【SS】高知トレセンでのお話

  • 1二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:05:47

    中央トレセン学園、全ウマ娘の憧れと言っても過言ではない場所だ。日本全国津々浦々、なんなら海外からも夢を持ったウマ娘たちが集まってくる。

    そして、意気揚々と中央トレセン学園に通ったは良いものの、芽が出ずに潰れていくウマ娘はたくさんいる。私だってその1人だ。偉大な騎士を意味する立派な名前をもらっておいて、怪我が原因で中央で走ることは無理だと判断した。自分の足の弱さが憎い。

    いや、弱かったのは心の方かもしれない。走ることを諦めたくないと地方のトレセンにこうして通っているのも、ここでなら勝てるんじゃないかと自分でレベルを下げただけなのかもしれない。自分はなんて傲慢なのだろうかと嘆息してしまう。

  • 2二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:06:35

    私が通うことにしたのは高知のトレセン。ここにくるのは脚部不安を抱えているウマ娘が多い。それは高知のレベルが低いからというわけではなく、そういったウマ娘たちのために脚への負担が少ない設計がなされているからだ。

    例えばグラウンドの土はとても柔らかく、深い。これは脚への衝撃を和らげてくれるからレースのリハビリにはもってこいだ。また、教官たちはトレーニングの時間を細かく管理している。オーバーワークはさせないように、だけどもその時の調子に合わせたトレーニングをできるようにしてくれている。

    しかしその分レース前の追込みなんかはあまりさせてもらえず、全体的なレベルは低い。地方のトレセンで見ても下の方にあると言わざるを得ない。そのため、他の地方トレセンから転校してくるウマ娘もいて、場所によってはウマ娘の落ちる滝壺だなんて言っているところもある。

  • 3二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:08:02

    「えっと、はじめまして。今日からよろしくお願いします」

    中央から来たウマ娘は、ほとんどがこの場所を見下しているだろう。私だってそうだ。この場所にいるのは自分以下だと思っているに違いない。だけどそんな様子を表に出してはここではやっていけないだろう。学生として来ているのだから集団に馴染めなければ針のむしろになるだけだ。

    そしてトレセンの生徒は寮暮らし。1人一部屋だなんて贅沢なことはない。だからこうして同室の娘にもしっかり挨拶をする。

    「はじめまして、グランちゃん!わたし、ハルウララって言うの!今日からよろしくね!」

    桜のように明るいそのウマ娘は、私より一回りほど小さいウマ娘だった。

  • 4二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:09:07

    ウララとルームメイトになれたのはラッキーだっただろう。彼女はクラスの、いや学園のムードメーカーだ。寮から登校するだけで先輩たちや同学年のみんなから声をかけられる。そしてウララは私のことも紹介してくれる。おかげでここにスムーズに馴染めそうだ。

    クラスは別だったが、まあ仕方ない。ウララが朝のホームルーム前のギリギリまで一緒にいてくれて、片っ端から紹介してくれたのでみんなの前で挨拶をする前からクラスメイトたちと知り合えていた。

    「ウララと同室とは大変だねー。あの娘はねぼすけだよー」

    そう声をかけてくるクラスメイト。確かに朝は眠そうだった。というか朝食を食べながら寝ていた気がする。天真爛漫ではあるがその反動なのかマイペースさが際立っている。

  • 5二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:09:58

    しばらく過ごしていると彼女のいつもの調子が顕著に現れる。まず朝はなかなか起きない。布団をひっぺがしてやっと起きる。トレーニングの最中に飛んでいる蝶を追いかけて学園の外に出て行ったこともある。

    休みの日に外で歩いていたらウララを探している先輩がいて、いざ見つけると河原で子どもたちと遊んでいたことも。何故かトレセン最寄りのコンビニの呼び込みを手伝っていたり何故か先生たちの腰踏みをしていたりと見かけるたびに何かをやっている。

    そして、そんな彼女と共に数人で模擬レースをする日がやってきた。

    「ふっふっふー、グランちゃん、今日は負けないよ!わたし今日は1着取れる気がするんだー!」

    そういえばウララとちゃんと走るのは初めてな気がする。こう見えて実はすごい実力者で、マイペースなのはその余裕があるから………?

  • 6二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:11:59

    もちろんそんなことはなくて、ウララは5人中5位という結果に終わった。私はウララをマークしすぎての出遅れもあって2着だった。

    正直ここのウマ娘を見下していた部分もあって、すごくショックだった。自分の実力を過信していたこと、自分の中のくだらないプライドが心を自傷している。

    「今日は惜しかったねー!次は1着取ろうね!」

    最下位だったウララはやはりいつもの調子で話しかけてくる。私と一緒に走ったら1着になれるのは片方だけなのをわかっているのだろうか。でも、彼女の言葉でまた次頑張ろうという気になれるのだから不思議だ。聞けばウララは1着を取ったことがないそうな。それでも前を向いて走り続けられるのはすごい。

    彼女は良いウマ娘だ。ちょっと足は遅いけど、それだけ。

  • 7二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:13:44

    ある日、高知での重賞のために地元メディアが押しかけて来た日があった。グラウンドは大勢の関係者が集まり、重賞に出る一部のウマ娘以外はトレーニングを断念することになってしまった。

    「うーん、もっと走りたかったなー」

    「私も、なんか不完全燃焼だよ」

    なんせここは小さいから。人が多く集まれるようになっていない。地方のトレセンなんてそんなものだ。だがもしここが

    「中央だったら走れたんだけどな──」

    その言葉に、ウララが食いつく。

    「中央ってあんなに人がいっぱいいても走れるの?」

    そうか、中央から来た私と違って始めから高知にいるウララはあの広さを知らないんだ。

    「中央トレセン学園は広かったからね。ここの5倍、いや10倍ぐらいはあるんじゃないかな?」

    「ほんとにー!?ここもすっごく広いのに、もっと広いの!?」

    その日、興味を示したウララに中央トレセン学園のことをたくさん話した。自慢話をしたかったわけじゃないが、それでも反応のいい彼女にはたくさん話してしまった。

    ウララは正直アイドルとかが向いてるんじゃないかと思う。これだけ話し上手で聞き上手ならトーク番組や旅番組なんかで人気になる姿が思い浮かぶ。愛嬌だけなら少なくとも高知一だ。

  • 8二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:14:31

    「そっかー、中央ってそんなにたくさん走れるんだ……よし!」

    なにがよしなのかわからないが、何かを決意したようだ。わからないまま寝るのもアレなので本人に確認する。

    「なにがヨシなの?」

    「わたし!中央に行く!」

    ……………無理だとは思うが、まあ直接そう言うわけにもいかず一応応援しておいた。

    「まあ、そうだね。がんばってね」

  • 9二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:16:33

    ある日、ウララがいない日があった。話には聞いていたが、本当に中央へ転入試験を受けに行ったらしい。しかしウララは端的に言って足が遅い。とても中央でやれるような実力じゃない。だからまあ、結果が帰って来たら慰める準備でもしておけば良いかとみんなで話し合い、ウララのお疲れ様会として部屋で菓子パでもしようということで準備を進めていた。

    そしてある朝、いつも通り2人で登校するとウララが先生に呼び止められて連れて行かれてしまった。時期的に補習でもないだろうし、この前の転入試験のことだろう。まあ不合格通知をみんなの前で渡すのも情けないだろう、ここの職員はやっぱりみんなウマ娘のことを大事に思ってくれているのだ。だからまあ、慰める言葉は考えておこうと教室に入り、それから少しして大慌てでクラスメイトが教室に飛び込んできた。そして開口一番

    「ウララが、中央受かったって!!!」

    やはりダメだった………え?受かっ、た?ウララが?中央に?ドッキリとかじゃなくて?本当に?

    「本当だって!学園長先生がウララにおめでとうって言ってて、中央の入学資料渡してたもん!!!」

    それだけで判断するのは早計じゃないか?いやそうでもないか?なんせ私たちの前提はウララは足が遅くて、とてもじゃないが中央に受かるような実力じゃなくて──

  • 10二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:17:46

    「それなんだけどさー、ウララ試験のレースで最下位だったらしいよ?あと筆記もダメダメ」

    まあそうだろうとは思った。そんな成績で入れるわけが

    「でも面接で全部ひっくり返したんだってさ!昨日先生が腰抜かしてたもん!」

    忘れていた、わけじゃない。ウララの愛嬌は確かに高知一だと思えるくらいはある。だからって、試験ボロボロから面接合格まで持っていった!?そんなバカな!
    そうこうしているうちに話題の人物であるウララがやって来て──合格証書を掲げて見せてくれた。

    「グランちゃん!わたし、中央で走れるって!!」

    その日はウララお疲れ様会改めてウララおめでとう会が開かれ、ウララの中央合格を祝って寮長まで一緒になって夜通し騒いでしまった。

  • 11二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:18:22

    しかしまだ信じられない。ウララが中央で走る姿が。そして、少し怖いとも思う。この高知トレセンははっきり言ってヌルい。中央で揉まれて神経をすり減らして、逃げるように帰ってこないだろうか。そんなウマ娘も、私を含めて何人も見て来た。

    「ねえ、本当に行っちゃうの?」

    「うん!なんで?」

    「いや、さ。………もし、辛くなったら帰って来てもいいからね」

    「うーん?お正月とかには帰ってくるよ!」

    「いや、そうじゃなくて」

    行かないでほしい、だなんて言えなくて。でも素直に送り出すこともできなくて。逃げた私にできることは、せめて逃げ道を作ってあげるくらいだった。

  • 12二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:19:39

    あれから何年か経って、教室で朝の準備をしていたらクラスメイトが飛び込んできた。なんだかデジャヴだ。いったい何があったのだろう?

    「ビッグニュースビッグニュース!ウララ!あのウララが!中央に行ったウララが!G1に!フェブラリーステークスに出るって!!!」

    ウララの名前を聞いたのはいつぶりだろうか。ここ最近はたまに思い出したりするくらいで話題に出すこともあまりなくてすっかり………え?

    「しかもしかも!既に重賞の根岸ステークスには出てたんだって!!!」

    ウララが、重賞に?あのウララが?調べてみると、堅実にレースに出走して実績を重ねているように見えた。ということは、何か大きな目標があるのかもしれない。フェブラリーステークスはダートだから、東京大賞典とかチャンピオンズカップとかかな?と思っていたらまさかの有馬記念!?

    今までの経歴を見てそれは無理があると思ったが、なんせあのマイペースなウララのことだ。そんなこと考えないもせずに決めたんだろう。

    なんにせよ、私が知らない間にウララも随分と成長していたみたいだ。今競うとおそらく負けてしまうだろう。G1に出るということはそれだけすごいことなんだ。中央に受かったと聞いた時はどうなることやらと不安に思っていたが、全くの杞憂だったみたいだ。つい少し前まで私の後ろを走っていたはずなのに、今はなんだか遠い存在になってしまったな。

  • 13二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:21:57

    そして4月、中央トレセンのファン感謝祭に合わせてみんなでウララに会いに行ってみることにした。相変わらずここは広いが、過去の記憶を頼りにみんなを案内する。ウララが泥まみれになりながら走っているのを見かけて、どろんこ競争が終わって声をかけに行こうとした。だけどあまりに人が多すぎて、結局遠巻きに眺めてるだけで声をかけることはできなかった。

    そしてさらに月日は流れ、ウララがG1を勝利する瞬間をテレビで見た。
    JBCスプリント、ウララは大舞台で紛れもなく1着を勝ち取っていた。私が臨んで、手を伸ばす権利すら与えられなかった場所に。ウララは立って、勝ち取っていた。彼女が望んでいた紛れもない1着を。

  • 14二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:23:42

    そして、12月。私は1人中山レース場に来ていた。ウララが出たかったという有馬記念、それを見届けるため。冬の中山は寒くて、ウララの勝負服では足が冷えて大変なんじゃないだろうか。パドックにいる時はまだまだいつものウララで、そんなことを考えながら見る余裕もあった。
    それでもゲートに入った時は明らかに空気が変わった。初めて見る、ウララの真剣な顔。あのウララが、こうしてグランプリの大舞台に立っている。いろんなウマ娘が切望し、私にも辿り着けなかった、あの場所に。あの娘は立っている。

    どうして、私はこっちがわにいるんだろう。どうして私は向こう側に立っていないんだろう。そんなのは簡単な話で、ここから逃げた私とここに挑んだウララの違いがあるだけ。そんな姿を見るのがとても眩しくて、だけど目を逸らすこともできなくて───

  • 15二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:25:56

    ウララは大差で負けという結果になった。
    途中で怪我をしてレースを中止した出走ウマ娘もいたから最下位ではなかったものの、その娘を除くと最下位だ。この結果は当たり前、今までダートの長くてマイルしか走っていないのに芝の2500mで勝てるわけがない。
    でもウララはきっと勝とうと思ってターフに立っていた。声援に応えるかのように走り続けていた。先頭が見えなくなるくらい離れても、それでも最後まで諦めずに走り続けた。最後まで1着を諦めていなかった。その姿が、彼女のこれまでの軌跡を物語っているようで、胸に込み上げるものが私の中で熱を帯びていた。

  • 16二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:27:17

    そしてウイニングライブも終わり、せめて声だけでもかけて帰ろうとしたところで、聞きなれた声を聞いた。

    「わたし、来年も有馬記念に出る!そして今度はぜーーーったい1着とるんだ!」

    ウララは相変わらずだなと思って足をそちらに向けて

    「あら、ウララさん。来年1着をもらうのは私よ!」

    「わ、私だって!勝ちたいですぅ!」

    「ハーッハッハッハ!君たちが覇王に挑んでくるのを楽しみに待っているよ!」

    「キングちゃんにだってオペちゃんにだってドトウちゃんにだって負けないよ!」

    「私だって、この怪我を来年までに治してみせる!」

    「わっ!ツルちゃん!大丈夫なの!?」

    「なんとか歩ける………から来年まで治療に専念!そしてみんなにかぁーーーつ!」

    少し手を伸ばして、そのまま引っ込めた。まだ、声をかけられない。だって私は、逃げたままだから。こんなんじゃ、情けなくて顔を合わせられない。あの娘に胸を張って話しかけられない。

    だから、挑もう。
    高知からだって中央には挑める。交流重賞はたくさんあるんだ。もしかしたら、そこで会えるかもしれない。だからその時まで、この手は引っ込めたままでいよう。そして次に手を伸ばした時は、そのまま手を合わせて握り合おう。お互いの健闘を讃えて。

  • 17二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:28:44

    走り続ければ、きっと辿り着ける未来がある。ウララが教えてくれたように、私も実践してみよう。

    『さあ始まりましたマイルCS南部杯、3番人気はこの娘、ハルウララ!そして11番人気』

    偉大な騎士、そんな立派な名前をもらったんだ。彼女が出てきた高知の代表として、今は私が挑もう。

    『グランシュヴァリエ!!』

  • 18二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 18:31:59

    ウララが中央に転入する前にグランシュヴァリエと会っていたら、という妄想でした。
    有馬記念は史実のオペがグランドスラムした年のメンバーに合わせています。ウララ有馬はグラススペスカイに挑むけど年代的にはオペドトウキングツヨシトプロと走ってるので。
    そしてトップロードが出てないけど許して。中等部同学年の集まりに先輩が絡みにいくのも………みたいな感じで許して。
    こんな世界もあったのかもしれないと思い書いてみました。これにておしまいです。

  • 19二次元好きの匿名さん23/03/06(月) 22:56:07

    ウララちゃん実家の話はするけど地元での話全然してくれないからアプリでももっと話してくれないかなぁ
    オグリのトメさんエピソードみたいに話してくれてええんやで?

オススメ

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