また遅刻ですか……｜あにまん掲示板

1二次元好きの匿名さん21/11/17(水) 17:29:52

　待ち合わせの時間から20分は経ったろうか。
　約束の場所にまだ現れない彼女の顔を思い浮かべて、今度のお仕置きはどうしてやろうかと考える。
　時間きっかりに来いなどと、そこまでうるさく言うつもりはないが、こうして待たされることはもう数えきれないほどの回数になっていた。
　苦ーいお茶の席にでも招待したら、きっとまた嫌そうな顔をするでしょうね。次回は私がプランを考える番。次回の楽しみが今からできて、気分を弾ませながら顎に手を添えて、一人街角でにやにやと笑みをこぼす。
　こんな姿を人に見られたらおかしく見られるかもしれない。自分の品性を保つためにそっと口許を指で覆い二、三咳払いをして誰にともなく誤魔化した。
　さて、楽しい妄想を終えて時計を見ても、まだ二分しか経っていない。
　楽しいときはあっという間に過ぎて行くのに、ただ待つだけの時間と言うものは長いものだ。
　こういうのを何理論と言うのだったか。

2二次元好きの匿名さん21/11/17(水) 17:31:19

「あのう……すみません」
「……？　私でしょうか？」

　暇潰しの考え事をしながら、ぼんやりと空を眺めていたら、見知らぬ男性に話しかけられた。見たところまだ若く、私よりもいくつか年上のように見える。それが三人。

「ちょっと道を聞きたくて、いま大丈夫ですか？」
「はあ……どちらに行かれたいのでしょう」

　正直、暇をもて余していたし、見知らぬ人とはいえ頼みごとを無下にするのも忍びない。

「実はトレセン学園ってとこにいきたくて……ウマ娘さんなら知ってるかなって」
「トレセン学園……ですか？　それならここから歩いて十分ほどですよ」

　なるほど、トレセンの場所を知りたいのであれば、この耳と尻尾を見て道を尋ねてきたのは納得です。
　しかし、今は学園で催し物などは何も無かったはず。
　生徒の家族という風にも見えないし。

3二次元好きの匿名さん21/11/17(水) 17:33:19

「この道を少しまっすぐいって……」
「あー、いや。直接案内してもらえたらありがたくってぇ」
「……？　スマホの地図でも……」

　ああ、そういうことか。

「本当に時間ちょっとだけなんで」

　この男達は道を尋ねたいのではなく、単なる下心で私に声をかけてきたのだ。
　男達の愛想笑いをよく見れば、その面の下に下卑た薄ら笑いが現れているのが見てとれる。
　そういえば最近、男性に声をかけられることが多くなったと、学園内でも噂になっていたような気がする。
　この辺りなら、学園の場所をウマ娘に聞くのは不自然でもないと踏んでの手口なのだろう。

「何も変なことしないんで……」

　馴れ馴れしく肩に置かれた手に虫酸が走る。
　振り払って逃げるのは簡単だが、こんな輩を相手に逃げる、という選択肢が気に入らない。
　かといって力ずくで払い除ければ、怪我をさせてしまう可能性も……。

4二次元好きの匿名さん21/11/17(水) 17:36:21

「おおっーと危ないデスよー！」
「っ！？」

　どう対処するか悩んでいると、私と男の間をやかましい人影が一陣の風のように駆け抜けていく。
　人影は急ブレーキをかけて数メートル先で止まり、上着の裾を大袈裟に翻しながら、こちらを向いて立ち直る。

「いやー、お待たせしました！　今日も何を着ていくか迷ってしまって！」
「エル……あなた……」
「お知り合いですか？　乱入！失礼！　彼女は私との約束がありますので！　アスタラビスタ！」

　危うくウマ娘に轢かれかけた男達がぽかんと間抜けな顔を晒している隙をついて、エルが私の手を強く引っ張ってくる。
　かくいう私も突然の事態にぼけっと突っ立っていたのだが。私は体が浮くんじゃないかと思うほどの勢いで、引きずられていくのだった。

5二次元好きの匿名さん21/11/17(水) 17:38:13

「……エル」
「…………」
「エル？」
「…………」

　男達から充分に離れてから、街中を歩いていく。
　彼女は私の手を強く握ったまま、行き先も決めずに、黙って足早で手を引っ張ってくる。

「エル、痛いです」
「…………」

　そう言うと、ようやく手を離して振り向いた彼女は、唇を尖らせて露骨に不機嫌そうにしていた。

「……なんデスか、あの馴れ馴れしい男たち……」
「知りません、道を聞かれただけです」
「あれはナンパデスよ！　ナ・ン・パ！」
「そうかもしれませんね」

　彼女が大声で怒鳴るせいで、道行く人々が視線を送ってくる。
　心配してくれているが故の怒りなのだろうが、派手にがなり立てるのは恥ずかしいので止めてほしい。

6二次元好きの匿名さん21/11/17(水) 17:43:28

「あんな連中、素手でいくらでも追い払えます！　なんで大人しくしてたんですか！　グラスらしくないデス！　好みのイケメンでもいたんじゃないデスか！？」
「暴力はいけませんよ、エル」

　はあ、要はヤキモチですか。
　私がそんなにすぐ手を出す暴力的な女に見えますかと、ぴしゃりと言い放つ。

「見えます！」

　脇腹に肘をお見舞いする。

「エル、歩道をスピードを出して走ったでしょう」
「…………ぐっ……つ……」
「共用の歩道では一定の速度以上を出してはいけませんよ」

　お腹を抱えてうずくまる彼女の背中に、そっと手を添える。
　元々彼女の遅刻が原因で声をかけられる事態になったのだと思うが、それでも駆けつけてきてくれた時、その姿に少し見惚れたということは内緒にしておこう。

「私にはエルコンドルパサーという最高に格好良いウマ娘がいるじゃないですか」
「グラス……」

　自分で言っておいて、少し恥ずかしくなる。
　顔が赤くなってやしないか心配だが、今はこのヤキモチ焼きを甘やかしてやることを優先してやろう。

「グラス……この力で人を殴ったら死にますね……」
「エル」