- 1二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 14:30:13
「はぁ?……パスで。」
練習が終わった夕暮れに部室で寛いでいると、アイツが買い物から帰ってきたと同時にそう声を上げた。
その手には飲み物や食材の他に、2つの双眼鏡の入った袋を携えている。一緒に買ってきたんだろうな、コイツ……
「テレビでやってたんだけどなんか140年ぶりだとからしいし、滅多にないことだから一緒に見に行かないか?双眼鏡も持ってきたぞ!」
相変わらず強引にこっちを引っ張ってく、パスって言ったのに話を聞かない……!
「パスって言ったでしょ。そもそも月食なら5月にもあったし、その時は気にもしてなかったクセになんで今日は見に行きたがってんの?」
「今回の140年ぶりっていうのは部分月食の欠けが全国で見れるってだけの話だし、月食自体はそこまで珍しくない。どうせテレビで言ってるのを聞き齧って来たんだろうケド。」
「ううっ……。」
図星をついたからかしょぼくれた様子で黙り込んだ。
何を考えてたんだか知らないけど、似合わないことをするからだ、全く。
「はぁ……そんな双眼鏡も買って無駄遣いしてさぁ……。
…………着替えてくる。外は寒くなるし。」
そう言うと、バッと顔を上げて嬉しそうな顔でこちらを見てくる。月食くらいで、ホント大げさなヤツ。
「着替えるんだからいつまでもこっち見てないでさっさと出てってくれない?」
「ああ、ごめんごめん!外で待ってるよ!」 - 2二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 14:44:43
続きは…続きはないのですか…?
- 3二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 14:50:14
ほぉ…良質なssスレですか…大したものですね…
- 4二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 14:56:19
着替え終わって外に行こうとすると、机に双眼鏡の袋が置いてある。わざわざ買ってきておいて忘れていくとか……急に月食を見に行くとか言うし、いつもに増して変な様子のアイツ。
「ねえ、双眼鏡忘れてるケド?アンタが見に行きたいって言ってるんだから、しっかりしてよね。」
「あ、ごめん……ちょっと緊張してて。」
「月食を見るだけなのに緊張とかあるの?まあいいけどさ。」
やっぱり、おかしい。私に何を隠しているのか分からないけど少しイライラする。
「さっさといくよ。どこで見るつもりだったの?」
「ああ、あそこで見ようと思ってね。」
そう言って指を指した場所は、何度も行った山の中腹だった。
アタシがURAファイナルに出場して有名になってから、人目を避けるためによく使った場所だ。
「ちょっと遠くない?間に合わないんじゃないの。」
「多分、大丈夫なはず……。」
「ホント無計画……。急ぐよ。」 - 5二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 15:24:42
走ってつく頃には、ちょうど月食が最大に差し掛かるところだった。なんとか間に合ったけど……
「ぜぇ……ひぃ……」
アタシは余裕だけど、今にも倒れそうな呼吸で追いついて来たコイツをどうしようか……。
「ほら、ここに座りな。」
とりあえず近くのベンチに誘導する。周りに人はいないようだし、横にしても大丈夫でしょ。
自販機でスポドリを買ってベンチに戻ると、ある程度息は落ち着いたようで起き上がっている。
「これ買ってきたから、飲んで。」
「ごめん……ありがとうタイシン。」
一口で半分ほど飲みきり大きく深呼吸すると、立ち直って双眼鏡を渡してきた。
「ご迷惑おかけしました……。それじゃあ、一緒に月食を見ようか!」
「もう欠け切ってるけどね。」
そう言って二人で双眼鏡を覗くと、端のほうだけが光る月が目に映る。しばらく見ていると光る部分が少しづつ広がっていくのが分かる。
10分ほど無言で眺めていたけど、そろそろ飽きてきた。ふと双眼鏡から目を離しアイツへ目を向けると、未だに真剣な目で覗いている。
「そんなに面白い?」
「……うん、時間が過ぎてくのを目で見れるって言うのかな……」
「ふーん……」
そう言ってまた双眼鏡に目を戻す。ただ二人で月を見て過ごすのも悪くないかな。 - 6二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 15:28:11
そうしてまたしばらく月を見ていると、今度はアイツが話しかけてきた。
「なあタイシン。」
「何?」
「……月が綺麗だな。」 - 7二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 15:48:01
「はぁ⁉アンタ…………⁉」
落ち着け、コイツのことだから特に意味もなく言ってるんでしょ!実際に月を見に来てるわけだし、どうせ夏目漱石なんて知らないで言ってるに違いない……!
「……はぁ、それ、他のヤツには言わないでよ。知らないだろうけど、勘違いされるような言葉だから。」
まだ少し鼓動が早いけど、顔には出てないはず……
「タイシンにしか言わないから大丈夫。」
「……はぁ!?なにいってんの⁉」
一気に心臓が早鐘を打つ。アイツの顔を見上げると、真っ赤に染まっている。まさか、いや、このバカがそんな───
「タイシン、好きなんだ。君を愛してる。」 - 8二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 15:55:21
Foooooooooooo!!!!!!!
- 9二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 16:39:04
ようやく言えた。3年以上も共にして自覚したのは最近だったけど、初めて君を見た時から好きだったかのようにも思える。
URAが終わるまでは君を勝たせたいんだと思ってたけど、それが終わってレースにあまり出なくなってから少し違うことに気づいたんだ。
レースじゃ無くても君が楽しそうにしてれば俺も楽しいし、一緒にいると心が満たされる。
ずっと近くで幸せな顔を見ていたい。
「こ、この……はぁ!?いきなり何!?」
首筋まで赤く染まった顔でひどく狼狽えている姿も愛おしい。もし受け入れてくれるならこれ以上なく嬉しいけど──
「どうしても伝えたくなったんだ、君が幸せそうだと、俺も幸せなんだって。
迷惑かもしれないし、答えてくれなくてもいい。トレーナーとして許されないことだし、君が顔も見たくないって言うなら辞めるつもりも──」
「ちょっと黙って。」
話の途中で切られてしまった……。俺も舞い上がって捲し立ててしまったが、無言が続くことで少し落ち着けた。
その時間でタイシンも落ち着いたようで、話を切り出してくる。
「ねぇ……今日、急に月食を見に行くって言いだしたのはこれのため?」
「あ、ああ。テレビでやってるのを見て思いついて……」
「だから色々おかしかったんだ……双眼鏡買ってきて忘れたり、前は興味なかったのにこんな場所まで来たり。時間もギリギリだし。」
「うっ……。」 - 10二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 17:34:32
「それに告白しておいて、答えなくていいとかトレーナー辞めるって、アタシを舐めてんの?一生でも信じるとか言ってたクセに。」
「いや、でもタイシンが嫌なら」「黙ってって言った。」
「はい。」
鋭い眼光がこちらを突き刺してくる……!プレッシャーで体力が削られていく気がする。
「本っ当に、アンタは人の話を聞かない。強引だし、熱っ苦しいし、花火の時とか今回みたいに勝手に気を回すし。アタシのこと分かってる感出してる割には空回ってる。
前はアンタのこと魚みたいって言ったけど、全っ然いるだけって感じじゃない。アンタは──」
腕を引っ張られよろめく。倒れそうになるが、タイシンが懐に飛び込んで抱き止めてきた。
「いないとダメだ。一生アタシのトレーナーをやれ……あ、愛してるっていうなら。」
小さな体で力強く抱きしめてくるタイシンに、こちらも抱きしめ返す。
「ああ……!タイシン、俺は一生、君のトレーナーだ!」
「……そこは愛してるって言え、ばか。」 - 11二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 17:35:48
終わり
- 12二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 18:38:38
エンダアアアアアアアア!!!!
- 13二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 18:47:41
クソボケじゃないタイトレいい...
- 14二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 18:58:54
素晴らしいものを見た ありがとう
- 15二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 01:37:17
ハー…
素晴らしい… - 16二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 01:46:36
いいな
しっとり綺麗に締まるの良い