- 1二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 19:11:21
慣例に沿って選抜レースを見に行ったその日、私はとあるウマ娘にで出会った。そのウマ娘の名はヒシミラクル。このレースに賭けている真剣なウマ娘達に混じって尚気の抜けた様な佇まいの彼女は、当然ながら周囲から浮いていた。マイペースというか緩いというか。それが気になって重点的に目で追うことにした。
レースが始まり、若駒達がゲートから飛び出していく。その集団の中にあって、ヒシミラクルの顔が変わる。その目は真剣そのもので、さっきまでたはまるで別人。勝とうとする意志がありありと伝わってきた。が、現実はそうはいかない。ヒシミラクルは先頭との差を縮める事ができず、着外に沈んだ。周囲のトレーナーの話によると、既に十回近く出走しているが未だに勝てていないらしい。
「また負けちゃいましたぁ〜〜」
そう言ってにへらと笑うヒシミラクル。いつの間にかレース前の雰囲気に戻っていた。多くのトレーナーが上位のウマ娘に群がる中、彼女は特に何かを零す事もなく校舎の方に戻っていく。ただ、その背中は意気消沈してように見えて、いつの間にか後を追っていた。すると、ヒシミラクルは更衣室等に行くこともなく、校舎の裏側の人気のないエリアに入っていく。何をするつもりなのか思案しつつ校舎の影から覗いてみると、冷水をかけられたような光景が眼前にあった。
「なんでぇ……どうして……」
ヒシミラクルが泣いていた。校舎にもたれかかる彼女の両目からは涙が溢れている。堰を切ったようにこぼれるのは不甲斐ない自分への叱責だ。ウマ娘は走るために生まれてきたとされる。そんな彼女達からすれば、どんなに頑張っても勝てないのは辛いだろう。積もるフラストレーションも相当なもの。一人のウマ娘の挫折を目の前にして、隠れている訳にはいかなかった。
「ふぇ!?だ、誰ですかぁ?」
当然ながら急に姿を現した自分に驚くヒシミラクル。そんな彼女にトレーナーである事を伝え、話を聞かせてくれないかと申し出た。最初こそ警戒していたヒシミラクルだったが、熱意が伝わったのかポツポツと身の上話をはじめた。 - 2二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 19:11:50
ヒシミラクルは幼少期から同世代の中でも走れる子供だったという。その為家族や友人、地元の人達からの期待は高かった。彼女本人も走るのが楽しくて、トレセン学園の門を叩いた。でも、そこに広がっていたのは全国から集められたエリートウマ娘による弱肉強食の世界。我流の走りでは太刀打ちできなかった。自分なりに努力はしたが、勝つことは出来なかった。そうして、入学当初の自信は失われていった。
「ズブいんだって分からされて…わたし…何の取り柄もない…」
「いや、それは違う」
ネガティブの泥沼に嵌りそうなヒシミラクル。流れを変えるべく、独白を遮った。彼女の認識には誤りがあるのだと、君には立派な武器があるのだと語りかける。信じられないという顔のヒシミラクルはマジマジとこちらを見つめた。
「…どうして…そう思うんですかぁ?」
「だって、君は完全に諦めちゃいない」
そうだ、ヒシミラクルは自虐しつつも諦めの言葉を口にしなかった。何度も負けても、次に勝つことを考えていた。さっきの自責だって、自分のいたらない点を見つけて直そうとしていた。諦めないというのは簡単なようでとても難しい。多くの人が理想を追うことを諦めて道から外れていく。でも、それではいけないのだ。勝負の世界で勝とうと思うのなら。
「諦めた奴は勝てない。諦めない奴にしか、奇跡は起こせない」
「奇跡…」
近年のウマ娘レース界でも奇跡は起こった。例えばトウカイテイオー。彼女は数度の骨折を経て、終わったとまで言われた。それでも彼女は諦めず、有馬記念で奇跡の復活を成し遂げた。他にも多くの奇跡があったが、全てに共通していたのは諦めないことだった。
「だから、君はまだ奇跡を起こせる」
ヒシミラクルは大きく目を見開いた。ほんの少しだが、闘志が宿ったように見える。話を聞き終わると、彼女は何か決心したように言葉を紡ぐ。
「トレーナーさん…私の起こす奇跡の手伝いをしてくれませんか…?」
それは小さいながらも、勇気ある第一歩だった。 - 3二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 19:12:32
的な感じで始めるヒシミラクルとトレーナーのサクセスストーリーを見たいなぁ…
- 4二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 19:13:00
今目の前にあるんですが!?
- 5123/03/24(金) 19:18:34
- 6二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 19:45:29
- 7二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 21:44:53
ほ
- 8二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 22:32:45
「スパートのタイミングを早くしてみよう」
「はい〜〜」
ヒシミラクルと私の特訓が始まった。あれから彼女の走りを見て分かったことがある。ヒシミラクルの適性はステイヤーよりということだ。挑むのなら少なくとも2000mはある距離がいい。また、ズブいのかトップスピードに乗るのが遅いから、それへの対策も必要だ。ヒシミラクルはフムフムとメモを取りながらこちらのアドバイスを聞いていた。そして、走り方を改良するなどして数週間の後、ヒシミラクルは選抜レースで一着を取った。
「トレーナーさん、やりましたぁ〜〜」
レース直後のヒシミラクルはとても上機嫌のようだった。そして、改めて正式な担当になりたいと切り出してきた。私としても異論はないし、彼女の走りの先を見てみたいと思った。了承するとパァッと顔を輝かせるヒシミラクル。
「これからも、よろしくお願いしますね〜〜」
その顔は惚れ惚れするほど爽やかだった。 - 9二次元好きの匿名さん23/03/24(金) 23:47:33
一先ず以上です