- 1二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 14:11:44
平穏とは硝子よりも呆気なく砕けるものと知った。
ベッドの上で半身を起こす彼の姿を見るのは、1週間ぶりだ。
元から痩せ気味だとは思っていたが、病衣の下から覗く体にはくっきりと骨が浮かんでいる。
病的だ。 いや、実際に病気なのだから仕方ない。
「……タキオン、もう来てたのか」
私の名を呼ぶ彼の声は、まるでしゃがれた老人だ。
意識も曖昧だったのか、私が枕元のパイプ椅子に座るまで気づいていなかったらしい。
「起きて良いのかい、体に障るよ?」
「はは、今日は体調がいいんだ。 それに君が来るのに寝てばかりもいられない」
私の元にその知らせが届いたのは、二度目の合宿を超えたある日の事だった。
モルモット君が血を吐いて倒れた、と。
「検査結果は、聞いたのかい?」
「余命半年だってさ、すっぱり言ってくれる先生で助かった」
心臓が、跳ねた。
胃の腑に液体窒素を流し込まれたかのように体の奥がゾっと冷える。
「カルテ、は……あるのかな」
「ちゃんともらったよ、そこの棚の上だ」
床頭台の上に置かれたカルテをむしり取り、中身をめくる。
血液検査やMRIの結果まで事細かに記載された紙面から得られる情報は、取り返しのつかないほどに進行した病状の深刻さを語っている。
そして、それ以外の異常は一切ない。 - 2二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 14:11:57
「タキオン、大丈夫だ」
まるで全てを見通していたかのようなモルモット君の言葉に、ビクリと肩が震えた。
「元からボロボロの身体だったんだ、君の薬のせいじゃない」
「元、から……? 君は、分かっていたか? 自分の体の事を!? だったら何故!!」
「君の邪魔になるから」
予想だにしていなかった言葉に、カルテを挟んだクリップボードが掌から零れ落ちる。
「……なんて?」
「俺がタキオンの邪魔をするなんて駄目だよ、君の脚は必ず果てに至る」
皮と骨しかない彼の手が、私の頬を撫でた。
頬肉が削げ落ちた顔に以前の面影は殆どない。
モルモット君が、私の邪魔になる?
“果て”は私の目標だ、人生を懸ける夢と言っても差し支えない。
だが、もし片方の天秤にモルモット君が乗った時、私は変わらず果てを追えるだろうか。
その答えは、今の私には証明できない。
「……駄目だ、駄目なんだモルモット君……私は、私は――――!!」
「タキオン」
その日、その時、その場所で、私は彼に呪われた。
「辞めるなよ、タキオン。 プランAだ」
見る影もない面影の中に浮かぶ、あの日と変わらない色の瞳に。 - 3二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 14:13:17
- 4二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 14:13:55
言えたじゃねぇか
- 5121/11/14(日) 14:15:58
- 6二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 14:17:17
- 7二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 14:21:05
これが模範的モルモット君か……
- 8二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 14:26:07
お見事です……
それだけに重い……! - 9二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 14:30:28
モルモット君は余命宣告受けてそう
- 10二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 14:41:14
- 11二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 14:56:47
他の全ては変わって見えても狂気の瞳が変わらないのだから
- 12二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 15:45:16
うーん、ちょっと微妙 102点
- 13二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 15:46:34
こういうので良いんだよこういので…
…本当に良いのか? - 14二次元好きの匿名さん21/11/14(日) 18:29:30
美しいものを見た