【微曇ss】カウントダウン【タキモル】

  • 1二次元好きの匿名さん21/11/18(木) 23:37:54

    「つまり貴方はこう言いたいわけだ先生。『あと3回も走れば私の脚は壊れる』と」

     医師が重く頷く。
     受け取ったカルテにそれが嘘ではないと言っている。
     オーバートレーニングによるものではない。練習後のケアも、栄養管理も良くできていると医師はトレーナーを評価した程だ。
     それでも身体が壊れ始めている。

     アグネスタキオンの速さへの果てしない渇望がウマソウルと強力に共鳴し、限界に迫る速さと引き換えに身を削っている。奇しくもその見解はタキオン、トレーナー両名とも一致した。

     今後の身の振り方を考える、という形で話は保留になった。

    「出走を取り消す気はないよ」
     迷わず切り出した決定。彼女の瞳は曇りなく狂気一色に先を見据えていた。
    「決めるのは私だよモルモットくん。なんだい、急に取り乱して」
     トレーナーの言葉は容量を得たものではなかった。将来。安全。幸福。
     「あまり私をがっかりさせないでくれたまえよ。きみは……私が、そんなものを欲しがっていると思って今まで実験動物なんぞに成り下がったのか?」

  • 2二次元好きの匿名さん21/11/18(木) 23:38:28

    トレーナーは尚も食い下がった。タキオンの意思を全て肯定した上で、理論を捨ててまで。

    「君が走れなくなるのは嫌だ」
    「まだ君との道を途絶えさせたくない」

     実験動物に、トレーナーに、大の大人にあるまじき涙を流しながらの懇願。
     それすら届かなかった。

     「だめだね。私は出る」

     打ちひしがれて下がった頭に頼りない小さな手が乗せられた。

    「しっかりしたまえトレーナーくん。まったく、走って欲しいのやら欲しくないのやら。仕方のないモルモットくんだ」

  • 3二次元好きの匿名さん21/11/18(木) 23:39:02

     喉でひと笑いしたタキオンの声が穏やかに落ちてくる。

    「いいかい?私たちは無敵の生物には程遠いんだよ。一生走り続けるウマ娘はいない。遅かれ早かれ走れなくなるのさ。」
    「だから──最高の一瞬を見逃せない。私の最高は今から来るんだよ。今、きみと組んで3年目の集大成が、だ。」

    「ここまで連れてきてもらったからねえ。なあにあと3走、その全てでスピードの向こう側に連れて行ってあげるよ」

     大袈裟でヘンテコな、いつものポーズ。
     大袈裟でヘンテコで、夢みたいな事を本気で追う、いつもの愛バ。
     トレーナーの目に力が戻る。

    「──よろしい。それでこそだよ。これでピースは全て揃った!」

     愛しいモルモットの健気な狂気を満足そうに覗き込むと、夕飯に栄養価に優れた甘口のカレーをねだった。

  • 4二次元好きの匿名さん21/11/18(木) 23:40:14
  • 5二次元好きの匿名さん21/11/18(木) 23:42:07

    し、仕事が早い……
    素晴らしすぎる…

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