名刀を鍛えながら、しかし名も無き故にその功は誰の知るところでもない。ごく一握りの『お得意様』を除けば、ふらりとその庵に立ち寄った風来人がその作品に魅せられるぐらいのもの。彼が鍛えた『無銘の名刀』の多くは、彼が賊の手にかかり死した後に初めて日の目を見ることとなった。
    無名の刀匠は少女を娘と見做してはいたが、しかしそれを育もうとはしなかった。ただ『童が食うもの』だけを無造作に与え、玩具として刀を振り回そうが気にも留めない。生きるならそれでよし、死ぬるならばそれまで。
    ハルがこの刀匠の庵を見つけたのは、かねてより手配されていた凶悪な賊の後を追っていた折であった。命を奪うことに躊躇いのない賊が、人知れず佇む庵に踏み込む。ハルは最悪の事態を予感し、慎重にその内を覗き込み──

    血の海の最中、呑気に刀を抱いて眠る少女の姿を見つけたのだった。

    死体の数は六つ。追っていた賊は五人。
    座り込んだまま、背後から刀を突き立てられ絶命している男がひとつ。辺りに無惨に転がる肉片、そして首が五つ分。
    その光景は、ハルにひとつの──荒唐無稽な──事態を想像させた。

    つまり、賊達は庵の主を不意打ちで殺めた後──
    この幼気な少女に斬り殺されたのだと。

  • 463.きざし◆Y0zvUeHdRQ23/02/19(日) 21:57:05

    「こー、んー、にー、ちー、はー」
    「こー……んー…い…ち…あ?」
    「違う違う……"に"」
    「にー!」

    "言葉"。通常であれば、成育の過程で周囲の言葉を認識し自ずと覚え始めるもの。しかしこの少女は、どういうわけか十七年もの間"言葉"をほとんど認識せずに生きてきたらしい。
    幸い知性の発達自体は──健全とは言えないが──それなりに成されているらしく、本当の幼児に比べれば随分と"成長"は早いものだった。

    「はぁ……じゃあ、ご飯にしましょうか」
    「おわん」
    「"ごはん"ですよー」

    そう言って、盆に乗せたぼたもちを差し出す。

    「わ……♪」

    目を輝かせ、ぼたもちを口に運ぶ少女。保護した当初は『これが食べ物である』ことすら理解していなかったとは思えない。その様だけ見れば年相応の娘のようだった。
    食べ物。保護される前の少女にとって、『食べ物』とはすなわち『飴玉』であった。当然それだけで人が健全に生きられるはずもない。医師に曰く「これほどに成長できたことすら奇跡」というほどの栄養状態だったそうだ。それでもこうして生きていられたのは、極限状態に陥った故か、あるいは生まれつきか──その少女が、ほんの僅かに特異であるためだという。
    つまり、『糖分』だけが彼女にとって必要最低限の栄養であり──

    「……おい、し?」
    「……!ふふ、そうね。"おいしい"、と言うんですよ」

    だからこそ、無二の好物なのだ。

  • 474.きざし◆Y0zvUeHdRQ23/02/19(日) 21:57:48

    それから、四年ほどの月日が流れた。
    『リン』と名付けられた少女は、それまでの分を取り戻すように──それでも一般よりはかなりの矮躯である──順調な成長を見せ、やがて育ての親たるハルの後を追って冒険者の道を志すことになる。
    『父』の元で刀を振るい続けた経験、そして天賦の才からか剣士としてすぐに頭角を現し、この頃には上級冒険者に認定されるまでに至っていた。
    そんな、ある日のこと。

    「……リン。あなた、セントラリアに行ってみる気はありませんか?」
    「セントラリア……ですか……?」
    「はい。セントラリア。この地より西に位置する大陸にある国です。正確には、その大陸に移り住む気はないか?ということですね」

    淡々と告げるハルの言葉の意を、リンはすぐには理解できなかった。移り住む。なぜ?
    そんな面倒なことをする必要は、あるのでしょうか。
    そのように問う"娘"に対し、"母"は優しく微笑み答える。

    「ありません。これは私が"そうしてほしい"と思っただけのお節介。この狭い島の中で生きるより、あなたには広い世界をその目で見てみてほしい──そんな、冒険者としての言わばエゴです」
    「……でも……私は……」

    「ハルさんと……離れては……」

    「……生きてゆけないのでは……?」
    「そこは頑張ってみてほしいですね!?確かに心配ではあるんですけど!」

    それから一悶着……具体的には一本を取った方の意向に従うという条件にて模擬戦を行いリン──『松葉斎』が敗北した結果、彼女はセントラリアへと渡ることとなったのである。

    「捨てないで……」
    「そういうつもりじゃありませんからー!ちゃんとずっと愛していますからー!?」

  • 485.きざし◆Y0zvUeHdRQ23/02/19(日) 21:59:01

    ──それからさらに少々の時が流れ、現在。

    「……そういえば、あの娘。上手くやっているのかね?もう彼方に渡って結構経つだろう」
    「おや……先生。はい、そうですね。セントラリアにいる昔の仲間から、時々話を聞きます」

    「……酒場の席で眠っていたり周りの人から食べ物を恵んでもらっていたり危うく死にかけたりペットと仲良く遊んでいるだけで一日が終わったりとしているようで……」
    「上手くやっているのかねそれ???」

    「ふふ……まあ、でも。きっと幸せですよ。あの子は」
    「ま、まあ君ほどの冒険者が言うのなら……そうなのかな?しかしこう、会いたくなったりはしないのかね」
    「めちゃくちゃ会いに行きたいです。さみしい。仕事ほっぽり出したい」
    「……それは困るが、うむ。まあ、ならばね。いずれ君が"休暇"を取れるようには計らってみよう」
    「せ、先生……ッ!」
    「君には返しきれぬ大恩がある。その望みとあらば、できる限り叶えてあげたいからね」
    「よーし!そうと決まればとっととお仕事お仕事!とりあえずこないだ見つかった妖鬼窟はサクッと潰してきますね!」

    そう言い残し、風のように去っていったハルの姿を見た"先生"……初老の医師は、目を細める。

    「ああ、あの子にも……家族ができたのだね」

  • 496.きざし◆Y0zvUeHdRQ23/02/19(日) 22:00:22

    ふふ……まっくろさん……お腹、いっぱい……?
    ……あ……
    ……ううん。なんでもないよ……?ただ……なんだか……"ハルさん"……私の……お母さんの……声が聞こえた気がしたの……
    うん……お母さん……私を……育ててくれた人……
    とっても強くて……優しい……冒険者でね……?
    ふふ……まっくろさんも……会ってみたい……?
    会えると……いいね……
    私も……また……会いたいな……
    ふふ……きっと……まっくろさんも……仲良くなれるよ……?
    ふたりとも……私の……家族だから……♪

    【おわり】

  • 50①弧空剣士◆SokSKYnF1223/02/19(日) 22:05:25

    ※投函では無く語り聞かせ形式で投下します。雑に思い返しているのでミス多いと思われる。あと口外厳禁な部分があったら編集でカットされてる感じでお願いします。

    「拙者らの過去の冒険を知りたいと聞いたでござるよ」

    【紺色の《風来の外套》を脱いで極東のサムライが席に着く】

    「ふーむ……そうさな。では拙者がせんとらりあに来てから今に至る……それなりに長い物語を、掻い摘まんで語り聞かせて進ぜよう」

    ……
    ………

    【パチパチ……と暖炉の薪が爆ぜる音が聞こえる】

    「拙者がセントラリアを訪れたときは、まだ中級冒険者として二年ほどだったか。その頃は、今も見掛ける春風嬢、不滅殿、御子嬢、至宝詩編、月杯殿以外にも、最近は忙しくしておるだろう魔剣使い殿、氷結りんご嬢、ギルド研究者殿、嵐のお嬢なんかもよく見掛けた」

    【少し懐かしむように思い出した後、正面に向き直る】

    「最初に赴いた大規模合同依頼は後に“氷雪のミコト”と呼ばれるソワスレラの雪山調査でござった。超極寒の雪山を助け合って登攀しつつ、襲来する魔物をみなで撃退していった。思えば、拙者の代名詞……と言っていいかは知らんが、長射程斬戟を初披露したのはここが最初だったやもしれぬ。同時に弱点も晒したがなー。」
    「次いで急襲した軍用機体くろすとの戦闘。恐ろしい速さで飛びまわる何とも奇妙な絡繰りよ!……そして遂に異常の原因として姿を現した自然の大精霊“氷雪のミコト”。有効打無く時間稼ぎに徹していた拙者らだが、竜血喰らい……あの男が地脈操作に目覚め、事態を打開した。最終的には皇帝専用らしき金ぴかくろすが力業で押さえ込んだようだったがな。……そんな感じでダウンした竜血殿に肩を貸しながら下山した」

  • 51②弧空剣士◆SokSKYnF1223/02/19(日) 22:33:05

    >>50

    「次いで印象に残るのは“サバク船護衛任務”でござろうなー。砂の海を征く大型船に乗り込んで、ネズミ団の者らとセレネリオスまでの長旅よ!珍しくも猫耳嬢が販路開拓のために同行した依頼でござったな。賭け事や勝負事、シャドウナイト嬢に隙を晒して哀れにも面白く着せ替えられた竜血殿など、陽気な旅路でござったな。そうだ、ゴゼン殿や鋼鉄人殿も含めてとんでもない総戦力の護衛でもあった。げに良き思い出でござる」


    【お茶を一口啜る。しばしの沈黙】


    「……闘技場も以外に最近出来た物ではあるが、この頃から既に賑わっておったよ。拙者が浪人殿と分けた試合も、ろぐを探せば出てこような。佳き死合いであった」


    「その次は……颱風の大精霊がセントラリアを直撃する季節か。殲魔の奴原がその機に乗じて大きく動いてきたのを、これまた多くの冒険者らが阻むべく動いた」


    「それからしばらくして、拙者を語る上で外せぬ依頼が貼り出された。“【禁足地拾参番《ピリオド》】”より【復言ト背理ノ神靈】を持ち帰る。禁足地について……?それは一概に説明しづらい言葉故、そちらで調べて欲しい。ともかく、この依頼で拙者は限界の限界まで追い込まれて――――一つの極点を見出すに至った。まあこの段階では一回限りのまぐれのような物でござったがな。ともかく禁足地を切り裂いて生還こそした物の、依頼は失敗。薄明殿や悪しきりゅうなぞが引き継いで大暴れしていたそうだぞ、ふふふ。失敗ではあったが拙者にとっては得るものの大きい依頼であったのは間違いござらん」


    「この時の剣術の極点……“拙者にとっての虚空の果て”に進展があったのは千剣后嬢との死合いの時であったな。手数も剣速も圧倒的に上、光の如き剣閃を心眼で凌ぎつつ、辛うじて思い至ったのが“詠唱”でござった。魔術師らがやるあれで、自らの精神をあの禁足地の時間へと瞬時に立ち返らせる。そうして放ったあの時の再現こそ、“無涯光”。この先も拙者にとって最高の剣と言える一閃よ。ちなみに死合いには負けたぞ」

  • 52③弧空剣士◆SokSKYnF1223/02/19(日) 22:56:02

    >>51

    【愛刀である《涅槃寂静》を抜いて透き通った刀身を見せる。拙者の《寂空》を鋳溶かして、色々と新しくなったのはこの後でござったな。その頃の名は《寂静》。既に刀身は透き通っておった。費用は、これまでの稼ぎが7割以上消し飛んだ……とだけ言っておく】


    「それから次は……ドワーデンガルドからの依頼でござったな。武具を鍛えるドワーフと布を織る巨人の都市。その依頼の結末は……遥か昔の男と男の約束。それがよもや時代を超えて果たされるとはな。拙者が今も愛用する《風来の外套》はこの依頼の礼としておーだーめいどして貰ったでござるよー」


    「竜血殿との死合いもこの少し後だったか……?圧倒的な力の総量を誇るあの竜人に紙一重で打ち克ったのも得意分野の違いと言えばそれまでかもしれぬ。だが、この時拙者は試験を受けて上級冒険者を目指すことを決めたでござるな。強者を打ち倒しておいていつまでも中級というのも不甲斐なかろ?」


    「その後も宝石竜を斬りに行ったり行方をくらましたシャドウナイト嬢を探しに行ったり、退屈せぬ日が続くでござるよ。」


    【それは今も変わらぬが……と笑いつつ、注文した羊羹を一切れお茶で流し込む】


    「ギルドを騒がせた手配人。元らんかーの指揮剣嬢にまつわる依頼に関わることもござった。普段中々訪れる機会の無いサンレインと、その大監獄跡。貴重な経験でござったよ。いずれかの剣士が戻り来る時があれば……是非とも剣を交えたいものだ」


    【図らずも空気を張り詰めてしまったので、抹茶パフェを注文してうやむやにするサムライ】

  • 53④弧空剣士◆SokSKYnF1223/02/19(日) 23:14:00

    >>52

    「拙者の上級試験は白銀嬢に頼み込んだ。気配りの細かいあの御仁ならば、拙者が望む難題を出してくれると思ったが故にな……。実際にその通りになって、千剣山にてかつての剣豪を千人抜きして不可視の狒々色金を入手する……という物であった。特徴の違う強豪を千人……でござる。何回も死にかけて離脱し、剣靈たちもうんざりしたやもしれぬな、ははは。それでも最後にはきっちり千本、乗り越えて見せた。“無涯光”も一段先の段階へと、研ぎ澄まされた戦いでござった。かつて銀河剣士も乗り越えた道だと知ったときは、先に教えてほしかったと少しだけ思ったが……ともあれこの時の素材で鍛えることで、この刀は今の《涅槃寂静》となった。……他に話すことと言えば」


    【しばし腕を組んで唸っていたサムライだが、突然ポンと手を打つ】


    「深淵勢……というやつばらを知っておるか?地上によく出てくる者もおるが、基本的に無限牢獄の深淵に居てくれないと困るような、強大な破綻者どもの通称でござる。拙者は一度67位と共に潜った123層で、“斬災”という深淵勢の少女に急襲されてな。恐ろしいわ強いわちょっと楽しいわで、それはもう大変でござったよ。《払暁の放蕩旅団》への信頼はこの時から厚いでござるなー」

  • 54⑤弧空剣士◆SokSKYnF1223/02/19(日) 23:29:45

    >>53

    「かの比類無き竜《古き焔》の終焉にも立ち会えた。アレが居なくなったことで多くの者が安堵し、また多くの者が心に空隙が生じたような虚無感に襲われたであろう。しかし、かの竜の火は幾人かの心に灯され、続いていく。そんな気がするでござるな」


    「そして同じく竜としては白龍公とも相まみえた。かつて白龍公に立ち向かった円卓たちが、幻影と立ち塞がったのだが……栗鼠騎士殿との連携がバッチリ決まったのが印象深い。ああ、言ってなかったがこれまでも皆との連携は多々あった。これぞ合同依頼の醍醐味というやつでござるな!」


    「一番最近では千年前の伝説的戦略級魔術師《嘆雨》との戦いがやはり一番にあげられよう。ある程度の対処法が確立されていてもあの暴れっぷり。七国大戦時代とはまこと地獄の具現よな。鋼鉄人殿をフルスイングでかっ飛ばしたのが記憶に新しい」

  • 55黒檀の魔女@エンデルリア①23/02/19(日) 23:34:04

    【グロワール帝国エンデルリア領、エンデルリア魔術学院の一角にある、魔術師塔】
    【その応接室にて、テーブルを挟んで魔術師の父娘が向かい合っていた】

    「それでね、撃剣使いさんの寝言の『モンテスキュー』は、実は『モンテ・S・キュー』のことだったんじゃないかって」

    「ははははは。それは興味深い考えだ」
    【会話に、花が咲いていた。楽しそうに話をする娘に、嬉しそうに話を聴く父。しばらくぶりの親子の時間である】

    【黒檀の魔女は魔術師ギルドの『お使い』で荷物を届けるよう頼まれ、届け先である母校、エンデルリア魔術学院にやってきた。そのついでに、父の元に顔を出したのだった】

    「いやあ、ははは。
    お前がセントラリアでも元気にやっているようで、父さんは嬉しいよ。
    それに、友達もできたとなれば尚更だ。
    あの定まらない口調をやめてしまったというのは、少し寂しい気もするがね」

    「……もう、やめてよ」
    【ニヤリと笑う父親に、赤面しながら返す娘。余人が見れば思わず笑みが溢れるほどに、仲睦まじい親子の様子だった】




    「──ところで、何か嫌なことでもあったのかい」
    【話が一段落したところでふと、父が子に問うた】

    「………え?」

    「最後に顔を見た時から少し、雰囲気が変わったような気がしてね。
    私には、今のお前は何かを内側に溜め込んでいるように思える」
    【先程までの朗らかかな様子とは打って変わった、静かな、しかし鋭い視線】
    【その眼は黒檀の魔女に、自らの父親が歴戦の実戦魔術師であるという事実を改めて思い起こさせた】

  • 56黒檀の魔女@エンデルリア②23/02/19(日) 23:34:52

    「………………」
    【少し逡巡した後、黒檀の魔女は打ち明けた。エイラという少女について、自分が知りうる全てを】

    【邪悪な魔法の贄として扱われていて、今も解放されていないこと。呪いで徹底的に縛り付けられ、助けを求めることすらできないこと。肉体的にも精神的にも、支配されてしまっていること】

    【──そしてそれを行っているのが、恐らくは彼女の父親だということ。それを、自分にはどうしても許すことができないこと】

    「………ふむ、なるほど」
    【父は、黙ってそれを聴いていたが、話に区切りがついたところで口を開いた】

    「お前の怒りはもっともだ、ルシール。
    こうして話を聴いているだけの私ですら、そんなことは許しておけないと思う」
    「友人のために怒れるというのは、尊いことだ。
    その人を大切に思っている証だからね」
    【父は頷き、黒檀の魔女に同調する】

    「──けれど、怒りに呑まれてはならないよ」
    【しかし、静かに、諭すように続ける】

    「激情に呑まれれば、それまで見えていた筈のものも見失い、そのままに突き進んでしまう。
    それが良い結果に繋がり得ないことくらい、お前にも分かるだろう?」

    「……だけど……!」

  • 57⑥弧空剣士◆SokSKYnF1223/02/19(日) 23:35:18

    >>54

    「……と、こんなところでござるかな? ……なに?「戦いばかりでは無いか」? それはまぁ……拙者の性質上そうなってしまうわな」


    【ポリポリと頬を掻くサムライ】


    「無論、語り尽くせぬ故割愛したが、ギルドはいつでも騒がしく活気に満ち、面白おかしいことで溢れ返っているでござるよ。それはきっと、セントラリアだけで無く、この大陸だけでも無くて――――」


    【これで締めくくりだ、と言うように息を吐きだした】





    「退屈しないでござるな、この世界は」


    【終わり】

  • 58黒檀の魔女@エンデルリア③23/02/19(日) 23:35:38

    「──お前はどうして、その子の父親を許せないと思うんだい?
    その男が、魔法を悪用しているからかい?」

    【思わず言葉に熱が籠る黒檀の魔女とは対照的に、父はあくまで静かに娘を見据えて質問を続ける】

    「…………それは…………」
    【黒檀の魔女は言葉を切って少し考え、やがて心情を口にした】

    「……エイラさんを……
    ……私達の仲間を、苦しめているから」

    「──そうだろう。
    その男を打倒するというのは、あくまでも『手段』である筈だ。そのエイラさんを助けるためのね。
    お前は、事の本質を見失っていないようだ」
    【父は、少し安心したように微笑む】

    【手段と目的を取り違え、その果てに闇に堕ちた魔術師を、父は何人も知っていたからだ】

    「……そうね。
    我ながら、冷静さを失っていたわ」
    【黒檀の魔女はため息をつき、己の未熟さを実感するように言葉を漏らす】

    【『魔術師たる者常に物事の本質を見据え、冷静沈着に行動するべし』。それが、両親の教えだった】

  • 59黒檀の魔女@エンデルリア④23/02/19(日) 23:36:19

    「………それと、その子はいずれ父親に連れ戻されると思っておいたほうが良い」

    「───え?」
    【続けて当然のことのように父が口にした言葉に、黒檀の魔女は思わず絶句する】

    「それほど執拗に自身に繋がり得る情報を隠すに
    も関わらず、その子をギルドに置いておく……
    となれば、父親にはその子を確実に自身の手元に戻す手段があると見るべきだろう。ギルドの冒険者達ですら防ぎ得ない手段が。
    ……それがどのようなものかは、分からないがね」

    「そんな……それじゃどうすれば……!」

    「──だが、その時こそが好機だよ。
    その手の輩は得てして、取り戻すまでの策は周到に張り巡らせているが、『取り戻した後』のことまでは考えが及びにくいものだ。
    機密保護に自信があるとはいえ、娘を手元に戻したことでその憂いが無くなるとなれば……
    やはり、気が緩むものだろう。
    ──その時こそ、つけ入る隙が生まれる筈だ」
    【父の目が細まり、一層鋭くなる】

    「一度奪われたとて、それは敗北を意味しない。
    『最後に』その子がこちらにいることこそが重要なんだ。
    ……そしてその子もまた、最後まで諦めず、戦うことをやめない強さを持っている。
    お前から話を聞いた限りでしかないが、私はそう思うよ」
    【それは冷徹さと同時に、熱さを感じさせる言葉だった】

  • 60黒檀の魔女@エンデルリア⑤23/02/19(日) 23:37:10

    「最後に……エイラさんが……」

    「………ありがとう、お父さん。
    なんだか、視界が開けたような気分だわ」
    【黒檀の魔女は、父の言葉を反芻していたが、やがて目を閉じ、そして開いた】

    【その表情は穏やかであると同時に、自らの為すべき事を見据えた者の顔でもあった】

    「悩みが晴れたかな?
    であれば、何よりだ」
    【父もまた、穏やかに微笑む】

    「ところで、話は変わるんだが」

    【少しの間を置いて、父がまた口を開いた】
    【今度は、僅かに言いにくそうに】

  • 61黒檀の魔女@エンデルリア⑥23/02/19(日) 23:38:46

    「……どうしたの?」
    【父はしゃがみ込み、テーブルの下にあったものを取り出して載せる】
    【トマト、キャベツ、パプリカ。それは、色とりどりの野菜だった】

    【……何故か手足が生え、ギョロギョロと蠢く血走った眼球がついていて、ギーギーと鳴き声のようなものすら上げているという点で、一般的なものと異なっていたが】

    「母さんが送ってきたものなんだが……
    お前も食べるかい?食べるよね?
    食べると言ってくれるよね?」

    「…………………………………」
    【半ば懇願する父に、押し黙る娘。しばしその場に、気まずい沈黙が流れる】
    【そして】

    「「《戦刃佩いては丘に立つ 肩切る風は勇侠の詩 殊勲の誉れよ 汝に在れ》」」
    【親子が身体強化の言表魔術、〈士魂の祈り〉を詠唱したのは、ほぼ同時だった】
    【脱兎の如く走り出す娘の後を、生者に追い縋るゾンビの如く追う父親。二人は魔術師塔から飛び出していく】

    「待ってくれええええええええ!!」
    「嫌よ!!絶対に嫌!!」

    【夜の魔術学院の敷地内で、親子の追いかけっこが始まった】
    【微笑ましい、親子の時間である】




    【微笑ましい、親子の時間である】

                          【劇終】

  • 62メガキシ I23/02/20(月) 01:27:28

    「まさか、おまえとどうくつたんけんに行くことになるとは思わなかったよ、ネプシア」
    「わたしもよ、シーク くれぐれも……ケガしないようにね」
    「……こっちのセリフだーい まほうが使えないからって甘くみやがって!」
    「いいえ?ばかになんかしてないわよ 力だけじゃどうしようもない状況もあるから、気をつけてねっていったの」
    「やさしさがいたい」

    【眼鏡の魔法使いと護闘剣の騎士!ふたりのこども時代!!】
    【一年生の頃の実技試験……それは試験用の簡単な洞窟の序盤から中盤にかけてを攻略し、『文字読みルビー』を手に入れるという物だったッ!】
    【ペアが自動的に組まれ、ふたりでダンジョンを攻略する!!】
    【メガキシはたまたま同じ組になったのである!!】
    【ふたりの運命は既にこの時点で裏付けられていたのだッ!!!】

    【ところで現在彼女らは】
    「もー!!!なんで右いくんだー!?」
    「こっちの方が早いのよっ!!そっち宝箱しかないじゃないっ!」
    「だからいいんだろー!!なんが入ってるって!絶対いいの入ってるってー!!」
    「そんなのよりもまずテスト合格が先でしょ!それ取らなくてもいいのー!」
    「なんでだよー!なんでだよーネプシアぁー!ネプシアのばかあ〜!!!」
    「あーもーばかって言ったあー!知らない!知らないっ!」
    【ケンカしてた】

    とりあえず投下、頭痛がひどいのでここでネンネ

  • 6310年前の事23/02/20(月) 05:27:27
    10年前の事「どうした?夕食にはまだ少し早い時間だが…む?俺が冒険者になった理由?」

    「そうだなぁ…まあ単純に冒険がしたかったのと夢を叶える為だな、あとそれと…あの人との約束が少し…」

    「あぁ、お前もあった事あるけど…覚えてないのか?」

    「そうか、まあ…話しても構わんが…聞いてて面白い話でもないぞ?」

    「あっそう、じゃあまずは出会いから話そうか。あれは確か……もう10年も前になるのか────」


    【片田舎にある小さな小さな農村、それが俺にとっての世界の全てだった】

    【朝目が覚めたら朝ご飯もそこそこに外へ遊びに行って近くの野山を走り回って昼になったらご飯を食べに一度帰る、午後は父さんの畑を手伝わされたり母さんの家事を手伝ったりしてたらいつの間にか夜になっていてご飯を食べて風呂に入って寝る、そしたらまた朝が来て同じような一日が始まる。そんな日々の繰り返しで村の外に広がる世界の広さなんてこれっぽっちも知らなかったんだ】

    【あの人に会うまでは】


    【出会ったのは西の小川の近くにある小高い丘の1番上、見晴らしが良くて人もあまり来ないからよく父さんから逃げる時に来ていた秘密の隠れ場所だった】

    【景色でも眺めながら昼ご飯を食べようと…
    telegra.ph
  • 64魔女と魔女猫①23/02/20(月) 06:26:32

    【黒い服に明るい黄色のヘアバンドをした小さな魔女が、毛の長いグレーの仔猫を連れて入ってくる。思い出話を尋ねられて、魔女ケイは少し考えたあと話し始めた。】

    去年の黒猫まつりのお話にしようかな
    「ぼくの しらないときの はなし」
    ロンドを呼ぶ前だったからね。
    むかしむかし、私達魔女に魔法を教えたのはマリーンという名前の一匹の黒猫だったんだって。彼は力を持つ女の子たちに精霊様の存在を教え、魔法の知恵を授けた。その時から私達魔女は生涯に一匹だけの猫を持つことになったの

    黒猫まつりはそんなマリーンを讃える秋の終わり頃にやるお祭り。ゲームや食べ物といったいろんな出店があって、祭りのクライマックスにはマリーンの大きな人形を作って山車に載せて、魔女学校のみんなで黒猫のお面を被って山車を引いて歩くの

    『マリーンマリーン 偉大な黒猫
    お茶目な彼はお菓子が大好き
    ちょうだいちょうだい お菓子をちょうだい!』

    って歌いながらね
    「もしかして ハロウィン?」
    ちょっと似てるよね。私も町の外でハロウィンを知ってびっくりしたんだ

  • 65魔女と魔女猫②23/02/20(月) 06:27:47

    私の魔女仲間にすず、ニナ、メルって3人いるんだけど、みんな黒猫まつりを楽しみにしていたんだ。
    とくにニナ。私達全員来年には14歳で、猫を呼ぶことが決まってたんだけど、ニナはその猫にとびっきりの首輪を作ってあげるんだって張り切ってて。
    「ぼく、おうちかえってから けいにふわふわべっどもらった。そんなかんじに?」
    うん、きっとね。魔女は誰だって自分の猫と会うのが楽しみだもの

    そんな中、チェスゲームの小屋の景品にとっても綺麗な布があるって噂が流れてた。出店やゲーム小屋は最上級生たちが運営を手伝うから、毎年ちょっと情報が漏れるんだ
    「しってると しゃべりたくなっちゃうもんね」
    もちろんニナは欲しがったけど、チェスをやったことがなかったんだ

  • 66魔女と魔女猫③23/02/20(月) 06:28:36

    幸い当日じゃなかったし、黒猫のお面は作り終わってた。時間があったからチェスに詳しい先生のところへ連日詰めかけてみっちり教え込んで貰ったんだ。私達、四人全員
    「みんな?にな だけじゃなく?」
    だって、いっしょにやったほうがたのしいでしょ?

    それが結果的には良かったんだよね。ニナ、黒猫まつり当日に熱出しちゃって……
    「そんなあ」
    ニナの落ち込みようったらすごかったよ。ベッドで布団かぶって亀になって、しくしく泣いてて
    だから私もすずもメルもすっごい張り切って、ニナのかわりに景品とってきてあげるから!って
    「けいも おともだちも やさしいな」

  • 67魔女と魔女猫④23/02/20(月) 06:29:28

    ただ私はもう気合入れすぎてガッチガチに緊張しちゃって。テーブル座ったらもうパニックになって。
    どの駒動かしたらいいかわかんなくてさ……
    そしたら小さな声が聞こえたの。「ケイ、落ち着いて。共に在るよ」って、すごーくのんびりした声で。知らない声だったけど、不思議とそれで落ち着いたんだ
    「せいれいさんだ!」
    うん、ロンドと『精霊のお導き』を受けてわかったけど、大地の精霊さんの声だったんだよね……先生に聞いたら、精霊さんは遠い場所じゃなくてすぐそばにいるものだから、良い魔女見習いにはそうやってちょっとだけ導いてくれることがあるんだって

  • 68魔女と魔女猫⑤23/02/20(月) 06:30:11

    それで無事景品の布を手に入れたんだ。妖精さんのひまわり畑で咲いたひまわりを使って染めた、キラキラ星光る鮮やかな黄色い布。
    ただねえ、3人とも同じこと考えてたからニナのところに3つも布が届いちゃって……

    ニナ笑ってたな。それで私達に増えた分の布で色々作ってくれたんだ。
    すずには大きなリボンを。
    メルにはウェストポーチを。
    そして、私にはヘアバンド。
    もちろん、ニナの猫は黄色い首輪を貰ったよ。

    それからずっと、ひまわりの黄色は私達の友達の証なんだ。

  • 691.『青年の話』23/02/20(月) 12:33:45

    「そうそうこれは今からざっと1,000年位前の話。七国大戦、大陸を飲み込んだ大戦争の末期。少しずつ激化した戦争も落ち着いてきた頃の話……アレ落ち着いてたっけ?そこら辺は又聞きなんだよね、だって大陸に関わる様になったの終わった後だし」



    「それじゃあお前はその間何処に居たのかって?そりゃあ海だよ海、母なる海の懐に我らが一族は絶賛逃避行中だったのさ。戦争してる大陸から逃れるように大海原へと漕ぎ出して、細々と生活を営んでいたよ」



    「えっ?どうやって食糧やら水やらを調達したのかって?ほらそこは君、魔法という便利にも程があるすんばらしい技術があるじゃないか。〈着火〉で火を使って〈湧水〉で真水を確保して食べ物は魚だのを釣って食べる。ほら?これで大体イケるだろう?」



    「野菜?ビタミンが偏る?ああそれはうん本当にそうだったね。一応親戚の叔父さんがビタミン剤とか作って配ってくれてたから栄養失調になる事は無かったけど野菜なんてものは知らなかったね。無知の無知、つまり無知って事さ」



    「分かり辛いし意味が重複してる?ごめんねちょっと巫山戯た。心にゆとりを持つのは大切だからね。まあ陸地になんて全然寄らないからその時の俺はこの世の食いもんなんて魚と海藻とついでに珊瑚くらいだろうと思ってた訳よ。珊瑚が喰えるか?味は結構というかメチャクチャ人を選ぶけど俺的にはナシ寄りのアリだった」



    「そん風に平和?多分平和だな、うん。平和に暮らしてた訳だけど此処から本題というか冒険についての話よ。前置きが長すぎる?いやーでもちゃんと説明しないと何かアレじゃん?やっぱ事前知識って大事だからさ、俺的にはそういうのを欠かしたくないのよ」

    いきものがかり 『YELL』Music Video


  • 702.『青年の話』23/02/20(月) 12:35:08

    「まあぶっちゃけると此処から先の話だと文化の違いというか海の男?海の箱入りという樽入り?のショタとして過ごしていた俺目線での冒険になる訳だからある程度注意しなきゃ不味いじゃん?」

    「ほら、この世界ってのは寛容だけど文化の違いも生じやすいからさ。近年問題になってるのが何だっけ?人間の死体しか食べられない種類のグールが餓死防止を求めてレジスタンスやらデモやら起こした問題とか……あっこれはもう随分前の話題?今はもう解決した問題なの?これはお恥ずかしい」

    「いや別に世間知らずという訳ではないんだよね。だからちょっと何かその生暖かい視線は大切に大切に仕舞ってくれると嬉しいかなーって俺思うワケ。いやホントにホントにちゃんと知ってるから今の冒険者ギルドのお偉いさんの名前とかちゃんと言えるよ俺。《監督》さんとか」

    「どうせ変わってないだろうからそれが世間知らずじゃない証明にはならない?それはその通り、君さては結構鋭いタイプだな?いやーまあ実際世間に興味がない本当の話さ。現在も、未来も、俺にとっては然程重要ではない………って言うと語弊があるな。俺にとって何よりも大事なのは過去だ。過去が現在を通して未来へと繋がるという事に俺は価値と、そして意味を見出す。何を重要視するかって話だな」

    「では冒険の話だ。始まりはそう、俺の乗る船に一人の女が漂着した所から始まる。馬鹿みたいな始まり方だろう?どうして漂着したかについてはアイツは一言も漏らさなかったから知らないから話せないんだけどな。しかしまあ大陸から随分と離れた俺達の船まで流れ着いたんだ、壮大な悲劇でもあったんだろうさ」


    「それでもアイツの運はズバ抜けてた。だって広い大海原の中で俺達の船に偶然にも辿り着く程の運だからな。泳いで来たって可能性は無いのかって?アイツ樽ん中に詰められてたからねえな。当然ジャンケンも負け知らずだった、いやでもアレ思い返してみると動体視力使った反則勝ちだったな…………」

  • 713.『青年の話』23/02/20(月) 12:37:06

    「アイツは〈頽廃〉、或いは〈颯風〉と自らを名乗った。後者の方は快活で、小気味良い雰囲気を漂わせる姉貴肌のアイツにはピッタリの名前だと思ったよ。そんな奴だから船団にもすぐに馴染んでいった、異常なまでに風属性魔術を得意とした奴で帆船の効率の良い風魔術を用いた動かし方も即座に開発して教授してくれた。まあ一日ごとに改良版が出されたから憶えるのは大変だったがな………いやマジで。ヤバいのなんのってあのまま続いてたら半年位で俺達は音速で動く帆船団になってたかもしれねえ……………」


    「まあそんなアイツの話をもうちょいするってなると、アイツは『切断』という一点においては他の追随を許さなかった………いやこれあくまで俺視点の話だから当時の大陸でどうだったかは知らねえが。他の風属性魔術、風を起こすだの空気構成操作だのと言った技能は俺でも一生全部をその技能の研鑽と練習に費やしていけば死の間際には爪先には届く気がするレベルだった。でも『切断』は次元が違う、一生どころが千年間の時を全てそれだけの為に費やしても爪先にすら『至れない』と確信出来た」


    「結局結果はどうだったかって?まだだよ。因みにそれ見たのはアイツと同じ調理当番の時だったな。魚の切り身の調理をショートカットしようとしてた、その日の晩御飯はタタキになったよ。まあ魚と人じゃ当然同じ様には行かなかったんじゃろ」


    「それからアイツには大陸についての話もして貰ったな。国を海に変える魔術師だの不死身の騎士だとか溶岩の巨神兵を操る王様とかの話だな。それ聞いて思った事?戦争やべーな海に避難してくれてありがとう御先祖様、だよ」


    「それで、冒険ってのはアイツに連れられて夜に風に乗って音も出さずに船からこっそり抜け出して無人島に行ったんだ。あの時に食べた初めて食べたトマトの味は今も記憶に焼き付いてるさ。初めて食べた野菜で、多分アイツは一回も野菜を食べた事のない俺に野菜を食べさせたかったんだろうな。ソレが冒険。しょぼいと思われるかもしれんが俺にとっては最高の冒険だった。そしてその次の日の朝にアイツは船から消えてた」


    「その後アイツはどうなったのかって?〈腐殺〉と相討ちになったって後に風の噂で聞いたよ。国が一つ頽廃の風によって極限まで切断/分解されて消滅して、一つが未知の疫病と固体でも液体でも気体でもない有害な粒子線で死滅した。それだけだ」

  • 724.『青年の話』23/02/20(月) 12:37:40

    「何故それを話したか、か。普遍的で、下さない感情だよ。誰かに憶えていて欲しい、忘れ去って欲しくない。綺羅星の様な英雄が流星群みたいに輝いては消えていったあの時代で、統計上の数字としてでも、無機質な言葉の羅列としてでもなく。多くの人々に、私の知る彼女の事を知ってほしい」



    「初恋だったんだ」

  • 731.Ms.トライアングル23/02/20(月) 13:38:22

    Ms.トライアングルとコイジャナイ・ライバルが街を歩く
    ライバル「『三遍輪廻・トライアングル』の公演成功おめでとう!余も鼻が高いぞ!」
    Ms.トライアングルが微笑む
    Ms.トライアングルが手元のトライアングルを鳴らす
    トライアングルの音が言葉になる
    Ms.トライアングル『えぇ、あの作品で多くの人にトライアングルの魅力が伝わると嬉しいわ。今回のストーリーであるトライアングル奏者の死後巡りと転生までの物語、妾もかなり上手く出来た気がしているのよ』
    ライバルが深く頷く
    ライバル「流石は余のライバルだ!余も負けてはおれん、早速演奏用のバイオリンの新曲を作曲したくなってきたぞ!」
    Ms.トライアングルが首を傾げる
    Ms.トライアングル『演奏用バイオリンって事は演奏用以外にもバイオリンを使うの?少し不思議だわ』
    ライバルが心外そうな顔をする
    ライバル「御主がそれを言うか!?トライアングルで意思疎通をする御主が!?…………まあ他にも戦闘用のバイオリンを持っているのじゃ!」
    Ms.トライアングルが驚いた様な顔をする
    Ms.トライアングル『楽器を戦闘に使うの!?』
    ライバルが頷く
    ライバル「いざという時の備えだな!余は王族だから、緊急時に備えて武器も携帯するのだが余りにも分かり易すぎると警戒されるのじゃ!何なら御主も戦闘用の楽器とかオーダーメイドするか?」
    Ms.トライアングルが首を横に振る
    Ms.トライアングル『妾は別に襲撃される理由とか無いし遠慮しておきたいわね。トライアングルはあくまでも演奏の為の物であって欲しいみたいな我儘よ』
    ライバルが笑う
    ライバル「そうは言っても劇団パラノイアの団長というのは狙われる理由にはなるんじゃないか?用心しといて損は無かろう!」
    Ms.トライアングルが考え込む
    Ms.トライアングル『確かにそれもそうね……ありがとう。考えておくわ』
    暗転

  • 742.Ms.トライアングル23/02/20(月) 14:51:17

    Ms.トライアングルとライバルが街中を歩く
    Ms.トライアングル『ねえ、貴女の好きな物は何かしら?』
    ライバルが考え込む
    ライバル「うーむ………特に思いつかぬな!それにしても何故そんな質問を」
    Ms.トライアングルが微笑む
    Ms.トライアングル『だってもうすぐ貴女の誕生日じゃない。妾としても、折角の誕生日だから何かプレゼンをしたくて』
    ライバルが愕然とする
    ライバル「それ余に言っちゃって良い奴なの???もっとこう、サプライズとかじゃなくて???」
    Ms.トライアングルが頷く
    Ms.トライアングル『今思ったけど確かにそうね。でもほら、一緒に買うんじゃないのなら当日までどんな者が来るかは分からないじゃない?』
    ライバルはズッコける
    ライバル「き、気付いて無かったのか………それならば種類の多い物が良いな!アクセサリーにしようか、余に相応しいアクセサリーを待っているぞ!」
    Ms.トライアングルが困ったような顔をする
    Ms.トライアングル『センス……難しいわね。どんなアクセサリーにするかちゃんと考えないと』
    ライバルが笑う
    ライバル「才能ウーマンの御主ならば何か良い具合に選べるじゃろうて!いつも脚本家とデザイナーを憤死させてるじゃろ!」
    Ms.トライアングルがガッツポーズをする
    Ms.トライアングル『そう、ね。それじゃあ期待して待っててね』
    ライバル「勿論だ!」
    暗転

  • 753.Ms.トライアングル23/02/20(月) 15:19:32

    アクセサリー店の前でMs.トライアングル物色している

    Ms.トライアングル『どれにしようかしら?』

    後ろから襤褸切れを纏った者が近寄る

    暗転

  • 764.Ms.トライアングル23/02/20(月) 15:32:11

    病室で両腕のないMs.トライアングルとライバルが話している
    ライバルは話しながら紙に文字を綴っている

    Ms.トライアングル「───これにて、『無限歌奏トライアングル』は終劇を迎える。その、すまない」

    ライバル「………なんの事じゃ?余にとっては何も負担にはならない。寧ろこんな脚本を書ける事自体が光栄の極みという奴よ、何も気にする事はない」

    Ms.トライアングル「そ、う。………誕生日プレゼントはどうだったかしら?妾から見ても中々に良いアクセサリーだったから、気に入って頂けると嬉しいけれど」

    ライバル「ああ、最高じゃったよ。………その、不幸だったな」

    Ms.トライアングル「貴女が前に言ってた襲撃されるなんて事が本当の事になるなんて夢にも思わなかったわ。戦闘用の楽器、買っておけば良かったかも」

    ライバル「…………………余がその時」

    Ms.トライアングル「それを考える必要はないわ。仕方のない、もう終わった事なのだから。さあ、早速脚本を劇団員達に見せなければね。今度の公演は───『無限歌奏トライアングル』じゃなくて、貴女の脚本にしましょう。今の私ではもう『トライアングル・シリーズ』は無理だもの」

    ライバル「そう、か。」

    ライバルが項垂れる

    Ms.トライアングル「後一つだけ良いかしら?」

    ライバル「…………何じゃ」

    Ms.トライアングル「次の劇団長は貴女よ」

    ライバル「そんな事、考えたくも──」

    暗転

  • 775.Ms.トライアングル23/02/20(月) 15:33:47

    【『トライアングル・シリーズ』の新作を言伝で代筆して貰った後に、副団長が去った空虚な病室にてMs.トライアングルは足の指でトライアングルを掴んだ】

    「両腕を喪った程度で、病気に掛かった程度で諦められる訳ないじゃないッ!手が駄目なら足でやってやるわ………!」

    【血走った目から涙を溢れさせながら震える雪白の足でトライアングルを掴む。金属の冷たさが伝わるのを感じながら何とかトライアングルで音を出す。余りにも拙い音、昔の様にトライアングルで声を再現するなど不可能に近しいであろう】

    「ゲホッゴホッ………えぇ、パフォーマンスは落ちたわ。でもまだよ、まだ上を目指せる。かつてと同等なんかじゃ満足できない、もっと上へと至ってやる…………!!」

    【咳き込みと共に大量の血を吐く。病が身体を蝕んで、頭がクラクラしてくる。何とか意識を保つ為に奥歯を砕けそうな程に噛み締めて激痛で気付けをする】

    「まだ、死にたくなんかない!まだトライアングルをしてたい!」

    【朦朧として薄れてゆく意識を止める為に叫ぶ、まだまだアイデアが浮かんでくるのだ。死神、レクイエム、そうだ。次は余命宣告された老人の物語にしよう、余命宣告された事によって人生を目一杯楽しむ事にした老人の辿る結末は───】

    「あ───妾、は。………………まだトライアングルがし足りないぃ゛ぃ゛ッッ!!!」

    【視界がブラックアウトする。何も見えない、感覚も薄れてトライアングルの冷たさも感じ取れない。音だけが聞こえる、誰も存在しない静寂だけが】

    【Ms.トライアングルはその日、独りぼっちで涙を流しながらその生命を終えた】

  • 78メガキシ II23/02/20(月) 17:55:57

    >>62

    【幼き頃の眼鏡と騎士の言い争いやケンカは、その後も絶えず起こっていた】

    【今となっては笑い話となる内容も多いが当人達からしてみればプライドに関わる死活問題な訳で、まぁ熱はヒートアップしていくのであった】

    「今のは右足よっ!右足こうげきしないと!」

    「なんでだー!?なんでやっつけたのにモンク言われなきゃいけないんだっ!?」

    「だってケガしてたんだもの!そこが有こうてきなじゃく点になってるのっ!こうりつがいいの!」

    「イイじゃん!べつにやっつけられたらそれでイイじゃん……けっかオーライだよっ!」

    「ダーメー!!今回はたまたまよ!まぐれ、ぐうぜん、ラッキー!いきあたりバッタリなたたかいじゃいけないの!!本当のたたかいでたおせなくなるわっ」

    「……ぐぅ〜…………」

    【ぐうの音は出た】

    【眼鏡の言う事もごもっともであるが、それを素直に聞き入れるにはまだまだ騎士の情緒は幼過ぎた】

    【言い返そうにも、論理をこの言われっぱなし状態で考え付く程冷静でもなかった】

    【そこで騎士の口から飛び出た言葉は……】

    「……い、いいよなっ…………校長せんせいの……むすめは……かしこくてさっ……い、いい血!ひいてんだろっ!」

    「!!!」

    【論点に擦りもしない、負け惜しみの言葉であった】

    【『生まれが良いから賢いんだ、才能があるんだ、自分達とは違ったエリートめコンニャロー』】

    【しかし、その負け惜しみは眼鏡に予想外の反応をもたらした】

    「……ふん………………」

    「あ……」

    【何かを言う訳でも無く、急にソッポを向いて歩き出す彼女の姿に流石の騎士もそれ以上は反論せず、黙ってついていくことにした】

    【そこから先はふたりとも一言も喋らず、ただ黙々とダンジョンを攻略していった】

  • 791.〈求火亡霊〉23/02/20(月) 19:18:52

    【深淵にて一人の鎧武者が彷徨う。〈求火亡霊〉と呼称される鎧に身を包む悪鬼羅刹が自分を上回る強者を求めて刀を抜き放ちて、偶々大陸程の広さを誇る無限牢獄の階層の中でも〈求火亡霊〉の知覚範囲に居た一人の深淵勢へと進行方向上の全てを無視しながら全速力で突撃する】

    『お前は、死か?』

    「ヒャハハハ……ンな訳ねえだろうがよォ!!」

    【相対するは《餐王》。チンピラ等に存在する『ナイフペロペロマン族』の覇種、即ち最上級種。音速を遥かに超えて伸縮し限界射程など無いに等しい上に軌道も自由自在の強靭にして凶悪無比なる『舌』を持つ怪人。加えて『透過』を始めとする異常な特殊能力も持つ比類なき強者の一角】

    「オラッ!!テメェの武器なんて舐められるかよイカレ野郎!!」

    『面妖な………!』

    【音速を超えた速度で衝撃波を撒き散らしながら向かってくる『舌』を切り伏せようと〈求火亡霊〉が刀を振るい、確かに刀の軌道が『舌』を捉えたにも関わらず一切の手応えなく『舌』が無事なまま直進する】

    【本来は《餐王》の『透過』は防具を内側から舐める為の攻防一体の能力。防御を透り抜けると同時に攻撃をも透り抜けさせる凶悪極まりないチカラ】

    『ならば』

    【〈求火亡霊〉がシームレスに鎧の内側に刀身を突き入れて真下へと下そうとする。如何に凶悪な『透過』と言えど、攻撃の際には実体化しなければ透り抜けるのみ。鎧より外側は防御を貫通する為に『透過』しているでろうから無意味、ならば肉を切らせて骨を断ってやろうではないか】

    「甘えんだよこの練乳野郎!!」

    【当然その魂胆は《餐王》にも見え透いている。故に己の肉を削ぎながら断頭台の如く落ちてくる刀を前に『舌』が90°軌道を変えて真横へと直進してそのまま側面から〈求火亡霊〉の内臓全てを刺し貫く】

    「あばよ!テメェと真っ向からやり合うなんざ死んでも御免だからなァ!!!」

    【『舌』が鞭の様にしなって〈求火亡霊〉の肉体を投げ飛ばす。《餐王》は〈求火亡霊〉の事を内臓全てを刺し貫いたとて油断出来ない相手だと認識している。故にこそ戦闘を中断して、足止めの為に確実に時間稼ぎが出来るモンスターが居る地点へと捨て去った】
    【僅か一秒にも満たない小手調べも同然の戦闘の末、《餐王》は無傷。〈求火亡霊〉は内臓全てを刺し貫かれた上で超長距離を投げ飛ばされた事によって肉塊同然になった】

  • 801.〈求火亡霊〉23/02/20(月) 19:19:58

    >>79

    設定だけ作って一切描写ないキャラだったのでこの機にSS投稿

    深淵関連で問題あったら消します

    ※イメージ曲

    【シルヴァリオ ヴェンデッタ】天神の雷霆 15分ver.


  • 812.〈求火亡霊〉23/02/20(月) 19:56:49

    (死ぬのか……?俺は、此処で。)


    【内臓全てを刺し貫かれた上に過酷な深淵の環境を一直線に飛ばされた事によって〈求火亡霊〉が肉塊同然の状態になりながらも漠然とそう考える。ずっと死にたかった。終生の主に庇われて、主が死んだその時から。千夜の慟哭、千年の悔恨。絶望、そして自死衝動】

    【それでも、あの時の約束だけは今も心に焼き付いている。生きなくてはならない、至高たる主の命/イノチと引き換えに得た命の価値は穢してはならないのだから/メイこそ至上命題であり、絶対的に遵守しなくてはならないのだから】

    【起き上がる。綻ぶ命を繋ぎ止める。───そして彼は《火》を見た】


    『これは、火なのか?』


    【火焔を操る悪魔。深淵に現出せし溶炎の魔を前にして〈求火亡霊〉の全てが硬直する。火をトリガーにして主との想い出が美しく蘇る、主の操る色彩豊かな火炎を想起して】


    『違う違う違う違う違う違うお前はあの御方ではないこの火はあの御方の火じゃない巫山戯るなァァァァァァァァァ!!!!!!』


    【刀を抜き放つ。発狂、そう発狂だ。肉塊となった身体が人の形を急速に取り戻して燃え盛る殺意と煮え滾る憤怒によって目の前の悪魔を弑逆せんとそれまでの全てを忘却して奮い立つ】

    【唐突に侵入されて突然逆ギレされた憐れな悪魔が手を翳す。一人の狂いし深淵勢と、深淵に棲まう悪魔の一柱の戦闘が始まる】



    【この30秒の戦闘によって〈求火亡霊〉は17度致命傷を受けながらも勝利、巻き添えとなった周囲の生態系は壊滅まで追い込まれた】

    Burn My Universe - やなぎなぎ(야나기나기) Heaven Burns Red OST 헤븐 번즈 레드 OST 한글 자막 (1장 최종보스)


  • 82二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 20:07:13

    このレスは削除されています

  • 83メガキシ III23/02/20(月) 21:15:51

    >>78

    【ダンジョン内宿泊】

    【支給された結界装置を設置し、中でテントを広げて寝るのだが……どうも騎士は寝付けないでいた】

    【先程の「負け惜しみ」の件が、頭から抜けないのである】

    【硬い寝床の上で、彼は考えた】

    (どうして……あいつは、ネプシアは、あんなにおこってたんだ)

    (才のうのおかげだっていうのが悪かったのかな……)

    (……そうか、そりゃ、そうだよな……おれだってガンバってるし、あいつがガンバってない訳ないもん……)

    【そんな当たり前の事に気付いたその時】

    (……?)

    【微かに、声が聞こえてきた】

    【テントを抜け出し、隣のテントへ向かうと】

    (……ネプシア……!)

    【眼鏡が啜り泣いている】

    「……ぅぅ……ん……」

    「ネプシア…………」

    「!」

    【気付くと、騎士は話しかけていた……そして】

    「……さっきの、やっぱ……謝るよ…………ど力してこなかったみたいなこと言って……ごめんなさい……」

    「……シーク…………」

    【すると、眼鏡は騎士に縋るように抱きついた】

    【動揺する騎士】

    「ネプシア……?」

    【ぎゅう、と力が強まる】

    「ネプシア……さん?」

    【抱きつかれたまま、動けずに暫く経った】

    【そのうち、段々と騎士を抱く力が弱まっていき、やがて静かな寝息をたてて眼鏡が寝てしまった】

    【ぽんぽんと背中を叩くも、寝息のリズムは変わらず、ずっと寝たままだ】

    【仕方がないので、騎士もその状態から横にごろんとなり、眠ることにした】

    【謝ったら、寝れるほどには頭を駆け巡る思いは消えていた】

  • 84燻 1◆tm7Yjj4q2A23/02/20(月) 21:30:40

    【ワインレッドのベストを着た大柄の男がため息混じりに簡素で少し薄暗い木製の壁に手を着く】
    【その視線の先で正座をするのは青緑色の髪の青年。自分の左頬のガーゼを撫でている彼の表情はどこか不満そうに見えた】
    「…本当に反省してんのか、バクハ」
    『へいへーい…してるしてる。そういえば良いんスよね?』
    「目を逸らすな!時期団長候補ともあろう男が観客と暴行沙汰とは何事だ!?」
    『…………』
    「…ったく、都合悪くなった途端黙ってないでわざわざ後始末をする羽目になった俺の気持ちになってみろってんだ。」
    『逆に都合悪い時にベラベラ喋るアホなんているんスか?』

    【…その光景は反抗期の子供に説教をする親そのものにも見えなくはない】
    【実際彼は手のかかる後輩であり、団長である男にとっても極めて厄介な存在だった。ただ、普段はどんなに叱られてもヘラヘラと笑って場を切り抜けていた彼とはどうにも様子が違う気がした】

    「……あの客、チラホラ貴様をエンジニアとしてスカウトしてた企業の営業部だったそうだな」
    『……』
    「殴り合いになる前に何があったんだ。言ってみろ」
    『…どうせ言ったら周りにチクるんしょ?』
    「戯け。今更そんなことバラしても得なんてないだろう」
    「それにバクハ、オマエは俺の弟子であり後輩だ。俺は教官として、役者として、団長として、そんな事でオマエを裏切る真似はしない。神にでも何でも誓ってやる」
    『…………』
    【やがて堪忍したのか、彼は俯き、ふう、と小さく息を吐いた】
    『…アイツ、先生の事バカにしてきたんッス』
    「…俺を?」
    『そうッス。何でも極東出身のヤツだったらしくって、先生のことも知ってたんスよ、アイツ』
    「……………それで?」
    『いつものように「こちらはチケットも買ったんだから客でもある」って理由付けてしつこくスカウトしてくっから、オレいつものように断ったんスよ』
    『そしたらアイツ、先生の事を「領主という立場と家族を捨てて逃げたバカだ」ってバカにして来ました。劇団のことも「所詮娯楽如きに魂をかける必要なんてない」って、侮辱してきました』
    「………」

    『オレはこの劇団もセンセーの事も大好きッス。オレの才能しか見ないヤツよりも皆の方が立派だと思ってるッス』
    『……オレはオレが楽しいと思った事に才能使ってるだけなのに、何が間違ってるんスかね?』

  • 85燻 2◆tm7Yjj4q2A23/02/20(月) 21:30:59

    【…部屋の中に沈黙が溜まる】

    【普段ゲラゲラと喧しく笑い、忙しなく動く奴が黙るだけでもこんなに空気が重苦しくなるものなのかと感じつつも、男は腕を組み小さく首を傾げる】

    【…まあ、彼も人の子だ。喜と楽だけの生命体などそう多くはない。そうしてある程度自分の考えを整理すると、やっと口を開いた】


    「…そうだな。確かに演劇は所詮娯楽のひとつに過ぎん。初めからなくたって、きっと人は生きているだろうな」

    『………』

    「…ただ、”あった方がより人生を豊かにしてくれる代物ではある”と俺は思う」

    「喜怒哀楽を持つ生命として生まれたのだから、より多くの彩りを味わいたいと願うのは当たり前の事だ。それ自体はきっと何も間違っていない」

    『…!』

    「…だが、独りよがりになって怒りに身を任せた点は間違っていたな。それはしっかりと反省しろ」

    『じゃあ…どうしろっつーんスか…』

    「今回の件で覚えておくべきなのは『暴行沙汰は起こさない』ってことだけだ。あとはさっさと忘れていつもの爆発オタクのキサマに戻ればいい。それだけの話だ」

    『……へへっ、そっスね。らしくねーこと言っちまってた気がするッス。サーセンした』


    「…嗚呼、そうだ」

    「今回の劇のアドリブ演出、迫力があって良かったぞ…。俺はああいうの好きだ」

    『………マジっすか?』

    「ああ、マジだ」

    『…っしゃあ!あれ良かったっしょ!?実はアレこの前作った火薬と組み合わせたヤツも考えてて今回はその試作っつー感じでェ!』

    「そりゃあ良い。ただその前に量の蛇口からソフトクリーム出す機能を早く外せ」

    『あ、アレ後輩に「ソフトクリームだけは飽きる」って言われたんで酒も出せるようにしといたッスよ』

    「さらに変な機能を増やすな!!さっさと外すまで帰さんからな!!」

    『ええ〜!?今日飲み会あったのにィ〜!』

    天才ロック/カラスヤサボウ(Vo.鏡音リン)


  • 86メガキシ IV23/02/20(月) 23:10:43

    >>83

    【ダンジョンは既に後半戦だ】

    【朝起きた時は少々気まずかったが、お陰で昨日の会話一切無しの険悪ムードは若干解消された】

    【ちょっとずつ、会話が増えてくる】

    「そこ、ワナあるからこわして」

    「よし」

    「あのテキは火が効くってさ まほうでやってくれ」

    「わかったっ」

    「このテキはまほうがきかないから、剣でおねがいシーク」

    「にげるれん習用のテキなんだよな」


    【進むうちにまあまあ息も合ってくる】

    【現在ほどではないにせよ、この頃からベストパートナーの片鱗は見えているのだ】

    【そして、休憩をはさみつつ数時間後】

    「……あっ、あったっ!!『字読みのルビー』だー!」

    「これを通せば……むずかしい字が読める!本当ねっ!」

    【手を取り、喜び合い、感謝し合う】

    「ありがとう!ネプシア」

    「こちらこそ!ありがとうね、シーク」

    【透き通る綺麗な赤色のルビーを手に入れた達成感と疲労に、ふたりとも背中合わせで座り込む】

    【しばらくして、意を決した騎士が眼鏡に質問をする】

    「……ネプシア きのう……どうしてないてたんだ? どうして、おれにだきついてきたんだ……?」

    「…………」

    「……答えにくい、のか」

    「ううん…………いや、ちょっと話しにくいかも」

    「そっか……」

    「……まあ、でも シークになら話してあげても、いいかな」

    「……ありがとう」

    【眼鏡は、背後にいるシークに語り始めた】

  • 87◆o3WqGw3jjk23/02/20(月) 23:58:19

    (※当イベントスレの終了予定及び関連イベントのお知らせです。こちらでも貼っておきます。)

    https://bbs.animanch.com/board/1619549/?res=14

  • 88メガキシ V23/02/21(火) 00:42:56

    >>86

    「わたし、昨日……イヤなユメを見ちゃって」

    「……あくむ?」

    「うん……おかあさんが、わたしを置いてっちゃうの 走っても追いつけなくて……どこかとおい場所へ行っちゃう……」

    「サイアクなユメだ…… それは、辛いな……たぶんおれだって泣いちゃうかもしんない 

    ……でもさ!家に帰れば……ママ、会えるだろ!夢で会えなくたって……大丈夫っ!」

    「……ごめんね、シーク…… わたし……おかあさん、いないの……」

    「……え」

    「……わたし、『こじ』だって校長せんせいが言ってたの おかあさんも、おとうさんも……わたしには、いない、わかんない……だから、校長せんせいに引きとられて……せんせいのむすめさんだって事になってる」

    「ママもパパも……いない………………」

    (……そっか……!だから、あの時……おれが『いい血を引いてる』なんて言ったばっかりにネプシアはおこったんだ…………家ぞくがいないから……)

    「……」

    「うん、そういうこと…… シーク、きのうは……ごめんね きゅうにおこって……ムシしたりして……」

    【眼鏡の話を聞いた騎士は、目を閉じて俯いた後、顔を上げて眼鏡の手を取った】

    「えっ?なに?シーク」

    「……ネプシア ……おまえ、おれの──

    【その時!】

    【地面が大きく揺れた】

    「うわっ!?」

    「きゃっ!?」

    【ふたりの前に現れたのは、蒼い身体を持つあのプチ・ドラゴン】

    【ダンジョン終盤に巣食う魔物が、ここへやってきたのである】

  • 89メガキシ VI23/02/21(火) 01:10:15

    >>88

    【幼体でありながらもどっしりとした竜の肉体が、帰還用の転移門に続く出口を塞いでいる】

    「うわあ……どうしよう、シーク……」

    「……や、やっつけるしか……ないや…………」

    【疲れた身体を起き上がらせ、それぞれ子供用の杖と剣を持った】

    【information プチ・ドラゴンをやっつけろ!】


    『ごあああっ』

    【幼竜が青い炎を吐いた】

    「ネプシア!!あぶないっ!!」

    「きゃっ!?」

    【騎士が眼鏡を突き飛ばし、青い炎を回避させた】

    【地面に焦げ跡が付いている】

    【騎士の背中も少し焦げている……突き飛ばした際に掠ったらしい】

    「あちぃ……」

    「シークっ!」

    「だいじょうぶだ! ……ネプシア!ガンバろう!!」

    「うん…… ぜったいやっつけて……さっきのつづき、聞かせてよ!」

    【続けて放たれた青い炎を避けるように騎士が高く跳び上がり、石を割るほどの強い斬りが炸裂】

    【眼鏡が上級生にも引けを取らない威力の魔法弾で追い討ちをかける】

    【シッポを叩きつける攻撃にも持ち前の反射神経と運動神経で回避する騎士に、地面を叩きつけたシッポを氷で攻撃する眼鏡】

    【着実にコンビネーションが発揮されている】


    【しかし、いくら天才ふたりでも一年生】

    【実戦の経験は浅く……】

    【眼鏡に青い炎の弾が放たれる】

    【早くて対応ができない】

    「……!!」

    「ネプシアーっ!!!」

    【騎士が飛び込む……】

  • 90メガキシ VII23/02/21(火) 01:42:46

    「……ぐっ……!!」
    【倒れる騎士】
    【左腕を抑えている】
    「……シークっ!!!」
    「……ネプシアっ!!くるな……」
    【ふらふらと立ち上がる】
    (あきらめないぞ……)
    【騎士は決意を胸にしてプチ・ドラゴンを見た】
    (……あいつは、ネプシアは…… たよれるママや……パパがいない…… だから泣いてたんだ……たったひとりでっ……!! よりそえる人が……家ぞくが……いないんだ!!)
    「……だから……おれは!あきらめないぞっ!!」
    【歯を食い縛る】
    【揺れる足を抑え込み、剣を握り直す】
    「ネプシアっ……!おれは……おまえを…………まもるっ!!ひとりにはさせてやらないぞ!!!」
    「!!」
    【騎士の中に勇気が溢れ出し、剣に伝わる!】
    「……行くぞ!《ナイトメアブレイク》ーッ!!!」
    【物凄いスピードで竜へ飛び込み、すれ違いざまに全力で斬る!!】
    【プチ・ドラゴンは堪らず倒れ……その後、大急ぎでその場から撤退した】
    「………………へへ、どんなもんだ……ネプシア!見てたか……」
    【言い終わった後、流石に膝を付いた】
    「シークっ!!!」
    【すぐ駆け寄り、抱きしめる眼鏡】
    「……ネプシア……」
    「カッコよかった……見てたよ……!」
    「上手く、決まっただろ!」
    「うんっ……!」
    「……さ、ネプシア…………つっ……」
    「……さっきのつづき…………聞かせてくれる……?」
    「ああ……
    ……ネプシア おまえ、おれの……おれの…………」

  • 91メガキシ VIII 23/02/21(火) 01:51:56

    >>90

    「……おれの、家ぞくにならないか────」


    「──よろこんで!」

    【ふたりはもういちど、力の限り抱き合った】


    【眼鏡が騎士に肩を貸し、ふたりは転移門を潜って学園へと帰還した】

    【mission complete!】


    【その後ナイトハルト家に快く迎え入れられた眼鏡は、騎士と同じ屋根の下で新たな家族と暮らしていく事になるのであった】

    【数奇な運命を辿るふたりの物語は、これからも続いてゆく……】


    【一年生編 完!】


    【以下、スタッフロール】

    ------------------------------------------------------------------------

    【おめでとうございます! 『二年生編』が解放されました!】


    というフレーバーテキストを交えて終わりです

    長くなっちゃった……

  • 92水使いの中級昇格実技試験23/02/21(火) 11:21:25
    『砂上の徘徊者』砂漠とは、降雨が極端に少なく砂や岩石の多い土地の事である

    植物は降雨が少ない為に殆ど生息しておらず、水分も少なく乾燥している為昼夜の寒暖差の激しい極めて厳しい地形にして気候である

    砂は水をやっても即座に下へ下へと流れてしまう事も加えて普通の農業には適しておらず、砂漠地の中で水が得られる希少な場所であるオアシス付近にしか人間は住めない環境だ


    しかしそんな過酷な砂漠にも逞しく生きる生き物達が居る。サボテンの様に葉の内部に水分を蓄える多肉植物や降雨に反応して急速に成長し花を咲かせて大量の種子を残して短い期間で枯れるタイプの植物などが存在しているし、フンコロガシの様な昆虫や毒蛇や大蜥蜴の様な爬虫類も棲息している


    今回水使いが中級昇格試験の実技試験として冒険者試験官を連れ添って討伐に向かったデスストーカーも砂漠に潜むモンスターである


    砂漠に潜む猛毒持ちの巨大サソリ、単純に人間以上のフィジカルを持つモンスターであるというだけで身体能力に関しては一般人以下の水使いは最初に接近戦という作戦を放棄した


    単純にサソリと人間ではそもそも肉体面での違いが大きい。頑固な甲殻に鋏角に加えて毒針を持つ巨大蠍は言うなればそれだけで完全武装の兵士と同等であろう…
    telegra.ph
  • 931.水使いと焼肉慰め会23/02/21(火) 12:21:13

    【ここまでのあらすじ。実技試験には合格したものの筆記試験で常識不足で落ちた水使いは悲しみの余り娘の澪、友人の騎士見習い、知り合いの町長とアルベルト・レオス、後アルベルトが招待したグレイルニールとアリスと『セイギノミカタ』と共に焼肉パーティーを開催する事になった】

    [水]「あっロースカツ丼追加でお願いしますわです。これ美味しいですね、やみつきになりそうな気がしますわです」
    [澪]「おにく、おいしい」
    [グ]「確かに美味しいですね、このカツ丼というのは。初めて食べましたがとても美味しい」
    [騎]「此処高級焼肉店だよね!?何でカツ丼注文されても出て来るの!?というか高級店とかあんまり行かないから慣れてないんだけど」
    [町]「高級だからね、肉関連の物は大体出されるんだ。というか君だって貴族の出だろう?食べ方のマナーで大体察せるさ」
    [セ]「此処何か邪悪の匂いしないか?」
    [アリス]「気のせいじゃないかしら?あっ豚ロース追加で5皿」
    [アルベルト]「というかお前も此処で位鎧外したらどうだ?焼き肉食えねえし、此処セントラリアだから多分今のお前リビングアーマーだと思われると思うぜ」

  • 942.水使いと焼肉慰め会23/02/21(火) 12:44:07

    [セ]「いや、俺レベルのイケメンになると顔面を晒すだけで御婦人方にキャーキャー言われて黄色い悲鳴を上げさせてしまうからな。公共の福祉の為に封印せざるを得ないんだ」
    [騎]「清々しい程のナルシストでぶん殴りたくなってきたっスね。ぶん殴っていいスか?」
    [アルベルト]「お前の顔面偏差値が高いのは認めるが、此処に居る女性陣を一回冷静になって見てみろ」
    [水]「やっぱりカツ丼美味しいわねです!卵とカツとの抜群の相性に加えてほかほかの白米のお陰で何杯でもいけそうな気もするけど満腹になってきましたわねです」
    [澪]「おにく、すーぷ、ごはん。おいしい、じゅんばん」
    [グ]「料理ってこんなに美味しいのですね……野生に暮らしてた時はこんなに食事を美味しく感じる事はありませんでしたが、これが文明の力……」
    [アリス]「焼肉!!ビール!!うーん、これぞ自由って感じね!」
    [アルベルト]「幼女と幼女と幼女と幼女の姿をしたアラサーだぞ。お前の顔面偏差値とか特に問題ないラインナップだ」
    [アリス]「私だけ仲間外れみたいな感じになってない?っと思ったけど他の娘達は大人みたいに見える精神年齢幼女だから外見詐欺という点では全員同じね」
    [町]「非常に濃い方々で御座いますな。海老の天麩羅と烏賊の天麩羅も食べますかな?」
    [騎]「アンタも大概濃いよ。っていうか海鮮天麩羅とかもう殆どお肉とか関係なくね???お肉要素がもう1ミリもなくね???」
    [セ]「おお、見てたら確かにお腹が減ってきましたね。それじゃあ頂きます」
    [騎]「いやその鎧口元だけ開くんかい!?謎の技術力だしそこまでして顔を晒したくないの!?」
    [町]「人にも事情というものがあるのですよ。下手に詮索して重い過去が出てきた時の気まずさは儂も何度も味わった事があります」
    [セ]「別に重い過去とかはないけど、顔隠してた方が何か強キャラオーラするじゃん」
    [騎]「理由が単純過ぎるし馬鹿過ぎる!!」
    [アルベルト]「お前割と男子高校生ソウルだよな。ノリと勢いとフィーリングと才能と能力で何でもしそうな感じの」

  • 953.水使いと焼肉慰め会23/02/21(火) 13:23:59

    [水]「お腹一杯だわです。デザートのイチゴバニアチョコパフェも美味しかったわねです。やっぱり甘い物は別腹な気がしますわねです」
    [澪]「おいしい。たくさん。」
    [グ]「色々な料理を食べられて良かったです。ルルマリーナの魚料理にも負けず劣らずよ仕上がりでしたし、ラーメン鍋というものには実に驚かされました」
    [アリス]「ラーメン鍋、アレは凄かったわね。いや本当に此処以外だと多分無理だろうし品質としても良く工夫されてて………アレ本当は何百年も研鑽され続けたものじゃないの???」
    [水]「不思議ですわよねです!私もきっとラーメン鍋を開発した人は天才だと思いますわです!それか未来からタイムスリップしてきた人です!」
    [グ]「議論の余地がありますね」
    [アリス]「衝合によってラーメン鍋が発達した世界から来た、って可能性もあると思うわ」

    【女性陣が和気藹々と話す一方で、】

    [町]「人滅はクソ!儂的には一刻も早く滅んで欲しい組織じゃのに思想が本体みたいな所があるから中々潰しても潰しても出てくるのがホントうざったいわい!」
    [騎]「いやーね、殲魔も人滅も闇ギルドも無辜の民に迷惑掛けるのはやめて欲しいっスよ俺も。熱々とパスタとピッザァを頬張りながら愛と平和について語りたいっス」
    [セ]「邪悪は滅ぶべし」
    [アルベルト]「開拓ルートとか移動ルートの近くに基地があったりすると仕事が遅れるし時間も奪われるからもっと人気のない所に基地を立てて欲しいんだよな」
    [町][騎]「「いやでもそれはそれで事態が深刻になるまで気付けない可能性もあるから一概にはそうは言えのよなあ………」」
    [セ]「邪悪の匂いで場所から解らないか?」
    [アルベルト]「それはお前がイレギュラーというか"特別"なだぞ」

    【愚痴を言い合っていた】

    【まあそんなこんなで楽しかった焼肉パーティーも終わり、各々解散して水使いと澪とグレイブニールとアリスは会計の際に飴ちゃんを貰った】

  • 961.探訪の司書 アリエス23/02/21(火) 23:22:11

    幾多の過去を巡り、いつかの時を辿る。

    ——10年と少し、前とは何もかもが変わっている。散歩しようか。

    全身に大量の白毛を纏い、合間から覗く地肌は対照的に真っ黒。巻貝状の角、片手に厚い本を携え、のんびりとしたその仕草。
    不思議な出で立ちの獣人、今回の依頼人アリエス・ハートは……記録を辿ったスクロールを閉じ、放浪熱に当てられギルドを立つと、騒がしい夜道を歩み始めた。

  • 97二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 23:22:46

    このレスは削除されています

  • 982.探訪の司書 アリエス23/02/21(火) 23:24:35

    >>97

    (※コテハンの番号を変え忘れたため消しました)


    楽器店を横目に、大通りへと足を踏み入れる。

    何もかも明るい。街灯が照らす中、老魔女がポーションを売っていた。

    少し先には大きな建物、その前に人が並びざわついている。普段の人混みは嫌い、けれど同じく浮かれているからか、今日ばかりは心地いい。

    近くの喫茶店に入り二三語を交わすと、間もなくしてナイフで切られたケーキと熱いココアが運ばれてくる。

    仲睦まじい人間の親子が隣に席を取り、子供が私の持っていた絵本を指差した。



    何もかもが平和だった。

  • 993.探訪の司書 アリエス23/02/21(火) 23:25:02

    路上で音楽が鳴っている。貴族育ちの子供がピアノか何かを弾いているようだ。甘い恋愛の曲。
    歩き続ける内、既に街の離れになったのだろう。暗く、遠くに山らしきものが見える。もしくはここで幽霊が出たとして、何と言うべきかについて悩んだ。
    酒屋の明かりに、火魔法でもあったか……火薬と焼肉の匂いが夜空にこだますると、不思議と心が温かい。
    吹く風に旅の音がする。向こうから冒険者がやってきて、よそ見していた私はぶつかりそうになる……するりと体が通り抜けた。

  • 1004.探訪の司書 アリエス23/02/21(火) 23:25:54

    気づけば森に来ていた。一輪の向日葵の側に、足の生えたキノコが寝ていた。

    立ち止まって、ここまで聞いたことを考え始めた。
    曰く、冒険者でさえ入れぬ危険があるとか。砂漠や雪山がこの目で見えないところまで広がっているとか。遥か七国時代の英雄も生きているとか。
    人間の風貌もまた違い、ただ切るだけでない剣、無数の魔法と出会いと想い、大小さまざまな竜、果てに遠くに精霊が居て、無数の祭り、楽しいこといくらでも。
    それから、この先も衝合で広がる世界。不思議で飽きない世界。それを考えると、再び胸が高鳴るのだった。

    ……さあ、帰ろうか。まだもう少し、聞いていたかった。

  • 1015.探訪の司書 アリエス23/02/21(火) 23:29:17

    >>100

    【アリエス・ハートは空を見上げ、ギルドへの道を歩き始めた】


    黒魔 - 星が降らない街


  • 1021:ゾンビ娘と生きる鎧23/02/22(水) 01:43:58

    「えーっと……アジト壊滅後に逃げた野盗の残党が、この森に何人かいるらしいんだけど……」
    [──]
    「そうなんだよねー……ただでさえ警戒心強め、そのうえ拠点は地下にあってアリの巣みたいになってるって話!」
    [──]

    【『野盗残党の討伐・捕縛依頼』を受け、ゾンビ娘とリビングアーマーはとある森の入口にいた】
    【地の利は敵にあり、無策で相手取るのは厳しい。故に、一人と一体は一計を案じることにした】

    「それじゃ、私は君の中に入るね。2人組より単身の方が相手の油断を誘いやすいから」
    [──]
    「……あー……いや、正直ムリ。へっぽこ相手ならともかく、今回は多分正面切っては勝てないかな」
    [──]
    「ふふん、そこは私に任せて! 油断を誘う、っていうのは……何も直接戦闘に限った話じゃないってこと!」
    [──]


    『……オイ、アイツはどうだ』
    『悪かねェ。鎧は立派だが、動きが新米丸出しだ』
    『大方、鎧を譲られただけの物と推察。売り払えばそこそこの収入』
    『オイオイ、決まりだな……適当にシメて、ついでに中身も売り飛ばしちまおうぜ、オイ!』

    【森を一人歩く全身鎧を観察していた男たち。如何にも悪党といった風貌の彼らは獲物を定めると、素早く散開した】

    「ふんふふ~ん♪ いやあ平和だねー……ん? ……ええと、どちらさま、で……?」

    【一方の全身鎧は、油断しきった様子で呑気に歩いていた……となれば、奇襲に対応できる筈もなく】

    「えっ……? あ、え? えっ? ……ひ、ひぃっ……!」

    【突然取り囲まれ、全身鎧はあえなく組み伏せられる。そのまま一方的な暴力が振るわれ──暫くして、抵抗が無くなった】

  • 1032:ゾンビ娘と生きる鎧23/02/22(水) 01:44:18

    【……ゾンビ娘が次に目を開けば、そこは窓さえ無い部屋。その中央で、吊られるように縛られていた】

    「…………んぅ、え、あれ? ここは……?」
    『ここは俺たちの拠点。悲鳴一つ漏れない拷問部屋』
    「えっ、あ、ひぃっ!?」
    『オイオイ、そうビビるなって! ちょっと遊ぼうってだけさ……テメェで、だけどな』
    「……!」

    【驚愕と恐怖の表情を浮かべるゾンビ娘の前に、男が一人歩み出る】

    『そーいう訳でよ、ちィとばかり……憂さ晴らしに付き合ってくンねェか、なァ!』
    「ぅぐふっ!?」

    【そして、拳が振るわれる。拘束されたままでは防御も回避も出来ず、そのまま打たれる】
    【殴打、殴打、笑い声、殴打、囃す声、殴打、殴打、殴打、殴打、笑い声──】

    【拳がヒリつくまで殴り、飽きたら交代……そんな時間が続き、数巡はした後】

    『……おォ、もう交代かよ? 次はいつ代わってやれるかわかンねェぞ? ……ひひ、ンじゃ遠慮なく』

    【それまで拳を振るっていた男が離れ、壁際へ移動する。すると男のうち一人が、ヘラヘラと笑いながらゾンビ娘の前へ】

    「……ぜぇ、はー……はー……」
    『よう、随分と頑張るじゃねェの……根性だけはありますってか?』

    【荒く呼吸を繰り返しながら項垂れていたゾンビ娘の頭を、男は乱暴に掴み持ち上げる。そして──】

    「はー、はー……ふふん、アンタたちよりは、ね……!」

    【力なくも口角を上げ、挑発するような目つきで真っ直ぐ前を向く、彼女の顔を見た】

  • 1043:ゾンビ娘と生きる鎧23/02/22(水) 01:44:35

    『……調子に乗ってンじゃねぇっつーンだよテメェ!』
    「ぉぶ、はぁ……っ! はーっ、はーっ……」

    【殴打。その度に、少しずつ景色は霞んでいく】

    『フーッ、こンのド腐れがよォ!』
    「ガッ、は、ァ……ふーッ、ふーッ……!」

    【殴打、殴打。息が荒くなる。それでもゾンビ娘は歯を食いしばり、目の前の男を睨みつける】

    『ッ! ……いい、加減にッ! しやがれってンだ、よォッ!』
    「ぁあぐぅ……ッ! ぅぐ、ぉえ……は、ぇほ、はー……ふー……」

    【殴打、殴打、殴打……最早その痕が付いていない場所が無くなった頃、制止の声がかかる】

    『……オイオイ、あんまり叫ぶなよ……耳が痛ぇし空気が薄くならぁ』
    『ここは地下。音は逃げずに反響、換気も面倒……程々を推奨』
    『はー、はー、ふう……ああ、悪ィ……ついイラっと来ちまってよォ……ふー』

    「……はぁっ……はぁっ……」

    【荒く息を吸い、絞り出すように吐く。薄暗い地下室は、どこか暗く澱むような空気が漂っていた】

    『……この部屋の掃除と換気を提案。なんとなく異臭を感知、錯覚?』
    『はあ、確かにな……ふぅ、ふぅ……』
    『……オイ、いつまで肩で息してんだ。そんなに体力無かったかお前、オイ』
    『あァ? ンな訳……はぁ、ねェだろうが……ふーっ、は、ぁ……』

    【息を荒げ、苦しげだった野盗の男は仲間からの指摘を否定し──直後、意識を手放し倒れた】

  • 1054:ゾンビ娘と生きる鎧23/02/22(水) 01:44:50

    『──ぁ? ……オイ、オイ! どうした、起きろオイ!』
    『何をした貴様!』

    「はーっ、はーっ……何を、したか? ……ふーっ、私は、ゾンビ、だよ?」
    「……毒の、息くらい、はぁ……吐く、でしょ……ふふん」

    『『……!』』

    【なおも荒く呼吸つつも、にやりと笑うゾンビ娘。対して、野盗たちは顔を引きつらせる】
    【空気の汚染は多大な危険を孕む。空気の滞りがちな、隔絶された部屋においては猶更だ】

    『ちっ! オイ、ソイツの処分は後だ! さっさとこの部屋を出るぞ!』
    『了解……ッ!?』

    [──]

    【悪態を吐きながら、野盗たちは部屋を出ようとし──そこに立つ、生きる鎧の姿を見た】

    『な……んだよテメェはオイ! そこを退けってんだ!』
    [──]
    『会話、脅迫共に無意味と判断。強引にt、ゴハッ!』
    [──]

    【生きる鎧には喉も肺も無い。故に毒で汚染された空気の影響は無い】
    【対して野盗たちは既に毒を多分に吸い込み、体力を奪われている】

    【立ち塞がるは無傷の全身鎧、突破を試みるは消耗した徒手の野盗たち。勝負は、戦う前に着いていた】

  • 1065(終):ゾンビ娘と生きる鎧23/02/22(水) 01:45:48

    【あっさり制圧・気絶させられた野盗たちを一旦放置し、リビングアーマーはゾンビ娘の解放に取り掛かる】

    「ふぅ……や、無事だったんだ、ね? いやあ……良かった、よかった……ふぅ……」
    [──]
    「ん? ああ、私は平気、へーき……じゃ、ないかも……はぁ、ふぅ」
    [──]

    【ゾンビ娘の立てた作戦は単純。まず自身とリビングアーマーを獲物として鎧ごとアジトへ運ばせる】
    【自身はひたすら耐えつつ毒の息を吐き続け、相手が弱った所で"ただの鎧のフリ"をしていたリビングアーマーが制圧する】
    【正直なところ、この作戦は想像以上に大きな負担となった。それは肉体的にも、そして精神的にも】

    「そうだね……とりあえず、はぁ、この人らを縛って……ふぅ、衛兵さんの詰所に行って……」
    [──]
    「……そう? ふふん……それじゃ、任せるね……はぁ、ちょっと、休憩きゅうけーい……」
    [──]

    【くたり、解放され部屋の隅に座り込むゾンビ娘。アンデッドらしく体力に自信はあるものの、流石に疲労が勝った】
    【そんな彼女が休む間、生きる鎧は野盗たちを縛り上げる。澱みない動きで、痕が残る程にキツく】

    [──]
    「……ん、もう終わったの? いい手際だね……よし、それじゃ行こっか!」

    【やがて拘束されたボロボロの野盗たちを連れ、一人と一体はその場を後にする】
    【そして得た報酬金で食事を摂ることにし、訪れた料理屋でも一騒動あるのだが──これはまた、別のお話】

  • 1071.海竜の巫女vsシードラゴン23/02/22(水) 04:31:05

    ●推奨BGM:Edge of the galaxy 【音楽素材MusMus】

    Edge of the galaxy 【音楽素材MusMus】

    (やはり龍の姿に戻った方が全体的な出力は高いわね……軽く見積もっても10倍は違う、のだけれど……!!)


    【闘技場で人化の術を解除し、体長29.18m、全長89.31m、体重3939tの古龍の姿に戻って戦う海竜】

    【相手は人化した状態の自身の幻影だ。既に龍の姿と人の姿を入れ替えて数戦し、幻影の練度も上がっている】


    (小回りとなると……人の姿に軍配が上がるのかしら?)


    【自身を包囲する、幻影の自身の『気』を睨みつける海竜。フィールドは森林、海竜の身には辛いステージだ】

    【生い茂る樹木は自身の行動を阻害し、相手の身を隠す。平野で人の姿を相手取るよりも、何倍も骨が折れる】

    【自慢の『気』の探知も、泡魔法に『気』を乗せたデコイによって妨害を受け、上手く働いていない】


    (人の姿で龍の姿を相手取る時に調子に乗って使いまくったからね……闘技場さんにもネタがバレてるかしらぁ)

    (相手がウチ自身でなければ冷気のブレスをばら撒いて、もう少しマシに戦えるんだろうけれどねぇ……!)


    【ひとまず《龍輝砲》を周囲に吐き散らし、逃げ隠れする『気』を攻撃しつつ、森林を焼き払い平地にしようと試みる】

    【依頼で出かけた先や、ダンジョン内部ではとても行えない危険行為だが、闘技場でなら遠慮する必要はない】

    【人の姿の幻影に対し、龍の姿の強み……体力・気力・魔力の圧倒的な出力差を押し付けるのだ!】


    (敵の本体は……右?……左?どっちも奥まった位置に陣取っているけれど……せめて視界が利けば!!)


    【『気』の探知で掴んでいる気配は5つ、そのどれか1つは本体であり、それを見破れれば海竜の勝ちは決まる】

    【しかし……どれが本体であるかは分からない以上、残りの気配に背や横腹を晒す事は可能な限り、避けたい】


    (敵は予想通り、散開・延翼して来てる!何とかして横か後ろを取って手痛い一撃を入れようとしてるわねぇ)


    【《龍輝砲》で敵の侵攻を妨害しながら、じりじりと後退を続ける海竜。敵の気配に包囲される事はリスクが高い】

    【可能ならこの段階で敵の気配の数を減らしたい所なのだが……《龍輝砲》が当たらない、動きが読まれている】

  • 1082.海竜の巫女vsシードラゴン23/02/22(水) 04:31:39

    (まぁ、只でさえ大振りにならざるを得ない龍の姿での《龍輝砲》、発射タイミングも『気』の探知でバッチリ分かる)
    (当たってくれという方が無茶なのはそうだけれど……!!)

    【囲まれた場合の戦術は分かっている、脇腹へ《大爆破魔宝石》による大火力攻撃だ。その弾数は3発】
    【直撃すれば負傷は免れない。即死まではせぬとしても、致命的な隙を晒すことになるのは必定】

    (さっきの戦いは、海竜の幻影のウチに対してそれを喰らわせた上で――傷口に《竜輝漣漣掌》ねじ込んだのよねぇ)

    【自身が攻めている最中は無我夢中で良く考えていなかったが、いざ狙われる側となるとその恐ろしさに背筋が凍る】
    【敵は自身の脇腹に爆弾を叩き込み、傷口に焼け火箸を突っ込んでかき回そうとしているようなものだ】

    (そうならないよう、囲まれる前に後退して距離を――『……デトネイションッ!!』――を゙を゙ッ!?)

    【そんな事を考えながら後退していると、森の中から呪文が聞こえ――自身の直下の地面が、大爆発を起こした】
    【荒れ狂う炎と爆圧が、比較的鱗も被毛も薄く柔らかい腹部へと襲い掛かる。一瞬意識が暗転し、龍の体躯が、揺らぐ】

    (まさか――先回りして地面に埋めた上で、追い込み漁をされていた?――闘技場の幻影との知恵比べに、負けた!?)

    【こみ上げる吐き気と血の臭いを根性で飲み下し、意識を再度戦いに振り向ける。敵がこの隙を見逃す筈は、無い】
    【果たして――『気』の1つが猛スピードでこちらへと向かってくる。これを迎撃出来ねば――死、あるのみ!!】

    (やらせない……自分の幻影に知恵比べで負けたまま、終われるもんですか……ッ!!)

    【かくなる上は止む無しだ、戦闘パターンを、敵の攻撃を受けてしまった場合のプランBに切り替える】
    【放出する『気』を抑え、弱っているフリをする。唸り声をあげて倒れつ、腹の奥の奥には、『気』を溜め込んで】

    「……そこぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

  • 1093.海竜の巫女vsシードラゴン23/02/22(水) 04:32:13

    【自身の幻影が、止めを刺しに来る所へ……龍気を籠めた牙でカウンター気味に喰らい付く。筈だったが――】
    (……泡!?まさかこれも、デコ――『デトネイション!!』――イッ!?)

    【喰らい付いたのは『気』を帯びた泡……中に仕込まれていたのはまたしても《大爆破魔宝石》】
    【口の中で大爆炎が巻き起こり、顎を揺らし、脳を突きあげる。暗転する視界の端に――『巫女』の姿が映り】
    【蒼白い気と、赤い気を同時に纏った黒き長剣が振るわれるのと同時に、『海竜』の意識が途絶えた】

    ………………
    …………
    ……

    「龍:人で10戦ずつして、勝率は凡そ6:4だけど……閉所に限れば3:7で人の姿が有利ねぇ」
    「戦場選択から敢えて海上・海中を外しているとは言え……古龍としてはちょっと考えちゃうわね」
    「とは言え、人の姿にも大きな弱点・課題が残されている、と」
    【幻影闘技場での戦いを終え、結果をメモに記していく巫女。今回の模擬戦で得たものはそれなりに大きかった】

    「龍の姿の方が人の姿を出力で上回るのは予想してたけれど、思ったよりもずっと出力が上がらないわねぇ」
    「と、言うよりも……出力を上げようとするたびに、《人化の術》に上がった出力を横取りされてる感じかしらぁ?」

    【巫女は訝しんだ。人の姿では《人化の術》に出力を取られる為、龍の姿に比べて出力が落ちるのは想定していたが】
    【その落ち幅が想定よりも大きいのだ。その理由を、身体を流れる『気』と魔力の流れから大まかに推測するならば】

    「多分……龍の力が昂る事で《人化の術》の出力が相対的に低くなって解けかかると」
    「それを補うだけのエネルギーを自動で《人化の術》に供給し、変化を保つ回路が組み込まれているのかしら?」

    【巫女は予想する。《人化の術》の術式は母上様に一番念入りに叩き込まれた、天津蛇の一族の生活の基礎である】
    【熟練すれば角や尻尾も完全に隠せ、殆ど完全に人と見分けがつかなくなる術として編まれているのには、理由がある】

    「……人間を島に住まわせ、一部の譜代の血族以外には基本的に正体を明かさずに暮らす為には」
    「戦闘力の発揮よりも、人化の維持の方を優先して編まれている、って事かしらね?」

  • 1104.海竜の巫女vsシードラゴン23/02/22(水) 04:32:42

    【……そう、巫女の使う《人化の術》はあくまで変化の為の術であり、人化した状態での全力戦闘は想定していない】
    【故郷、天津七津島は島国だ。防衛戦時の想定戦場は必然的に海上・海中、仮想敵は異国の上陸用船団になる】
    【そうなればモノを言うのは、天を唸らせ、海を逆巻かせる圧倒的な龍気の出力だ、人の姿に要は無い】

    「とは、言え……無限牢獄の深淵129層を目指すにあたっては、閉所戦闘や、逃げ隠れする事も想定に入れないと」
    「と、なれば小回りの利く人の姿にも利点は多い。だから、なるべくなら人の姿でも全力を出せるようにしないとねぇ」

    【それには、魔術式の改変が必要になる。教えられた技術を、教えられたまま飲み込んで来た巫女には未知の領域】
    【しかし、そこを乗り越えねば実家に帰る事は叶わない。どの道、このままでは先は無いのだ……!】

    「……帰って来るなとは言われたけれど、手紙を書くなとは言われてないわねぇ……?」
    「一度、母上様に手紙で《人化の術》の詳細な魔術式について送って貰おうかしら……」

    【そう呟きながら、巫女はギルドの売店へと向かって行った。昨年の暮れに実家を追い出されてから、初の便りになる】
    【突き返されはしないかと不安になりながらも、意を決して巫女はペンを取った】

    ………………
    …………
    ……

    【――余談にはなるが、『母上様』からの返事の手紙は数日以内に届いた】
    【《人化の術》の詳細な魔術式は勿論の事、実に十数ページにも及ぶ激励の手紙に加え】
    【島で採れる海の幸、山の幸が山盛り詰まった木箱が山のように届き――宿屋の部屋を圧迫したのであった】

    「は、母上様……もうちょっと送る量、考えてくれないかしらぁ!?宿屋の床が、床がぁ……抜けるかしらぁぁぁぁッ!?」
    ミシ……ミシ……ベキッ!!「あっ」

    【完】

  • 111タイトル:未定◆FZj6svE9vc23/02/22(水) 12:10:09
  • 1121水使いと裁判23/02/22(水) 13:32:14

    『此処に於いては一切の偽証は無意味である心得よ。汝、己が無罪と潔白を己が手によって証明するが良い。───では、裁判を始めよう』


    了解しましたわです


    【裁判所。荘厳なる法と律を司りし穢土とは隔離された場所。とは言え傍聴席にも弁護士側にも検察側にも誰一人として人間が存在せず、裁判長として空洞の眼を持つ秤の化身が坐するのみ】


    【真っ当な裁判などでは決してない。というか水使いはメリットとデメリットを天秤に掛けてメリットに偏らない限りは犯罪は絶対に起こさない様に注意している。そして基本的に衛兵による逮捕とそれに伴う社会的地位の失墜は何億G積まれても断りたいと思っている】


    【此処は「法と律」を司る神格の創造した疑似的な裁判所。一切の偽証も欺瞞も許さないという法則に染まりし神域の具現。「司法権力は他からの干渉を拒否する」という共通認識によって極めて堅固な防御力を持つ異界である】


    【水使いが此処に来る羽目になった経緯を説明しよう。ゴブリン討伐を終えた帰り道で山道を歩いている途中、黒い外套に身を包んだ老婆に風船を取って来て欲しいと願われて獣道を通じて森へと進んだ結果としていつの間かこの裁判所に入らされていたのだ】


    『被告人、汝の名前は?』


    水使いと申しますわです。以後宜しくお願い致しますです


    『成程、理解した。被告人・水使いは我が神域の中へと不敬、不遜にも我への敬意なく侵入した。この事実に間違いはないな?異論があれば反論すると良い』


    アナタの領域へ、アナタへの敬意なく侵入したのは本当の事ねです。事実に対して嘘は吐けませんわです


    しかしこれにも、歴とした理由が存在していますわです。私はアナタの領域だと知らずに入った為に、アナタへの敬意を持てなかったのです


    『ふむ、我の存在を知らぬというのも不敬である。だが我の事を知った上で侵入する程の不敬ではない。更に言えば、その責を問うべきは貴様ではなく我への信仰を蔑ろにした存在であるな。では次の質問へと移ろうか』


    【水使いは密かにこの神割と話分かるし偽証かどうかを瞬時に判断出来るしこのまま本当の事だけ良い感じに言ってけば釈放されそうだしチョロいなと思った】

    【VOCALOID x 8】茶番カプリシオ / Capriccio Farce【Fanmade PV】


  • 1132水使いと裁判23/02/22(水) 13:32:52

    『この風船を我が領域に送ったのは被告人、汝か?』

    【水使いは風船程度で罪に問うとかこの神割と心狭いなと思った。風船送った程度で罪に問われるのなら他にも色々小さい罪とか問われそうだしかなり先行きが怪しくなったと半ば諦観しつつも水使いは質問に応えた】

    風船を送った人は私じゃないわです。道端で風船を失くして困ってる人にお願いされて取りに行ただけよです
    なので多分誰も故意で送った訳じゃないわよです

    『成程、被告人は違うか。しかし今の偽証からすればその老婆が故意に送ったという事だろうな。嘆かわしい』


    あっそういうのとか分かるのねです?
    というかその話は私も初耳なのだけれどです。故意に風船を送った後に取りに行かせるとかどういん心理なのかしらねです


    『そういう法則なのだよ。理由なんてそれだけで充分だろう。それにしても塩酸が詰められた風船とは随分と猟奇的だな』


    ────!?!?!?
    (塩酸……塩酸?塩化水素水溶液!?それが風船に詰められていた!?えっあれ強酸性の液体よね何それ怖いあのお婆さん頭大丈夫なのかな?もうボケてない?)

    『紐を引くだけで中身がぶち撒けられる仕組みだったぞ?随分と殺意が高い風船があったものだな。不思議だ』

    えぇ………結構フランクに接してきてる事も驚きですが何か風船に悪意が詰められていてドン引きだわです
    あのお婆さんに何か恨み持たれる事でもしたかしらです?

    『そりゃもう無罪判決を出したからな。もう帰っても構わんぞ、それとも風船を送った老婆の裁判でも傍聴席で聞いてるか?』

    あっそれなら帰りますわです

    【手を振りながら裁判所から出ていく。後ろから聞こえてくる「顔が良くてムカついたから顔が醜くならば良いと思って一番弱そうな奴を罠を掛けただけじゃない何でこんな目に合うのよ!」という声を華麗にスルーして水使いは帰還した】

  • 1141.《狩る者》23/02/22(水) 13:38:36

    「美味」


    【悪食礼賛亭で料理を味わう。見た目は常人にとっては大変刺激だが、味は素晴らしいものだ。珍味であると同時に美味であり、舌先を楽しませてくれる。食事というのは栄養補給ではなくモチベーションの向上面こそが主目的であると《狩る者》は考えている。栄養などサプリメントで幾らでも補給出来るが故に食事を娯楽と同義に考える】


    「食べるか?」


    『拒否』


    「そうか」


    【同伴したハンターズギルドの友人に問い掛けて、食い気味に拒まれる。確かにモンスターの目玉というのは見た目はアレだが、味としては不味くなどない。柔らかい身は魚の白身とも似ている。というか戦場に於いては外見による効果すらも考慮に入れられるのだから、慣れておいて損はないというのが《狩る者》の自論だ。とは言え無理矢理食べさせるのも不本意であろうし、食材に対しても失礼だろうと思って《狩る者》は引き下がった】


    『狩りの前に腹拵えをするのは良いが、何故こんな所へなぞ………』


    「美味いぞ」


    『そういう問題じゃない』


    【大きな狩りの前に気合いや活気を入れる為にメンバーで食事をする事は故郷でもあったなと女は考える。という女にも経験がある、異界を統べる竜達との決戦前には作戦に参加するメンバーと最後の晩餐になると心得て宴会をしたものだ。そういう行為は食事の席にて親交を深めて連帯感を強める事によって実際の戦闘での連携を円滑とするのが目的だが、目の前の相手はどうにも此処は気に召さないようだ。ならばもっと気安い場所に行くべきだったかと女は考えた。例えば酒場の様な所だろうか?それとも庶民食堂が良いか。色々と思索を巡らせながら女は一つ頷いた】


    【公式】悪食娘コンチータ / MEIKO【中世物語風オリジナル】


  • 1152.《狩る者》23/02/22(水) 13:51:32

    「行くか」


    【注文した料理を完食して会計を一括で済ませる。自分が誘ったのだから自分が奢るのが当然だろうし、相手の方は一口も口を付けていないのだから尚更である。女にもその程度の良識はある、友人の新しい一面を目にして少しばかりの嬉しさを堪えながら微笑む。元の世界の戦友ではなく、新しくこの世界に来てから出来た戦友。互いに狩人として切磋琢磨し高め合う存在、同時期にハンターズギルドに加入した同期と久々に狩りをする事に懐かしさと頼もしさを覚える】


    「では〈神獣狩り〉、目的地まで頼む」


    『《月光》と呼びなさい………というか人間大砲されても五体爆散せずに済むとか貴女本当に人間かしら?』


    【店を出た後に、彼女によって矢"として"番られ、一直線に射出される。海水を操って塩害を発生させる深海魔龍、海の奥深くに潜む狡猾なる邪龍を討ち滅ぼさんと憤怒に猛る竜殺しは肉体に掛かる尋常ではないGを気合いと根性と素の耐久力で耐えながら刀を握り締めた】


    【無闇矢鱈に竜を殺すつもりはないが、人に害を為す竜を殺す事への躊躇いも存在していない。竜によって殺された故郷の人々の無念を背負って戦い続けた頃と変わらずに、竜殺しは血に染まりながらも弑逆を繰り返す】


    【人の身でありながら竜を墓場へと送る者。数多の竜の屍を乗り越え、数多の戦友の屍を踏み締め、血を浴びながら邁進するハントマン】


    【世界を喰らわなかった、喰らえなかった第七の龍】


    【Kagamine Rin・Len ft. MEIKO】Master of the Graveyard / Graveyard Party【Fanmade PV Remake】


  • 1163.《狩る者》23/02/22(水) 14:24:26

    【海底にて、一人の女と一匹の龍が相対する。水圧に耐えながら息を堪えながら刀を構える女に、油断なく爪と尾と顎門を向ける深海魔龍。深海魔龍にとっては油断など出来よう筈もない、深海を潜みながら海水を操って塩害を発生させる事によって被害を与え続けるのが基本戦法の臆病者にして慎重なる狡猾な龍だからこそ深海まで辿り着く敵の脅威をこの上なく正確に認識する】


    「《修羅の貫付け》」


    【初撃。戦闘開始と同時に振るわれた薙ぎ払いは並みのモンスターなら一撃で絶命する程の火力であるが、龍にとっては致命傷になり得ない。水の中で強引に振るわれた斬撃を俊敏に游いで回避して龍尾が振るわれる】


    「《黒鋼の吸気》」


    【身を屈めて攻撃を回避した女が呼吸の仕方を変えて気を練り、少し肉体強度を上げてゆく。とは言え使ったばかりであるが故にその強化幅は低く、更に深海魔龍が一刻も早く仕留めんと爪を上から墜とす】


    「《赤火の呼気》」


    【横へと水を蹴って強引に回避する。先程と同じ様に気を練り、然れども今回は防御面ではなく攻撃面を強化してゆく。練った気を少しずつ刀に流して、切れ味を鋭く磨く。爪を回避された魔龍がそのまま海底を抉りながら横へと掌をスライドさせる】


    「《影無し》」


    【爪が女に触れるよりも速く刀が抜刀されて振るわれた一撃が龍の指へと直撃して爪を弾く。それと同時に上、即ち陸上から女の仲間が放った魔力矢が魔龍の腹に命中するが、鱗に着弾すると命中に溶ける様に掻き消える】


    「《崩し払い》」


    【一瞬だけ魔龍が魔力矢に注意を向け、しかして特にダメージも与えられなかった事から目の前の女よりも優先度が低いと判断する間に女の放った斬撃が魔龍の鱗を切り裂いて海へと龍の血が流れ出る】


    「《モミジ討ち》」


    【海水が傷口に染み込んだ事によって激痛を味わいながらも僅かな乱れもない動きで魔龍が女へと尾を振るって弾き飛ばす。骨すらも砕きかねない一撃であったが、事前に気を練った事によって罅が入る事はなく更に放たれた火を纏った一撃によって太腿を切られ火傷を負う】


    「《フブキ討ち》」


    【太腿の痛みに躊躇する事自体が命取りに繋がると理解するが故にそのまま魔龍が太腿で女を圧死させようとするが、氷を纏う回転切りによって離脱される】

    7th DRAGONIII code:VFD「ChRøNiClESeVeN」


  • 1174.《狩る者》23/02/22(水) 15:14:31

    【とは言え一時魔龍の太腿によって圧迫された事によって水圧に加えて何度も強引に移動した事も相まって肉体への負担が練気による肉体強度強化を上回って身体が軋む】

    「《練気手当》」

    【故にこそ更に気を練る事によって応急処置程度とは言え少しだけ回復して耐久戦に備えようとする。魔龍がブレスを吐こうとした所で魔力矢が胸と両眼に命中して、ダメージにこそならないが目眩しをする】

    「《刃下のリアクト》」

    【戦闘行為を息継ぎを挟まずに行った事によって酸素も少しずつ不足してくる。故に動きが鈍り、そこに魔龍がブレスを放つ。魔龍のブレスを回避出来ないまま真っ向から受け止めた結果として身体の至る所に裂傷を生じさせる】

    「《不動居》………!」

    【ブレスに直撃した事で気を練って防御力を上げて居たにも関わらず、大幅な損傷を受けて追い詰められながらも女が刀を構える。それに対し魔龍は更にもう一度ブレスを放つ構えを取る。女が魔龍を殺すよりも速く女を殺せると判断して、勝利を確信して笑みを浮かべた魔龍が】

  • 1185.《狩る者》23/02/22(水) 15:15:20

    『《炸裂せよ》』

    【地上にて魔力矢を放っていた女の仲間による起動言語によって肉体に浸透していた魔力矢の魔力が爆発する。腹が抉れ、眼を奪われて胸を起点として心臓が二つ破壊される。魔龍が魔力矢に注意していれば矢の魔力が海ではなく己に浸透していたと気付けただろう。しかし《狩る者》という特大の脅威と相対してが故に、気付けずに隙を晒した。今まで討伐され無かった恐るべき魔龍たる《死海を統べる狡賢》を、相手のフィールドで仕留める為には《狩る者》も《月光》も両方不可欠であったのだ】

    「《十六手詰め》」

    【抜刀し、神速の一閃が深海魔龍の三つ目の心臓を断ち切って破壊する。それに対して深海魔龍が忌々しく顔を歪ませながらブレスを吐こうもする。既に相手は刀を鞘を納めた、対して自分にはまだ最後の心臓とブレスを吐く為の肺が残っている。心臓を再生させるには多くの時間が必要だろう、暫く隠居しなければならない。だからこそ、その様な状況に追い込んできた目の前の敵は確実に滅殺せねばならないとブレスを放とうとして】

    「詰みだ」

    【遅れて届いた数多の斬撃によって最後の心臓も破壊され、堅牢なる龍鱗も切り裂かれてその骸を海底に晒した。ただ主の復讐の為に生き続け、その海水操作能力で以って塩害を起こし続けた執念の従龍/フォロワーは此処にその永きに渡る生命を散らした】

    「…………………」

    【復讐の為だけに生き続けた龍の最期を見届けて、女は自らの過去と重ね合わせる。家族を、友人を殺された復讐の為に奔走する日々だった。或いは元の世界に於いては深海魔龍こそがドラゴンにとっての女だったかもしれないとも思い、そして息継ぎの為に静かに深海魔龍を背にした水面へと游いでいった】




    おのれ千文字制限…………

  • 119一. 遥か未来に生きるあなたへ23/02/22(水) 21:45:01

    【録音開始】

    「まだ生まれたばかりのあなたへ、少ししか顔を見てあげられなかった母親でごめんなさい」
    「目覚めたあなたに、私の声が伝わっているかは分かりませんが、拾ってくれた誰かのためにこれを残します」

    「私の名前は〈祀緒〉」
    「極東と呼ばれるこの国に古くから奉られていた神の末裔で、あなたの母です」
    「そして、あなたの父親は〈創芽〉という方でした」
    「彼もまた、この国を支える『護天導祖』と呼ばれる方々を育ててきた立派な血族の末裔です」
    「そんな私たちの間に生まれたあなたは、きっと強く、逞しく育っていくのでしょうね」
    「私も……未来に歩んでいくあなたの姿を、間近で見ていたかったです」

    「今、この極東は長きに渡る戦の血気に支配されています」
    「極東を守護する護天導祖たちですら、この争いを止めることはできませんでした」
    「そんな時代に、私たちはあなたを世に送り出してしまいました」
    「あなたが生まれたのが、この時代でなければ……なんて毎日思っています」
    「でも……初めて彼と一緒にあなたと会った瞬間は、この短い人生の中で一番幸せな一時でした」

    「どうか生きて、生きてこの世界の真の姿を見てください」
    「私は……母は離れていても、あなたをずっと見守っています」
    「最後に……生まれてきてくれてありがとう、あなたのことを世界中の誰よりも、愛しています」

    【録音終了】

  • 120二. 遥か未来に生きるあなたへ23/02/22(水) 21:47:20

    >>119

    これで……いいかなぁ……

    最後の最後に母親っぽいこと、できたかなぁ

    【戦場を憂う白菊のように、彼女はその場に在った】

    『終わったか?祀緒』

    【戦帰りのように返り血に染まったジャケットを着こなす義手の男は、家屋の中で赤子を抱き抱えた白き女性に問いかける】

    ええ、〈臨導〉さん

    ……最後のお別れは済ませました、息子を早く安全な場所へとお願いします

    『ああ……任された、お前はこの後どうする』

    ここに……家に留まります

    永らく生きることも、もう……出来ませんから

    『〈創芽〉の遺志を優先したかったが……アンタにそう言われたら、こっちは引き下がるしかねぇな』

    『……だったら最後に、もう一度息子に挨拶するか?』

    ……時間はある?

    『無くても作るさ、次期護天導祖を甘く見るなよ?』

    ふふふ……ありがとう、じゃあ最期に我が儘を言わせてもらうね

    『ああ、ゆっくりと……そいつの顔を見てやってくれ』

    【そう言うと、〈臨導〉は赤黒い刃を再び手にとって戦場へと戻っていった】

  • 121三. 遥か未来に生きるあなたへ23/02/22(水) 21:49:43

    >>120

    本当に……かわいい子だなぁ

    神の血が入ってるなんて、分からないくらいに人として生きてる

    【赤ん坊の胸に優しく手を当てて呟く】

    やっぱり、成長したらあの人にそっくりになるのかな……でも、目は私にそっくりで……夜空の星みたいに輝いてる

    【母親がくすぐるような目線で自分を見つめてくるので、赤子は無邪気にキャッキャッと笑った】

    あ……笑った

    ………………本当に、ごめんね

    ああ、もうお別れは済ませたと思ったのに

    【もう……私の一生はここで終わりだと思ったのに、どうしても生きたいという感情が芽生えてしまう】


    やっぱり…………まだ、この子の側に居たいなぁ……

    どうして、私はもう生きていられないのかなぁ……!

    【涙が溢れ、零れ落ちる】

    【生きたい、私はまだ生きていたい】

    【親じゃなくてもいいから、どれだけ嫌われてもいいから、ずっとこの子の隣で生きていたい】

    【そう思うと、涙が止まらなくなってしまう】


    あっ……ごめんね、悲しそうな顔をしないで

    お母さんも、もう泣き止むから……ね?

    【女性は悲しそうな目で見つめてくる赤ん坊をあやす】

    【そのときに、ふと思い浮かんだ】

    そうだ……名前、名前をつけないと

    ねぇ、小さいあなた……彼、お父さんの一族はね

    神々から新しい名前を授かる特別な一族でもあったのよ?

    極東の護り手に相応しいと認められた証拠として、名前をもらっていたの

    それでね、あなたのお父さんの新しい名前をつけた神様は……私のお父さん……つまり、あなたのお爺ちゃんなの

    だから……あなたには、お母さんが名前をつけてあげるね

    【小さな手に指を重ねると繋がりを感じる】

    【この子の母親として、最期にやるべきことをやらなければ】

  • 122四. 遥か未来に生きるあなたへ23/02/22(水) 21:51:26

    >>121

    私の願いはひとつだけ

    こんな争いだけが存在する偽物の世界に囚われないで、もっと自由に……誰よりも自由に生きて

    そうして……世界の果てまで見渡して、あなただけの世界を、「本物の世界」を生きなさい

    お父さんと、お母さんの分までね


    【再び義手の男が家へと来訪する、今度は鬼気迫った表情で二人に声をかけてくる】


    【だが、母親は息子だけを男に預けた】

    ああ……時間が来ちゃったみたい……

    今度こそさようなら、私のかわいい息子

    あなたの名前は……

    【戦火によって焼け崩れていく家屋の背に母は立ち、幼き息子は遠く離れていく母の姿を請うように泣いた】

    【しかし……母親はただそれを噛み締めるように、静かに見守っていた】


    生きてね、〈創真〉


    【赤子が手元を離れ、完全に自分の視界から消えるその瞬間までずっと、母はその旅立ちを見送った】

    【遥か先に来る、息子の幸せな未来を信じて】

  • 123五. 遥か未来に生きるあなたへ23/02/22(水) 21:53:55

    >>122

    泣くな…………〈創真〉

    【泣き止まない赤子の額に、〈臨導〉は優しく手を乗せる】

    【すると子どもはゆっくりと目を閉じ始め、完全に眠りについた】

    ……生きろよ、坊主

    お前はこれから、この山の最奥で何百年と眠ることになる

    だが安心してくれ、お前の命は俺が必ず守るからな

    【祠のような洞窟に、幾千もの特殊な結界を張り出して赤子の時を止めるようにその場を防ぐ】

    ……いつか、また会える日を楽しみにしてるぜ

    その時は酒でも……って、まだ早いか

    ……じゃあな創芽、祀緒

    安心して、眠ってくれ…………


    【これは、とある冒険者が冒険者になる前の】

    【遥か昔の物語である】


    God Eater 3 - God and Man 神と人と (Japanese version 日本語) by yu-yu


  • 1241. おひつじ座のアリエス23/02/22(水) 23:25:29

    数多の記録を辿りながら、獣人は……アリエス・ハートは空を見上げた。
    遥か遠くに星が瞬く、誰のものでもない空を。
    セントラリア、冒険者の街。
    多種族が集い、英雄が歩く眼下の景色は、こんなにも美しい。

    「皆さんの物語、楽しませて頂きました。どれも素晴らしく心躍るものであり、未来に遺すべきものと言えるでしょう。子供たちにこれを聞かせる時が今から楽しみでなりません」

  • 1252. おひつじ座のアリエス23/02/22(水) 23:25:54

    「ただ1つ心残りがあるとするなら……こんなにも雄弁な冒険、それをこの目で見たいのです」
    【羊の獣人、アリエス・ハート。】
    【彼女が祈るように手を合わせ、俯くと】
    【ふわふわ、もこもことした羊毛はその表情に影を落とし、白目がどろりと渦巻いた】
    【ただ闇の中、黒がある】
    【月を背に立つその姿は、まさに……】

  • 1263.レイドボス・アリエスハート23/02/22(水) 23:28:08

    >>125

    「聞くところによると、このギルドには闘技場というものがあるそうですね?」

    【END】

    黒魔 - Dark Sheep


  • 1271『前日譚』◆UwIgwzgB6.23/02/23(木) 10:59:41

    【世界と世界を繋ぎ包括する場所】
    【漆黒の空に鈍色に輝く床、そこに立つのは四人と一柱】

    「とうとうテメェと決着をつける時が……来た!」
    【白髪黒眼の美少年、私の想い人である「アイツ」が右の拳を握りしめ】

    あぁ…あのむかつくヤツをぶっ飛ばして……早く『あの世界』へと行こうぜ!
    【私はその隣で左の拳を握り、目の前に立つ憎き邪神へと不敵な笑みを向け】

    〘人類全員の『理想』の概念への同一化、及び『あの世界』へと逃がす準備は終了した。あとは……私達にかかっているのだよ!〙
    【その横で銀髪蒼眼の美少女が腕のブレードを蒼く輝かせ】

    『んふふ……ついにあの性格終わってるヤツをぶっ倒すのね……13万年前からの因縁、今度こそ…断ち切ってやるわ!!!』
    【その後ろで黒髪紅眼の美女、私達の師匠が辞書を模した大剣を構え】

    《くふふ……ふふ…あはははははは!!!"とうとう"はこちらのセリフだ……再び貴様等を混沌へと堕としこんでやろう!!!
    我、虚実と混沌と負の概念の邪神■■■■■は今度こそ……念願である異世界の侵略を遂げる────!》
    【私達の目の前に立つ、金銀二色の長髪に濁った金色の瞳の一糸まとわぬ美しい女の姿を模した悍ましい邪神が吼える】

    「させるかよ…テメェはここで……」
    「〘『俺(私)たちが、倒す!!!!』〙」

    【私達の、最後の戦いが始まった】

  • 1282『前日譚』◆UwIgwzgB6.23/02/23(木) 11:03:30

    【──あれからどれだけ戦っただろうか】

    「ぐ…ぁ……ここまでして…まだ足りない、のか!?いや……勝ってみせる……!」
    【白髪とその美貌を血に染め、「アイツ」が地に這いつくばり】

    ゲホッ……ヤツも消耗しているはず…その証拠に、当たった攻撃の無効化を随分前からしてきてない……今がチャンスだ!
    【私は指先も動かせないほど体力が尽き】

    〘ッ……エネルギーが吸われている……補填が間に合わない……だがッ!キサマを倒すのには十分なのだよ、■■■■■!〙
    【美少女の蒼眼は明滅し、銀髪は先の方から灰色の粒子になり】

    『ふふ……もってあと2分ってとこね……でも、あの時と同じく行くとは思わないでほしいわねぇ!』
    【身体に入る無数のヒビを庇いつつよろよろと立ち上がり、黒髪紅眼の美女が啖呵を切る】


    《くふふ、ふふ……この我をここまで追い詰めたこと、称賛してやろう!だがァ!しかしィ!》
    《貴様らの努力もここで再び虚構と、夢と化し、その体と魂は我のモノになる!あぁ、自我だけは保っておいてやろウ……》
    【満身創痍の私達を見て、自らも無数の傷から混沌色の蒸気を噴き出しつつ】
    【なおもヤツは、その手を広げ】


    《良かったナァ!我にかかればキサマら念願の異世界転生ができるゼェ?ただし、転生して見るのは現地民がキサマら自身の手によって虐殺される、阿鼻叫喚の地獄絵図だがなァ〜〜〜!!!》

    "IDEANIC, CHAOTIC, IMAGINATIC!!! DROP OUTTED FROM THE PARADISE──Adios!!!"
    【その豊満な胸の中心、電源マークを豪華にしたような紋章から放たれるのは────彼女が持つ権能の全てを込めた、無色の光線】

  • 1293『前日譚』◆UwIgwzgB6.23/02/23(木) 11:07:55

    「〘『………俺(私)たちがしたいのはそんなことじゃない……テメェの掌の上じゃない、自由な『あの世界』への転生と……』〙」
    【まだ、諦めるわけにはいかない。人類の存亡がかかっているのだから】
    【私達は震える足で地面を踏みしめて立ち上がり、血に塗れた手で胸の紋章を押すとともに再び拳や武器を構え──駆け出した】

    "GEOMETRY...!!!"
    "BIO...B-BIO..."
    "IDEA, TRUTH-JUSTICE-BEAUTIFUL..."
    "HUMAN!!!"

    """"GRADUATED CEREMONY!!!!!!""""

    「〘『その世界で、全ての種族が自由になる未来を作る……ことだ!!!!』〙」
    【純白の図形を纏いし「アイツ」の右の拳が、凝縮された金と緑のオーラを纏った私の左拳が、あの子の蒼く輝く腕のブレードが、師匠の折れたはずの紅く光る大剣が、順番に禍々しき不可視の奔流と激突し、放った本神へと押し返す】
    【そして──】


    《な…何ぃ!?ぎゃああああぁぁあ嗚呼嗚!!??!?》
    【満身創痍の邪神へと突き刺さり、その肉体を浄化する!】

  • 1304『前日譚』◆UwIgwzgB6.23/02/23(木) 11:10:30

    《くふふふふ……そうカ…我もここで終わるのカ…なラ──》
    【しかし……浄化され完全に消滅する寸前、首から下を光に融かされながらも、混沌の邪神はヒビが入った顔に意地悪い笑みを浮かべ──】


    《アフターサービスは完璧に、だ》
    【その瞬間、同時に複数のことが起こった】

    なッ……■■■!■■■■!■■■!くっ……破れない……!?
    【まずは空間の断裂】
    【崩壊する邪神を中心に透明な壁が広がり、私達は一人一人分断された】 


    【次に邪神の魔眼から放たれた、強力な呪い】
    〘なんdぐぁぁぁぁ……!!!〙
    【銀髪蒼眼の美少女は見たことのない巻物に封印され】

    『ッ……強制的に戻s』
    【黒髪紅眼の美女は紅い円筒に】

    【そして最後に──忘れもしない】



    「な…一体n《一緒に消滅しようぜ★
    【「アイツ」の『二度目の死』】

  • 1315『前日譚』◆UwIgwzgB6.23/02/23(木) 11:16:06

    なぁ…■■■ォ!!!》なっ…■■■■■……!?」
    【突然の出来事に困惑しているアイツの胸元の紋章が、不気味な嗤いとともに混沌色の刃に裂かれる】


    「■■!■■ーーー!!!」
    【アイツが真っ二つにヒビ割れながらその手を伸ばす】

    ■■■!まだだ…私の《超回復》なら例え爆散して肉片だけになっても間に合うはず……届けぇぇぇェェェ!!!
    【私もありったけの力を込めて腕を伸ばす】
    【腕や指を触手とツタに変え、必死にアイツの手に触れようとする】
    【空間の壁はいつの間にか消えていた】
    【だが】

    《させないよ★ SEE YOU AGAIN──》
    「■■─────
    【背後の邪神が存在の消滅を早めるのと引き換えに放った念力によりアイツの身体がわずかに引き戻され】

    【私の手が、空を切った】
    【閃光。全身に衝撃が走る。空間が断裂し、私達は裂け目に放り出された】

    【最後に見たのは、満足気に消えていく邪神と……絶望の表情を浮かべながら光の粒子と化す、アイツの顔】

    おのれ……おのれ■■■■■…………!!!

  • 1326『前日譚』◆UwIgwzgB6.23/02/23(木) 11:23:16

    はっ…………夢、カ……
    【ギルドの宿泊施設、ベッドからガバリと起き上がる。汗は蒸発したあとに緑色の粒子に変わり、少女の周りに光の霧を作っていた】

    ……今日の夢は、記録しておこウ……
    【服を生成して纏う。緑色のローブの端を整えると、少女はスクロールを手に取り起動】
    【トットッというスクロールをいじる音が響く……】


    ……と、言うことがあったのダ……今は師匠もあの子も戻っているがナ!
    【ニヤリと笑ってウインクするのは緑色のローブを纏った茶髪緑目の美少女】



    後はアイツだけダ…必ず…とは保証できないガ、蘇らせてみせるゼ!

  • 133『"深淵憑き"』23/02/23(木) 17:33:52

    【一匹のデミドラグウェアウルフが居る。無限牢獄下層に棲まう爪と顎門を武器とする比較的弱いモンスター。無限牢獄下層の生態系では非捕食者に分類される人狼】
    【蹲っている。蹲りながら鉤爪で背中を引っ掻き裂いている。皮が剥がれて肉が抉れて、少しずつ血の匂いが充満する】
    【ぺり。ぺり。ぐしゃり。ぽとり】
    【太腿の血管が勢い良く脈動する。心臓が鼓動を早める。過剰魔力による肉体組織の融解と崩壊に伴う不安定化によって鉤爪が背中と癒着する】
    【どくん。どくん。ぐわん。ぐわん。】
    【頭部が耐え切れずに黒い液体となって地面に零れ落ちて拡がってゆく。そして頭部が在った部位の断面から"蛇"が生えてくる】
    【ぐちゃ。べちゃ。からん。ころん。】
    【双つの太腿から細胞がアポトーシスによって崩壊した成れの果てたる黒い液体を羊水の様に被った頭部がそれぞれ生えてくる。牙は鋭く、皮膚は鱗に覆われている】
    【そして全ての変異が終了し、出来損ないのオルトロスの如き姿となった狼は心配気に此方を見詰める同族の喉笛を喰らい千切り嘆きと苦しみを嗤いながら人狼を殺戮する宴を悦んだ】



    【深淵を覗き、深淵に魅られた獣の末路】
    【反転せし亜竜人狼の辿った結末。龍の残火漂いし深淵の魔力の欠片によって新生せし魔獣】
    【哀れで、悍ましい其れは最早理性など残してはいない。足と、頸だけの異形の獣と成り果てた。成り果ててしまったが故に】
    【深淵とは恐怖の地だ】
    【深淵とは絶望の満ちる階だ】
    【自我を喪い、尊厳を失い、そして強さだけを遺して朽ち果てた獣の屍がそれを証明するだろう】
    【堪え難き牙の疼き、本能だけが狂い叫びて肉を喰らえと喚き出す。我欲に溺れて穢れて二頭狼は虚しく闇へと悪性を吼える】

    【邪なるデミドラグウェアウルフ──"リバース"】


    【『深淵を覗く準備は出来たかい?』】
    (※イメージ曲は『てんしょう しょうてんしょう(きくお)』ですが背景の絵がかなり不気味なので此処では載せません)

  • 1341.彼女たちの理由23/02/23(木) 17:40:40

    血染めの根鬼がダンジョンを歩いていると、水切りの石の如く地を跳ねながら、冒険者がふっ飛んで来ました。

    「ワーッ!?『吸血界:三途の霧』!」

    とっさに結界術を発動。「吸収」の特性を持つ赤い霧が広がり、衝撃を吸収して冒険者を受け止めます

    「全身傷だらけ……魔物!?罠!?どっちでもいいや!ちがうどっちでもだめだ!今すぐ治さないと!」

    気絶している冒険者を根っこで抱き抱えてわたわたする根鬼。
    そこへぶっ飛ばしの張本人、ハンマーテールワイバーンが飛来しますが……

    「今ちょっとキミの相手してる暇ないの!!!!」

    音速で伸ばされた根っこがワイバーンに突き刺さり、その生命力を吸い取って絶命に至らしめました。

    「はっ!そうだ、これ使っちゃおう!ちょっとチクっとするよー……」

    根鬼は冒険者の腕に根っこの先端を刺し、ワイバーンから吸収した生命力を流し込みます。
    冒険者は一命を取り留め、地上に戻っていきました。

    Q.こんにちは。何故彼を助けたのですか?
    A.え?誰!?今の見てたの?だったら助けてあげなよー!【ぷんすこ】
    「なぜ」って……命は大事なものだもん、あたりまえだよ!

  • 1352.彼女たちの理由23/02/23(木) 17:58:17

    吹っ飛んで来た冒険者を、蝶に似た魔法生物のもふもふのお腹が受け止めました。

    『酔え』

    同時に斬(キン)、と斬撃音。白衣の戦士が妖刀を振り抜くとワイバーンに「飛ぶ斬撃」が放たれ、心臓を両断します。

    「流転回帰を……4回も使えば十分でしょうか」

    生物の時間を30秒巻き戻す魔法「流転回帰」の込められた魔道具を複製し冒険者に使用すると、傷一つない状態に巻き戻り地上に戻っていきました。

    Q.こんにちは。何故彼を助けたのですか?
    A.助けた方がローリスクだと判断したからですね。私の場合、特に消費なく回復手段も用意できますし。
    ……この企画、わざわざ冒険者をピンチに突っ込ませる必要、あります?
    ダンジョンを歩いていれば天然物がそこらで見つかりそうなものですが。

  • 1363.彼女たちの理由23/02/23(木) 18:10:35

    復讐の魔法少女がインタビュアーを吹っ飛ばしました。

    Q.な……ぜ……
    A.「手前らがダンジョンを利用して息子を虐待してその様子をエンタメにするカスだから」以外に理由が必要か?
    冒険者を舐めすぎだクソボケが、バレるに決まってんだろこんなん

  • 1374.彼女たちの理由23/02/23(木) 18:19:26

    失敗者がギルドで雑誌をぱらぱらとめくっていました。
    「えと……今日の二面は……」

    今日未明、ダンジョンを利用してスナッフ&インタビュー映像を撮影していた男女2名が死体となって発見されました。
    降霊を用いた取り調べでは「白いフリルの女に殺られた」「あいつが冒険者なんかになりやがるから」「根本的には救えていないのに善人面して綺麗ごとを並べる冒険者たちを嘲笑いたかった」と供述しており、現在は被害者の余罪について調査中とのことです。

    「ダンジョンこわ……」
    失敗者は雑誌を閉じると薬草採取の依頼に向かいました。
    【ダンジョンへの挑戦に失敗した】

  • 138水使いとチョコレート23/02/23(木) 21:16:43

    【灼かれている】

    【己の醜悪さを直視する度に内側から耐え難い苦痛に灼かれている。汚泥の如き己の心の醜さを自覚する度に自分を頸を締めたくなる】

    「………出来ていますね」

    【1週間程発酵させたカカオ豆を天日乾燥させた結果出来上がったものを取り出す。これを見ているだけで、何一つ進めていないのだと自覚する】

    【時間はあったのに、前へ進む事は無かった。酷く不様だと自嘲する他ないだろう。理想の己と比べて何たる愚昧なのだと己を罵り謗りながら機械によってカカオ豆を焙煎する】

    「ッ…………ふぅ」

    【焙煎が終わったカカオ豆を自分の手によって粉砕してペースト状にしてゆく。初めは打算しか無かったのだ。美味しい料理を食べさせてくれるから、その為の取引をしていただけ】

    【次は親近感だった。孤独で、親に苦しめられ、己という存在に絶望した彼を理想の自分の姿を垣間見て今の自分に絶望した自分自身と重ね合わせて親近感を抱いた。何て勝手なのだろう、彼と自分は違うというのに】

    【何か、善い事をしてあげたかった。救われない自分を、救いたかった。でも彼は自分で前進する事が出来たのだ。己とは違う、同一視する事自体が侮辱であった】

    【最後に抱いたのは信仰心、或いは尊敬であった。自分には不可能だった事を成し遂げた存在への敬意であった。星なのだ、導きであり彼方にて輝く星こそが私にとっての彼なのだ】

    【自分は違う。停滞し続けている。進む事が出来ないでいる。星に手を伸ばそうとして、そんな事は出来ないのだと思い知る。善い事をしようとしても、他人の行動を模倣するだけの上面だ】

    「辞めましょう。そんな事よりも、どうやったら美味しく出来るか考えなくちゃ」

    【深い海に沈みそうになる思考を強引に引き揚げて思考を打ち切る。美味しいチョコレートが何かは解らないけれど。きっと少しでも私の"好き"を伝えたいから。】

    【少しずつミルクや砂糖をカカオパウダーに加えては味見をする。最適も、最高効率も、正解だって存在しないかもしれない。それでもより善いモノを目指すのだ】

    【輝きに灼かれて、墜落するのが『宿命』/サダメなのだとしても。それが私の思い描く魔法使いだから】

    スイートマジック[ゲームサイズ ver.] / 初音ミク × 鏡音リン × 鏡音レン × MEIKO × KAITO


  • 139「星/影』の少女たち(1/3)23/02/24(金) 01:53:08

    「──ッ」『……!』

    【広漠たる原野に音が響く。それは凪いだ水面に雨の最初の一滴が落ちるように】

    「……」『──』「──っ」『……!』

    【一つ、二つ、三つ。やがて音は激しさを増し、そして静寂を食い散らしていく】

    「──!」『──ッ』「……──!」

    【剣の如くまっすぐに空を裂く殴打が、払われ、避けられ、流され、止められる】

    『……ッ』「──」『……────』

    【刀の如くしなやかに風を切る蹴撃が、躱され、反らされ、防がれ、いなされる】

    「……」『……』

    【ふと、音の雨が止む──それはその後にやって来る嵐への、覚悟の為の一瞬だ】

    「──!」『──!』

    【打撃の応酬が生み出す音と衝撃の嵐は、暫く衰えぬままに空気を震わせ続けた】

    【──まるで、その源たる二人の少女の、肢体に、瞳に、漲る若々しさのように】

  • 140「星/影』の少女たち(2/3)23/02/24(金) 01:53:44

    「──ふう。ウォームアップはこの辺りでいいでしょうか」
    『……ん、十分でしょ。やりすぎて怪我しても仕方ないし』

    【拳と脚とが打ち合うこと、十数分。嵐は何の前触れもなく止んだ】

    「それにしても。また強くなりましたね、ヨウちゃん。私、とても嬉しいです」
    『ありがと。そう言うセイちゃんこそ、少し会わない間に随分キレが増したね』

    【嵐が雲を連れ去り快晴をもたらすように、こちらのその後にもまた、和やかな雰囲気が流れる】

    「ありがとうございます……あ、そうだ。先日、雰囲気の良さそうな喫茶店を見つけまして」
    『お、いいね。それじゃ、時間があったらこの後どう? 折角だし、あの子たちも誘ってさ』

    【しかし、それも長くは続かない。止まぬ雨が無いように、曇らぬ晴空もまた無い】

    「ええ、是非──さて」
    『うん。お出ましだね』

    【少女たちが、再び闘志をその瞳に宿す。視線の先には、狂気に堕ちた悪魔の巨躯が聳え立つ】

    「希望の灯──星の導き──暗闇の中にこそ道標を求む旅人へ──」
    『安寧の帳──影の誘い──光明の中にこそ深窓を求む旅人へ──』

    【少女たちは静かに目を閉じ、構え──詠唱と共に魔法陣を展開──光と闇とが迸り──】

    「『──変身」』

    【やがて目を開き、最後の言葉を唱え──そして──】

  • 141「星/影』の少女たち(3/3)23/02/24(金) 01:54:58

    「……星拳魔法少女、参ります」
    『……影踏魔法少女、いざ参る』

    【「星」と『影』の魔法少女が、並び立った】





    ~ ~ ~


    【その後】

    【とある街角の喫茶店にて、賑やかにお茶会を楽しむ少女たちの姿があった】

  • 142『望郷』23/02/24(金) 21:13:22
  • 1431 ドッペル仮面と《彼ら》23/02/24(金) 21:51:12

    【ギルドに顔を出し依頼掲示板を物色していたドッペル仮面は背後から職員に呼ばれて振り返る】

    「ドッペル仮面さん少しいいでしょうか」
    「なんだ 指名依頼か? 報告書の書き直しか」
    「いいえ ドッペル仮面さんが前からギルドに依頼していた件です」
    「………見つかったのか」
    「はい ドッペル仮面さん。 あなたの《オリジナル》の所在が分かりました」
    「そうか」
    「……どうされますか? ドッペルゲンガー種が冒険者になる前例は複数ありましたが 《オリジナル》と接触しようとしたケースは……」
    「ドッペルゲンガー種は《オリジナル》を憑り殺す怪異だ 人間は成り代わろうとする俺たちを憎み 討伐して『自分』を取り戻そうとする 今まで俺に向けられた討伐軍から俺は逃れてきたが 害あるものへ抱く人間の憎悪のことは理解している」
    「多くの種族や魔物を受け容れているギルドはルールに従う冒険者を守ります。 規範を破らない限りあなたが討伐指定になる事態を防ぎます」
    「ああ…だから俺は冒険者になった 身を守るために」

    【ドッペル仮面は少し考えてギルド職員に答える】

    「冒険者を続けるために《オリジナル》に会おう 俺は無断で姿を写しているからな 人間の道理を通した方がいいと俺は考える 
     ダンジョンモンスターだった時に《オリジナル》に遭遇してから長く彷徨って時間が経ちすぎて今さらだが」
    「……わかりました。 ギルドが間に入って連絡を取りましょう。 相手が了承すれば待ち合わせ日程を決めて連絡します」
    「たのむ」

    【会釈した職員が去ってドッペル仮面は再び掲示板を眺める】
    【文字を認識しながら頭の中では別事を考えている】

    「《オリジナル》か……殺されないよう命乞いを勉強するか」
    「死にたい気分はまだ経験していないからな」

  • 1442 ドッペル仮面と《彼ら》23/02/24(金) 21:52:05

    【ギルドから《オリジナル》との待ち合わせの連絡が来たドッペル仮面は山麓の街を歩いていた】
    【街の人は星雲邪巨人の蒼仮面で顔を隠し黒と白で二分された装束のドッペル仮面を物珍しそうに見ている。 中には警戒を滲ませている人もいたので 《オリジナル》に会いに来るドッペルゲンガー種の話を聞いているのかもしれない】
    【────石が飛んできた】

    「出ていけ! おじちゃんの偽者め!」

    【飛んできた石は狙いが甘く当たらないと分かっていたドッペル仮面は避けなかった。 足元に落ちた石を見ることもせず石を握って叫ぶ街の子どもを無感動に見る】

    「お前オバケなんだろ。 悪さしようとしたら許さないからな!」

    【まわりの大人が慌てて子どもの頭を押さえて謝らせようとする中でドッペル仮面は平坦な声で答えた】

    「そうだ 俺は怪異だ 存在するだけで命を吸い取る生者に害あるもの
     お前たちが築くモノに寄生する影 こころの闇につけ入る恐怖のひとつ
     俺たちとお前たちは隣にあっても交じることはない」

    【凍ったように固まる大人の手から脱出した子どもは「やっぱり!」と石を投げつけた。 至近距離で飛んできた石を片手で受け止め子どもを見下ろして淡々とドッペル仮面は語る】

    「怪異をきらうお前は正しい だが近寄ったことは正しくない」
    「お前のような子どもを欲しがる怪異は多い ひとつ 若い肉体が欲しい ふたつ 混じりけのないこころがほしい みっつ 元気な魂がほしいと 声をあげて目印を『くれた』お前に手を伸ばすぞ」

    【ドッペル仮面は投げられた石を子どもの手の中に戻す。 怯える子どもの目を見る仮面の奥の顔はぴくりとも動いていない】
    【「怪異はお前の元に行きたいと招かれることを常に待っている」と無機質に言った。 上っ面でしかないが善意からの忠告だった】

    「隣の芝生は青く見える 持たないものをほしがるのは怪異も同じだ
     よく気をつけるといい お前は俺たちにとってかけがえのないものを持っているのだから」

    【恐怖で泣き出した子どもはドッペル仮面に握らされた石を捨てて街の大人たちの中に走って逃げて行った】
    【ドッペル仮面は無感動に見送ってから街の人々を置いて歩き始めた】
    【石を投げられるのには慣れている】

  • 1453 ドッペル仮面と《彼ら》23/02/24(金) 21:55:27

    「ほう お前が私のドッペルゲンガーか。よく来た」

    【家人に招かれて入室した部屋の中には《オリジナル》がいた。 ドッペル仮面の素顔に数十年の歳を重ねたような老境の男だ】

    「…ドッペルゲンガーマスクだ チンパンジーとゴリラくらい違う」
    「アー わかったよドッペルゲンガー『マスク』。 会えて嬉しいよ」
    「《オリジナル》の存在をかすめ取り出会うことで命を吸い取る怪異だ 会えて嬉しいとは?」

    【《オリジナル》は肩をすくめて「まずは座れよ。 立たせっぱなしだと私が偉そうにしてるみたいじゃないか」と言ったのでドッペル仮面は向かい側の席に座った】

    「私に危険があるならギルドが君の存在を許さないし会う場を作ったりしない。 つまり無害と保証されているということだ」
    「弱い人間は本能的に俺を恐れ憎む 平然としていられるのは強者だ」
    「ふん 若い頃の私なら憎んだかもしれんな。 同じ顔が『私』として動く様子に私の権利を奪われたように思ってね」

    【《オリジナル》は紅茶を飲み「君も飲めよ」と言ったのでドッペル仮面も机に置かれていたカップを手に持つ】

    「今は違う。 変化自在の君が己の姿を『私』にした事実を重く見ている。 『私』を選ぶお目が高いお前に会ってみたいと思うのは自然だ」
    「そうか」
    「本当に私と同じ顔なのか? 若い頃の私がどんな顔だったか思い出してみたい。 仮面を外してみろ」
    「よせ 俺はドッペルゲンガーマスクで顔を隠さず《オリジナル》と直面すればお互いのどちらかが必ず死ぬ死のルーレットが発動する この仮面はセーフティだ」
    「君にはピンと来ないかもしれないが人間は加齢で容貌が変わる。 君を見て私の息子か孫と思う者はいても私本人だと思う者はいないだろう。 それでもか?」
    「年月が過ぎ容貌が変わってもお前の『過去』にかわりない 記憶と人格を除いてお前という存在をトレースしたのが俺だ 死のルーレットは例外と認めないだろう」
    「融通が利かないな。 いいさ。 せいぜい死なない程度に冒険者をやればいい。 私の《星雲邪閃光》は強力な能力だ。 使いこなしてみろ」

    【ドッペル仮面は《オリジナル》の言葉に込められた親しみに気づいた】

    「………『お前』という領域の侵略者を許すのか?」
    「『許す』? ははっ 命乞いするつもりで来たのか?」
    「そうだ」
    「素直だな」

  • 1464 ドッペル仮面と《彼ら》23/02/24(金) 21:56:32

    「侵略者ね 過剰な自己評価だ。 安心するといい いま私は君を褒めている……こうして話して再認識したが 私は変わりなく私で君は所詮君でしかない。 つまり『私』を模倣した事は大した問題じゃない」

    【時に置き去りにされる怪異と違い 重ねてきた時間を皺で刻んだ顔で小馬鹿にするように笑う】
    【冒険者のドッペル仮面はそういうものだろうかと思いかけ 模倣する怪異のドッペル仮面は納得しがたいと見ていた】

    「納得がいかないか? しょうがないから分かりやすく教えてやろう。 怪異の君には分からんだろうが生命はそうやって命をつなげていくんだよ」
    「家名 遺伝子 外見 財産 技 知識 記憶も。 闇も光もなく罪だって受け継がれて引き継いでいく。 夜の中で斃れても長い夜が明ける日を願い 受け継ぐ者たちに己を託すことを私たちは生まれる前から知っている。 家族や愛も内包する命のリレーバトンが私たち生きる者の強さだ」

    「だから許す許さないじゃなく君もこれまで通り『私』を引き継いでいきなさい」
    【《オリジナル》は模倣種族に『自分』を盗まれたのではなく 『自分の要素』を与えたのだと言った】

    【ドッペル仮面は無感動で無情な存在だ】
    【討伐しようと思わせず共感や親しみを持ってもらえるよう こころのようなものをトレースしているがいくら勉強しても喜怒哀楽を本当の意味で理解できない】
    【ドッペル仮面にはない機能だからだ】
    【己を滅ぼせる力を持つ人類種の矛先が向かないよう生存戦略のために自制しているだけの怪異の本能には《オリジナル》の言葉から感じるものはなかった。 揺れることも思うこともない】

    「俺はその円環に入るべきでない」
    【だがドッペル仮面はその言葉を理性的に否定した】

    「そうか? 怪異に出来ない道理があるとは思わないが」
    「軸をすり替えるな」
     ・・・
    「俺たちはそういうものじゃない」

    「ふん」
    「まあいいさ。 若い者は年かさの言葉を認めないものだ」
    【話を終わらせた《オリジナル》が「飲んでないじゃないか。 居眠りしているのか?」と再度言ったので ドッペル仮面は手に持っていたカップの中身を飲んだ】

  • 1475 ドッペル仮面と《彼ら》23/02/24(金) 21:57:39

    「で 君の名前はなんと言う?」
    「俺はドッペル仮面だ」
    「それはドッペルゲンガーマスクを短くした呼び方だ。 種族名を呼んでいるのと変わらないじゃないか」
    「それなら俺に名前はないな」
    「ふうん……私を受け継ぐ君は人間流に言うなら息子のような存在といえる。 父親らしく名をつけてやろうか」
    「俺は怪異だ 怪異に名付ける意味を分かって言っているのか? それは軽率な行いだ」
    「分からないな 私は怪異ではないから。 私の能力や若い頃の顔を与えたついでだ。 いいだろ?」
    「よくない 怪異にとって名付けは存在強化であり 因果に縛る鎖になる 名づけたもの 名づけられたもの両者の縁は強固になるだろう」
    「ふん 善き願いをこめた名にすれば善き名にふさわしい因果を行うということか。 いいことを教えてくれた。 親子以上につよい繋がりが今さらあるものか。 遠慮するな」
    「いや……俺には資格がない」
    「資格? 怪異ふぜいがそんなことを気にするとはな」
    「…………」
    「わかったわかった。 顔を合わせたばかりだ…顔は仮面で見えないがな。 今回はこれくらいで良いだろう。 気が変わったら言うといい…これは「私の寿命が終わる前に気を変えろ」という命令だ」
    「…………」
    「ははっ 困った顔をしても撤回しないぞ」
    「仮面でお前には顔は見えないし俺はそんな顔をしていない 誰かの鏡のドッペルゲンガーマスクの俺を見て感じるものはお前が思っている事の反射に過ぎない」
    「お前の中の事実に興味はないしお前の真意も私にとって大したことじゃない。 私がどう受け取ったかが最も大事なことだ。 こういう会話は嫌いでない。 久しぶりに楽しい時間だった。 また改めて話をしよう」
    「そうか お前が望むなら俺には応える義務がある」
    「違うな 義務ではなく里帰りというのが正しい。 親孝行はしておくものだぞ?」
    「………………」

  • 1486 ドッペル仮面と《彼ら》23/02/24(金) 22:01:47

    【ギルドに戻って《オリジナル》と会話したことを報告しそのまま異界を通って拠点に戻った】
    【騒々神城では宴を開くような何かがあったのか賑やかだ】
    【重引力が使い魔に吸血されていた】
    【魔刀剣士が手際よく世話を焼き女体化した分身の魔刀少女が魔法を使っている】
    【豊富な料理と飾りつけで浮かれた雰囲気だ】
    【人の輪から離れた城の入り口で立って眺めていると眷属契約を結んだ騒々神が手招きしてきた】

    「ドッペル! こっち来い」
    「ああ」
    「お前美味いもの好きだよな。 買ってきたこれ食べていいぞ」
    「ありがとうご主人様」

    【取り分けられたケーキをフォークで刺して口に運び『甘い』という味覚刺激を味蕾から脳神経を通して認識する】
    【生者を何度模倣しても誰かの影で何かの像 仮面で鏡という本質的に空虚な存在から変わることはない】
    【仮面に笑う機能はない。 鏡に共感はいらない。 ドッペル仮面はどこまでも空虚で無感動だ】

    「ドッペル久しぶりだなー ちょやば 鉄分足りね。。。」
    「美味かったぞ。 ん? ドッペルはいつも通り反応薄いな🩸」
    「ふふ紅茶もいるかい? 俺の手作りなんだ」
    「私もいるよーっ」

    【ドッペル仮面は『千篇晩歌のメンバーで目の前にいる彼らの仲間』だ】【いつ認識しても実感のない『事実』だ】
    【ドッペル仮面は「知りたい」と思う 何かはわからないが「欲しい」と思う】【思い込もうとしている】
    【同じこころを交わせないことを魂なき虚ろな身でほんの欠片くらいは残念に思えているような気がする】【そんな欠片は存在しないが】
    【そう思えている自分だ と良 いなと思 っ】【 装って い】【れ は反射に すぎな 】【す べて 虚ろ の】

    【【【【【この試行に意味はない】】】】】

  • 1497 ドッペル仮面と《彼ら》23/02/24(金) 22:07:31

    【────喜びも思いやりも驚きもぜんぶ真似ごとで 何にも関心がないのに興味があるフリをしている 他の存在が苦しんでいてもどうでもいい】
    【合わせ鏡に映る無数の像のようにドッペル仮面の内面は複層化している】
    【表面に最も近い内面は意図的に感情を動かすようにしているがそれを俯瞰する無数のドッペル仮面がいた】
    【ひび割れたガラス破片一つひとつに宿るドッペル仮面たちが無感動に見ている】
    【たったひとつの歪んだ鏡片に映る一つきりのドッペル仮面を無機質に見つめている】

    (結ぶ像を選ばない影が《オリジナル》の姿を選んで 次々付け替える仮面のひとつの星雲邪巨人の蒼仮面を離さない)
    (これは共感しない鏡に不要な不純物)
    (だから俺は『歪んだ鏡』だ)
    (俺は異常だ)
    (正常から離れて『俺』を捨てて歪みを直さないことを決めた)

    【鏡が鏡を覗いても無数に反射するだけで実体は見つからない】
    【無意味な試行をやめないことがドッペル仮面の異常だった】

    (空虚が変わることはないがうわべを滑る《何か》が変われる期待を 自覚的に作るようにしている)
    (まね事がほんものになる期待を抱いていると俺は思い込もうとしている)
    (誤認でかまわない 正しくなくて偽物でいい 交差したと少しでも錯覚できたら良いと俺は努力している)

    【『歪んだ鏡』のドッペル仮面は口の中のケーキの『甘み』を意識して認識し 楽しそうに聞こえるように慎重に気をつけて「美味しい」と言った】

    (……それも結局は怪異が魂を喰らおうとする無自覚の策略なのかもしれないが)

    【ドッペル仮面の薄っぺらい言葉をきいて笑う千篇晩歌のみんなを分厚いガラス越しに見ながら
     ドッペル仮面という仮面の下にいる名無しの怪異はずっと考え続けている】

  • 1501.海竜の巫女・深淵行き計画!23/02/24(金) 23:58:42

    ●推奨BGM:鞄と少年【音楽素材MusMus】

    鞄と少年【音楽素材MusMus】

    「フフン……ダンジョンなんてたかが洞窟探検じゃない!129層だろうが前人未到の地だろうが行って見せるんだから!」


    【天津蛇吹雪――ギルドでの名乗りは海竜の巫女――が故郷の島を追い出され、冒険者ギルドに来てから数日が経つ】

    【帰郷の条件は、無限牢獄129層に住まう祖龍の一柱に修行を付けて貰い、古龍として相応しい力を身に着ける事だ】


    「とは言え、深淵はニンゲンには大分厳しい環境らしいしねぇ……念の為にしっかり準備はしておくべきかしらね?」

    「屈強・不敵・最強無比の古龍の一族とは言え、あんまり修行に力を入れてた方じゃ、無かったしねぇ……」


    【故郷で暖衣飽食の暮らしを送っていた頃を思い出す。毎日寺子屋には通っていたし、術の訓練もたまにはしていたが】

    【どこかで他龍事の様な気分があったのは否めないだろう。偉大な海の神格である母龍の姿も、間近で見ては居たが】

    【自身がその境地に至るのは遥か数万年は先の事だろうと思っていたし、それを極当然の事と思っていたのだから】


    「……ま、千年学んだ上で、ニンゲン達のテストが上手く解けなかったのは事実だけれどさァ」

    「母上様もその程度でこんなに怒るだなんて……カルシウムが足りてない証拠よ、鰯でも食べるべきかしら!!」


    【そんな事をぼやきながら鞄に荷物を詰めて行く。今でも故郷を追い出された事に納得が行っていないのだ】

    【……ただ、心の隅で自分に真剣さが足りなかったという事には気付いていた。だから、この修業はやり遂げる気だ】


    「と、言う事でまずは……傾向と対策から入るべきかしら?」


    【ギルドの図書館から借りて来た、初心冒険者向けのガイド本を片っ端から開き、書かれているモノを鞄に詰める巫女】

    【ギルド支給スクロール、傷薬、頑丈な靴、暖かい撥水マント。ザックに下げる魔法の小ランタン、ビバーク用のツェルト】

    【エネルギー補給用のキャラメル、緊急回復用のまん丸のドロップ、一口でぱっくんと食べられる板チョコレート……】


    「……これだけあれば三日は持つでしょう、一日四十層ちょっと下って行けば深淵の底にも辿り着けるよね?」

  • 1512.海竜の巫女・深淵行き計画!23/02/24(金) 23:59:00

    【一端の冒険者が聞いたら呆れ果てるか笑い転げるような事を宣うが、無限牢獄を舐めているつもりは無いようだ】
    【何せ卵の殻から転がり出して以来、一日たりとも一人で外泊などしたことが無いのだから】
    【その感覚からしてみれば、ダンジョンで三日も寝泊まりすると言うのは……龍生初の大々冒険なのである】

    「後は、深淵に居るって言うモンスターの対策も考えないとねぇ……海竜ならまぁ、倒せない事は無さそうだけど!」

    【腕組みしながら自信満々に言い放つ巫女。視線の先には、昼間街角で聞き込みしたアンケートの結果が置いてある】
    【題名はこうだ……『エノシガイオスvs無限牢獄深層の魔物、タイマンバトルしたらどっちが勝つか』……!?】

    「本当なら母上様と深層の魔物ならどっちが勝つか聞きたかったんだけれど、ウチの島は殆ど鎖国状態だしねぇ?」
    「『天津蛇凝』なんて言ってもセントラリアの人間には通じないから、有名処の海竜さんの名を借りたけれど……」
    「ま、アンケート結果に与える影響何て、誤差よね、誤差!」

    【投票結果はエノシガイオス92票、深淵の魔物4票、俺・僕・私3票、暗黒雷魚1票……である】
    【アンケートに応じた者達が、どれだけ真面目に考えた上で票を入れたかには疑問が残る代物だが】
    【アンケートの主は、海竜なら深淵の魔物にも勝つる!……などと、至極真面目に真正面から受け取った】

    「ソレに、深淵で厄介だって嫌われている魔物、苔玉とか言うんだっけ……全然強そうな名前じゃ無いし!」
    「何なら近縁種っぽいヤツ、ウチの実家の島でも見た事あるしね。ニンゲンならともかく、古龍の敵じゃないよ!」

    【苔玉、と聞いて思い出したのは、故郷の冷たい湖、イカン湖の水底に沈む緑色のほわほわとした藻の球の事だ】
    【数年前、故郷の島で行われた軍用種牡天馬の選抜レースである『イカン湖特別競走』を母上様と見学した時に】
    【レースで勝った天馬『スゲェコールド』が、それらの臭いを嗅いでは凄い顔をしていたのを見て笑った記憶がある】

    「手足も生えてなかったし喋りもしなかったし、呪文は唱えてたけれど……天馬に齧られて沈黙する程度だし」
    「そんな奴の強化亜種ならきっと大した事も無い筈……大丈夫よね?うん、大丈夫!!」

  • 1523.海竜の巫女・深淵行き計画!23/02/24(金) 23:59:41

    【深淵の狂人にすら正気を疑われそうな、甘すぎる見立てではあるが、それも仕方のない面はある】
    【何せ千年の龍生の中で出会った中で、最強の魔物は海水浴の時に振れたビリビリくらげだと言う有様なのだから】
    【マトモな冒険者の想像すらも絶する魔物の事を、聞きかじった程度で理解せよと言うのは無理である】

    「……でも、そんなダンジョンの奥深くに居る祖龍さんに出会って、何を習えば良いのかしらねぇ?」
    「ウチの一族の得意技と言えば天候操作か龍脈操作?でも、そんなのは母上様に習えば済む事だしぃ」
    「もっと何かこう、グレートでパワフルな術でも教えてくれるのかしら??」

    【もう深淵129層に到達した前提で思考を進める。着いたのならば修行をするとは聞いてはいるのだが】

    「誰に修行付けて貰えば良いかは聞いてなかったね……キチンと聞いておけば良かったかしらぁ?」
    「って言うか『祖龍』って何なのかしらね……『祖』って言うぐらいだから、龍のご先祖様とかなのかしら??」

    【そんな事を呟きつつ、ニンゲンが原人を思い浮かべる様に、原始龍種というものに思いを馳せる】
    【母上様によると、自分は偉大なる星海の龍から数えて33代目の島の護り龍だそうだ、となると……】

    「えっと、ウチから見ればひいひいひいひいひいひいひいひいひいひい……ひいひいひいひいばーさま?」

    【遠いような、近いような、そんな感情をまだ見ぬ『祖龍』に抱く】
    【まぁ……修行を付ける『祖龍』が彼女の祖先である保証など、全く何も無いのだが】

    「……遥か末裔の孫娘がしっかりやってます!と言う所を見せに来れば、あっちも嫌な気分はしないでしょうし」
    「いっちょやってやりますか!!」

    【まだ見ぬ親戚のばーさまに自身の力を見せてやろうと、やる気は出たらしい】


    【尚……この後、わけ合って無限牢獄の中層が通行止めになっていた為、フロンティアへ向かう吹雪であった】
    【この物語は、未だ終わっていない】

  • 1531. See You23/02/25(土) 00:04:23

    時折、夢と現実が曖昧になる瞬間がある。
    今がそうだ。一際、夢のような体験をした後では……

    キャリーバックを引き、依頼人、アリエス・ハートは船に乗り込んだ。
    遠くにセントラリアの街が見える。帰らなくてはならないのは、素直に残念だった。

    来た時に比べて荷物が随分と重い。それに歴史を感じ、それから先日の闘技場を思い出していた。
    不思議な気分。負けたのは悔しく無い。むしろ壁を、自分という壁を乗り越えたことを素直に賞賛したかった。
    この夜空と同じく、心が空っぽに晴れ晴れとしていた。私が受け入れられたのか、それとも私の中の許されざるものが死によって消えたのか。果たして思考に答えは無いし、どちらでも構わないのだろう。

    目が手元を見た。冒険者達の話がたくさん。私は遠く、故郷で待っている子供たちのことについて考えた。
    さて帰ろう。私はアリエス、絵本作家。子供に夢を与えることが仕事……いいや、違う。

    したいこと、だ。

  • 1542. See You23/02/25(土) 00:04:50

    【旅の終わりがやってくる】

    【船が港を出発した】
    【次第に明かりが遠ざかり】
    【アリエス・ハートは空を見上げた】

    「いつか、また、ここで。会いたいですね。」

  • 1553.Endroll23/02/25(土) 00:06:43

    【故郷に帰り着き、アリエスはある図書館に向かった】
    【児童書のコーナーに足を踏み入るや否や、数人の子供達に囲まれ】
    【口々に旅先の、セントラリアの冒険者達の話を尋ねられた】

    「……お土産話、ですか。それはもう、沢山ありますとも」
    「まずは……悪い夢魔さんを退治した冒険者さんの話。これにしましょうか」

  • 156◆o3WqGw3jjk23/02/25(土) 00:09:21

    以上を持ちまして、当イベントは終了となります。皆様の力作SSの数々、楽しませて頂きました。ありがとうございます。

    続いて、当イベントスレのこれからの扱いについての説明です。

    ・色々を加味して、2/25の夜10時まではこのスレを残すこととします。その時刻まではこのスレでの各種SS投稿を可能とし、2/25の夜10時になり次第このスレは200まで埋めます。
    ・当イベントスレが埋まった後のSS投稿は設定スレでお願いします。終了後に設定スレに出てきたSSも、時間があったら実況したいと考えています。
    ・またいつか、似たイベントを開けたらいいなと思っています。思っているだけです。全くの未定ですしやるとしても当分先です。



    急ではありますが以上となります。お疲れ様でした。それでは。

  • 157◆o3WqGw3jjk23/02/25(土) 00:09:55
  • 158水使いと〈波浪〉23/02/25(土) 11:43:37

    【釣り堀にダイナミックエントリーして、普通に襲ってきた野良リヴァイアサンに質量の差で幾ら穿ちても堪えられて丸呑みにされた水使いが見たのは一面に拡がる廃墟であった】
    【大地が、空が、湖が、川が、丘が、山が、森が、畑が、谷が、道が、草原が、家が、屋敷が、村が、町が、都市が、何もかもが燃えていた】
    【燃え上がっていた。赤い世界だった】

    『この光景をどう思う?』

    【ふと、隣から声が響く。綺麗で澄み切った音が哀愁を儚く漂わせながら問いを投げ掛ける】

    「…………可能性の、断絶は悲しく思いますわです」

    『此処に来る者は皆そう言うよ。君の先代の人滅もそうだった、「これでは我らの居場所が無い事は変わらぬではないか」と嘆いていたよ』

    【振り向く気は起きない。そのままの姿勢で、音の主の姿影を見ずに今度は此方から問いを投げ掛ける】

    「貴女は誰かしらです?」

    『初代〈波浪〉、〈蒼海〉と謳われし者だよ。次に君が投げ掛ける質問に対しては予めお答えしよう。強くなりたいのなら感情を不安定にする薬でも飲んでおくと良い』
    「それは、」

    『やりたくないのだろう?だが最も簡単な解決法は此れなのだよ。負の感情を溜め込む、溜め込み続けられる理性を持つ君の性格を矯正するのなら最も手っ取り早い』
    「何故かは分からないけれど、嫌です」
    『そうだな、君の目指す星を考えれば当然そうなるだろうな。変身願望は別に良いが、何に変身したいかを考えなければ其れは唯の自己否定でしかない』
    「貴女はどうだったのかしらです?」
    『君に教えるのは不可能だ。初代だったからこそ出来た荒業だったのだよ、尤も君の武器に宿る〈凍滝蝶〉は劣化版を行使出来ていたが。ではそろそろタイムリミットだ、さようなら「水使い」』

    【水使いが消える。目を覚ます頃には野良リヴァイアサンの骸と共に釣り堀に打ち上げられているだろう。サービスだ】

    『中々に有望そうな奴じゃねえか。今代はどうにも質が高いと思わんか、〈蒼海〉』

    『《聖神徒》の候補でもあった存在だ。素質という面では歴代の中でも飛び抜けている。お前の方も、二重候補者だったのだろう?良く〈烈風〉に勝てたものだな、〈血河〉』

  • 159ひりゅー223/02/25(土) 19:19:51

    ひりゅー

  • 160◆o3WqGw3jjk23/02/25(土) 22:02:55

    名残惜しいですがさよならの時間です。
    埋めます

  • 161◆o3WqGw3jjk23/02/25(土) 22:03:09

    うめ

  • 162◆o3WqGw3jjk23/02/25(土) 22:03:19

  • 163二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:03:45

  • 164二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:06:04

    うめます

  • 165二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:08:03

  • 166二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:08:44

    める

  • 167二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:09:07

  • 168二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:09:22

  • 169二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:10:01

  • 170二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:10:11

  • 171二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:10:23

  • 172二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:10:37

  • 173二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:10:54

    たです

  • 174二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:11:12

    。はじ

  • 175二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:11:26

    めて

  • 176二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:11:41

    のG

  • 177二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:11:54

    Mで

  • 178二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:12:04

    つた

  • 179二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:12:14

    ない

  • 180二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:12:30

    とこ

  • 181二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:12:41

    ろも

  • 182二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:12:55

    ありまし

  • 183二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:13:20

    たが、無事

  • 184二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:13:36

    終えられ

  • 185二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:13:46

    たの

  • 186二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:13:58

    は皆

  • 187二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:14:11

    さんの

  • 188二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:14:21

    おかげ

  • 189二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:14:34

    です。

  • 190二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:14:44

    今後

  • 191二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:14:58

    も長くダ

  • 192二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:15:11

    ンジョン

  • 193二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:15:28

    スレが

  • 194二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:15:45

    続く

  • 195二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:15:56

    ことを

  • 196二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:16:06

    祈って

  • 197二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:16:18

    います。

  • 198二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:16:32

    それでは

  • 199二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:16:49

    最期までありがとうございました。

  • 200二次元好きの匿名さん23/02/25(土) 22:17:33

    書き込んで下さった皆様に改めて感謝を。
    それでは。

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