- 1二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 20:44:01
アタシは一度深呼吸してからトレーナー室のドアをノックした。手には、お弁当箱が2つ入った手提げ袋
「はーい、どうぞー」
中からトレーナーさんの声が聞こえたのを確認し、ドアを開ける
「ね、ネイチャ!?珍しいね、お昼に来るなんて」
そう言いながらさっと後ろに物を隠したのをアタシは見逃さなかった
「まー、なんというか気まぐれと言いますか……トレーナーさんがカップラーメンだけでお昼済ませようとしてるんじゃないかなーとか思いまして」
その言葉を聞いて、実にバツの悪そうな顔をして後ろに隠したものを机の上に置くトレーナーさん。まるで悪戯が悪戯が見つかった時のウチの弟そっくりだ
「いやまあほら、さっと済ませられるわけだしさ?」
「へー、『身体が資本なんだからちゃんと食事に気を遣うように』っていろいろ栄養についての指導もしてくれたトレーナーさんがそういいますかー、ふーん……トレーナーさんが体調崩したらアタシはどうすればいいんですかねー」
「う、うぅ……」
ぐうの音も出ないという顔をして唸るトレーナーさんを見るアタシは、きっと呆れた顔をしているのだろう
「とまあ、ネイチャさんにかかればトレーナーさんの昼事情もお見通しなわけですよ」
「……うん、ごめんネイチャ、これからは俺も少しは食事に気を使ってカフェテr」
「とゆーわけで!」
トレーナーさんの言葉にあえてかぶせ、続きを言わせない。ここで続きを言わせたら、持ってきたものが無駄になる
「アタシがお弁当作ってきたんですケド……どうでしょうか……あ、いや無理にとは言わないし何なら食べ盛りのアタシが2つ食べちゃうって手もありだからそれならそうと全然言ってくれても!」
やっぱり恥ずかしさでヘタレてしまう。やっぱこういうところだよなぁ、アタシ……
すると、トレーナーさんは一瞬驚いたあとで満面の笑みをうかべた
「ネイチャ、作ってきてくれたの?ならぜひ貰おうかな。ネイチャのご飯ならいつだって食べたいし」
コッソリ期待していた言葉を言ってくれると、やはりうれしい。心の奥がじんわりと温かくなる - 2二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 20:44:11
「ほいほい、こんなのでよけりゃいつだって毎日でも作ってあげますとも。じゃ、一緒に食べましょっか!ちゃんと見てないとまた仕事はじめてご飯中断とかやらかしそうだしー?」
なんだかぽろっととんでもないことを言ってしまった気がしなくもないけど、気にしない。
これから過ごすお昼は、間違いなく幸せな時間なのだから
みたいなほのぼのSSをいただけると窺ったのですがまだ在庫はありますでしょうか - 3二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 20:46:38
お前が始めた物語定期
- 4二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 20:47:08
そこに出来てるのでお召し上がりください
- 5二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 20:49:27
- 6二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 20:53:42
そこにあるはずなんですがそんなことを言っていいんですか?
あまり迂闊なことを言うと勝手に続きを書いてしまいますよ - 7123/03/23(木) 20:58:44
「ごちそうさまでした。本当においしかったよ、ありがとうネイチャ」
「はいお粗末様でした。ところでトレーナーさんや、いつもあんな感じの食事なのではありませんかなー?」
アタシがそう尋ねると、分かりやすく目を逸らすトレーナーさん。本当にわかりやすい
「と、トレーナーさんが良ければなんだけどさ……これからもアタシがお昼作ってこよっか?手間は全然かからないしアタシが好きでやることなんだケド……どう?」
手間もかからずアタシが好きでやることだと先に言うことでトレーナーさんの逃げ道をつぶしたけど、果たしてどう転ぶか……なぜかレースの前よりドキドキしている気がする
「……作ってもらえるなら俺はうれしいけど、せめて材料費は出させてほしい。あと、睡眠時間を削ってまではやらないこと。それでいいなら、お願いしたい、かな」
「はーい、りょーかいでーす。じゃ、食べたいものとかあったら早めにリクエストお願いでーす」
思わずガッツポーズをとりそうになるのを堪えながら返事をする。
明日からは、お昼も楽しみな時間の一つとしてカウントできるのが確定、ってワケですな
くらいしかもうもってなくて……
- 8二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 21:55:20
ぜひとも書くんだ
- 9二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 21:56:45
ネイチャ以外にも在庫はないんですか?
- 10523/03/23(木) 22:07:43
なんかこのネイチャ強くない?
でもそんなネイチャならもっとできるよね。
3月、お弁当、とくれば、あとはもうお花見じゃん!
というわけでお花見ネタに書いてるんだけど、ちょっとTP消費してくる。
日が変わる頃には投げようと思う。
- 11二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 22:45:58
とりあえず保守しとくね
- 12二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 22:51:05
ネイちゃん! 「材料費を出す」って言ったのを見逃すんじゃないよ! 現ナマを貰うだけなんて寒々しい真似しちゃダメだよ!
言質取って食材の買い出しに来るんだよ! 出来ればウチの店にも寄ってっとくれセールしとくから! - 13二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 23:01:02
- 14523/03/23(木) 23:44:03
すまん。
めっちゃ長くなった。10レスくらい。 - 15523/03/23(木) 23:44:19
「そろそろ桜も見ごろですなぁ」
3月も終わりに近づき、桜が花をつけ始めたころ。
いつものようにトレセンの外を散策していた私は、ふと目についた咲き始めの桜に気づいて、ぽつりとつぶやいた。
なんのことはない。単なる感想だ。
しかし、それをただの感想で終わらせてくれないのが私のトレーナーさん。
「そうだね。…来週末あたりが見ごろだろうから、そのときはお休みにしてお花見に行こうか」
「お、いいですねぇ。つまみとお酒をもって、桜を見ながらくいっと──」
「ネイチャ?」
「あ、いや、私は飲んでないですよ?うちの店に来てたおっちゃんたちや、商店街のおっちゃんたちが言ってたの真似ただけですよ?本当ですよ?」
「まぁ、信じるけど…」
「なにさ。なんかひっかかる言い方しちゃって…」
「いや、あまりにも堂に入りすぎてて…」
「…」
「…ごめん」
「…今後は控えます。私もさすがに乙女としてどうかと思いますので」
そんなくだらないことを言いつつ、私とトレーナーさんは、お花見に行く約束をしたのだった。 - 16523/03/23(木) 23:44:32
お花見前日、私は寮で仕込みをしていた。
飲み物はトレーナーさんが調達してくれることになった。現地まで車で運んでくれるらしい。
お酒はいいのかと私が聞いたら、ネイチャと一緒ならジュースの方がいいから、と答えられた。
ちょっと残念。
酔ってるトレーナーさんを見てみたいなんて思ってたことは内緒にしておこう。
さて、ならばと私は食べ物を任せてもらうことになった。
お弁当を作っていく、といったのだ。
トレーナーさんは「ネイチャに悪いよ」としきりに言っていたが、そこは押し切った。
あのおたんこニンジンめ。
ちょっとくらい「食べたい」とか言えないのか。
こうなったら目にもの見せてくれよう!
絶対「美味しい」って言わせちゃる!
そうして私は気合を入れて準備を始めた。 - 17523/03/23(木) 23:44:46
と意気込んだはいいものの、お弁当なので持っていけるものは限られる。
おにぎりと、唐揚げと、卵焼きなんかの定番メニューは外せない。
なんなら卵焼きは甘いのとしょっぱいの両方作っていこう。トレーナーさんの好みも知りたいし。
付け合わせはポテトサラダ?
いや、トレーナーさんのことだからきんぴらごぼうとか好きそう。こういうのあんま食べないだろうし。
彩りに野菜もいくつか添えるとして…。
トマトやキュウリ、あとほうれん草はめんどくさいからお浸しで。ごま油かけとけばいいっしょ。
凝ったものとしてニンジンとアスパラの肉巻きとか。
あ、ピーマン。玉ねぎとひき肉と一緒に炒めるか。べとべとにならないように油少なめで。
出来合いのハンバーグもつけちゃろう。これで喜んだらトレーナーさんは子供舌確定で。
と、お弁当の中身を準備していく。
こういう作業もすっかり手慣れたもので、気づけば無意識に鼻歌を歌っていたみたいだ。
それを聞きつけた何人かに声をかけられた。
「ネイチャの鼻歌はマーベラス☆きっと、ネイチャがマーベラスな気分だからだね☆★☆」
「ネイチャ、すごく楽しそう…」「きっとネイチャちゃんのトレーナーちゃんとお出かけなんだよ!」
「美味しそう…」「スぺちゃん…」「私にも分けてもらえはしないだろうか…」「はいはい、お二人はこっちに来ましょうね~」「ボーノだねぇ。クリークさん、私も手伝うよ~」
「…………トウトイ」 - 18523/03/23(木) 23:45:36
ちょっと私浮かれすぎてたかもしれん。めっちゃ恥ずかしい。
が、正直今更だ。
トゥインクルシリーズで走り始めて、最初の3年の途中から自覚はあった。
その後もずいぶん私は露骨だったようで、私の気持ちを知らないのはあの朴念仁くらいのものなのだ。
だから、もう私は攻めて攻めて攻めることにしたのだ。トレーナーさんの一着を譲らないために。
朝、下ごしらえを終えた食材の最後の仕上げをしていた時も、何人かから声をかけられた。
その声はほとんどが「頑張って!」「楽しんでね!」と私の背中を押してくれるものだった。
そんなこんなで、羞恥に耐えながら前日から仕込んでいた甲斐もあり、お花見弁当は完成した。
重箱5つにぎっしり詰められたお弁当を見て、満足げな笑みがこぼれる。
正直、「美味しい」と言ってもらえる自信がある。
自分の味見でも完璧だったし、余った分をあげた子にも「最高!」って言ってもらえた。
きっとトレーナーさんにも美味しいって言ってもらえる。
言ってくれるといいな。
言ってくれるかな…。
なんて徐々に微妙にネガりつつも時計を見ると、9時を回ったところだった。
待ち合わせは昼前の11時。まだ2時間近く先。
移動に余裕をもって1時間くらい見るとして、あと30分は余裕がある。
ふと、トレーナーさんは何をしているのだろう?と思った。
飲み物の買い出しとはいっても、車で買いに行くなら時間もそんなにかからないし。
朝ごはんを終えて準備しているころだろうか。
もしかしたらまだ寝てたりして…そしたらからかってやろうか。
などと考えながら「起きてる?」とメッセージを送ったら、すぐ返事が返ってきた。
なんだ起きてたかー、なんて思いながらメッセージを開いた私は絶句した。
そこには一言
『場所取りしてるよ』 - 19523/03/23(木) 23:46:07
「はぁ…はぁ…」
「おはよう、ネイチャ。…大丈夫?そんなに急がなくても時間にはまだ…」
急いで待ち合わせ場所に向かった私は、お弁当が崩れないように細心の注意を払いつつ、その上で出せる限りの全力で現地へ向かった。
そんな私に、暢気な顔で挨拶するトレーナーさん。
正直ちょっといらっときたので、思わず声を張り上げてしまった。
「『大丈夫?』じゃないでしょ!何やってんの?何やってんの!?」
「いや、ここは花見のスポットとしても有名だから、場所取りしないとって…」
「いやいやいや!トレーナーさん、昨日何時に帰ったの?今日何時に起きたの?ちゃんと寝た?徹夜とかしてない?」
そうなのだ。トレーナーさんが忙しいのは嫌というほどわかってる。
それなのに、私のために無理をさせるのは嫌だ。
「それはしてないよ。ちゃんと家に帰って寝たよ」
「ほんとかな~?」
「いや、ほんとだよ…?」
「じーっ」
「ほんとだってば」
「じーーーーっ」
うーん。なんとなくだけど、嘘はついていなさそうだ。昨夜はちゃんと家に帰ったのだろう。
よく見れば、服装も昨日とは違う。ちょっと安心した──のだが、まだ違和感は消えない。
「じーーーーーーーーっ」
「…っ」
あ、目を逸らした。ちゃんと寝たのは嘘ではないようだが、何か隠してることがありそうだ。
それを確信した私は、視線で追及を続けると、やがてトレーナーさんは観念したようだった。 - 20523/03/23(木) 23:46:44
「いや、そのさ……今朝、早くに目が覚めちゃって…」
「は?」
「まだ暗かったからもう少し寝ようかと思ったんだけど、今日お花見だと思ったらなんか寝付けなくなっちゃって」
「子供か!」
思わず私は叫んだ。
「え?てか、トレーナーさん、そんなにお花見好きだったの?」
「いや、その…」
逃げるように体をのけぞらせるトレーナーさん。
ピンときた私は、ここは攻め時だと感じて、攻勢をかける。
「ほらほら、正直に言わないとお弁当はお預けだぞ~?」
「うぅ……。その、ネイチャのお弁当が楽しみで…」
「っ!」
そういうと、恥ずかしそうにもじもじと俯いてしまうトレーナーさん。
なんだこの可愛い生き物は。
いや、いい歳した大人がこんな反応してもキモいと思うのだけど、それが可愛く見えるのは桜マジックなのか他のマジックなのか。
一部のウマ娘(ウララやタイキやテイオー)なら飛びついていたであろう衝動を堪える。
私はこのお弁当をぐちゃぐちゃにするわけにはいかないのだ。
ともかく、それならトレーナーさんを責められない。
本当はもっとぐっすり寝てほしいけど、楽しみだって言ってくれたのは嬉しいのだ。
それに、私のもやもやした気持ちはすっかりなくなってしまった。
代わりに暖かいものが満ち満ちており、私は早くお弁当を食べてほしくて仕方なくなった。 - 21523/03/23(木) 23:47:10
「そんなに楽しみにしてくれてたんだったら、しょうがないですねぇ!許してあげましょう!」
この場に満ちた甘酸っぱくて居た堪れない空気を吹き飛ばす様に、気持ち大きめに声を出す。
「今日のはけっこう頑張ったから。トレーナーさんのお口に合ったなら嬉しいな」
「本当?うわぁ、楽しみだなぁ」
(…やっぱり子供だな、この人…)
「ネイチャ?」
余りに素直な反応についついジト目になってしまうが、それはもういいのだ。
それよりも、さっきのついでに気になっていたことを確認する。
「ううん、なんでもないですよ。トレーナーさん、おなかすいてるの?朝ごはん食べた?」
「軽めにね。お弁当いっぱい食べたかったし」
「えっ。私がちょっとしか作ってこなかったらどうするつもりだったの?」
「そしたら一緒にどこか食べに行けばいいさ。お弁当作ってくれたネイチャへのお礼も兼ねてね」
「いや、お礼て…」
そもそもこのこの話は私が発端なわけで。
そんでもってお弁当作るのは私が言い出したことだし。
それなら私は飲み物のことや予定を調整してくれたことのお礼もしなきゃいけなくなる。
それだけじゃない。今日まで私が走ってこられたのは、全部全部トレーナーさんのおかげなのだ。
それなのに、ちょっとお弁当作ったくらいでお礼だなんて…私はいったいトレーナーさんに何を返せばいいというのか。私をあげますとか言えばいいのか。
いやはや、そんなことをいつまでも考えてても仕方がない。
はぁ、とひとつ溜息をついて、私は持ってきたお弁当をレジャーシートの上に広げた。 - 22523/03/23(木) 23:47:26
「すごいなぁ!ごちそうだぁ!」
「そんなたいそうなもんじゃないですよー」
呆れたように言う私と、目をキラッキラに輝かせて、何から食べようかと迷ってるトレーナーさん。
やれやれ、今こんな状態じゃあ、実際に子供ができたら、世話する相手が一人増えるようなもんじゃ……っていやいや私は何を考えてんだ。結婚どころか付き合ってすらいないのに子供とか。
まったく、目の前の大人が子供還りしてるせいだ。
「じゃあ、いただきます!」
「あ、はい。どうぞ召し上がれ」
ついついよそ事を考えたら、トレーナーさんはとっくに食べる準備を終えていた。
きちんと手を合わせていただきます、ってこれなら子供の教育にも──ってしつこい!頭花畑か!春だけに!
と余計なことを頭から追いやり、トレーナーさんの反応をじっとうかがう。
「~~~~~っ!」
あ、はい。ありがとうございます。
なんかもう聞かなくてもわかる。全身で物語ってる。
「ネイチャ!美味しいよ!ありがとう!」
「はいはい、どういたしましてー」
せっかく美味しいって言ってもらって嬉しいのは確かなのに、なんだかいろんな”気”を抜かれてしまった。
おかげで反応も塩対応だ。私の感動を返せ。(理不尽
まぁでも──
「お口にあったようでよかったよ」
その時の私は、きっと今までで一番の笑顔を浮かべていたに違いない。 - 23523/03/23(木) 23:47:48
「そういえば卵焼きが多いね」
「そっちは甘いのでこっちはしょっぱいの。どっちの方が美味しいかな」
「どっちもだけど……う~む」
「悩みすぎ。こんなに気分でいいんだって」
「お弁当なら甘いのかなぁ。しょっぱいのはお酒のお供って感じ」
「そか。ほかには?どれが美味しい?」
「どれも美味しいよ。あ、でも、このほうれん草のお浸し美味しいね。手間かけてる?」
「ぶぶー。ただごま油かけただけだよ」
「へぇ!それだけでこんなに美味しくなるんだ」
「ま、料理はそういうひと手間が大事ってことだね」
「こっちのきんぴらは?」
「あー、ちょっとは手をかけてるかな?」
「こういうの、あんまり食べる機会がないからなぁ。お店のだとけっこう味濃い目だし。こういう家庭の味って感じのやつ好きなんだよなぁ」
「あー。お店はそうだよねー」
「おにぎりもらっていい?」
「おかかと鮭と昆布があるよ。どれにする?」
「鉄板は鮭かなぁ。あ、でも全種類ちょうだい」
「あはは。たんと召し上がれー」
お弁当の感想を言い合いながら、和やかな時間が過ぎていく。ひそかに情報収集も怠らない。
時折、二人で桜を見上げては、綺麗だね、と言い合う。
満開とまではいかないが、桜は十分見ごろだった。
そうやって静かにしていると、周囲の賑わいが増してきたことがわかる。
そろそろお昼を過ぎたころか。
ちらほらと花見客が増えてきていた。 - 24523/03/23(木) 23:48:01
「ふぁぁぁ・・・」
ふと、トレーナーさんが大きなあくびをした。
おなか一杯になったら眠くなってきたのだろう。
朝早くから場所取りしてくれたし、何かお礼を……そうだ!
「トレーナーさん、眠い?」
「すこしね」
「あったかいんだから、少し寝ちゃいな。この後も運転あるんでしょ?」
「あぁ、そうするよ」
「じゃあ、…(パンッ、パンッ)…ほい」
「?」
「枕、貸してあげる」
「え?いや、それは…」
「いいからいいから」
そういうと、私はさっさとトレーナーさんを引っ張ると、私の膝の上にその眠そうな頭を載せてあげた。
そうすると、観念したのかトレーナーさんは目をつむった。
「朝から場所取りありがとね。飲み物もありがと。それに、今日のために予定を調整してくれたり、これまでもいろいろと…」
「それは…」
「いいから言わせて。こっちはいくら感謝してもし足りないんだから」
「……うん」
「私、いっぱいトレーナーさんに感謝してるから。お礼だって、もっとたくさんしたいって思ってる。
本当はお弁当なんかじゃなくて、もっと豪勢なものとか、形に残るものとか、なんかそういうの贈れたらよかったんだけど。
でも、トレーナーさんはそんなのいいって言うこともわかってるから。
…だから、お弁当くらい、いくらでも作ってあげるから。
なんなら、その、普段からもっと健康的な食事を送ってもらうためのごはんとか作りに行っちゃったりしちゃったりして…」 - 25二次元好きの匿名さん23/03/23(木) 23:48:23
このレスは削除されています
- 26523/03/23(木) 23:48:50
恥ずかしさのあまり、言葉がしりすぼみになっていく。
自分の声が消えていく代わりに大きくなって聞こえてきたのは、トレーナーさんの寝息だった。
「うわっ。寝るの早やっ」
恥ずかしさをごまかすように、わざとらしくツッコミ。
誰が見てるわけでもないのにね。
でも、これでよかったのかもしれない。
今日でまた、トレーナーさんとの距離を一歩縮められたはずだ。
少なくとも、今のこの状況は、過去の私からしたら大いなる進歩だろう。
「今は、これが、精一杯……なんてね」
すやすやと眠るトレーナーさんの髪を手櫛でとかしながら、私はこの幸せをかみしめるのだった。
~おわり~ - 27123/03/23(木) 23:50:12
いいものをありがとう……寿命が3年は延びた
- 28523/03/23(木) 23:52:18
以上です。
なんか思ったよりトレーナーが子供っぽくなりすぎたかもしれない。
まぁでも折り紙のトロフィーを贈ろうとするような奴は、子供みたいな純粋さを持ってるに決まってる。
あれがスパダリ(ネイチャ専用)だ。私がそう決めた。 - 29二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 08:29:00
ぶきっちょで子供っぽいけどネイチャ特効なスパダリ概念はいいものだ
- 30二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 08:33:17
練習も上がってすっかり夜になった時間から気合の入ったLANEを送り付けるのも気が引けて、精一杯の言い訳をこねくり回そうとした挙句何も思いつかなくて、じゃあせめて送る時間だけでも自然に見せようと足掻いたアタシが「送信」をタップしたのは午後9時3分のことだった。
〔いつも何時まで起きてるんですか?>
“既読”が表示されるのを確認する前に画面を切って机に置いて、頭を抱える。
「……ぁあ、やっちゃったかも……」
後悔先に立たずとはよく言ったもので、送信した後になって後悔やら修正点やらは浮かんでくるものなのだ。
鏡に映った自分の耳がこれでもかというほど項垂れていたから、鏡は伏せた。
──♪
<まだしばらくは起きてる予定〕
〔おやおや夜更かしさんですか>
<ネイチャも起きてるじゃん〕
<なんかあった?〕
〔だいじょぶです>
〔なんかいつ連絡しても返事来るなって>
<トレーナーの仕事が意外と多いの、なって初めてわかったよ〕
トレーナーさんがこの時間まで仕事をしていることに申し訳なさと心配な気持ちが生まれたけど、一方で──
「──この時間までアタシのこと考えてくれてるんだよね」
なんて言えるわけはなくて。指を通して出力される言葉は、どうしたって想いの何倍にも希釈されてしまう。
〔おそくまでお疲れさんです>
<ありがとう、いつも助かってる〕
味気のない文字列であっても、明確に自分へ向けられた言葉に口角が上がってしまう。たぶん──尻尾も揺れてる。同室がシャワーに入っている間でよかった。
- 31二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 08:38:13
〔あんまりお仕事の邪魔しちゃいかんですよね>
<邪魔になるなら返してないよ〕
<世間は明日休日だし〕
(ネズミのスタンプ。光のない目で「ハハッ」と笑っている)
〔無理しなさんな…>
わかっちゃいてもやめらんないのが性分と言うやつで、漏れ出てしまった心すらもトレーナーさんが一瞬で覆い隠してしまうその様に胸が高鳴った。
<部屋は寒くしてないか、風邪ひかれたら泣く〕
〔あったかくしてるよ>
「ぜったい泣かないくせに」そんな独り言すら、うわずっている。
<よかった〕
<トレーナー室の改修を理事長に頼まなきゃだわ〕
〔もう3月終わるじゃん、まだまだ寒い感じです?>
<デ〇ンギのオイルヒーターは絶賛稼働中〕
〔ウワ…>
全部くだらない話で、きっと休日前の夜にするべき話でもない。でも、だからこそ、今アタシは幸せなんだ。
<おかげであったかドリンクがおいしいけどね〕
(湯気を立てるカップの写真)
〔わ、何ですそれおいしそうな>
いつだったかトレーナーにあげたマグカップ。トレーナーさんの時間にご一緒出来てる気分に尻尾がせわしない。
- 32二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 08:38:34
<なんかカフェインレスの粉末チャイらしい、こないだ買った〕
〔いいじゃないですかー、寒い日にぴったりで>
<ネイチャも飲む?〕
その文字列を見た時にはもう上着をクローゼットから引っ張り出していた。同時に、帰りが遅くなることを寮長に伝えるメッセージも素早く打ち込む。
たぶん、今からだとそんなに長い間は居られないけど。
「ごめーん、ちょっと出てくる」
「マーベラース☆☆☆ ☆★☆」
……自信はないけどたぶん了解のサインだ。
〔夜中に中等部の生徒を呼び出しちゃうなんて罪なトレーナーさんですね>
<やべえ完全にその認識抜けてた〕
<ネイチャが中等部なの未だに慣れない〕
「手遅れですよトレーナーさん」
だってアタシはもう星の下、あなたに向かって走り始めちゃってるんです。
指の先までぽかぽかしているのはきっとお風呂に入ったからじゃなくて、ただ一杯のチャイを飲むためだけにあなたに会いに行くからなんです。
〔もう着いちゃうんで観念しなさいな>
<お湯なら沸いてる、あと歩きスマホ禁止〕
注意されるまでもない、どのみち右手はもう目の前にあるドアノブを握らなくちゃいけないのだ。吸って、吐いて、ノックを3回。ちょっとだけ息を整えてから、いつもと変わらない声音を目指してアタシは呼びかける。
「──ども、あったかいのもらいに来ましたよ」
- 33二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 08:39:05
辻失礼しました、ネイチャあったかくすごしてくれ...
- 34二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 11:16:09
辻書き助かる
- 35二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 23:18:30
マーベラス☆
- 36二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 10:20:26
- 37二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 11:26:02
- 38二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 11:42:52
- 39二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 23:35:45