メジロマックイーン、ずんだシェイクに出会う

  • 11/523/03/01(水) 20:00:18

    レースの前のパフォーマンスというのでしょうか。
    ともかく、大きなレースの直前にステージが用意され、インタビューを受けることがあります。

    私―メジロマックイーンもこれから行われるレースの前に、ステージ上でインタビューを受けていました。

    ……その時です。"それ"が目に入ったのは

    (――なんですの、アレは)

    ステージから見える、レース観戦に訪れたファンの皆様。
    その中でもたくさんの人が手にしていたのは、喫茶店の持ち帰り容器のような小さなカップ。
    中に入っていると思われるのは、生クリームのようでした。

    それだけであれば普通のフラペチーノかと思いましたが……
    特徴的なその色味は、私がこれまで見たことのないものだったのです。

    (緑色……?)

    主張しすぎない、薄い緑色。
    見たことのないクリームに心を奪われてしまっていた私は、その時のインタビューで余計な事を言っていないか心配ですわ。

  • 22/523/03/01(水) 20:01:34

    こん、こん。
    ――インタビュー後。レース直前の大事な時間、トレーナーさんと最後の打ち合わせをしていると、控室のドアをノックする音がしました。
    「どうぞ」とトレーナーさんが返して、「失礼します」と言いながら入ってきたのは、ルームメイトのイクノディスタスさんでした。

    「イクノさん?」
    「レース直前に申し訳ありません。どうしても直接応援がしたかったので」
    「ふふ、ありがとうございます」

    レース前の短い時間ですが、イクノさんがこうして応援に来てくれたことが嬉しくて、どうしても話し込んでしまいます。
    トレーナーさんは特に止めたりせず、黙って書類の確認をしていました。

    ……最初は、気にならなかったのです。話しているうちに、つい目に入ってしまいました。
    先ほど観客の皆様が持っていたものと同じ、小さなカップと薄い緑のクリーム。

    「! イクノさん、そのカップ……」
    「……? あぁ、これですか? これでしたら、レース場外のキッチンカーで売っていましたよ」
    「な、なんですのそれは!?」

    あまりにぐいぐいと詰め寄るので、イクノさんが少し引いてしまっていたと思います。反省していますわ。

    「これは、ずんだシェイクエクセラです」
    「ずんだシェイク……ずんだシェイク!?」

    ……聞いたことのない商品ですわ。いえ、ずんだは知っています。シェイクという飲み物も知っています。
    しかし、ずんだシェイク……シェイク……ずんだの……?本当に美味しいんですの……?

    無言でトレーナーさんに視線を送ると、「レースが終わったらね」と言われてしまいました。
    飲みかけを、ましてレース直前に頂くわけにもいきません。当然のことですわ。

    ……ああ、中途半端に聞かない方が良かったですわ。本当に、味が気になってしまいます。いえ、まずはレースに集中しましょう。

  • 33/523/03/01(水) 20:02:51

    「……そんな」

    レース場の外で、私は絶望しました。そこにあったのは、間違いなくキッチンカーです。
    ……おそらくメニューが書かれていたと思われる看板には、今は「CLOSE」の文字が書かれていますが。

    「あぁぁ……」

    レースには気持ちよく勝利し、トレーナーさんやイクノさんと喜びを分かち合い、それから急いでここに来た私の努力は、なんだったのでしょうか……
    いえ、想定できたことのはずですわ。レース場のお客様がターゲットのお店であれば、レース中の時間しか営業していないのでしょう。
    ずんだ……私のずんだ……

    「お、マックちゃん?何してんだ?」
    「……ゴールドシップさん」

    キッチンカーの前でぐったりと項垂れる私に声をかけたのは、ゴールドシップさんでした。

    「ごめんなさい……今、貴女と遊ぶ気分でもありませんので……」
    「なんだよ、レース勝ったんだろ? 食欲ねーの?」
    「食欲があるから困ってるんですの」

    そしてゴールドシップさんは「ふーん」とつまらなさそうな声で答えました。
    私の後ろから話しかける形のゴールドシップさんの表情はわかりませんが。

    「なんだ、食欲あるなら安心したぜ。ほら、これ」
    「……? これは?」

    そう言って私の前に回り込んだゴールドシップさんが差し出したのは、例の小さなカップでした。

  • 44/523/03/01(水) 20:03:45

    「……!! これ、どうして!?」
    「好きそうだし、マックちゃんの分もと思って……」
    「ああ!! ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
    「おっ、おう……」

    ……また、がっついてしまいました。はしたないですわね……
    カップを受け取った私は、ゴールドシップさんと二人並んで近くのベンチに座りました。

    「では、いただきます」
    「おあがりよぉ!」
    「貴女が作ったわけではないでしょう」

    初めてのスイーツを、ゆっくりと味わいます。

    「不思議……不思議な味が……えっ美味しい!美味しいですわ!!」
    「だろ~?」
    「だから貴女が作ったのではないでしょう」

    確かな甘みは感じますが、かといって甘すぎず、本当に初めての味です。
    このザラザラしたのは、枝豆の粒感でしょうか……?
    バニラと枝豆が合うのかと、最初は少し疑っていましたが、思った以上に相性が良く驚きましたわ。

  • 55/523/03/01(水) 20:04:45

    「本当にありがとうございます、ゴールドシップさん」
    「おう、また食べに来てくれよな」
    「だから、貴女が用意したわけでは……ん?」

    ……そういえば、ここの店主は誰だったのでしょう。
    思い返してみれば、いつも応援には来てくださるゴールドシップさんが、観客席には見当たりませんでしたわ。

    「……まさか」

    それに、あのお店がいつ閉まったのかはわかりませんが、先ほど頂いたずんだシェイクはしっかりと冷えていました。
    冷蔵庫やクーラーボックスなどはありませんし、気温はいつもより少しだけ高いくらいです。
    この気温で、ずんだシェイクを冷やしたまま保管できるとは思えませんわ。

    できるとすれば、私がレースを終わらせてから食べたいと思ったタイミングで用意した、としか……
    そうなると、もしかして本当に、閉店してからゴールドシップさんがわざわざ、私のために――

    「ゴールドシップさん、貴女」
    「美味かったか?」
    「……ええ、美味しかったですわ。とても」
    「へへっ」
    「……ふふ」

    ――いえ、これ以上聞くのは野暮というものですわね。




    -おしまい-

  • 6二次元好きの匿名さん23/03/01(水) 20:05:35

    うまむすめしに触発されて書きました
    ずんだシェイク、本当に不思議な体験でしたが美味しかったです

  • 7二次元好きの匿名さん23/03/01(水) 20:06:09

    さらりとレースに勝ってるな

  • 8二次元好きの匿名さん23/03/01(水) 20:07:11

    良いですよね ずんだ

  • 9二次元好きの匿名さん23/03/01(水) 20:28:38

    >>8

    雰囲気似てるとは思ってたけど中の人一緒だったのか…

  • 10二次元好きの匿名さん23/03/01(水) 20:35:44

    うまむすめしもいいけどメジロのグルメも読みたい

  • 11二次元好きの匿名さん23/03/01(水) 20:39:00

    各地のG1を荒らし周りながら競馬場グルメを食べ歩くマックちゃんをみたいかというと凄く見たい

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています