- 1二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:29:03
- 2二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:29:21
「この頃から自然が好きだったんだね」
「はい、少しずつ身体が良くなってきた頃合いだったので」
俺とゼファーは、一冊の、大きな本を一緒に眺めていた。
そのページには様々な写真があり、その中の一つに幼稚園の頃のゼファーの姿があった。
いわゆる、卒業アルバムというものである。
現在、トレセン学園において、卒業、卒園アルバムを見せ合うのが流行っているらしい。
そもそもこの学園は全国から生徒が集まる学園、誰のものを見ても新鮮な気分で見られるだろう。
ゼファーもクラスメートや友人から頼まれて、実家から送ってもらったそう。
その話を聞いて、俺が興味を示したら快く見せてくれた、というわけである。
「この頃の私は、未だに至軽風どころか静穏同然です。何かの役に立つのでしょうか?」
「えっ、いや単純に見たいから見せてもらってるだけなんだけど……」
「……そうなんですか?」
「君のことをもっと知りたいなって思って……あー、そういう感じだと、嫌だったかな?」
「ふふっ、むしろ、それを聞いていせちが来た気分です。ええ、もっと小風の頃の私を知ってください」
そう言って、ゼファーは優しく微笑む。
二人で写真を眺めていると、やがて絵がずらりと並ぶページに変わった。
将来の夢、と題目が書かれたそのページは、生徒達の夢と、それを表した絵が描かれている。
一つ一つは小さくて、少々見にくかったものの、ゼファーの夢はわかりやすかった。
大きく書かれた風の一文字、そして横に付け足すように小さく数文字。
「『風になりたい』か、ははっ、この頃から君の夢は変わってないね」
「…………はい、そうですね」
若干の間に違和感を覚えつつも、他の生徒の夢も見ていく。
流石にまだ幼稚園で、荒唐無稽な夢を描く子も多い。
いや、でも、それにしても。 - 3二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:30:02
「ポケ〇ンになりたいとか書いてる子多くない?」
「その頃、時候の風になってたんです。私はゲーム自体が苦手だったので」
「なるほどね……ところでゼファー的にはああいうキャラクター自体はどうなの?」
「本物の方が好風に感じますが、それ自体は可愛らしくて、実際にいたらと思うこともあります、ただ」
「ただ?」
「――――風属性ないじゃないですか」
「…………そっかぁ、あとタイプだから、ポケ〇ンだと」
らしいといえばらしいけども。
俺が何とも言えない気分になってるのを知ってか知らずか、ゼファーは懐かしむように言葉を続ける。
「他の子達がやっていたポケ〇ンの物真似などは、共に嵐になりたかったですね」
「アルバムの外からどんどん意外な事実が発覚するなあ……」
「動物の鳴き真似は得意ですが、それを見せる時つ風が吹きませんでしたので」
「待って、鳴き真似の話を詳しく聞きたい」
「……そういえば、奇しくもどちらも『トレーナー』ですね」
願いは虚しく、話題はポケ〇ンに戻された。
そして凄まじく嫌な予感しかしない流れの中、俺はゼファーを見る。
耳をピンと立たせ、尻尾はぶんぶん揺れ動き、目は期待に満ち溢れて輝いていた。
あっ、これ何か頼まれたら、断れないやつだこれ。
そんな直感が脳裏に煌めく中、彼女は言葉を紡ぐ。
「トレーナーさん、少し私というポケ〇ンに、命令をしてみませんか?」
『極刑ッ!』という理事長の声がどこからか聞こえるような気分だった。 - 4二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:30:21
「……えっと、理由はともかくワケを話してもらっても?」
「私がポケ〇ン役をする、トレーナーさんがトレーナー役をする、常風となんの違いもありませんよね?」
「違うんじゃないかなあ……」
苦言を述べるものの、この状態のゼファーを止める術はない。
彼女はドヤ顔を浮かべながら、流れる風のように流暢に言葉を繋げていく。
「ここはトレーナー室ですから、見られる心配は凪当然です」
「俺に見られるのは良いのか……?」
「というわけで、今から私はしなとかぜポケ〇ンです」
「いつの間にかやるのが決定事項になってる……!」
「名前はヒトカゼ、いえウマカゼで。ですが呼び名は恒風通り、ゼファーでお願いします」
「もしかして結構設定寝かしといてたヤツなのかコレ」
一生寝ていて欲しかった。
意外と指定が多く、もはやイメージプレイの様相を呈していた。
というか元ネタの設定に沿うなら風が消えたら大変なことになりそうだけど……まあゼファーも同じか。
今か今かと、待ちの状態に入ってるゼファー。
やるとは一度も言った覚えはないのだが、もはや拒否することもできない。
俺は大きく息を吐いてから、小さな声で呟く他なかった。
「…………行け、ゼファー」
「カゼカゼ~♪」
ちょっと楽しかった。 - 5二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:30:40
ゼファーと少しばかり特殊なコミュニケーションを取っていると、彼女のスマホが鳴り響いた。
それは電話の着信で、相手は彼女のクラスメートのようである。
出会った頃と違い、クラスメートと連絡を取り合うようになっていると考えると少し感慨深い。
やがて、彼女は通話を切り、申し訳なさそうな表情でこちらを向く。
「教室に忘れ物があったみたいで……少しばかり吹き返しの風となりますね」
「うん、ゆっくりでいいからね。あっ、アルバムは見てて良いかな?」
「はい、勿論。ふふっ、戻ったらまた共に風になりましょうね」
そう告げると、ゼファーはトレーナー室から出て行った。
……えっ、まだアレやる気なのか。
複雑な想いを抱きながらも、一つ一つ眺めながら、ページをめくっていく。
とはいえ、実際のところゼファー以外にそこまで興味はないため、すぐに最後のページに辿り着く。
そして、そこには一枚の古ぼけた紙が挟まっていた。
見覚えのある絵と文字。
それはアルバムに載っていた、ゼファーの将来の夢と同じものだった。
「……原本か、そういえば妙に『風』の字がデカいと思ったけどこういうことね」
『風』の文字だけは別の紙で、上から貼り付けられていた。
つまるところ、風の方が後から付け足されていたということである。
となると、逆に気になってくる。
あのゼファーが風になりたいと書く前に書いた将来の夢とは一体なんなのか。
「テープで貼ってあるだけで、もう殆ど剝がれてるな……」
ただの書き損じの可能性も十二分にある。
それ以前に、本人の断りなく見てしまうのは失礼かもしれない。
しかし俺は誘いの魔風に抗うことができず、紙そのもの傷つけないように、丁寧に剥がした。
その下にあった文字に、俺は目を見開いた。 - 6二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:31:03
「『風ぞくじょうになりたい』……!?」
脳を激しく揺さぶられるような衝撃だった。
あの風のように気ままで、穏やかなゼファーが。
それでいて、一度レースになれば苛烈で疾風のような走りを見せるゼファーが。
こんな夢を持っていたとは――――まさしく、青天の霹靂である。
「あら、やはりいらしたんですね、返の風がないので……そっ、それは!?」
そして衝撃のあまり、いつの間にか帰ってきたゼファーの気配に気づくことができなかった。
彼女は俺が呆然と眺めている紙を覗き込んだ瞬間、即座にそれを奪い取る。
誰にも見せないように胸の上で抱え込み、真っ赤に染めた顔と潤んだ瞳でこちらを見た。
「ち、違うんですッ! これは子どもの頃の、勘違いで、そのとにかく違いますからッ!」
「えっと」
「本当に違くて、わっ、私はそんなじゃなくて、その、あの……っ!」
「ちょっ、ゼファー落ち着いて! わかったから! まず、座って!」
大きな声で、目尻に涙を貯めながら慌てふためくゼファーを見て、俺は冷静になる。
普通に考えて幼稚園児に『風俗嬢』なんて言葉の意味がわかるわけがない。
しばらくすると、彼女も落ち着いたらしく、小さな声でポツリポツリと語り出した。
「その、この言葉をテレビで見かけて、幼い私は風に関わる仕事なのだと思って」
「……まあ風って入ってはいるけど」
実際にはむしろ水に関する商売だけどね、とは言わないでおいた。
そういえばゼファーが見たマイルの皇帝のレースは、もう少し先の話。
この段階ではまだ目指しているまことの風の存在すら知らないわけである。 - 7二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:31:21
「幼稚園の先生は無風を貫いて、別の言葉にしようねって言ってくれて」
「まあ、言えるわけないよね」
「後から意味を理解して、思い出す度に顔に炎風が吹き荒れて……まさか原本がここにあるなんて」
「友達に見せる前で良かった……ってことで、ここはひとつ」
「……でもトレーナーさんには見られました」
ジトリと、見つめるゼファー。
俺には非がない、とは言えない微妙なラインなので俺としてもなんとも言えない。
そして彼女にしても、クラスでこれが発覚してた可能性を考えると何も言えない。
…………うん、ゼファーに非がない以上は悪いのは俺だな。
俺は深く、彼女に頭を下げて、謝罪の言葉を述べる。
「ごめんゼファー。君に嫌な思いをさせてしまった」
「……っ! いえ、元はといえば私の管理のせいで」
「でも興味本位で見なくても良いところまで見てしまったのは、俺だ」
「ですが……!」
「だからさ、償わせてよ。なんでもするからさ」
「……トレーナーさんは、悪風なことは、何もしてません」
「じゃあ、アルバム見せてくれたお礼ってことで」
その言葉にゼファーは悩むような、照れるような、複雑な表情を浮かべた後、ため息を一つ吐き出した。
次に見せてくれた表情は、晴れた日の春風のような、穏やかで暖かな笑顔。
「本当に、凱風のような人ですね」
「そんなことないよ」
「ふふっ、それこそそんなことありませんよ……これ以上は風情がありませんね」
「ははっ、まあなんだって言ってよ、やれる限りのことはするからさ」
「では一つだけ」
ゼファーは軽やかな風声で、願い事を告げた。 - 8二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:31:37
「――――先ほどの続きをお願いします」
- 9二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:32:50
お わ り
なんですかねこれ - 10二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:35:37
ほう……続けて?
- 11二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:36:42
いや知らんよ…
俺が考えた話でもないし… - 12二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:37:00
ゼファーと風と言うだけで警戒する身体にされてしまった
- 13二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:37:28
子供がよくやる勘違いとトラブルって感じで実に微笑ましい
ポケモンは単飛行出たの初代の10年以上後だからなあ、その出たやつはまんま風神ではあったが - 14二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 17:37:45
例のスレをそう調理したか…
お見事でございます - 15二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 18:04:12
舞台CMの時も思ったけど、けっこう好奇心旺盛でなんでもノリノリで楽しめる子だよね。
ポケモンやりたがるのすげー可愛い。
ところで極刑と言えば、「結婚は人生の墓場」なんて言葉がありましてね…。 - 16123/02/20(月) 23:43:57
- 17二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 23:48:08
ははーん、この後ちょっとポケモンのこと調べてポケパルレ再現要求してくるんだろ騙されんぞ
- 18二次元好きの匿名さん23/02/21(火) 00:07:02
カレー作りやサンドイッチ作り、ゆくゆくはポケモンウォッシュも……?
- 19123/02/21(火) 07:07:50