【SS】BIRTHDAY――スタートラインと、これからのこと

  • 1二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 00:45:27

    どすん、と食堂の机が揺れた。
    塔のようにそびえ立つそれからはお腹をぐうと鳴らしそうな甘い香りが漂っている。

    「ボーノな特大誕生日ケーキだよ〜☆ みんな食べてってねえ♪」

    あたしが一日かけて作ったビッグなショートケーキ。すぐに人だかりが出来て、切り分けるのに大忙し!
    美味しいと、おめでとうの言葉が飛び交って。机の端にはプレゼントまで積み上がっていく。
    その喧騒につられて、心がとっても暖かくなる。
    え?誰の誕生日を祝ってあげてるのかって?

    それはもちろん……あたし自身だよ♪

  • 2二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 00:46:21

    自分の誕生日ケーキを自分自身で作るなんて……ましてやそれを沢山の人に振る舞うなんて、変だなあと思う人もいるかもしれない。
    でもね、あたしにとってはこのやり方が一番楽しく感じるんだ。
    誕生日ってとっても嬉しい日だよね。そのボーノな喜びは独り占めするんじゃなくて、できるだけ沢山の人に分けてあげたいって思っちゃうの。
    みんなのハッピーが、あたしにとって何よりのプレゼントになるんだ♪

    「ボノ〜!ケーキまだ余ってるかー?」

    ウマ娘の食欲は無尽蔵、おっきなケーキはあっという間に空になっちゃった。
    日も落ちかけてそろそろお片付けの時間になった頃、姿を現したのはビコーちゃん。

    「練習お疲れ様〜。ちゃんとビコーちゃんのも取ってあるよ!」

    あらかじめよけておいたケーキを取り出して渡す。ビコーちゃん、ジャージが泥んこ。いっぱい練習したんだねえ。

    「わあ……ありがとな!いただきまーす!」

    練習後にやってくるのは事前に聞いてたから多めに残しておいたんだけど……。
    余程お腹が空いていたのか、ビコーちゃんはかきこむようにケーキを平らげちゃった。

    「……んぐ。ごちそうさまでした!やっぱりボノのケーキは最高だ!」

    「ありがとう〜。今日はいつもに増して張り切って作ったからね!」

    グイッと力こぶを作ってみせる。年に一度の記念日だ、気合いも入るというものだ。

    「だな!だって今日はボノのたんじょ――あっ!?誕生日!」

    はっと何かを思い出したのか、椅子を蹴り上げ立ち上がるビコーちゃん。

    「すぐ戻ってくるから待っててくれよな〜!」

  • 3二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 00:47:10

    風をまきあげ、ビコーちゃんの姿はあっという間に小さくなってしまった。呆気に取られる暇もなく……言葉通りすぐにビコーちゃんは戻ってきた。

    「はぁ……はぁ……はい!ボノ、ハッピーバースデーだぞ!」

    「あ、ありがとう!開けてもいい?」

    手渡されたのはラッピングされた袋。許可をもらって早速開けてみると……。

    「わぁ……!これ、ミトンだよね?」

    「うん!キャロットマンのグッズなんだ!ボノはいっぱい料理するから、役立つと思ってさ」

    ビコーちゃんの大好きなキャロットマンのイラストがあしらわれたミトンは、分厚くて丈夫そう。
    ヒーローみたいに強そうで、しっかり長く使える代物に違いない。

    「ありがとう〜!いっぱい使って、大切にするね?」

    「うんっ!……あ。そろそろ戻って着替えなきゃ!」

    「そうだねえ。あたしもお片付けしなきゃ」

    「ボノもちゃんと休んで誕生日ケーキ食べるんだぞ!じゃーな!」

    「うん、また明日〜!」

    その背中を見送って、本日はこれにて店じまい。空の食器たちに手を伸ばし……ふと気づいた。ビコーちゃんの言葉を頭の中で反芻する。

    「あれれ。あたしもしかして……ケーキ、食べ損なっちゃった?」

  • 4二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 00:47:50

    日は落ちても、特別な一日はまだ終わらない。

    見慣れたトレーナー室を、出汁の香りが包み込む。
    プレゼントのミトンを早速使い、鍋の蓋を開ける。

    「はい、出来上がりー☆」

    「うおっ。これは……食欲がそそられるね」

    溜め込んでいた熱気を一気に吐き出すちゃんこ鍋。湯気は天井まで届きそう。
    夕ご飯の時間……トレーナーさんと2人、スペシャルディナータイムの始まり!

    「……うん!具材を奮発しただけあるね。いつもに増して美味しい!」

    今日のちゃんこ鍋はバースデー仕様。トレーナーさんがプレゼントだからって少し贅沢な食材を買ってきてくれたの。

    「えへへ。良かったあ〜。おかわりあるから、どんどん食べてね♪」

    トレーナーさんがちゃんこを口に運ぶ度、その顔を眺めてしまう。すっかり身に染みてしまって、癖になっちゃってる。
    貴方が見せてくれる笑顔はどれも鮮やかで、ひとつとして同じ表情は無い。

  • 5二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 00:48:18

    「……ふふっ」

    「もぐもぐ……ん?どうかした?」

    「ううん。なんでもな……いや、あーん」

    「えっ?あーん」

    「はいどうぞ……どお?」

    「おいしい!」

    「へへ〜♪」

    初めはトレーナーさん照れくさがってたけど、こんなやり取りも今では慣れたもの。
    それも全て、トレーナーさんと一緒に歩んできた毎日のおかげ。

    ――何度、こうやって食卓を囲んだだろう。

    数え切れない程の「美味しい」を積み重ねて、あたしはまた、ひと回り大きくなる。

  • 6二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 00:49:07

    「そのミトン初めて見たなあ。もしかして……ビコーペガサスから貰った?」

    「そうだよー。デフォルメの丸っこい絵もかわいいし、使い心地も良くてねえ――」

    具材でたぷたぷだったお鍋が空っぽになっても、お開きにするにはまだ惜しくて……こうしてのんびりお話をしている。
    トレーナーさんの座る場所は、太ももの上。
    これも昔はそんなこと無かったのに、いつの間にかここが定位置になっていたの。
    あたしの中にすっぽりと、なんとなーくおさまりがいい感じがして。

    「――それで、ケーキもあっという間に無くなっちゃって代わりにプレゼントがいっぱい!予想以上だったよ〜!」

    「みんなアケボノが大好きなんだ。担当ウマ娘が人気者で、僕も誇らしいよ」

    「そう言われると……少し照れちゃうね」

    料理を振る舞うのは、あたしが自主的に……乱暴に言えば勝手にしてること。
    美味しいって言葉は数え切れないほど貰ってきたけど、誕生日だからとプレゼントを貰えるようにまでなったのは……頑張って走ってきた証なのかもしれない。
    みんなにとっての『ちゃんこ』であれますようにと……そう、初めてあなたと出会った日からずっと。

  • 7二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 00:49:44

    「長いようで、あっという間だった気がするなあ」

    「……僕もそう思う」

    「……あのね。トレーナーさん」

    「なにかな」

    「あたし……またひとつ、おっきくなったよ」

    身長も体重もぐんと伸びて、見下ろすあなたの顔が、また少し小さくなった。
    それは……あたしの『レースのゴール』がもう近いということ。
    また次の誕生日もこのトレーナー室で迎えられるかは……分からない。

    「えっとね……嫌じゃないの。だって一緒に決めたことだから。ただ……」

    上手く言葉にできないこの気持ちは、なんだろう。
    後悔?不安?恐怖?
    そのどれも当てはまるようで……どれでもない。
    口に出したら形になるかもと思ったけど、そんなこともなくて。
    あたしのこれから進む道。
    後悔しないって決めたことなのに……これじゃ、トレーナーさんを困らせちゃう。

  • 8二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 00:50:32

    「無理しなくても、大丈夫だよ」

    いつの間にか、力が入りすぎてたみたい。そっと握り拳の上を、トレーナーさんの掌が包み込んだ。

    「無理はしてないよ……?」

    「あーごめんね、言葉足らずだった。その気持ちは全部、当たり前のことなんだよ」

    温もりがじわりと伝わってくる、力んでいた両手が解きほぐされていく。

    「未来のことは誰にも分からない。不安や恐れを抱かない方がおかしいんだ。僕だって……怖いよ」

    それは、あたしの想いを尊重してくれたからこその本音。
    たとえ決めたのはウマ娘でも、いつかくる終わりの責任は、トレーナーも負わされることになる。

    「アケボノはとっても強い子だ。普通は選手生命を引き換えにするなんて選択、取れないよ。だからこそ、今抱えてるその気持ちを大切にして欲しい」

    「大切に?うーん……?」

    「ごめんごめん。今すぐ全部理解する必要は無いんだ。ただわかって欲しいのは、これから人生を歩んでいく中で、色んな気持ちと付き合っていかなきゃいけないってこと。だから――」

  • 9二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 00:51:33

    「――向き合うことに疲れたら、僕もそれを受け止める。必ずそばにいるよ。それがトレーナーの、大人の役目だから」

    交わった視線に、感じたことの無い衝動が駆け巡った。

    「それは……トレーナーのお仕事だから?」

    「あ……そうじゃなくて。僕がしたいからするんだ。仕事だからじゃない。そう心の底から思ってる」

    明日も明後日も……また次の誕生日も。
    あなたのそばで迎えていいって、そう言ってくれるんだね。

  • 10二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 00:51:55

    ……うん。この人があたしのトレーナーさんで、本当に良かった。

    「……あたしもね、トレーナーさんのそばがいいな」

    そのひと回り小さな体を、ぎゅうっと抱き寄せる。
    絶対に離さないよう、つよく、つよく。

    「はは、くるしいよ」

    「……ずっーと一緒だよ?約束ね?」

    「当たり前じゃないか。ずっとそばにいる」

    レースで勝った時も、料理してる時も。いつだって、思い出すのはあなたの笑顔だった。
    それは今までも、そしてこれからも変わらないよ。
    きゅうっとなるハートと、おっきくなる大好きの想い。そして、寂しくなる口元。
    いつの間にか、吐息がこんなにも近くなっちゃってる。

  • 11二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 00:52:31

    「あ、アケボノ?あの……」

    「……なあに?」

    「もしかして……自作のケーキ、食べ損ねたんじゃない?」

    「――へっ?あっ!う、うん!あはは、バレちゃったよ〜!」

    はっと我に帰る。そ、そうだよね。『今はまだ』、そういうのは早いよねえ。

    「僕は食べ物じゃないからね?アケボノのことだから、自分の分を残し忘れたんじゃないかと思ってたんだ……申し訳ないけど冷蔵庫、開けてきていい?」

    「……すぐ帰って来てね?」

    名残惜しくもその温もりを手放す。トレーナーさんは冷蔵庫から小さな袋を取り出して戻ってきた……もちろん、あたしの膝の上。

  • 12二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 00:53:14

    「はい。バースデーケーキ」

    「えっ!?これ……トレーナーさんが作ったの?」

    手渡されたのは、一口サイズのカップケーキ。ホイップと色とりどりのチョコチップでおめかしされた、キュートな一品。

    「うん。アケボノの腕には遠く及ばないけど……」

    「全然そんなことないよ!あたし……とっても嬉しい」

    「そ、それならよかった……食後のデザート、早速いかが?」

    さあどうぞとすすめられる。けど、そのまま食べるのはなんだか……物足りない。

    「……あーん、して欲しいな〜?」

    「えっ?しょうがないなあ……」

    包装を解くと、僅かにほんのりと漂ってくる柔らかな香り。

    「それじゃ……口開けて?」

    言われるままにあーんする。トレーナーさんの手作り、どんな味がするのかな。ドキドキを抑えられない。

    それはきっと、この世界で一番の誕生日プレゼント。
    ゆっくりと口へ運ばれると同時に、トレーナーさんはそっと優しく呟いた――

    「アケボノ。誕生日……おめでとう」

  • 13二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 00:57:35

    ボーノ、誕生日おめでとう!!!!

    ビッグな体に中等部とは思えない立派なメンタルと、年相応の可愛らしさ……ボーノを構成する全部が大好きです


    そして……ボーノとボノトレはいつまでもいつまでも幸せです


    前回のちゃんこ

    【SS】大好きをめいいっぱいこめて|あにまん掲示板バレンタインデー。それは日頃の感謝を込めて大切な人へチョコレートを送り合う日。親愛、恋愛、感謝……その思惑は十人十色だが、想いを伝えるとなれば選ばれる手段は自ずと決まってくる。そう、手作りである。意中…bbs.animanch.com
  • 14二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 01:13:40

    予告もあって来ると思ってたぜちゃんこの人

    トレーナーとしては全力で後押しする一方で大人としては競技者としての寿命を削ってることを心配してるボノトレのスタンスいいよね


    >「……すぐ帰って来てね?」

    ここすき

    もっと甘えん坊にもなれ


    マーベラス☆ちゃんこって何だろうな?(バースデーホーム会話より)

  • 15二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 07:58:36

    ケーキも食べてないのに口の中が甘々になった

  • 16二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 11:57:58

    当然のようにトレーナーがボーノの太ももの上に座ってるし特に何も語らずともボーノの不安とか恐怖を理解した上でそばにいて受け止める事を伝えてるし、相変わらず距離感バグってるし覚悟ガンギマリだなこいつら…
    いつも素晴らしい作品をありがとうございます

  • 17おまけちゃんこ23/02/27(月) 20:36:22

    「あっそうそう!アケボノ、そこの大袋取っててもらえる?」

    トレーナーさんに言われるまま、床に置かれてた袋に手を伸ばす。お仕事用に持ってきてたんだと思ってたけど……そうじゃないのかな?

    「はいどうぞ。ちょっとだけ重いね?」

    「わかっちゃうか?……えっと……よいしょっ」

    ゴソゴソと手を突っ込むトレーナーさん、やがて取りだしたのは、おっきなダンボール。そのパッケージに描かれていたのは……。

    「わあっ!!これ、圧力鍋?」

    「そう、最新のいろいろな調理法ができる優れもの」

    ココ最近コマーシャルでよく宣伝されてる、UMAJIRUSHIの万能鍋だ。
    煮てよし蒸してよし、更には2種類の料理を同時に調理可能などなど……料理好きとしては気になってたお鍋なんだけど、お値段が張るから諦めていた最新家電。
    つまりこれって……あたしのために?

    「はい、誕生日プレゼントだよ。受け取ってくれる?」

    「もちろんだよ!ありがとうトレーナーさん!」

    むぎゅうっとまた体を抱きしめる。大好きなあなたの匂いを確かめるように。

  • 18おまけちゃんこ23/02/27(月) 20:37:14

    「うぐ……喜んでもらえたなら良かった」

    「これでまたボーノなレシピを開拓できちゃうね!」

    「そしたらまた……美味しい料理、食べさせてね」

    そう言ってトレーナーさんは微笑む。
    あたしの幸せは、トレーナーさんに料理を食べてもらうこと……そしてトレーナーさんの幸せは、あたしの料理を食べること。
    この広い地球上で、こんなにも相性ぴったりな人と出会うことができた。
    ぽかぽかする心を、きゅうっと噛み締める。

    「……うん!いっぱいいーっぱい、ボーノをあげちゃうね♪」

    さあ、明日からどんな料理を作ろうかな。沢山のアイデアがどんどん湧き出てくるけど……その前に。

    「それじゃあこのお鍋は、トレーナーさんのお部屋に置いててもいい?」

    「え?これはアケボノのものなんだけど……」

    「えっとね?学園の調理室に私物を置くわけにはいかないから、トレーナーさんのお部屋のキッチンに置いておきたいんだ!そしたら、いつでも料理作ってあげられるでしょ?」

    「そういうことならわかったよ。楽しみにしてる」

    「やったあ♪早速明日、おじゃましちゃうね♪」

    大好きな人と一緒に食べるご飯が、この世界で一番のご馳走。
    お部屋にあがる約束しちゃうなんて、少し大胆すぎちゃったかな?
    でも、許してくれるよね?
    だって……今日は素敵なバースデーなんだから♪

  • 19二次元好きの匿名さん23/02/27(月) 20:55:09

    ボーノ誕生日おめでとう!
    君は立派なちゃんこ鍋だ…
    素敵なSSありがとうございます

  • 20ちゃんこ主23/02/27(月) 21:03:02

    ――おしまい。

    誕生日プレゼントに新作料理を「食べて欲しい」って言っちゃうボーノが大好きです
    ボノ推し民が少しでも増えることを願って……

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