- 1二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 07:31:14
「ゼファー、ハッピーホワイトデー」
「ありがとうございます、トレーナーさん」
3月14日、ホワイトデー。
私はトレーナー室でトレーナーさんから便風を頂きました。
風格のある紙袋に入ったそれは、オーガニック素材に拘ったメーカーのお菓子。
風の噂で知ってはいましたが、お値段が張るため手出しが難風でした。
……以前、お出かけの際にお話したことを覚えていてくれたんですね。
心に春風が吹き抜けるのを感じる私とは反対に、トレーナーさんは少し浮かない様子。
「……どうかされましたか?」
「あー……いや、やっぱり君にバレンタインに貰ったものと比べると、見劣りしちゃうなって」
「そんなことはないです、トレーナーさんの恵風は十分伝わってます」
「ははっ、ありがと。ただ、君みたいにもっと手間と時間をかけてあげたかったんだ」
私はバレンタインの時、手作りの薫風を送りました。
どんぐりを模したチョコレート。
トレーナーさんがそれを見て、心から喜んでくれたのを見て、私はひよりな心地になりました。
なるほど、これが逆の立場であれば、同じ風を感じて欲しいというのはわかるかもしれません。
「ですが、ここ最近はトレーナーさんも煽風を吹かせるほど多忙でしたから」
「そうなんだけど……ってごめんね、こんな話しちゃって」
トレーナーさんは申し訳なさそうに、謝罪の言葉を口にしました。
ここでこのお話は風凪をするべきなのでしょうが、どうしても引っかかてしまいます。
――――トレーナーさんにも、私がバレンタインに感じた風を、感じて欲しい。
そんな身勝手ともいえる嵐が、私の胸をざわつかせます。
……私としては大満足なのですが、あえてこちらから風招きをするべきのはどうでしょうか。
いわゆる『おねだり』みたいな行動は、私としては弊風と思います。
ですが引け目を感じているらしい彼に対しては、良風なのかもしれません。 - 2二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 07:31:40
ふと思い出すのは、頂いたお菓子の話をしたお出かけのこと。
帰り道、私の風を感じたいという無意識な呟きを拾っていただいて、高台に行きました。
そこで私たちはネイチャさんとターボさんと出会います。
ターボさんは追試の勉強中でしたが、豆台風のように元気いっぱい、つんつんさんのよう。
通り風のつもりでしたが、ぴょんぴょんとおねだりをするターボさんに誘われ、共につむじになることとなりました。
今思えば、彼女はおねだりがお上手なのかもしれませんね。
さて、そこでターボさんが提案した風の遊戯といえば。
「凧揚げが、したいです」
「えっ?」
「もし、トレーナーさんがまだ恵風を送りたいと仰るなら、凧揚げがしたいです」
「ああ、確か好きなんだっけ?」
「はい、ですが入寮してからは凪で。実家から凧も持ってきていませんので……」
「……! なるほど、それじゃあ一緒に買いに行こうか」
トレーナーさんも私の風道を察したのか、風外になるのを提案してくれます。
ですが、それは少し風向きが違いますよ、トレーナーさん。
私は彼の手をぎゅっと握ります。
ごつごつしていて、大きくて、固くて、それでいて、暖かい。
触れているだけでぽかぽかと春日和になるような、そんな気持ちになります。
少し早い花信風を堪能していると、トレーナーさんは困惑した声で呟きました。
「……ゼファー?」
「買いに行く必要は無風ですよ、凧なら、ここにありますから」
「えっと、それはどういう……?」
「ふふっ、トレーナーさん以前仰ってくれたじゃないですか――――『俺が凧になる』って」
その言葉に、トレーナーさんはバツの悪そうに顔を背けました。 - 3二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 07:32:08
「私だってしっかり覚えてますよ、好風に感じてしまいましたから」
「いや、その、あれは勢いでだな……」
私は手を繋ぎながら立ち上がると、少しだけトレーナーさんの手を引っ張ります。
すると、彼も観念したようにゆっくりと立ち上がってくれました。
繋いだ手から伸びる腕は、彼の肩に向かって、上へ伸びています。
それはまるで空に浮かぶ凧を繋ぐ糸のよう。
「さあ、行きましょう……凧を浮かべるなら、河原がいいかしら」
「……うん、空に浮かべるのは無しでお願いします」
「私が夕嵐となって、そうするのも良いかもしれませんが、糸が切れてしまってはあなじです」
「……?」
「ですからそよ風のようにゆっくりと流れる夕風となりましょう、小夜風とならない内に」
「ああ、なるほど」
トレーナーさんは正風な風向きを理解して、優しく微笑みを浮かべました。
その笑顔に、私も思わず顔をほこばせてしまいます。
心が弾んで、思わず歩きながら、鼻歌混じりでステップを踏んでしまいそう。
逸る気持ちを一旦凪いで、私はトレーナーさんに声をかけます。
「今日は、春一番のホワイトデーにしましょう、トレーナーさん」
「ああ、俺も頑張って春風に乗ってみせるよ……ありがとう、ゼファー」
「……はいっ!」
トレーナーさんの言葉に、私は自分でも驚くほどの風声で返事をしてしまいます。
夕嵐になってしまわないように、気を付けなければいけませんね。
こうして私達は、河風となるべく手を繋いだまま、共にトレーナー室を出て行くのでした。
――――なお、学園内もこの調子で吹き抜けたため、後日時候の風になってしまったのは別のお話。 - 4二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 07:33:48
- 5二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 07:35:24
- 6二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 09:12:33
- 7二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 09:14:24
- 8二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 10:55:31
- 9二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 12:19:58
いい風だ……
- 10123/03/02(木) 13:20:40
- 11二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 21:50:15
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- 12二次元好きの匿名さん23/03/02(木) 22:52:34
いい風でした……
"自分でも驚くほどの風声で"
ここが最高に可愛かったです。普段、淡々としている雰囲気のゼファーだからこそ嬉しそうな様子が愛おしく…… - 13123/03/03(金) 06:02:21