黄昏スポットライト【トレウマ・SS】

  • 1二次元好きの匿名さん23/03/29(水) 20:33:57

    トレセン学園のトレーニングコースには、今日も大勢のウマ娘が大地を蹴り、駆け抜ける音が響く。芝のコースに至っては予約表が満員御礼、ストレッチや準備運動で順番待ちをするウマ娘の姿もあった。

    桜が咲く時期になると、トゥインクル・シリーズで一度しか挑めない二つの頂点”三冠“、”ティアラ“それぞれに挑むクラシック級の有望株達が、トレーニングでもその実力を遺憾なく発揮する。デビュー前のウマ娘達はその姿に憧れ、古豪のウマ娘達も次世代の躍進に心を踊らせていた。
    そんなターフの賑わいに対し、ダートコースは閑古鳥が……とまでは言わないが、芝のコースに比べるとウマ娘の姿はまばらだ。春から秋にかけてのクラシック戦線の注目度に比べ、ダート戦線はどうしても一歩目立たない立ち位置にいるのが実情である。

    しかし、そんなダートコースを凄まじいスピードで駆けるウマ娘が一人。圧倒的なパワーで砂を蹴り上げ、まるでターフを駆けるが如く飛んでいく。時折、その表情に笑みさえ浮かべるその姿は、何物にも縛られず大空を自由に舞うハヤブサのようで────
    同じダートコースに居るウマ娘達は、皆彼女に見惚れていた。いつか私も、彼女のようにキラキラ輝く世界へ。背に感じる想いも追い風にして、彼女は設定したゴール地点をトップスピードで駆け抜けた。

    息を整える彼女の元へ、彼女の”ファン第1号”が歩み寄る。彼女はすぐさまキラリと笑みを浮かべ、彼に振り返った。

    「お疲れ様。良い走りだったよ」
    「ありがとー☆ ふぅ……タイムはどう?」
    「今日一番! いよいよセンター目指して上がってきたな、ファル子」

    そう彼が笑うと、スマートファルコンも負けじと笑顔を煌めかせ、ハートのポーズで応えた。

    「よし、今日のメニューはこれまで! 後は脚をしっかりケアして、また明日に備えよう」
    「はーい。あ、ねえ、トレーナーさん」

    手にしたクリップボードを閉じると同時に、彼女の声に応える。コースを駆ける風に髪を揺らし、ファルコンは上目遣いで彼に向き合った。

    「今日一番のタイムのごほうびって訳じゃないんだけど……一つ、お願い。良いかな?」

  • 2二次元好きの匿名さん23/03/29(水) 20:41:02

    「ふふ、気持ちいいね、トレーナーさん」
    「トレーニング後にはぴったりだ。けど、寒くはないか? あまり身体を冷やしすぎないように気を付けないとな」
    「はーい☆」

    黄昏時に吹く心地よい風は、トレーニングを終えたばかりの二人を心地よく包み込む。ファルコンとトレーナーは、ファルコンの”お願い”で、二人にとっては特別な場所である河川敷を、先程と打って変わってゆっくり散歩していた。
    ファルコンにとっては、ファン第1号との。彼にとっては、初めての担当ウマ娘との出会いの場で、ここが二人のスタート地点。ありふれた、それでいて特別な場所を、そよ風のように歩く。
    夕陽の色に染まった空を、ふっと見上げてみる。ファルコンからの”お願い”でここに誘われた時は驚いたけど、優しい風に包まれながら、こうして二人で静かな時間を過ごすのも、悪くないと思った。

    「あ、トレーナーさん! あそこ、今すっごく良い感じ!」

    不意に声を弾ませたファルコンが、彼の手を取る。手を引かれて走った先には、一際夕陽を浴びて輝く場所があった。丁度、その場所だけが建物の影に遮られず、まるでスポットライトに照らされたステージのように輝いていた。
    その光景に驚きと感嘆の声を漏らす彼に対し、ファルコンは嬉しそうにその真ん中に立った。そして、その場でくるりと制服を躍らせると、黄昏時の水面を背に彼に向き合った。

    「ね、トレーナーさん。一曲良い?」

    その言葉に、彼は迷わず頷いた。彼女の笑顔と同時に、特別なライブが始まった。

    「♬~♩~♩、♬~♩~♪」

    黄金色の夕陽を全身に纏い、歌う。その歌声に、河川敷を往く人達が一人、また一人と集まってきた。そこに居たのが、少し前までこの河川敷でたった一人でライブをやっていた、ダートの世界でトップを目指そうとデビューしたウマ娘……否、ウマドルだと分かると、その姿を知る人達から手拍子や応援の声も聞こえ始める。

    ファルコンの歌声が、自身が魅了された時と同じようにキラキラと輝くその姿は、きっと大勢の人に届くだろう。彼は、そう確信した。次は、ダートでのファル子の本当の走りと、ウイニングライブでそれをきっと証明して見せる、そう決意した彼が、再びファルコンを目にした瞬間、彼は驚きで目を見開いた。

  • 3二次元好きの匿名さん23/03/29(水) 20:44:47

    その時、彼の目にはっきりと見えたのだ。ウイニングライブのステージでセンターに立つ、スマートファルコンの姿が。黄金色を映した水面の煌めきが、ファルコンの為に集まった大勢のファンが放つサイリウムの光へと変わっていく。ステージの中心に立ったファルコンは、自身の想いを詰め込んだ勝負服に身を包み、煌めく夕陽をスポットライトにして歌い、踊り、世界を魅了していく。

    「────綺麗だ」

    思わず、小さな声が漏れる。あの日見たキラキラ輝くダイヤの原石が、大勢の人々に磨かれて、本物の輝きに変わるその姿を、確かに彼は見たのだ。例えその瞳に映ったものが、黄昏時の光が見せた幻であったとしても、そこに居たのは紛れもなく2人で目指したトップウマドルの姿だった。

    ラストのサビを歌い上げ、ポーズを決めてウインクしたファルコンに集まった人たちが拍手喝采を送る間も、彼だけはそのキラキラと輝く姿をただひたすらに、真っすぐに見つめていた。



    「ね、トレーナーさん、どうだった?」
    「凄く良いライブだったよ。歌もダンスも、それに」
    「それに?」
    「集まった人たちの笑顔、最高だったな」
    「えへへ……うんっ!」

    河川敷でのゲリラライブを終え、帰路についてからも、2人は興奮冷めやらぬ様子だった。先ほどのライブの様子を、楽し気に語り合う。そして、これからの事も。

    「次は、本物のステージでライブを見せよう」
    「もちろん! ファル子が逃げたら?」
    「追うしかない!」

    息をするようなコール&レスポンス。河川敷での出会いから、夢を目指して走り出したウマドルとファン第1号の心は、既に確かな絆で結ばれていた。そうして笑い合い、語り合って学園への道を歩いていたその時、ふと、ファルコンが脚を止めた。

  • 4二次元好きの匿名さん23/03/29(水) 20:47:04

    「ファル子?」

    不思議そうに彼が振り返ると、ファルコンは両の手を前に組み、そわそわとして様子で彼を見つめていた。何か言いたいことがあるのかもしれない、と彼が待っていると、ファルコンがそっと口を開いた。

    「トレーナーさん」

    普段と少し違う様子のファルコンに、敢えてゆっくりと、声色を落ち着かせて応える。その声に少し安心したのか、ファルコンは少しはにかんで、頬を染めた。

    「……そんなに、綺麗だった?」

    思わず、息を呑んだ。あの時、トレーナーの口から不意に飛び出した言葉は、あのステージの中心にいたファルコンに、しっかりと届いていたのだ。
    その衝撃と、次にどんな言葉を返すべきなのかと咄嗟に判断が出来ず、彼は目を泳がせる。しかし、次の瞬間、ファルコンと目があった。ファルコンは、頬を夕焼けの色に染めながらも、真っすぐに彼を見つめている。
    自身にしっかり向き合っているファル子に、自分が目をそらしていてはいけない────
    彼は、大きく深呼吸して、今度こそまっすぐ、ファルコンに向き直る。

    「綺麗だった。今までで一番、輝いていたよ、ファル子」

    彼は、あの時抱いた想いを、包み隠さず真っ直ぐにファルコンに返した。すると、ファルコンは目を見開き、みるみるうちに顔を赤く染めていく。そんなファルコンにつられ、彼もまた頬を赤く染める。自分が伝えた想いの丈を、互いに強く意識してしまったのだ。
    それから、しばし沈黙。お互い、次の言葉をどうするか、考えあぐねていた。そして、彼の方が遂に意を決して唇を動かす。

  • 5二次元好きの匿名さん23/03/29(水) 20:50:19

    「そ、そろそろ、帰ろうか」
    「う、うん」

    たどたどしく、なんとかその一言を絞り出したまでは良かったが、それから再び沈黙。お互い無言のまま、先ほどとは打って変わって静かにトレセン学園への帰路を再び歩き出した、その時だった。

    「トレーナーさん」

    後ろに居たファルコンが、不意に彼の隣に立った。そして、左の手を、そっと彼の掌に重ねる。先程無理矢理に落ち着けた胸の音が、一気に加速した。俯いたままのファルコンがもう一度、ゆっくりと口を開く。

    「……寮の近くまで、ちょっと、だけ」

    今にも消え入りそうなその声は、彼の耳にはっきりと届いた。その声に、彼は一度胸いっぱいに息を吸って、全て吐き出すと、ファルコンがそっと重ねた手を、自身の手でしっかりと握り返した。

    「……っ!」
    「……」

    俯いていたファルコンが、思わず顔を上げる。見上げた先のトレーナーの顔は、ファルコンと同じ夕焼け色に染まっていた。少しの間、そのまま見つめ合い、そして二人は同時に、トレセン学園への道を歩き出す。

    夜の帳が下りて、涼しい風が吹き抜ける春の夜の帰り道。
    しっかりと握り、重ね合わせた二人の手と心は、寮で別れ、夜が更けてからも、ずっと熱を帯び続けていたのだった。

  • 6二次元好きの匿名さん23/03/29(水) 20:53:47

    以上です。ありがとうございました。

    以下のスレでいつか書きたいと語っていた概念の一つである、ファル子とファン1号のSSをしっかり形にしてみました。

    SS書きまん民に聞きたい|あにまん掲示板引っかかったなここは『今後書く予定のSSの予告をしないと出られないスレ』だあらすじやキャプション風にしてもいいし、アニメの次回予告っぽくしてもいいタイトルや仮題、概念だけ書くのもいいハートやレスがつい…bbs.animanch.com

    ファル子とファン1号はもっと近づけてお互い顔を真っ赤にしても良いと思う今日この頃です。

  • 7二次元好きの匿名さん23/03/29(水) 21:00:44

    ファル子のトレウマ貴重だから助かるマダガスカル

  • 8二次元好きの匿名さん23/03/29(水) 21:09:10

    良い……ファル子もファン1号ももっとグイグイ行って良いのよ?

  • 9二次元好きの匿名さん23/03/29(水) 21:27:05

    普段と様子の違うファル子にピンと来たフラッシュが後方理解者面で頷く所まで見えた

  • 10二次元好きの匿名さん23/03/29(水) 21:39:51

    いいぞ…悲恋じゃないトレファルもっと増えろ…!

  • 11二次元好きの匿名さん23/03/29(水) 21:58:21

    次の日から二人の距離がやけに近い事に気付いておっと~?するカレンも多分いる

    >>9

  • 12二次元好きの匿名さん23/03/30(木) 05:40:14

    爽やかであたたかで、すき

  • 13二次元好きの匿名さん23/03/30(木) 09:51:38

    読んでいただき、また感想をありがとうございます。


    >>7

    トレファルに限らず、供給が無ければ自分で増やせば良いじゃない!とワオは思う次第です。

    もしもそんな組み合わせのSSを見かけたらワオかもしれないので、その際もよろしくお願いします!


    >>8

    砂糖工場みたいな話も良いですが、はやくくっつけよコノヤローと声を大にして叫びたくなる距離感も大好物なんです。


    >>9

    フラッシュの呼びかけにうん、うん、とふわふわした返事しかしないファル子。フラッシュが不思議に思って振り返ると、繋いでいた手をぽーっと見つめてるファル子の姿が。それを見たフラッシュの行動や如何に。


    >>10

    攻めるファル子、にぶにぶしないトレーナー。中学生のカップルみたいな初々しさがあっても良いし、あまりの距離間の近さに驚愕するタルマエと後方祖母面アキュートさんみたいな話もあって良い思います。


    >>11

    カレンは気付くのも早いしなんならカマをかけるのも上手そうなのでファル子は顔を真っ赤にしそうですね!


    >>12

    ウワーッ!!ありがとうございます!!

    起きて感想確認していて残っていた眠気が吹き飛びました。FAの方、保存させて頂きます。

    夕陽を浴びてセンターに立つファル子、綺麗だ……

  • 14二次元好きの匿名さん23/03/30(木) 11:59:46

    ファル子はもっと軽率にトレーナーとイチャイチャさせるべき

    あと、>>6見て思い出したけどもしかしてWDバクシン書いてた人?あっちのSSも好きよ!

  • 15二次元好きの匿名さん23/03/30(木) 14:19:53

    >>14

    ウマ娘とトレーナーは軽率にいくらでもイチャイチャさせて良いとされる(※個人の感想です)。

    はい、WDバクシンも私です。良かったとのお言葉、ありがとうございます!励みになります。

オススメ

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