桜の樹の下には死体が埋まっている

  • 1二次元好きの匿名さん23/03/26(日) 22:33:23

     桜の樹の下には死体が埋まっていると謳ったのは誰だったか。確か、檸檬爆弾の人と同じ人だったように思う。

    「梶井基次郎、ですね」
    「そうそう」

     整備されたコンクリートを挟んで向かい合う桜並木。担当と見る夜桜のなんと贅沢なことか。そんな感想を抱いていると、カフェが袖をくいくいと引っ張ってくる。スマホの画面を見せてきて、時刻は午前二時。草木も眠る丑三つ時という奴だ。
     トレセン学園から電車で二駅ほど離れた場所にある市民公園。近所では桜の名所で知られるここは、季節になるとライトアップにも力を入れていて、桜の幹や枝をよく見ると電球が結び付けられているのが見える。とはいえ、日付をまたげばライトアップもとうに終わっていて、桜を見ているのは数人の帰れなくなった酔っぱらいくらいものだ。

    「そろそろ現れるらしいのですが」

     その市民公園に幽霊が現れる。自分とカフェが呼ばれたのはそういう訳だった。幽霊も観光資源と言ってしまえれば良いのだが、曰く付きのホテルでもなければ趣のある廃墟でもない。子供も遊ぶ公園だ。カフェも幽霊のことが気になったようで、終電も無い中、深夜に車を走らせてきたのである。
    「あ」とカフェが息を漏らした。桜の下、いつの間にかウマ娘が一人立っている。そのウマ娘はただ、ぼんやりと桜を見上げている。落栗色の髪は不思議と風景にマッチしていて、自分が見ている景色が実は絵画なのではないか錯覚しそうになった。

    「話しかける?」
    「いえ……もう少し様子を見ましょう」

     そのウマ娘はしばらく佇んでいたが、不意にこちらを向いた。星のような独特な虹彩がこちらを射抜く。背筋が冷たくなった。かわいらしい少女で、おかしなとこなど何一つない。だけど、その妖艶な微笑みが、彼女がこの世のものではないことを如実に示している。

  • 2二次元好きの匿名さん23/03/26(日) 22:34:15

    「良い夜ですね」彼女の第一声だった。

    「でも、こんな夜に出歩いたら危ないですよ?」
    「その言葉は、あなたにも言えるのでは?」
    「心配してくださるんですか? 優しい人ね」

     カフェと顔を見合わせて、頷いて。二人でそのウマ娘の元に歩いて行く。

    「あなたは帰らないのですか?」
    「フフ……」

     自分の問いに彼女はおかしそうに笑う。分かっているんでしょう、と言いたげな。

    「この桜の下には、私が埋まっているんです」
    「そうですか」
    「あら、その反応は予想外だわ」

     悪戯が失敗した顔をして、軽い足取りで桜の影から躍り出る。悪いものにはとても見えない。はらはらと一片の花びらが落ちて、カフェの頭に乗った。

    「少し走りませんか?」

     彼女の提案にカフェは自分を見る。大丈夫、と頷いてみせると、カフェもそれにならった。
     漆黒の影と亜麻色の桜。二人が並木道をコースにして走るのを、桜の根本に座って眺める。それは不思議な光景だった。絶対に一緒にはならないはずの、幻のレースを見ているような。

    「これも花見に、なるのかなあ」

     焼酎の一つでも買ってこようか、いやいや車で来たんだったと。たいして何も考えず、レースが終わるのを待った。お互い本気では無かっただろうが、殆ど同着で驚く。

  • 3二次元好きの匿名さん23/03/26(日) 22:34:32

    「はあ……はあ……やっぱり、久々に走るのは楽しいわ」

     息を切らしながら、しかし汗一つかかない少女は肩を震わせてカフェに向き直る。

    「……それは、良かったです」
    「それで、あなた達は何をしにここに?」
    「……死体を、埋めに来たんです」

     カフェはポケットから耳飾りを取り出す。それを見て、少女の目の色が変わった。少女がしているものと同じ装飾だった。

    「それを何処で」
    「とある方から。”同じチームの先輩の形見”だそうです。この桜の下に、埋めてほしいと」
    「そう……」

     彼女の表情は穏やかなものだった。思い残りが無い、というと語弊があるだろうか。不安が解消されたような嬉しさと、ちょっとの名残惜しさ。

    「ありがとう」

     少女はもう居なかった。最初からそこに居なかったように、桜が満開に咲いているだけだった。カフェはしゃがみ込むと、自分が座っている横の土を、持ってきたスコップで掘り始める。耳飾りを埋めて、そして静かに目を瞑った。

     桜の樹の下には死体が埋まっている。ああ、全くその通りだろう。だけど、桜の美しさは、誰かの死体を吸い取るような陰鬱さはなく。春という短な季節を一心に生き抜いた、もっと晴れやかな美しさだと思った。

  • 4二次元好きの匿名さん23/03/26(日) 22:53:23

    元ネタの文読んだことなかったんだけど精液とか言い出しててワラタ

  • 5二次元好きの匿名さん23/03/26(日) 22:57:57

    元ネタ、超短編小説の中に死と生が気持ち悪いほど生々しく感じられるすごい小説だと思った記憶

  • 6二次元好きの匿名さん23/03/26(日) 23:16:16

    これなんか元ネタあるん?ウマ娘の方

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