【♀トレブルボンSS】夜のプールで戯れる話

  • 1二次元好きの匿名さん21/11/19(金) 22:20:30

     水面に反射して揺れる月明かりに照らされて、ミホノブルボンは困惑した面持ちであった。
     夜間のトレーニングが終るや否や、トレーナーに手を引かれてプールに連れ込まれた。
     水着に着替えている間に膨らませたのであろう浮き輪を渡されると、プールに放り込まれたのだ。

     浮き輪に腰掛け、プカプカと漂いながら、ミホノブルボンは疑問を呈す。
    「……マスター、これは一体」
    「ブルボン、落ち着いて聞きなさい」
     トレーナーの神妙な面持ちに、思わずミホノブルボン唾を飲み込んだ。

    「貴女の体は……メルトダウン寸前だったの。このままじゃトレセン学園は滅亡する」

     こんな所で表情筋を鍛えた成果を披露するのは甚だ心外であっただろう。
     おそらくこの時、ミホノブルボンは生まれて始めて眉間にシワを寄せた。

  • 2二次元好きの匿名さん21/11/19(金) 22:22:02

    「マスターの思考に『バグ』を検知。『デバッグ』の実行を推奨します」
    「……今日のトレーニングは、とてもハードだったわ」
    「一般的なトレーニングメニューとの比較検証を実施……完了。レースを控えた追い込み時期であれば、やってしかるべきトレーニング強度です」

    「他の子の、何倍も、何倍も、ハードなトレーニングよ。
    例えどんなトレーニングにも耐えうる鋼の肉体でも、しょせんはタンパク質で構成された肉の造形に過ぎないわ」

    「言語解析完了。先程の『メルトダウン』は筋肉の『炎症』を意味すると断定。つまりこれは、トレーニング後のクールダウンと推測します。
     であれば、今季より学園に導入された『クライオセラピー』……瞬間冷却を用いた疲労回復法であればより短時間で効率的な回復が期待できます」

     トレーナーは首を横に振り、プールサイドに置いてあったクーラーボックスからドリンクを取り出す。
    「三十点。赤点よ。このままじゃ補修ね、ブルボン」
     そう言ってドリンクを投げ渡すと、ミホノブルボンが乗った浮き輪を手で押し出した。

  • 3二次元好きの匿名さん21/11/19(金) 22:23:35

     少しプールサイドから離れてしまえばトレーナーの姿は闇に飲まれて見えなくなった。
     微細な動きで不安定に揺れる体。手足の先で制御しようにも勢いのほうが強い。
     ゆっくりと、くるりくるりと回りながら、流されていく。
     
     ようやく止まったそこはプールの中央。闇の中、月のスポットライトの中心。
     ドリンクを一口。浮き輪の中央に沈み込み、縁に首を乗せて空を見上げる。
     月と、星と、闇。まるで宇宙空間で漂っているかのような心地であった。

     落ち着いた所で、先のトレーナーの言葉の意味をミホノブルボンは考察する。
     自身の回答の、何がいけなかったのか。
    「『効率』でしょうか」
     トレーナーがあえてプールにつれてきたのだとしたら、それはあえて比較的非効率な疲労回復法を選択したという 事。
     そこに意味があるとミホノブルボンは考えた。
     ではあえて非効率な方法を選択した意味とは、一体なんなのか。

  • 4二次元好きの匿名さん21/11/19(金) 22:24:28

    「――宇宙、それは人類に残された最後の開拓地」
     やけにレトロなナレーションと、何やら飛び交う音、サイケデリックな効果音。
     それに合わせてトレーナーが立ち泳ぎでミホノブルボンに近づいた。

    「私のメモリには現在トレーナーが語っている『物語』のデータが存在しません。一体どのような……マスターの表情から『驚き』を認識。なぜ『驚いて』いるのですか?」
    「いえ、ね。ただ、ジェネレーションのギャップを感じただけよ」
     そういってトレーナーは仰向けになって体を浮かべ、ミホノブルボンの横に並ぶ。

     今度はトレーナーと共に、しばし宇宙遊泳に身を委ねる。 
     トレーナーから何かしらの命令があるのではと思ったが、何もない事に疑問を抱く。
     ミホノブルボンが首を横に向けると、ちょうどトレーナーと視線がぶつかった。

    「やっぱり。自覚がないのね、ブルボン」
    「……解析不能。マスター、説明を」
    「貴女、疲れているのよ。身体も、心もね」

  • 5二次元好きの匿名さん21/11/19(金) 22:26:25

     トレーナーは浮き輪の縁に腕を乗せ、ミホノブルボンに顔を近づけた。
    「言動、走り、ちょっとした仕草。総合的に見て感じたわ。貴女は焦ってる」
    「ステータス『焦燥』を……確認」

     ミホノブルボンは先程のやり取りを思い出していた。
     トレーナーの命令に対して、別のクールダウン法をすべきだと提言した自分の姿を。
     睡眠の質への影響。フォームの崩れ。筋肉疲労の長期化。
     不安定な精神状態は体の疲労回復を遅らせ、怪我のリスクを増大させる。
     普段ならこなせるトレーニングがオーバーワークになりかねない。

     勝ったら『嬉しく』負けたら『悔しく』なる。
     ミホノブルボンが理解し、得た『勝ちたい』『追いつきたい』という感情。
     だがかつて、彼女は始めてのその気持ちに振り回され、怪我をした。そしてまた、振り回されかけていた。

    「解析完了。……私はまた、『過ち』を繰り返そうとしていたのですか」
     トレーナーは首を横に振る。
    「今度は気づけた」
     そして、ミホノブルボンの手を祈るように両手で握りしめた。
    「もう二度と、貴女の走りを止めさせない」
     少々の沈黙が流れた後、トレーナーはパッと手を離してミホノブルボンの背後に回った。
    「マスター」
    「ゆ……、夕食を用意したわ。さ、戻りましょう」
     そういってトレーナーは浮き輪を押しながらプールサイドに足をバタつかせる。
     伺い知れないトレーナーの表情であったが、その顔が赤く恥じらいで染まっている事は想像に難くなかった。

  • 6二次元好きの匿名さん21/11/19(金) 22:28:28

     いつのまにかプールサイドに用意されたテーブルで、タンパク質多めの食事をとる。
     トレーナーはその周囲に色とりどりのキャンドルを配置し、一つ一つ火をつけていく。
     自身の肉体を鍛えあげるはずのプールが非現実的なリゾート空間へと変貌していく。

     食事が済めばすぐに食器が下げられ、あたたかな湯気を立ち上らせるハーブティーが配膳された。
    「オーダーの遂行完了。ステータス『リラックス』を確認」
     ミホノブルボンはハーブティーを口にしながら、安心したように息を吐いた。
    「それは良かった。――あぁ、そうだわ。この後着替えたら、建物の外には裏の窓から出なさい」
    「……? 情報が不足しています」
    「怒られるのは私一人で十分だから」

     そう言ってトレーナーはずっと流れていたBGMの音量を下げる。すると、先程までは聞こえていなかったドアを叩くような音が小さく聞こえてきた。

    「状況解析。『殴打音』と、微かな『怒声』を確認。……マスター、この催しは『無許可』で行われたものですか」
     トレーナーはぺろりと舌を出して虚空に目をそらす。
    「マスター」
    「……なに、ブルボン」
    「建物を出入りする時は窓ではなく、扉を使用する事が推奨されます。……今日は、ありがとうございました」
    「いいのよ。それがトレーナーの役目なんだから……あら、ブルボン」
    「はい」

    「笑顔、やっと見られたわ。やっぱり貴女、笑っている方が素敵よ」


     体力が70回復した
     やる気が上がった
     スキルPtが30上がった

  • 7二次元好きの匿名さん21/11/19(金) 22:29:20

    初エミュブルボンSSです
    解釈違い等ご容赦ください

    読んでいただきありがとうございました

  • 8二次元好きの匿名さん21/11/19(金) 22:41:18

    普段は中々お目にかからない空気を纏ったトレーナーだ……いい……

  • 921/11/19(金) 22:49:56

    >>8

    トレーナーの年齢はご想像におまかせします

  • 10二次元好きの匿名さん21/11/19(金) 22:54:37

    某スレで見かけた方でしょうか
    とても読みやすい文章で面白かったです
    独特な言い回しというか、雰囲気をまとったトレーナー像が非常に興味深かったです

  • 11二次元好きの匿名さん21/11/19(金) 22:57:51

    (`・ω・´)良いね

  • 12二次元好きの匿名さん21/11/19(金) 22:58:27

    👍😊👍

  • 13二次元好きの匿名さん21/11/19(金) 22:58:34

    いい関係だな…
    ブルボンSS珍しいから助かるー!

  • 14二次元好きの匿名さん21/11/19(金) 23:01:28

    >>10

    >>11

    >>12

    >>13


    ありがとうございます。

    某スレで需要の確認をしましたが、まあまあ需要ありそうで良かったです

  • 15二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 00:08:17

    地味にしれっとこなしてるので気付きにくいが
    高難度のブルボンエミュの精度がすげー高い

  • 16121/11/20(土) 00:21:20

    >>15

    初エミュで不安でしたが、なんとかなってそうで良かったです

  • 17二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 00:22:22

    ブル♀トレ初めて見た……

  • 18二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 00:24:49

    エヴァ味を感じる?

  • 19二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 00:29:01

    ブルトレ♀めったに見かけないのでありがたい
    海外ドラマっぽい空気がすき

  • 20121/11/20(土) 00:29:05

    >>17

    私は男ですが、ブルボン♀トレは流行った方がよい概念だと思います



    >>18

    ブルボンの胸をポカポカさせたかったんですね

  • 21121/11/20(土) 00:30:40

    >>19

    無いのなら作れば良かったんですね……

  • 22二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 06:49:01

    ブルボンSSはもっと流行ってもいい

  • 23二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 06:55:14

    素晴らしい…ありがとうスレ主…

  • 24二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 06:59:19

    これはいいものだ…

  • 25121/11/20(土) 07:51:16

    >>22

    >>23

    >>24

    ありがとうございます

  • 26二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 11:49:23

    ブルトレ♀の可能性を見出した

  • 27二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 17:00:58

    なかなか見ない文体な気がするがブルボンに非常に合っている気がする
    良いものを読まさせて頂きました

  • 28二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 18:49:13

    ありがとうございます

    1日経って読み返すと誤字脱字、トレーナーの呼び方ミス等色々見つかりますね
    以後気をつけます

オススメ

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