【ドライブの世界】

  • 1二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:25:09

    世界の破壊者ディケイド─門矢士─幾つもの世界を巡り、その瞳は何を見る…

    『なぜその男は赤を憎むのか』

    光写真館の背景ロールは今日もまた次の行き先を示す。そこに描かれていたのは『鮮やかな閃光を描きながら空を駆けるミニカー達とそれを従える黒いライダーのシルエット』だった。
    「ドライブの…世界か」士は一枚のカードをライドブッカーから取り出す。カードの中の『KAMEN RIDER DRIVE』という名の持ち主と目が合った。色を失ったピンぼけ写真のようなその仮面ライダーを見て彼の本当の色は何色なのかと士はふとは思う。
    兎にも角にもまずは外に出ないと始まらない。写真館のドアを開けると士の身は紺のかっちりしたスーツに包まれていた。懐をまさぐると警察手帳が。
    「なんだ、また警察役か?」小野寺ユウスケは士を見て不思議そうに言った。
    「でも今度は街のお巡りさんさんとはまた違うみたいですよ」と光夏海は指摘する。どうやら今回の士の役割は『捜査官』のようだ。今度警察になった時には警視総監になってるかもな、と士が呑気にのたまうと夏海はそんなまさかと軽く流すがユウスケの方はと言うといやまさかな…とそのことを無駄に深く考え込んでしまうのであった。
    その時、突如として重りが乗っかったかのように体の動きが急激に鈍くなった。まるで深い海中で藻掻くような感覚。スローにしか動けない自分の体に戸惑うユウスケと夏海だが隣の士を見るとまるで何事も無いかのように普通に軽々と動けている。口をスローに動かしながらどういうことかと尋ねると士は「俺は世界の破壊者だからな」と説明になって無い説明をするのであった。
    すると目の前をサイレンを鳴らしたパトカー達が駆けていく。何故かこの謎のスローモーション空間の中でも普通に動くそれのボンネット部にはパトカーの無骨な見た目と余りにもミスマッチ過ぎる黒いフリフリの装飾の付いた四角い何かの装置のような物がくっ付いていた。
    パトカーの向かう先に何かある、そう確信した士はマシンディケイダーに乗りそのパトカーを追うのであった………相変わらずスローモーションでまともに動けないユウスケと夏海を置いて。

  • 2二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:26:11

    現場へ到着したパトカー達はあるものを取り囲むようにその場に止まる。その中心にあるものは胸のプレートに『065』と書かれたプレートを下げた奇妙な怪人であった。パトカーから続々と警官が降りてくる。その腰には鈍い紺色のドライバーが巻かれていた。
    「プレーンロイミュードを捕捉!番号065!変身しただちに撃破せよ!」
    隊長格であろう男がそう叫ぶと警官達は懐から一斉に薄い板状のキーのような物を取り出し、それを腰のドライバーに装填した。
    「変身!」そう警官達は叫ぶとベルトからは警察の旭日章のマークと共に『特状』の文字が浮かび上がる。そして『立ち入り禁止』の表示がと共に警察達は眩い光に包まれ、白い装甲に青のバイザーの戦士へと変身した。
    「一斉射撃用意…撃て!!」パトカーのドアを模したこれまた珍妙な形状の白と黒の銃を戦士達は一斉に構え怪人に向けて射撃する。
    銃弾の猛攻に怪人は苦しみ、悲鳴を上げた。
    このまま撃破出来そうかと思ったその時、突如として怪人の体が大きく変質し出した。焦りだす戦士達。怪人、『ロイミュード』は素体であるプレーンの状態であればなんとか倒せるのだが『進化体』となってより強力な存在になられると一気に撃破が困難になってしまうのだ。
    進化体になる前に撃破しようと射撃の勢いを更に強めるも進化を止めることは出来ず、ロイミュード065は進化体である『ジャッジロイミュード』へとなってしまった。
    形勢逆転、次々と蹴散らされる戦士達、このままでは全滅も免れないだろうとなったその時、マゼンタの新たな戦士ディケイドが加勢に入る。
    「なんだ!?新たなロイミュードか!?」
    「いや違う…仮面ライダー、仮面ライダーだ!我々の知らない新たな仮面ライダーだ!」

  • 3二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:28:19

    『アタックライド スラッシュ』
    爆散するジャッジロイミュード、そこからは065の形をした『コア』が逃げるように飛んでいった。ディケイドはジャッジロイミュードを容易く撃破、戦士達の窮地を救うのであった。その姿を見ながら恐らく隊長格辺りであろう他の警察の者とは色違いの紫色の戦士は誰かと通信を交わしていた。
    変身を解く士に紫色の戦士が近づく。そして彼はベルトからキーを取り出し変身を解除する。そこから現れたのは如何にも生真面目で気難しそうな常に眉間にしわの寄った無愛想そうな男。
    『一条コウイチ』の名を持つその男は士に「お前…仮面ライダーなのか?ドライブ以外に進化したロイミュードに立ち向かう事の出来る存在等聞いたことが無いが?」と問う。
    「刑事にして仮面ライダー…ってとこかな」士は自慢気にその男に警察手帳を見せる。こんな胡散臭い男が捜査官…?と一条コウイチは訝しむが、ひとまず彼と共に警察署へと戻る事となった。

  • 4二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:29:11

    警察署にて士が連れられた先は『特殊状況下事件捜査課』、略して『特状課』と呼ばれる者達の集まる部屋だった。
    コウイチが特状課の扉を開ける。狭っ苦しい部屋だ。かなり人数が少ないのを見るにどうやら少数精鋭という形を取っているらしい。
    「連れてきたぞ」
    「ご苦労だコウイチクン。諸君、注目したまえ。今日からこの特状課に配属されることとなった刑事にして仮面ライダー、門矢士クンだ」
    課長席にちょこんと乗っかっている喋るベルトのバックルのようなものがそう言った。
    課長というには余りにもちんちくりんで余りにも無機質なビジュアルだが士は大体分かった、と随分雑に流すのであった。
    「そういう訳だ、宜しく頼むぜ」士は相変わらず俺様な態度で二つ並んで空いていた席の片方にどっかりと座り、早速脚を机に乗せた。どこからともなく私物を取り出して机の上に飾りだしている。
    妙に渋い声をしたこの喋るベルトは特状課の課長、『クレイン・スタインベルト』というらしい。かつては優秀な科学者としてロイミュードに対抗するための数々の警察の装備を開発して活躍していたがロイミュードの手によって命を落とし、今は彼の人格を再現したAIを搭載したこのベルトがその代わりを勤めているというわけだ。
    「警視庁内に君のような新型ロイミュードに対抗出来るまでの力を持った仮面ライダーがいたとはな。戦力不足に喘ぐ我々にとっての希望の光と言うことで急遽君をスカウトさせて貰った訳だ」クレイン・スタインベルトは笑いながら言う。
    「グヌヌヌヌ…またしてもキザで憎ったらしい男がこの特状課に…またこの私が二番手、いや三番手、いやいや四番手に回ろうとしているのか…グギギ…」
    如何にもヒステリックで卑屈で嫌味ったらしそうなオーラを纏ったブロンド髪のメガネの男、『桜井ミツハル』は悔しそうにハンカチを噛み締めている。概ねのそのオーラと実際の性格に相違はほぼないと言っていいだろう。彼は特状課の情報担当であり、インターネット上にて事件に関する情報を常に収集している。
    「あら、またいつもの顔になっていますわよ、貴方が一番手になれない理由がそこに詰まっていますわね」

  • 5二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:30:32

    ミツハルに皮肉の言葉を投げつけるのは警察署の人間とは思えない位にお嬢様と言った雰囲気を身に纏った童顔の女性。漆黒のゴスロリ衣装に身に包んだその姿はぱっと見でまず間違いなく警察関係者とはわからないだろう。『笹山ミスズ』はミツハルとは犬猿の仲らしく、バチバチと彼と火花を散らしていた。
    「期待の新人の前でみっともなく争うな。仲間同士なのにどうしてお前達はそういつも仲良く出来ないんだ?」
    大柄でがっしりした体格の如何にもリーダーシップに満ちたその男が二人を諫めると二人はフンッ!とお互いそっぽを向いてしまった。『杉田シンゾウ』は元軍人にして現在は警視庁の捜査一課。捜査一課と特状課を繋ぐパイプと言って過言ではない存在だ。
    何やら癖の強い個性派集団の集まりと言った感じのメンバーを一巡したあと、自分の隣の空席の存在に士は気づく。そう言えば自分がこの部屋に入った時には二つ、意味有り気に空席が置いてあった。その事をスタインベルトに問うと途端にメンバー達の中に重苦しい雰囲気がながれだした。
    「士クン、今君が座っている席…その席に座っていたのは以前同じ特状課のメンバーとして戦っていた勇敢にして優秀な男でね…」
    「…もう居ないのか?」
    「…あぁ、今はもう、な。彼がここに戻る事は無いだろう…今は何処で何をしているのか、我々に知る術はもう無くなってしまった…」
    「ソイツの名は?」
    「……代渡(よわたり)…」
    「!!市民から重加速現象発生の通報です!!発生地は台屋市のモール街!以前より不審人物の目撃情報がSNS上にて飛び交っていた場所です!」

  • 6二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:32:09

    スタインベルトがその男の苗字まで言った所でミツハルが叫んだ。特状課の面々はそれを聞いた途端に重苦しいムードを捨て戦う者達の顔付きに戻った。
    「出動だ諸君!ミスズクン!開発中だった対ロイミュード用神経断裂弾は使えるかね!」
    「『Piléar fuilteach a réabann─引き裂く血塗られた弾丸─』ですわね?現在使えるのはこの試作用の1発のみですわ!」
    「分かった、それも持っていこう!コウイチくんと士くんとシンゾウくんは現場へ出てロイミュードの撃破に向かってくれ!特状課、出動!!」
    「「はっ!!」」敬礼するコウイチとシンゾウ。士も見よう見まねで敬礼する。(ふぃりあー…なんだ?)と士はやけに小洒落ようとし過ぎてくどくなったその名前について考えようとしたがパトカーに乗り込む頃にはとっくにその事を忘れていた。
    三人は同じパトカーに乗り現場へと急行する。そのパトカーのボンネット部にはまたしてもあの奇妙なゴシックロリータ的な意匠のついた機械のような物がくっ付いている。士はこれが何なのか聞いてみる。
    「なぁ、このパトカーの真ん前でふんぞり返ってるあの変な箱はなんだ?」
    「知らないで戦ってたのか。我々が対処する敵、機械生命体ロイミュードは活動の際に『重加速』という相対速度の低下現象を起こす」
    士からの問いにコウイチは淡々と返す。ああ、あの時の変なスローモーションか…と士は思い返す。
    「通常では太刀打ちが出来ないそれに太刀打ち出来るようにしたのがミスズくんの発明した『重加速相殺装置』だ。重加速は発生する際に特殊なエネルギー波が生じる。それに対しこちらも同じようなエネルギー波をぶつけて相殺する事で実質重加速状態下でも動く事が出来るという訳だ。そしてコイツはそのエネルギー波を一定の範囲内に発生させて重加速を無効化するための装置なのさ」
    シンゾウの解説にあんな自動販売機の使い方も知らなさそうな雰囲気のお嬢様が機械弄り…ねぇ…と士はぼやく。「ただ…彼女は少々発明品に自分の趣味を出しすぎるきらいがあってね…」とシンゾウが続けると「だろうな」と、改めて見てもまるでパトカーと似合って無い黒のフリフリを見ながらそう零した。

  • 7二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:33:39

    「着いたぞ、現場だ」運転席のコウイチが告げる。コウイチとシンゾウの腰にはあの紺色のドライバーが。
    パトカー達が現場であるショッピングモール街に到着する。破壊活動を行うプレーンロイミュードが3体。士達に気づくと「チッ、現れやがったか」と襲いかかる。
    「これよりロイミュードを撃破する!総員、変身せよ!」警察達が一斉にキーをベルトに装填し白い戦士へと変身した。コウイチは色違いの紫色、シンゾウは赤色の戦士になっている。
    彼等が変身するのは『量産型仮面ライダーマッハ』。かつて特状課でロイミュードに対抗する為に開発されたものの使い熟せる物がとうとう現れずやむを得ず凍結された戦士『仮面ライダーマッハ』を特別な資質を持たない者でも変身出来るようにデチューンし量産化した物だ。
    量産化マッハを指揮する隊長は赤色の、それを補佐する副隊長は紫色のカラーリングとなっているのだ。
    「総員、かかれ!」量産化マッハがロイミュード達に突撃する。敵対するロイミュードの番号はそれぞれ023、070、074のスパイダー型ロイミュードが一体とコブラ型ロイミュードが2体だ。プレーンロイミュードにはスパイダー、コブラ、バッドの三種が存在するがその内バッドのみが飛行能力を有している。そうなると機動力では完全に警察側が劣る形となるのでその分取り逃す頻度も多くなるのだがそのバッド種は今回この場にはいない、よって相手は地上戦を余儀なくされる。量産化マッハ達は白と黒の、まるで車のハンドルのようなものがくっ付いたこれまた珍妙な剣を取り出し、ロイミュード三体に一斉にかかっていった。正式名を『claíomh imrothlach na cinniúint─廻る運命の剣─』と言うらしいが長ったらしすぎて覚えられないため警察の者達にはもっぱら『剣』で通っている。笹山ミスズの感性はやはり常人には理解し難い。

  • 8二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:36:09

    進化体になられる前にプレーンロイミュードを撃破する。警察側にはミスズの開発した秘密兵器、『神経断裂弾』が一発だけある。
    これは機械生命体であるロイミュードに着弾した瞬間にその身体に走る中枢神経をコアごと破壊するというかなり強力な兵器だがその分量産化が難しくまだ全国の警察に配備されるに至っていないシロモノだ。
    今回のロイミュードの数は三体。内一体をこれで倒せればそれだけで成果を挙げられた事になるだろう。
    「やれやれ…休ませてくれそうにないな」士もディケイドに変身して量産化マッハ達に加勢する。
    量産化マッハやディケイド達が必死にロイミュード達を抑えている間にシンゾウの変身する隊長量産化マッハがその神経断裂弾を装填した銃…『Gunna a osclaíonn an doras don sanctóir─聖域への扉を開く銃─』を構えた。大層な名前だが見た目はまんまパトカーのドアである。シンゾウは三体の中での恐らくリーダー格であろうロイミュード023に標準を合わせた。トリガーを引こうとしたその時、量産化マッハの大軍を抜け出した023がシンゾウの元に飛びかかってきた!強烈な一撃を食らってしまった事でシンゾウは変身が解除されてしまう。
    「隊長!!」
    「潰される前に潰してやる」ロイミュード023が拳を振り上げる。生身の体でそれを食らえば一溜まりもないだろう。シンゾウが目を瞑ったその時、ロイミュード023の体は突如何かがぶつかった事で跳ね飛ばされた。
    「大丈夫ですか刑事さん!?」それを跳ね飛ばしたのはトライチェイサー2000に跨がった赤き古代の戦士…小野寺ユウスケが変身した仮面ライダークウガだ。クウガは刑事の無事を確認した後徐々に量産化マッハ達を振り払うようになったロイミュード達に向かっていった。
    クウガの拳がロイミュード070の頬に炸裂する。070は吹っ飛ばされ地を滑った。クウガが必殺の構えをとる。右足にエネルギーを収束させながら地を独走し、そして地を勢いよく蹴り飛ぶ!
    「おりゃぁぁぁぁぁっ!!」
    炎のエネルギーを纏った右足で相手を蹴り強力な破壊のエネルギーを送り込んで爆散させる仮面ライダークウガの必殺技、マイティキックがロイミュード070に炸裂した。

  • 9二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:38:11

    「ぐおおおおおぉぉぉっっ!!」爆散するロイミュード070。破壊のエネルギーはコアまで行き届き爆発から出て来た070のコアをも砕け散るのであった。
    「おのれぇっ!!」仲間がやられた事に怒るロイミュード074がクウガに飛びかかる。
    「危ないっ!」シンゾウは咄嗟に銃を構えそれを発砲した。すんでのところでそれは074に命中し074はコアごと爆散。神経断裂弾の威力が証明された瞬間だった。
    多勢に無勢。一人残されたロイミュード070はもう勝ち目は無いと見て逃走しようとするがディケイドがそれを逃さない。
    『アタックライド ブラスト』
    分身するライドブッカーガンモードから放たれた無数の弾丸が070の体をコアごと撃ち抜くのであった。
    「次から次へと新たな仮面ライダーが現れる…一体どうなっているんだ…?」と変身を解いたコウイチは不思議がるが「少なくとも我々の敵では無さそうだ」とシンゾウは何処か安堵した様子だった。
    残心するクウガ。すると遠くの建物の影から今の戦いの様子をじっと見つめる灰色のコートを身に纏った無精髭の男がいた。その男はクウガと目が合うやいなや、そそくさとその場を立ち去ろうとするのであった。怪しい、そう感じたクウガは彼の後を追う。
    近くのスタジアム駐車場まで追いかけた所でコートのその男はクウガにこう言う。
    「ボウヤ、悪いんだがこれ以上俺に近づかないで貰えるかい?アンタのその赤色はちょいと俺には眩しすぎるんでね…」
    赤…この体の色をか?クウガは変身を解きユウスケの姿へと戻った。
    「アンタ…何者なんだ?もしかしてあの怪人達の仲間なのか?」
    「…何者でもないさ。錆びまみれの動かなくなったスーパーカー…死んだも同然の世捨て人だよ」
    その男は自嘲するように言う。錆びまみれのスーパーカー…きっとその目もかつては輝いていたのだろう。
    「ボウヤも仮面ライダーなんだろう…?街を頼んだよ…アイツの代わりに、な…」
    そう告げてその場を去ろうとするその男にユウスケは問う。「待てよ!意味深な言葉を繰り返されたって分からないさ。せめて教えてくれよ…アンタの名前」

    「…シンノスケ。代渡シンノスケ。この世で最も『赤』という色を憎む男、さ…」
    ───────────────

  • 10二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:42:15

    『アクセルを踏み込むのはだれか』

    三体のロイミュードを撃破した警察はその後の事後処理にあたっていた。件のロイミュード達はある解体工の男達をコピーし、その男達の行動をなぞって建物を次々と『解体』していたのだった。
    警察達が世話しなく動き回る様を士は眺めている。そこにユウスケがやってきた。
    「随分と早い″慣れ″だったな」重加速の中まともに動けなかった筈のユウスケが今回はまともに動けていた事を不思議がる士。「いやぁホントに…慣れ、だったのかな、動きたい、動きたいって強く思ったら今度は動けるようになったって言うか…?」ユウスケも余り分かってないようだ。「…大体分かった、お前も大概ムチャクチャな奴だって事がな」ユウスケの体内に眠る進化し続けるベルト″アークル″が重加速に適応出来るよう急速に進化したのだと言うことを二人は知るよしも無かった。
    「そういやさっき変な奴にあったよ、キザな台詞をよく言う奴だった。名前は…シンノスケ、だったかな」
    「シンノスケ……だと!?」「おいお前、ホントに、ホントにシンノスケを見たのか!?シンノスケに会ったのか!?」
    その名前を聞いた途端近くに居たシンゾウとコウイチは過剰過ぎるとも言える位の驚きを見せた。予想だにしない反応にユウスケは戸惑う。
    「あぁ、確かにそう名乗ってたよ。代渡シンノスケ、俺は錆び付いたスーパーカーだ─って」
    その言葉を聞いた途端シンゾウとコウイチは今度は何処か感慨に浸るかのような表情を見せる。─代渡シンノスケ─この男がどうやら鍵を握っているようだと、士はライドブッカーから取り出した仮面ライダードライブのカードを見た。その色はまだ失われたままだった。

  • 11二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:45:32

    「代渡シンノスケ…その名を聞くのもいつぶりかだな…」
    特状課に戻った士達がその名を口に出すとクレインスタインベルトもまた、しみじみとした表情を見せた。
    「彼はとても優秀な捜査官だったよ。他より突出した推理力の持ち主でね。ギアが入った時の彼によって解決された事件はもう数え切れない位さ」
    「そしてソイツは同時に仮面ライダーでもあった。ロイミュードを倒す為に生まれた戦士、仮面ライダードライブ。そうなんだろ?」士の追求をスタインベルトは「いや、違う」と否定する。そのシンノスケという男こそがこの世界の戦士である仮面ライダードライブだと踏んでいたが為に士も驚きの様子を見せた。
    「彼…代渡シンノスケにはバディが居てね。彼と肩を並べるレベルの凄腕の捜査官だった」
    士は自分の隣の空席を見た。恐らくその『バディ』が座っていたのだろう。
    「ソイツは今何処にいるんだ?」士が問うと皆一斉に顔に影を落とし、沈黙する。そしてシンゾウの重たく暗い一声がようやくその沈黙を破った。
    「いないよ。もう、何処にも」

    ユウスケは警察が撤収した後の事件現場付近にまだ残っていた。さっきからあの男の事が気になって仕方が無いのだ。まだ近くにいるかもしれない。そう信じて彼はトライチェイサー2000を駆っていた。
    だがしばらく探しても彼の姿は見当たらない。1回出直そうかと思ったその時。
    「キャーーーーーッッ!!誰か、誰かーーっ!!」
    甲高い悲鳴。見ると地に倒れた女性と、大きな鞄を持って走って逃げている男。目の前でひったくりが起きている事は誰の目で見ても明らかだ。男を取り抑えようとユウスケが駆けだした時だった。

    「うぉっ、何だお前っ、ぐっ…クソッタレ!」
    ひったくり犯の前に突然男が立ち塞がり、ひったくり犯をスムーズかつスピーディーに取り抑えた。ひったくり犯をうつ伏せに寝かせ両腕を背に回し固定する。ユウスケには分かる。この男の逮捕術はかなり手慣れたものであると。とするとこの男は警察の者…?顔を見てユウスケはあっ、と声を出してしまった。
    「!………やれやれボウヤかい。地球ってのは案外と狭いもんだねぇ」
    灰色のコートに無精髭、そして妙に鼻につくキザな台詞回しはユウスケが探していたあの男、代渡シンノスケそのものだ。

  • 12二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:47:08

    通りがかりの巡査にひったくり犯を引き渡し、ユウスケはトライチェイサー2000を押してシンノスケの後をついていく。「2回も顔を合わせるって事は俺達はただの他人同士ではないって事だ」と言うシンノスケの行く先は山奥の中のオンボロな一軒家だった。シンノスケはここに住んでいるらしい。
    埃っぽい茶の間に通された。ちゃぶ台の周りをサンドバッグにルームランナーにダンベルに…とトレーニング器具が所せましと囲んでいる。
    「特に大した物も出せやしないがね」そう言ってシンノスケはユウスケに麦茶と小皿に大量に入った飴玉を出した。「ひとやすミルク」と包装紙に書かれている。ミルク味のようだ。
    (客に飴玉ってあんまり出さない気もするけどな)と内心でぼやきつつもユウスケはその飴玉を一つ口に入れる。まろやかなミルクの味わいが口の中に広がった。
    「ボウヤも色々頑張ってる内にガス欠を起こす事だってあるだろう。コイツはそんな俺達のハートに再び熱いガソリンを注いでくれるのさ」
    随分と燃費の良い男なんだな、とユウスケは変に関心した。そう言えば彼には聞かなきゃならないことがある。
    「貴方は…警察の人間なんですよね?」
    「…『元』、な。今は見ての通りゴミ山のスクラップみたいな余生を過ごしているがね」
    シンノスケは窓の向こうを見て黄昏れる。曇り空だった。
    「警察の…刑事の人達が貴方の事を案じていましたよ。定年にはまだ全然早いだろうにどうして…」
    「…あの日、俺の心は止まっちまった。重加速でも食らったみたいに、動かなくなっちまったのさ」
    「…最初にあった時こう言いましたよね、『ボウヤも仮面ライダーなんだろう』『アイツの代わりに』って…ずっとその言葉がひっかかってたんです。あの意味有り気な言葉には恐らくその日が絡んでる。違いますか?」
    「…その通りさ。来た道を振り返るってのも時にゃ悪く無い。俺も久しぶりに振り返りたくなっちまったよ…」

  • 13二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:52:01

    「何処にもいないだと…?どういうことなんだ?」
    シンゾウの口から発せられた言葉に士は戸惑う。

    「そのままの意味ですよ。もう居ないのです、この世には」ミツハルのこの言葉が全てを物語っていた。

    「仮面ライダードライブ…5年前までロイミュードとの戦いで最前線へと立っていた戦士…まさしく救世主のような存在でしたわ。あの忌々しき出来事が起きたあの日までは…」そう語るミスズの顔は青ざめていた。


    「仮面ライダードライブは…5年前にロイミュードの手にかけられ殉職した。変身していたのはかつて代渡シンノスケとバディを組んでいた優秀な捜査官…」スタインベルトは一度口篭もる。が、必死に捻り出すようにその名前を口にした。





    「『実加戸(みかど) キリコ』……だ」

  • 14二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:55:12

    ─5年前─

    「嬢ちゃん!ミスズの嬢ちゃんから新しい武器を預かってきた!これを使え!」

    廃工場内にて赤いスポーツカーのような見た目をした戦士、仮面ライダードライブとロイミュードが交戦している。
    ロイミュードの攻撃に圧され気味だった所にシンノスケが駆け付け、ミスズから預かってきた新兵器をドライブに投げ渡した。
    「!有難う御座いますセンパイ!ってこれ…何?剣に…ハンドルがくっ付いてる…?ど、どういうこと…?」
    「『claíomh imrothlach na cinniúint─廻る運命の剣─』…だそうだ、ミスズの嬢ちゃん、相変わらずいいセンスしてやがるぜ」
    「…あーもう長ったらしい!こういうのは『ハンドル剣』とかでいいでしょ!」
    「キリコクンのその安直なネーミングもそれはそれとしてどうかと思うが…」ヤケクソ過ぎるネーミングにドライブの腰に変身ベルト『ドライブドライバー』として巻かれているクレインスタインベルトは軽くツッコミを入れた。
    「『その剣はタイプワイルドと合わせる事で真価を発揮する』ミスズの嬢ちゃんからの伝言だ!」
    「タイプワイルドですね!ベルトさん、タイプチェンジしますよ!」
    「OK!来たまえ!」
    仮面ライダードライブの左手首に巻かれた『シフトブレス』に装填されている赤いシフトカーの『シフトスピード』を取り外し、そこに黒い『シフトワイルド』のシフトカーを装填した。
    装填されたシフトカーをレバー操作すれば仮面ライダードライブはスタイリッシュな赤い姿からマッシブで黒い『タイプワイルド』へと姿を変える。見た目の印象に違わぬ力自慢の形態だ。
    「これで一気に決めます!」ドライブがハンドル剣のハンドルを回しクラクション部を押して必殺の構えを取った。『ターン!ドリフトカイテーン!!』とスタインベルトが高らかに叫ぶ。
    エネルギーを溜め、まるで嵐のように高速回転しながらロイミュードを切りつけた。爆散するロイミュード。コアも同時に砕け散った。
    事件の元凶であったロイミュードを撃破したことでこれにて一件落着、ドライブはシフトブレスからシフトワイルドを抜き取ってイグナイダーを押し、変身を解除した。
    「Nice driveだキリコクン!」スタインベルトが労りの言葉をかける。変身を解いて仮面ライダードライブから出て来たのは紺のレディスーツに身を包んだロングヘアの美女、実加戸キリコだった。

  • 15二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:56:21

    「今日も素晴らしい活躍ぶりだったよキリコクン!」
    「いやぁ…はは、ミスズさんの作った新しい武器のお陰ですよ…あの…ハンドル剣でしたっけ?」
    「『claíomh imrothlach na cinniúint─廻る運命の剣─』ですわ、回るハンドル…それはまるで輪廻転生、くるりくるりと廻る命のよう…そしてそれは時に無慈悲かつ残酷に引き裂かれる…そんな意味を込めて名付けましたの。如何だったかしら?」
    「は、はは…いいんじゃないでしょうか」どうでも…と内心でキリコは付け足した。
    「嬢ちゃんも大分タイプワイルドを使いこなすようになっていたな。前までこんな重たいのとてもじゃないけど扱えないですわよなんて言っていたのが嘘のようだぜ」
    「あ、有難う御座いますセンパイ!…ですわよ?」
    「あぁ、アレと同じ位に今回の嬢ちゃんはワイルドだったなァ。アレ…そう、この間のバレンタインデーに俺と二人っきりになった時みたいに…」
    「せ、センパイ!!そういうのセクハラですよ!!ハンザイです!!タイホです!!」
    「『センパイじゃなかったら』、か?」
    「~~~~~~~~っっ!!バカ!センパイのバカバカバカっ!!エッチ!!ハレンチ!!」
    シンノスケのキザったらしくて甘ったるいったらない言葉にキリコは顔を真っ赤にして抗議した。その様をロイミュード以上に恐ろしい形相で見ていたのがミツハルだった。
    (アイツめぇ~~~~!!今日も今日とてこの私を差し置いて憧れであり麗しのキリコ先輩と目の前で堂々とイチャつきやがってぇ~~~!!見てろよぉ~~!!いつか必ず私に嫉妬させてやる~!!私に嫉妬するその顔を拝んでやるからな~!!)ハンカチを食い千切りそうな勢いで噛みながらミツハルは野心を燃やすのであった。この男はまた何かよくは分からないが良いものではないであろう事を企んでいるのだろうなとコウイチは彼を見る。
    「ミスズくん、今回にて実践投入されたあの剣なんだが量産化は難しいのか?」シンゾウはミスズにそう問う。実動部隊の隊長である彼にとって新しい装備、というのは重要な話だ。
    「量産化するとなると色々と機能をオミットする形にはなりますわね。シフトカーの読取機能をオミットしてそれからあれも…これも…」

  • 16二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 21:59:09

    特殊状況下事件捜査課、略して特状課の活躍は目覚ましいものだった。外部から様々なエキスパートを呼び寄せ様々な超常現象─主にロイミュードの巻き起こす事件─を解決する組織として立ち上げられたが最初は変人の寄せ集め集団と見くびられていたのだ。だが彼等はロイミュードの引き起こす難事件を次々と解決へと導き、見事下馬評を覆した。中でもクレインスタインベルトが対ロイミュード用に開発した戦士、仮面ライダードライブはそれに大いに貢献した。
    仮面ライダードライブは誰でも変身出来るというわけではない。変身の際に身体に強い負荷がかかるため並大抵の者は変身する事すらままならない。そんな中でただ一人だけ仮面ライダードライブに適合出来る者がいた。それが実加戸キリコだったのだ。彼女は生まれつきの筋肉が普通よりも異様に柔軟である特異体質であり、それがドライブの変身者となれたカギとなったのだ。
    ───

  • 17二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:00:10

    「本当は俺が彼女の代わりにドライブとして戦ってやりたかったさ。その為にスタインベルトに何度頭を下げて頼んでも結局最後まで変身出来た試しは無かったがね」だからせめて俺は前線で戦う彼女を捜査官として全力でバックアップすると誓ったんだと続ける。その顔は今までの全てを諦観しきったような笑顔とは違い良き思い出を懐かしむ優しさに満ちた笑顔だった。これがこの男の本当の笑顔なのだろうとユウスケは悟る。
    だが今度は眉間にしわを寄せ重く苦しげな表情でこう切り出す。
    「だが…あの日全ては変わった。そして俺の時間は…ここで止まっちまったのさ」

    ───
    「はぁっ…はぁっ…来て、シフトフレア!」

    燃ゆる炎のようなシフトカーが飛来しシフトブレスに装填される。レバーを動かすと襷のようにドライブの上半身にかけられていたタイヤが外れ、新たに炎の意匠があしらわれたオレンジ色のタイヤが装填された。
    『タイヤコウカーン!!マックスフレア!!』

    防災地下水路にて仮面ライダードライブとロイミュードが交戦している。戦いは長期戦にもつれていた。胸にかけられたプレートに刻まれたナンバーは001。始まりを示す数字だ。
    氷の力を自在に操る進化体である『フリーズロイミュード』はこれまでのロイミュード達とは強さも格も違う。ドライブは苦戦を強いられていた。
    「これなら…!!」
    炎を纏った連続パンチがフリーズロイミュードを追い詰める。氷は炎で融かしてしまえばという安直とも言える発想は存外上手くいっているようだ。
    『フレアフレアフレア!!』
    ブレスに収まったシフトフレアを3度倒して『シフトアップ』する。こうすることでそのシフトカーの力を更に引き出す事が出来るのだ。
    「やぁぁぁっ!!」炎を纏った巨大な竜巻を発生させるドライブ。それをぶつけられたフリーズロイミュードは空に巻き上げられ地下水路の天井をブチ抜いた。

  • 18二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:03:33

    地上のダムには豪雨が降り注いでいた。
    ドライブの猛攻を喰らった事でフリーズロイミュードは疲弊している。地上に上がったドライブはそれを確認し倒すなら今しか無いとイグニッションキーを捻ってイグナイダーを押し、レバーを倒した。フリーズロイミュードの周囲を取り囲むように4つのタイヤが高速回転しながら現れた。それは敵の体めがけ収束し、対象を空中へと高く押し飛ばす。

    『ヒッサーツ!!フルスロットル!!フレア!!』

    ダムに隣接する山からスポーツカーのような真紅のビークルが飛び出した。『トライドロン』、それは仮面ライダードライブの愛車であり頼れる相棒でもある。
    トライドロンは空中に打ち上げられたフリーズロイミュードの周囲をグルグルと高速で走行し、そこにドライブも高く飛び上がった。
    高速回転する事で敵を取り囲む赤い壁となったトライドロンをドライブは蹴り、ロイミュードに蹴りを叩き込む。まるでピンボールのようにドライブは何度も壁を蹴って跳ね返り、何度も渾身の蹴りを見舞った。そしてトドメの一発、最大限の火力を右足に集中させ、改心の一撃を喰らわせたのであった。
    「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
    渾身の必殺『フレアドロップ』にフリーズロイミュードは敗れ、爆散した。

  • 19二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:05:38

    強敵であったが苦闘の末になんとか勝利を収める事が出来た。肩で呼吸をするドライブ。
    ブレスからシフトカーを引き抜いてイグナイダーを押し、ドライブは変身を解いた。戦いの熱で熱くなった体を冷たい雨が冷やす。
    そこに戦いの様子を遠巻きに見ていたシンノスケが駆け寄る。「またしてもお手柄だな、嬢ちゃん」
    「いえ…フリーズロイミュードを倒せたのはセンパイのお陰ですよ。奴は検事局局長になりすましその立場を利用して敗訴した検事達から『屈辱』の感情を吸収する事で自身を強化していた。彼等はその際の記憶を都度消され奴に感情を知らず知らずの内に捧げ続けられていた…」
    「シンノスケクンが記憶を消されなかった特異体質の被害者である検事の耳の裏に謎の『氷の痕』があることに気づいてからは流れるように犯人特定に行き着いたな。調査の結果同じ検事局に所属する検事達にも皆共通してその痕があった、そんな大人数の検事達を食い物にするのに都合の良い立場にいる男…ソレが検事局局長だったという訳だ」腰から外れトライドロンの運転席の台座に収まったスタインベルトがそう付け足した。
    「センパイが居なかったら私達はずっと奴を野放しにしていた所でしたよ。本当に有難う御座います」
    「こちらこそ有難うよ。ここは冷える。そろそろ帰ろうか…」
    敵を倒しこれにて事件は解決。特状課に帰投しようとシンノスケとキリコがトライドロンに乗り込もうとした時だった。

    キリコが何かに気づいた。すると突然何も言わず切羽詰まった様子のキリコにシンノスケは思い切り突き飛ばされた。何が起きたのか理解出来ずにいたその刹那。

    キリコの腹部を、突如白き閃光が貫いた。

  • 20二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:07:54

    腹に大きな穴が空いたキリコが地に倒れた音を聞いた時、ようやくシンノスケははっとなり、キリコに駆け寄った。


    「………………キリコ…?」
     

    「なぁ……キリコ…………オイ……目を開けてくれよ………キリコ………」

    既にその体から熱は失われていた。即死だったのだろう。シンノスケの問いに彼女が答える事はもう無かった。

    「………フン、外しましたか。私の計画を何もかも完璧に解き明かし、今までに無い屈辱を味あわせてくれた男、代渡シンノスケ。お礼として地獄への片道切符をプレゼントしようと思ったのですが…目障りだった仮面ライダードライブを葬れたのは嬉しい誤算でしたね」

    キリコが倒した筈のフリーズロイミュードは死んでいなかった。それどころか、彼は仮面ライダードライブに敗北した『屈辱』の感情をトリガーに進化を超越した『超進化』を遂げていたのだ。
    力を誇示するが如く輝く黄金のロイミュードはその場を去った。後に残ったのは、もう目を覚ますことの無くなったキリコとそれを抱えるシンノスケのみ。

    「キリコ、キリコお願いだ!!目を覚ましてくれくれ!!またいつもみたいに……笑ってくれよ……キリコ…!!!キリコ……………!!!」

    キリコの亡骸を抱えるシンノスケが纏う純白のYシャツがまるで藍染めのように、赤黒い血に染まっていった。大きな手の平には温もりの無くなった真っ赤な血が広がっている。

    「ぁ…ぁぁあぁ…………」


    「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!!─────」


    シンノスケの悲痛な絶叫は無慈悲にも豪雨によってかき消されるのであった─

  • 21二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:12:08

    ───

    「アイツは…最期の別れの言葉すら残せず死んだのさ」

    シンノスケは両の手の平を広げた。今でも忘れられない。忘れられるわけが無い。あの鮮血。シンノスケは必死にそれを掻き消すように手を握った。

    「そこからは…記憶が無い。俺の心がソイツを立ち入り禁止のテープでグルグル巻きにしちまったらしい。気が付く頃には俺は全てを失っていたよ」
    沈痛なその横顔をユウスケもまた重い面持ちで見ていた。この感覚、ユウスケには覚えがある。
    「以来俺は赤という色を憎むようになっちまった。ソイツを見るたんびに思い出しちまうからな…一番近くにいたのに、愛する人を守れなかった愚かで情け無い自分を…」
    「…」
    「俺の時間はもう…動かない。アイツが死んだ時、俺も同時にまた、死んじまったのさ…」

    「まだ貴方は死んでないよ、シンノスケさん」

    ハッキリと、力強い信念が込められたユウスケの言葉にシンノスケは戸惑いの表情を見せる。
    「……どういうことだい?ボウヤ…」
    「貴方の時間は止まってなんか無いし、もう動かない錆びたスーパーカーでもない。貴方は今もまだロイミュード達と戦おうとしているんだ」
    「…気休めの言葉なら止してくれよ。ボウヤに俺の何が分かるんだい?」
    「分かるよ。俺も……失ってるから。警察官として最期まで勇敢に戦った、尊敬する人を」
    「………!!」

  • 22二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:13:21

    「その人さ…最期に俺にこう命令したんだよ。『世界中の人の笑顔の為に戦えば、貴方はもっと強くなれる。それを私に見せて』…ってさ。そしてその世界中の人には勿論シンノスケさん、貴方も入ってる」
    「…」
    「そしてそれは貴方も同じ。今も貴方はキリコさんの遺志を継いで皆の為に戦う事を諦めてない」
    ユウスケは近くにあったサンドバッグを触る。それはまだ新しく、拳の跡が幾つも残っていた。
    「俺は貴方の笑顔を守りたい。貴方の笑顔…その、悪くないから」少し気恥ずかしそうにユウスケは言った。
    その時、シンノスケのスマートフォンが鳴った。重加速が発生した際に市民からの通報によってその地点が共有されるアプリ。それによると発生地点はこの街の中心地にあるスタジアムであった。その範囲は一定のペースで徐々に広がっている。
    「シンノスケさん、俺行かなきゃ。これ以上誰の涙は見たくないからな」
    ユウスケはヘルメットをかぶり外に停めてあったトライチェイサー2000に跨がると、シンノスケに向けて笑顔で右手の親指を立ててみせた。曇り空の晴れた青空を下をユウスケは駆ける。その後ろ姿を見て「これも運命なのかもしれないな」キリコ、と続けると彼はコートのポケットからスマートフォンを取り出した。

  • 23二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:15:10

    「無駄だ無駄だ!今や私を止められる者など誰一人としていない!再びこの世界にグローバルフリーズを起こし、ロイミュードがこの世界の支配者となるのだ!!」

    フリーズロイミュードは天高く浮かび上がり高らかに笑った。グローバルフリーズ…かつてこの世界でロイミュード達が起こした惨劇。世界中が重加速に包まれ、甚大な被害を出した。
    それを食い止めたのがクレインスタインベルトとそれを腰に巻いてロイミュード達への軍勢へと立ち向かった伝説の戦士、『プロトドライブ』だった。彼の尽力によってロイミュード達は全て撲滅され、その野望は打ち砕かれた。プロトドライブは後に復活したロイミュード達との戦いに敗れ戦死してしまうものの今まで市民が平穏に暮らすことが出来ていたのは彼のお陰と言って過言ではないだろう。最もその市民の平穏が今、再び揺るがされようとしているわけだが…
    「くっ、数が多すぎる…!」コウイチの変身する紫色の量産型マッハはそう零さずにはいられい。フリーズロイミュードの手下であろうプレーンロイミュードの軍勢に量産型マッハ達は苦戦を強いられていた。空中から襲いかかるバット型のロイミュードを迎撃する事で手一杯なのだ。
    「地上のロイミュードはこちらに任せろ!お前達の班は空中のロイミュードの撃墜に専念するんだ!」シンゾウの変身する赤い量産型マッハはハンドル剣で応戦しながらそう指示した。
    「クソっ、お高く止まりやがって!」
    ディケイドはまさしく天にお高く止まった敵を睨みながらライドブッカーからカードを取り出した。
    構えたそれをドライバーに装填する。
    『カメンライド 龍騎』
    ディケイドは仮面ライダー龍騎にカメンライドするとすかさずもう一枚のカードを取り出し、ドライバーに装填する。
    『アタックライド アドベント』
    するとけたたましい咆哮と共に鏡から赤い龍が現れた。仮面ライダー龍騎が使役するミラーモンスター、ドラグレッダーだ。
    ドラグレッダーは空中のロイミュード達を次々と散らし、フリーズロイミュードへ突っ込んで行く。
    「愚かな…なんであろうとこの私の敵ではない!」
    フリーズロイミュードは向かってきたドラグレッダーを無数の破壊光線で迎撃した。正確無比にして強力な攻撃にドラグレッダーは地に沈み消滅する。本当に奴を止められる者はいないのかと一同が諦めてかけたその時。

    「ぐぉぉおっ!?」

  • 24二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:18:59

    フリーズロイミュードの体を一発の弓矢が貫いた。完全に不意を突かれ地に落とされる形となる。
    その矢の主はスタジアムの天井に立っていた。
    金と黒と緑のボウガンを持った緑色の戦士。超感覚を持ち味とする『ペガサスフォーム』に『超変身』した仮面ライダークウガだ。
    「ユウスケ!!」そう叫ぶ士の声は何処か嬉しそうだ。クウガは再び超変身し、赤のクウガ、マイティフォームへと変わる。スタジアムの天井から飛び、地上に降り立った。
    「お待たせ、士!」
    「ヒーローは遅れてやってくる…ってやつか?」
    いや、真のヒーローはまだ遅れそうだ、とユウスケは続けた。
    「……ふ、ふふふふ……何人だろうと同じです。纏めて氷付けにしてくれましょう」
    クウガとディケイドがフリーズロイミュードの放つ光線をくぐり抜け突き進む。渾身のWパンチを見舞うがまるで効き目が無い。掌底打ち一発でWライダーの体は宙を舞った。
    「こうなりゃ…二人で一気に技を叩き込むぞ」
    ディケイドの言葉にクウガは頷く。ディケイドはカードをドライバーに装填し、クウガは右足にエネルギーを溜めた。二人が同時に飛び上がる。
    『ファイナルアタックライド ディディディディケイド!!』ディケイドライバーが高らかに叫ぶとディケイドとフリーズロイミュードの間に10枚のカードのホログラムが現れた。ディケイドはそれらを突き破るように蹴りを放つ。その隣でクウガもまた、右足に炎を纏わせマイティキックを放つ。Wライダーキックはフリーズロイミュードに直撃した。が…
    「……二人分でこの程度とは残念ですよ」
    まるで動じていない。出鱈目なまでの強さだ。
    直後フリーズロイミュードの放った光線がライダーを狙う。凄まじい爆発に飲まれたディケイドとクウガにはいよいよ体の限界が近づいてきた。地に伏せるライダー達にフリーズロイミュードが最後の光線を放った時だった。

  • 25二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:20:06

    光線が当たるすんでの所で二人の前に真紅のマシンが現れ、二人を守ったのだ。

    「「トライドロン……だと!?」」シンゾウとコウイチはいつぶりかに見たそのマシンに驚きを隠せない。トライドロンを使いこなす事が出来るのはシンノスケとキリコだけだったが為に出撃の機会が無かった物が今こうして再び目の前にある。

    「やれやれ…ドライブピットの中で埃被っていたコイツを動かす日が再びやってくるとはね」

    ドアを開け、中から現れた運転手の腰に巻かれたスタインベルトは嬉しそうに言う。
    その運転手の顔を見た途端この場にいた者は皆驚愕し、その中でただ一人はユウスケは嬉しそうに頬笑むのであった。


    「代渡……………シンノスケ……!!」



    「………俺はずっと、この日を待っていた。その為に5年間、ひたすら調べ、そして己を鍛え上げた。全てこの日の為に。

    ………実加戸キリコが走れなかった分まで俺が走る為に!!」

  • 26二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:21:50

    「…シンノスケクン、君から5年越しの連絡を貰った時、私は君を信じ続けていて良かったと心の底から思ったよ。いくら心がエンストしようが体がパンクしようがガムシャラになって走り続ける、そんな熱いハートを秘めた男だと、私はそう信じ続けていた」ドライブドライバーにはスタインベルトの笑顔が表示されていた。

    「代渡シンノスケ………代渡シンノスケ………!!覚えていますよ…5年前のあの日、私にとてつもない屈辱を味あわせた男…目の前で仮面ライダードライブが殺されるのを見て震えて逃げていった愚かで哀れな臆病者……」

    「それは違うな」フリーズロイミュードの言葉を士の否定が切った。

    「この男は愚かでも…哀れでも…ましてや臆病者でもない。喩えどんな耐え難い絶望に叩きのめされようと愛する者の為に一途に走り続ける事の出来る真っ直ぐな男だ…そしてこいつの目の前に道を阻む壁が立ち塞がるのであれば…

    俺がこの手でそれを破壊してやる…!」

  • 27二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:22:56

    「行くぜ課長…いや、ベルトさん…!ようやくギアが入ってきたぜ…!」
    「OK,シンノスケクン!今の君であれば乗りこなせる筈だ!仮面ライダードライブの力を!start your engine!!」

    イグニッションキーをひねり、ホルダーに付けられていたシフトスピードを取り出しシフトブレスに装填する。レバーモードになったシフトカーを押し倒し、ここでシンノスケは1度深く息を吸い、そして吐いた。そして力強く彼は謳う!!

    「変身ッッ!!」

    そしてかつて『彼女』がそうしていたように、手を大きくおもむろに回す動作を取り、それをバッと腰の横に広げた。シンノスケの体が眩い光に包まれ、燃ゆるような真っ赤な戦士になったかと思えばトライドロンのタイヤがすっ飛び、それは強い衝撃と共に戦士の上半身にハマった。

    『ドライブ!!タイプスピード!!』

    スタインベルトが高らかに叫ぶ。かつて実加戸キリコが変身し数々のロイミュードを撃破してきた伝説の戦士、仮面ライダードライブが5年越しにこの地に立った瞬間だった。

  • 28二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:23:59

    シンゾウとコウイチはマスクの下で目を丸くし、やがて涙を流した。罪なき市民がロイミュード達によって理不尽に傷つけられるのが許せない、助けた人達の笑顔があれば自分はいつまでも戦えるとキリコが語っていたのを思い出していた。その遺志は今、立派にシンノスケに継承されたのだ。

    「ふぅ…なんだか不思議とギアがグングン上がっていってる気分だ。キリコもこんな気持ちだったのかな」
    「シンノスケさん!」
    「…そう言えば名前を聞いてなかったな、ボウヤの名前、聞かせて貰えるかい?」
    「ユウスケ。小野寺ユウスケです!」
    「そこのピンクのアンタは?」
    「ピンクじゃない、″マゼンタ″だ!!………ディケイド。仮面ライダーディケイド。通りすがりの仮面ライダー、とでも覚えておけばいいさ」
    「オッケー、ユウスケに通りすがりのボウヤ、″俺達″のひとっ走り、アンタ達も付き合えよ!!」

    ディケイド、クウガ、ドライブの三大ライダーがフリーズロイミュードに一斉に攻撃を仕掛ける。息のあった連続攻撃にフリーズロイミュードは徐々に押されていく。その顔面にドライブが一発パンチを入れようとした所をフリーズロイミュードはすんでで受け止めた。

  • 29二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:26:10

    「ロイミュード001、フリーズロイミュード…会いたかったよ。ここでまた会わせてくれるとは神様もとんだ粋なサービスをしてくれるぜ」
    「黙れ!所詮はあの時葬ったのと同じ仮面ライダードライブだ!キサマもまたあの世に送ってやる!」
    「分かってないねぇ…今、俺の隣にはキリコが乗っているのさ、つまり俺は今2人分の力で戦っている!!あの時と同じな訳が無いんだよ!!」
    受け止めた手をも押し切りドライブはフリーズロイミュードの顔面がめり込む程の強烈な拳を見舞った。「ちなみに私を含めたら3人分だ」とスタインベルトがシンノスケの言葉を補足した。
    「ぐ……ぐぐぐ…………屈辱………屈辱ですよ……!!賞賛しましょう…やはり貴方は不快でありながらも私に力を与えてくれる素晴らしい存在だ…!!」5年前と同じくあの男によって与えられた屈辱、それはフリーズロイミュードの力を極限まで高めた。四方八方に破壊光線を撒き散らしながら暴れ回る。屈辱の感情がキャパオーバーし、自我を失っているのだ。
    「…っと、流石にあれは厄介だな…」ドライブは構える。その横顔を見たとき、ライドブッカーから3枚のカードが飛び出しディケイドの手に収まった。色を失っていたカードに鮮やかな赤が灯っていく。それはまるで1度は絶望に立たされ自分を見失ったとしても諦めずにまたエンジンをかけて再起するこの男の生き様を表しているようだった。ディケイドはその中の一枚をディケイドドライバーに装填した。
    『ファイナルフォームライド ドドドドライブ!!』
    「ちょっと擽ったいぞ」
    「?悪いがそういうのは勘弁願いたいな。俺は擽りには弱っぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
    言葉を言い切る前にディケイドはドライブの背中を叩き、ドライブを『ファイナルフォームライド』させた。ドライブの体はみるみると変形していき、やがてそれは1台の車となった。

    『ドライブトライドロン』

  • 30二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:28:46

    その姿はまさしくトライドロンその物だった。端から見ていたシンゾウとコウイチはあんぐりとマスクの下で口をかっ開く。
    「はぁ~~、通りすがりのボウヤ、アンタ随分器用な事するんだねぇ」
    「……器用で済ませていいんですか?これ」
    自分がトライドロンに変形したというのに随分と呑気なコメントをするドライブにクウガは控えめにツッコむ。が「器用な俺からのプレゼントだ」とディケイドは続けてクウガもファイナルフォームライドさせるのであった。クウガの体がクワガタムシ型の古代兵器『クウガゴウラム』へと変形する。「こういうのは言ってからやってくれよ」とクウガは文句を零すのであった。
    「行くぞ、ユウスケ、シンノスケ!」
    ディケイドはドライブトライドロンに乗り込みアクセルペダルを踏む、が動かない。どういうことだ?と首を傾げていると「おいボウヤ、クルマを運転する時はシートベルトを着用するのが常識ってもんだぜ。生まれた時にお母さんに教わらなかったかい?」とドライブに注意されてしまった。溜息をつきながらもディケイドはシートベルトを着用し、改めてアクセルペダルを踏んだ。この状況は不味いとその場から飛んで逃げようとするフリーズロイミュードをドライブトライドロンとクウガゴウラムが追いかける。スタジアム周辺の道路にて行われる白熱のレース。フリーズロイミュードは追っ手に向けて光線を放つがドライブトライドロンから射出されたマックスフレア、ミッドナイトシャドウ、ファンキースパイクのタイヤがそれを打ち消す。そして勢いよく発射されたマックスフレアのタイヤが直撃し墜落する所を「今だ!」とクウガゴウラムの顎がキャッチし捕らえる。
    クウガゴウラムはドライブトライドロンに向けて勢いよくそれを投げつけ、ドライブトライドロンは勢いよく跳ね上がってそれに強烈な突進をかました。
    「ぐっ……はぁっ…!!」
    ヨロヨロの状態で立ち上がろうとするフリーズロイミュード、倒すなら今だ。

  • 31二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:31:08

    「通りすがりのボウヤ、ちょっと降りて貰うぜ」ドライブがそう言うとディケイドは開いたドアからいきなりすっ飛んでった。そしてドライブはトライドロンの姿から元の仮面ライダードライブの姿に戻る。
    「コイツは俺とキリコの仇でね…ケリは俺に譲って欲しいのさ」
    「主人公は俺だ。どうせなら最後までアンタのひとっ走りに付き合わせて貰おうか」
    「シンノスケさん、俺がいることも忘れないでくれよ!俺も貴方にひとっ走り付き合わされてるんだ、やるなら俺も…!」
    「……ふっ、いいだろうさ…」
    ディケイド、ドライブ、クウガゴウラムの三体が並び立つ。ディケイドはドライバーにカードを装填し、ドライブはイグニッションキーを捻りイグナイダーを押し、シフトブレスのレバーを倒す。

    『ファイナルアタックライド ドドドドライブ!!』
    『ヒッサーツ!!フルスロットール!!スピード!!』

    フリーズロイミュードの周囲に4つのタイヤが現れ、それは高速回転の勢いでそれを跳ね飛ばす。宙に飛ばされたフリーズロイミュードの周囲をクウガゴウラムが高速で飛ぶ。それはやがて敵をぐるりと囲む黒と金の壁となった。そこにディケイドとドライブが飛び込む!!
    「行けぇぇっ!!士っ!!シンノスケさんっ!!」


    「ぐっぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉっっっ!!!」

    それは5年前、かつて実加戸キリコの変身する仮面ライダードライブにやられた時と同じ。ライダーが囲まれた壁を蹴ってはキックを叩き込みまた壁を蹴ってはキックを叩き込み…とピンボールのように跳ね回る必殺の連続キック。それを今度はディケイドとドライブの二人があの時を再現するかのように放っている。1秒間に何発叩き込まれたかも分からない位の超音速のキックのラッシュは最後に一発、二人のライダーが渾身の一発をかまして交錯した時、収まった。 

    「「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」」


    キキィィーーッ、という急停止のブレーキ音が響き渡る。残心するディケイドとドライブとクウガ。フリーズロイミュードは火花を散らし、

    「代渡シンノスケ…代渡シンノスケェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッッ!!!」

    そう断末魔を上げコアごと大爆発を起こした。5年越しの因縁が今、ここに決着したのだ。

  • 32二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:34:38

    ───

    「有難うよ、ユウスケ、通りすがりのボウヤ。アンタ達のお陰で、俺は帰るべき場所に帰ることが出来た」

    そう礼を言うのは髭を剃って新品のスーツに身を包んだ代渡シンノスケだ。赤いネクタイがキラリと光っている。見違えすぎてユウスケは最初それがシンノスケだとは分からなかったのだが、これが彼の本当の姿なのだろう。

    「走るんですよね…キリコさんの分まで」
    「…あぁ、アイツが守る筈だった笑顔は、代わりに俺が守るとするさ…人々と笑顔を守る者同士として、アンタとはきっとまた何処かで会うだろうな」
    「それは『地球は案外と狭いから』、ですか?」
    「アンタも段々イケてるオトナのヒケツってのが分かって来たみたいだな」

    別れ際の会話を交わすユウスケとシンノスケを士は穏やかな表情で見つめている。首に下げたマゼンタのカメラでパシャリと、二人を撮影した。

    『シンノスケクン、事件だ!我々は既に現場に向かっているから君も至急現場に向かってくれ!』
    スタインベルトからの無線が入るとシンノスケは名残惜しそうな表情を見せた。

    「お別れだ、ユウスケ。俺達は死ぬまで自分達にとって大切な何かを追い求め続ける旅人さ。アンタの旅路が良いものとなることを祈ってるよ」
    「シンノスケさんもね」
    「……グッドラック!ユウスケ!今度会ったらひとやすミルクでも舐めながら旅の話を語り明かそうぜ!」

    最後にシンノスケはユウスケに敬礼し、そして特状課の捜査官として現場へと駆けていった。
    その後ろ姿が見えなくなるまでずっと、ユウスケもまた同じく敬礼していたのであった。

  • 33二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:35:45

    ──
    「…そんなことがあったんですか。私達はもうずっと体がどんよりしたりしなかったりで大変でしたよ」光夏海は少しくたびれた様子で語る。「でもそのシンノスケさんって人、良かったですよね。ちゃんと自分の居場所に帰ることが出来て」
    「アイツにとっての帰る場所があそこなら、俺にとっての帰る場所はここ、なんだろうな」士はそう言った後で自分が言ったことがなんだかとんでもなく恥ずかしいものであることに気づく。
    「えっ、士くん、今なんて?」「士もさ、たまーーに結構ジーンとくる事言ってくれるよなー?」士の言葉に驚いた様子の夏海と、ニヤニヤとおどけるユウスケ。「ええい聞くな!!」と少し顔を赤くする士に「そんなこと言わず教えてくれよ~!」とじゃれつくユウスケ。士が少しのけ反るとその後ろで写真館の掃除をしていた夏海の祖父、光栄次郎はそれに押され「おっ、とっ、とっ、とっ、とっ」とまるで歌舞伎役者のような跳ね方で躓いた後、勢いで背景ロールの鎖を引く。新たに降りてきたロールに映し出されたその背景画を見て次の世界には果たして何が待ち受けているのか、と一同は胸を躍らせる。士達の旅はまだまだ終わらない。

  • 34二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:37:17

    同じ頃、光写真館の現像室で液体に浸かったフィルムに浮かび上がったもの。それはあの時士が撮った、戦いを終えたシンノスケとユウスケの会話のシーン。



    そこにはあの時は居なかった筈の長い髪の女性がシンノスケの隣で優しく、幸せそうに微笑みを浮かべているのであった。




    『ドライブの世界』─おわり─

  • 35二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 22:38:09

    以上です、ここまで読んでいただき有難う御座いました

  • 36二次元好きの匿名さん23/02/19(日) 23:50:50

    コウイチ、シンゾウ、ミツハル、ミスズの名前が本家ドライブでロイミュード勢のコピー元と同じなの良いな…
    前回のゼロワンの世界に引き続きリマジ具合が本家っぽくて好きです

  • 37二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 00:10:35

    このレスは削除されています

  • 38二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 00:18:41
    【ゼロワンの世界】|あにまん掲示板世界の破壊者ディケイド─門矢士─幾つもの世界を巡り、その瞳は何を見る…今日もまた、彼は旅を続ける。光写真館の背景ロールに映るのは『天高く聳える白い高層ビル』だった…『機械の夜明け』この世界における士の…bbs.animanch.com

    前スレ貼っておきます


    >>36

    気づいて貰えて良かった、特状課のメンバーはこのレスで指摘された通り原典ドライブにおいて幹部級のロイミュード達がコピーした人物の名前と同じになっております 

    狩野洸一 | 仮面ライダー図鑑 | 東映平成仮面ライダーシリーズに関連する映像作品に登場した仮面ライダー、変身フォーム、怪人、アイテムを解説、紹介しています。www.kamen-rider-official.com
    広井真蔵 | 仮面ライダー図鑑 | 東映平成仮面ライダーシリーズに関連する映像作品に登場した仮面ライダー、変身フォーム、怪人、アイテムを解説、紹介しています。www.kamen-rider-official.com
    杵田光晴 | 仮面ライダー図鑑 | 東映平成仮面ライダーシリーズに関連する映像作品に登場した仮面ライダー、変身フォーム、怪人、アイテムを解説、紹介しています。www.kamen-rider-official.com
    羽鳥美鈴 | 仮面ライダー図鑑 | 東映平成仮面ライダーシリーズに関連する映像作品に登場した仮面ライダー、変身フォーム、怪人、アイテムを解説、紹介しています。www.kamen-rider-official.com

    ドライブの世界の登場人物は苗字の方にもとある法則性を仕込んでおいたのですが勘の良い人なら分かるかも

  • 39二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 00:20:06

    もう映像化しろ
    それか小説にして売ってくれ

  • 40二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 00:27:32

    >>38

    「一条」でまさかと思ったけどこれの元ネタクウガの未確認生命体捜査本部か!芸が細かい

  • 41二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 00:33:04
  • 42二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 00:38:55
  • 43二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 00:41:37

    >>42

    偶然にも原典の『泊(とまり)進之介』↔『代渡(わたり)シンノスケ』で横断歩道に引っ掛けた感じの苗字になりました

  • 44二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 00:49:37

    この世界における先代ドライブにしてシンノスケとは愛し合っていながらも死に別れる形となってしまった原典ドライブのヒロイン、詩島霧子のリイマジ版となる「『実加戸』キリコ」の苗字の元ネタは原典クウガに登場した父親を未確認生命体第0号に殺害されてしまった少女、夏目『実加』から取っています

    夏目実加 | 仮面ライダー図鑑 | 東映平成仮面ライダーシリーズに関連する映像作品に登場した仮面ライダー、変身フォーム、怪人、アイテムを解説、紹介しています。www.kamen-rider-official.com

    また原典ドライブから逆算するとキリコには『ゴウ』という名前の弟が存在することになりますが彼の名前をひらがなでフルネームにすると『みかどごう』となります これが意味するのは…


    ミカド号 | 仮面ライダー図鑑 | 東映平成仮面ライダーシリーズに関連する映像作品に登場した仮面ライダー、変身フォーム、怪人、アイテムを解説、紹介しています。www.kamen-rider-official.com

    つまり、そういうことです(?)

  • 45二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 00:57:13

    ひとまずあなたに感謝を
    一気読みさせていただいたが最高に面白かった
    人に読ませる文章をしていると感じたし、原作に対する敬意を感じる

  • 46二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 09:24:47

    クウガとドライブベストマッチ!!
    良い作品だったユウスケも良い味出してて良いよな
    ゼロワンの時も思ったが良いセンスしてるよ

  • 47二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 16:42:27

    ちなみにこの世界におけるベルトさんの本名は原典の『クリム』・スタインベルトではなくそこから少し捻った『クレイン』・スタインベルトになっていますがその元ネタは…

    ヒント:原典ドライブにて特状課の課長役を演じた俳優

  • 48二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 16:43:54

    このレスは削除されています

  • 49二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:03:25

    >>47

    片岡さん?鶴は英語でクレインだからか?

  • 50二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 18:04:56

    このレスは削除されています

  • 51二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 18:11:13

    >>49

    ご名答です 原典ドライブにて特状課課長である本願寺純を演じた片岡鶴太郎さんの名前から『鶴』を拝借してそれを英訳したcraneをクリムの代わりに当て嵌めております



    …だからどうしたレベルの話ではありますが…

  • 52二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 20:38:57

    >>51

    クリムと本願寺課長はとても仲が良かったからね

    とはいえ本願寺課長の人当たりの良さにクリムの才能とか最強だな

  • 53二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 20:40:14

    ゴルドドライブが居ない理由はクレインスタインベルトが悪役にさせなかったりするのかもしれない?

  • 54二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 20:41:03

    チェイスは結局殉職したままですか?

  • 55二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 21:01:28

    >>53

    この世界における蛮野がどうなっているかは…ご想像にお任せします(触れようと思ったけど上手く纏められなかったので敢えて作中内で触れずぼやかすスタイル)


    >>54

    士達が通り過ぎた後のドライブの世界のざっくりとしたイメージとしてはかつてロイミュード達に敗れた筈のプロトドライブは実はロイミュード達に回収されており改造手術を受けたことでロイミュードの番人たる『死神』へと生まれ変わって捜査官に復帰したシンノスケの新たなる壁として立ち塞がる…というアフターストーリーを考えております、原典まんまですね


    そして同じ頃、姉の死を受け異国の地でシンノスケと同じく5年間ずっと血の滲むような特訓をしていた″弟″が復讐の為に日本に帰国し、誰にも扱えず凍結されてしまっていたあの仮面ライダーに変身し参戦する…的な

  • 56二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 22:53:23

    スレ主の作るディケイドが平成第二期や令和のライダーの世界を巡る話とか面白そう

  • 57二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 00:10:03

    今回もすごく面白かった、ライダーの中でドライブが一番好きだから嬉しい

    後個人的にユウスケが活躍してたのが嬉しい


    >>55に書かれたアフターストーリーも読みたいっす……

  • 58二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 10:51:26

  • 59二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 16:49:07

    普通のマッハはこの世界ではどういう位置付けなん?

  • 60二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 18:31:08

    >>59

    通常の方の仮面ライダーマッハはこの世界だと『実加戸キリコの殉職後ドライブの後継となる形で試作機として開発されたが変身して使いこなせる者が誰一人として現れなかったが為に実戦投入の機会を得られぬままやむを得ず凍結された幻の仮面ライダー』ですね この反省を生かして誰でも変身出来るように性能をデチューンして量産化されたのがこのお話に出てくる量産化マッハとなります

  • 61二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 18:37:47

    ネクストドライブは出てくるとしたら
    パラレルワールドみたいになるのかな

  • 62二次元好きの匿名さん23/02/22(水) 01:13:36

    >>61

    原典における泊英志はこの世界だと…どうなるんでしょうねえ…?出て来るとするなら名前はおそらく代渡エイジになるわけですが


    キリコとはまた別の女性と結婚してその間に生まれる事になるのか、それとも指摘の通りシンノスケとキリコが死に別れる事無く結ばれたパラレルワールドからやってくるのか…?正直ここに関しては自分からも何とも言えない…

  • 63二次元好きの匿名さん23/02/22(水) 12:28:05

    今再放送のドライブを見ているが相棒が殉職したら
    確かにサボるどころか退職するのはあり得るかもしれないね
    だけどドライブらしくただじゃ転ばないよね
    ユウスケが良い味出してるのは良作だ

  • 64二次元好きの匿名さん23/02/22(水) 12:58:13

    他の世界編も見たいな

  • 65二次元好きの匿名さん23/02/22(水) 16:58:02

    龍騎の裁判とか剣の階級制の会社みたいにはっちゃけてる世界も見たい

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