【SS】満月が滲んだ日【CP注意】

  • 1二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 01:21:39

    あるスレで投稿されていた概念が好きだったので、完成させました。
    さっき立てて一部投稿したけど改行下手くそなのと1レス目に注意事項等入れ忘れてたので立て直し。

    画像のとおりですが、ほかのウマ娘も出ます。他CP描写は一切なし。

  • 2二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 01:21:58

    夏というには暑くなく、冬というには寒くない10月。毎年のように秋が短いと言われている例年と比較すると、今年は幾らか長く感じる秋の夜長。
    綺麗な満月を見れる祝日は、自然と気持ちも上向きになる。明日は普通に授業もあるけれど、こんな日に出歩かないのはもったいない。
    そう思って扉を開けると、見知った人物が立っていた。

    「いい夜だな。おでかけか?」
    「まぁね」

    綺麗な芦毛の長髪が涼風で靡く度、まるでダイヤモンドダストのように輝いて見えた。いつも学園で見る奇抜な性格からは想像もつかないその姿は、おしゃれな服装だというのにそれを感じさせない瀟洒な雰囲気でイヤミもない。
    一言で言えば、別人のようだった。

    「少しだけ話をしたいんだけど」
    「外でもいい?」
    「いいぜ」

    アタシの問いかけに間を置かず返答するゴールドシップ。どうやらアタシが外を出歩くというのは想定の範囲内のようだ。それならあーだこーだと言いくるめる手間が省けていい。

  • 3二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 01:22:10

    「ただ、あまり人には聞かれたくないな」
    「それじゃあ、河原に行こうか。今ならランニングの人だっていないし」
    「わかった……とはいえこのへんの道には詳しくねえんだ。おいてかないでくれよ」
    「追いかけてくればいいじゃない。得意でしょ」

    アタシの言葉に、今は走る気分じゃねーよ、と返される。エースならきっと走ってくれるだろうけど、ゴールドシップはアタシと同じ気まぐれな自由人だから、走らないと言ったらテコでも走らないのはよくわかる。それに今はアタシも走る気分ではない。のんびり月見がしたくて外に出たんだから。
    ガチャリとドアを閉め、二人並んで歩き出す。ゆっくりと歩いてもアタシの家からは10分もしない、短い時間。こんな時間に、こんなところで、何のために。そんな在り来りな場繋ぎもできなくはないけれど、特に話すこともなく無言で星の瞬きを眺めたり、横切る猫に視線を向けたり。
    息苦しさのない、心地いい無言。パーソナルスペースの理解が早いゴールドシップは、こういうところが過ごしやすい。


    「さーて到着。鈴虫も鳴いてて秋っぽさ出てるね。ふふ、十五夜はひと月前だけどね」
    「……そうだな」

    アタシの言葉に、間がついた返事。らしくもないなと思って振り向くと、真剣にこちらを射抜く菫色の瞳が見えた。
    明かりも殆どない河原で月明かりに反射して、まるでアイオライトが光を放っているような美しさはアタシの目を奪うには十分すぎる。

    「まずは悪かったな。こんな夜遅くにさ」
    「いいよ。どうせ出るところだったし……キミも、この月に惹かれたんでしょ?」
    「…ああ、月が綺麗だなあ。惚れ惚れするくらいだ。月が綺麗なのは、いいことだとも」

    いつもの彼女じゃない、というわけではないけれど。学園で見かける彼女はどこにもいない。ならきっとこれは、普段の彼女が見せない顔なんだろう。
    どこか達観したような、悟ったような雰囲気を醸し出している今の彼女が、もしかしたら本質なのかもしれない。
    そんなゴールドシップから、どんな言葉が飛び出してくるのか。5分か10分か、はたまた1秒も経っていないかもしれない間をおいて、口を開く

  • 4二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 01:22:44

    「好き、なんだ」

    その言葉は、ビュウッと吹いた風にも負けないほどに、芯の篭った言葉だった。鈴虫の鳴き声すら聞こえなくなり、月明かりも目に入らない程に、まっすぐ見つめられて。
    けれど、アタシは知っている。

    「……それは、どこまで本当なのかな」

    彼女は普段から会話の端々に、大なり小なり嘘を織り交ぜる悪癖がある。誇大誇張な嘘で相手を惑わし、決して本心を他人には見せない。あれだけ交友関係を広く持ちながら、その誰にも心を許していない。
    パーソナルスペースの理解が早いとは、つまるところ常日頃他人との距離感を測っているわけで。そんな彼女がアタシのことを好きになる?そんなこと、想像もできない。

    「……!」

    一瞬、大きく目を見開いた。予想だにしない言葉だったのか図星だったからなのかは、流石にわからないや。

    「……流石に、バレる?」

    けれど、それが図星だったという答え合わせはすぐに行われた。
    へにゃりと表情を崩して笑みを浮かべ、クルリと振り向いて。

    「こんな日には出歩くだろうと思ってさ。折角だから、綺麗な満月眺めて告白ーなんてシチュやってみたくて。アンタなら、きっと……分かってくれると、思ってたから」
    「アタシ以外には言わないほうがいいよ。キミ、結構モテるんだから」
    「人のこと言えた義理かよ」

    失礼な、こう見えてもキッチリと伝えるよアタシは。脈なしなのにはぐらかすと、その子がかわいそうだからね。

  • 5二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 01:23:03

    「じゃ、帰るわ」
    「もっと見ていかないの?」
    「無断だからバレるとめんどくせぇんだ。それに……一人の方が、アンタも自由に見られるだろ」

    そんな謙遜、らしくないね。それもまた、どこかに嘘が混じっているのかな。
    アタシは嘘が苦手だ。だから、あの素晴らしい走りを見せるこの子のことを、自由に振る舞いいつでも楽しそうなこの子のことを、アタシは理解しきれない。

    「じゃあな」

    そう言って手を振る姿が小さくなるまで、アタシは黙っていることしかできなかった。
    確かに、理解できないとも。けれど、ゴールドシップがもし本当にアタシのことを本心から好きだったら?そうやって考えを巡らせてしまうのは、仕方ないことだと思う。
    まあそれだって意味のない思考なんだけどね。あれは、嘘、なんだから。

    「……」

    それじゃあ、ズキリと心の奥底が軋むようなこの感覚は何なんだろうか。今アタシの胸中で渦巻くこのモヤモヤは一体何なんだろうか。毎日見る部屋の何か一つだけが消えてしまっているような、頭の片隅に残り続ける違和感は何なんだろうか。

    「もう少しキミを知っていれば……あるいは、スッキリしたのかな。ゴールドシップ」

    アタシの言葉は、風に吹かれて消えてしまった。

  • 6二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 01:23:41

    わかっていたことだ。
    何せ、アタシは彼女のことはよーく知っている。嘘が嫌いだというだけあって人の嘘に敏感だからな。
    そう、ミスターシービーは、アタシのことも、よく、分かってくれている。

    「……なんにも、分かってねえよ」

    クシャリ、とポケットに入れていたクロッカスの花を握りつぶす。これを出す前で良かった。そうじゃなきゃ、きっと100倍惨めだっただろう。
    4月7日の誕生花、クロッカス。花言葉は「切望」。ああ、何をしようとも既に溢れた望みは盆には帰らないんだけどな。

    「なんにも、分かってねえ」

    狼少年は、10の嘘によって1の真実を見過ごされ、哀れ羊を食われてしまった。けれどそれは、意味のあることをまるで真実であるかのように欺き続けたからこそだ。じゃあ、今のアタシは?
    同じ穴の狢だ。大なり小なり嘘をついた代償なんだ、これは。意味のある嘘は殆どつかない?それを、一体どれだけの人がどれほど理解してくれるって言うんだ?ハナっから誰も信用していない証だろう?なら、そんなヤツがどれだけ想いを伝えようと伝わらない。伝わるはずがない。
    皮肉なもんだ。普段のアタシをよく知っているからこそ、本当のアタシを分かってもらえなかったなんて。

    「こんなにも、月が綺麗なのにな」

    辺りを照らす満月は、ひどく滲んでいた。

  • 7二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 01:24:07

    翌日、結局寝付けずそのまま夜通し散歩をしたあと登校して、けれど気分が乗らなくって保健室で仮眠を取った。寝てないし、まぁマトモに授業なんて受けれる心持ちでもなかったからね。
    それから昼休みには目が覚めて、これ以上はさすがにと思って外に出たのはいいけれど、自分でも何がしたいのかイマイチわからなくてモヤモヤを抱えたまま歩を進める。
    女神像を過ぎ、ターフを尻目に校舎の周りをブラブラとあてもなく歩いていると、エアグルーヴが花壇に水をあげているのが見えた。

    「おはよ。今日も精が出るね」
    「こんにちは…と、あまり元気なさそうですね?」
    「そう?」
    「ええ。一言で言えば、楽しくなさそうな雰囲気かと」

    他人から見てもそうなんだ。やっぱり嘘って付けないもんだなあ。もしくは、エアグルーヴの観察眼が鋭いのかもしれないけれど、それにしたってひと目で見抜かれる程なんだからよっぽどなんだろう。
    まあアタシにもいろいろあるからね、と返せば、そういえばと口を開いた。

    「楽しくないといえば……今朝、ゴールドシップもそんな顔をしていました」
    「ゴールドシップが?」
    「はい。そんな顔をして花をくれ、というものですからよく覚えてます」
    「花……」

    花壇に目をやる。色とりどりの花が美しいグラデーションを彩り、まるでプロが手入れしているかのような丁寧な仕事ぶりは、何とも彼女らしい。
    感嘆すら覚える花々を眺めていて、ふと目にとまった一輪の花。それは、アタシにとって忘れることのできないもの。最強のウマ娘が掴む、あの栄光。

    「黄色い菊を17本。菊花賞が近いから誰かにプレゼントかとも思ったんですが、17本は流石にないとも思いまして」

    菊にも種類があり、色によって花言葉が違うのは知っている。黄色い菊は、破れた恋、長寿と幸福、わずかな愛。まさかと思って、でも確かに菊花賞が近いからエアグルーヴが言うように誰か後輩にでもあげるんじゃないかと、そう思ってみたけれど。やっぱり本人に聞かないことにはわからない。

    「ゴールドシップは、どこへ?」
    「何分朝のことなので……」
    「アイツなら自分の部屋にいるぜ」

  • 8二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 01:24:49

    突如後ろから声をかけられて振り向くと、そこにはニット帽をかぶったウマ娘がいた。宝塚記念で世間評をひっくり返した勝利を収め、凱旋門で2着という好走を見せた、ゴールドシップの親友の一人。

    「それは本当か?」
    「菊持ったアイツに朝会ってな。どこ行くんだって聞いたら部屋に帰ると」
    「全く……嘘じゃないだろうな」
    「私はアンタらにそんな嘘をつく理由がないし、アイツもそんな嘘はつかねえよ」
    「いつも嘘はつくだろう?」

    エアグルーヴの言葉に、あのな、と言葉を続ける。

    「やれ木星帝国で土星人直伝のドーナツ振舞っただの、海底神殿でダイオウイカと戦ってオニオンリングを手に入れただの、何の意味もない嘘は山ほど言うさ。だが、部屋に帰るとか遊びに行くとか、好きとか嫌いとか、そういう意味のある嘘は滅多につかねえんだよ。振り返ってみろ、ゴルシがそういう嘘をアンタに言ったことあるかい?」

    ガツンと殴られたような衝撃だった。

    『好き、なんだ』

    つまり、あれは。

    「用事ができちゃった。ありがとね」
    「さてね」
    「じゃ、ルドルフによろしく言っといて。アタシは用意しなきゃいけないものがあるから……」
    「構いませんが……探し物はこれでしょう?」
    「……!ありがと!」

    強く踏み込み、そのまま駆け出す。授業なんてどうでもいい。単位なんていつでも取れる。レースだって、怪我さえなければ自由自在さ。
    だけど、キミだけは。キミだけはきっと、今じゃなきゃダメなんだ。

    「ドライフラワー、ねぇ。気が効いたプレゼントじゃねえか」
    「世話の焼ける先輩を持つとな、気が効きすぎるものだぞ。貴様も思い当たる節があるだろう」
    「……違いねぇな」

  • 9二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 01:26:32

    コンコン。ノックをして、存在を確かめる。呼吸音、あり。身動ぎ、なし。出る気配、なし。なるほど、居留守か。寝ているような規則性はなく、だったら失礼するしかない。

    「入るよ」

    扉を開ければ、そこには椅子に座って外を眺めているゴールドシップの姿。こちらに背を向けているそれを見て、ともすればいつもどおりとも受け取れるのだろうけど。今のアタシにとっては、緊張の一瞬でしかなかった。

    「……どうしたんだ、こんなところまで」
    「来たかったから、来た」
    「そうかい。あいにく、お茶も出せねえけど」

    私の方を見ようともせず会話するゴールドシップのすぐ横。机の上に飾られた花瓶に挿してある菊は、確かに17本だった。

    「ああそうだ……月は綺麗だったか?昨日は満月だったから、さぞ美しかったろ」

    なんとも実のない会話だった。虚空にでも話しかけているのかと錯覚するほど虚ろな言葉は、アタシの胸を締め付けるには十分すぎる。
    どうしたものかとアタシが言葉を選んでいると、ゴールドシップがゆっくりと振り向いた。昨日も見た私服姿で、帰ってわざわざ着替えたのか、それとも出かける予定があったのかもしれない。そうして視線を落として気がついた。ポケットから微かに見える、アタシの誕生花に。

    「……ねえ。キミは一体何を望むんだい?」
    「望み?なんだそりゃあ、禅問答でもしたいのか?」
    「いいや。キミには、切に願う望みがあるでしょう」

    アタシの強い言葉に、一瞬表情が崩れた。幼子が必死に泣くのを我慢するような、そんな顔。まるで追い詰めるかのような言葉選びだけれど、今こそ彼女の本心を聞かなくちゃいけない。

    「希望なんてないさ」
    「けれど、切望している」
    「なんの根拠に?」
    「……花言葉、アタシだって知ってるよ」

    4月7日の誕生花でアタシに渡されるのは、アジアンタムが多い。天真爛漫という花言葉は、きっと外から見たアタシのことなんだろう。
    けれど彼女は、クロッカスを選んだ。青春の喜び、切望という言葉を持つこの花を、わざわざね。雑学において右に出るものはいない知識を持つゴールドシップが、それを意味なく選ぶはずはないんだ。

  • 10二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 01:27:47

    「アタシの本心を知ってて来たのか?」
    「キミは、会話の節々に嘘を付け足すでしょう。アタシにはそれが不思議だった。人を楽しませる嘘を山ほど付いて、けれど自分の本音は語らない。本音同士でぶつかることの、何が怖いの?」
    「……身から出た錆とはいえ、ぶつかりに行ったんだぜ、昨日は」
    「それは……ゴメン」

    謝罪が逆効果なのではないかと一瞬考え、頭を振った。逆効果だろうがなんだろうが、彼女を傷つけ、それでもなお姿を見せている以上謝るのは筋だ。

    「だからこそ、これを……受け取って欲しいんだ」
    「……これ、は」

    アタシが用意しようとして、エアグルーヴが手渡してくれたもの。
    それは、今の時期には咲いていないチューリップ。赤と白の一輪ずつのドライフラワーだ。

    「language of flowers……これが、アタシの気持ち」
    「…………」

    俯きながらギュ、と強く握り締める。そこにどんな思いが込められているのかはわからない。
    怒りなのか、悲しみなのか、失望なのか、それとも全部か。
    やがて顔を上げる。

    「……許すもなにも、怒っちゃいねえのに……ホント、律儀だなあ……」
    「アタシが、そうしたかったから」
    「信じるもなにも、アタシの自業自得だぜ」
    「だとしても……ね」

    ああ、そうだ。キミはその顔こそが一番似合う。あの、内ラチを突き抜けた皐月のときよりも、最強を証明した菊花のときよりも、何よりも輝く、その笑顔こそ。

    「その表情に、贈る花があるんだ。キミに、この花言葉を……どうか」

  • 11二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 01:27:58

    「……ライラック」

    そうとも。これは、キチンと探してきたものだ。花屋が近くて助かったよ。

    「綺麗な紫でしょ?」
    「意味、わかってんだよな」
    「当然。とはいえ……アタシだけ口にしないのは、誠実じゃないよね」

    椅子に座る彼女の目の前に、立て膝をつく。下から見上げ、その手を取る。
    昨日のアタシにはできず、今のアタシにしか返せない言葉を紡ぐ。

    「ゴールドシップ。アタシは、キミのことが────」

    菫色の満月が、大きく輝き滲み出していた。

  • 12二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 01:31:32

    お互いに頭が良いからこそ出来るやり取りが好きです…
    良いものを見せてもらいました

  • 13二次元好きの匿名さん23/04/01(土) 01:31:39

    改行多すぎとかいろいろあって切り方アレなんですけど以上です
    あのスレでゴルシのCPの知見が広まったので、また何か書くかもしれませんがその時はよろしくお願いします

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