- 1二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 20:43:25
「パースも立体感もぐちゃぐちゃ。貴方、よくこの絵を私に見せられたわね」
眉を顰め、メジロラモーヌは言う。ぼくの描いた油絵が余程気に入らなかったのだろう。ぼくは半分の納得と半分の諦観で彼女の言葉を受け入れた。
「絵の具が乾かない内に上塗りをしたのは悪くはないけれど、使った色が多過ぎて絵そのものの統一感がないわ。色が散らかり過ぎていてあまりにも雑多……。私はこんなに散らかった顔はしていないわよ?」
嘆息混じりに彼女は言う。ブルベな彼女に合わせて使ったコバルトブルーの主張が強かったのだとぼくは受け取った。……ホワイトとマゼンタをもう少し多く配合すれば良かったのかもしれない。久しぶりに描いたものだから色々と勝手を忘れてしまっていたようだ。
「……でも、熱意は受け取ったわ。いいえ、熱意しか受け取れないわね。下手なりに長く描いた事だけらわかるわ。貴方はこの絵にどれぐらい時間を掛けたの?」
彼女の問い掛けにぼくは2週間と答えた。トレーナーの仕事をしながら、空いた時間でぼくはただ気ままに筆を走らせた。何故そうしたのかはわからない。気付けば右手に筆を持ち、左手にハイボール(ぼくはホワイトホースのウィスキーに軽くレモンを絞るのが好きだ)を持って毎日キャンパスへと向かっていた。そうするとなんだか日々の仕事の疲れが癒やされるようで、その感覚がぼくは好きだった。
別にぼくは絵が得意な訳じゃない。油絵を描いたのは高校の時以来だし、成績も10段階中7が精々だった。絵を描いて誰かに褒められたこともない。ぼくの絵はありきたりで誰にも感銘の与えぬ透明な物だったからだ。水道水を美味いと言うものが殆どいない様に、ぼくの絵も感想が言われぬ類のものだった。端的に言えば評価に値しないレベルの絵がぼくの絵だった。
だから、ラモーヌの言葉は意外だった。熱意だけでも認められた事にぼくは驚いたのだ。
彼女は言った。
「随分と長い時間描いたのね。飽きもせずよくその時間描いたものだわ。……その愚行に免じてこの絵は受け取ってあげる。額縁には入れないけれど、私の部屋に飾っておくわね。異存はないでしょう?」
その言葉が柔らかいと感じたのは多分、ぼくの一方的な願望だろう。メジロラモーヌがぼくに同情を寄せる事などない。これもただの彼女らしい気まぐれ……。ぼくは頷いて、ヘタクソな絵を彼女に渡した。 - 2二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 20:43:57
「御礼に今度は私が貴方の絵を描いてあげるわ。期間は2週間。貴方が私に掛けた時間と同じ分の時間を割いてあげる。退屈を紛らわせる余興の一つにね」
彼女は笑ってぼくにそう言った。
「2週間後、期待しておきなさい。貴方が描く絵よりも上手な絵を描いてあげるから。あっ、でも──」
彼女は何故か頬を少し赤らめこう言った。
「私が人物画を描くのは初めてだから、そこら辺は容赦願うわね。……ヘタクソな絵でも貴方には渡すつもりだから覚悟しておきなさい。一応、ヘタクソでもつまらない絵にはしないつもりよ。……笑わないでね?」
ぼくは絶対に笑わないよ、と笑いながら彼女に向かって言った。
fin.
- 3二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 21:06:37
言動が妖しいだけの学生なラモーヌちゃんと笑顔のトレーナー可愛いです。
- 4二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 21:14:33
難しいこと言ってるけど難しいことは考えてないって印象が詰まってて好き
- 5二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 21:23:46
技術はあっても上っ面な絵が嫌いなら逆は好きって事か
- 6二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 21:34:32
ラモーヌが2週間費やすくらいには好きって事でしょ?
ラヴじゃ〜ん!(一般きぶりトレーナー) - 7二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 21:42:29
びっくりした村上春樹かと思った
- 8二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 21:48:59
あにまん村上春樹多過ぎやろ
- 9二次元好きの匿名さん23/04/02(日) 23:26:25
そういやラモーヌは絵描けるんだよな
- 10二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 00:05:46
ウィスキーがカティサークだったら村上春樹感更に高くなっていたけど馬繋がりでホワイトホースにした様に見える
- 11二次元好きの匿名さん23/04/03(月) 00:19:35
一人称がぼくになるだけでちょっと文豪みが出てピリっとするな
何か変な事言わないだろうなっていう