トキを超えて[ウマ娘怪文書]

  • 1二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:19:41

    病院の一室、ウマ娘とトレーナー二人組が診察の結果を待っている。彼らの前にいる医者の表情は険しく、彼らの抱えている問題が決して小さなものでないことを物語る。

    「・・・やはり、この状態では──」

    「先生!私は、走るだけ・・・走るだけなんです!」

    そう叫んで前のめりになった彼女の表情は苦悶に染まる。奥歯を噛み締めながら緩慢と態勢を戻すその動作は、明らかに一か所を庇っている。

    「・・・でも痛むんだろう?それに走るだけと言ってもジョギングじゃない。君が走るのはレースだ。フォーム一つ崩れても結果が大きく変わる」

    「でも・・・!それとこの怪我は・・・!!」

    「関係ある。腕だって走るのに重要な要素だ。腕を大きく振って加速することで初めて走れる。君だって十分すぎるほど知ってるだろう」

    「・・ッ!」

    「君の左手は明らかに折れている、腕一本を庇って走りきることなど不可能だ。医者として許すわけにはいかない」

    「そんなのっ!・・・腕なんて関係ないんです!例え、使える四肢が3本でも・・・私は走れる!」

    「そうした無理が祟ると、最悪の場合・・・君の選手生命は終わるぞ」

    強気な彼女もその言葉には思わず息を呑んだ。二度とターフの上を走れなくなれば自分はどうなる?そんなの想像も出来ない。

  • 2二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:19:49

    「──彼女は走れます」

    「・・・トレーナー」

    「方法ならある、俺が彼女の手に合うサポーターを特注する・・・フェルトを仕込んで、負担を軽減させる」

    「無理させても得られるものはないぞ、レースに勝てるわけがない」

    「医者のアンタが忠告する義務があるように、トレーナーである俺もこの子の意思を尊重する義務があるんです」

    「トレーナーは・・・私を、信じてくれるの?」

    「当たり前だ。俺が信じなきゃ誰がお前を信じるんだ?」

    「・・・うん、ありがとう。トレーナー」

    「きっとお前を優駿で勝たせてやるさ、"トキノミノル"──」

    トキノミノルはその後、東京優駿に出走して勝利する。しかし、その無理からか破傷風を患い、ターフからその姿を消した。まさに幻のように──

  • 3二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:20:12

    「ふぅ、今日の仕事はこれで終わりですね」

    作業が一段落し駿川たづなは一息をつく。体力には自信のあるほうなのだが事務作業というものは、体より先に心が疲れる。

    ──私には事務員など向いてなかったのかもしれないですね

    自分の選んだ道ではあるがそう思うことがある。しかし、すぐにかぶりを降って考えを正す。この仕事に誇りを持っているし、楽しいことも沢山ある。

    それに、自分の過去に後悔はない。やれることは全てやったのだ。

    「たづなさんたづなさん!」

    思考を遮って受付に勢いよく駆け込んでくるのは知り合いの研修生だ。トレーナーを目指す彼女は人一倍努力家である。将来はきっと良いトレーナーになるだろう。

    「あら、今日はどうなされたんですか?」

    「聞いてください!私ついに!中央のトレーナー試験に受かったんです!それで模擬レース見てみたら、気になる子が居て──」

    ・・・訂正しよう。彼女は既に立派なトレーナーだった。若者の成長の早さにはいつも驚かされる。

    「本当ですか?じゃあこれからは"〇〇トレーナー"ですね?」

    「いやーずっと本名で呼ばれてたのになんだか慣れませんね・・・今でも実感がないです、私がトレーナーなんて・・・!」

    「新人のうちはそうですよね。でもすぐに慣れますよ、時が経つのは早いものですから」

    本当に。心の中でそう付け足す。

    「数年もすればなじみます、過ごしてみればあっという間です」

  • 4二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:20:30

    「先輩もそう言ってましたけどー、あの人とかベテランの人たち皆優秀でー、はぁ、私なんかがおいつけるのかなー」

    「・・・あの人にもちゃんと報告したんですね。ちゃんとお礼を伝えられましたか?」

    「もちろんですよ、色々教えてもらいましたし感謝しかないです!・・・本音を言えばこれからも聞きたいんですけどねー」

    一時師事していたとはいえ若い女の子に随分慕われたものだ・・・そんな考えが過るがよく考えたら何も問題はない。何を嫉妬しているのだ。

    「新人さんなんだから周りに気を使う必要はないんですよ?私からも出来る限りアドバイスしてあげますね」

    「えっ、たづなさんが?いやーそれは・・・」

    「私、こう見えて色々知ってるんですよ?例えば、スピードとパワーを上げながらスタミナ不足を補完できる効率の良い練習方法がありましてね・・・」

    「た、たづなさんは忙しそうですし大丈夫ですよっ」

    「・・・そうですか?でも貴方の先輩は今フリーなんですし聞いていいんですよ?それもあの人の仕事なんですから・・・」

    「それがですねー先輩、トレーナー辞めちゃうらしくて・・・あっ」

    「・・・どういうことですか?」

    「いやーそのー、これはナイショの話で・・・」

    「関係ありません、そういう話はまず私に通してもらう必要があります。・・詳しく教えてください──」

  • 5二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:21:01

    東京の街並みは昔と比べ随分変わった。時がもたらす変化というのは本当に劇的だ。その移り変わりの早さにまるで自分だけ置いてかれるような感覚を覚える。

    そんな感傷から逃げるように向かうのは、学生のころからのたづな行きつけの店だ。取り残されたように一軒だけポツンと立つその店は、古臭くもどこか温かい雰囲気を持っている。

    暖簾を潜った彼女は人影を見つける。近づくと人影が自分に気づいて挨拶する。

    「久々だな、トキ。何時ぶりだ?」

    「〇年ぶりですよ、"トレーナー"」

    久々という言葉には語弊がある。なぜなら駿川たづなとしては毎日会っているからだ。でも今日は違う、その雰囲気を感じ取った彼の軽口に自分もノリを合わせた。

    実際、ここは二人の思い出の場所でもあるため、本当にトキノミノルに戻ったような気分だ。

    「聞きましたよ。後輩ちゃん、無事トレーナーになれたみたいですね」

    「そうなんだよ、あいつは要領良いから独り立ちしても上手くやってけるだろうな」

    「あの子から・・・貴方が辞めると聞きました」

  • 6二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:21:09

    「・・・」

    「考え直してください」

    「俺はトレーナーには向いてないんだ」

    「そんなはずは無い。私は貴方より良いトレーナーを知りません」

    『駿川たづな』なら、トレーナーに優劣などつけない。皆素晴らしい才能を持っているのだから当然だ。しかし、かつての彼の愛バとして答えるなら・・・

    「貴方は最高のトレーナーです。辞めるなんて、絶対だめです」

    「俺は・・・お前を潰した最低のトレーナーだよ」

    「なんで、そんなこと・・・言うんですか──」

  • 7二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:21:28

    ~??年前~
    破傷風。聞く所によると命に係わる病だと言う。家にも帰らず病院に泊まり込みで手術が終わるのを祈るように待つ。今はそれしかできない。なぜ倒れるまで自分に隠していたのか、違和感を感じた時点ですぐに教えてくれれば・・・

    手術が終わったと知らされるが、術後もすぐには面会できない。彼女の家族が優先だし、何より自分のどこに合わせる顔があると言うのか。一命を取り留めたのがわかったのだから帰るべきかと考えたが、患者本人の希望で病室に入ることが許された。

    「トレーナー・・・私、まだ、走れます・・」

    開口一番そういった彼女だが、病室のベットに横たわる姿は普段より明らかに衰弱している。

    「・・・トキ。お前はもう十分頑張った」

    「お願いします、もう一度だけ私を走らせて・・・」

    彼女にはブレーキが無かったのだ。自分で自分の限界を見極めることが出来なかった。自分を追い込める精神力と根性は彼女の才能だが、裏を返せば無理をし過ぎるということでもあるのだ。

    こんな状態になるまでその悪癖を矯正出来なかった自分は最悪のトレーナーだ。

    「・・・俺のせいだ」

    彼女の為になると思っていた全ての献身は、結局彼女の破滅にしか繋がらなかった。時が戻せるのなら、あの時の愚かな判断を下した自分を殺してやりたい。目の前の娘を救えるのならなんだってやる。

    「・・・ッ!そんなこと言わないで、私はまだ元気だから・・・だから・・・」

    消え入りそうな声を出す彼女の瞳からは大粒の涙がポロポロと零れている。こんな顔をする娘ではなかった。

    竹を割ったような明るく前向きな子だった、走るのが好きな子だった。それらすべてを奪った原因が自身の判断にあると思うと本当に吐きそうな気分になる。

  • 8二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:21:44

    「トレーナー、我儘言った私が悪いんです・・・そんな顔しないでください。私、もう一度走れるようになりますから・・・!」

    「・・・この話はもっと落ち着いてからにしよう、お前は休んだ方が良い」

    この空間にいることが耐えられない。逃げるように立ち去ろうとする自分を彼女の声が引き留める。

    「トレーナー!もしも・・・もしも、私が走れなくなっても、トレーナーは、トレーナー辞めたり、しないですよね?」

    辞めたかった。続ける資格など自分に残ってる筈がないのだ。

    「なんで黙るんですか・・・?もしかして、私が走れなくなった所為で・・・トレーナー、クビになっちゃうの?」

    ・・・しきりに『まだ走れる』と言っていたのはそのためか。病み上がりの愛バにその身を案じさせるとはどこまでも救えないトレーナーだ。

    今回の件で上からクビを飛ばされる可能性は少ないだろう。スポーツに関わる者にとって避けては通れない問題なのだから。だから、自主退職するつもりだった。

    ・・・この娘にとってはきっと同じだ。

    「俺は・・・トレーナーを続けるよ」

    これ以上彼女に重荷を持たせることなどできない。

    「絶対・・!約束、ですよ・・・!」

    「あぁ、約束する」

    目の前の娘を救えるのならなんだってやる。時がこの娘の心の傷を癒やすまで・・・それまでの間だけ、この仕事を続けよう。

    心の中で静かに誓った。

  • 9二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:22:19

    ~現代~
    「俺は・・・お前を潰した最低のトレーナーだよ」

    潰した、そんな言い方しないで欲しい。トキノミノルは勝手に潰れたのだ。それなのに、あの時は周りが皆その表現をした。当時は今よりもっとマスコミの偏向報道が酷かった。記者の主観で書かれた文書が自分と関係のないところで独り歩きする。

    『病後の無理使いが招いた悲運だ』

    トレーナーは出来る限りのケアを行ってくれた。しかし、その事実は関係者以外には伝わらなかった。

    『そこまでするくらいの名馬なら、なぜダービー出走を断念しなかったのだろう』

    私たちがダービーにかける思いを、彼らがどれだけ理解しているというのか。勝ったときにはあれだけ持て囃した癖に、手のひら返しとはこのことだ。

    『周囲の人間の欲が、名馬を抹殺したのだ』

    やめてほしい、私とトレーナーの夢をなぜそこまで悪し様に罵れるのか。彼らが私のトレーナーの何をわかっているというのだ。

    『あれはダービーに勝つために生まれてきた幻の馬だ』

    嫌いだ、世間なんか大嫌いだ。何も知らない連中に貼り付けられたレッテルで私たちを見ないでほしい。10戦10勝の戦績は私を悲劇の名馬にするためのものじゃない。

  • 10二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:22:26

    だからトキノミノルの名前を捨てた。

    努力して、もがいて、頑張ってきたのは同情を得るためじゃなかったからだ。

    しかし、名前が消えても目の前の彼との過去は消えない。どれだけ時間が立っても私たちの記憶は色濃く残ったまま消えない。

    あの時、あの病室で、私の言葉は彼の時間を縛りつけた。もう一度強く頼めばきっとまた彼はトレーナーを続けるだろう。

    しかし、それは良くできた教え子への好意からではない。

    悲劇の名馬『トキノミノル』への贖罪だ。

  • 11二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:22:41

    「なんで、そんなこと・・・言うんですか・・・?」

    「何故ってそりゃ・・・わかるだろ?」

    「わからないですよ・・!トレーナーの方こそ、なにもわかってないです・・・!」

    どれだけ貴方に感謝してるか、どれだけ貴方を想っているか、これだけ時間が経ったのにどうしてわかってくれないのか。

    「貴方は、優秀ですよ・・・自分では気づいてないかもしれませんが」

    本心だ。彼の担当するウマ娘はトキノミノル以降、一度も大きな故障を起こしたことがない。わずかな失敗率も避ける彼のやり方は、慎重すぎて担当の娘に歯がゆい思いをさせることもあったが、結局目標を逃したことはほとんどない。

    「貴方に担当された子は、最後には皆・・・貴方に感謝しています。それは、貴方が優秀な証なんです」

    道半ばで挫折することが多いウマ娘の中にあって、堅実な成績を残せた彼の担当バ達は幸運と言える。G1タイトルを取った娘だって少なくない。

    「感謝してるって、それは・・・」

    「例えば、ある子は勝利した時にこう言っていました。『きっとこの瞬間が私の人生で一番幸せ』と」

    「・・・」

    「その気持ちは、時が経った今でも変わりません」

  • 12二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:22:53

    ~?年前・東京競バ場~

    「じゃあ・・行ってきます」

    「あぁ、行ってこい」

    ターフに降り立ったトキノミノル。怪我について世間に知れ渡ったにも関わらず圧倒的な一番人気に押されたその姿は『芝の女王』といった風格だ。

    出走後はトレーナーに言われた通り少しだけ抑えた。マイペースに加速していつの間にか大逃げするのがいつもの定石なのだが、今日は途中まで我慢する。

    最終コーナーを曲がって、最後の直線。左手の痛みは感じない。きっとトレーナーがつけてくれたサポーターのおかげだ。これのおかげで私は走るのに集中できる。

    「トキノミノル!トキノミノルです!ハンデをものともしない見事な勝利!」

    ハンデを抱えて尚のレコード勝利。何万人という観客がその圧倒的な強さに光景に色めき立つ。競バがこれだけ盛り上がりを見せるのはかつてなかっただろう。

    「トキ!」

    「トレーナー・・・!」

    駆け寄るパートナーの手を取る。感謝を伝えようとするがまだ下が震えて上手く言葉が出せない。

    「トキ、よく頑張ったな。なんだよ泣いてるのか?」

    いつの間にか嬉し涙が流れていたらしい。気恥ずかしいのでトレーナーの手を握る両手に額をつけて顔を覆い隠す。

    「感動するのは早いぞ、まだこれからじゃないか」

    ダービー、それは三冠への通過点。そう言ってしまえばそうなのかもしれない。でも、それでも・・

  • 13二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:23:26

    「トレーナー・・・」

    「どうした、トキ?」

    「トレーナー、ありがとう」

    『あの時』・・・誰もが否定した私の夢への挑戦を彼だけは肯定してくれたから、彼が私の為に必死でレースに出走できるよう準備してくれたから、彼が私を信じてくれたから。

    「私、私ね、きっと・・・この瞬間が、私の人生で一番幸せ」

    「何言ってるんだ。これからだぞ、この先もっとお前は大きくなるさ!」

    笑いながら語る彼の前で小さくかぶりを振る。きっとこの先何があろうと・・・この瞬間の感動には、絶対に敵わない。

    紛れもなく今が、私たちの努力・・・これまでの時が実を結んだ瞬間なのだ。

  • 14二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:24:16

    ~現代~

    「貴方と過ごした時間は、私の中の宝物なんです。他の子達だって、きっとそう。貴方はトレーナーであるべきです」

    「・・・後悔はないのか?だって担当が俺じゃなきゃお前はもっと・・・」

    「いいえ、私のトレーナーが貴方だったからこそ・・今、私は納得できているんです」

    もしダービーに出なかったとしても、どの道あの病に侵されていたかもしれない。そうなったら、それこそ後悔してもしきれないだろう。今の自分の現状をこんなに穏やかに受け入れることは出来なかっただろう。

    駿川たづなの今の幸せは、彼のおかげなのだ。

    「これからも、彼女たちに色々なものを与えてあげてください」

  • 15二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:24:24

    「・・・パートナーがお前だから、たまたま上手くいったんだ。他の娘じゃ・・・」

    「出来ます。学園も私たちの時代から変わってきています」

    時代は変わった。あの時と比べ設備も医療も驚くほど進化した。もし私たちがこの時代のコンビだったなら、故障などしなかったかもしれない。私を苦しませたあの病も簡単に治せていたかもしれない。

    彼に、あんな過去を負わせることがなかったかもしれない。

    「変わったんなら尚更、俺の古いやり方なんて・・・」

    「全部変わったわけじゃないですよ、私の気持ちのように変わらないものもあります」

    時が経ち、変わるものもあれば、変わらないものもある。当たり前のことだ。

    「でも、最近は入ってくる新人もすごく優秀でさ、そのたびに自信がなくなるんだ・・・・俺は、トレーナーをちゃんと出来るのかって」

    「トレーナー・・・それ、後輩ちゃんも貴方を見て似たようなこと言ってましたよ」

    「あいつの方が優秀だよ」

    彼がトレーナーをやめる原因が、過去に無くした自信にあるのなら、取り戻させればいい。キッカケだけなら用意できる。

  • 16二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:24:36

    「知ってますか?最近、アオハル杯がまた復活するかもしれないと」

    「また随分古い行事を引っ張り出してきたな、ノーザン・・あの理事長は」

    「交代した理事長代理の意向次第ですが、恐らくは近日中に発表があるかと」

    「交代?また何かやらかしたのかあのお転婆理事長」

    「ただの海外出張ですよ、代理は樫本理子さんです」

    「よりによって樫本か・・・あいつで大丈夫なのか?あの事件から不安定な所あるだろ?あれは事故なんだからあんなに気に病む必要ないと思うんだけどな」

    ・・・鏡を見てもう一度言ってほしい。

    「その辺は理事長にも考えがあるみたいですし大丈夫ですよ、きっと。それより、アオハル杯のチームなんですが、なかなか癖が強い名前が揃ったのチームがあってですね、まとめる役を探してるんです」

    「どうして俺にその話を?」

    「貴方が適任だからです」

    「でも俺は・・」

    「お願いします、チームを管理するなんて経験豊富な方にしか頼めない。でないと・・・無理をして、怪我してしまう子が出るかもしれない」

    「わかった、わかったよ・・・引き受ける」

    「ふふ、ありがとうございます──」

  • 17二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:25:07

    翌週、駿川たづなとトレーナーはグラウンドまでやってきた。芝生の上に立つと自分の中の何かが高揚する感覚が未だにある。隣の彼は、久々のトレーナーの服装をしてしていてまるで、時が戻ったみたいだ。

    しかし、今は現代だ。自分はすでに引退している。見ると現役のウマ娘たちはどうやら顔合わせのまっ最中だ。

    「ルドルフ!私たち同じチームなのね!是非一緒に他のチームをギャフンと言わせてやりましょうね!」

    「あぁ、ともに優勝を勝ち取りに行こう。そして我々の価値を示そう。勝ちと価値・・・ふふ」

    「まぁ、もう優勝以外アウトオブ眼中なの?志が高いのね、私も頑張らなくっちゃ」

    「アカン、古臭くて親父っぽい会話にツッコミのタイミングが掴めん・・・」

    「古いのは良くないな、うん。私も新鮮な方が良いと思うぞタマ・・・それと、少し言いずらいが、お父さんの料理より、お母さんの料理の方が美味しいという気持ちもわかるぞ・・・」

    「やめーや、ここに天然ボケまで入ってきたらウチがついてけへん」

    「アタシも・・・こんな凄い人たちについていけるかな」

    「急にシリアスになんなやシチー。気楽にマイペースでえーねん」

    「お腹が空いたな・・ご飯の時間はまだだろうか・・・」

    「オグリはちょっと気楽でマイペースすぎやろ」

  • 18二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:25:38

    「アタシも顔だけじゃないってこと・・ここで示さなきゃ」

    「そんなに固くならないでシチーちゃん、最新のファッションの話とかで打ち解けましょう?例えばそう、ももひきとってもオシャレよね?座銀で買ったのかしら?」

    「えっと・・・ももひき?・・・ザギン?」

    「ゴールドシチー・・・泰然自若、勝利を欲するからこそ平静でいるべきだ」

    「会長・・・」

    「つまり、勝たなきゃと固くなるのは良くない、そう君に語りたかったんだ・・・ふふっ」

    「台無しやんけ」


    様子を近くで見ると各々の性格、抱えてる問題、メンバー間の価値観のギャップなど様々なものが見えてくる。この子達のわだかまりを解し、チームとして上手くまとめるのは至難の技だろう。

    「思っていたより、大変な仕事になりそうですね」

    「そうだな、でも・・・やれるだけやってみるさ」

    「チーム名、どうしますか?」

    「そうだな・・・」

    彼がじっとこちらを見る。

    「ターフクイーンズ」

  • 19二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:25:52

    「ちょっと、今私を見て決めましたか?貴方の担当は私じゃなくて・・・」

    「もう一度走ってもいいんだぞ?トキ・・・」

    ・・・冗談半分であるが魅力的な提案だ。しかし、自分の返事は決まっている。

    「トレーナー、私は『駿川たづな』ですよ?」

    「そうだな・・・お前は変わったんだもんな・・・」

    トレーナーはきっと、本当にこのままで自分はトレーナーのままで良いのかまだ迷ってる。その気持ちはわかる。私もダービーに出走した時は実はこれで良いのかまだ迷っていた。

    でもあの時、彼の言葉に後押しされて走って良かったと思う。私が最後にそう思えたのだからトレーナーもきっとこれで良い。

    「じゃあ行ってくる」

    「行ってらっしゃい。トレーナー」

    ダービーの時とは逆で、今度は私が彼を送り出す。あの時、彼が私を信じてくれたように、私が彼の未来を信じている。

    時を超えて私たちの関係は変わった。でもその絆の強さは変わっていない。

  • 20二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:30:26

    終わりです。上手く書けてたがどうかわかりませんがここまで読んでくださった方がいるなら本当に感謝します。
    普段の書くSSと毛色が違いすぎてこういう文章書くのは凄い疲れました。長くなってしまってすみません、

  • 21二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 16:41:35

    凄まじい文量と情熱だ…とりあえずage

  • 22二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 18:02:21

    公式では決して語られぬ妄想

    だがそれがいい

    支援age

  • 23二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 18:08:02

    いいぞぉ…いいぞぉ…!
    二人だけの秘密と絆が感がとてもいい…
    そして後輩ちゃんからアドバイスを避けられるたづなさんにちょっと笑ったw

  • 24二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 19:02:19

    読み途中上げ

  • 25二次元好きの匿名さん21/11/21(日) 20:57:02

    読了、過去回想シーンとか病床の描写で泣けたけど引退後もたづなさんとトレーナーの絆でまた立ち直れた希望の満ちた展開で凄い良かった…
    あにまんの別のトキノミノルのSSとはまた違った二人三脚でここまで来れたIF展開みたいな感じで感動
    理事長とか理事長代理とかの小ネタも入ってて面白かったです

  • 26二次元好きの匿名さん21/11/22(月) 07:44:45

    乙上げ

  • 27二次元好きの匿名さん21/11/22(月) 08:47:26

    あかんツッコミ不在でタマが過労死してまう

オススメ

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