(SS注意)キタちゃんのマッサージで寝ちゃったトレーナーの話

  • 1二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 11:59:40

     親しき仲にも礼儀ありとはよく言ったもので、今の俺たちの姿を見たらどう思うのだろうか。
     うつ伏せになって、担当ウマ娘であるキタサンブラックにマッサージしてもらっている俺は、礼儀知らずなんだろうな……。何となくそう思ってしまった。

    「気持ちいいですかトレーナーさんっ!」
    「うん……まぁ……そうだなぁ……」

     熱心に手を動かしながらそう言ってくれたキタサンに、気の抜けた返事をしてしまった。それぐらい気持ちがいいのだ、許してほしい。俺のボンヤリとした言葉を聞いて、俺の状態を察したみたいで小さく笑い声が聞こえる。

    「えへへ……気持ちが良いみたいですね!このまま続けていきますから、痛かったら言ってくださいねっ!」
    「わかった……」

     痛みなど全く無い。力任せではなく、筋肉に沿って手を動かしていて気持ちがいい……。その腕前は本人が言うようにスペシャルなものであった。

     グッ……グッ……グッ……
     一定のリズムで腰を押すキタサン。
     グッ……グッ……グッ……
     重くなっていく瞼。
     グッ……グッ……グッ……
     遠のく意識……。

    「……眠っても大丈夫ですからね。」

     優しそうにそう言ってくれたキタサン。
     いや、そうはいかないよ。君に申し訳ない。
     そう言いたかった。けれど、思考にモヤがかかり、縛られたみたいに開けない口が、その言葉を言わせてくれなかった。
     身体が暗闇に沈むかのようで……けれど包まれるかのように幸せな感覚……。そんな感覚に包まれながら意識を手放した。

  • 2二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 12:00:19

     始まりは、キタサンが俺のためにやってくれたマッサージだった。
     あの日は、いつものようにお助け活動を手伝った後に、練習を無事に終わり、キタサンと別れて仕事をしていた。そんなときにキタサンが現れる。どうやら俺に、マッサージをしたいとのことだった。
     担当ウマ娘にそんなことをさせる訳にはいかない。最初は俺も断ったが、キタサンは真剣な表情で思いを伝えてくれた。

    「……あたしが、そうしたいからっていうのでも……ダメですか?」

     それは、俺がキタサンの練習とお助け活動を手伝ってくれたことへの恩返し。でもそれ以上に、いつも支えてくれている感謝の気持ちが、キタサンを動かしたみたいだった。

    「マッサージなら本当に得意なんです!だから……それでも、ダメですか?」

     必死な様子でお願いしているキタサン。それを見て俺はマッサージをお願いすることにした。理由は他でもない、キタサンの感謝の気持ちをしっかりと受け取りたいと思ったからだ。
     座って仕事することも多いから、腰をやってもらうことにした。相手のことを思いやる優しいマッサージ。その心地よさに俺はつい眠ってしまっていた。
     目を覚ましたら、隣にキタサンがいてこちらを見ていた。綺麗な赤色の瞳をボンヤリ見ることを数秒。俺は寝てしまったことに気づいて思わず飛び起きた。

    「目が覚めましたか?ふふっ、よく眠ってましたね」
    「す、すまない……。気持ちよくてつい……」

     穏やかに笑うキタサン。けれど、眠ってしまった恥ずかしさから、俺は少し目線をそらしてしまった。

  • 3二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 12:00:42

    「これがキタちゃんのスペシャルマッサージですっ!満足していただいたようで何よりですっ。」

     ガッツポーズをしながら、太陽みたいに輝く笑顔を見せてくれたキタサン。気持ちよかった反面、情けないところを見せた恥ずかしさに複雑な気持ちになるが、心も身体も暖かくなったのは事実だ。

    「ありがとうキタサン。お陰で楽になったよ」
    「その言葉が一番の宝です!」

     心を込めてお礼を返すと、その言葉で更に笑顔になるキタサン。もう少し話したいけど、外が暗くなっていてキタサンを寮に帰さないといけない。名残惜しいが今日はここまでだ。

    「もう少し話をしたいけど、もう帰る時間みたいだな……。キタサン本当にありがとう、また明日な」
    「そうですね……。はいっ。また明日です!」

     深いお辞儀をしたあとに帰っていったキタサン。扉を開ける前に、少しだけ立ち止まる。何故か右手を見た後、扉を開けて帰っていった。
     一瞬だったから気の所為だったのかもしれない。けれど、右手を見つめているときの横顔がとても穏やかで、その姿が瞳に焼き付いて離れなかった。

     それからというもの、不定期ではあるがキタサンがマッサージをするようになった。
     肩や足、腰等の様々な場所をやってくれてどれも気持ちが良かった。ただ腰をやってもらう時は、うつ伏せになることもあり、グッスリと眠ってしまう。眠ってしまうマッサージの後のキタサンは、決まって右手を穏やかな顔で見つめていた。
     あのときの表情は気の所為ではなかったんだな。そして、きっと無意識でやってるんだろう。何となくそんな風に思った。

  • 4二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 12:01:39

     頭の中の霧が少しだけ晴れてしまったかのように目を覚ましてしまった。どうやら初めてマッサージをしてもらった時の夢を見ていたみたいだ。微睡みの中にいるからか身体が少しだけ重い。
     少しだけ目を開けてみる。トレーナー室の様子は変わっていないみたいだ。キタサンは……隣にいる気がする。
     左側に目線を移すと、キタサンが目の前にいた。キタサンは、俺の目線の少し上を見ていて俺が目を覚ましたのに気づいていない様子である。
     何してるんだキタサン?
     そう声をかけても良かった。けど、そうしなかった。理由は……なんだろうな?ただ何となくとしか言えない。とにかく成り行きに従ってみることにした。

     チク……タク……チク……タク……チク……タク……

     時計の音だけが部屋に鳴り響き、何が起きるでもなくただ時間だけが過ぎていく。重くなる瞼と意識。もう一度俺を意識の奥へと引きずり込まうとしている。そんなときだった。
     何かが俺の頭の上に乗った。何だ?そう思うよりも先にゆっくりと動き出した。
     ゆっくりと動くそれは、まるで大切なものを扱うように優しくて、何より温かい。気のせいかもしれないがそう感じた。

    「…………………」

     何かが聞こえてきた。聞き逃してはいけない。何となくそう思い耳を澄ます。ゆっくりと動く何かに気を取られないようにしっかりと聞く。

    「いつもありがとうございます……トレーナーさん……」

     聞こえてきたものの正体はキタサンだった。いつもの元気な声と違い、その声は穏やかで安らぎを与えるものだった。
     何でこんなことをしてるんだろう?声を出したかったけど、動揺してしまい中々口が開かない。この声がキタサンなら、頭の上で優しく動いているのはキタサンの手のひらなのか?

  • 5二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 12:02:06

     困惑する俺に気づく様子もなく撫で続けているキタサン。すると、何度か行ったり来たりをくり返していた手のひらが突然止まった。

    「これで本当にトレーナーさんは休めてるのかな……。もっともっと出来ることがあるんじゃないかな……。でも……あたしにはこれくらいしか出来ないから……」

     さっきまでの声とは違い、暗く沈んだものだった。少しだけ震えている手のひら。何か言葉を返したくて口を開こうとした時、止まっていた手のひらがまた動き出した。

    「だけど……ううん、だからせめて……。あなたがゆっくりと休めるようにって……この想いが届くって信じて……」

     想いを乗せたその手は、優しくて温かくて何より思いやりに溢れていた。そんなときにある話を思い出した。
    手を当てることで安らぎを与えるから手当という話だ。それは1つの説に過ぎないし、必ずしも当てはまるとは限らない。それでも、今感じている安らいだ気持ちを思うと、本当なんじゃないかと心から感じられた。

    「今だけは……ゆっくりと休んでくださいね……」

     包み込むような優しい声。そして、まるで子供相手にするように、ゆっくり、ゆっくりと撫でる手のひら。それを何度も何度も繰り返している。
     その心地よさに負けて、また眠たくなってしまう。何となくキタサンの顔が見たくて、少しだけ瞼を開いてチラリとキタサンの表情を横目に見る。
     一瞬だけ見えた微笑み。それはまるで、何もかもを包み込んでくれるような母性に満ちたものだった。そうか……あの時の表情って……。
     それに気づいたと同時に、俺の意識は落ちていった。

  • 6二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 12:02:31

    ――ゆっくりと意識が覚醒していくのを感じる。頭の重さも、少しずつなくなっていき、瞼も自然に開く。何度か開いては閉じてを繰り返して、ようやく視界がハッキリしてきた。
     ここは、トレーナー室で俺は確か……。あれ?何だか少しだけ、外が暗いような……?ゆっくりと窓を見ると空は茜色に染まっていた……。思わず飛び起きて時計を見ると、いつもよりも長く寝ていたようだった。

    「あはは、目が覚めたんですね!おはようです!……いや、こんばんは……なのかな?」

     近くからキタサンの声が聞こえる。声の方に顔を向けると、いつもの笑顔でキタサンがこちらを見ていた。……あまりにもニコニコしているから、何だか恥ずかしくなってしまった。……いや、照れてる場合じゃない。何でキタサンがこの時間までここにいるんだ?もう帰る時間のはずだ。

    「こんばんはになるのかな?いや、そんなことはいいよ。何で君は、この時間までここにいるんだ」

     俺がそう言うとキタサンは、目を閉じて顔に手を当てて考えて込んでいる。

    「何でって……寝たままのトレーナーさんが、心配だったから……ですね……」

     答えはキタサンらしさに溢れたものであった。少し微笑ましくなるも、これ以上遅くなるのは良くない。暗い道を歩くのは危険だ、寮まで送ろう。

    「本当にありがとうキタサン。そして、こんなに遅くまで待たせてしまって本当にすまなかった……。起こしてくれても良かったのに……」
    「あんなにグッスリ寝ているヒトを起こすなんて、あたしには出来ません!自然に起きるのが一番なんですよ!」
    「何というか本当に、君は律儀というか義理堅いというか……。こんな遅くまで待つことないのになぁ……。もう遅いし送っていくよ」
    「ありがとうございます!えへへ……実は結構暗いから、ゆ……幽霊がいたらと思うと一人で帰るの怖くて……」

     そう話すキタサンは、幽霊を怖がるところはあるがいつも通りの明るいキタサンだった。時々見ていた、いつもと違うキタサンは、もしかしたら何かの見間違いかもしれない。あの時見た光景も幻なのかもしれない。それでも、伝えないといけない言葉がある。

  • 7二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 12:02:51

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  • 8二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 12:08:06

    このレスは削除されています

  • 9ごめんなさい訂正です。23/03/25(土) 12:11:19

    「キタサン」
    「どうしましたか?」
    「届いてるよ」
    「えっ?」
    「いつもありがとう」
    「……あはは、どうしたんですか本当に?何のことか分からないですよ」
    「いいんだ、言いたかっただけだから」
    「変なトレーナーさん……。でも、そう言われて喜ばないヒトはいないですもんね。嬉しいですっ……。本当に……本当に嬉しいです……」

     キタサンの目の下のにある、キラリと光る何かを見ないふりして真っ直ぐ見つめる。その表情は、あのとき見せていた、全てを包み込んでくれるような微笑みだった。

  • 10スレ主23/03/25(土) 12:14:21

    元ネタはキタサンブラック育成シナリオのランダムイベントである「緊急開店!キタちゃんマッサージ」です。
    キタちゃんの育成してたら忘れることはない思います。肩をしたらコーナー回復○のヒントが2も貰えるあれです。
    ですが、自分は腰を選んだときの選択肢が好きで何度も見てしまいます。理由は寝てしまったトレーナーを見たキタちゃんがとても優しそうな感じのセリフだからです。
    そのためイベントのキタちゃんのセリフを今回のお話でも使わせていただきました。

    長々と書いてますけど書きたいことは一つだけです。優しそうな顔をしてるキタちゃんが見てぇ〜!!!
    ごめんなさい……最後の最後でミスをやらかしているためおかしなことになってます……本当に申し訳ございません

  • 11二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 12:33:25

    文句の付け所がキタサン持ってないからそのイベントを知らないって所だけだな…

  • 12二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 12:40:08

    >>11

    感想ありがとうございます……

    自分がミスをしてしまったせいで見に難かったと思います。本当に申し訳ございません……

    何かの機会でキタちゃんを手に入れて育成したときに自分のSSを思い出して頂いたら嬉しいです

    個人的にはキタちゃんの育成の中でも好きな話です。

  • 13二次元好きの匿名さん23/03/25(土) 20:12:12

    いまめちゃくちゃ体がバッキバキだからキタちゃんにマッサージしてもらいたい気持ちが溢れた……
    かわいいね……!

  • 14スレ主23/03/25(土) 20:16:09

    >>13

    感想ありがとうございます!

    キタちゃんのマッサージは凄いみたいですからね!一度受けてみたいです……。

    可愛く書けていたら幸いです。

  • 15二次元好きの匿名さん23/03/26(日) 06:32:40

    キタちゃんの優しさが染み入るようです
    お返しに何でもしてあげたくなっちゃう

  • 16スレ主23/03/26(日) 06:55:28

    >>15

    感想ありがとうございます!

    キタちゃんには包み込んでくれる優しさが間違いなくあると思うんですよね……。自分のことを後回しにしがちですからそこが心配ではあるんですけど……。

    甘やかしてあげたいですよね……。

  • 17二次元好きの匿名さん23/03/26(日) 08:23:13

    最近よくトレキタ書いてる人かな?
    供給多くて嬉しいぞ

  • 18スレ主23/03/26(日) 08:59:17

    >>17

    感想ありがとうございます……恐縮です……

    今年からと言うなら確かに自分が書いてることは多いです……

    キタちゃんの関係は他のウマ娘達との絡みのほうが好まれるのは分かってはいるんですけど、今回の話の元になってるランダムイベントやキャラストでのトレーナーとの関係も個人的に好きなので自分なりに解釈して書いてます。

    自分のSSで供給を満たせているなら幸いです。本当にありがとうございます。

  • 19二次元好きの匿名さん23/03/26(日) 14:58:11

    読ませて頂きました
    自分もキタちゃんにマッサージして貰いたいし、してあげたい…
    尽くしてもらいたくなるし、尽くしてあげたくなる娘だなあと改めて思います

  • 20スレ主23/03/26(日) 15:04:55

    >>19

    感想ありがとうございます!

    相手のことをたくさん考えてくれる娘だからこっちも何かしてあげたいですよね……。

  • 21二次元好きの匿名さん23/03/26(日) 15:06:53

    すごく素敵で温かいお話を読めてよかった!キタちゃんの優しさ可愛さやスレ主のキタちゃん愛がよく伝わりました!自分も久々にキタちゃんの育成シナリオ読み直してみます…

  • 22スレ主23/03/26(日) 15:24:39

    >>21

    感想ありがとうございます……可愛さや優しさを書けていたら幸いです……。愛って言われると照れてしまいますね……。

    キタちゃんシナリオは、これからくるアニメ3期のことを考えると、もしかしたら色々言われてしまうのかもしれませんが、それでも自分は好きなお話です。時間がある時に是非見てほしいです

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