(SS注意)キタちゃんが苦手なことで震える話

  • 1二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 20:56:48

    そこはとても不気味で、見渡しても何も見えないくらい真っ暗だった。なんとか見えるのは、隣りにいるトレーナーさんだけ。いつだって頼りになるその人を見てみる。

    「だ、大丈夫か……キタサン……」

    いつになく震えている声のトレーナーさんは、いつもの頼れる姿とは程遠い。体も震えているし、顔は血の気が引いていて怯えているようだった。だけど、そんな姿を見て情けないだなんて思わない。いつだってトレーナーさんは、未熟なあたしのことを助けてくれた。いま助けが必要なトレーナーさんを支えるのはあたしの役目なんだから。
    トレーナーさん、あたしは大丈夫です!まかせてください!そう言わなくちゃ。

    「だ、だ、大丈夫ですよ……こ、怖くなんてないですからね……」
    「俺が言うのも何だけど、すごく震えてるぞキタサン……」

    思ったこととは違う言葉が出てるし、相当声も震えちゃった……。トレーナーさんの腕に引っ付いて震えているあたしは、どこから見ても怖がりな女の子に違いない……。

    「俺が先頭に立って歩こう。それなら少しはマシなんじゃないかな」
    「う、ううう……前に行かれるとそれはそれで怖いです……。隣りにいてください……」
    「俺が同じ立場でもそういう気がする……。分かった、一緒に行こう」

    トレーナーさんが隣にいてくれて、すごく安心する。暖かくて心強くてそれだけで大丈夫だって……大丈夫……大……。うわーん!怖さは全然大丈夫じゃないよぉ!お化け屋敷怖いよぉ!
    そう、ここはと~っても怖いって聞いたお化け屋敷で、トレーナーさんとあたしはふたりして震えていた。お化けが苦手なあたしとトレーナーさんが何故こんなところにいるのか。それはまぁ……あたしのせいというかなんというか……。

  • 2二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 20:57:17

    ――すべての始まりはひと月前のトレーナー室で起こった。
    その日のあたしは、トレーナーさんとミーティングをしていて、それ自体は何も問題なく終わることができていた。だから、終わったあとの会話が問題だったといえばそうなのかもしれない。

    「――そういえばあのときのお化け屋敷怖かったよなぁ」

    その一言を聞いたとき、あたしの心は大きくはねた。指先が冷えてる感じもしだしたし、何だろう……少しだけ頭がすぅ~っとしてきた……。あ、不味い。あのときの光景がまた目元に浮かんできた。

    「き、キタサン……?顔が青くなってきてるぞ……?大丈夫か……?」

    ひっ……追っかけてくるよ……。あわわわわ……。は、早く逃げないと……。

    「キタサン!」

    突然トレーナーさんに手を握られた!あ、あわわ……そんなことしてる場合じゃないですよ……!早く逃げないと……。ってあれ?

    「あたしを追いかけてくる髪の長い女のヒトは……?」
    「良かった……。正気に戻ったみたいだ……」

    少しだけスッキリした頭で周りを見渡す。さっきまでの暗い風景も、後ろから追いかけてくるゆ……幽霊……もいなかった。そうだよ、ここはトレーナー室で、トレーナーさんとお話してる途中のはずだ。そうだよね……!あのお化け屋敷はずっと前の話だもんね!
    落ち着いてきたら、今度は手のぬくもりに気がついた。あれっ……?そういえば、何でトレーナーさん……あたしの手を握ってるの……?

    「あ、あの……トレーナーさん……。な、何で……手を……繋いでるん……ですか……?」

    さっきとは違う胸の音。何かすごく苦しい……ドキドキ通り越してバクシンしてきた……。頭から指先まで熱くなってきたよ……。

    「あっ……済まない……。少し正気を失ってたからつい……」
    「しょうき……?そ、そうですか……。」

  • 3二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 20:57:45

    暫くは手を繋いだままだったけど、落ち着いてきたあたしを見て、トレーナーさんも安心したみたい。繋いだくれた手が離れてしまった。……離れた手のひらが寂しくなるのは一旦おいておくとして……。

    「う~ん……。やっぱり、あの時のお化け屋敷が相当怖かったみたいだな……」
    「そうですね……。あたし達が協力した結果とはいえ、偶に夢に出ます……」
    「あはは……俺もだ……」

    あの時のことを思い出したのか、顔が青くなっているトレーナーさん。あたしとトレーナーさんは、お化け屋敷ですごい驚いてたから、脅かすヒトからすると楽しいんだろうな……。

    「う~ん……あのとき言ったみたいに、リベンジしないといけないですよね……」
    「別に無理に克服することもないとは思うけどな……」

    少し苦笑いをしているトレーナーさん。
    うん、確かにトレーナーさんの言うことも分かる。お化け屋敷な苦手ってヒトは結構いるし、それが問題とは思わない。けど……お祭り娘としてはね……。あの時は、怖いことがプラスだったけど、やっぱり怖がるよりも楽しませたいし、楽しみたいのだ。

    「どうやって克服すればいいかな……」
    「まぁ、苦手を克服しようとするのは、悪いことではないよな……。俺も手伝うよ」
    「ありがとうございます!トレーナーさんがいれば絶対大丈夫です!」

    頼もしいパートナーの心遣いに感謝しながら、早速顔に手を当てて解決方法を考えてみる。苦手なものを克服するためには成功体験が大事だという。それならあたしがすることは……。

    「怖くない場所から行ってみるのがいいのかな……?トレーナーさんはどう思いますか?」
    「確かに慣れていくのが大切かもな」
    「そうですよね!よし、そうと決まれば色々調べなくちゃ!」
    「俺の方でも調べてみるよ」

  • 4二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 20:58:13

    それから色々調べては、お化け屋敷にふたりで行くことになった。ふたりで行く理由は……まぁあたしの怖がりを他のヒトに見られたくないからというかなんというか……。とにかく!トレーナーさんとふたりで、少しはお化け屋敷に慣れることができたのだ。

    何回目かわからないお化け屋敷からの帰り道。あたしとトレーナーさんはふたり並んで笑い合っていた。夕焼けがあたし達を照らしていて、他のヒトが見たら青春の一コマだったりするのかな?

    「うん、今回も大丈夫でしたね!これならハードルを上げても良さそうかも!」
    「確かにな……。今の俺達ならいける気がしてきたぞ!」

    トレーナーさんもだいぶ慣れてきたみたいで、今日はあんまり怖がっている様子を見なかった。あたし自身も、トレーナーさんを気にする余裕が出ている。練習や勉強以外でも、成長を実感できることってあるんだなぁ。

    「あたし達に怖いものなしです!いざリベンジ!」
    「分かった!予定を組んで万全の状態で行こう!」

    ふたりで握手を交わしながら、次の段階へのステップアップのことばかり考えてしまう。これを乗り越えられたら、父さんのようにカッコいいヒトに近づけるかも……!ふふふ、早く次が来ないかなぁ。

  • 5二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 20:58:42

    ――そして、トレーナーさんの腕で震えている、今に至るというわけだ。
    入ったときは良かったんだ……。あたしもトレーナーさんも、ある程度慣れてたから普段通り歩いてたのに……。な、何で急に後ろから知らない髪が長い女のヒトが走ってきたの……?気配感じなかったよ……?そして結構速いの何で?このままじゃ追いつかれそうだから不意にトレーナーさん担いじゃった……。
    トレーナーさんをおろして、腕にしがみつきながら歩いてたら、横からトレーナーさんじゃない声が聞こえだすし……。もう無理だよぉ……。

    「前みたいに走り抜けてもいいんじゃないか……?」
    「ダメです!じゃ……弱点の克服にはならないじゃないですか!」

    優しくそう言ってくれるトレーナーさんには悪いけど、ここまできてはお祭り娘の名が泣いてしまう。……あたしの心は泣いてるけどお祭り娘の名を泣かせてはいけないのだ。

    「あ、あたしはお祭り娘!ここで逃げるわけにはいかないんです!」
    「ソウダネ、ニゲチャダメダネ」

    トレーナーさんも同意してくれたし、そろそろ行かなくちゃ……。……?トレーナーさんってこんな声だっけ?というか聞き覚えがある声のような……?声の方を振り向くと知らないヒトが目の前にあった。

    「オネエチャンキレイダネ、ソノカラダホシイナァ」
    「「うわああああ!?!?!!!」」

    脇目も振らずに逃げた。逃げて逃げて逃げて逃げて逃げまくった。片手に残る手の感覚と一緒に走った。どこがゴールかなんてわからない。だけど今のあたしには走ることしかできなかった。

  • 6二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 20:59:12

    気づけば、もう出口が見えてきた。走ったからか思ったよりも早く着いたみたい。うぅ……。結局怖くて楽しめなかったよぉ……。苦手の克服はまだまだ遠いなぁ。

    「ごめんなさい……トレーナーさん……。結局苦手の克服が出来ませんでした……」
    「だ……大……丈夫……だ……。また……チャ……ンス……は……ある……だろう……から……」
    「トレーナーさん?」

    トレーナーさんの声がおかしい。か細くて弱々しくて……まるで……このままじゃ……倒れるんじゃないかってくらい……。
    恐る恐るトレーナーさんの方を見て、あたしは声を失った。だって、憔悴しきっているトレーナーさんがそこにいたのだから。

    「と、トレーナーさん!な、なんで……」
    「き、君の……スピードに……ついていったら……こうなった……」

    そっか……あまりに驚きすぎて、手を引いたまま走ったから……。そうだよね、あたし結構必死に走ったから、走る速さについていけないよね……。担いでいけばここまでじゃなかったのに……。後悔があたしの胸を覆い尽くしていく。

    「本当にごめんなさい……」
    「ふぅ……少しマシになってきた……。キタサン、俺は大丈夫だから気にしないでくれ」

    息を整えて少し落ち着いた様子のトレーナーさん。疲れは残っているみたいだけど、優しい表情であたしを見てくれていた。

    「それに前だったら、出口までそのまま走り抜けてたのに、今回はそうじゃない。大きな一歩だよ」
    「トレーナーさん……」

    そう気遣ってくれるトレーナーさん。ありがとうございます。次こそは、そんな風に気遣わせないくらいあたしは強くなってみせます!そう思うと心の中が燃えてきた!

  • 7二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 20:59:40

    「そうですね……。一歩ずつですよね!また頑張ります!」
    「俺も協力するからな!」
    「ありがとうございますトレーナーさん!今度はトレーナーさんを守れるくらい強くなります!」
    「ははは、すごく頼もしいよ。もう少しでゴールだから頑張ろう」

    決意を改めにして出口に向かって歩き出したあたし達。と後ろから追いかけてくるお化け達……。お化け!?よく見たら結構な速度でこっちに来てる!?というかなんで一体だけじゃなくて沢山いるの!!?いい感じの雰囲気でお化け屋敷終われそうだったのに〜!!

    「ここ追いかけるお化け多くないですか!?」
    「今日だけで何回走ってるんだろうな俺達……」

    少しの不満を言いながら走り出すあたし達。弱点克服の日々はまだまだ遠そうだな。そんな風に思いながら、ふたりして笑みを溢しながら出口まで走り続けるのだった。

  • 8スレ主23/03/04(土) 21:06:35

    お出かけイベントでお化けを怖がってるキタちゃんを見たときからそのネタで書きたいと思っていましたが、自分もお化け怖いしお化け屋敷に行ったことないしで中々形に出来ませんでした。
    結局お化け屋敷エアプなのでお出かけイベント参考にしながら書きました。

    自分が書くと可愛いよりになるというかよわよわキタちゃんになるのはいいのだろうか……?

  • 9二次元好きの匿名さん23/03/04(土) 21:17:54

    キタちゃん可愛いし面白くてよかったよ
    ウマ娘からして結構な速さの人とかマジモンの怪異かな?

  • 10スレ主23/03/04(土) 21:28:29

    >>9

    感想ありがとうございます!可愛くかけてたなら嬉しいです!

    あの世界割と速く走るヒトいるのとお出かけイベントでもウマ娘がお化け役とは書いてないので怪異ではないはずです。……とはいえあの世界普通に幽霊とか宇宙人がいるから怪異かもしれません。

    実は、あのお化け本当は幽霊なんじゃ……?ってオチも考えてたんですが、ホラーオチにするよりもカワイイキタちゃん書きたかったからこうなったんですよね……。

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています