おちくぼプリンセス【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:42:50

    今は昔、おちくぼ姫と呼ばれるウマ娘がおりました。
    名前はカワカミプリンセスといいます。

  • 2二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:43:15

    プリンセスは母と二人の姉妹からたいそういじめられておりました。

    「ぐっ、ぷるぷるしますわぁ~……」
    「その調子ですよ、カワカミさん!」

    ビシッ!

    「みぎゃあああ!?やっちまいましたわ!?」
    「落ち着いて、カップにヒビが入っただけだから」
    「アタシに任せなさい!このくらい魔法でちょちょいと……」

    バキィッ!

    「カンペキに折れちまいましたわ!?もう終わりですわぁ~!!!」
    「ええい、破片に触るな!怪我をしたらどうする!ちりとりとほうきを持ってくるから待っていろ!」

    ……たいそういじめられておりました。

  • 3二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:43:43

    ちなみに“おちくぼ姫”の由来は自らが落ちくぼんだ部屋に住んでいるからなのですが……。

    「毎日鍛錬をしていたら床が落ちくぼんでしまいましたわ!
     こんな部屋に他人を住まわせるなんて姫らしくありませんわ!」

    と、自分の意志で寝泊まりするようになったためでした。

    「床が削れるまで鍛錬しなければいい話だろうに……そもそも鍛錬ならば部屋でなくとも……」

    母親のエアグルーヴは頭を抱えていました。

  • 4二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:44:06

    さて、そんなプリンセスにはお付きの侍女がおりました。
    名前はニシノフラワーといいました。
    彼女はセイウンスカイと非常に仲が良く、二人で逢瀬を重ねていました。

  • 5二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:44:36

    今日も二人きりで会って話をしています。
    内容は自分たちが仕える主人の話でした。

    「カワカミさんは本当にがんばり屋さんでかわいらしい人なんですよ」
    「へえ~、うちのキングもたいがい努力家だけどそういう子もいるんだ~」

    そしてスカイ経由でキングの耳にもプリンセスの噂が耳に入りました。

    「面白そうな子じゃない!会ってみたいわ!」

  • 6二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:45:20

    「……で、どうして私たちは覗き見なんてしてるのかしら」

    プリンセスの住む屋敷の塀に顎を乗せてキングがぼやきます。
    なだめるように隣に陣取るスカイが返答しました。

    「まあまあ、普段の様子のほうが人となりがわかりやすいでしょ」
    「あのねえ……っと、部屋の戸が開いて中の様子が見えるわね」
    「フラワーに頼んで開けてもらったんだ~」

    部屋の中ではプリンセスがいつものように姉のメジロドーベルから勉強を教え……もとい、いじめを受けていました。

    「うう~……難しいですわぁ~……」
    「大丈夫?休憩しようか?」
    「いえっ!姫たるもの苦手であっても勉学もたしなんでおきませんと……!」
    「わかった、あとでおいしい紅茶淹れてあげるからねカワカミ」
    「よっしゃあ!……ですわ!」

    ぼろぼろのペンを手に机に向かうプリンセスをドーベルは温かく見守っていました。

  • 7二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:45:43

    二人の様子をキングたちは塀越しに興味深く見ています。

    「どうキング?面白そうな子でしょ?」
    「ええ、特にあのカワカミさんって子。ぜひキングの家に欲しいわ!」
    「へえ意外。まあ、ドーベルさんのほうはもうこの屋敷じゃなくてメジロ家のほうに移ってるみたいだからね~」
    「それにカワカミさんがうちに来れば、あなただってフラワーさんと会いやすくなるでしょう?」
    「……ありがたき幸せにございます、わが主人」
    「やめてちょうだい。あなたの敬語はなんだか背中がかゆくなるわ」
    「にゃはは♪」

  • 8二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:46:09

    早速キングたちはエアグルーヴにプリンセスを引き取りたいと申し出をしました。
    しかし。

    「ならん」
    「ええっ!?どうしてですか!?」
    「カワカミはまだまだ未熟だ。私の元から離すわけにはいかん。申し訳ないが帰ってくれ」

    キングは何度も頼みましたが、エアグルーヴにすげなく断られました。
    日も暮れてしまい、キングたちは仕方なく自分たちの屋敷へ帰っていきました。

  • 9二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:46:53

    日がすっかり落ちても部屋に光が点かないことに首をかしげながらフラワーはエアグルーヴに声をかけます。

    「奥様?油が切れておりましたか?」
    「……フラワーか。すまない少しぼうっとしてしまってな」

    明かりを灯すと部屋がぼんやりとした橙色に染まります。
    エアグルーヴはぽつぽつと話し始めました。

    「……今日、カワカミを引き取りたいと言う者が来てな」
    「存じております。たしか奥様自身でお断りしたはずでは……」
    「カワカミの未熟さが断った本当の理由ではない」
    「えっ」
    「……ドーベルもメジロ家に行ってしまい、さらにカワカミまで屋敷からいなくなってしまうと思うと、な。自分の娘を手放したくない、私の我儘だ」

    苦々しく吐き捨てるエアグルーヴ。
    そんな彼女にかける言葉をフラワーは持っていませんでした。
    いたたまれず部屋を出ようとするフラワーの背後でエアグルーヴが独りごちます。
    まるでフラワーに聞こえるようにはっきりと。

    「……明日、私は外に用事があってな。屋敷にはお前たちしかいない。どこかへ行こうとしても誰も止めはしないだろうな」

  • 10二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:47:20

    そして次の日、フラワーはプリンセスを連れてキングの屋敷へと向かいました。
    手にはエアグルーヴ直筆の手紙が握られています。

    “私の娘を頼みます”

    そう書かれた手紙を読んでキングは静かにうなずきました。

  • 11二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:47:41

    ドーベル、カワカミ、フラワーと一息に三人もいなくなってしまった屋敷はずいぶんと静かです。
    エアグルーヴもどこかさみしそうに空を見上げることが多くなっていました。
    そんな彼女に声をかける少女がいました。

    「ママ!新しく魔法を覚えたから見てちょうだい!」

    末の妹のスイープトウショウです。
    彼女は母親の手を取り、外へと連れ出しました。

    「……すまないな、スイープ」
    「アタシなんのことかわかんないもーん」

    そんな話をしていると歌声が聞こえてきました。

    朗々とした歌声に引かれるように辿っていくと、大柄なウマ娘がおりました。
    少女は二人の姿を認めると、歌を止めてじっとスイープを見つめます。
    そして。

    「……かわいい」
    「はぁ!?」

    二人は顔を赤らめたまま見つめあうばかりでした。

  • 12二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:48:07

    それからキタサンブラックという少女が地元では名の知れた有力者の孫娘ということがわかったり、なんやかんやありまして。
    スイープはキタサンと一緒に暮らすことになりました。

    そうなると屋敷に一人残されたエアグルーヴはますますふさぎ込んでしまい、ついには屋敷の外にすら顔を見せなくなってしまいました。
    姉妹たちとフラワーの四人は閉ざされた屋敷の門の前で相談を始めます。

    「ど、どうしよう……お母さまが出てこないんだけど」
    「あーもう!なんでママはいつもヘンなところで悩んじゃうのよ!」
    「お二人とも落ち着いて……」

    そんな中、プリンセスは大きく息を吸い込み───

    「どっせぇぇぇい!!!」

    空に轟く気合いとともに門が弾け飛びました。

  • 13二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:48:42

    エアグルーヴもこれには大いに驚き、屋敷から飛び出しました。

    「一体これはなんの騒ぎだっ……!?」

    言い終わるかどうかのところでプリンセスはエアグルーヴに抱きつきました。
    目からは大粒の涙が流れています。

    「お母様!私はまだまだ未熟ですわ!だから閉じ籠ってないで教え導いてくださいまし!」

    スイープとドーベルもプリンセスに続いて抱きつきます。

    「そうよ!ずっとウジウジしてるんだったらイタズラして困らせてやるんだから!」
    「アタシたちにはお母さまがいなくちゃダメなんです!」

    娘たちに抱きつかれて呆然としているエアグルーヴにフラワーが語りかけます。

    「母親が娘を泣かせちゃいけませんよ、奥様」
    「……ああ、まったくだ」

    そう言ってエアグルーヴは娘たちの頭を愛おしそうに撫でました。

  • 14二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:49:12

    それからこの五人は周りの人々とずっとずっと仲睦まじく暮らしたそうな。

    めでたし、めでたし。

  • 15二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:49:30

    元ネタは平安期の文学作品である落窪物語です
    ……ほぼ原形ありませんが
    とあるスレを見て面白いと思ったとともに、釈然としない気分も感じてしまったので日本版シンデレラともいえるこの作品をモチーフにSSを書いてみました
    お目汚し失礼しました

  • 16二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:50:20

    あ、ちなみに門をぶち破るのは原作でもあったシーンですのであしからず

  • 17二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:51:23

    面白かったです!(謎のドキドキも味わえたし

  • 18二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:51:34

    乙です
    スラスラ読めたし面白かったありがとう
    スイープがさらっと出ていったのは笑った

  • 19二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:52:03

    みんな家族思いで優しくて、甘々イチャコラもあって…心がポカポカしてくるいいSSだった…ありがとう…

  • 20二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:52:48

    やはりカワカミプリンセス…
    カワカミプリンセスは全てを解決する…

  • 21二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:56:51

    もりくぼは関係ないのか…

  • 22二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:57:17

    もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたらぜひ原作の落窪物語もご覧になってください
    漫画にもなっていますし、このSSで触れていない部分(典薬助関連とか)も面白いので

  • 23二次元好きの匿名さん21/11/20(土) 20:58:07

    >>21

    ……そういえば中の人同じですね(今気づいた)

  • 24二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 00:09:11

    名作のフォーマットに沿った(沿ってるだけ)の名作来たな……

  • 25二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 00:28:37

    >>21

    おんなじこと考えてる人いたわ。

    カワカミと森久保ォ!!の中の人同じだから声優ネタでなんかするのかなーって警戒しながら読んでたらイイハナシダナーで終わって宇宙ブルボンになった。

    あ、お話は素直に良かったです

  • 26二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 01:34:53

    >>21

    良かったぞおちくぼォ!

    俺も考えたぞおちくぼォ!

  • 27二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 02:46:54

    (門を破るなんて)無理久保ですけどおおおおおお!!!!

  • 28二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 08:41:07

    良かった…ありがとう…

オススメ

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