- 1二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 21:23:16
「アイスクリン、おいしいねぇ」
担当ウマ娘、ワンダーアキュートの言葉に頷いて、手元のそれを一口かじる。
海の家で買ってきた『本塁打アイスバー(バニラ味)』は、日差しの降り注ぐ砂浜でのトレーニングを終えて乾ききった体に、染みわたっていく。
海の家の近くの石段に並んで座り、水平線を眺めてアイスを食べる彼女の表情は、
つい先ほどまで鬼気迫る表情で自身を追い込んでいた彼女とは、別人のようだった。
学園の夏合宿は『最初の三年』以降の参加は原則自由だ。しかし、それを過ぎて数年経つ今年も、彼女は迷わず参加していた。
容赦無く降り注ぐ日差しも、時に支え合い、時に闘志をむき出しに挑んでくる後輩たちの存在も、自らを追い詰め、鋭く『研ぎすます』彼女には、うってつけの環境だからだ。
こちらは彼女の全力を信じてギリギリのメニューを設定し、彼女もまた、こちらの見極めを信じ、全力でこなす。
折れる直前まで追い込む設定は、最初の三年を超えてたどり着いた、ストイックな彼女の性格にあわせた二人三脚の形だった。 - 2二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 21:24:59
とはいえ、常に追い込むだけがトレーニングではない。今は、次の日に備えるため、お互いで決めて用意した『ご褒美』の時間だった。
ぽつりぽつりと交わしていた他愛ない言葉のやりとりは、いつか気まずさのない沈黙へ変わり、やがてふたりとも、波の音に耳を傾ける。
ところで、普段からゆったりと振る舞うアキュートは、食べる時もまた、ゆっくりとしている。そして、ここは外で、食べているのはアイス。となれば。
……彼女が概ね「食べ終えた」頃には、溶けて捕食を逃れた甘い滴が何筋も、手元へ滴っていた。
それに気づいたこちらが、首にかけたタオルを差し出そうとする前に、彼女は自分の手を口元に寄せると。
音もなく、指についたそれらを、なめとり始めた。
先ほどまでアイスを食べていた時と同じように、砂浜の方を、ぼんやりと眺めながら。
手についた一滴ずつを味わうように、ゆっくりと、ゆっくりと。 - 3二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 21:25:21
置き怪文書射撃やめい
- 4二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 21:25:37
タオルを渡すことも、はしたないとたしなめることも忘れ、しばし見とれる。
行為そのものがはしたないと言えば、それまでだが……所作のひとつひとつは下品さからは遠く、愛らしく、それ以上に──
その先を考えることを、理性が拒む。それは、駄目だ。
こちらの衝撃や葛藤をよそに、人差し指を舐め終えると、次は中指へ向かうらしい。
そのとき、はたと視線をこちらに向けた彼女と、目が合う。
恥ずかしがるだろうか、困ったように笑って、拭くものがないか、聞くだろうか。
別にこちらは悪いことをしているわけではないのに、応対と一緒にする言い訳ばかり考えてしてしまう。
しかし、彼女は何も言わず。目を細めるだけで、やめなかった。
咎めることも、ことさらにこちらを煽ることもなく。所作も、表情も、そのまま。
ただ、目線だけはこちらに向けたまま、続ける。 - 5二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 21:26:15
──指と指の間は、少しだけ舌を覗かせて、ちろり。
夕日が照らすその眼に、釘付けにされるように、ただ見ていた。
──親指の根本、掌は、唇でつまむように、何度も。
抱いてしまった感情から、必死に意識を逸らしながら。
その姿から、最後まで、目をそらすことができなかった。 - 6二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 21:27:45
「はしたないとこ、見られちゃったわね」
くすくすと笑う声で時間が動き出したのは、彼女が手の甲に垂れたものまでなめとったころだった。
「ね、トレーナーさん、それ」
こちらの手元に向いた目線を辿れば、こちらの右手には、途中から食べるのを忘れていた。アイスの名残。
さっきまで見ていた光景を思い出してしまうと同時に、バニラ味の滴の量が、食べることを忘れていた時間を……彼女を見ていた時間を自白するようで。
気恥ずかしさから、曖昧な言葉を並べながら拭きとって隠滅を図る前に、先ほどまで『きれいにした』手とは反対の手が、こちらの手首をつかむ。
もしや。一瞬よぎってしまった可能性に、身構えると。
「ええと、ほーむらん、ですって」
見れば、確かに手に持ったアイスの棒には『ホームラン もう一本』の文字。
「晩ごはんの前だけども、おかわり、もらっちゃいましょうか」
少し悪戯っぽく笑う彼女は、いつものワンダーアキュートで、どうやら先程の『可能性』は杞憂だったらしい。
「それじゃあ……その前に、食べきらんとね」
……いや、早計だった。警戒を解いたせいで、身構える暇はなく。
彼女に掴まれた手が、そのまま、彼女の口元へ。
了 - 7二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 21:28:22
拙者、退廃的概念好き侍。
アイスをエロい食べ方してそうなウマ娘ステークス|あにまん掲示板1番人気、カレンチャンbbs.animanch.com昼に見かけし上記の談義で、ワンダーアキュートが出なかったので。
棒アイスそのものを食べる姿も良いが、手についたそれらを舐めとるムーブもまたよいのだと語らいたく、一太刀失礼した。
- 8二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 21:33:35
当然のように一太刀失礼するな
- 9二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 21:36:09
一太刀、頂戴致す
見事なり… - 10二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 21:38:52
これは差し切り体制に入ってますね……
- 11二次元好きの匿名さん23/02/20(月) 22:32:21
見事な太刀筋であった
二の太刀はないのだろうか