(SS注意)キタちゃんのバレンタインの話

  • 1二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 19:24:41

    今日はバレンタイン。時には愛を伝え、時には感謝を形にするための絶好の機会。
    ここトレセン学園でも友達同士で渡し合っていたり、トレーナー相手に感謝の気持ちを込めていたりと、見ていて微笑ましい気持ちになってくる。
    トレーナー室で仕事をしながら前のバレンタインのことを思い出す。うちの担当ウマ娘も例に漏れず、感謝の気持ちを形にしていた。……色々大きすぎて困惑してしまったが、そんなところも彼女らしいといえば彼女らしいか。今回は、どんなものをくれるのだろうか。……なんて、貰えることを前提で考えるのはどうなんだろうな。
    そんな風に考えていると、トントンと扉をノックする音が聞こえてきた。

    「失礼します!トレーナーさんはいますか?」

    いつものように元気な声が扉越しでも伝わってくる。さっきまで妙なことを考えていたから、もしかしてを考えてしまう。

    「ああ、入っても大丈夫だよ」

    返答するとゆっくりと扉が開いた。開かれた扉から姿を見せたのは、担当である彼女――キタサンブラックであった。いつも通りのように見えてるが、少しだけ顔が赤らんでいる。それに落ち着かない様子で、視線を泳がしていて彼女にしては珍しい。

    「うぅ~……やっぱり渡す瞬間は緊張するよぉ~……」

    小さい声で何かを言っていたが聞き取ることは出来なかった。とはいえ、目を瞑って頭を降っている様子は、中々見られるものではないから見ていて少し面白い。
    そう思っていたが、すぐこちらに向き直って、目と目を合わせてきた。特徴的な赤い瞳は、決意に溢れていて目を離すことを許してくれないみたいだった。

    「トレーナーさん!!!」
    「は、はい!」

    すごく大きな声で、思わずビックリしてしまった……。それは彼女も同じで、顔が真っ赤になっている。それでも気にせずに、彼女は手を前に出していて、その手には、勝負服をモチーフにしている立派な箱が乗っていた。

    「ハッピーバレンタインです!」
    「ありがとうキタサン……」

  • 2二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 19:24:54

    キタサンからその箱を受け取った。質量的に重い、北の荒野チョコのようなものではないことに、内心少しだけホッとする。

    「中を見てもいいかな?」
    「もちろんです!」

    渡せたからか、さっきまでの緊張もなくなり、自然な笑顔に変わっている。やっぱりこの笑顔が一番見ていて気持ちがいいな。
    お言葉に甘えて中を見てみると、お饅頭が2つ入っていた。……バレンタインに饅頭って中々珍しくて少し驚いてしまった。

    「えへへ、手に取りやすいものって何かなって考えたら、お饅頭がいいかなって思って……」

    心遣いに感謝しつつ目を引いたのは、キタと書かれた印だった。
    あまり見ることがないその印は、誰が見てもキタサンが作ったと分かる可愛らしいものだ。

    「キタサン、この印は君が?」
    「はい!この印も含めてお弟子さんにも好評なんですよ!……トレーナーさんに贈るならって思いつきなんですけどね、えへへ……」

    嬉しそうに笑うキタサン。彼女らしさが詰まっていて見てて微笑ましい。
    ――前に貰ったあの人チョコを思い出しそうになって、片隅からすぐに消した。あれはなにかの間違いだったのだろう、うん。

    「これ1つ貰ってもいいかな?」
    「もちろんです!お茶を汲んできます!」

    ――すごい速度でお茶を汲みに行ったキタサン。
    そんな彼女を止めることが出来ず、少し呆然としてしまったが、彼女らしいと思うと微笑ましくなった。
    机の上を整理して、改めて箱を眺めてみる。勝負服のような箱は彼女のようにキラキラと輝いて見えた。

  • 3二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 19:25:21

    元々彼女の勝負服は、彼女を応援してくれている人達が、彼女のために形にしたものだ。
    そんな沢山の思いを背負っていて、時には落ち込むことだってある。それでも皆のために立ち上がり、思いを成就させてきた。
    あの時は一緒に頑張ろうと言ったけれど、俺はしっかりとその思いに報いることは出来ているのかな……。
    ボンヤリと考えていたら、いつの間にか帰ってきていたキタサンは、少し心配そうにこっちを見ていた。

    「どうかされたんですか……?」
    「うん?あぁ……ごめん、このお饅頭はどんな味なのかと思うと待ちきれなくてね」

    心配そうな彼女はあまり見たくないから、少しだけ本音を隠す。……味が楽しみなのは本当だしこれくらいはいいよな。

    「そう……ですか……。……味には自信があるんですよ!」

    でも、それもバレてるみたいで、心配そうな様子はあまり変わっていなかった。下手に本音を隠さなきゃ良かったな……。
    せめて、このお饅頭は笑顔で感想が言えるようにしないとな。汲んでくれたお茶はちょうどいい温かさで彼女の気配りが届いている。

    「そうか、本当に楽しみだ。いただきます。」
    「どうぞ召し上がってください!」

    凄くワクワクした様子のキタサンをひと目見て、お言葉に甘えて一口食べてみる。……?これは黒糖かな?しっとりとしていて、なおかつ味が染み込んでる。それにチョコもしっかりと引き立てて凄く美味しい……。

    「美味しいよキタサン……」
    「本当ですか!良かったです!」

    飛び跳ねそうなぐらい嬉しそうなキタサンを見ながらもう一口食べる。うん、やっぱり美味しい。少しカリッとするのもまたいい感じだ。

  • 4二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 19:25:49

    「少しカリッとするのは揚げたからなのか?」
    「はい!チョコと黒糖の風味を引き立ててくれるから、これがいいと思いました!」

    チョコを作るだけでも大変なのに、お饅頭にしてからそれを揚げて作るなんてな……。箱だってきっと彼女が手作りしたものだろう。その一つ一つが丁寧に作られていて、キタサンらしさで溢れていた。

    「こんなにするのは大変だっただろう?」
    「大変なことなんて一つもないですよ!」

    そんなことはない。学園生活に練習、それにお助け活動をしているキタサン。自分の時間を作ることだって難しいはずだ。
    それなのに俺のことにまで時間を割いている。やり通すのはどんな人だって辛いはずだ。

    「キタサンはなんでそこまで出来るんだ」
    「そんなの決まってるじゃないですか」

    改めてこっちに向き合ったキタサンは、いつものような表情ではなくて、歳不相応なくらい穏やかで優しい顔だった。

    「いつだって未熟なあたしを支えてくれるあなたに……心からの感謝を伝えたかったからです」

    そう言ってふわりと笑った顔に目を奪われてしまった。
    三年間走りきった後、時折見せるようになったその表情は、今までのキタサンとは違った大人な一面だった。

    「トレーナーさんはあたしを大変だって言うけど、それはお互い様のはずです。だって、何も分からなかったあたしのために、沢山勉強して指導してくださったじゃないですか。」
    「それは君の頑張りに報いたくて――」
    「――あたしもなんですよ」

    そう続けた彼女の瞳は変わらず輝いていた。

  • 5二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 19:26:22

    「あたしも同じだから返したいんです。沢山もらった恩を、いつでも支えてくれた暖かさを。トレーナーさんだって頑張り続けてるからそれに報いたいんです」
    「キタサン……」

    ――贈りあえたら幸せだね
    初めての夏合宿の時に自分が言った言葉を思い出した。
    あの時抱いた支え合いの心は今でも心に残ってる。それでも彼女の大きさで少し見えなくなってしまっていた。……大切なことなのにな。

    「ありがとう……大切なことを思い出せたよ。うん、確かに君の思い、受け取ったよ」
    「良かったです……少しは悩みが晴れそうですか?」
    「ああ、バッチリ晴れたよ、ありがとうキタサン」

    そう言うと、いつもの皆を元気にしてくれる、太陽のような笑顔に戻っていた。

    「えへへ、これぞお助けキタちゃんの実力です!」

    ガッツポーズをしながら凄く喜んでいる。
    さっきまでの大人な雰囲気が何かの幻であるかのようだった。

    「せっかくだから一緒に食べないか?」
    「え……でもそれはトレーナーさんのために……」
    「俺の喜びを分け合いたいんだ。駄目かな?」
    「!……駄目なんかじゃないです!一緒に食べましょう!」

    もう一つお茶を用意しないといけないと思い立ち上がると、キタサンも同じようにしていた。やっぱり考えることは同じみたいで、少し照れくさくなってしまう。

    「一緒に行こうか」
    「はい!」

    ふたりでお茶を汲みに行くのは、なんともおかしな光景だけど、それも俺たちらしいのかな?
    この関係が長く続けるように歩み始めるのだった。

  • 6スレ主23/02/18(土) 19:29:51

    時期外れなんて言われても知りません。まだチョコを貰えるならバレンタインは終わってないんです。

    キタちゃんのチョコはお饅頭で、初めはかりんとう?饅頭?って混乱してましたが、メッセージやホーム画面でのセリフでキタちゃんらしさが伝わってきてすごく良かったです。
    かりんとう饅頭ってなんだろうと調べたら黒糖饅頭を揚げたものなんですね。知らなかったので自分は無知なんだと思いました。

  • 7二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 19:57:50

    「いつだって未熟なあたしを支えてくれるあなたに……心からの感謝を伝えたかったからです」

    このセリフがとても良かった〜
    かわいかった

  • 8スレ主23/02/18(土) 19:59:22

    >>7

    感想ありがとうございます。

    感謝を伝えるキタちゃんがすごく好きなので、こんなことを言うだろうなって思って書きました。

    可愛く書けていたのなら良かったです。

  • 9二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 20:25:43

    キタちゃんSS何度か書かれてますよね?
    いつも真っ直ぐでとても可愛らしいです

  • 10スレ主23/02/18(土) 20:28:04

    >>9

    そうです、大体は自分が書いてると思います。

    真っ直ぐで可愛いところもキタちゃんの魅力だと思うのでそう言って頂けて嬉しいです。ありがとうございます。

  • 11二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 20:31:12

    上から目線気味で申し訳ないけど、どんどん書くの上手くなっててすごい
    いつもキタちゃん可愛いのが良い

  • 12スレ主23/02/18(土) 20:32:56

    >>11

    ありがとうございます。

    上から目線なんてとんでもないです。まだまだ未熟なのでそう言って頂けて嬉しいです。

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