【SS】ネイチャと雛祭りとヘロヘロトロフィー

  • 1◆bEKUwu.vpc23/03/03(金) 22:28:15

    「年間行事は大事ですよね」

    「そうだな。季節感も感じられるし、思い出も増える。派手にする必要は無いけど、マメにやっていくことが大切だね」

    「それで、今日はコレですか、トレーナーさん」

    「そう、コレだ」

     ここはトレーナー室、目の前の棚の上には小さな赤い台座とミニチュアの畳が置かれている。
     今日は桃の節句、雛祭り。病や怪我、災いから女の子を守るための日本行事だ。担当であるナイスネイチャにも当然、健康に走り続けてもらうべく用意したのだ。

    「まあ、お金がないからそんなに立派なものは買えなくてな。お内裏様とお雛様だけで勘弁してくれ」

    「キラキラすぎるのはネイチャさんには似合わないですし、それは全然いいんですけどね、トレーナーさん。肝心のお二方がまだ見えないようですが?」

     一段飾りの雛段には、まだ主役が飾られていなかった。もちろん不在のままでは格好がつかない。この日のために用意した、とっておきの人形を登場させるタイミングを見計らっていたのだ。
     コホン、と咳払いをして、ネイチャの意識をこちらに向けさせる。

    「そうだな。主役がいなきゃ話にならない。……では、本日のヒロインをお呼びしよう! それがこちらの、“ナイスチッチャ”だ!」

  • 2◆bEKUwu.vpc23/03/03(金) 22:28:30

     取り出したるは折り紙製のちいさなナイスネイチャ、その人形である。彼女の髪型だけでなく耳カバーや勝負服をモチーフとしつつ、きらびやかな十二単に仕立てた自信作だ。彼女と過ごすうちにすっかり上手くなった折り紙技術を、ふんだんに盛り込んだ。その人形を彼女に手渡す。

    「わぁ、すごいじゃないですか、トレーナーさん! これ、アタシですか!? うわぁ! ネーミングセンスはさておき、すっごく嬉しいです! ネーミングセンスはさておき!」

     予想以上のはしゃぎっぷりに、こちらまで笑顔になってしまう。よし、ひとまず成功だ。渾身のネーミングが滑った件についてはちょっとだけ引っかかるけど……まあ、それはいいか。

    「ネイチャはよく『テイオーはアタシと違ってキラキラしてて~』みたいなことを口にしてたけど、俺にとってはずっとヒーロー……いや、キラキラのヒロインだよ」

    「そ、そう?」

    目線をそらして髪の毛をくるくると弄る彼女。

    「もうトレーナーさん、そんなこと言ったって何も出ませんってば」

    お、照れてる照れてる。カワイイ奴め。
    今度はネイチャのほうが「んんっ」と咳を一つ、仕切り直しをする番だった。

    「それでそれで! お内裏様はどちらですか?」

    「ああ、ここにあるよ」

  • 3◆bEKUwu.vpc23/03/03(金) 22:28:45

     これまたお手製の人形を取り出す。ネイチャは「おお」と声を上げてくれたが、先程よりはかなり控えめである。
     まあ、それもそうだろう。なにせ“ナイスチッチャ”に情熱を割きすぎて、お内裏様にかける時間が殆どなかった。ぱっと見たところでは見劣りしないと思うのだが、今まで自分の作品を手に取り続けてくれた彼女にはお見通しのようだ。
     それに、人形とは言え彼女の隣に座する男の製作に、正直なところやる気が湧かなかったのも事実。……トレーナーとして不埒な考えは持っていないつもりだが、まああれだ。「ウチの娘はやらん!」的なヤツだ。きっと。
     でもまあ、いつかはネイチャも素敵なお嫁さんになるのかな。彼女とともに並ぶ誰かなら、ネイチャのためにも、もう少し立派に作っても良かったかもしれない、なんて。
     お雛様を台座に載せて空になった彼女の手に、お内裏様を乗せる。

    「これもなかなかの出来栄えですなぁ。……ねえ、トレーナーさん」

     ひとしきり褒めてくれたあとに、もじもじしながらネイチャが問いかけた。

    「お雛様が、アタシだったじゃないですか。ってことはですよ? これってもしかしてトレーナーさんとか――」

     まずい、ちょっとシャレにならない誤解をしかけている。それではまるで担当に色目を使い、それを匂わせたがるヤバい奴のようだ。訂正しなくては。

    「いやいや違うよとんでもない! これはね、ネイチャがもう少し大人になった頃、いつか君の隣に立つ素敵な誰かを想像して……」

    「ふッ!!」

     弁解しているさなか、突如ネイチャが無表情になったかと思うと、彼女の手の中の人形が紙玉と化した。

  • 4◆bEKUwu.vpc23/03/03(金) 22:29:28

    「えっ? あっ!! ご、ごめんなさいトレーナーさん!」

     感情を取り戻したネイチャが、慌てふためく。

    「せっかくトレーナーさんが作ってくれたのに、アタシってば、なんでこんなことを……!」

     どうやら無意識だったようだ。それはそれで心配になるしびっくりしたけど、怒ることはないだろう。

    「ああ、えーっと、大丈夫大丈夫。ちょっと驚いたけど、そんなに深刻にならないでくれ、ネイチャ」

     青い顔をして泣きそうになっている彼女。一瞬だけ豹変した彼女に内心はバックバクだが、せっかくの雛祭りだ。悲しい顔はさせたくないので、これ以上の心配は掛けないようにしよう。

    「お内裏様がいなくたって、ナイスチッチャがいれば十分華やかだよ」

    「うん、でも……あ、そうだトレーナーさん」

     元気づけようにも顔を曇らせたままだった彼女が、ふと思いついたように顔を上げる。ガサゴソと鞄の中を漁り、取り出したのは。

    「これ、代わりに飾ってもいいですか? トレーナーさん」

     いつか渡した、最初のヘロヘロトロフィー。

  • 5◆bEKUwu.vpc23/03/03(金) 22:29:40

    「もちろん良いけど……最近作ったヤツのほうがしっかりしてるし、そっちのほう“チッチャ”に似合うとおもうけど」

     華やかなネイチャにヘロヘロトロフィー。これではアンバランスだ。

    「ううん、アタシはこれが良いな」

    「そうか? まあネイチャさえ良ければ……」

    「ハイ……」

    「うん……」

     なんだか変な空気が流れる中、お内裏様が予約していたポジションに見窄らしいトロフィーが陣取った。
     明らかに不釣り合いなその様子を、けれどもネイチャは嬉しそうに眺めている。
     と、再度ネイチャがはっと手をたたく。

    「そうだ、雛祭りにはお雛様の格好をして写真を撮る人もいるみたいですよ? せっかくだし、やろうよ、トレーナーさん」

    「今年の思い出になることは間違いないと思うけど、流石に十二単なんてすぐ用意は……」

     どうしたものかと頭を捻っていると、ネイチャがふるふるとお下げを揺らす。

    「そんな派手じゃなくったって良いんですって。アタシはほら、トレーナーさんが勝負服をモチーフにナイス……チッチャ? を作ってくれたお陰で、勝負服を着るだけでそれっぽくなりますし。じゃ、着替えてくるんで、ちょっと待っててくださいね」

     そう言い残して、彼女は止める間もなくトレーナー室をあとにした。

  • 6◆bEKUwu.vpc23/03/03(金) 22:29:56

     そうして待つこと30分、彼女が戻ってきた。

    「ずいぶんと時間がかかったみたい……ネイチャ、それは?」

     彼女の手には大きな金色の塊。紙でできた……着物だろうか。

    「ほらほら、アタシだけ着飾っても寂しいんで、トレーナーさんも羽織ってくださいな」

     大きな折り紙を張り合わせて作られたそれは、人を包み込むのに十分なサイズがあった。

    「感謝祭の飾付けに発注してた特大サイズの折り紙が余ってたもので。捨てるのももったいないし、たづなさんにお願いしてちょっとだけ借りちゃいました」

    「こんな大きさの折り紙、初めて見たよ。すごいなぁ……」

     もしかして自分よりずっと折り紙上級者なのだろうか? なんてことを考えながら、二人して雛壇の前に並ぶ。

    「ほらほら、いいですかトレーナーさん? 撮りますよー」

     パシャリ、と撮られたそのスマホの画面には、笑顔のヒロインと金色に輝くトロフィーが二組写っていた。

  • 7◆bEKUwu.vpc23/03/03(金) 22:30:07

    おしまい

  • 8二次元好きの匿名さん23/03/03(金) 23:55:05

    一時期よりだいぶ減ってしまったネイチャSS
    湿度といい、イチャイチャ度合いといい、題材としてはいいはずなんだが
    もっと増えて

  • 9二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 00:03:14

    トレーナーのクソボケ!(気さくな挨拶)
    このトレーナーならこういうことするしこういうこと言う
    ネイチャさんも照れてたり年相応にはしゃいだりしてて可愛いね 一瞬修羅になりかけてたけど
    ここだと文豪が寄ってくるイメージになってたけど、ネイチャさん自身の良さに気づけた良いSSでした
    トレーナーのクソボケ!(別れの挨拶)

  • 10二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 00:07:55

    読ませて頂きました
    やっぱりネイチャは最高ですわね!

  • 11二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 00:21:48

    >「ハイ……」

    >「うん……」


    ここすき

    言うときは押せ押せに言うのに途中で減速するのねっちゃネイチャしてる

  • 12◆bEKUwu.vpc23/03/04(土) 00:39:42

    レスありがとうございます


    >>8

    >>10

    キャラストや育成、今見直しても凄くいいですよね……

    ちょっと自信なさげで、でもトレーナーさんには肯定してほしくて

    応援したくなるというかなんというか、とっても良い……


    >>9

    >>11

    ネイチャはネガティブに陥りそうな思考とそれでもキラキラに夢を見続ける葛藤が魅力だと思うんですよね……

    そこにクソボケトレーナーをひとつまみ

    しっとりとイチャイチャを反復横跳びするネイチャを私は見たい

  • 13二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 00:42:17

    とりあえずハート押しといた

  • 14二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 00:54:25

    このレスは削除されています

  • 15◆bEKUwu.vpc23/03/04(土) 00:57:32

    >>13

    ありがとうございます

    楽しんでいただけたなら嬉しいです!

  • 16二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 10:10:09

    このレスは削除されています

  • 17◆bEKUwu.vpc23/03/04(土) 11:06:24

    よろしければ過去作も読んでいただけましたら幸いです


    シリアス

    分身分裂スカーレット|あにまん掲示板『すまないトレーナー君、私の不手際でスカーレット君が二人に分裂した。』まだ朝6時、アグネスタキオンのそんな声とともにLANEに画像が送られてきた。昨日、自分が担当して5年になるダイワスカーレットは、今…bbs.animanch.com
    嘘とバクシンロード|あにまん掲示板ああ、またこの夢か。何度も何度も繰り返した夢。彼女にとって大事な3年間、それは月日を重ねるごとに強く、明確になってきた。また、頭の中で声がする。『その言葉をお待ちしていましたッ!!私のトレーナーさん!…bbs.animanch.com
    【SS】私が生徒会長を務めて、何年が経つだろうか|あにまん掲示板私が生徒会長を務めて、何年が経つだろうか。思えばメイクデビューを走る前からこの役職に就いていた。記憶力がいいから、要領がいいから、同世代の中でも強いから。だから、私ならウマ娘全員を幸せにできる。最初の…bbs.animanch.com

    ギャグ

    ばーぶさいどの誘惑|あにまん掲示板「前から一度ご一緒してみたいと想っていたんですよ~♪」昼食時に担当のスーパークリークに集められ、今日は珍しいメンバーが集まった。「クリークさん、呼んでいただきありがとうございます!」「ありがとう、スー…bbs.animanch.com

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています