(SS注意)ヤマニンゼファーとお花見をする話

  • 1二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 00:04:08

    「花信風の香りに誘われてみれば、風雅な場所ですね」
    「これはすごいな、満開だ」

     担当ウマ娘であるヤマニンゼファーとのお出かけ中の出来事。
     彼女が風に誘われる先に付いて行ってみれば、そこは小さな公園だった。
     あるのはベンチと一本の桜の木、普段であれば寂しい光景と思ってしまうだろう。
     しかし、その桜は見事なまでに花開いており、思わず見惚れてしまうほどだった。

    「これほどの風光、饗の風が吹いててもおかしくないのですが……」
    「いわゆる穴場なんだろうね、住宅街からはちょっと距離があるだし」
    「ですがきちんと清風が行き届いています、目をかけてくれる人がいるんですね」
    「確かに、その人に感謝しないとね」

     見れば確かにゴミなどが落ちてる様子もなく、所々整備がされている。
     小さいながらに愛されている場所なのかもしれない。
     瞳を輝かせて桜を見つめるゼファーを眺めながら、時計を確認した。
     まだお昼を過ぎたばかり、日が落ちるまではまだまだ余裕がある。
     くるりと、こちらを振り向いた彼女に、俺は声をかけた。
     ――――と同時に、彼女も口を開く。

    「ゼファー、少しのんびりしていこうか」
    「トレーナーさん、少し恵風していきませんか」

     そして、全く同じタイミングで同じことを言葉にしていた。
     ゼファーは俺を見ながら目を丸くする、きっと俺も同じ表情をしているのだろう。
     一瞬の風凪の後、俺達は合わせたように、笑った。

    「ふふふっ、トレーナーさんには私の風向きなんてお見通しですね?」
    「あはは、俺も見たいって思ってたからさ、見たい景色が一緒で良かったよ」
    「はい、ではあのベンチで桜東風に包まれていきましょうか」

  • 2二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 00:04:26

     二人隣り合ってベンチに腰かけて、他愛のない話を繰り返す。
     ふと、さえずりが聞こえて、そちらを見ればゼファーの足元に数羽の鳥がいた。
     気づいた彼女は、小さな声で鳥達に語りかける。

    「あら、ネクタイさんやひーよさんまで、貴方達もお花見ですか?」
    「ゼファーと遊びたいんじゃないかな」
    「……あの、少しだけつむじになってきても良いですか?」
    「ははっ、全然かまわないよ。足下にだけは気を付けてね」

     俺の言葉にゼファーは頷くと立ち上がり、鳥達を連れて桜の木へ進んだ。
     鳥が羽ばたきの音色を奏でれば、彼女もそれに合わせてハミングを奏でる、
     
    「るる~り~らら~♪」

     やがてゼファーは自分達の伴奏に合わせて、ステップを踏んでいく。
     彼女と共にいる中で、何度も見た、幻想的な風景。
     だけれど今日は、散っていく桜の花びらのせいか、どこか儚げに見えた。

    「……らるらら~♪ る~るるる~♪」

     ゼファーは笑顔でこちらを見て、促した。
     俺は抱いた不安を打ち消すように、彼女のハミングに合わせながら音色を奏でる。
     彼女とでなければきっと過ごせない、楽しい時間。
     
     ――――刹那、その場に突風が吹き抜ける。

     春一番、とでもいうのだろうか。
     その陣風は咲き誇る桜を大いに散らし、舞い上がらせる。
     それは踊るゼファーの姿を、一瞬見失ってしまいそうになるほどに。
     そのまま、彼女が花嵐に連れていかれてしまうのではないかと、思うほどに。

  • 3二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 00:04:50

    「ゼファー!」

     思わず立ち上がり、声を荒げて、彼女の腕を掴む。
     その勢いに、鳥達は四方八方に羽ばたき、ゼファーも驚いて動きを止める。
     きょとんとした表情で俺と見つめる彼女を見て、血の気が引いた。
     俺が何か言葉を発する前に、彼女の方から声をかけてくる。

    「……トレーナー、さん?」
    「……すまない、驚かせてしまった、皆にも悪いことをしちゃったな」
    「いえ、きっと彼らも急風に驚いただけで、怒ってはいないと思いますが……」

     言いながら、ゼファーは俺をじっと見つめる。
     まあ、理由を話さないってわけには、いかないよなあ。
     俺は大きくため息をついて、自己嫌悪に陥りながら、細々言葉を紡いだ。

    「あー、桜吹雪に包まれる君を見てね」
    「確かに春疾風が吹き渡りましたが……」
    「それで、その、そのまま君がどこかへ消えてしまうんじゃないかと思って」
    「…………」
    「……何言ってるんだろうね。本当にすまない、邪魔して悪かった」

     ゼファーに頭を下げながら、謝罪の言葉を告げる。
     ふと気づく、未だに彼女の腕を掴んだままになっていることに、
     慌てて手を離したと――――逆に腕を掴まれた。
     そしてそのまま腕を運ばれて、手のひらに暖かくて、柔らかい感触。

    「……大丈夫、私はちゃんとここにいますよ」

     その声に思わず顔を上げる。
     ゼファーは俺の手を頬に当てて、優しい微笑みを浮かべていた。

  • 4二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 00:05:18

    「でも、私は良く風来と歩いてしまうので、トレーナーの陰風もわかります」
    「……まあ、それはそうなんだけど」
    「ええ、ですから私が八重の潮風になりそうなら、先ほどのように掴んでくださいね?」

     ――――私だって、貴方と離れたくはないですから。
     そう言うゼファーの頬は少しずつその熱さを増して、茜色に染まっていく。
     気づけば、日は傾きかけていた。きっと、そのせいなんだろう。
     
    「ああ、約束するよ、見失っても探し出してみせるから」
    「ふふっ、それは風を捉えるようなものかもしれませんよ?」
    「それでも、ね。俺だって君と離れたいわけじゃないからさ」
    「…………ふぅ、顔が熱くなってきてしまいますね、春風の陽気のせいでしょうか」
    「それと、そろそろ腕は離してもらえると、ちょっと恥ずかしくなってきた」
    「……そうですね、夕風も吹いてきましたし、家風となる時間です」

     そう言って、ゼファーは俺の腕から手を離し、そして今度は手を掴んだ。
     驚いて見てみれば、彼女は期待するような目つきで、こちらを見つめていた。

    「今日はこうしていたい気風なので、このまま歩いてもらってもいいですか?」
    「……ああ、構わないよ」

     恥ずかしいのには変わりないけれど、ゼファーの顔を見てるとそんな気も消えてしまう。
     俺からの返答に、彼女は顔を綻ばせて、ゆっくりと手を引くように歩みを進めた。
     公園から出る直前、何も言っていないのに、二人して同時に、桜の木を振り返る。
     それがおかしくって、俺達は顔を見合わせて、笑った。

    「ふふっ、また来年、一緒に見に行きましょうね?」
    「ああ、必ず。二人とも元気に、良い土産話を聞かせてあげられるように」

     ゼファーの春一番の舞台は、これからなのだから。

  • 5二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 00:07:34
  • 6二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 00:24:20

    きぶり突風に、オレはなりたい

  • 7二次元好きの匿名さん23/03/31(金) 00:34:39

    呪物から逃れに来て癒されました
    トレーナーがゼファーと同じタイミングで同じことを言ったり風に連れ去られそうと思ったりゼファーと風が刷り込まれてて好き

  • 8123/03/31(金) 04:24:59

    感想ありがとうございます

    >>6

    俺もなりたい

    >>7

    今回のお気に入りポイントなので嬉しいです

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